橡 創薬基盤技術の開発(トップ3)小澤氏他13.11月

大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
ヒト完全長cDNAに基づくゲノム創薬
イントロンも入れると、27,000塩基対です。3万
∼4万の遺伝子全体の鎖長はゲノム全体の3分
の1近くを占めることになりますが、エクソンは
株式会社ヘリックス研究所
ます
所長
ほ
やす
ずっと短くて、全エクソンでもゲノムの 1.1∼
ひこ
増 保 安 彦
1.4%でしかありません。今まで5%と推定され
ていましたが、それよりも短かったことになりま
ご紹介頂きましたヘリックス研究所の増保で
す。皆さんご存知のように、この2月に国際ゲノ
す。
スライド2をご覧下さい。
ムプロジェクトチームとCelera Genomics社はヒ
トゲノムのドラフト配列に関する論文を発表し
ました。それぞれNature誌とScience誌に掲載さ
れ、100ページ前後の膨大な論文です。
このように、ゲノム配列決定プロジェクトはこ
の1、2年間で急速に進捗してきました。今後の
ゲノム研究は遺伝子機能と遺伝子多型の解析に
移ります。私たちは,5年前にプロジェクトを開
スライド1をご覧下さい。
これはCelera社が発表したゲノムの概要です。
遺伝子の数は、確実性の高い遺伝子として26,000
個、さらに仮想の遺伝子を加えても39,000個でし
た。数年前までは10万∼15万と予測されていまし
たから、予想外に少ない値です。高々千個の細胞
しかない線虫の2万と比較しても、ヒトが3万∼
4万というのはずいぶん少ないように思います。
遺伝子のサイズの平均的な鎖長は、エクソンと
スライド1
始した時点でこうした進歩を予測し、機能解明に
向けた取り組みをしてきました。それが完全長c
DNAの網羅的収集プロジェクトです。
機能解明には、遺伝子部分の配列決定がもっと
も重要になります。遺伝子はメッセンジャーRN
A(mRNA)に転写されます。そのmRNAを
逆転写酵素によってcDNAに変換し、cDNA
の配列を決定すればいいわけです。その鎖長は全
ゲノムの5%(現在では1∼2%とされている)
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大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド2
でしかないのですから、全ゲノム配列を決定する
にすればよいことになります。
よりも効率的だと言えます。また、cDNAは、
タンパク質を発現させることによって機能を研
スライド4をご覧下さい。
究できますから、重要な研究材料となります。
完全長cDNAライブラリーを作製するオリ
しかし、cDNAの収集には技術的な問題があり
ます。通常の方法ではmRNAの全長を写し取
ゴキャップ法をここに示します。こ の方法は東
大の丸山先生と菅野先生が1994 年に発表した
ったcDNAが得られず、多くの場合、その断片
ものです。日本で発明されたユニークな方法で
でしかありません。一つの遺伝子についてたくさ
んの断片を集めても、全長の配列が決定できない
あり、従来法の問題を克服して、断片でない完
全長のcDNAを多く含むライブラリーが作
ことが起こりますし、そうした断片ではタンパク
製できます。細胞や組織から抽出してきたmR
質を作ることができません。一つでもいいから、
mRNAの全鎖長を写し取った“完全長cDNA”
NA混合液には、完全長のmRNAとともに、
多くの断片mRNAが含まれています。5 末端
が必要なのです。
をバクテリアの アルカリフォスファターゼと
スライド3をご覧下さい。
タバコのパイ口フォスファターゼで処理した
後、目印となるオリゴRNAをリガーゼによっ
ここでmRNAの構造を説明します。5 末端
て付加します。3 末端にはオリゴdTとともに
に図のようなキャップ構造があります。7メチル
グアノシンが5 、5 三リン酸結合で結びついて
もう一つの目印をつけて、逆転写酵素によってc
DNAを合成します。アルカリによってRNAを
おり、特徴的です。その後に非翻訳領域あってか
除去した後、両末端の目印をプライマーセットと
ら、タンパク質をコードするopen reading frame
(ORF)が存在します。その下流にも非翻訳領
したPCRをかけることにより、cDNAを増幅
します。こうして、全長率の高いcDNAライブ
域があって、アデニン(A)がずっと続くポリA
ラリーが作製されます。それぞれのcDNAは発
テイルで終わります。ですから、mRNAの全長
を完全に写し取ろうとすれば、5 末端にあるキ
現ベクターに組み込んだ形でクローニングされ
ています。
ャップ構造と3 末端にあるポリAテイルを目印
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大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド3
mRNAの構成とその5 ’キャップ構造
5’キャップ構造
m7Gppp
タンパク質コード領域(
ORF)
5’UTR
ポリAテイル
3’UTR
AUG
UGA
開始コドン
終始コドン
AAAAAAAAAAA
5’キャップ構造
5’末端のキャップ構造と3’末端のポリAテイルとを指標にしてcDNAを作製する。
スライド4
オリゴキャップ法による完全長cDNAライブラリーの作製
m 7Gppp
p
HO
Bacterial alkaline phosphatase
M7 Gppp
HO
HO
Tobacco acid pyrophosphatase
p
HO
HO
AAAAAA
AAAAAA
AAAAAA
完全長mRNA
不完全長mRNA
AAAAAA
AAAAAA
AAAAAA
HO
HO
逆転写酵素
不完全長mRNA/cDNA
TTTT
AAAAAA
AAAAAA
AAAAAA
TTTT
PCR
AAAAAA
AAAAAA
AAAAAA
TTTT
完全長mRNA/cDNA
AAAAAA
TTTT
NaOH処理
オリゴRNA
RNA ligase
AAAAAA
TTTT
PCRプライマー
TTTT
AAAA
完全長cDNA
SfiI cut
DNA ligase
オリゴdTアダプター
(細線はRNA、太線はDNAを示す。)
発現ベクターpME18SFL3
K. Maruyama & S. Sugano: Gene 138, 171 -174 (1994) に基づく。
mRNAの5’末端から3’末端まで完全な形でコピーした cDNAが得られる。
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大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド5をご覧下さい。
βアクチンは非常に大量に含まれているmR
5 末端が遺伝子のどこから始まっているか、
公共データベースと我々のライブラリーとを比
NA分子であり、かなり容易に完全長cDNAが
取れますが、希少なmRNAについてはこれほど
較してみました。βアクチンのmRNAはmRN
高い確率で完全長cDNAが取れてきません。初
A混合液の中に大量に含まれていますから、頻繁
にクローニングされてきます。そのcDNAクロ
期のオリゴキャップ法では全長率が60%くらい
でしたが、改良を重ねて、現在ではどんな分子種
ーンの5 末端配列を比較しますと、GenBankに登
でも90%前後の全長率が得られています。
録された配列では実にいろいろなところからス
タートしていることがわかります。その90%くら
スライド6をご覧下さい。
いはタンパク質をコードしているORFの途中
得られたcDNAの配列決定はこのような手
からスタートしています。それに対して、オリゴ
キャップ法で得られたクローンの5 末端はほと
順で進めます。ランダムにクローニングしてきた
cDNAには繰り返し取れてくる分子がたくさ
んどすべてキャップ構造から始まっていていま
んあります。すでに取ってある遺伝子については
す。3 末端については示しませんが、多くの場
合、ポリAテールから合成していますので、問題
捨てるというプロセスが必要です。そこで、まず
5 末端配列を500塩基ほど読みます。すでに取っ
はありません。
てある遺伝子であれば,捨てます。また、全長で
ORFが欠けたcDNAでは決してタ ンパク
質を作ることができません。タンパク質の発現と
ないと判断されるクローンも捨てます。こうして
選んだクローンについて3 末端配列を決めます。
いう点では、世界中の人たちが見つけたcDNA
そこで、新しくないクローンと判定されたもの、
の90%以上は役に立たず、オリゴキャップ法で作
製したcDNAを用いれば、タンパク質を作るこ
全長でないものは捨てます。こうして、新しい遺
伝子で全長のクローンだけについて全長配列を
とができることになります。
決定します。
スライド5
βアクチンの5’末端配列
オリゴキャップ法クローンの5’末端配列
オリゴキ
ャップ法クローンの5'-端 配列
0
0.1
0.2
0. 3
0. 4
0.5
0. 6
0. 7
0.8
0.9
1. 0
1.1
1.2
1. 3
1. 4
1.5
βアクチンのORF領域
1.6
1.7
k bp
E ST の5'-端配列
ESTの5’末端配列
キャップサイト
C A P部位
通常の方法で得られたESTと異なり、オリゴキャップ法で得たcDNAクローンの
ほとんどがキャップサイトから始まっている。
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大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
り、そのタンパク質の平均鎖長は401アミノ酸で
スライド6
した。また、相同性などからそれらの遺伝子を機
能分類すると、分類できたものは全体の58%であ
り、40%ほどは機能分類さえもつかない新しい遺
伝子でした。
スライド8をご覧下さい。
機能分類できた遺伝子について、そのカテゴ
リーを示します。全体の41%が分泌タンパク質
ないし膜タンパク質でした。その他に、シグナ
ル伝達系、酵素、細胞構造、細胞分裂、発生、核
酸に結合する分子などいろいろな分子種が見ら
れます。
スライド9をご覧下さい。
こちらはゲノム配列からカテゴリー化された
遺伝子の数です。私たちの完全長cDNAと比較
してみますと、分泌タンパク質と膜タンパク質は
スライド7をご覧下さい。
こうして収集してきた6101クローンについて
合わせて13∼14%しかありません。つまり、私た
その特性を解析しました。重複を避けるようにし
ちのcDNAの6000個には偏りがあります。これ
は研究者が創薬ターゲットとして興味ある分子
てきたのですが、全長配列を決定してみると、重
複が見られました。それらを除外しますと、4919
を優先的に取り上げたことが理由の一つのよう
遺伝子となり、重複率は1.24でした。それらのD
です。逆に言えば、私たちのcDNAは創薬とい
う点で価値のある遺伝子を優先的に収集してい
NA鎖長は平均して2278塩基対です。
タンパク質レベルで見ますと、ORFが120ア
る傾向があるということです。
ミノ酸以上になるクローンが全体の67.7%であ
スライド7
ヒト完全長cDNA(6,101クローン)の特性
DNAレベルでの分析結果
総クローン数
c
DNAの平均鎖長
6,101クローン
2278 塩基対
4,919クラスター
クラスター化
シングルトン
4,059クローン
1.24
重複率
タンパク質レベルでの分析結果
ORFが120アミノ酸以上のクローン数
4,076クローン(67.7%)
ORFの平均アミノ酸鎖長(
4,076 クローンにおいて)
401アミノ酸
3,492クローン(58.0%)
1,218クローン(20.2%)
機能が推定された、またはカテゴリー化されたクローン数
既知タンパク質と95% 以上の相同性があったクローン数
ヒトゲノム上に検出される遺伝子鎖長に近い長さである。
アノテーションのまったく付かないクローンが 42%あった。
−13−
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド8
ヒト完全長cDNA(3,500クローン)の機能カテゴリー
カテゴリー
分泌タンパク質 /膜タンパク質
Psortでシグナル配列あり
SOSUIで膜貫通部分あり
遺伝子転写
糖タンパク質関連
酵素または代謝
シグナル伝達
核タンパク質またはRNA合成(転写を除く)
タンパク質合成または輸送
細胞構造
細胞分裂
細胞防御
発生
DNA結合またはRNA結合
ATP結合またはGTP結合
疾患関連または症候群関連
その他
クローン数
%
1422
365
920
408
294
524
210
216
220
147
64
35
36
303
226
479
398
40.7
10.5
26.3
11.7
8.4
15.0
6.0
6.2
6.3
4.2
1.8
1.0
1.0
8.7
6.5
13.7
11.4
分泌タンパク質/膜タンパク質の割合が多い。
スライド9
−14−
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド10
スライド11
−15−
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド10をご覧下さい。
スライド12をご覧下さい。
ヒト完全長cDNAの網羅的収集は、国家プロ
ジェクトとして1999年より進められてきました。
以上述べてきましたように、ヒト遺伝子の多く
を完全長cDNAとして取得できますので、これ
新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)
らを用いて機能解析が進められます。統合データ
からバイオテクノロジー開発技術研究組合を通
して産官学が一体となって進めております。私ど
ベースからはゲノム上に位置する遺伝子の構造
がより確実に決定できるようになりますし、その
もへワックス研究所は共同研究先としてヒト完
上流にある遺伝子転写調節機構も解明されてい
全長cDNAライブラリーの作製やバイオイン
フォマティクスなどを実施しております。平成13
くでしよう。
cDNAを用いてDNAマイクロアレイを作
年度末までに約3万遺伝子の完全長cDNAを
製することができます。例えば、疾患に罹ったと
収集することを目標にしております。得られた配
列はコンソーシアムにまず開示して産業化を図
きに発現が変動する遺伝子をこの方法で同定し、
同定した遺伝子のCDNAを完全長で持ってい
った後、世界に公開しております。
るわけですから直ちにタンパク質を発現させる
スライド11をご覧下さい。
ことができます。タンパク質の発現から生物活性
が解明されるでしようし、その分子を免疫して抗
ヘリックス研究所ではヒト完全長cDNAの
体を作成することもできます。また,タンパク質
DNA配列のみならず、アミノ酸配列とその機能
アノテーションなどが検索できる統合データベ
の立体構造を解析するためにも利用できるでし
よう。ゲノム配列決定では、日本は米欧ほどに貢
ースHUNTを公開しています。そのURLは
献できませんでしたが、これからの機能解析につ
http://WWW/hri.CO.JP/HUNTです。ご関心のある
方はぜひアクセスしてみて下さい。もし興味のあ
いては、すでに重要な基盤を有していることにな
るのではないでしようか。
るcDNAが見つかった際には、ご連絡頂ければ、
実費にて提供することになっております。
スライド13をご覧下さい。
網羅的な機能解明という点でDNAマイクロ
スライド12
−16−
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド13
cDNAマイクロアレイによる遺伝子発現頻度の解析
2倍以上の変動がある遺伝子については、再現性が得られる。
スライド14
アレイは重要な手法です。アフィメトリックス社
ます。遺伝子の発現に変化が見られる場合には、
が製造しているオリゴヌクレオチドを固定した
その遺伝子のスポットが緑か赤になり、変化がなけ
アレイとcDNAを固定したアレイがあります。
アフィメトリックス社のは高価ですし、他の人た
れば黄色か黒になります。およそ2倍の変動があ
れば再現性をもって検出することができます。
ちが作成することはできません。それに比べて、
cDNAマイクロアレイはcDNAを持ってい
れば、作製できます。このスライドは約3000のc
スライド14をご覧下さい。
DNAマイクロアレイで変動の見られた遺伝
DNAを固定したマイクロアレイに2種類のm
子について、RT−PCR法で確認しました。こ
RNA検体から2色の蛍光色素で標識したcD
NAをハイブリダイズさせた結果を示してい
のように、ほとんどの遺伝子について確認できて
います。すでに製薬企業ではDNAマイクロアレイ
−17−
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
を用いて、薬理作用を遺伝子発現プロファイルから
いて示します。ゲノム利用を大別しますと、新しい
解明しようとしていますし、安全性評価において
も“Tox chip”が開発されつつあると聞きます。
創薬ターゲット分子の探索、薬理・安全性評価にお
けるDNAマイクロアレイ或いはプロテオミクス
の利用、そして臨床試験における遺伝子多型の利
スライド15をご覧下さい。
以上、完全長cDNAとその利用について述べ
用が挙げられます。以下に、新しい創薬ターゲッ
ト分子の探索について述べたいと思います。
てきましたが、これを創薬ターゲットの探索にい
かに利用するかについて話を進めます。
ここに創薬のプロセスとゲノム研究の利用につ
スライド16をご覧下さい。
今日用いられている医薬品が作用するターゲ
スライド15
創薬プロセスにおけるゲノム研究の利用
化合物ライブラリー
・Combinatorial Chemistry
天然物ライブラリー
蛋白の立体構造解析
・配列から立体構造予測
・ヒット化合物の予測
スクリーニング系の構築
・分子レベル ・細胞レベル
High Throughput Screening
・
スクリーニングロボット
・アッセイ系の微量化
ヒット化合物
創薬ターゲット分子の探索
・ゲノム配列
・完全長cDNAライブラリー 創薬ターゲット分子の評価
・遺伝子変換動物・
・抗体、ribozymeなどによる阻害
・遺伝子発現プロファイル
・
Positional cloning
薬理評価
・動物レベル・細胞レベル
誘導体合成
コンピューター化学
リード化合物
安全性試験
代謝試験
製剤加工
遺伝子/蛋白 発現プロファイル
・mRNA解析
DNAアレイ、ATAC-PCR等
・プロテオミクス
開発化合物
臨床試験
・適切な患者の選択
・安全性評価
・薬効評価
新薬
スライド16
−18−
遺伝子多型と
薬剤応答との相関
・
SNPsの同定
・薬剤応答との相関性
・遺伝子診断
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
ット分子は400∼500分子種存在すると言われて
子が本当に新薬のターゲットとして適している
います。今後、ゲノム研究から新しく数千の創薬
ターゲット分子が見つかるとされています。ヒト
かどうかを動物レベルで実証するために,ノック
アウトマウスが作出されたり、抗体やアンチセン
の遺伝子は3万∼4万存在し、予想外に少なかっ
ス核酸が動物に投与されます。その結果が適切な
たとはいえ、この中から疾患治療に適した創薬タ
ーゲットを選別するのは容易なことではありま
治療効果をもたらしていると判断されるならば、
薬剤スクリーニングが積極的に進められること
せん。まずコンピュータによりゲノム配列、cD
になるでしょう。
NA配列などから自分が関心を持っている一群
の分子ファミリーや疾患と関連した分子群を検
スライド17をご覧下さい。
索していくことから始まるでしよう。ウェットの
現在、世界中で広く使用されている医薬品のタ
研究としては、DNAマイクロアレイによる遺伝
子発現プロファイルによる疾患変動遺伝子群の
ーゲット分子について一覧表にしました。Gタン
パク質共役型受容体(GPCR)、酵素、イオン
同定、或いは既知ターゲット分子と相互作用する
チャンネル、核内受容体などが存在します。多く
分子群の同定、或いはプロテオミクスによるタン
パク質プロファイルの実験から、さらにターゲッ
の医薬品はアゴニストよりもむしろアンタゴニ
スト或いは阻害剤です。こうしたことから創薬研
ト分子は絞られていくでしよう。そして、候補遺
究者は当然、GPCRと酵素の分子ファミリーに
伝子の全長cDNAをクローニングし、タンパク
質を発現させて、その生物活性を解明することに
焦点を当てています。
なります。こうして選択された候補ターゲット分
スライド18をご覧下さい。
スライド17
今日の大型医薬品に見る創薬ターゲット分子
細胞内/外
治療疾患
G蛋白共役型受容体(
GPCR)
histamine receptor H1
histamine receptor H2
dopamine receptors
serotonin receptor 5HT1D
serotonin receptor 5HT1A
adrenalin αreceptor 1A
ターゲット分子
外
外
外
外
外
外
アレルギー
胃潰瘍
精神神経疾患
偏頭痛
不安
前立腺肥大
ロラタジン
ラニチジン、ファモチジン
オランザピン
スマトリプタン
ブスピロン
タムスロシン
×
×
×
○
○
×
GPCR以外の細胞膜上受容体
serotonin transporter 5HTT
erythropoietin receptor
G-CSF receptor
insulin receptor
外
外
外
外
うつ病
赤血球減少
顆粒球減少
糖尿病
フルオキセチン,パロキセチン、サートラリン
エリスロポイエチン
G-CSF
インシュリン
×
○
○
○
酵素
angiotensin-converting enzyme
HMG-CoAreductase proton pump
β-lactamase
DNA gyrase
cyclo-oxygenase-1
phosphodiesterase 5
reverse transcriptase
14αdimethylase
thymidine kinase
外
内
外
外
内
外
内
内
内
内
高血圧
高脂血症
胃潰瘍
細菌感染
細菌感染
リウマチ
勃起不全
エイズ
深在性真菌症
単純ヘルペス
エナラプリル、リシノプリル、ロサンタン
シンバスタチン,プラバスタチン,ロバスタチン
オメプラゾール
アモキシル+クラブラン酸
シプロフロキサシン
ジクロレナク
シルデナフィル
ラミブジン
フルコナゾール
アシクロビル
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
イオン・チャンネル
Ca++ channel
Na+ channel+Ca++channel
5HT3
外
外
外
高血圧
てんかん
消化管運動不全
アムロジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム
カルバマゼピン
シサプリド
×
×
○
核内
核内
骨粗鬆症
喘息
プロゲステロン
ブデソニド
○
○
内
内
内
細菌感染
免疫疾患
がん
クラリスロマイシン、アジスロマイシン
サイクロスポリン
パクリタキセル
×
×
×
核内受容体
estrogen receptor
glucocorticoid receptor
その他
23S rRNA
cyclophilin
microtubule
−19−
医薬品の例(一般名)
発現/阻害(○ /×)
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スライド18
創薬ターゲットとしてのG蛋白共役型受容体(GPCR)
Ligand
Crystal structure of bovine rhodopsin
Palczewski et al., Science 289, 739-745, 2000.
GPCRに作用する医薬品の例
GPCR
対象疾患
医薬品
阻害
活性化
ヒスタミンH1
アレルギー
ロラタジン
阻害
ヒスタミンH2
胃潰瘍
ファモチジン
阻害
ドパミン
セロトニン5HT1D
精神疾患
オランザピン
阻害
偏頭痛
スマトリプタン
活性化
セロトニン5HT1A
不安
ブスピロン
活性化
アドレナリンα1A
前立腺肥大症
タムスロシン
阻害
スライド19
−20−
adult
スライド21
−21−
GPRv53は白血球や腸管に発現している。
ym
GPRv 53
GPRv 53
H3
G3PDH
fetus
liv n
er
sk us
el
et
br al
ai mu
n
sc
sp
le
le
e
th
ki
ar
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a
co ll in
lo te
le n stin
uk
e
oc
yt
es
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
スライド20
GPRv53の組織発現分布
4.5Kb
βアクチン
大阪医薬品協会 会報(平成13年11月号・第634号)
私どもも新しいGPCRについて少し研究を
スライド22
進めてきましたので、ご紹介いたします。GPC
Rはアミン類、ペプチド、脂質、ヌクレオチド
まとめ : ヒト完全長cDNAの網羅的な収集と機能解析
などのリガンドが結合して、その情報を細胞内
1.オリゴキャップ法に基づいて完全長cDNAを収集するシステムを構築した。
に伝達し、細胞応答をもたらします。創薬研究
者にとっては極めて馴染みの深いヒスタミン、セ
2.ヒト遺伝子全長を有す新規のcDNAクローンを約1万収集してきた。
3.総計3万遺伝子を収集する国のプロジェクトを進めていく。
ロトニン、アドレナリンなどの受容体がそうです。
4.ヒト完全長cDNAに関する統合データベースHUNTを構築してきた。
7回膜貫通型構造をとっており、その立体構造が
かなり詳しく解明されていますから、ドラッグ・
5.これらのcDNAを用いて機能解析を進めてきた。特に遺伝子発現解析。
6.個別遺伝子を解析してきた。
新規のG蛋白共役型受容体、蛋白リン酸化酵素、サイトカインと受容体など。
デザインという点でも有利なターゲット分子で
す。
ABCトランスポーターの遺伝子多型
と創薬研究への応用
スライド19をご覧下さい。
私どもは約30種類の新しいGPCRをクロー
ニングしました。その一つであるGPRv53は、
新しく発見されたヒスタミン受容体H3に有意
東京工業大学大学院
生命理工学研究科
な相同性を持っていました。アミノ酸の37%が一
致しています。
スライド20をご覧下さい。
GPRv53H3と異なる発現プロファイルを
示しました。H3は脳に限局していますが、GP
Rv53は小腸とか末梢血、それから牌臓、大腸に
発現が見られました。
スライド21をご覧下さい。
実際、GPRv53の発現ベクターとそれに共役
すると考えられるGたんぱく質を共発現したト
ランスフェクタントにヒスタミンを作用させま
すと、このように、細胞内カルシウム濃度が上昇
することが分かりました。従って、ヒスタミンの
新しい受容体と考えられます。私たちはH4受容
体と名付けました。私たちが昨年12月に論文発表
しましたところ、1ヵ月あとにH4に関する論文
が4報も出てきました。それほど、研究者がゲノ
ム配列を基礎の同じ手法で新しいターゲット分
いし
教授
とも
ひさ
私が東京工大へ移って参りましたのは去年の
6月で、やっと1年がたったところです。今年の
2月ぐらいから実験体制が整ってきて、今8つほ
ど新規ABCトランスポーターのDNAをジー
ンバンクに登録しております。本日は、創薬基盤
技術の開発に関するシンポジウムですので、創薬
というものをもう少し深く理解して、我々がどう
いうテクノロジー、或いはエクスパティーズを、
創薬に直接従事されている方々に提供できるか
をお話しようと思います。それと同時にもう一つ
重要なことは、我が国における創薬研究を担う若
い人材の育成をどうするかという点だと私自身
考えており、皆様と議論したいと存じます。今、
まさに創薬の研究基盤を構築するにあたって、何
が日本に欠けているのかを本当に真剣に考える
ときが来たように思われます。
子を熱心に探索しているということでしよう。
OHP1をご覧下さい。
スライド22をご覧下さい。
以上、ヒト完全長cDNAライブラリーとそれ
に基づく創薬の可能性について述べてきました。
ここにその要旨を示します。ご静聴有難うござい
ました。
かわ
石 川 智 久
最近我が国においては、「創薬」という用語を
使うことによって研究費を取る研究者が多いよ
うですが、これは、はなはだ間違っていると思い
ます。私はファイザーという会社に居て新薬探索
研究をやってきましたので、
「創薬」というものが
いかに難しいかということをよく理解しておりま
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