No.13 平成15年4月号

2003/4
No.13
<研究トピックス>
ハイブリッドシルクを始めとする新しい性質を備えた絹素材の展示及び普及を目的に開催されている
「ハイブリッド絹展」が、今年も東京、有楽町「蚕糸会館」の6階会場で2月4∼6日に開かれた。例年
同様、蚕糸科学研究所でも上掲した写真のとおり、最近の研究成果を公表した。
無撚シルク等新素材の普及に向けて
蚕糸科学研究所
<オアシス>
青木
―ハイブリッド絹展´03―
昭 …………………………………………………………………………P 2
我が国絹業技術の伝承について
大日本蚕糸会理事
羽室
幸明 …………………………………………………………………… P 6
< ト ピ ッ ク ス >
ハイブリッド絹展´03 会場点景………………………………………………………………………… P 8
新型繰糸機開発その後…………………………………………………………………………………… P 10
ニューシルク開発委員会 ………………………………………………………………………………… P 11
< 人 事 異 動 >< 行 事 予 定 >< 行 事 記 録 >
……………………………………………………………………………………………………………P 12
(2)
シルクだより
< 研 究 ト ピ ッ ク ス >
無撚シルク等新素材の普及に向けて
──ハイブリッド絹展
'03──
蚕糸科学研究所
今年度のハイブリッド絹展’03 では、シルク開発
③
無撚シルク
青木
昭
223d
センターの事業として提供された新素材「無撚シル
生糸 27 中×8,ナイロン 7d,S450T/mカバ
ク」の試作研究成果が公開展示された。(表紙写真
リング
参照)
組成
シルク/ナイロン:97%/3%
無撚シルクの拡がりと開発途上の新しいハイブ
リッドシルクについて紹介する。
1.提供素材の種類と構造
無撚シルクの製造には、先ず平行に引き揃えた数
本の生糸に熱収縮の大きいナイロン糸をカバリン
グ(巻き付け)する。これを精練するとナイロン糸
が収縮し、両者の位置関係が逆転してナイロン糸が
芯となり、その周りを精練された絹フィラメントで
覆った形の糸ができる。この構造がシルクリッチな
手触りと適度な弾力となって新たな感性と機能を
生み出した。これらの特徴は、生糸の合糸本数、ナ
イロン糸との割合およびカバリング数など糸構造
に支配される。
新素材を商品に結び付けるには、それぞれの用途
に向けて加工しやすく、かつ製品を特徴付けるもの
でなければならない。
そこで、出来るだけ広汎な用途に適応させるため、
太さは生糸 27 中×2、×4、×8 とした。ナイロン
糸には精練による構造転換に必要最小限の太さ 7d
を選び、東北撚糸株式会社(社長
金井史郎氏)の
協力のもとに、加工性と風合いの両面から適正なカ
バリング数の検討を重ねて次の3種(写真1―①,
写真1:無撚シルクの練糸
①61d、②115d、③223d
②,③)を供給することにした。
①
無撚シルク
61d
生糸 27 中×2,ナイロン 7d,S850T/mカバ
リング
組成
②
シルク/ナイロン:89%/11%
無撚シルク
115d
生糸 27 中×4,ナイロン 7d,S600T/mカバ
リング
組成
シルク/ナイロン:94%/6%
次ページの写真2は、これらの無撚シルクの構造
を決める過程で試作した出展品(左からカーディガ
ン 115d、セーター223d、ベスト 61d・115d)
である。
2.試作研究者による作品の特徴
無撚シルクの試作研究者の出展品について、その
シルクだより
(3)
特殊な織物としては、パイルに使ったベルベット
(京都織物卸商組)。シルクパイルと綿パイルを市
松に配して光沢のコントラストをもたせたタオル
(池内KK、写真4−②)。粗く織った楊柳を重ね
織りしたストール(KK絹十綿、写真4−③)。袋
織りにして各層に動きをもたせた四重織りの
ウォッシュガーゼ(KK伸和、写真4−④)など特
殊な織技法の作品が目についた。さらに手工芸分野
(たてよこの会、手織りグループ)では手織りや草
木染めの素材として、直接作業工程に持ち込める使
写真2:無撚シルクのニット製品
い易さが評価されている。
表情を覗いてみよう。
織物では、ジャカード織りでバイアスの格子柄を
浮き立たせたブラウス生地(KK 織物工芸、写真3
−①)。インジゴ使いの活動的な男性着尺、作務衣
(KK 金久、写真3−②)。巧みな玉虫効果を梨地
織として穏やかな光沢で飾ったカクテルドレス、ブ
ラウス(SAIA 研、写真3−③)。無撚シルクのクリ
ンプを利用した柔らかなシボ立ちの変わりフラッ
トクレープ(KK 大江、写真3−④)など新しさの
演出に細かな配慮がうかがえる。
写真4:試作研究者の出展品Ⅱ
(ビデオマイクロスコープによる)
本命とされてきたニット分野では、編成速度や編
組織の工夫のもとに試作が進められ、風合いについ
ては異口同音に好評であった。
丸編生地(フライス編)(小野莫大小KK、次ペー
ジ写真5−①)では、はじめ未精練糸を使い、静電
気や引っ掛かりによる障害で編成が困難であった
が、精練した無撚シルクは3種とも良好な結果と報
告された。
写真3:試作研究者の出展品Ⅰ
(ビデオマイクロスコープによる)
スムース編(両面編)のTシャツ(グンゼKK、
次ページ写真5−②)は、吸放湿性とドレープ性の
よさに、編立て寸法に工夫を加えて洗濯性をもたせ、
毛織物産地の作品として、無撚シルクのたて糸に、
男性用インナーへの展開を進めている。また、バラ
毛、麻、綿糸のよこ糸を風通織にした複雑な織物組
ンサ(丸編とトリコットの融合機)によりホツレの
織の試み(神田毛織 KK、写真4−①)や、毛織物
起らない編地(丸和ニットKK、次ページ写真5−
のよこ糸に織り込んでシャリ感を添えた春夏シー
③表,④裏)が紹介された。
ズン向け婦人服地(野口 KK)など産地に新しい息
吹をもたせるものとなろう。
(4)
シルクだより
撚加工糸」(仮称)と呼んでいる。繰製して直ちに
精練・染色や製織工程に投入できることから、いわ
ゆる「完成原糸」ともいうべき新しいタイプのハイ
ブリッドシルクである
ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、強撚生
糸および絹紡糸等との複合糸を繰製して、羽二重と
して仕掛けたたて糸に、よこ糸として織り込み、そ
れぞれ特徴をもったブラウスに仕上がった(写真6
−①,②,③)。ナイロン、ポリエステル混は無撚
シルクと同様の効果をもっている。
写真5:試作研究者の出展品Ⅲ
(ビデオマイクロスコープによる)
3.新しいハイブリッドシルク(加撚加工糸)への
挑戦
少量多品種、クイックレスポンスに適応できるハ
イブリッドシルクの繰製を目的としてカバリング
装置付きの自動繰糸機が開発され、無撚シルクと同
様の加工糸が繭から直接繰製できるようになった。
この装置は、天然繊維糸、化合繊糸のフィラメン
ト糸、紡績糸をはじめ、これらの強撚糸やストレッ
チヤーンなどと生糸との複合糸が容易に繰製でき
る。また、各緒毎に異なる素材をカバリングできる
など、小回りのきくのが特色といえよう。
写真6:加撚加工糸使いのブラウス
①絹紡糸混(92.4g/㎡)
②ポリエステル混(92.6g/㎡)
③ポリウレタン混(66.5g/㎡)
④:③の生地
展示品のマフラー(次ページ写真7−①,②,③)
は、柔らかな絹紡糸混と爽やかなタッチの強撚生糸
混の生地を使って、味わいの違いを表裏に組み合わ
せた試作品である。
図:各種複合糸の構成比較
ポリウレタン混の加撚加工糸は、延伸率のコント
ロールによって様々なシボ立ちの白生地ができる
このカバリング&繰糸の複合糸は、あたかも通常
の撚糸(Twist Yarn)と同様に扱えることから「加
ようになったが、洗濯、アイロン仕上等のアフター
ケアに問題が残されている。
シルクだより
(5)
写真7:加撚加工糸使いのマフラー
①マフラー外観
②絹紡糸混の生地
③強撚生糸混の生地
写真8:ポリウレタン混加撚加工糸のTシャツ
②Tシャツの生地
③ポリウレタン混加撚加工糸
(繭糸 80d,PU20d,CovS260)×2,S400
徴付けるものが求められている。そこには用途に合
わせた素材設計と新しいキャラクターを生み出す
製品への道筋が必要となろう。
その後、無撚シルクへの関心が高まり、関連企業
や消費者からの問い合わせが多くなっている。展示
会では、試作研究者から経糸や高速編機への適応性
に幾つかの指摘はあったが、製品には概ね期待でき
る成果が得られたものとみられる。
衣服素材の「ストレッチ性」は、衣服と皮膚との
間の「ゆとり」との関連のもとに、肌着やスポーツ
ウェアの着心地やボディラインの美しさに関わる
写真8:ポリウレタン混加撚加工糸のTシャツ
①Tシャツ(上)、スカート(下)
重要な性質である。加撚加工糸の構造や素材との組
み合わせから、緩やかな(10∼20%)、活動的な(20
∼40%)、そして強力な(40%∼)ストレッチ率な
この加撚加工糸は、従来のポリウレタン混のハイ
ど、多様な素材の開発に手掛かりがみえてきた。
ブリッドシルクに比べて取り扱いが極めて容易に
引き続き、無撚シルクの加工性能の向上とニュー
なった。練糸の編地には適度なストレッチ性をもた
ハイブリッドシルク(加撚加工糸)等の応用技術を
せて、良好な着心地のTシャツ(写真8−①,②,
策定して、需要者の要望に応えられるキメ細かなメ
③)に仕立てることができた。
ニューを用意していきたいと考えている。
おわりに
シルク素材の開発には、産地や地域ブランドを特
あおき
あきら:蚕糸科学研究所
研究員
電話:03-3368-4891
(6)
シルクだより
< オ ア シ ス >
我が国絹業技術の伝承について
(財)大日本蚕糸会理事
我が国の蚕糸業、絹業に関する各種の技術的、経
羽室
幸明
世界的に見た中国の蚕糸業の概況は、まず、原料
営的な経験・知識や学問的探求、成果は、おそらく
の繭の生産量は、ここ 2∼3年45万トン前後で、
世界一であろうと思う。
日本の400倍を超え、全世界の約70%を占めて
即ち蚕なる昆虫の研究、品種改良、飼育技術を始
いる。従って生糸の生産量も65万俵前後で、日本
めとして、生糸なる絹繊維、絹織物等の物性は勿論、
の60倍以上で、世界の65%のシェアをもってい
その生産技術の深さ、各種加工技術から、さらには、
る。
それらの副産物の付加価値化等を含めると、一連の
グループ系列的、組織的体系をなすものと思う。
それらの貴重な技術が、何らかの形で現在から将
来にわたって利用され、人類文明、社会文化に役立
てることは、決して無意味なことではないと考える。
私は、グンゼ(株)の社長・会長を、仰せつかっ
たことがあり、その時の経験の一端を記して参考に
供したい。また、同時にこの件については、グンゼ
の絹業のベテラン技術者であった、中村康二君が男
子一生の大偉業をなしとげたものであり、彼の成果
を業界にも評価して頂く、よいチャンスになれば望
外の喜びと思っている。
絹翔絲綢有限公司玄関と中村康二総経理
中国の繊維産業は、中国経済の中では極めて重要
○事業構造転換と関連技術及び技術者
社会経済構造の変動に伴い、会社の一事業部門が、
な位置づけをもっており、絹織物は織物の中で2
0%強であり、繊維類の輸出では、織物では数量で
時代の変遷により個人の努力や力量とは関係なく、
4%弱であるが、金額では7%と1割近いものであ
年々斜陽化の道を辿るものがある。経営上は当然の
り、中国経済、中国の外貨獲得、ひいては中国の近
ことながら、従業員の対策、労組交渉等の外に、企
代化に大いに貢献しているといえる。
業として、累年積み上げてきた貴重な技術、ノウ・
広大な中国の中で、原料である繭の生産地は、昔
ハウ等がある。最近のことばをかりれば、知的財産
から偏りがあり、上海、江蘇の中支地区が35%、
といわれるものである。
次いで山東、河南、湖北地区が16%で、広東、広
ある企業、ある国では、無用となる技術でも、あ
西の南支が17%、重慶、四川の西部山間部で2
る国、ある企業では、是非活用したいものもあり、
2%と、それらで90%を占める。それらの産地は
また、それによって、その国の民生、経済発展に大
重要な農産物であり、農村経済を支えている。
いに役立ち、そこでは喜ばれることがありうると思
う。
また、中国では、自国で生産する産品については、
できるだけ、そのあとの加工も行い、付加価値をつ
けることを国策としている。故に、農産物としての
○中国の絹業について
現在の中国の絹業について概況を記してみる。歴
史的には、中国から日本に絹業が渡来してきたので、
蚕繭を原料として、それから生糸に加工し、それを
更に絹織物にまで仕上げて付加価値をつけ、それを
輸出して、中国の国富を高からめることである。
その点から見ると大先輩の国である。一時期日本の
絹業とはライバルの関係にあったが、今日では共存
共栄的な関係に入っていると考える。
○揚州絹翔絲綢有限公司のこと
この中国の絹織物の企業は、江蘇省にあり、日本
シルクだより
(7)
側の京都室町の絹業者4社と中国側4社の合弁方
1995年の中国のシルク関連部門は史上最悪で、
式で設立された。1991年7月に建設開始され、
日本向けは勿論、欧米向け輸出も不振で総倒れで、
1993年 11 月に生産開始し、製品は全量日本輸
製糸工場、絹織物工場、各省シルク公司のいずれを
出し、94年には1134万元、95年には125
問わず、黒字経営は1社もないという惨憺たるもの
6万元の生産高となった。日本側4社は、吉村紡績、
であったとある。浙江、江蘇両省の日本向け絹織物
丹後生糸、楠絹織、竹下利等著名なシルク、和装企
では、それぞれに3億元の赤字で、企業の統廃合に
業で、中国側は中国絲綢進出口総公司、江蘇省分公
大ナタが振われた由である。当時の物価指数で換算
司、揚州市支公司と江都絲綢総廠の4組織である。
すると 1 千億円位になるのではといっている。
(公
江蘇省、浙江省は昔から絹業の盛んな地区で、中国
式レートでは 1 元13円で、40億円となる。為替
絹織物業の中心地であった。この会社の設立には、
レート二重管理のためか?)
戦前、周恩来が京都留学時代、吉村孫三郎氏と親交
があった。
中村総経理は赴任後、生産管理、品質管理、能率、
歩留管理に、グンゼ式を導入し、絹翔の経営再建を
戦後、吉村は日中国際貿易促進に注力し 1979 年
見事なしとげ「中国一」の格付をうけ、「絹翔」ブ
4月嵐山亀山公園で、周恩来総理記念詩碑の落成式
ランドとして10%のプレミアムを確保した。グン
が盛大に行われた。その時招かれた、登穎超女史が
ゼ-シルクが、戦前、アメリカでプレミアム付で売
除幕した。勿論発起人で建立に尽力したのは、当時
れたのと軌を一にすることである。創業5年で初め
95 歳の吉村氏であった。
て 17%の高額配当をすることができた。2年半の
その後1992年春、北京にて、当時 88 歳の登
穎超女史と、孫三郎の長女で吉村紡績の会長であっ
た吉村啓子氏の出合いが実現し、それが契機となっ
て、中国に日中友好の和服企業を設立しようという
ことになり、江都市に絹翔の名を冠した会社創立と
なった。因みに周恩来は雅号に「翔宇」を使ったこ
とがあった由。即ち「絹翔」は日中友好の三代に亘
る努力の結晶といえる。
絹翔の経営推移(1994 年度=100)
間には、総経理に暴言、暴力の問題社員もあり「外
○絹翔公司の発展の経緯
国人侮辱罪」で投獄された。現地人を処罰するとい
華麗なスタートを切った絹翔も、創業当初から2
うことは中国側政府、省、市、董事会の理解と支援・
∼3年は、他の企業と略同様で大変な苦労であった。
協力があった結果である。私が社長時代、丹後生糸
1994年5月に絹翔の経営建て直しの重責を帯
の会長から、絹翔の経営建て直しのため、中村君割
びて総経理として赴任した、グンゼ(株)の絹業の
愛の要請を受け、本人にも十分に納得してもらった
経営幹部であった中村康二の当時の記事によると、
上で出向して貰い、2年半で見事中国ナンバーワン
の絹織物企業として立ち上がらせ、丹後生糸外日本
側出資企業の期待に応えてくれた。同時に日本の貴
重な絹業に関する生産技術、知的財産を中国に継承
伝達でき、中国の国家、人民の経済、生活水準の向
上に資することができ、真の日中友好の糧となりえ
た事に対し、ささやかな喜びと満足感に浸ると共に、
絹業の生産技術者であり、また、優れた経営者の中
村康二君に満腔の敬意を表すると共に、心より感謝
致す次第である。
はむろ
絹翔絲綢有限公司の工場の一部
よしあき:グンゼ株式会社
顧問
電話:06-6855-5102
(8)
シルクだより
< ト ピ ッ ク ス >
ハ イ ブ リ ッ ド 絹 展 ’03 会 場 点 景
会場には、他にホールガーメントと表示した野蚕
糸のセーター類があった。一筆書きのように縫い目
がないというコメント付きで、(有)ハックが出展
したもので、これも注目株である。
今年は、試験研究機関が元気だった。国の蚕糸昆
虫農業技術研究所は独立行政法人に衣替えして農
業生物資源研究所となり、そのなかの動物生命科学
研究所(中略)の新蚕糸技術研究チーム(旧蚕糸試
験場松本支場)は、自分達で育成した極細繊度蚕品
今年のハイブリッド絹展の特別出展者は、(財)
日本きもの文化協会とSAIA研究所で、写真上の
種「はくぎん」、黄繭種「PNY×PCY」の魅力
をPRするために製品化していた。
作品が会場入り口で観客を迎えていた。
ハイブリッド絹展に初見参のSAIA研究所は、
正式名称を愛媛県縫製品産業振興協議会SAIA
研究所といい、昨年設立されたばかりだが高品質な
製品開発を目指している。
無撚シルクを使った梨地のシャンブレーについ
ては3ページで青木
研究員が紹介してい
るが、写真上中央の灰
桜色のカクテルドレ
フラワースカーフ
スも左写真の花型に
新蚕糸技術研究チームのコーナー
成型したフラワース
細繊度を強調する14中の羽二重(上の写真中央
カーフもハイブリッ
右の羽二重が掛けてある小物掛けが透けて見える)、
ドシルクの特長を生
黄繭種の繭色をそのまま残したネクタイと黄色い
かし、欠点を克服した製品の一例といえよう。
カクテルドレス右側のシルクニットのドレスと
セーターは、「ストレッチシルク」を素材として島
精機(株)の無縫製自動編機で作ったものである。
生糸(写真右端)などで、展示にも工夫を凝らし、
研究者は研究さえしていればいいという範疇から
一歩抜け出していた。
群馬県蚕業試験場は、県の推奨蚕品種、ぐんま
生糸は、従来、このような編機には向かないとされ
200、世紀二一、新小石丸、ぐんま黄金、新青白を
ていたのだが、蚕糸昆虫農業技術研究所が開発し、
地域ブランドシルクとして出展する一方、自前の蚕
撚糸によって弾力性を
用人工飼料製造施設を持つ強みを活かして染料を
得た「ストレッチシル
混入した人工飼料飼育を展示し、蚕体が染料で着色
ク」の肌触りの良さに美
し、様々な繭色のカラー繭が得られることを実演し
しさを加えた見事な仕
ていた。
上がりがこの素材に改
めて注目を集めるもの
と思われる。
地域ブランドシルクでは、埼玉県秩父地方の「い
セーターの編目
ろどり繭」、千葉県農業総合研究センターの「平面
繭」などが人目を集めていた。
シルクだより
(9)
ろうが、男性用肌着として消費されるようになると、
市場性が大きいので大いに期待される。
試作研究者のコーナー
今年、主催者のシルク開発センターから新しいハ
京都織物卸商業組合のコーナー
イブリッドシルクとして試作研究用に提供された
今年、異色の出展者の一人は京都織物卸商業組合
のは「無撚シルク」で、14社がハイブリッド絹展
である。もちろん織物卸商業組合自身が試作研究を
´03 にその試作品を出展した。
直接やっているわけではないが、組合の若手グルー
その中には、すでに御紹介したSAIA研究所も
プが織物卸商としてのコーディネーター機能を活
含まれているが、それぞれ工夫を凝らした試作研究
かして新製品に取り組む意欲のある二三の機業地
をしていることは青木研究員が2∼5ページで御
と手を組んで「無撚シルクとウール」あるいは「無
紹介している。
撚シルクと扁平光沢糸」などによる試作品を出展し
た。上の写真、左の赤い無撚シルクと扁平光沢糸の
シルクサテンが人目を引いた。
グンゼのTシャツ
それらの中で商品化に大きな期待を寄せたいの
は、グンゼ(株)の男物のTシャツである。上の写
真はあまり写りがよくないが、26G天竺オフホワ
イトの感触は是非着てみたいと思わせるものだっ
た。試作研究中には、製造上の諸問題、特に編みた
てのスピードをどれだけ上げられるか(木綿にどれ
だけ迫れるか)、トラブルを避けられるか(製造コ
ストの低減)が問題だったようだが、今後の問題と
新しいシルクのあり方を常に追い求めてきたハ
しては消費者の期待にどれだけ応えられるか、耐洗
イブリッド絹展には、国会の先生、蚕糸団体首脳な
濯性、適度なハリ、コシなどの感触、消費者の満足
ど多くの方が激励に訪れた。
感に訴える品質と価格のバランスが問題になるだ
(蚕糸科学研究所:三戸森領夫研究員)
(10)
シルクだより
< ト ピ ッ ク ス >
新 型 繰 糸 機 開 発 そ の 後
昨年7月に発行したシルクだより第10号以降、
事業主体は、(財)大日本蚕糸会。組み立てた新
自動繰糸機の部品開発を契機としてそれらを総合
型機は現実に稼動している製糸工場で実験繰糸を
した新型自動繰糸機開発研究の歩みについて報告
してもらうこととし、中央蚕糸協会から全国に希望
してきた。
を募り、須藤製糸(株)に設置することとなった。
既報のとおり、貞明皇后蚕糸記念科学技術研究助
成によって自動繰糸機の部品開発が行われたが、そ
母体となる自動繰糸機は、ニッサンHR型で、予
算の都合上6台(釜)1セットになった。
れらの部品を総合して1セットの自動繰糸機に組
事業の取り組みは、
み込み相乗効果を挙げることは、それほどたやすい
平成14年12月3日、第1回新技術開発委員会
ことではない。
で事業団の実証事業の推進計画等を決定。
そこで、農畜産業振興事業団の助成を受け、実験
平成15年2月19日、第2回新技術開発委員
的に1セットの小回りが利き小ロット生産に対応
会・現地検討会を須藤製糸(株)で開催し、機械設
する新型自動繰糸機を組み立てることになった。
置を確認。
平成15年3月17日、第3回新技術開発委員
会・成果検討会を蚕糸科学研究所で開催。
という手順になったが、時間に追われ、年度末に
機械が動くのが辛うじて間に合った感は否めない。
成果検討会
成果検討会では、学識経験者から「ともかく糸が
できたことを評価したい」という声とともに「まだ
調整途中の段階であり、新しい繰糸機の場合は緒ご
との調整などが十分行われないといけない」との指
摘があった。
機械を設置した草間社長は、「シブミ(銅イオン)
が取れないうちに試験繰糸をした。張力がかかり、
一部では小枠が止まりにくかった。」
須藤製糸(株)からは、「ある程度普通繭を挽い
重点的に取り組んだ改良開発部品
①集緒器、②感知器、③給繭器
④コンビネーション、⑤鼓車
た後、小石丸を挽く予定」と話があった。
(蚕糸科学研究所:三戸森領夫研究員)
シルクだより
(11)
< ト ピ ッ ク ス >
ニ ュ ー シ ル ク 開 発 委 員 会
第16回ニューシルク開発委員会・専門委員会が
平成15年3月4日蚕糸科学研究所で行われた。
この会合は、蚕糸科学研究所の過去1年間の研究
平成 14 年度研究成果として 7 課題が報告された。
1.製糸機械メンテナンス部品の改良・開発に関す
る研究
成果を外部の有識者に紹介し、その評価、今後の研
2.シルク新素材の開発と用途拡大の研究
究の方向等について示唆を得ようとするものであ
1)無撚シルクによる絹新製品の開発
る。
2)加撚装置付き自動繰糸機の改良と製品開発
3.防刃用布帛の開発研究
4.酸精練法によるシルク新素材の開発と製品化
の研究
5.セリシンの機能性解明とその利用
6.絹タンパク質のバイオ素材開発
7.ストレッチシルクを用いたホールガーメント
によるニット製品の試作
委員及び専門委員の懇談の中から聞かれた主な
左から河田河芳織物(有)社長、若林オンワード
先端技術研究所事務局長、成瀬前文化女子大学教授、
梶原大妻女子大学教授、村上蚕業技術研究所所長
発言は次のとおり。
①「“あけぼの”より“小石丸”の方が織ったら
柔らかい。精練したら変わる。」「“はくぎん”には
期待している。」「F 県の“小石丸”は 3 年でようや
く経糸に使えるようになった。」
②(ストレッチシルクのホールガーメントで)
「絹の光沢、肌触り、きれいさで訴えたい。」「野蚕
糸は 10∼12%のストレッチがあり、後工程が省略
できるので先進国型ニット材だ。」「ホールガーメ
ントは仕掛から完成までが非常に近い。毎日売れて
いるデータを貰って毎日出荷する。シーズン末にも
左から森アトリエ・モリ社長、並木(有)一推社
売れ筋が判る。」
社長、松本(有)HAC社長、木下絹織工房(株)
③「シルクが売れないのは高いからだ。しかし、
マルシバ、水出元駒沢女子短期大学講師、嶋崎蚕研
吸汗性が良いので、ハイネックでもシルクは良い。
客員研究員
普通より一寸上のところなら買う。セーターで 3 万
円止まりだ。皆が着れる気持ちの良いものをどう
やって知らせられるかだ。」
④「バブル時には分不相応なものに手を出したが
価値観が変わった。自分が良ければよいという消費
マインド。健康、誕生日、など理屈と理由をつけて
一枚、一点これというものを買う。」
⑤「40 代の女性は上と下のバランスが崩れる。
左から勝野蚕研所長、佐藤大日本蚕糸会常務、西
絹業協会専務
写真撮影後金井東北撚糸(株)社長が参加した。
サイズの構成を緩めるとそこそこすっきり見える。
家庭で洗える経済効果が考える要素になる。」
(蚕糸科学研究所:三戸森領夫研究員)
(12)
シルクだより
< 人 事 異 動 >
蚕糸科学研究所(4月1日付)
◎平成14年度養蚕経営成績検討会
新規採用
平成15年1月24日(金)10:30∼
研究員
花之内
智彦
蚕糸会館6階
先導的養蚕農家の平成14年度の経営成績を県
< 行 事 予 定 >
(財)大日本蚕糸会
担当者、先導的養蚕農家育成推進協議会、農水省、
◎平成15年度蚕糸褒章等選考委員会
農畜産業振興事業団などが中心になり検討した。
平成15年4月22日(火)10:30∼
◎平成14年度先導養蚕農家の会
蚕糸会館6階会議室
蚕糸褒章等選考委員会を開き、平成14年度貞
明皇后蚕糸記念科学技術研究助成事業報告及び平
平成15年2月25日∼26日
福島県二本松市
先導的養蚕農家夫妻を中心に関係者が集まり、
成15年度新規事業について審議する。
安斎孝行さん宅で現地研修を行った。
◎理事会・評議員会
平成15年6月26日
日本蚕糸学会
議題は14年度事業報告及び決算その他
◎平成15年度第73回大会
平成15年3月28日(金)∼29日(土)
東京農工大学農学部
◎談話室バス旅行(青梅)
学術講演会、総会、蚕糸学賞・進歩賞授与式、
平成15年5月16日(金)
蚕糸学賞受賞記念講演、国際シンポジウム、懇親
蚕糸科学研究所・蚕業技術研究所
会などが行われた。
総会では、来賓として登壇した(財)大日本蚕
◎平成14年度研究業績報告会
平成15年4月17日(木)11:00∼
糸会吉國会頭が次のように挨拶した。
「蚕糸業の生産減退が続いている。養蚕専業で
蚕糸科学研究所会議室
平成14年度の研究及び業務の推進状況、主要
は難しくても複合経営の中で養蚕は十分可能だ。
な成果について報告し、推進方向、課題を検討す
養蚕複合農家の推進に努めているがその過程で日
る。
本蚕糸業の技術基盤再構築の想いを強くしている。
蚕糸専門家の高齢化、専門学部が無くなる一方で
< 行 事 記 録 >
一般の教育技術、指導体制によるカバーが追いつ
(財)大日本蚕糸会
かず、技術の空白を心配している。
二つお願いしたい。一つは教育の場で養蚕の実
◎賀詞交換会(東京)
平成15年1月7日(火)11:00∼
務教育を取り上げてほしい。学生に関心を持って
蚕糸会館6階
もらう教育をしてほしい。二つは、革新的な現場
200 人余の参会者で盛況。
技術の開発に力を貸して欲しい。過去の偉大な技
◎理事会・評議員会
術開発に安住し、画期的な技術がここのところ生
平成15年3月26日(水)
まれていない。養蚕の可能性を開く研究をしてほ
平成15年度事業計画及び予算
しい。技術力がいろいろな道を開く。
」
シルクだより
№13
発行:財団法人大日本蚕糸会
平成 15年
4月号
編集:財団法人大日本蚕糸会
蚕業技術研究所
編集:財団法人大日本蚕糸会
蚕糸科学研究所
〒169-0073 東京都新宿区百人町3−25−1
TEL 03-3368-4865・4891
E-mail:[email protected](担当:三戸森研究員) FAX 03-3362-6210