第 34回日本歯科医学教育学会総会および学術大会

日大歯学 , Nihon Univ Dent J, 89, 163-165, 2015
学会・シンポジウム情報
が観光地としても有名である鹿児島県の鹿児島県民交流
センターにて行われた。メインテーマは「歯科医学教育
第 34 回日本歯科医学教育学会総会
および学術大会報告書
の質の保証−リフレクションとイノベーション−」であ
り,鹿児島大学歯学部長の松口徹也教授(発生発達成育
学講座)が大会長を務め,学会への参加者は約 500 名で
あった。
総合歯科学分野 助教 竹内義真
特別講演は,吉田浩己氏(国立大学法人鹿児島大学稲
盛アカデミー長)による「進取の精神を有する医療人の育
日本歯科医学教育学会は,科学の進歩,社会の変化,
さらに歯科医学研究並びに歯科医療の急激な進展に対応
成をめざして」というテーマで,鹿児島における教育伝
して,歯科教育の内容,カリキュラム,教育方法,教育
統である「困難にみずから果敢に挑戦する気概(進取の精
環境,教員の再教育などの検討や改善すべき多くの問題
神)」を有する人材育成の歴史から,知識・技能の習得と
を,広い視野から歯科医学教育全般を検討する場である。
問題解決能力の育成に加え,進取の精神,主体性,多様
また,教育内容と方法あるいは教育効果の評価などにつ
性や協働性を涵養するための歯学教育の展開と生涯にわ
いて歯科医学担当者が相互に情報を交換して歯科医学教
たり「人格の陶冶」を努める医療人の輩出への考え方を伺
育の諸問題を客観的に研究し,具体的施策を考える場と
うことができた。
して 1982 年(昭和 57 年)に設立された。なお,本学会は
教育講演は,高田淳子課長補佐(厚生労働省健康局が
歯科医学教育を総合的に研究して具体的施策を提言して
ん対策・健康増進課併任)による「歯科医師臨床研修制度
い る 唯 一 の 学 会 で あ る。 会 員 総 数 は 約 1750 名 で あ り,
のこれまでとこれから∼必修化後 10 年を迎えて∼」とい
2004 年(平成 16 年)度には,全ての歯科大学・歯学部が
うテーマで,平成 28 年度 4 月から施行されることとなっ
本会に加盟しており,年 1 回の総会および学術大会開催,
ている「歯科医師法第 16 条の 2 第 1 項に規定する臨床研
年間 3 号の学会誌の発行をはじめとする歯科医学教育活
修に関する省令」の見直しの主な内容の説明があった。
動を展開しており,また,2000 年(平成 12 年)度以降,
具体的には,① 3 年以上研修歯科医の受入れがないとき
歯科医学教育者を対象にワークショップを毎年主催し,
等に厚生労働大臣が臨床研修施設の指定を取り消すこと
教育改善ならびに教育能力の開発・向上に努めている。
ができること,②到達目標の達成に必要な研修内容,修
了判定の評価項目等を研修プログラムに記載すること,
第 34 回日本歯科医学教育学会総会および学術大会は,
③当該研修プログラムを修了した者の平均症例数,あら
平成 27 年 7 月 10 日(金),11 日(土)の両日,桜島(第 1 図)
かじめ設定した研修内容を達成した者の割合を報告する
こと,④臨床研修を中断した場合でも当該プログラムに
おいて再開できること等であった。また,本年 1 月に開
催された「歯科医師の資質向上等に関する検討会」の議論
内容の報告があった。検討会での議題は,歯科医師の需
給対策,増加する女性歯科医師の活躍の場および歯科医
療に求められる専門性等であった。なお,
「 歯科医療の専
門性に関するワーキンググループ」では,臨床研修修了
後も生涯を通じて自己研鑽を積むことの重要性と適切な
自己研鑽の在り方,歯科医師にとって有用な専門医制度,
患者の受療行動に資する歯科医師の専門性等が論点であ
ることについての報告があった。
シンポジウムⅠはメインテーマを「歯科医療における
生涯研修の在り方」として 3 件で構成されていた。
「1. 米国における歯科医師免許更新と生涯研修制度」に
第 1 図 桜島
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ついて,植野正之准教授(東京医科歯科大学大学院健康
国との比較 -」について,森尾郁子教授(東京医科歯科大
推進歯学分野)が,米国の歯科医師免許の通用可能範囲
学大学院医歯学総合研究科歯学教育開発学分野)が,米
と歯科医師免許の管轄の違いによる多様な免許更新や生
国,欧州およびアジア太平洋地域における歯学教育の認
涯研修の制度を紹介された。特に,他国の免許更新の義
証評価の取り組みを紹介から日本における認証評価制度
務化制度では,既定の生涯研修(Continuing Education)
の必要性を説明された。
「2. 歯科医学教育認証評価トライ
の受講が必須とされ,2 ∼ 5 年毎の免許更新が開業医,
アル修正版における評価項目・基準・観点・視点の紹介」
大学教育者,行政職に関わらず全ての歯科医師が義務付
について,一戸達也教授(東京歯科大学歯科麻酔学講座,
けられていることが現状とのことであった。それと比較
歯学教育認証評価制度等の実施に関する調査研究 WG 幹
して,今後の日本の歯科医師達に必要なことが歯科医師
事委員)から,昨年度の歯学教育の専門分野別認証評価
会や大学等で主催されている生涯研修への積極的な参加
のトライアル結果や全国歯科大学・歯学部の意見を踏ま
であり,そのための歯科医師としての自覚に対しての意
え歯学教育認証評価制度等の実施に関する調査研究ワー
識改革が必要であると述べられた。
「2. 時代をよめる歯科
キンググループが評価項目をブラッシュアップしている
衛生士であれ!」について,白田千代子非常勤講師(東京
現時点での評価項目・基準・観点・視点の提示があった。
医科歯科大学院医歯学総合研究科口腔疾患予防学分野)
「3. 認証評価トライアル(平成 26 年)実施状況について」
が,現在の急速な少子高齢化が進行する中,衛生士の役
は,北村知昭教授(九州歯科大学口腔機能学講座口腔保
割を歴史から振り返り,患者の QOL に直結する口腔機
存治療学分野)による一連の歯学教育認証評価トライア
能の維持向上を目指した取り組みや,周術期やがん治療
ル実施状況についての紹介とトライアルの実際について
などにおける支持療法としての口腔ケアの観点から,歯
の報告があった。
シンポジウムⅢはメインテーマを「地域医療における
科衛生士自身が専門領域のみならず活動の領域を広める
人材育成の現状と展望」として 3 件で構成されていた。
必要性を述べられた。今後の歯科衛生士は,多職種と連
「1. 医学系における地域医療人育成」について,前野哲
携・協働しチーム医療を推進できる知識と技術,コミュ
ニケーション能力を培う必要性があるとの意見を伺え
博教授(筑波大学医学医療系地域医療教育学)が,効果的
た。
「3. 専門職集団としての『歯科医師』と継続専門研修
な地域医療教育を行うための環境整備を筑波大学におけ
(生涯研修)制度」について,鶴田潤准教授(東京医科歯科
る取り組みの具体例と,大学のみならず,自治体,地域
大学医歯学融合教育支援センター・先駆的医療人材育成
住民,地域医療機関が「地域で活躍する医師は地域で育
分野)が,歯科医学教育における「質の保証」の先にある
てる」という理念を共有して,主体的に教育に関わる地
ものを観点として卒前・卒後歯科医学教育を検討し,歯
域の協力体制の必要性を報告された。
「2. 歯学系における
科医師のプロフェッションとしての社会からの信託,そ
地域医療人育成」について,河野博史助教(鹿児島大学医
の 構 成 員 と し て の プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル の 責 務, プ ロ
学部・歯学部附属病院歯科総合診療部)が高齢化と医療
フェッションとプロフェッショナルの関係を改めて見つ
過疎の観点から,離島医療が日本社会の将来的な動態の
め直す必要性とそれを卒後歯科医学教育への導入が今後
先取りとして,また,限られた環境のなかでの地域完結
の継続専門研修制度(生涯研修制度)の在り方に重要であ
型医療が求められているフィールドとも考えられ,今後
るとの意見を伺えた。
ますます進むと想定される高齢化と医療過疎化に対応し
シンポジウムⅡはメインテーマを「歯科医学教育認証
た臨床体験を行うことが医療人マインドの育成に繋が
評価制度の構築に向けて」として 3 件で構成されていた。
り,これからの歯科領域への必要性を述べられた。
「3. 地
「1. 歯科医学教育認証評価制度の必要性について - 諸外
域医療における人材育成の現状と展望∼医師,歯科医師,
第 1 表 研究発表一覧
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学会・シンポジウム情報
則の改正および今後の学会運営方針が示された。
薬剤師育成における共修の面から∼」について,中桶了
国際的に歯学教育の質保証が求められている近年の歯
太准教授(長崎大学病院へき地病院再生支援・教育機構)
が,平戸市民病院での研修プログラムの「多職種による
科界の状況から,本学会では教育問題に対する意見交換・
研修指導」が紹介され,研修を通じてのそれぞれの職種
情報共有が意欲的かつ活発になされている。次年度の日
への理解度の上昇と共有が多職種連携に大きな効果をも
本歯科医学教育学会学術大会は,7 月 1 日(金),2 日(土)
たらすことを報告された。
の両日に大阪大学を担当校として,大阪大学コンベン
ションセンターにて開催される。
その他,一般口演として口頭発表が 38 題,ポスター
発表が 128 題,学生セッションが 6 題,国際学会研究発
各大学での学士課程教育においてもカリキュラムの改
表奨励賞受賞者ポスター発表が 3 題,合計 175 題の研究
善,教育方法の改革や認証評価の準備が様々に進められ
発表が行われた。日本大学歯学部からは,8 題の発表(第
ている。卒後教育も含めて歯科医学教育全般にわたる研
1 表)があった。
究発表や議論に加わるために,より多くの教員が本学会
活動に参画されることが望まれる。
総会では,俣木志朗理事長(東京医科歯科大学教授)か
ら新執行部の紹介,表彰制度規程および表彰制度規程細
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