あるべき社会像・産業像と大学研究の役割

第3号
JUN. 2006
■パネル討論
あるべき社会像・産業像と大学研究の役割
― 大学研究は人間社会にどのように貢献できるか ―
■ 出席者
西 義雄/スタンフォード大学教授
浅井彰二郎/株式会社日立メディコ特命顧問
シュテファン・イェニヘン/フラウンホーファーFIRST研究所所長
デービット・W・チェニー/SRIインターナショナル科学技術政策プログラム部長
柊元 宏/統合研究院ソリューション研究機構長
下田隆二/統合研究院ソリューション研究機構イノベーションシステム研究センター長
(司会)西村吉雄/東京工業大学監事
西村
70年代の後半から世界的に大学と社会の関係が変
学部はそれほど変わりようがな
わってきている。
「大学は社会に開かれていなければなら
いとしても、大学院レベルでは基
ない。もっと社会に貢献しろ」と。大学も伝統的なディ
本的なカリキュラムのほかに、
シプリン研究だけでは閉鎖的になってしまい、教育とい
マテリアルサイエンス・ラボ、ナ
う観点からも十分とは言えない状況になった。その結果
ノエレクトロニクス・ラボ等々、
として産学連携が進んで、今回の統合研究院のソリュー
「ラボ」というコンセプトのな
ション研究へとつながってきたのではないか。しかし、
かでマルチディシプリンの教育
一方で「大学にソリューション研究なんて、できるの?」
を行っていく必要がある。
という反応があることも事実です。
ネットワークを活用する
西
西 義雄教授
我々の電気工学科は70人ぐら
いの教授と助教授を抱えた大所
帯だが、細分化されていないの
私の専門はナノテクノロジーだが、まさにインター
で、1人の学生が2∼3人の学位
ディシプリナリーな領域で、教育も研究も自分の大学だ
論文の指導教授を持つこともで
けではとても対応できない。キーになるのは、
「壁と境界
きる。私も12人のドクターを抱
を打ち破れ!」です。スタンフォード大学、コーネル大
えていますが、電気工学科の学
学、ハーバード大学など13大学で全米ナノテク基盤ネッ
生は7人で、あとは材料工学科
トワーク(National Nano-Technology Infrastructure
や物理学科の学生だ。私の下で
Network)を結んで、学生ならどの大学の施設を使って
研究をしながら、それぞれ原籍の学科で Ph.D.を取るので
実験してもいいという仕組みをつくっている。
す。また、リサーチセンターについて言えば、私が所長
このネットワークを利用すれば、いまナノテクの分野
浅井彰二郎特命顧問
を務めるセンター(Center for Integrated Systems)を含
にはどういう課題があるか、どういう取り組みをしなけ
めて、いわゆる附置研究所の専任教授は一人もいない。
ればいけないかといった議論もできる。世界には環境、
すべて原籍があるので、コア・カリキュラムを教える場
プライバシー、人間性の向上、倫理、経済、政治等々の
合には、自分の研究内容を学生に話すこともできる。ま
問題があって、とても一つの大学の手に負える代物では
た、附置研究所の専任になることで生じるような学科・
ない。そういう議論を基に必要なカリキュラムをつくり、
学部と切り離された活動も防げる。
研究を行い、全米科学財団(NSF)や国立衛生研究所
(NIH)などにプロポーズしてグラント(研究助成金)を
他人の知恵を借りる
得る。要は、一つの大学が閉じた状況のなかでつじつま
浅井
の合うことだけをやっていてはダメで、広い視点で社会
り下げてきたが、今後はいろいろな能力を束ねてソリュ
と相互作用していくことが重要だ。
ーション研究を行うことで、社会の大きな課題に取り組
そこで教育の面から「将来の大学」を考えてみると、
いままで大学はディシプリン研究で問題を深く掘
んでいこうじゃないか、と。これは、ある意味で企業の
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シュテファン・イェニヘン所長
デービット・W・チェニー部長
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研究活動と似ている。長年、
術振興調整費の残り4年の研究期間(平成21年度まで)を
私も企業で電子線描画装置な
考えると、これは大変なことではないか。
どの開発に携わってきたが、
チェニー トップダウン・アプローチで社会の大きな問題
企業の研究所は事業部門から
に取り組もうとすると、他の人たちと同じ領域の問題を扱
研究費をもらって、事業に向
う恐れがある。その場合、東工大は具体的にどういう役割
けてのソリューションを提供す
を果たすのか、大きな問題のどの部分に貢献するのかとい
る。一方、大学は本来的に非
ったことを決定しなければならない。これは難しい。
営利組織で、一時は産学連携
アメリカにはプロジェクトの選定のためのプロセスが
は良くないという考えもあっ
ある。厳しい質問を浴びせて評価を行う。東工大でもア
た。それが今は社会の動きの
イデアを競争させて、
「市場化テスト」で検証して、悪い
なかに大学を位置づけ、社会
アイデアを振り落とす。その際、コンシューマーの視点
に成果を還元し、社会を変革
を入れることは有益だ。
していく一つの突破口にしよ
浅井
うという考えに変わってきた。
的な解決につながらずに終わってしまうことがあるので
しかし、ソリューション研
はないか。例えば、人工知能の研究をやろう、と。しか
究の難しさはいろいろな種類
し、人工知能は何十年もの研究があるけれども、現実の
の研究力を注ぎ込まないと、
問題になかなかコネクションがない。
「ようやく引っかか
あまりに大きな問題をつかまえてしまうと、具体
問題解決に至らない点にある。良いアイデアは少なく、一
ってきたな」という感覚がつかめたときに、初めて問題
見つまらない研究でもいろいろ寄せ集めて、まとめあげて
が見つかった、と。大きな課題に対する提案を見ている
いく必要がある。それを大学でやっていくのは大変なこと
と、問題のつかまえ方が研究室的になっていて、もう少
だ。例えば全体的・包括的な取り組みをするために、大学
し世俗的であってほしいと思うことが多い。つまり、問
内部の力をどうやって糾合するのか。ほかの大学や研究機
題の「掘り下げの部分」と「広がりの部分」とが、どこ
関との連携も必要だが、ぜひ企業を巻き込んでほしい。イ
かでくっついていなければならない。アメリカ人はコネ
ンドや中国の会社を使うことも考えると、視野が広がるの
クティッド(connected)と言いますが、そういう感覚が
ではないか。自分の大学だけで閉じずに、もっとほかの人
すごく大切だと思う。
の知恵を借りようという姿勢が重要になってくると思う。
柊元
アイデアの市場化テスト
西村
問題の解決もさることながら、問題を見つけて研
私は、将来のあるべき姿はかなりシンプルではな
いかと思う。この席におられる方々が「将来のあるべき
姿は、こうだ」と言われると、ほとんど決まってしまう
のではないか。これは企業人としての意見だが、むしろ
究課題として設定していくプロセスが重要かと思う。
問題は企業が経営戦略・事業戦略として将来の課題に対
イェニヘン あらかじめ「ポートフォリオ・プロセス」で、
して、複数の企業と一緒に取り組もうという姿勢がある
それが社会に適切な問題であるかどうかを議論しておかな
のかどうか。将来の課題の解決は一つの企業だけではで
ければならない。ドイツの大学では、まずソリューション
きないし、大学も自分だけで閉じて何かをやることはで
を見つけて、あとからそれに対応する問題は何かを見つけ
きない。モチベーションというか、課題に取り組もうと
るという、逆のあり方がしばしば見られた。企業に行って、
いう発想が大学の外に、あるいは大学のなかに生まれて
「こういうすばらしいソリューションがあるが、必要あり
くるかどうかが大事で、それがあればソリューションへ
ませんか?」と聞くと、それは企業にとって必要なソリュ
のストーリーも描けるのではないかと考えている。
ーションではなかった、と。企業の関心事はソリューショ
下田
ンを通じて革新的な製品をつくり出すことであり、イノベ
り産業界にロビーイングしていくことも考えている。プ
ーションの成果を享受することだ。そのためにも早い段階
ロジェクトの残り 4 年間だけで閉じてしまうのではなく
から企業を巻き込んでおく必要がある。
て、その間に次の5年∼10年の問題解決のためのプロジェ
西村
例えば解決すべき課題を見つけて、それを政府な
ソリューションと言った場合、普通はクライアン
クトを立ち上げて、しっかり育てていきたい。そのため
トがいるが、東工大はあるべき社会像・産業像のなかか
に、いま学内で研究会を開いたり、ワークショップを企
ら課題を抽出して研究活動をスタートする、と。科学技
画したりしていますが、ある程度まとまったところで産
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業界や政府の方にも関係していただき、問題をより精緻
念ながら、日本にはそのようなプロセスが定着していな
にアイデンティファイしていきたい。さらには新たなプ
い。政府の審議会等に産学官の人が集まって議論して、
ロジェクトを立ち上げて、それに資金提供してくれる人
それなりの方向性は出るけれども、それが正しく世の中
を説得しつつ研究を進めていく。将来的には、そういう
の将来の問題をとらえているのか。そういう問題意識で
ことも考えている。
統合研究院のなかにイノベーションシステム研究センタ
大学のシンクタンクとして
柊元
クライアントがいる場合には、いつまでに解決す
るという期間があると思うが、クライアントを想定して
十数年先のソリューションを狙う場合、SRIはどのぐらい
ーを置き、大学のシンクタンクとして機能する中立的な
視点での貢献を考えている。また、大学にあることで東
工大の幅広い技術ベースを活用することができる。
“お客さん”を巻き込む
先にゴールを置いているのか。
西村
チェニー
効率よく取り組むにはどうすればいいだろうか。
全米科学財団や国立衛生研究所、国防総省高
複数の大学が共同して研究する場合、重複せずに
等研究計画局(DARPA)などの仕事は、タイム・フレー
西 直接電話をかけたり、Eメールを送ったりして、全体
ムが長い。それでも1年ないし5年で、20年先というよう
のビジョンを考えた上でチームをつくる。結果的に、私
な長いものはあまりない。
の場合は七つの大学の10人ほどの教授で一つのチームを
西
つくった。別の大学も同じようにチームをつくるので、
アメリカの例で言えば、三つぐらいの課題設定プロ
セスがあると思う。一つは10年∼20年という長期的なも
そのチームに私の同僚の教授が加わっても構わない。そ
ので、全米科学財団が新しい研究をスタートさせる場合
の際、学科長や学部長、学長などには関係なく、どうい
などだ。各国から大勢の人を集めて2∼3日かけてワーク
うビジョンで何をやりたいかということを考え、あくま
ショップを開き、その領域が内蔵するいろいろな問題を
で適材適所で、所属する大学とは無関係に、自主的にチ
あぶり出し、そのあとで提案を募集する。その中身を見
ームをつくっていくのがアメリカ流のやり方だ。
てA教授とB教授が一緒に応募しよう、と。少しスケール
ただ、
「13大学のネットワーク」は若干違っている。各
の大きいものでは、幾つかの大学の教授が一緒になって
大学に共同利用施設は一つか二つしかないので、お互い
応募する。それぞれの研究者が自主的にチームをつくっ
の大学を訪問して、相性や信頼性を考慮しながらチーム
て提案するという仕組みです。通常は5倍から10倍ぐらい
をつくっていく。その際、重複しないように、ハーバー
の激しい競争率があって、一番優れた提案が通る。
ド大学は化学、ジョージア工科大学はバイオロジー、ワ
二つ目は、もう少し短期的なもので、例えばエレクト
シントン州立大学はメディカル……というように、個々
ロニクスの分野で十数社の主任研究員が集まって、「5年
の特徴を生かしたインフラスト
∼10年というスケールで、どんなことが必要か」という
ラクチャーを提供してもらう。
議論を行う。その後、例えばSRIが研究の公募を行い、A
いずれにしても、第三者的な
教授とB教授が一緒に提案する。AとBは違う大学でも構
プランニング組織が調整すると
わないし、民間の研究所の人が加わってもいい。
いう仕組みは、アメリカのカル
三つ目のパターンは、大学と企業が一緒に研究してい
チャーにはない。熾烈な競争に
る場合などで、リサーチ・カタログを見れば、誰がどん
勝つためには、最初にどういう
な研究をしているかが分かるので、この問題なら隣の教
メンバーでチームを組めばいい
授と一緒にやったほうがいい、と。これもセルフ・アセ
かということを考えて、それを
ンブリーで、最適だと思われる人に責任者になってもら
基に提案をつくる。それを審査
って研究を進める。
するのは全米科学財団に限ら
下田
ず、そこのスタッフではなく、
リサーチ・カタログに関しては、すでに東工大で
も学内の研究内容を把握して産学連携という形で企業の
プロポーザルごとに民と学の両
具体的な問題を研究するという形で動いている。政府機
方からなる委員会をつくって議
関が公募する研究に応募することもある。問題は、全米
論する。
科学財団のように大勢の人の考えを集めて、将来を見据
浅井 日本の場合、グラントへ
えたプロポーザルの呼びかけがされているかどうか。残
の応募が機関提案になっている
柊元 宏機構長
下田隆二センター長
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が、機関連携の研究者ネットワークによる提案も受け付
うという人が集まってくれば、そこにコミュニティがで
けるようになれば規制緩和であり、イノベーションだと
きる。コミュニティができるということは、社会にも大
思う。
学にもその問題に関心があるということで、そこから次
一般論として言えば、社会的課題は大き過ぎて、なかな
の提案が生まれる。さらに、提案を評価してもらうため
か一つの機関では取り組めないと思う。しかも、同じよう
に、コミュニティに属していなかった人たちにも関わっ
な提案がいろいろな大学から出てくるし、エクセレンスを
てもらうので、コミュニティは一層大きくなっていく。
持っている先生は1人か2人しかいない。ちょっとパワーが
その結果、
「ドイツ研究財団には大きなプロジェクトがあ
足りないと感じることがあるので、研究者や大学が連合を
るので応募しよう」と。これも学際性を確保するための
組む必要がある。さらに、クライアントやスポンサーとの
一つの方法だと思う。
連合も必要だと思う。現在の応募の仕方を見ていると、研
チェニー
究成果を使ってくれるかもしれない“お客さん”を巻き込
っている。一方、独立した研究機関というのは特定のテ
んだ提案が非常に少ない。だから、ソリューションまで行
ーマに焦点を当てているので、普段から学際性の確保に
かずに終わっても、誰も文句を言わない。
努めている。各分野の研究者が集まってひと夏一緒に研
学際性をどう確保するか
西村
学際性の確保はアメリカの大学でも問題にな
究したり、1週間かけてワークショップを開いたり……。
そのなかから相互作用が生まれる。
ソリューションのためには壁を超えて研究分野の
科学上のブレークスルーは比較的小規模なセンターか
融合を図り、一見つまらない研究でもやってもらう必要
ら生まれると言われている。そこにいる人たちは適度の
がある。
知的な多様性を有している。知的な多様性も行き過ぎる
イェニヘン
ドイツの大学でも自分の論文だけを見てい
て、ほかの人が何をやっているかは見ていない。みんな
専門分野の壁のなかに隠れようとする。そこでアメリカ
と、お互いに理解できずコミュニケーションが成立しにく
くなって多大なエネルギーを使ってしまうということだ。
に倣って給与体系を年齢ベースではなく、実力主義に変
大学と企業の関係
えた。教授としての実績と第三者から得られる資金の額
西村
によって給与を決めるので、学際的な研究をやればやる
リン研究をして、教育の場を失わない。とくに学生との
ほど第三者からの資金が得られ、同時に多くの発表の場
関係を失わずにソリューション研究の場へ来ていると…。
を得られるようになった。
これは参考になるのではないかと思う。
学際性というのは相互作用であり、異なる分野、異な
西
スタンフォード大学では、教授は原籍でディシプ
一つは、いまエレクトロニクスとバイオの境目にビ
るカルチャー、異なる社会の間で相互作用が確立されな
ジネスの可能性がたくさんあるので、企業にしてみれば
ければ、革新的なものは出てこない。ドイツ研究財団の
エレクトロニクスは誰それに、バイオロジーは誰それに、
例を言えば、学際的なテーマを提案すると、まず専門家
臨床実験は誰それに……と個別に話をしていたら仕事に
のミーティングを開く。そこで何も議論が出てこなけれ
ならない。例えば20ナノメートルぐらいで集積回路をつ
ばおしまいだ。ミーティングの結果、新しい提案をやろ
くるとなるといろいろな技術が必要で、大企業でも全部
を自前でやることはできない。しかも、最先端のアクテ
ィビティを持った専門家は大学にしかいない。大企業に
は現在の水準に照らして通用するような研究者はほとん
どいない。だから、いろいろなディシプリンを持った人
たちが連携してくれれば、企業はおカネを出しやすい。
アメリカでは、
「大学教授に、あっちを向け、こっちを向
けと言ってもダメで、言うことをきいてもらうには、ま
ず研究資金などの面で優遇することだ」と。
もう一つ、壁を崩す簡単な方法がある。隣の教授の学
生たちを自分のゼミに招待することだ。逆に、自分のと
ころの学生がほかの教授のゼミに出ることも歓迎する。
これを定着させると、壁はたちまち消えてしまう。学生
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にとって大事なのは、いかに早くドクターをとるかで、
∼3人の副指導教授を持つこと
隣の教授の手も借りたいに決まっている。
を許可したらいい。自分の先生
浅井
研究者がやりたがらないような仕事はアウトソー
から学べないことは、ほかの先
シングで、企業に外注すればいい。インドの会社を使え
生のアドバイスを受ける。私の
ば英語のコメントがついたソフトウェアができるので、
手に負えない種類のことを知り
そのままの形で世界に通用するかもしれない。また、海
たい学生には、私が誰かを紹介
外の技術者と接触することで、国際的な仕事ができる人
する。紹介先で実験する必要が
材が育っていく。
出てくれば、彼はそこの学生た
ソリューション研究における人材育成
西村
最後に、統合研究院としての「統合」に向けての
西村吉雄監事
ちと交渉しなければならない。
ごく自然に実社会での振舞い方を身につけてくる。
これからの学生は幅広くいろいろなことを知ることが
具体策をお聞きしたい。
必要で、知るという過程のなかで社会人としての予行演
下田
日本も良いプロポーザルを出さないと予算がつか
習をやっておくことが大事だと思う。アメリカのテクノ
なくなってきた。インターディシプリナリーなプロジェ
ロジー関係の会社のCEO(最高経営者)に Ph.D.を持って
クトを企画できる研究者を、いかにたくさん育てていく
いる人が圧倒的に多いのも、ただ単に学問の分野でエキ
かが重要になってきたが、それに大学の教員はまだ慣れ
スパートであるだけではなくて、専門性と社会性を兼ね
ていない。その端境期をどう乗り切るのか。教員自身が
備えているので、大きな会社のトップにマネジャーとし
そういう能力を身につけていくのか、シンクタンクや支
ても座れる。日本の大学も、そのぐらいのポテンシャルを
援部門が機能してプロジェクトをマネージしていくのか、
持った人に学生を育てていく。それが大学が企業から最大
まさに悩んでいる問題だ。
限の尊敬と信頼を得るために一番大事なことだと思う。
柊元
浅井
大学も法人化したり、産学連携を推奨したり、学
これからは企業の最新のテクノロジーを利用しな
長の権限を強くしたりと、変わる努力はしているが、先
いと、ディシプリン研究も進まないのではないかと思う。
生の研究に対するスタンスはあまり変わっていない。も
だから、どの分野でもインターラクションを進めていか
ちろん、全部が変わる必要はなく、ディシプリン研究は
ないといけない。そういう仕掛けを上手く運用できるよ
大事にしなければいけない。しかし、そこにソリューシ
うな仕組みを、国も大学も企業も考えなければならない
ョン研究という考え方が2∼3%でも定着していくことが
と思う。
重要で、その割合が少しずつ増えていくといいと思う。
西村 統合研究院に限らず新しい提案をしようとすれば、
それが90%になったら良くない、30%ぐらいになればい
様々な壁にぶつかると思う。
いと思う。
下田
西村
ンにして解決策をオープンな場で議論し、みんなに評価
日本のドクターはディシプリン研究は得意でも、
政治的・行政的な壁に対しては、問題点をオープ
ソリューション研究は不得手と言われて、これまで企業は
してもらう。もちろん、アイデアを評価できる社会でな
歓迎しなかった。統合研究院はソリューション研究を経
ければならない。大学にはそういったことを評価できる
験したPh.D.を社会に輩出しようとしているのでしょうか。
人材を育てて、社会に送り出していく責任もあると思う。
柊元
柊元
学生は先生の人格よりも、むしろ研究内容やスタ
企業のなかでもテーマが違うと壁が生まれる。と
ンスによって決まると思う。ディシプリン研究だけの先
ころが、あるテーマでは連携が上手くいかなかったのに、
生の下では、先生と同じような研究者になってしまう。
別のテーマでは共同プロジェクトが成功したりする。そ
先生自身の研究のスタンスが変わると、学生の考え方も
れは人による。大企業でも組織を動かしているのは個人
変わると思う。私がソリューション研究に期待している
であり、研究者である場合もある。だから、人の教育は
のも、その点であり、社会と対話ができるような学生が
重要であり、トップに座れるような人材を育てることが
一人でも二人でも人材として育って欲しい。それは大学
大切だと思う。
にとっても企業にとっても望ましいことだ。
西村
西
を終わらせていただきます。ありがとうございました。
企業で戦力となるようなドクターは、ある意味で指
導教授を超えていなければならない。深さで超えようと
すると、タコツボをさらに掘り続けることになるので、2
予定の時間を過ぎましたので、これでパネル討論
(本シンポジウムは、科学技術振興調整費戦略的研究拠点育
成プログラムにより実施されました)
。
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