職務満足を高めストレスをコーピングする働き方の分析

2005・12
職務満足を高めストレスをコーピングする働き方の分析
栗岡 住子
専門職学位論文
職務満足を高めストレスをコーピングする働き方の分析
神戸大学大学院研究科
現代経営学専攻
平野
光俊
研究室
氏
名
栗岡
住子
目
序章
次
研究の課題と方法 ............................................................................................ 1
第1節 問題意識と研究課題 ................................................................................. 1
第2節 論文の構成 ............................................................................................... 3
第1章 先行研究のレビュー ....................................................................................... 5
第1節 組織とストレス ........................................................................................ 5
第2節 働き方とストレス .................................................................................... 6
第3節 職務満足 .................................................................................................. 9
第4節 対処行動 ................................................................................................. 11
第2章 分析モデルと調査設計 ...................................................................................18
第1節 分析視角の構築 .......................................................................................18
第2節 分析モデルと仮説の構築 .........................................................................18
第3節 分析概念の操作化 ...................................................................................20
第4節 調査方法 .................................................................................................25
第3章 分析次元の構成 .............................................................................................26
第1節 独立変数の次元構成 ................................................................................26
第2節 従属変数の次元構成 ................................................................................27
第3節 モデレーター変数の次元構成 ..................................................................28
第4章 分析結果........................................................................................................30
第1節 集計結果 .................................................................................................30
第2節 仮説の検証 ..............................................................................................34
結章
要約と含意 .....................................................................................................54
第1節 要約と結論 ..............................................................................................54
第2節 理論的含意 ..............................................................................................55
第3節 実践的含意 ..............................................................................................57
第4節 今後の課題 ..............................................................................................58
引用文献 ...................................................................................................................61
序章
研究の課題と方法
第1節 問題意識と研究課題
近年、経済発展や規制緩和、技術革新などの外部環境の変化により、組織は
事業の再構築と製造や業務の効率化、雇用調整などを行い、その結果、仕事は
複 雑・高 度 化 し 、自 律 的 に な る と 同 時 に 、心 身 へ の 負 担 が 増 加 し て い る (Sauter
& Murphy,2003)。こ の よ う な 急 激 な 変 化 は 、多 く の 労 働 者 に 社 会 心 理 的 な 影 響
を及ぼし、自殺の急増や過労死の増加など社会問題を引き起こしている。垂水
(2003)は 、 経 営 施 策 が 従 業 員 に 与 え る 影 響 と し て 、 ス ト レ ス や 生 活 習 慣 の 変 化
をあげている。
ストレスという言葉は、もともと物理学で使われていた概念であったが、ハ
ン ス・セ リ エ が 生 命 体 に 応 用 し 、生 体 へ の 外 的 刺 激 を「 ス ト レ ッ サ ー 」と よ び 、
ス ト レ ッ サ ー に よ り 生 体 に 生 じ る 歪 み を「 ス ト レ ス( 反 応 )」と し た 。ス ト レ ス
の な か で も 、 本 研 究 で 取 り 扱 う 産 業 ス ト レ ス の 定 義 は 、 NIOSH(米 国 国 立 職 業 安
全 保 健 研 究 所:National Institute for Occupational Safety and Health,1999)
によると「仕事の心理的または社会的な特徴や環境によっておきる身体的精神
的 反 応 の こ と で あ り 、特 に 健 康 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る も の 」と し て い る 。
職業性ストレスをモデル化したものが図1である。仕事上のストレッサーと
して、仕事の量や質など仕事の内容や方法によるものや、騒音や有害物質への
暴露などの職場の物理的な環境などがある。このような仕事のストレッサーに
より、労働者は職務満足の低下や抑うつなどの心理的な反応や、事故や欠勤な
ど の 「 急 性 反 応 (急 性 の ス ト レ ス 反 応 )」 が 生 じ る こ と が あ る 。 急 性 反 応 が 継 続
すると慢性反応として、うつ病や心臓病などの「疾病」が起こる。しかし、仕
事のストレッサーと急性反応との間には、反応を緩和したり増強する3つの要
因がある。第1は個人要因としての年齢や性など、第2は仕事外の要因として
家庭の問題など、第3はストレッサーを緩衝する要因として、管理者や同僚、
家族からのサポートがある。
厚 生 労 働 省 が 1982 年 か ら 5 年 毎 に 実 施 し て い る「 労 働 者 の 健 康 状 況 調 査 」
の 2002 年 の 調 査 結 果 で は 、
「 仕 事 や 職 業 生 活 に 関 す る 強 い 不 安・悩 み 、ス ト
レ ス が あ る 」労 働 者 の 割 合 は 、61.5% と 過 半 数 を 占 め る 。そ の 内 容 を み る と
-1-
「 職 場 の 人 間 関 係 の 問 題 」 が 34.1% と 最 も 多 い が 、 次 い で 「 仕 事 の 量 の 問
題 」32.3%「 仕 事 の 質 の 問 題 」30.4% 、「 会 社 の 将 来 性 の 問 題 」29.1% 、「 仕
事 へ の 適 正 の 問 題 」20.2% と「 働 き 方 」に 関 す る ス ト レ ッ サ ー が 多 く を 占 め
る 。 ま た 、 警 視 庁 に よ れ ば 、 2003 年 中 の 自 殺 者 数 は 34,427 人 で あ り 、 労 働
者における自殺者の急増も指摘されている。
年 齢 、性 、婚 姻 、職 位
パーソナリティ等
個人要因
職 務 満 足 の低 下
抑 うつ等
仕 事 のストレッサー
仕 事 の量 ・質
物理的環境
等
図 1
急性反応
疾病
うつ病
仕 事 外 の要 因
緩衝要因
家 庭 や家 族
管 理 者 、同 僚 、
などの問 題
家 族 からの支 援
心臓病等
NIOSH の 職 業 性 ス ト レ ス モ デ ル ( Hurrell& McLaney,1988)
こ れ ら 、近 年 の 労 働 衛 生 上 の 問 題 に 対 し て 、厚 生 労 働 省 か ら 1999 年 に は「 心
理 的 負 荷 に よ る 精 神 障 害 等 に 係 る 業 務 上 外 の 判 断 指 針 」、 2000 年 に は 「 事 業 場
に お け る 労 働 者 の 心 の 健 康 づ く り の た め の 指 針 」、 そ し て 、 2006 年 に は 、 過 労
死予防とメンタルヘルス対策のために、ストレスの高い労働者に対する医師の
面接指導の追加など、安全衛生法の一部法改正が施行される。このように「働
き方」に関わる多様な変化は、一般的には労働者の心身に悪影響を及ぼすと考
え ら れ 、国 や 企 業 は 自 殺 や 過 労 死 予 防 な ど ネ ガ テ ィ ブ な 諸 施 策 を 実 施 し て い る 。
著 者 は 、企 業 の な か で 保 健 師・カ ウ ン セ ラ ー の 立 場 で 12 年 間 、職 場 の メ ン タ
ルヘルス施策に取り組み、その効果として自殺や過労死0人、長期欠勤者減と
いう予防医学的な観点からの実績を得た。しかし、リスクマネジメントとして
-2-
の ネ ガ テ ィ ブ な 施 策 よ り も 、も う 一 歩 進 み 、従 業 員 の ス ト レ ス を コ ー ピ ン グ し 、
職 務 満 足 を 向 上 さ せ る ポ ジ テ ィ ブ な 施 策 と し て 、高 業 績 を 生 む 人 的 資 源 管 理 に 、
メンタルへルス施策が包含されることが望ましいと感じている。このように予
防医学の観点よりも、経営学的な視点でメンタルヘルス施策を考えることで、
企 業 と 従 業 員 、双 方 に と り 、効 果 的 な 施 策 が 実 施 で き る の で は な い か と 考 え た 。
よって、本研究では、働き方の違いによる職務満足度やストレスの差異につ
い て 確 認 し 、職 務 満 足 度 を 高 め ス ト レ ス を コ ー ピ ン グ す る 働 き 方 の 分 析 を 行 い 、
どのような働き方が職務満足度を高め、ストレスコーピングに効果があるかを
確認し、さらに、それに影響を与えるモデレーターの有無と効果についての分
析を加える。分析の結果は、ミクロ的には従業員のメンタルヘルスや、今後の
管 理 者 に 対 す る 部 下 管 理( 具 体 的 に は 、管 理 者 か ら 配 慮 す べ き 部 下 へ 働 き 方 や 、
状況に応じたリーダーシップ行動など)に役立てる。また、マクロ的には、組
織変革の際の戦略的な人的資源管理に役立てることを目的とする。
第2節 論文の構成
本論文は序章、4つの章及び結章から構成される。まず、第1章において、
組織や働き方とストレスや職務満足の関係についての先行研究のレビューを行
い、さらに、その関係に影響を及ぼすソーシャルサポートなどのモデレーター
に関する先行研究のレビューを行う。
第2章では、分析モデルの構築とモデル検証を行うための調査設計を行う。
まず、分析視角を構築して研究目的に沿った分析モデルと仮説の構築を行い、
次に分析概念の操作化を行い、調査設計に沿った調査票を作成する。
第 3 章 で は 、調 査 票 を 用 い た 結 果 を も と に 統 計 的 な 分 析 を 主 体 に 実 証 を 進
め る 。分 析 モ デ ル を 構 成 す る 働 き 方 と 反 応 の 次 元 を 確 定 し 、2 変 数 の 関 係 に
影 響 を 及 ぼ す モ デ レ ー タ ー の 次 元 を 確 定 す る 。具 体 的 に は 、働 き 方 と し て「 職
務 要 求 」と「 自 由 裁 量 」、反 応 と し て「 ス ト レ ス 反 応 」と「 職 務 満 足 」、そ し
て モ デ レ ー タ ー と し て「 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 」
「休暇取得」
「管理者のリーダ
ー シ ッ プ 行 動 」に 対 し て 因 子 分 析 と 抽 出 さ れ た 因 子 の 信 頼 性 分 析 を 行 い 、因
子の妥当性を検証する。
-3-
第 4 章 で は 仮 説 の 検 証 を 行 う 。ま ず 、働 き 方 の 分 類 に よ る ス ト レ ス 反 応 と
職 務 満 足 の 差 異 を 確 認 し 、働 き 方 の 2 変 数 が ど の よ う に ス ト レ ス 反 応 と 職 務
満 足 に 影 響 を 及 ぼ し て い る か を 検 証 す る 。さ ら に 、働 き 方 と 反 応 の 関 係 に ソ
ーシャルサポートなどのモデレーター変数がどのように影響を及ぼしてい
るかを検証する。
結章では、実証分析の結果から導き出される結論をもとに、その理論的含意
および実践的含意を導き出すと同時に、残された課題について展望する。
-4-
第1章 先行研究のレビュー
第1節 組織とストレス
企 業 は 競 争 力 を 高 め る た め に 外 部 環 境 に 合 わ せ 組 織 を 変 化 さ せ る 。そ の 結 果 、
従業員のストレスは高まり、健康へ悪影響を及ぼすと一般的には考えられてい
た 。 し か し 、 Sauter,Lim & Murphy(1996)は 組 織 の 業 績 と 従 業 員 の 健 康 は 相 反 す
るという従来の考え方を否定し、組織の業績は、働く人の健康や職務満足と相
互 作 用 が あ る と し て い る 。 そ し て 、 NIOSH で も 、 健 康 組 織 ( 従 業 員 が 健 康 で あ
り高業績である組織)をつくるには、組織特性(マネジメント・組織風土、経
営 方 針 ) が 重 要 な 要 因 で あ る と い う 「 NIOSH の 健 康 職 場 モ デ ル 」 を 提 唱 し て い
る ( 図 1-1)。
組織特性
組織の健康
マネジメント
業
績
健
康
組織風土
経営方針
図 1-1
NIOSH の 健 康 職 場 モ デ ル
出 所 : Sauter,et al.(1996,p.250)引 用 。
一 方 、 Yerks-Dodson の 法 則 ( Yerks
&
Dodson、1908) で は 、 低 い レ ベ ル の
外的刺激(ストレッサー)であっても、高いレベルの外的刺激であっても、生
産性は低く、中間的なレベルの外的刺激が、最も生産性が高く最適であるとし
た。したがって、適度なストレスや適度な危機的状況の認知は、生産性を高め
るために必要であり望ましいことであるとして、ストレス強度と生産性の関係
を 逆 U 字 型 で 示 し て い る ( 図 1-2)。
-5-
高い
生産性
低い
低い
適性
高い
ストレスレベル
図 1-2
ストレスと組織の成果
出 所:田 尾 (2004)71 頁 を 筆 者 が 一 部 修 正 。
第2節 働き方とストレス
Selye(1976)は 、生 体 学 的 ス ト レ ス を「 体 外 か ら 加 え ら れ た 各 種 の 刺 激 に 応 じ
て、体内に生じた障害と防衛の反応の総和である」と定義し、過剰な刺激は
「 distress( 悪 い ス ト レ ス )」、適 度 な 刺 激 は「 eustress( 良 い ス ト レ ス )」と 分
類 し て お り 、「 ス ト レ ス は 人 生 の ス パ イ ス で あ る 」 と 表 現 し て い る (図 1-3)。
高い
ストレス反応
低い
低い
適性
高い
職務要求
図 1-3
セ リ エ モ デ ル ( after
Levi,1972)
出 所:Karasek& Theorell(1990)91 頁 を 筆 者 が 修 正 。
-6-
こ の よ う に 、適 度 な ス ト レ ス は 、困 難 な 状 況 を 自 ら 工 夫 し 乗 り 越 え る こ と
で 、能 力 を 向 上 さ せ る こ と が で き る だ け で な く 、乗 り 越 え た 後 の 達 成 感 や 開
放 感 は 、 好 ま し い 経 験 で あ る 。 特 に McGregor(1960) 、 Argyris ( 1964 )、
Herzberg(1976)は 仕 事 に よ り モ チ ベ ー シ ョ ン が 向 上 し た り 、自 尊 感 情 が お こ
る こ と 、そ し て 、仕 事 を と お し て 自 己 実 現 が か な う こ と で 満 足 感 を 得 て 、人
間 的 に 成 長 す る こ と が で き る こ と の 重 要 性 を 認 め て い る 。し か し 、過 剰 な 問
題や困難が長期間にわたるような仕事は、個人の力で解決できることなく、
ス ト レ ス 反 応 と し て 疲 労 感 や 絶 望 感 を 感 じ た り 、病 気 や 自 殺 な ど を 引 き 起 こ
す こ と も あ る ( 表 1-1)。
表 1-1
仕事のストレスの原因となる作業内容・職場組織および物理化学的環境
原因となる項目
原因の詳細
作業内容および
① 仕事の負荷が大きすぎる。あるいは少なすぎる。
方法
② 長時間労働である。あるいはなかなか休憩がとれない。
③ 仕事の役割や責任がはっきりしていない。
④ 従業員の技術や技能が活用されていない。
⑤ 繰り返しの多い単純作業ばかりである。
⑥ 従業員に自由度や裁量権がほとんど与えられていない。
職場組織
① 管理者・同僚からの支援や相互の交流がない。
② 職場の意思決定に参加する機会がない。
③ 昇進や将来の技術や知識の獲得について情報がない。
職場の物理化学
① 貴金属や有機溶剤などへの暴露。
的環境
② 好ましくない換気、照明、騒音、温熱。
③ 好ましくない作業レイアウトや人間工学的環境。
出 所 : 川 上 ら (1999)51 頁 を 筆 者 が 一 部 修 正 。
Karasek& Theorell(1990)は 、 仕 事 の ス ト レ ス の 原 因 を 、 ① 作 業 内 容 に よ
る も の 、② 職 場 の 組 織 体 制 に よ る も の 、③ 物 理 化 学 的 な 環 境 に よ る も の に 分
類 し た 。 こ の う ち 、 ① 作 業 内 容 に よ る も の を と り あ げ 、「 職 務 要 求 ( 仕 事 の
質 と 量 の 負 荷 な ど )」、「 自 由 裁 量 ( 仕 事 に 関 す る 裁 量 権 や 自 由 度 )」、 そ し て
-7-
「 職 場 に お け る 管 理 者 や 同 僚 の 支 援 ( 職 場 の 人 間 関 係 )」 の 3 つ の 要 因 が 特
に重要であるとしている。
こ の 仕 事 の ス ト レ ス 原 因 の う ち 、 Karasek(1979)は 「 職 務 要 求 」 と 「 自 由
裁 量 」 の 2 つ の 要 因 を と り だ し 、「 仕 事 の 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」 を 理
論 化 し 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の バ ラ ン ス で 、精 神 的 な 健 康 状 態 を 予 測 し た( 図
1-4)。こ の モ デ ル で は 、職 務 要 求 が 高 く て も 、そ れ に 見 合 う 自 由 裁 量 が 与 え
ら れ て い な い 従 業 員 は 、 High strain-job と い わ れ 、 高 い ス ト レ ス に よ り 、
うつ病などの精神障害の発生率や心筋梗塞などの循環器病の発生率が増加
す る な ど 、心 身 の 健 康 問 題 が お き や す い こ と 実 証 し た 。し か し 、職 務 要 求 が
高 く て も 自 由 裁 量 が 高 い 場 合 に は 、職 務 満 足 が 高 い 状 態 を つ く り だ し 、精 力
的 に 仕 事 を こ な す Active-job の 状 態 を つ く り だ す 。 Active-job の 状 態 は 、
従 業 員 に と っ て は 能 力 を 十 分 に 発 揮 で き る た め 、モ チ ベ ー シ ョ ン が 高 く 、能
力 開 発 や 創 造 性 が 高 い 状 態 で あ り 、な お か つ 心 身 の 状 態 も 健 康 的 で 理 想 的 な
働 き 方 で あ る 。 一 方 、 企 業 側 に と っ て も Active-job は 、 従 業 員 の 能 力 を 十
分 活 用 し 生 産 力 を あ げ 、高 い 職 務 満 足 に よ り 離 職 や 欠 勤 を 減 少 で き る だ け で
なく、保健医療関連支出を抑制できる理想的な状態である。
低
職務要求
高
高
・高 い職 務 満 足
・モチベーション向 上
自由裁量
Low
strain-Job
低
Passive-j ob
Active-job
High strain-j ob
・能 力 開 発 、創 造 性 向 上
・低 い職 務 満 足
・抑 うつ、心 臓 病 発 症
図 1-4
職務要求ー自由裁量モデル
出 所 : Karasek& Theorell(1990) 32 頁 を 著 者 が 一 部 加 筆 。
Active-job は 業 務 負 荷 の 高 い 状 態 で あ り な が ら 、 従 業 員 が あ る 程 度 自 由
さ と 権 限 を も ち 自 分 の ペ ー ス で 仕 事 を 進 め て い け る 、内 発 的 に 動 機 づ け ら れ
-8-
た 状 態 で あ る と 考 え ら れ る 。実 際 、二 村 (2004)は 、責 任 を 持 た さ れ る こ と か
ら く る 有 能 感 や 、裁 量 権 を 委 ね ら れ る こ と か ら く る 自 己 決 定 感 な ど が 、内 発
的 な 動 機 づ け 要 因 で あ る と し て い る 。ま た 、Deci(1980)は 、従 業 員 が 持 つ 有
能 さ( competence)と 自 己 決 定( self-determination)の 感 覚 が 、内 発 的 な
動 機 づ け 要 因 で あ る と し て い る 。 二 村 ( 2004) に よ る 裁 量 権 や Deci(1980)
に よ る 自 己 決 定 権 は 、「 職 務 要 求 - 自 由 裁 量 モ デ ル 」 の 「 自 由 裁 量 」 に 値 す
ると考えられる。
つ ま り 、自 己 を 有 能 で 自 己 決 定 的 で あ る と 感 じ て い る 人 は 内 発 的 に 動 機 づ
け ら れ た 行 動 を と っ て い る の で あ り 、更 な る 有 能 さ と 自 己 決 定 の 感 覚 を 求 め
て 意 欲 を 燃 や し 努 力 を 投 ず る の で あ る( 二 村 、2004)。し た が っ て 、自 己 を 有
能で自己決定的であると感じている人は職務要求-自由裁量モデルでいう、
Active-job の 状 態 で あ る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 Deci(1980)は 、 職 務 の 環 境
や特徴という刺激入力をうけても、自由裁量が高い者は自己決定感を感じ、
自己が目標を選択し、それを行動に移したと感じ満足感を得るとしている。
し た が っ て 、自 由 裁 量 が 高 い こ と は 、職 務 満 足 度 を 高 め 、ス ト レ ス を 低 減 す
る効果があると考えられる。
以 上 、組 織 と ス ト レ ス の 関 係 や 、働 き 方 と ス ト レ ス の 関 係 に つ い て の 先 行
研 究 の レ ビ ュ ー を 行 っ た 。先 行 研 究 で は 、一 般 的 に は「 ス ト レ ス は 人 間 に と
り 必 ず し も 悪 い も の で は な く 、適 度 な ス ト レ ス で あ れ ば 、人 間 的 な 成 長 な ど
メ リ ッ ト も あ る 」と い わ れ て い る 。し か し 、適 度 な ス ト レ ス の レ ベ ル は 個 人
要 因 な ど 様 々 な 条 件 に よ り 異 な る た め 、理 想 的 な ス ト レ ス レ ベ ル を 明 確 に 決
め る こ と は 困 難 で あ る 。 し た が っ て 、 本 研 究 で は 、「 ス ト レ ス 反 応 は 、 低 い
レ ベ ル が 望 ま し い レ ベ ル で あ り 、逆 に 高 い レ ベ ル は 望 ま し く な い レ ベ ル 」と
いう前提で本研究を進める。
第3節 職務満足
Locke(1976)は 職 務 満 足 を 「 仕 事 や 仕 事 に お け る 経 験 に つ い て の 評 価 か ら
生 じ て く る 喜 ば し い 感 情 ま た は 肯 定 的 な 感 情 で あ る 」と 定 義 し て お り 、職 務
満足は仕事だけでなく組織に対する態度も含めた感情であると考えられて
-9-
い る 。職 務 満 足 の 要 因 は 、組 織 そ の も の の 文 化 や 方 針 、人 事 制 度 や 勤 務 制 度
と い っ た 組 織 制 度 、働 き 方 、職 場 の 人 間 関 係 、給 与 、処 遇 な ど 、仕 事 や 職 場
の条件など欲求の充足に影響するものすべてが職務満足の要因となりえる。
Locke(1976)は 職 務 満 足 に 影 響 を 与 え る 代 表 的 な 要 因 と し て 働 き 方 、 マ ネ ジ
メント、給与、職務環境などの状況要因をあげている。
Herzberg(1976)は 、 2 要 因 理 論 と し て 、 職 務 の 満 足 ・ 不 満 足 を 2 次 元 で 考
え た ( 表 1-2)。 職 務 の 満 足 を 高 め る が 、 低 く て も 不 満 に は な ら な い 要 因 を
「 動 機 づ け 要 因 」と し 、職 務 の 不 満 足 を 高 め る が 、そ れ が 高 く て も 満 足 を 高
め る こ と に は な ら な い 要 因 を「 衛 生 要 因 」と し た 。し た が っ て 、従 業 員 の 職
務 満 足 度 を 高 め る た め に は 、従 業 員 の 動 機 づ け 要 因 を 充 足 さ せ る よ う に 、職
務 内 容 に 配 慮 し た 職 務 を 再 設 計 し た り 、管 理 者 が 仕 事 の 与 え 方 や 承 認 の 仕 方
などに配慮することが、満足感を向上させると考えられている。
表 1-2
動 機 づ け ー 衛 生 理 論 に お け る 職 務 要 因 の 分 類 ( Herzberg,1976)
職務要因
測定内容
【動機づけ要因】
仕事の達成
仕事から得られる達成感
仕事の成果の承認
組織の人間の承認、仕事の正当な評価
仕事自体
自律性、多様性、挑戦性、重要性、フィードバック
責任
重要かつ責任のある仕事の内容
仕事による成長
仕事を通じた自己成長、将来性
【衛生要因】
経営方針と管理
会社組織のマネジメント、昇進、昇格制度
監督技術
組織上層部の指示や運営方針
給与
給与、福利厚生
人間関係
同僚や管理者との仕事を通じた関係
作業条件
休日、休暇、労働時間、職場の設備
出 所:松 本・木 下・太 田・安 達・音 山・古 屋 (1999)49 頁 を 筆 者 が 一 部 修 正 。
- 10 -
Vroom(1964)は 職 務 満 足 の 決 定 要 因 に は 、 部 下 に 配 慮 的 で 意 思 決 定 の 参 加
す る 機 会 を 提 供 す る マ ネ ジ メ ン ト と 、同 じ 目 標 を 持 つ 同 僚 と の 相 互 作 用 の 機
会 が 多 い 作 業 集 団 、様 々 な 刺 激 が 得 ら れ る よ う 職 務 や 作 業 方 法 や ペ ー ス を 自
分 で コ ン ト ロ ー ル で き る 仕 事 、高 賃 金 、実 質 的 な 昇 進 機 会 、作 業 時 間 に よ る
レジャー時間の制約の少なさがあることを調査により明らかにしている。
以 上 よ り 、仕 事 の 自 律 性 や 、周 囲 の 承 認 、意 思 決 定 へ の 参 加 な ど が 職 務 満
足 を 高 め る 要 因 で あ る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 Vroom(1964)の 「 作 業 時 間 に よ
る レ ジ ャ ー 時 間 の 制 約 の 少 な さ 」と い う 要 因 か ら 、休 暇 取 得 も 職 務 満 足 を 向
上 さ せ る 1 つ の 要 因 だ と 考 え ら れ る 。休 暇 に 関 し て は 、Herzberg(1976)の 2
要因理論では衛生要因であり、職務満足を高める要因ではないとしており、
矛 盾 が あ る が 、本 研 究 で は 休 暇 取 得 は 職 務 満 足 を 高 め る 要 因 で あ る と し て 研
究を進める。
第4節 対処行動
第1項 コーピング
コ ー ピ ン グ (coping)と は 、何 ら か の 問 題 状 況 に 対 し て 、そ れ を 解 決 し よ う
と し た り 、予 防 し よ う と し た り 、あ る い は 避 け よ う と す る よ う な 行 動 と 定 義
さ れ る (田 尾 ,2004)。Folkman & Lazarus(1980 )に よ れ ば 、コ ー ピ ン グ に は 、
問 題 焦 点 型 と 情 動 焦 点 型 が あ り 、問 題 焦 点 型 は 、原 因 の 除 去 に 努 め る コ ー ピ
ン グ 方 略 で あ り 、情 動 焦 点 型 は 自 分 の 気 持 ち を 意 識 的 に 変 え よ う と す る コ ー
ピ ン グ 方 略 で あ る 。 そ し て 、 認 知 -対 処 モ デ ル ( Folkman & Lazarus,1984)
は 、ス ト レ ス フ ル な 出 来 事 そ の も の よ り も 、そ れ を ど の よ う に 解 釈 す る か が
問 題 で あ る と 指 摘 し て い る 。Billings & Moos(1981)は ラ ザ ル ス ら の 枠 組 み
に 評 価 中 心 型 (Appraisal focused)の 対 処 行 動 に 加 え 、 対 処 行 動 を 大 き く 3
つ に 分 け た ( 表 1-3)。
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表 1-3
コ ー ピ ン グ の 分 類 ( Billings & Moos,1981:田 尾 , 2001)
対処行動の種類
具体例
問 題 中 心 型
情報探索
専門家や友人に相談する
対処行動
(Information seeking)
関係者の意見を聞く
問題解決
問題解決のために積極的に行動
(Problem solving)
す る 。関 係 者 間 の 利 害 を 調 整 す る
情 動 中 心 型
気持ちの調整
問題を悲観的に受け取らない
対処行動
(Affection regulation) し ば ら く 問 題 を 放 置 し て お く
気持ちの発散
怒りや不満を他人にぶちまける
(Emotional discharge)
飲 酒 、喫 煙 な ど で 緊 張 を 和 ら げ る
評 価 中 心 型
客観的な分析
問題を多様な観点からとらえな
対処行動
(Logical analysis)
おす
こ れ ら の コ ー ピ ン グ 対 処 行 動 は 、気 持 ち の 調 整 な ど 個 人 で も 可 能 な 行 動 も
あ る が 、職 場 の 同 僚 や 管 理 者 な ど の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が あ れ ば 、そ の 効 果
をさらに高めると考えられる。特に問題中心型や評価中心型の対処行動は、
協 力( ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト )な く て は で き な い 行 動 で あ る 。ま た 、問 題 対 処
のための時間を確保したり、気持ちの整理や調整を行うためには休暇取得
( 休 養 )も 必 要 で あ る 。さ ら に 、第 2 節 で 述 べ た よ う に 、ス ト レ ス を 低 下 さ
せるには、職務要求と自由裁量のバランスも重要であると考えられる。
以 下 、本 研 究 で は コ ー ピ ン グ と し て 、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト と 休 暇 取 得 、管
理者のリーダーシップ行動をあげ、先行研究のレビューを行う。
第2項
ソーシャルサポート
ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 定 義 は さ ま ざ ま な も の が あ る が 、Cobb(1976)は「 そ
の 人 に と り 自 分 が ケ ア さ れ 、愛 さ れ て い る 、あ る い は 尊 重 さ れ 、価 値 の あ る
も の と み な さ れ て い る 、相 互 的 な 責 務 を 持 っ た ネ ッ ト ワ ー ク 成 員 で あ る と 信
じ さ せ る 情 報 」 と し て い る 。 ま た 、 House(1981)は 、 仕 事 の ス ト レ ス に お け
る ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト を 産 業 精 神 衛 生 の 立 場 か ら の 4 つ に 分 類 し て い る( 表
1-4)。
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表 1-4
ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 分 類 ( House,1981)
種
類
内
容
情緒的サポート
同 感 や 共 感 、配 慮 、信 頼 な ど 、人 と 人 の 情 緒 的
( emotional support)
な結びつきを強化するような支持
道具的なサポート
仕 事 を 手 伝 っ た り 、お 金 を 貸 し て く れ る な ど の
(instrumental support)
直接的な行為
情報的なサポート
専門的な知識など有益な情報を伝えて助ける
(informational support)
ような支持
評価的なサポート
意 見 に 賛 成 し た り 、仕 事 ぶ り を 認 め る な ど 、そ
(appraisal support)
の人の考えや好意を評価するような支持
第 1 に 情 緒 的 な サ ポ ー ト と し て 、人 間 同 士 の 情 緒 的 な 交 流 を 通 じ て 強 化 さ
れ る 同 感 や 共 感 、信 頼 な ど の 支 持 、第 2 に 、道 具 的 な サ ポ ー ト と し て 、仕 事
を 手 伝 う こ と や お 金 を 貸 す な ど 物 理 的・直 接 的 な 行 為 に よ る 支 援 、第 3 に 情
報的なサポートとして、専門知識や有益な情報などを提供する支援。第 4
に は 評 価 的 な サ ポ ー ト と し て 、仕 事 を 承 認 し た り 、そ の 人 の 考 え を 好 意 的 に
評 価 す る な ど の 支 持 で あ る 。こ れ ら の 4 つ の サ ポ ー ト は ス ト レ ス 反 応 に 対 し
て モ デ レ ー タ ー 効 果 を 発 揮 す る の で 、こ れ ら の サ ポ ー ト を 多 く 調 達 で き る 人
ほ ど 、ま た 、こ れ ら の サ ポ ー ト を 調 達 で き る よ う な ネ ッ ト ワ ー ク の な か に い
る人ほどストレスをうまくコーピングできる。
Greller & Parsons(1992)は 、 組 織 か ら の フ イ ー ド バ ッ ク が あ る と ス ト レ
ス 反 応 が 減 る こ と 確 認 し た 。 ま た 、 Russell, et al.(1987)が 行 っ た 調 査 で
は 、管 理 者 の サ ポ ー ト が あ れ ば 、情 緒 的 消 耗 感 、脱 人 格 化 を 減 ら し 、個 人 的
達 成 感 を 増 す こ と が 明 ら か に さ れ た 。ま た 、Karasek & Theorell( 1990)は 、
職 場 で の 管 理 者 や 同 僚 の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は 、業 務 の 負 担 感 を 軽 減 し ス ト
レス反応を緩和するとしている。
し か し 、 Marshall & Cooper(1979)に よ れ ば 、 特 に 技 術 職 や 研 究 職 に と っ
て 、職 場 の 人 間 関 係 や 上 司 の 支 援 は 些 細 な つ ま ら な い こ と で あ っ た り 時 間 の
ロ ス 、ま た は 仕 事 の 障 害 に な る と 受 け と め ら れ る 理 由 で ス ト レ ス を 高 め る と
している。
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以 上 の こ と か ら 、精 神 的 な サ ポ ー ト で あ っ て と し て も 物 理 的 な サ ポ ー ト で
あ っ て も 、そ れ を よ り 多 く 調 達 で き る 人 が ス ト レ ス を 低 下 さ せ る こ と が で き 、
特 に 仕 事 の ス ト レ ス に 関 し て い え ば 、職 場 の 管 理 者 や 同 僚 に よ る サ ポ ー ト が
重 要 な モ デ レ ー タ ー で あ る と 考 え ら れ る 。し か し 、職 種 に よ っ て は サ ポ ー ト
が逆にストレスを高めるモデレーターである可能性も考慮する必要がある。
第3項 休暇取得
厚生労働省の過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会の報告書
と し て 、2002 年 2 月 に「 過 重 労 働 に よ る 健 康 障 害 防 止 の た め の 総 合 対 策 」が 示
さ れ た 。そ の な か で 過 重 労 働 防 止 の た め に 事 業 者 が 講 ず べ き 措 置 の ひ と つ に「 年
次 有 給 休 暇 の 取 得 促 進 」 が あ げ ら れ て い る 。 一 方 、 Tarumi & Hagihara( 2002)
は、製造業のホワイトカラーを対象に、休暇取得や、帰宅後のくつろぎ感、土
日のくつろぎ感が、従業員のストレス反応にどのように影響を及ぼしているか
調査を行い、4 日以上の連続した休暇を取得することや帰宅後のくつろぎ感が
ス ト レ ス を 低 下 さ せ る 効 果 が あ る こ と を 実 証 し た 。ま た 、Vroom( 1964)は 休 暇
取得は職務満足を高めるとしている。以上のことより、休暇取得はストレスコ
ーピングに効果的であると考えられる。
第4項 リーダーシップ
リ ー ダ ー シ ッ プ に 関 し て は 多 く の 研 究 が 存 在 す る が 、そ の な か で も 、リ ー
ダ ー 行 動 を 構 造 づ く り( タ ス ク 指 向 )と 配 慮( 人 間 指 向 )の 2 次 元 に 整 理 し
て い る リ ー ダ ー シ ッ プ の 二 次 元 論 が あ る 。そ の う ち 三 隅 (1966)の P M 理 論 に
よ れ ば 、集 団 機 能 は 、課 題 解 決 な い し は 目 標 達 成 に 関 す る 機 能( performance
function , P 機 能 ) と 、 集 団 の 存 続 や 維 持 に 関 す る 機 能 ( maintenance
function,M 機 能 ) に よ り 成 り 立 っ て お り 、 P と M 機 能 の い ず れ も 高 い リ ー
ダ ー の 下 で 働 く 部 下 は 、業 績 と 満 足 度 が 高 ま る 可 能 性 が あ る こ と が わ か っ た
( 図 1-5)。 し か し 、 三 隅 の 理 論 を は じ め 、 リ ー ダ ー シ ッ プ の 二 次 元 論 は 、
必ずしも理論どおりの結果が得られなかった。
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高
M( 集 団 維 持 )機 能
pM
PM
pm
Pm
低
低
図 1-5
P(目標達成)機能
高
P M 理 論 の 2 つ の 次 元 と 4 つ の リ ー ダ ー シ ッ プ ( 三 隅 、1966)
House(1971)は 、リ ー ダ ー シ ッ プ の 二 次 元 論 を も と に 、パ ス・ゴ ー ル 理 論 を 開
発した。この理論は、リーダー行動とその結果の関係性に、2 種類の条件適合
変数を提案した。条件適合変数を補うためにリーダーの行動は、その状況に応
じて可変的であり、支持型、支援型、参加型、達成志向型のリーダー行動を使
い分けることで、そのリーダー行動は部下に受け入れられる。つまり、従業員
( フ ォ ロ ワ ー )あ る い は 、業 務 環 境 に 欠 け て い る も の を リ ー ダ ー が 補 完 す れ ば 、
従業員の業績と満足度は上昇する可能性が高い。
2 種類の条件適合変数の 1 群は、リーダーシップの支配権の範囲外にあるタ
スク構築、公式の権限体系などであり、もう 1 群は、部下の個人的特徴として
ローカス・オブ・コントロールや経験などである。仕事が構造化されルーティ
ンワークが多い職場では仕事中心のリーダーは必要がなく、タスクが構造化さ
れるほど集団に所属する人々は仕事そのものから満足が得にくくなるため、リ
ー ダ ー は 人 間 関 係 の 維 持 と い う 支 援 型 リ ー ダ ー が 必 要 に な る ( 図 1-6)。
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環境的条件即応要因
●タ ス ク 構 造
●公式の権限体系
● ワ ー ク ・グ ル ー プ
リーダーの行 動
結果
● 指示的
● 業績
● 支援的
● 満足度
● 参加型
● 達成志向型
部 下 の条 件 即 応 要 因
● ローカス・オブ・コントロール
● 経験
● 認 知 された能 力
図 1-6
パス・ゴールモデル
出 所:Stephen(1997;高 木 訳 ,1999)227 頁 を 引 用 。
一 方 、 Hersey &
Blanchard (1969)は 、 リ ー ダ ー シ ッ プ ・ ス タ イ ル が 効 果
的であるか否かはフォロワーの成熟度に関係するとしたSL(状況対応:
Situational Leadership) 理 論 を 提 唱 し た 。 S L 理 論 で は 、部 下 の 課 題 達 成
の た め の 成 熟 度 が 高 く な る に つ れ 、リ ー ダ ー は 指 示 的 行 動 を 減 じ て い き 、あ
わせて協労指向行動を増していくことが必要であるとされている。
Likert( 1967)は 、組 織 の 諸 特 性( リ ー ダ ー シ ッ プ 、組 織 内 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ
ン な ど )を 互 い に 連 関 し た シ ス テ ム と し て 、4 つ に 分 類 し た 。4 つ の 分 類 の う ち 、
業績、職務満足、職場集団の活性化の程度において、最も優れていたのが参加
型 の マ ネ ジ メ ン ト タ イ プ で あ っ た ( 表 1-4)。
以 上 の 理 論 か ら 、管 理 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ ス タ イ ル や 組 織 の マ ネ ジ メ ン ト
ス タ イ ル に よ り 、従 業 員 の 職 務 満 足 や ス ト レ ス 反 応 が 影 響 を 受 け る こ と を 確
認した。
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表 1-4
マ ネ ジ メ ン ト ・ シ ス テ ム 論 ( Likert,1967)
マネジメントタイプ
独善的専制型
特
徴
管理者の命令が全て、恐怖・懲罰による管理、管理
者と部下の相互作用はなし
温情的専制型
ある程度の権限委譲はあるが、多くの場合は管理者
が決断。部下には恐怖と警戒心
相談型
ある程度部下を信用し、基本方針は管理者、個別問
題は部下、管理者と部下の相互作用も頻繁
参加型
部下を全面的に信用・組織全体で意思決定、コミュ
ニケーション・相互作用活発
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第2章 分析モデルと調査設計
第1節 分析視角の構築
本研究の目的は、働き方(職務要求と自由裁量度)が、反応(職務満足度と
ストレス反応)にどのような影響を与えるかという直接的な関係を分析するこ
とである。加えて、ソーシャルサポートや管理者のリーダーシップ、社員の休
暇取得指向が、働き方と反応の関係にモデレーターとして影響を与えるか否か
について分析することである。
Karasek& Theorell(1990)は 、職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル の な か で 、職 務 要 求
が高くても、自由裁量が高い場合は、社員の職務満足度が高く、能力を向上さ
せることができることを確認している。そして、職務要求―自由裁量―支援モ
デ ル の な か で は 、 例 え 職 務 要 求 が 高 く 、 自 由 裁 量 が 低 く 、 High strain-job に
なりやすい状態であっても、職場の管理者や同僚の支援により、ストレスがコ
ーピングされ職務満足も向上することを確認している。
そ し て 、House( 1981)は 、情 緒 的 な サ ポ ー ト や 道 具 的 な サ ポ ー ト な ど 4 つ の
サポートを示し、それらのサポートが仕事のストレスを低下させることを確認
し た 。 さ ら に 、 二 村 ( 2004) や Deci( 1980) は 個 人 が 持 つ 有 能 感 や 自 己 決 定 の
感覚が、適度なチャレンジを求めて困難を乗り越えて仕事を進める動機づけの
要因となることを確認している。このような仕事に対する前向きな姿勢は、職
務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル の Active-job と 同 じ 状 態 で あ る と 考 え ら れ る 。
し た が っ て 、本 研 究 で は 、最 も 職 務 満 足 度 が 高 い と 予 測 さ れ る 職 務 要 求 -自 由
裁 量 モ デ ル の Active-job の 状 態 と 、他 の 状 態 と を 比 較 し て 、働 き 方 の 分 類 に よ
る特徴を明確にする。そして、職務要求と自由裁量の2つの働き方が、職務満
足やストレス反応にどのように影響を与え、また、ソーシャルサポートや管理
者のリーダーシップなどがモデレーターとしてどのように機能するかについて
分析する。
第2節 分析モデルと仮説の構築
外 部 環 境 の 変 化 に よ り 、組 織 は 変 革 し 、そ れ に よ っ て 、社 員 は 働 き 方 が 変
化 す る 。変 化 し た 働 き 方 は 、社 員 の ス ト レ ス 反 応 や 職 務 満 足 の 変 化 と い う 反
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応 と し て 現 れ る 。し か し な が ら 、そ の 反 応 は 、働 き 方 だ け に 規 定 さ れ ず 、社
員 を 取 り 巻 く 人 た ち か ら 受 け る ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト や 、休 暇 取 得 、管 理 者 の
リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 な ど に よ っ て も 影 響 を 受 け る と 推 測 さ れ る 。そ こ で 、本
研究では、この 3 つの要因をモデレーター変数とすることにした。
し た が っ て 本 研 究 の 分 析 モ デ ル は 、働 き 方 が 反 応 を 規 定 す る 程 度 を 確 認 し 、
そ の 程 度 に 、モ デ レ ー タ ー が ど の よ う に 影 響 を 及 ぼ す の か を 明 ら か に す る た
め に 、 図 2-1 の 分 析 モ デ ル を 構 築 し た 。
反応
働き方
・職務要求
・自由裁量
モデレーター
・ス ト レ ス 反 応
・職 務 満 足
・ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト
・休 暇 取 得
・管 理 者 の リーダーシップ行 動
図 2-1
分析モデル
仮 説 は 、3 つ の 仮 説 と し た 。ま ず 、仮 説 1 と し て 働 き 方 を 、Karasek の「 職
務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」に よ り 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 高 低 に よ り 4 分 類
し 、 理 想 的 な 働 き 方 と す る Active-job と 、 他 の 働 き 方 を 比 較 し 、 そ の 特 徴
を 明 確 に す る 。そ し て 、仮 説 2 で は 、働 き 方 の 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 2 変 数
が 、ス ト レ ス と 職 務 満 足 に ど の よ う に 影 響 を 与 え る か に つ い て 、過 去 の 研 究
結 果 と 比 較 す る 。そ し て 、仮 説 3 で は 、働 き 方 と 反 応 の 関 係 に 、ど の モ デ レ
ーターがどのように影響を与えるかについて分析する。
仮説1
職務要求―自由裁量権モデルにおける働き方区分により、ストレス
反応と職務満足は異なる。
仮説2
働き方(職務要求と自由裁量)がストレス反応と職務満足を規定す
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る。
仮説3
働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度は、モデレーター
の影響を受ける。
第3節 分析概念の操作化
第1項
働き方
本 研 究 で は 、 働 き 方 の 把 握 に つ い て は 、 Karasek の 「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 ―
支援」モデルを用いて旧厚生省作業関連疾患調査研究班が開発した職業性スト
レ ス 簡 易 調 査 12 項 目 版 ( 下 光 ,横 山 ,大 野 ,1998) の 働 き 方 に 関 す る 質 問 6 項 目
を 使 用 し た (表 2-1)。 こ の 調 査 票 は 質 問 数 も 6 問 で あ り 調 査 対 象 者 の 負 担 感 が
少ない。
表 2-1
ストレッサーのインディケータ
質
問
41.非 常 に た く さ ん の 仕 事 を し な け れ ば な ら な い
42.時 間 内 に 仕 事 が 処 理 し き れ な い
43.仕 事 は ハ ー ド だ
44.自 分 の ペ ー ス で 仕 事 が で き る
45.自 分 で 仕 事 の 順 番 ・ や り 方 を 決 め る 事 が で き る
46.職 場 の 仕 事 の 方 針 に 自 分 の 意 見 を 反 映 で き る
原 谷 ・ 川 上 (1999)は 、 こ の 調 査 票 は 、 社 員 の ス ト レ ス 反 応 と と も に 多 様 な 職
業要因の影響を調べることができ、予防対策の優先順位を決める資料として活
用 で き る と し て い る 。ま た 、著 者 は 調 査 対 象 の A 社 で 、1991 年 か ら こ の 調 査 票
を度々利用し、管理者へのフィードバックに用いるなど、その実践的な価値が
確 認 で き て い た ( 栗 岡 ,2005)。
選 択 肢 は 、前 半 の 業 務 量 と 裁 量 権 に 関 す る 6 つ の 質 問 に 関 し て は 、
「 1.そ
う だ 」「 2. ま あ そ う だ 」「 3. や や 違 う 」「 4.違 う 」 の 4 件 法 の リ ッ カ ー ト ス
ケールを設定した。
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第2項 ストレス反応
ストレスに関する測定尺度は様々であるが、本研究は、ストレス反応を測定
す る こ と を 目 的 と し て お り 、 こ れ を 測 定 す る た め の 尺 度 と し て 1972 年 に
Goldberg ら が 開 発 し た General Health Questionnaire(精 神 健 康 調 査 票 、略 称 :
G H Q )を 用 い た 。 日 本 版 G H Q 手 引 き ( 中 川 ・ 大 坊 ,1985) に よ れ ば 、 G H Q
は、神経症症状の発見や把握を主たる目的とするほか、うつや緊張を伴った疾
患 性 な ど 、精 神 的 な 健 康 度 を 測 る 質 問 紙 と し て 世 界 各 国 で よ く 用 い ら れ て い る 。
また、数々の研究によってその因子構造が年齢や性別によって変化しないこと
も示唆されている。
表 2-2
ストレス反応のインディケータ
質
問
21.何 か を す る 時 い つ も よ り 集 中 し て
22.心 配 事 が あ っ て よ く 眠 れ な い よ う な こ と は
23.い つ も よ り 自 分 の し て い る こ と に 生 き が い を 感 じ る こ と が
24.い つ も よ り 容 易 に 物 事 を 決 め る こ と が
25.継 続 し た ス ト レ ス を 感 じ た こ と が
26.問 題 を 解 決 で き な く て 困 っ た こ と が
27.い つ も よ り 問 題 が あ っ た 時 に 、 積 極 的 に 解 決 し よ う と す る こ と が
28.い つ も よ り 気 が 重 く て 憂 う つ に な る こ と は
29.自 信 を 失 っ た こ と は
30.自分は役に立たない人間だと考えたことは
31.一般的に見て、幸せといつもより感じたことは
32.ノ イ ロ ー ゼ 気 味 で 何 も す る こ と が で き な い と 考 え た こ と は
G H Q は 60 項 目 で 構 成 さ れ て い る が 、30,28,20,12 項 目 の 短 縮 版 が あ る 、本
研 究 で は 、回 答 者 の 負 担 感 を 考 慮 し 12 項 目 の 短 縮 版 を 使 用 し た 。ま た 、G H Q
は 、S D S( 抑 う つ 度 測 定 尺 度 )や C M I 健 康 調 査( 身 体 的 、精 神 的 自 覚 症 状 の
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調査)よりも、回答者が質問項目に対して心理的抵抗を感じないというメリッ
トがあるため、GHQを採用した。
選 択 肢 は 、 質 問 項 目 に よ り 複 数 パ タ ー ン の 4 つ の 選 択 肢 が あ り 、「 1.で き た 」
「 2.い つ も と 変 わ ら な か っ た 」「 3.い つ も よ り で き な か っ た 」「 4.全 く で き な か
っ た 」 や 、「 1.全 く な か っ た 」「 2.余 り な か っ た 」「 3.あ っ た 」「 4.た び た び あ っ
た 」、ま た 、
「 1.あ っ た 」
「 2.い つ も と 変 わ ら な か っ た 」
「 3.な か っ た 」
「 4.全 く な
かった」と多様であるが、全て 4 件法のリッカートスケールを設定した。
第3項
職務満足
田 中 (1998) は 、 Warr,Cook & Wall(1979) が 職 業 生 活 の 質 ( Quality of
Working Life)に 関 連 す る 尺 度 作 成 の 一 環 と し て 開 発 し た「 全 体 的 職 務 満 足
感 」及 び「 個 々 の 職 場 環 境 に 対 す る 満 足 感 」を 職 務 満 足 の 構 成 因 と し て 捉 え
た う え で 精 神 的 健 康 度 と の 関 連 を 明 ら か に し て い る 。そ の な か で 、精 神 的 健
康 度 に 対 し て は 、特 に 全 体 的 職 務 満 足 感 が 強 く 影 響 を 与 え て い る こ と を 明 ら
か に し て い る 。 し た が っ て 、 今 回 の 調 査 で の 職 務 満 足 の 尺 度 は 田 中 (1998)
の 全 体 的 職 務 満 足 感 の う ち か ら 、因 子 負 荷 量 の 高 い 2 項 目 を 採 用 し 、調 査 対
象 者 の 1/4 が 技 術 職 と い う 観 点 か ら 、「 個 々 の 職 場 環 境 に 環 境 に 対 す る 満 足
感」から能力発揮への満足感のうち最も因子負荷量の高い 1 項目、合計 3
項 目 を 採 用 し た 。 回 答 は 、「 1.そ う 思 う 」「 2.ま あ そ う 思 う 」「 3.あ ま り そ う
思 わ な い 」「 4.そ う 思 わ な い 」 の 4 件 法 の リ ッ カ ー ト ス ケ ー ル を 設 定 し た 。
表 2-3
職務満足のインディケータ
質
問
11.現 在 の 職 場 に 満 足 し て い ま す か
12.現 在 の 仕 事 の 内 容 に 満 足 し て い ま す か
13.現 在 の 仕 事 は 自 分 の 能 力 ( 判 断 力 や 問 題 解 決 能 力
等)を発揮することができ満足していますか
第4項
ソーシャルサポート
本研究では、職場におけるソーシャルサポートを測定することを目的として
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い る た め 、 Karasek の 「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 ― 支 援 」 モ デ ル を 用 い て 旧 厚 生 省
作 業 関 連 疾 患 調 査 研 究 班 が 開 発 し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査 12 項 目 版 ( 下 光
他 ,1998)の サ ポ ー ト に 関 す る 質 問 6 項 目 を 使 用 し た 。こ の 質 問 項 目 は 、管 理 者
や同僚との話しやすさや、仕事の支援、情緒的なサポートについて質問してお
り 、 House( 1981) の 情 緒 的 ・ 道 具 的 ・ 情 報 的 な サ ポ ー ト に 近 い と 考 え ら れ る 。
この調査票は、質問数も 6 問であり調査対象者の負担感が少ないという理由
で 採 用 し た 。回 答 は「 1.非 常 に 」
「 2.か な り 」
「 3.多 少 」
「 4.全 く な い 」の 4 件 法
のリッカートスケールを設定した。
表 2-4
ソーシャルサポートのインディケータ
質
問
次の人達とはどの程度気軽に話せますか
47.管 理 者
48.職 場 の 同 僚
あなたが仕事で困った時、次の人達は、
49.管 理 者
どの程度頼りになりますか
50.職 場 の 同 僚
あなたの個人的な問題を相談したら、
51.管 理 者
次の人達はどのくらい聞いてくれますか
52.職 場 の 同 僚
第5項
休暇取得
Tarumi & Hagihara( 2002) が 、 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ に 効 果 が あ る と し て い
る「4 日以上の連続した休暇」について、年間に何回程度を取得したか、その
実 績 に つ い て の 質 問 項 目 を 加 え た 。回 答 は「 1.な か っ た 」「 2.1 回 く ら い 」「 3.2
回 く ら い 」「 4.3 回 く ら い 」「 5.4 回 以 上 」 の 5 つ の 選 択 肢 を 設 定 し た 。
表 2-5
休暇取得のインディケータ
5.こ の 1 年 間 に 4 日 以 上 連 続 し た 休 暇 を 何 回 く ら い と り ま し た か ?
第6項 リーダーシップ
リーダーシップとは、人間の集団的努力を喚起して集団の目的を効果的に達
成していくためにリーダーが集団成員に対して行使する対人的な影響力と定義
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さ れ る 。 各 職 場 の 管 理 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ に 関 し て は 、 三 隅 (1966)の P M 理 論
に 沿 っ て イ ン タ ビ ュ ー 項 目 を 作 成 し 、管 理 職 1 人 あ た り 、30 分 の 時 間 を 取 り イ
ンタビューを行った。通常、リーダーシップ行動の調査は部下に対して実施す
るが、インタビュー前に、すでに社員に対してはソーシャルサポートとして、
管理者と同僚の支援について調査済みであった。したがって、今回は、管理者
行動を管理者に自己評価してもらうためにインタビュー項目を作成した。
表 2-6
リーダーシップ行動のインディケータ
評 価 は 、 質 問 項 目 毎 に 対 す る 管 理 者 の 自 己 評 価 で 「 1.非 常 に 弱 い 」「 2.弱 い 」
「 3.ど ち ら で も な い 」「 4.や や 強 い 」「 5.非 常 に 強 い 」 と 5 件 法 の リ ッ カ ー ト ス
ケールを設定した。
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第4節 調査方法
第1項
調査対象企業と選定理由
本 研 究 に お け る 調 査 対 象 企 業 A 社 と B 社 は 、近 年 、事 業 の 再 構 築 や 業 務 の
効率化、雇用調整などを行い、業務が高度・複雑化している。したがって、
心身への負担が増加していると思われるホワイトカラーであることから調
査対象企業に選定した。
第2項
調査対象者
調 査 対 象 は ホ ワ イ ト カ ラ ー の 正 社 員 で あ り 、 営 業 職 が 45.3%、 技 術 職 が
25.7%、事 務 職 が 9.1%、で あ る 。男 女 の 比 率 は 7: 3 で 、男 性 202 人 、女 性
96 人 、合 計 298 人 で あ る 。ま た 、イ ン タ ビ ュ ー 対 象 の 課 長 職 は 32 名 と し た 。
第3項
調査票の構成
調 査 票 は 、4 つ の セ ク シ ョ ン か ら な る 全 37 問 の 質 問 項 目 の 構 成 と な っ た 。そ
し て イ ン タ ビ ュ ー 項 目 に 関 し て は 18 項 目 と し た 。
第4項
調査の実施と研究方法
調 査 実 施 は 、 2004 年 に A 、 B 社 で 行 っ た 。 調 査 票 の 配 布 は 職 場 毎 に 配 布 し 、
各職場で社員ひとりずつに手渡された。社員は、自記式質問票に記入し、期日
に密封型の回収箱に、各自投入してもらうかたちで回収した。
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第3章 分析次元の構成
本章では、前章の考え方により作成した調査票と、インタビュー項目による
結果が、調査設計時に意図したとおりの次元を構成しているかについて、因子
分析(主因子法、バリマックス回転)を用いた統計的解析ならびに信頼性分析
により検証する。
第1節 独立変数の次元構成
働き方の構成因子
働 き 方 に つ い て は 、Karasek の 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル の 2 つ の 次 元 で
ある職務要求と自由裁量に関する質問項目 6 問を使用し、採点方法は、
1-2-3-4 と す る リ カ ー ト 法 を 採 用 し た 。質 問 項 目 6 問 を 因 子 分 析( 主 因 子 法 、
バ リ マ ッ ク ス 回 転 )し た 結 果 、モ デ ル ど お り 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 2 因 子 に
分 か れ (表 3-1)、各 因 子 の α 係 数 は 、職 務 要 求 .84、自 由 裁 量 .74 と 高 い 信 頼
性 を 得 た ( 表 3-2)。
表 3-1
働き方の因子分析結果(バリマックス回転後の因子負荷量)
表 3-2
働き方の構成因子と信頼性分析結果
- 26 -
第2節 従属変数の次元構成
第1項 ストレス反応の構成因子
G H Q 質 問 紙 作 成 に お い て は 、 Veroff,Feld
& Gurin(1962)の 研 究 に 基 づ い
て項目を作成しており、不幸・心理的障害・社会的適応障害・自信(精神的、
身体的)の欠如、の 4 因子を抽出している。しかし、本研究では、仕事のスト
レッサーに対する全体的な反応を測定することを目的としているため、因子毎
の分析はせず、GHQ総合点を 1 因子として取り扱った。
採 点 方 法 は 、 0-1-2-3 と す る リ カ ー ト 法 と 、 0-0-1-1 と す る G H Q 法 が あ
る 。G H Q 法 で は 情 報 量 が 減 っ て し ま う が 、両 極 端 あ る い は 中 間 に 回 答 が 偏
り が ち な 人 の 反 応 の 影 響 を 除 く こ と が で き る と し て 、Goldberg(1972)は G H
Q法を勧めており、本研究でもGHQ法を採用して分析した。
信 頼 性 分 析 に つ い て は 表 3-3 に 示 す と お り 、 G H Q 12 項 目 を 1 因 子 と し
て α 係 数 を 求 め た と こ ろ .81 と 高 い 信 頼 性 を 得 た 。
表 3-3
ストレス反応(GHQ調査票)の信頼性分析結果
第2項 職務満足の構成因子
職 務 満 足 は 、田 中 (1998)が 開 発 し た「 全 体 的 職 務 満 足 感 」の う ち 2 項 目 と 、
「 個 々 の 職 場 環 境 に 対 す る 満 足 感 」 の う ち 「 能 力 発 揮 へ の 満 足 感 」1 項 目 を
加 え た 3 項 目 を 使 用 し 、採 点 方 法 は 、1-2-3-4 と す る リ カ ー ト 法 を 採 用 し た 。
信 頼 性 分 析 を 行 っ た 結 果 、表 3-4 に 示 す と お り 、職 務 満 足 3 項 目 を 1 因 子 と
し て α 係 数 を 求 め た と こ ろ .86 と 高 い 信 頼 性 を 得 た 。
表 3-4
全体的職務満足の信頼性分析結果
- 27 -
第3節 モデレーター変数の次元構成
本節では、モデレーターとして、ソーシャルサポート、休暇取得、管理者の
リーダーシップ行動の構成因子を説明する。
第1項 ソーシャルサポートの構成因子
職 場 の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト に 関 し て は 、Karasek の「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量
― 支 援 」モ デ ル を 用 い て 旧 厚 生 省「 作 業 関 連 疾 患 予 防 に 関 す る 研 究 」が 開 発
し た 職 業 性 ス ト レ ス 簡 易 調 査( 下 光・原 谷 ,2000)を 使 用 し た 。採 点 方 法 は 、
1-2-3-4 と す る リ カ ー ト 法 を 採 用 し た 。 信 頼 性 分 析 の 結 果 に つ い て は 表 3-5
に 示 す と お り 、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 6 項 目 を 1 因 子 と し て α 係 数 を 求 め た と
こ ろ .89 と 高 い 信 頼 性 を 得 た 。
表 3-5
ソーシャルサポートの信頼性分析結果
第2項 休暇取得の構成因子
Tarumi & Hagihara( 2002) が 、 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ に 効 果 が あ る と し て い
る、4 日以上の連続した休暇を、実際に取得した回数を分析に加えた。採点方
法 は 、「 1.な か っ た 」 1 点 、「 2.1 回 く ら い 」 2 点 、「 3.2 回 く ら い 」 3 点 、「 4.3
回 く ら い 」4 点 、
「 5.4 回 以 上 」5 点 と し た 、1-2-3-4-5 と す る リ カ ー ト 法 を 採 用
した。
第3項 リーダーシップ行動の構成因子
リーダーシップ行動に関しては、三隅のPM理論に沿ってインタビュー項目
を 作 成 し 、著 者 が 管 理 者 1 人 あ た り 3 0 分 イ ン タ ビ ュ ー を 行 っ た 。な お 、10 月
に実施したインタビューの際には、管理者が担当する部下全員の、8 月に実施
した健康診断と質問紙調査結果の平均値(健康状態、ストレス反応や職務満足
- 28 -
度、業務負荷や自由裁量、ソーシャルサポートの程度など)を社内の平均値と
比較して説明した後に、インタビューを行った。
評 価 は 、質 問 項 目 毎 に 対 す る 管 理 者 の 自 己 評 価 で「 非 常 に 弱 い 」1 点 、
「弱い」
2 点、
「 ど ち ら で も な い 」3 点 、
「 や や 強 い 」4 点 、
「 非 常 に 強 い 」5 点 と 分 類 し た 。
採 点 は 1-2-3-4-5 と す る リ カ ー ト 法 を 採 用 し た 。
リーダーシップ行動の因子分析結果(バリマックス回転後の因子負荷量)
は 表 3-6 に 示 す と お り 、パ フ ォ ー マ ン ス 、メ ン テ ナ ン ス 、参 画 型 リ ー ダ ー シ
ッ プ に 分 か れ 、 各 因 子 の α 係 数 は 、 パ フ ォ ー マ ン ス .88、 メ ン テ ナ ン ス .81、
参 画 型 リ ー ダ ー シ ッ プ .82、 と 高 い 信 頼 性 を 得 た ( 表 3-7)。
表 3-6
リ ー ダ ー シ ッ プ の 因 子 分 析 結 果( バ リ マ ッ ク ス 回 転 後 の 因 子 負 荷 量 )
表 3-7
リーダーシップの構成因子と信頼性分析結果
- 29 -
第4章 分析結果
本章の目的は、第2章で示した仮説を検証することであるが、それに先立ち
第1節では、アンケートの単純集計結果から、設定した因子毎について概観を
行う。次に、第2節において統計的分析手法を用いて、働き方が反応に影響を
与える程度と、職務満足と反応との関係に影響を与えるモデレーターとしてソ
ーシャルサポート、休暇取得、管理者のリーダーシップ行動についての分析を
行 い 、質 問 紙 調 査 と 管 理 者 へ の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 を 合 わ せ て 仮 説 の 検 証 を 行 う 。
第1節 集計結果
調 査 表 配 布 数 298 枚 の う ち 回 収 し た 調 査 票 は 298 名 で あ っ た 。( 回 収 率
100% )。 対 象 者 の 性 別 は 、 A 社 で は 男 性 が 148 人 ( 66.7% )、 女 性 は 74 人
( 33.3%)、 合 計 222 人 、 B 社 で は 、 男 性 54 人 (71.1%)、 女 性 22 人 (28.9%)、
合 計 76 人 で あ っ た ( 表 4-1)。 年 齢 の 分 布 は 表 4-2 の と お り で あ っ た 。
表 4-1
性別の分布状況
男性
女性
総計
A社
148
74
222
B社
54
22
76
総計
202
96
298
分 析 対 象 の 年 齢 分 布 は 、A 社 男 性 で は 25 歳 か ら 66 歳 で 平 均 年 齢 は 42.4 歳( 標
準 偏 差 8.8 歳 )、女 性 は 27 歳 か ら 56 歳 で 平 均 年 齢 は 40.7 歳( 標 準 偏 差 7.5 歳 )
で あ っ た 。 一 方 B 社 男 性 で は 29 歳 か ら 64 歳 で 平 均 年 齢 は 50.1 歳 ( 標 準 偏 差
9.7 歳 )、 女 性 で は 28 歳 か ら 55 歳 で 平 均 年 齢 は 39.0 歳 ( 標 準 偏 差 9.0 歳 ) で
あ り 、 そ の 内 訳 は 表 4-2 と お り で あ る 。
- 30 -
表 4-2
20~ 29
30~ 39
年齢の分布状況
40~ 49
50~ 59
平均年齢
標準偏差
A社
男性
5
63
39
41
42.4
8.8
A社
女性
5
32
27
10
40.7
7.5
B社
男性
2
9
6
37
50.1
9.7
B社
女性
3
11
3
5
39.0
9.0
人数総計
15
115
75
93
-
-
調 査 対 象 者 を Karasek の 「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」 に も と づ き 、 働 き 方
を 第 1 章 の 図 1-3 の 4 つ に 分 類 し た 。 分 類 方 法 は 、 職 務 要 求 、 自 由 裁 量 の 各 変
数の3つの質問項目の合計を算出し、その中央値で高低を分けた。この分類に
よ り 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 と も 高 い 社 員 は Active-job、職 務 要 求 が 高 く 自 由 裁
量 が 低 い 社 員 は High strain-job、 職 務 要 求 が 低 く 自 由 裁 量 が 高 い 社 員 は Low
strain-job、そ し て 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 と も 低 い 社 員 は Passive-job と し た( 表
4-3、 図 4-1)。
表 4-3
A社男性
A社女性
B社男性
B社女性
調査対象全体の働き方による分類
High Strain-Job
Active-Job
Low Strain-Job
Passive-Job
全体
人数
%
人数
%
人数
%
人数
%
人数
42
28.4
53
35.8
40
27.0
13
8.8
148
11
14.9
24
10.8
74
32.4
8.8
41.9
100
13
24.1
8
14.8
21
38.9
12
22.2
54
4
18.2
0
0
7
31.8
11
50.0
22
- 31 -
%
100.0
100.0
100.0
100.0
(%)
60
50
50
40
42
36
32
2827
30
32
24 22
20
9
10
39
15
11
18
15
Active-Job
High Strain-Job
Low Strain-Job
Passive-Job
0
0
A社男性
A社女性
図 4-1
B社男性
B社女性
調査対象全体の働き方による分類
そ の 結 果 、会 社 と 性 別 の 違 い に よ る 働 き 方 の 分 類 を み る と 、High strain-job
は A 社 男 性 で は 42 人 (28.4%)女 性 11 人 (14.9%)、 B 社 男 性 で は 13 人 (24.1%)女
性 13 人 (18.2%)、 Active-job は A 社 男 性 で は 53 人 (35.8% )女 性 8 人 (10.8%)、
B 社 男 性 で は 8 人 (14.8%)女 性 0 人 (0%)、 Low strain-job は A 社 男 性 で は 40 人
(27.0% )女 性 24 人 (32.4%)、 B 社 男 性 で は 21 人 (39.0%)
女 性 7 人 (31.8%)、
Passive-job は A 社 男 性 で は 13 人 (8.8% )女 性 31 人 (41.9%)、 B 社 男 性 で は 12
人 (22.2%)
女 性 11 人 (50.0%)で あ っ た 。
したがって、A社とそのB社、また性別によっても職務要求や自由裁量の程
度 が 異 な る た め 、 今 回 の 分 析 対 象 は 、 A 社 の 男 性 148 人 と す る 。
分 析 対 象 の A 社 男 性 は 25 歳 か ら 59 歳 で 平 均 42.4 歳( 標 準 偏 差 8.8 歳 )で 、
そ の 内 訳 は 職 種 別 の 内 訳 と 管 理 者 別 の 内 訳 は 表 4-4 と 4-5 の と お り で あ る 。 職
種 の 分 類 で は 営 業 職 が 最 も 多 く 67 人( 45.3% )、つ い で 事 務 職 43 人( 29.1%)、
技 術 職 38 人 ( 25.7%) で あ っ た 。
表 4-4
A社男性の職種の分布
- 32 -
ま た 、 A 社 で 「 管 理 職 」 と 呼 ば れ る 参 事 以 上 の 職 位 の も の は 72 人 ( 48.6%)
と約半数を占める。なお、この管理職は部下を持たない者も多いため、本研究
では部下を持つ「管理者」と分けて使用する。
表 4-5
A社男性の管理職と非管理職
表 4-6 は 分 析 対 象 で あ る A 社 男 性 の 、 各 変 数 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 で あ る 。 デ
ータの比較をしやすいように、リッカート法で採点した各変数の合計点を質問
項目数で割り、1 項目の平均値等を算出した。なおストレス反応に関しては、
12 項 目 の 質 問 全 体 の 合 計 点 に よ り 反 応 を 測 定 す る た め 、G H Q 法 で 採 点 し た 12
項 目 の 合 計 点 を 示 し た 。 表 4-7 は 変 数 間 の 相 関 で あ る 。
表 4-6
各変数の平均値と標準偏差
表 4-7
変数間相関
- 33 -
回 収 し た 調 査 票 と イ ン タ ビ ュ ー 結 果 の 分 析 は 、コ ン ピ ュ ー タ に よ り 統 計 汎
用 パ ッ ケ ー ジ SPSS を 使 用 し て 、主 と し て バ リ マ ッ ク ス 回 転 に よ る 因 子 分 析 、
信 頼 性 分 析 、 Bonferroni 検 定 、 階 層 的 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。
第2節 仮説の検証
第1項 仮説1
仮説1
働き方による反応の差異
職務要求―自由裁量モデルにおける働き方区分により、ストレス反
応と職務満足は異なる。
仮説 1 では、働き方の違いによる職務満足度やストレスの差異について確認
す る こ と を 目 的 と し て 、 働 き 方 を Karasek の 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル に も と
づ き 4 つ に 分 け 、理 想 的 な 働 き 方 と 考 え ら れ る Active-job を 中 心 に 、他 の 働 き
方と比較して、ストレス反応と職務満足の違いを確認する目的で、仮説を設定
すると、以下のようになる。
仮説1a
職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 権 モ デ ル に お け る Active-job の 状 態 で は 、他
の状態と比較して職務満足が最も高い。
仮説1b
職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 権 モ デ ル に お け る High strain-job の 状 態 で
は、他の状態と比較してストレスが最も高い。
仮 説 検 証 の 前 に 、A 社 男 性 148 人 を 、Karasek の 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 権 モ
デ ル に も と づ き 、 High strain-job 、 Active-job 、 Low
strain-job 、
Passive-job の 4 つ に 分 類 し た 結 果 を 示 す 。A 社 男 性 の 働 き 方 は 、Active-job
が 最 も 多 く 53 人 ( 35.8%)、 次 い で High strain-job 42 人 ( 28.4%)、 Low
strain-job40 人 ( 27.0%)、 Passive-job13 人 ( 8.8%) で あ っ た ( 表 4-7)。
- 34 -
表 4-8
A社男性の働き方の分類とその人数
以 下 、仮 説 検 証 を 行 う 。ま ず 、仮 説 1 a に つ い て 検 証 す る 。A 社 男 性 の 働
き 方 区 分( 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 権 モ デ ル に よ る 4 分 類 )毎 の 諸 変 数 の 平 均 値
を 比 較 す る た め 、分 散 分 析 を 行 い 、働 き 方 区 分 別 の 変 数 の 多 重 比 較 に 関 し て
は Bonferroni 検 定 を 用 い た 。 そ の 結 果 は 表 4-9 の と お り で あ っ た 。
表 4-9
働き方の区分と諸変数分散分析
ま ず 、仮 説 1 a を 検 証 す る 。職 務 満 足 の 平 均 点 は 、Active-job
3.21、次
に Low strain-job
3.10、 High strain-job
2.99、 そ し て 、 最 も 低 か っ
た の が Passive-job
2.74 で あ っ た 。よ っ て 、仮 説 1 a の「 職 務 要 求 ― 自 由
裁 量 権 モ デ ル に お け る Active-job の 状 態 で は 、 他 の 状 態 と 比 較 し て 職 務 満
足が最も高い」は採択された。
次 に 仮 説 1 b を 検 証 す る 。 ス ト レ ス 反 応 の 平 均 は 、 High strain-job
- 35 -
3.67
で あ っ た が 、Passive-job は そ れ よ り 高 く 3.85 で あ り 、他 の 2 分 類( Active-job
1.83、 Low strain-job1.55) と 比 較 し て 、 最 も 高 か っ た 。 よ っ て 、 仮 説 2 b の
「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 権 モ デ ル に お け る High strain-job の 状 態 で は 、 他 の 状
態と比較してストレスが最も高い」は棄却された。
過去の多くの研究では、社員に適度なストレスがあることが能力を高め、
企 業 の 生 産 性 も 高 め る Active-job が 支 持 さ れ て お り 、逆 に 、労 働 衛 生 分 野
で は 、う つ 病 や 過 労 死 な ど の ハ イ リ ス ク 者 と し て High strain-job が 労 働 衛
生上の配慮が必要な社員として注目されている。
し か し 、分 析 の 結 果 で は 、従 来 の 仕 事 の 負 荷 が 少 な く 問 題 の あ る カ テ ゴ リ
ー と し て 注 目 さ れ て こ な か っ た Passive-job が 、 High strain-job と 同 レ ベ
ル の 高 い ス ト レ ス 反 応 と 、 High strain-job よ り も 低 い 職 務 満 足 を 有 し て い
る と い う 結 果 で あ り 、High strain-job と 同 じ く メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 を 必 要
とするハイリスクグループであることが示唆された。したがって、
Passive-job に 対 し て も 、ス ト レ ス コ ー ピ ン グ や 職 務 満 足 を 高 め る リ ー ダ ー
シップなどが必要であることが考えられる。
さ ら に 、 自 由 裁 量 は 同 レ ベ ル で あ る に も 関 わ ら ず 、 業 務 負 荷 が 高 い High
strain-job よ り も 、Passive-job の ほ う が 職 務 満 足 が 低 い 結 果 で あ っ た 。こ
の 点 を 考 慮 す れ ば 、Passive-job の 社 員 に は 、現 状 よ り 業 務 量 を 増 や す よ う
な業務配分が必要だと考えられる。
休 暇 取 得 に 関 し て は 、Passive-job2.46 と 最 も 少 な く 、他 の 3 分 類 は 、High
strain-job 3.02、 Active-job2.94、 Low strain-job2.98 と 有 意 な 差 は な か
った。
以 上 の こ と よ り 、社 員 に と っ て は 職 務 要 求 が 高 い( あ る 程 度 忙 し い )方 が
職 務 満 足 が 高 く 、 ま た 年 齢 が 高 い 人 ( 40 歳 後 半 ) に と っ て は 、 自 由 裁 量 が
高いほうが、ストレスが低く職務満足が高い。
第2項 仮説2
仮説2
働き方と反応の関係
働き方(職務要求と自由裁量)がストレス反応と職務満足を規定す
る。
- 36 -
仮 説 2 の 働 き 方 に 、 Karasek の 「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」 に も と づ き 職
務要求と自由裁量の 2 変数をあてはめ、各変数がどのようにストレス反応と職
務満足を規定するかを確認する仮説として、次の 2 つを設定した。
仮説2a
職務要求が高くても自由裁量権が同時に高い場合は、ストレス反
応は低くなる。
仮説2b
職務要求が高くても自由裁量権が同時に高い場合は、職務満足度
は高くなる。
まず、仮説2aについて検証するために、働き方の 2 変数とその交互作用を
投 入 し 階 層 的 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、表 4-10 の モ デ ル 2 か ら モ デ ル 3
へのモデレーター効果があった。モデル3の結果では、ストレス反応に対する
主 効 果 と し て 職 務 要 求 は .67(1% 水 準 で 有 意 )で あ っ た が 、 自 由 裁 量 は 主 効 果 が
み ら れ な か っ た 。し か し 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 交 互 効 果 は -.60(1%水 準 で 有 意 )
で あ っ た( 図 4-2)。す な わ ち 職 務 要 求 だ け が 高 い 場 合 は 、ス ト レ ス 反 応 を 高 く
するが、職務要求と自由裁量が同時に高い場合はストレスが下がるとういう結
果であり、ストレス反応に関しては仮説2aが採択された。
表 4-10
ストレス反応に影響を与える働き方の分析結果
このような結果から、仕事の量や質などの負荷が高まったとしても、その仕
- 37 -
事の量や質に見合った自由裁量があると感じている社員はストレスを低下させ
る 効 果 が あ る 。仕 事 上 の 自 由 裁 量 を Deci( 1980)の 内 発 的 動 機 づ け の「 自 己 決
定の感覚」に近い感覚であるという認識のもとに解釈すると、自由裁量が高い
と感じている社員は、内発的に動機づけられ、適度なチャレンジを求める。そ
して、仕事に積極的に取り組み制覇したり、また新しい困難な課題に取り組む
こ と で 、自 己 の 有 能 さ を 肯 定 し ス ト レ ス を 低 下 さ せ る 効 果 が あ る と 考 え ら れ る 。
職務要求
.67
**
-.60
自由裁量
**
ストレス反応
-.00
数値は標準化係数β *p<.05、 **p<.01 ***p<.001
図 4-2
ストレス反応に影響を与える働き方の分析結果
次 に 、仮 説 2 b を 検 証 す る た め に 、働 き 方 の 2 変 数 と そ の 交 互 作 用 を 投 入
し 階 層 的 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 表 4-11 モ デ ル 2 で 、 職 務 満 足 に
対 す る 主 効 果 と し て 、職 務 要 求 が .17( 1%水 準 )自 由 裁 量 が .44(0.1% 水 準 で
有 意 )が あ っ た も の の 、モ デ ル 2 か ら モ デ ル 3 へ の モ デ レ ー タ ー 効 果 は 低 く 、
職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 交 互 効 果 は み ら れ な か っ た 。す な わ ち 、職 務 要 求 と 自
由 裁 量 が 高 い と 職 務 満 足 を 上 げ る 主 効 果 が あ る が 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 が 同
時 に 高 い 場 合 は 職 務 満 足 に 影 響 を 与 え な い た め 、職 務 満 足 に 関 し て は 仮 説 2
bは棄却された。
- 38 -
表 4-11
職務満足に影響を与える働き方の分析結果
以上の結果より、ストレス反応に対しては、働き方の影響を受けることが確
認できたが、職務満足に関しては働き方 2 変数の効果はなかったものの、自由
裁量の主効果が確認できた。
第3項 仮説3
仮説3
働き方と反応に影響するモデレーター
働 き 方 (職 務 要 求 と 自 由 裁 量 )が ス ト レ ス 反 応 や 職 務 満 足 を 規 定 す る
程度は、モデレータの影響を受ける。
仮説 3 のモデレーターとして、ソーシャルサポートと休暇取得、管理者のリ
ー ダ ー シ ッ プ 行 動 を あ げ 、働 き 方 が ス ト レ ス 反 応 と 職 務 満 足 に 規 定 す る 程 度 に 、
モデレーターがどのように影響するかを推測し仮説3a~3cを設定した。
仮説3a
働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度は、ソーシャル
サポートの影響を受ける。
仮説3b
働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度は、休暇取得の
影響を受ける。
仮説3c
働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度は、管理者のリ
ーダーシップ行動の影響を受ける。
- 39 -
ま ず 、仮 説 3 a に つ い て 検 証 す る 。表 4-12 は 、ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る
働き方の 2 変数とソーシャルサポート、そして、働き方とソーシャルサポート
の交互効果をみたものである。その結果、モデル 3 から 4 へモデレータ効果が
あ っ た 。モ デ ル 4 で は 、ス ト レ ス 反 応 に 対 す る 主 効 果 と し て 、自 由 裁 量 は -1.67
( 0.1%水 準 で 有 意 )、 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は -1.45( 0.1%水 準 で 有 意 ) と ス ト レ
ス反応を低下させる効果があった。そして、自由裁量とソーシャルサポートの
交 互 効 果 は 2.09( 0.1% 水 準 で 有 意 ) で あ っ た 。 し か し 、 職 務 要 求 と ソ ー シ ャ
ルサポートに関しては有意な交互効果はみられなかった。
すなわち、自由裁量とソーシャルサポートは、単独ではストレス反応を低下
させる効果があるが、自由裁量とソーシャルサポートが同時に高い場合は、逆
にストレス反応を高くする交互効果があった。これは、自由裁量の主効果だけ
で十分にストレスをコーピングできる社員にとり、ソーシャルサポートが加わ
ることで、逆にストレス反応を高くする影響があると解釈できる。同様に、ソ
ーシャルサポートの主効果だけで、十分ストレス反応を低下させることができ
る社員にとり、自由裁量が加わることで、逆にストレス反応を高くするという
影響があると解釈できる。したがって、仮説3aのうちストレス反応に関して
はソーシャルサポートの影響を受けるため「働き方がストレス反応を規定する
程度は、ソーシャルサポートの影響を受ける」は採択された。
表 4-12
ストレス反応に影響する働き方とソーシャルサポートの分析結果
- 40 -
自由裁量
-1.67***
2.09***
ソーシャルサポート
ストレス反応
-1.45***
数値は標準化係数β *p<.05、 **p<.01 ***p<.001
図 4-3
ストレス反応に影響する自由裁量とソーシャルサポートの分析結果
以 上 の こ と か ら 、分 析 対 象 の A 社 男 性 の う ち 、自 由 裁 量 が 高 く ソ ー シ ャ ル
サ ポ ー ト が 高 い と 感 じ て い る 社 員 19 名 の 職 種 を 確 認 す る と 8 人( 42.0%)が
技 術 職 で あ り 、 分 析 対 象 の 技 術 職 の 割 合 25.7% よ り 有 意 (5% 水 準 ) に 高 い 。
Marshall & Cooper(1979)に よ れ ば 、 特 に 技 術 職 や 研 究 職 に と っ て 、 職 場 の
人 間 関 係 や 上 司 の 支 援 は 些 細 な つ ま ら な い こ と や 時 間 の ロ ス 、ま た は 仕 事 の
障 害 に な る と い う 理 由 で ス ト レ ス を 高 め る と し て い る と し て お り 、本 研 究 で
の自由裁量が高くソーシャルサポートが高いと感じている社員も同様の理
由でストレスが高くなっていることが推測できる。
実際にA社社員にインタビューを行うと、近年、技術職の専門分野が細分化
さ れ て お り 、キ ャ リ ア の あ る 管 理 者 で あ っ て も 、
「部下の専門分野の指導ができ
な い 」、ま た 部 下 は「 適 切 な 指 導 を し て も ら え な い 」と い う 意 見 が あ り 、こ の デ
ータを裏付けるものであると考えられる。
一方、自由裁量の高い社員にとっては、自分自身で計画を立て、計画に沿っ
て、ある程度自由にマイペースで仕事を進めることが、ストレスを低下させる
効果があると推測できる。そして、そのような状態であれば、職場の管理者や
同僚があれこれとサポートすることは、単なる“おせっかい”と感じるだけで
なく、自分の自由裁量権を侵害されると危惧してしまい、その結果ストレスを
高めてしまう状況も推測される。
ま た 、自 由 裁 量 が 高 い 社 員 は 、あ る 程 度 高 い 職 位 に あ る た め 、管 理 者 や 同 僚 の
サポートなどを期待していないので、期待以外のサポートを不快に感じること
もあることも考えられる。さらに、職位の高いこと自体が、自己の能力を肯定
したり自己効力感を生みだし、そのことがストレスを低下させる効果があるこ
- 41 -
とも考えられる。
ま た 、今 回 分 析 対 象 と し な か っ た B 社 の ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 働 き
方 の 2 変 数 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 、そ し て 働 き 方 の 2 変 数 と ソ ー シ ャ ル サ ポ
ートの交互効果を分析しA社と比較したところ違いがみられた。
表 4-13 は 、 B 社 社 員 の ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 働 き 方 の 2 変 数 と ソ
ー シ ャ ル サ ポ ー ト 、そ し て 、働 き 方 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 交 互 効 果 を み た
も の で あ る 。そ の 結 果 、モ デ ル 3 か ら 4 へ モ デ レ ー タ ー 効 果 が あ っ た 。モ デ
ル 4 で は 、 ス ト レ ス 反 応 に 対 す る 主 効 果 と し て 、 職 務 要 求 は 1.34( 1%水 準
で 有 意 )、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は .95( 5%水 準 で 有 意 )と ス ト レ ス 反 応 を 高 め
る 効 果 が あ っ た 。そ し て 、職 務 要 求 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 交 互 効 果 は -1.07
( 5% 水 準 で 有 意 )、 自 由 裁 量 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 交 互 効 果 は -1.06( 5%
水準で有意)であった。
し た が っ て 、B 社 で は 、職 務 要 求 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が 高 い 場 合 は 、ス
ト レ ス 反 応 を 高 め る が 、職 務 要 求 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が 同 時 に 高 い 場 合 や
自 由 裁 量 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が 同 時 に 高 い 場 合 は 、ス ト レ ス 反 応 を 低 下 さ
せ る 結 果 で あ り 、A 社 と は 逆 の 結 果 と な っ た 。こ れ は 、A 社 と B 社 で は 、ソ
ーシャルサポートに対する認識や必要性に差がみられることが考えられる。
な お 、ス ト レ ス 反 応 に 関 し て は 仮 説 3 a が 採 択 さ れ た が 、職 務 満 足 に 関 し
て は 有 意 な 交 互 効 果 が み ら れ ず 棄 却 さ れ た (表 4-14)。
表 4-13
ストレス反応に影響する働き方とソーシャルサポート(B 社)
- 42 -
表 4-14
職務満足に影響する働き方とソーシャルサポート
次に、仮説3b「働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度は、休暇
取 得 の 影 響 を 受 け る 」を 検 証 す る 。表 4-15 は 、ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 働
き方の 2 変数と休暇取得の主効果、そして、職務要求と休暇取得の交互効果を
みたものである。その結果、モデル 3 から 4 へモデレーター効果があった。モ
デ ル 4 で は 、ス ト レ ス 反 応 に 対 す る 主 効 果 と し て 、職 務 要 求 は .42、自 由 裁 量 は
-.70( 0.1%水 準 で 有 意 )、 休 暇 取 得 は -1.45( 0.1%水 準 で 有 意 ) で あ り 、 自 由 裁
量や休暇取得はストレス反応を高める主効果があった。職務要求と休暇取得の
交 互 効 果 は -.56 で あ り 、自 由 裁 量 と 休 暇 取 得 の 交 互 効 果 は .88( 5%水 準 で 有 意 )
であった。したがって、休暇取得は自由裁量が高い人にとっては逆にストレス
反応を高める効果があると解釈できる。なお、職務満足に関しては働き方と休
暇 取 得 の 交 互 効 果 は み ら な か っ た (表 4-16)。
したがって、ストレス反応に関しては3bの仮説は採択されたが、職務満足
に関しては採択されなかった。
表 4-15
ストレス反応に影響する働き方と休暇取得の分析結果
- 43 -
表 4-16
職務満足に影響する働き方と休暇取得の分析結果
自由裁量
-.70***
-.88*
休暇取得
ストレス反応
-1.45***
数値は標準化係数β *p<.05、 **p<.01 ***p<.001
図 4-4
ストレス反応に影響する自由裁量と休暇取得の分析結果
すなわち、すでに自由裁量が高い社員にとり、休暇をとることは逆にストレ
ス反応を高くする影響があると考えられる。実際、A社で自由裁量の高い中高
年 男 性 に イ ン タ ビ ュ ー を 行 う と 「 休 日 は や る こ と が な い の で 出 勤 す る 。」「 週 末
は 2 日も自宅にいるのは耐えられないので、土曜日か日曜日のどちらかは出勤
す る 。」と い う 意 見 が あ り 、こ の デ ー タ を 裏 付 け ら れ る も の で あ る と 考 え ら れ る 。
Deci(1980)や 二 村 (2004)に よ れ ば 、 裁 量 権 を 委 ね ら れ る こ と か ら く る 自 己 決
定感が、内発的な動機づけ要因であるとしているように、自由裁量が高い社員
は、自主的に、むしろ楽しんで仕事をこなす傾向がある。そのため、自由裁量
の高い社員は休暇を取得しなくても十分ストレスがコーピングされている状態
である。したがって、休暇を取得するまでもなく仕事の調整がしやすく、ふだ
んの仕事のなかで休日を取得するのと同様な効果(仕事が楽しい、ストレス解
消効果、リラクゼーションなど)が得られることが考えられる。
一方で、自由裁量の高い社員にとり休暇取得がストレス反応を高めるという
- 44 -
結 果 は 、仕 事 以 外 の こ と に 興 味 を 示 さ ず 仕 事 の み に 没 頭 し て し ま う 仕 事 依 存 症 1
(仕事中毒)のリスクも含んでいる。自由裁量が高く職位も高い社員は、仕事
にやりがいを感じ、自己実現も達成できるため、仕事を重視するあまり休日出
勤や残業もいとわず働く可能性がある。それだけでなく、企業が人員削減や事
業再編などが行うことにより、仕事依存症の社員が仕事を奪われることがあっ
た り 、努 力 し て も 仕 事 の 成 果 が で な い 場 合 は 、バ ー ン ア ウ ト 2 を お こ し 、う つ 病
や自殺のリスクがある。また、仕事依存症は家族不和などの個人的な問題も引
き起こす可能性がある。
NIOSH(1999) は 仕 事 の ス ト レ ス 反 応 を 軽 減 す る こ と が で き る 条 件 の 一 つ と し
て「仕事と家庭や個人の生活のバランス」をあげており、仕事の充実感を感じ
る社員であっても、自ら休暇を取得することなどで、仕事と個人の生活のバラ
ンスを維持することが大切である。
仮 説 3 c に つ い て 検 証 す る 前 に 、 三 隅 ( 1966) の リ ー ダ ー シ ッ プ の 2 次 元 論
にもとづき、PM型のリーダーシップ行動が、他の 3 つのリーダーシップ行動
(Pm型、pM型、pm型)と比較して、職務満足を高めストレスを低下させ
る効果が高いかを確認した。その結果、4つのリーダーシップ行動の間で有意
な差が認められなかったため、本研究では、PM理論の 2 軸であるパフォーマ
ンス機能とメンテナンス機能を個別のモデレーターとして分析した。また、管
理者へのインタビュー調査結果の因子分析から得られた「管理者の参加型リー
1
仕 事 依 存 症 :仕 事 のみが生 きがいで、毎 日 遅 くまで残 業 し、休 日 にも仕 事 のことを
考 えており、仕 事 中 毒 (ワーカホリック)ともいう。仕 事 依 存 症 は、アルコール依 存 や薬
物 依 存 など同 様 な依 存 症 だが、生 産 性 のある依 存 症 なので、仕 事 熱 心 な人 と認 知 さ
れる。仕 事 依 存 症 は休 日 恐 怖 を併 せ持 ち、休 みの日 にも仕 事 をしていないと落 ち着 か
ずイライラするため、休 日 をのんびりと過 ごすことができず、家 に仕 事 を持 ち帰 ったり、休
日 出 勤 し、常 に仕 事 をして安 心 感 を得 ようとする。休 みなく働 いていると疲 労 がたまるが
仕 事 依 存 症 では自 覚 がなく、バーンアウトしたりうつ病 になってしまうこともある。大 原 編
(1987)。
2 バーンアウト:
「 燃 え 尽 き 症 候 [burn-out syndrome] 燃 え 尽 き 症 候 と は 、 ア
メ リ カ の 心 理 学 者 フ ロ イ デ ン バ ー ガ ー Freudenberger,H.J.(1980)が 提 唱 し た 概
念 で あ る 。そ れ ま で 人 一 倍 活 発 に 仕 事 を し て い た 人 が 、な ん ら か の き っ か け で 、
あたかも燃え尽きるように活力を失った時に示す心身の疲労症状をいう。主要
症状として、無気力、抑鬱、落ち着きのなさ、しらけた気分、不眠、体力低下
等 を 示 す 。」 氏 原 ・ 小 川 ・ 東 山 ・ 村 瀬 ・ 山 中 編 著 ( 1992)。
- 45 -
ダ ー シ ッ プ 行 動 (参 加 行 動 )」 を 追 加 の モ デ レ ー タ ー 変 数 と し て 加 え 、 仮 説 3 c
の「働き方がストレス反応と職務満足を規定する程度に、3つのリーダーシッ
プ行動(パフォーマンス、メンテナンス、参加型)がどのように影響するか」
を検証する。
表 4-17 は ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 働 き 方 の 2 変 数 と パ フ ォ ー マ ン ス 行 動
( P 行 動 )の 主 効 果 、そ し て 、職 務 要 求 と P 行 動 の 交 互 効 果 を み た も の で あ る 。
そ の 結 果 、モ デ ル 3 で は 自 由 裁 量 は ー .36( 0.1%水 準 で 有 意 )の 主 効 果 は あ っ た
もののモデル 3 から 4 へモデレーター効果はなかった。
表 4-17
ストレス反応に影響する働き方と管理者のP行動の分析結果
表 4-18 は 、職 務 満 足 に 影 響 を 与 え る 働 き 方 の 2 変 数 と P 行 動 、そ し て そ の 交
互効果をみたものである。その結果、モデル 3 から 4 へモデレーター効果があ
っ た 。職 務 満 足 に 対 す る 主 効 果 と し て 、職 務 要 求 は -.70( 5%水 準 で 有 意 )、P 行
動 は -1.18( 5%水 準 で 有 意 )で あ り 、ど ち ら も 職 務 満 足 を 低 下 さ せ る 主 効 果 が あ
る も の の 、 職 務 要 求 と 管 理 者 の P 行 動 の 交 互 効 果 は 1.19( 1% 水 準 で 有 意 ) で
あり、職務要求が高い社員にとり、管理者のP行動は、職務満足を高める影響
があると考えられる。
- 46 -
表 4-18
職務満足に影響する働き方と管理者のP行動の分析結果
表 4-18
職務満足に影響する職務要求と管理者のP行動の分析結果
-.70
職務要求
1.19
P行動
*
**
-1.18
職務満足
*
数値は標準化係数β *p<.05、 **p<.01 ***p<.001
図 4-6
職務満足に影響する職務要求と管理者のP行動の分析結果
本研究の対象であるA社は伝統的企業であり、官僚型組織の傾向が強い。こ
のような組織では、垂直的な指示命令により業務を進める特性がある。特にA
社の場合、職務要求が高い社員は、若年層で職位が低いため、職務要求が高く
心理的に負担感を感じているときに、管理者から問題解決ないしは目標達成に
関 す る P 行 動 を 受 け る こ と に よ り 、仕 事 の 見 通 し が で き た り 、
「大変だけれど管
理者についていこう」という気持ちになり、職務要求の高い仕事を片付けた時
には達成感があり、その結果、職務満足を高める効果があると考えられる。
Hersey& Blanchard (1969)の S L 理 論 に も と づ き 考 察 す る と 、 職 務 要 求 が 高
い社員は若年層で職位が低く、課題達成のための成熟度が低い状態であること
が推測される。SL理論では、部下の成熟度が低い場合は管理者の指示的行動
が高いほうが部下の職務満足が高くなる。したがって、A社の結果は、若年層
で職位が低い社員にとり、管理者のP行動は、部下の職務満足を高める効果が
あり、SL理論どおりの結果となった。
- 47 -
なお、三隅のPM理論では、P行動、パフォーマンスとメンテナンス機能の
い ず れ も 高 い リ ー ダ ー の 下 で 働 く 部 下 の 職 務 満 足 が 高 ま る が 、今 回 の 研 究 で は 、
M 行 動 は モ デ レ ー タ ー 効 果 が な か っ た ( 表 4-18,表 4-19)。
表 4-19
表 4-20
ストレス反応に影響する働き方と管理者のM行動
職務満足応に影響する働き方と管理者のM行動
表 4-21 は ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 与 え る 働 き 方 の 2 変 数 と 管 理 者 の 参 加 行 動 の
主 効 果 、そ し て 、職 務 要 求 と 参 加 行 動 の 交 互 効 果 を み た も の で あ る 。そ の 結 果 、
モ デ ル 3 で は 自 由 裁 量 は ー 35( 0.1%水 準 で 有 意 ) の 主 効 果 は あ っ た も の の モ デ
ル 3 から 4 へモデレーター効果はなかった。
- 48 -
表 4-21 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 す る 職 務 要 求 と 管 理 者 の 参 加 型 行 動 の 分 析 結 果
表 4-22 は 、 職 務 満 足 に 影 響 を 与 え る 働 き 方 の 2 変 数 と 管 理 者 の 参 加 型 行 動 、
そ し て 、働 き 方 と 管 理 者 の 参 加 型 行 動 の 交 互 効 果 を み た も の で あ る 。そ の 結 果 、
モ デ ル 3 か ら モ デ ル 4 へ の モ デ レ ー タ ー 効 果 が み ら れ た 。 自 由 裁 量 は .85( 1%
水準で有意)であり、自由裁量は職務満足を高める主効果があった。職務要求
と 管 理 者 の 参 加 型 行 動 の 交 互 効 果 は .57( 5% 水 準 で 有 意 ) で あ り 、 職 務 要 求 が
高い社員にとり、管理者の管理者の参加型行動は職務満足を高める影響がある
と考えられる。
表 4-22
職 務 満 足 に影 響 す る働 き方 と管 理 者 の参 加 型 行 動 ( 参 加 型 行 動 )
- 49 -
職務要求
-.39
.57
参加型行動
*
職務満足
-.24
数値は標準化係数β *p<.05、 **p<.01 ***p<.001
図 4-7
職務満足に影響する職務要求と管理者の参加型行動の分析結果
こ の 結 果 か ら 、職 務 要 求 が 高 い 社 員( 忙 し い 社 員 )は 、心 理 的 な 負 担 感 が
強 い た め 、そ の 代 償 行 動 に よ り 負 担 感 が 軽 減 で き る こ と が 推 測 さ れ る 。代 償
行 動 と し て 、管 理 者 が 部 下 に 組 織 の 意 思 決 定 に 参 加 さ せ た り 、頻 回 に コ ミ ュ
ニ ケ ー シ ョ ン を と る こ と で 、 部 下 が 「 自 分 の 考 え を 仕 事 に 反 映 で き る 」「 自
分 が 仕 事 の な か で 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 」と い う 意 識 を も ち 、業 務 の 負 担
感 の 軽 減 だ け で な く 、む し ろ 、充 実 感 を 得 た り 職 務 満 足 を 高 め る こ と が で き
ると考えられる。
実際にA社社員にインタビューを行うと、管理者からは「月 1 回は担当役員
を 囲 ん で 若 い 社 員 が 自 由 に 意 見 を 言 え る 場 を つ く り 、 職 務 満 足 を 高 め て い る 。」
という意見や、部下からは「会議の場で、事業部長や担当役員から、直接仕事
についての意見をもらったり、自分の意見を言うことができると、やる気がで
る 。」 と い う 意 見 が あ り 、 こ の デ ー タ を 裏 付 け る も の で あ る と 考 え ら れ る 。
一 方 、 Vroom( 1964) や Likert( 1967) に よ れ ば 、 部 下 に 業 務 の 意 思 決 定
に 参 加 さ せ る リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 は 、部 下 の 職 務 満 足 を 高 め る 効 果 が あ る こ
と を 確 認 し て い る が 、A 社 の 場 合 は 、主 効 果 で は 職 務 満 足 を 高 め る 効 果 が な
いものの、職務要求が高い社員に対しては、職務満足を高める効果がある。
A 社 の 場 合 は 、職 務 要 求 が 高 い 社 員 は 職 位 の 低 い 若 年 層 で あ る た め 、こ の よ
う な 社 員 に と っ て は 、管 理 者 の 参 加 型 行 動 に よ り 、職 務 満 足 が 高 ま る こ と が
考えられる。
な お 、働 き 方 の う ち「 自 由 裁 量 」が ス ト レ ス 反 応 や 職 務 満 足 に 規 定 す る 程
度に、管理者の参加型行動の影響は受けなかった。
- 50 -
第4項 小括
働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度に、モデレーターとしての
ソーシャルサポート、休暇取得、リーダーシップがどのように影響を与えるか
を確認した。
仮説 1 では、
「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」に お け る 働 き 方 の 区 分 に よ る ス ト
レ ス 反 応 や 職 務 満 足 の 差 異 を 比 較 し 、社 員 や 企 業 に と り 最 も 理 想 的 な 働 き 方 は 、
職 務 要 求 と 自 由 裁 量 が 高 い Active-job の 状 態 で あ る こ と が わ か っ た 。 一 方 、
Passive-job は ス ト レ ス が 高 く 職 務 満 足 度 が 低 い 結 果 で あ っ た 。 こ の 結 果 は 、
従 来 、 労 働 衛 生 上 ハ イ リ ス ク で あ る と 考 え ら れ て い た High strain-job だ け で
な く 、 Passive-job の 状 態 に も メ ン タ ル ヘ ル ス 施 策 が 必 要 で あ る こ と が 示 唆 さ
れ る 。し た が っ て 、高 業 績 で 働 き が い の あ る 企 業 を 目 指 す た め に は 、Active-job
の状態を維持できるジョブ・デザインを配慮した人的資源管理が必要であるこ
と に 加 え 、 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の バ ラ ン ス の よ い 働 き 方 を デ ザ イ ン し High
strain-job や Passive-job の 状 態 で 働 く 従 業 員 を 減 ら す 必 要 が あ る と 考 え る 。
仮説 2 では、働き方がストレス反応と職務満足を規定する程度を確認した。
Karasek( 1979)の「 職 務 要 求 ― 自 由 裁 量 モ デ ル 」で は 、職 務 要 求 と 自 由 裁 量 が
同時に高ければ、職務満足が高まることが実証されていたが、本研究では、職
務要求や自由裁量が職務満足を有意に高めることはなかった。しかし、ストレ
ス反応に対しては、職務要求はストレス反応を高め、自由裁量はストレス反応
を軽減し、同時に高い場合は、ストレス反応を軽減することが確認できた。こ
れ は 、Karasek& Theorell(1990)な ど 、多 く の 産 業 ス ト レ ス の 研 究 と 同 様 な 結 果
であった。したがって、職務要求に応じた自由裁量があればストレスを低下さ
せることができると考えられる。
仮説 3 では、働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度に、ソーシャ
ルサポートと休暇取得、管理者のリーダーシップ行動にモデレーター効果があ
ることがわかった。例えば、職務要求が高く多忙な状況で、なおかつそれに応
じた自由裁量がない働き方であっても、管理者が部下を意思決定に参加させる
などの参加型行動をとることで、職務満足を高めることができる。さらに、部
下の目標達成に対する成熟度が低い場合は、パフォーマンスの高いリーダーシ
ップ行動をとることにより、部下の職務満足を高めることができる。したがっ
- 51 -
て、管理者は部下の成熟度や業務要求の程度など、状況に応じたリーダーシッ
プ行動をとることで、部下の職務満足を高める配慮が必要であろう。
一方で、従来は職務満足を高めたり、ストレスコーピングの効果があるとい
われていたソーシャルサポートではあるが、本研究の結果では、自由裁量の高
い 社 員 に 関 し て は 、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は ス ト レ ス 反 応 を 高 め る 結 果 と な っ た 。
この結果は、部下が持っている自由裁量のレベルにより、管理者や同僚がサポ
ートする程度を調整する必要があることが示唆される。そして、自由裁量の高
い社員や、専門の知識や技術を持つ社員には、ソーシャルサポートを受けるこ
とが、必ずしもストレスを低下させることにならないことを認識しておく必要
があろう。
しかし、仕事を進めるうえで、職場の協力を得たり、関係者に意見を聞くな
ど 、 Folkman & Lazarus(1984)の 指 摘 す る 問 題 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ 攻 略 の 情 報 探
索は、管理者や同僚のソーシャルサポートなくしては得ることが難しい。その
うえ、関係者の意見を聞くことなく、独り善がりの仕事をすることは、企業の
不祥事や誤った意思決定など様々な問題をはらんでくるであろう。そのために
は、自由裁量の高い社員に対しても、ストレスを高めない形でのサポートは必
要であると考えられる。具体的には、社員同士が、様々な交流を通じて、お互
いに情緒的・道具的・情報的なサポートをし合えるような集団維持機能と、そ
れを促進する管理者のM行動が必要であると考えられる。
休暇取得に関しては、業務要求が高い社員には職務満足を高めるという結果
であった。すなわち、管理者が多忙な部下に対して休暇取得を勧めることは、
職務満足を高める 1 つの手段として望ましい方法だと考えられる。しかし、自
由裁量が高い社員にとっては、休暇取得がストレスを高める結果であることか
ら、ソーシャルサポートもあてにせず、休暇も取らず、仕事に奮闘している社
員が少なからず存在することも推測できる。
事実、うつ病などで職場不適応になる社員は、残業や休日出勤もいとわず、
真 面 目 に 仕 事 に 励 み 、1 人 で 仕 事 を 抱 え 込 み 、
「 休 ん で も や る こ と が な い 」と い
う理由で、有給休暇を取得しない典型的な仕事依存症のようなタイプである。
このようなタイプの社員が少なくないA社では、納得できる結果であるが、仕
事依存症は、うつ病のハイリスクである。仕事依存症の社員には、強制的に休
- 52 -
暇取得をさせても、ストレスが逆に高まるので、仕事生活と私生活のバランス
についての意識改革が必要である。
一方で、B社の場合は、ソーシャルサポートによりストレスがコーピングさ
れるというA社とは異なる結果があり、社員個々人、また組織風土により、ソ
ーシャルサポートに対する認識や必要性が異なることも考えられる。
Sauter, et al.(1996) が 、 組 織 の 健 康 は 組 織 の 特 性 の 影 響 を 受 け る と し た
NIOSH の 健 康 職 場 モ デ ル の よ う に 、 仕 事 依 存 症 タ イ プ の 形 成 を 阻 止 す る た め に
は、組織風土などの組織特性を変革することも重要であると考えられる。
- 53 -
結章
要約と含意
第1節 要約と結論
近年、経営環境の変化により労働者の働き方は大きく変わり、うつ病や自殺
者の増加が社会問題となっている。その対応として、国や企業はうつ病や自殺
を減らすメンタルヘルス施策を推進しているが、そのようなネガティブな施策
ではなく、職務満足度を高め、ストレスを低下させることで業績を高める積極
的な施策を検討することは、結果的にはうつ病や自殺の予防にもなり、企業と
社員個々人の双方にとり有効である。このような考えを前提として、職務満足
を高め、ストレスを低下させる働き方についての分析を行った。さらに、働き
方と職務満足やストレス反応の関係に、モデレーターとしてソーシャルサポー
トや休暇取得、管理者のリーダーシップ行動がどのように影響を与えるかを検
証した。
ま ず 第 1 章 で は 、先 行 研 究 に よ り 、組 織 の 業 績 は 働 く 人 の 健 康 や 職 務 満 足
と 相 互 作 用 が あ る た め 、社 員 の 精 神 的 な 健 康 を 維 持 す る た め に は 、経 営 方 針
や 組 織 風 土 、マ ネ ジ メ ン ト が 重 要 な 要 因 で あ る こ と を 確 認 し た 。さ ら に 、社
員 個 々 人 に と っ て は 、 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 の 双 方 が 高 い Active-job と い う
働 き 方 が 、職 務 満 足 を 高 め ス ト レ ス を 低 下 さ せ る こ と で き 、企 業 と 社 員 個 々
人 に と っ て も 理 想 的 な 状 態 で あ る こ と を 理 解 し た 。し か し 、働 き 方 は 社 員 自
ら が 決 め る こ と が で き な い こ と が 多 い た め 、た と え 自 由 度 や 裁 量 権 が 低 い 仕
事 で あ っ て も 、職 務 満 足 を 下 げ ず に ス ト レ ス を 低 下 さ せ る モ デ レ ー タ ー が あ
ることを確認した。
第 2 章では、働き方がどのように反応を規定し、その関係に影響を及ぼすモ
デレーターを分析するための分析モデルを設定し、分析概念を操作化したとこ
ろ、モデルどおりの変数に加え、リーダーシップ行動に参加型行動が因子抽出
できた。
第 3 章 で は 、仮 説 の 検 証 に よ り 、Active-job の 状 態 が 、多 く の 業 務 を こ な し
つつも職務満足が高くストレスも低く、社員個人にとっても企業にとっても理
想的な状態であることが検証できた。しかし、先行研究では問題とされなかっ
た 、 Passive-job の 状 態 が 、 先 行 研 究 で 疾 病 や 自 殺 の ハ イ リ ス ク と さ れ る High
- 54 -
strain-job よ り も 職 務 満 足 が 低 く 、ス ト レ ス は 同 程 度 に 高 い 状 態 で あ る こ と が
本研究で新しく確認できた。また、働き方と反応との関係では、職務満足に対
する働き方の影響は有意な関連がなかったが、ストレス反応に関しては、職務
要 求 と 自 由 裁 量 の 交 互 効 果 が あ り 、Karasek( 1979)の 理 論 ど お り 、職 務 要 求 が
高くても自由裁量があれば、ストレスが低下するという結果であった。
そして、働き方が「ストレス反応」を規定する程度に影響を与えるモデレー
ターとして、
「 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 」と「 休 暇 取 得 」が 確 認 で き 、働 き 方 が「 職
務満足」を規定する程度に影響を与えるモデレーターとして「管理職のリーダ
ーシップ行動」が確認できた。
第2節 理論的含意
本 研 究 の 理 論 的 含 意 は 、職 務 満 足 と ス ト レ ス を 低 下 す る こ と の で き る 働 き
方 を 明 ら か に す る た め に 、 Karasek(1979)の 理 論 に も と づ き 「 働 き 方 」 の 2
次 元 と 、職 務 満 足 と ス ト レ ス 反 応 の 関 係 と 、そ れ に 関 わ る モ デ レ ー タ ー に つ
いて分析したことである。
Sauter, et al.(1996)は 、 組 織 の 業 績 は 働 く 人 の 健 康 や 職 務 満 足 と 相 互 作
用 が あ り 、働 く 人 の 健 康 と 職 務 満 足 を 高 め る に は 組 織 風 土 や 経 営 管 理 な ど の
組 織 特 性 が 重 要 で あ る と し て い る 。つ ま り 、企 業 が 従 業 員 の 内 的 動 機 づ け を
高 め る よ う な 「 働 き 方 」 が で き る 人 的 資 源 管 理 を 行 う こ と に よ り 、「 仕 事 を
と お し て 自 己 実 現 が か な う こ と で 満 足 感 を 得 て 、人 間 的 に 成 長 を す る が で き
る こ と 」( Herzberg,1976; McGregor,1960; Argyris,1964)が 、従 業 員 の
満 足 度 を 高 め る 。一 方 、企 業 側 に と っ て も 、従 業 員 の 能 力 を 十 分 活 用 し 生 産
力 を あ げ 、 高 い 職 務 満 足 に よ り 離 職 や 欠 勤 を 減 少 で き る ( Sauter,1996)。
本 研 究 の 結 果 か ら 、職 務 満 足 度 を 高 め ス ト レ ス を 低 下 さ せ る 働 き 方 は 、職
務 要 求 と 自 由 裁 量 が 高 い Active-job の 状 態 で あ る こ と が 確 認 で き 、Karasek
( 1979)の 理 論 と 同 じ 結 果 で あ っ た 。し か し 、本 研 究 で 注 目 す べ き は 、従 来 、
問 題 視 さ れ て い な か っ た 「 Passive-job」 の 状 態 が 、 High strain-job の 状
態 よ り も 、 さ ら に 職 務 満 足 が 低 く 、 High strain-job と 同 程 度 に ス ト レ ス が
高い状態であることが確認できた。したがって、今後の人的資源管理では、
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Passive-job の 状 態 を つ く ら な い よ う に す る こ と や 、メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 と
し て は 、 High strain-job と 同 様 に Passive-job の 社 員 に も 、 う つ 病 な ど の
ハイリスク者として配慮が必要である。
ま た 、職 務 要 求 が 高 く て も そ れ に 応 じ て 自 由 裁 量 が 高 く な る こ と で ス ト レ
ス が 低 下 す る こ と が 確 認 で き 、「 働 き 方 」 の う ち 自 由 裁 量 が Deci( 1980) の
「 自 己 決 定 の 感 覚 」と 同 じ 意 味 を も ち 、内 発 的 な 動 機 づ け を も つ こ と で 業 務
を こ な す モ チ ベ ー シ ョ ン が 高 ま り 、ス ト レ ス が 低 下 さ れ る こ と が 推 測 さ れ る 。
次に、働き方がストレス反応や職務満足を規定する程度に、モデレーターと
してのソーシャルサポート、休暇取得、リーダーシップがどのように影響を与
えるかを確認した。その結果、ソーシャルサポートと休暇取得は「ストレス反
応」に対して影響を与え、管理者のリーダーシップ行動は「職務満足」に対す
る影響を与える結果となった。この結果は多くの先行研究と同様であり、個人
的な対処行動はストレスコーピング効果があり、管理者の部下に対するリーダ
ーシップ行動は部下の職務満足を高める結果であった。
しかし、本研究で注目すべきは、ソーシャルサポートと休暇取得が必ずしも
ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と な ら な い 結 果 で あ っ た こ と で あ る 。殆 ど の 先 行 研 究 で は 、
ソーシャルサポートや休暇取得がストレスコーピング要因であることを実証し
ているが、本研究では、自由裁量の高い社員にとり、ソーシャルサポートと休
暇取得はストレスを高める結果であり、仕事依存症などの潜在的な問題を示唆
し た 。そ の た め 、ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 与 え 方 や 休 暇 取 得 の 勧 め 方 に 関 し て は 、
個人特性や社員の働き方に応じて配慮することが必要である。
管理者のリーダーシップに関しては、職務要求が高い社員(A社の場合は、
若年層であり、職位が低い社員)に対して有効であった。具体的には、職務要
求が高い(多忙な)社員には、管理者のP行動と参加型行動が職務満足度を高
め る 結 果 で あ っ た 。 Hersey& Blanchard (1969)の S L 理 論 に も と づ き 考 察 す る
と、年齢と職位が低い社員は、課題達成のための成熟度が低い状態であること
が推測され、部下の成熟度が低い場合は管理者の指示的な行動(本研究でのP
行動)が部下の職務満足を高めることが実証されたと考えられる。
以上のことより、職務要求と自由裁量が高い働き方、つまり業務負荷は高い
が、それに応じた責任と自由裁量を与えられた働き方が、社員と企業の両者に
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とり、理想的な働き方であると考えられる。そして、例え業務負荷に応じた自
由裁量がない場合でも、管理者がリーダーシップ行動に配慮したり、休暇を積
極的に取得させることで、部下の職務満足度を高めることが理論どおり実証さ
れた。しかし、ソーシャルサポートや休暇取得により、ストレスを高める社員
もあることから、個人特性や社員の働き方に応じて配慮することが必要である
ことを確認した。
第3節 実践的含意
本 研 究 か ら 得 ら れ た 知 見 は 理 論 的 な 観 点 か ら だ け で は な く 、実 践 的 な 観 点
か ら も 2 つ の 点 で 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。第 1 に 、従 来 、国 や 企 業 に と り 、
リスクマネジメントとして消極的に捕らえられていたメンタルへルスの問
題 を 、業 績 を 高 め る 経 営 管 理 上 の 有 効 策 と し て 認 識 で き た こ と で あ る 。第 2
は 、従 来 、国 と 企 業 の メ ン タ ル へ ル ス 施 策 は 、管 理 者 に 対 し て 部 下 の 問 題 対
処 を 指 導 し て き た が 、そ の よ う な ネ ガ テ ィ ブ な 対 処 で は な く 、部 下 の 職 務 満
足 を 高 め 能 力 を 活 用 で き る 部 下 管 理 を 行 う こ と が 、ひ い て は メ ン タ ル へ ル ス
施策にも有効であるということが確認できたことである。
前 者 に お い て は 、企 業 は 特 別 に メ ン タ ル ヘ ル ス 施 策 を 行 わ ず と も 、Active-job
の従業員を増やすことで、従業員の職務満足は高まり、ストレスを低下させる
こ と を 示 唆 す る も の で あ る 。従 業 員 の Active-job の 状 態 は 生 産 性 も 高 ま る こ と
な ど 企 業 に と っ て も メ リ ッ ト が 多 い こ と が 確 認 で き た 。 Sauter, et al.(1996)
は、組織の業績は、働く人の健康や職務満足と相互作用があるとしていること
から、企業が、経営管理のなかでも「人」を重視し、人的資源管理として社員
の働き方や職務満足度を高めるモデレーターに注目し、ジョブ・デザインをす
ることが重要であろう。
つ ま り 、企 業 は 社 員 に 充 実 し た 業 務 量 を 提 供 す る と 共 に 、そ れ に 見 合 う 自
由 裁 量 を 与 え る こ と や 、高 い 職 務 要 求 と 自 由 裁 量 と い う 状 況 で 社 員 が 十 分 に
能力を発揮できるように育成するための教育も同時に必要であろう。
企業は今後も経営環境の変化に応じて組織変革を続けていくであろうが、従
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業員が健康で高業績である組織をつくるためには、組織特性(マネジメント・
組 織 風 土 、経 営 方 針 )が 重 要 な 要 因 で あ ろ う 。し た が っ て 、組 織 変 革 の 際 に は 、
組織特性を考慮した経営施策が必要であると考える。
後 者 に お い て は 、管 理 者 が 部 下 の 状 況 に 応 じ た リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 を と っ
た り 、モ デ レ ー タ ー 効 果 の あ る 休 暇 取 得 を 勧 め る こ と を 示 唆 す る も の で あ る 。
具 体 的 に は 、多 忙 で 裁 量 権 が 低 い 部 下 に 対 し て は 、状 況 に 応 じ て 、パ フ ォ ー
マ ン ス 機 能 が 高 い リ ー ダ ー シ ッ プ や 参 加 型 行 動 を と る こ と で 、部 下 の 職 務 満
足を高めたり、積極的に有給休暇を取得させることが有効であろう。逆に、
自 由 裁 量 の 高 い 部 下 に 対 し て は 、仕 事 の 自 律 性 を 尊 重 し 、部 下 に と り 不 要 な
サポートは控えるようなマネジメントも必要である。
そ れ に 加 え 、本 研 究 で は 自 由 裁 量 の 高 い 社 員 が 、一 般 的 に は 職 務 満 足 を 高
め ス ト レ ス コ ー ピ ン グ の 効 果 が あ る と い わ れ る 休 暇 取 得 に よ り 、ス ト レ ス を
高 め る 結 果 で あ る 可 能 性 が 高 い こ と か ら 、休 暇 を 取 得 す る こ と が ス ト レ ッ サ
ー と な る 仕 事 依 存 症 も 考 え ら れ る 。仕 事 依 存 症 は 事 業 再 編 な ど の 組 織 の 変 化
を き っ か け に 自 殺 や う つ 病 に な る リ ス ク を 持 っ て い る た め 、仕 事 依 存 症 を つ
く ら な い た め に 、企 業 は 仕 事 と 私 生 活 の バ ラ ン ス を 重 視 す る よ う な 組 織 風 土
をつくるなど、社員の価値観の形成にも考慮する必要があると考えられる。
以上のことから、職務満足度を高めストレスをコーピングする働き方は、
単 に 従 業 員 本 人 や 管 理 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ の 問 題 だ け で な く 、人 的 資 源 の 有
効な活用を目標に経営施策の一つとして組織全体で取り組む必要がある課
題であると考える。
第4節 今後の課題
本研究では、職務満足度を高めストレスをコーピングする働き方の分析を行
い、その結果、職務要求が高い多忙な仕事であっても、それに応じた自由裁量
があれば、職務満足も高く精力的に働くことができることが実証できたが、残
された課題は多い。ここでは、そのなかで 3 つの課題を取り上げて述べる。
第1は経営環境の変化を追って経年的に調査する必要があることである。
企 業 は 外 部 環 境 に 応 じ て 経 営 方 針 や マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム を 変 化 さ せ 、そ の
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変 化 に 応 じ て 従 業 員 の 働 き 方 も 変 化 す る た め 、企 業 の 変 化 に あ わ せ 、従 業 員
の 働 き 方 が ど の よ う に 変 化 し 、そ の 結 果 生 じ る 従 業 員 の 社 会 心 理 的 な 変 化 に
ついての経年的な調査が必要であると考える。
経 年 的 な 分 析 に よ り 、ど の よ う な 経 営 施 策 が 、職 務 満 足 度 を 高 め 高 業 績 を
生 む の か 、そ し て 、組 織 の 変 化 が 、従 業 員 に ど の よ う な 社 会 心 理 的 な 変 化 を
お こ す の か を 分 析 し 、戦 略 的 人 的 資 源 管 理 に 役 立 つ 理 論 を 構 築 し た い と 考 え
る 。そ の 理 論 は 、組 織 変 革 時 に 生 じ る リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト や 、組 織 変 革 を 機
会 に 、人 材 の 能 力 開 発 が で き る よ う な 施 策 立 案 に 役 立 て る こ と が で き れ ば 望
ましいと考える。
具 体 的 に は 、 常 に 変 化 す る 経 営 環 境 の な か で 、 多 く の 社 員 が Active-job
の 状 態 を 維 持 で き 、 Passive-job や High strain-job の 状 態 を 極 力 減 ら す た
めの、人的資源管理についても検討したいと考える。
さ ら に は 、経 営 環 境 の 変 化 の な か で も 、組 織 構 造 の 変 化 に 伴 う リ ー ダ ー シ
ッ プ 行 動 に つ い て も 検 討 し た い と 考 え る 。今 後 、企 業 の 組 織 構 造 は 、A 社 の
よ う な ピ ラ ミ ッ ド 型 か ら フ ラ ッ ト な 組 織 に 移 行 す る で あ ろ う 。そ れ に 伴 い パ
フ ォ ー マ ン ス の 高 い リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 は 減 り 、そ の 分 、管 理 者 行 動 は メ ン
テ ナ ン ス 機 能 の 高 い リ ー ダ ー 行 動 や 参 加 型 の リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 が 増 え 、さ
ら に 同 僚 等 の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が 重 要 に な っ て く る と 予 測 さ れ る 。し た が
っ て 、組 織 構 造 の 移 行 に 伴 う 管 理 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ 行 動 や 、ソ ー シ ャ ル サ
ポ ー ト の 変 化 に 関 し て の 調 査 も 、人 的 資 源 管 理 の た め に は 重 要 で あ る と 考 え
られる。
第 2 に 、今 回 の 調 査 で は 、働 き 方 や ス ト レ ス 、職 務 満 足 に 影 響 が 強 い 個 人
的 な 要 因 に つ い て の 分 析 を 行 っ て い な い 。例 え ば 、本 研 究 結 果 の 一 つ に あ っ
た 仕 事 依 存 の 状 態 を 生 み だ す の は 、A 社 の よ う な 長 期 雇 用 の 企 業 で は 、会 社
が 行 う 教 育 や 組 織 風 土 の 影 響 が 強 い 。 Sauter, et al.(1996) の NIOSH の 健
康 職 場 モ デ ル に あ る よ う に 、組 織 の 特 性 の な か で も 、ど の よ う な 特 性 が 従 業
員 の 個 人 要 因 に 影 響 を 及 ぼ す の か を 確 認 し 、個 人 要 因 に 影 響 を 及 ぼ す 組 織 特
性 を 操 作 す る こ と に よ り 、有 能 で 健 康 的 な 従 業 員 を 育 成 す る こ と が で き る と
考えられる。
- 59 -
また、本研究では職務要求と自由裁量が高く、より高次の欲求を持つ
Active-job の 状 態 が 好 ま し い 状 態 と し て い る が 、 一 方 で 、 単 純 で 単 調 な 仕
事 を 好 み 、高 次 の 欲 求 を 持 た な い 人 が あ る 。こ の よ う な 個 人 差 を 考 慮 し た 人
的 資 源 管 理 を 行 う た め に 、個 人 要 因 を 含 め た 働 き 方 と 反 応 の 関 係 に つ い て の
追試が必要であろう。
第 3 に 、本 研 究 は A 社 1 社 だ け の 分 析 結 果 で あ る た め 、一 般 化 で き る 理 論
構 築 の た め に は 、多 様 な 企 業 で の 調 査 が 必 要 で あ る 。さ ら に は 、業 種 や 職 種 、
職 位 に よ り 理 想 と す る「 働 き 方 」の 比 較 を 行 う こ と に よ り 、よ り 実 践 的 な 施
策を提案することができるであろう。
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ワーキングペーパー出版目録
番号
2004・1
著者
論文名
村木 美紀子
ベンチャー企業の新規株式公開における企業価値評価について
澤田 明宏
─アンジェス・エムジー株式会社をモデルとして─
出版年
9/2004
藤田 清文
池田 周之
中井 雅章
2004・2
澤田 明宏
不確実性下の発電設備の価値評価
3/2005
2004・3
河合 伸
情報システム導入時に発生する混乱の実態と解決の方向性
3/2005
-ERP に代表される業務パッケージの導入に着目した研究-
2004・4
矢崎 和彦
持続的競争優位源泉としての経営理念とデザインシステム
3/2005
-志と顧客価値を結ぶ文化技術-
2004・5
柴原 啓司
東証マザーズ上場企業の財務パフォーマンスと資金調達-ベン
3/2005
チャー・ファイナンス市場の活性化のために-
2004・6
宮入 康
飲料メーカーのチャネル対策としてのブランド変更の意味につ
いて
3/2005
番号
著者
論文名
2005・1
赤阪 朋彦
官僚制組織における個人の自立性支援
大橋 忠司
-大手企業 4 社のアンケート調査から-
出版年
4/2005
北林 明憲
中島 良樹
古谷 賢一
山本 守道
2005・2
手島 英行
人材ポートフォリオにおける人材タイプ別人的資源管理施策の
柳父 孝則
考察-職務満足要因の探求と職務満足次元との関係-
4/2005
山本 哲也
和多田 理恵
2005・3
芦谷 武彦
企業組織における正社員とパートタイマーの価値観、準拠集団、 4/2005
栗岡 住子
成果に関する考察-物品販売会社 A 社のアンケート調査から-
佐藤 和香
村上 秀樹
2005・4
裵 薫
会社分割を利用した事業再生手続モデル
9/2005
2005・5
和多田 理恵
ベンチャー系プロフェッショナル組織におけるコア人材のコミ
10/2005
ットメントに関する研究-伝統的日本企業との比較分析-
2005・6
本郷 晴
特殊鋼の製品開発マネジメント
11/2005
2005・7
高田 壮豊
Comparative Analysis of Organizational Commitment in
11/2005
Medical Professionals
2005・8
松永 好弘
技術のモジュール化と転用の理論
11/2005
2005・9
加藤 正明
地域とモノの間におけるブランド拡張の研究~適合基盤として
11/2005
のライフスタイルについて~
2005・10 桑本 誠
民生用 AV 機器におけるモジュラー型製品の製品開発マネジメ
11/2005
ント
2005・11 五味 嗣夫
中国で活きる日本型経営システム-蘇州進出日本企業の事例か
11/2005
ら-
2005・12 栗岡 住子
職務満足を高めストレスをコーピングする働き方の分析
12/2005