最適安定マッチング問題に対する新しいアルゴリズムの検討 静岡大学工学部システム工学科 安藤研究室 5071-3085 山田 一樹 2011 年 2 月 18 日 1. はじめに 安定マッチングとは、そのマッチングで対になってい ないペアが、それぞれ現在のパートナーと別れてパート ナーになろうとする動機付けを持たないマッチングであ る。最適安定マッチング問題とは、全ての男女のペアに 対して得点が割り当てられているときに、総得点が最大 になる安定マッチングを求める問題である。本研究の目 的は、最適安定マッチング問題に対する、ラグランジュ 緩和を用いる新しいアルゴリズムを開発することである。 2. 最適安定マッチング n 人の男性と、n 人の女性を考える。各男性 m はすべ ての女性に対して選好順序 <m を持ち、各女性 w はす べての男性に対して選好順序 <w を持つとする。これら の選好順序は完全で厳密かつ推移的であるとする。 男性の集合を M 、女性の集合を W とする。X ⊆ M × W がマッチングであるとは、各 m ∈ M に対し て (m, µX (m)) ∈ X となるような µX (m) ∈ W がただ 女性 w ∈ W が (m, w) ∈ X であるならば xm,w = 1 で あり、そうでない場合は xm,w = 0 である。 (P) に対して、以下のようなラグランジュ緩和問題 (Pλ ) を考える。 X max cm,w xm,w (m,w)∈M ×W X + (m,w)∈M ×W X X λm,w ( xm,j + xi,w + xm,w − 1) (Pλ ) j>m w i>w m X s.t. xm,j ≤ 1 (m ∈ M ), j∈W X xi,w ≤ 1 (w ∈ W ), i∈M xm,w ≥ 0 ((m, w) ∈ M × W ) (Pλ ) は割当問題であるため、ハンガリアンアルゴリズ ムなどによって効率的に解くことができる。(Pλ ) の最 適値を f (λ) とすると、f (λ) の最小値は (P) の最適値と 等しい。また、f の最小値は、劣勾配法で求めることが 一つ存在し、かつ、各 w ∈ W に対して (µX (w), w) ∈ X できる。 となるような µX (w) ∈ M がただ一つ存在することで 4. ある。 (m, w) ∈ / X であるような男性 m と女性 w のペアが、 計算機実験 f (λ) を計算し、劣勾配を求めて λ を逐次変更するア ルゴリズムを C 言語で実装し、最適解へと到達する割合 µX (m) <m w かつ µX (w) <w m であるとき (m, w) を を求めた。その結果、ラグランジュ乗数 λ を変更する方 X のブロッキングペアと呼ぶ。ブロッキングペアが存在 法の違いにより、最適解へと到達できる割合に大きな差 しないようなマッチングを、安定マッチングと呼ぶ。 が観測され、実験した 4 環境のうち 2 つのパターンで、 各ペア (m, w) に対して任意の得点 c(m, w) を割り当 ランダムに生成した全ての問題例で最適解に到達するこ てる写像 c : M × W → R+ を定義する。このとき とが確認された。 P (m,w)∈X c(m, w) を最大化する安定マッチングを最適 さらに、全ての問題例で最適解に到達した 2 つのパ 安定マッチングであるという。 ターンについて、計算時間も計測した。しかしながら、 3. アルゴリズム Roth 等 [2] は、以下の線形計画問題 X max cm,w xm,w (m,w)∈M ×W X s.t. xm,j ≤ 1 (m ∈ M ), j∈W X xi,w ≤ 1 (w ∈ W ), (P) i∈M xm,w ≥ 0 ((m, w) ∈ M × W ), X X − xm,j − xi,w − xm,w ≤ −1 j>m w i>w m ((m, w) ∈ M × W ) の最適値は、常に {0, 1} ベクトル x によって達成され、 そのベクトルが最適安定マッチングの接続ベクトルに他 ならないことを示した。ここで、マッチング X の接続 ベクトル x は、次のように定義される。男性 m ∈ M と Irving 等 [1] に示されたアルゴリズムと比較して、計算 時間が大きすぎる、という結果となった。 5. おわりに アルゴリズムが必ず最適解に到達して終了するという 数学的証明を与えることと、さらに高速化することが、 今後の課題である。 参考文献 [1] R.W. Irving, P. Leather and D. Gusfield: An efficient algorithm for the “optimal” stable marriage. Journal of the ACM 34 (1987) 532–543. [2] A.E. Roth, U.G. Rothblum and J.H. Vande Vate: Stable matchings, optimal assignments, and linear programming. Mathematics of Operations Research 18 (1993) 803–828.
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