実践例④ 児童一人一人の「個の変容」と「成長」に着目した鑑賞の学習 (会場校実践授業① 11月18日(金)) 1【題材名】 「ピカソって・・・」―ピカソのなぞにせまる― (鑑賞)第 6 学年 2【題材について】 この題材は、児童一人一人の見方や感じ方をあるがままに受けとり、児童の鑑賞活動の深まりや広が りが増すような評価と支援を行う目的で取り組んだものである。鑑賞活動の深まりや広がりを児童に促 すために、埼玉県立近代美術館の学校教育普及担当の先生をゲストティーチャーして迎えた授業を考え た。自分たちが追求したことを確認する場として先生のお話を聞く。専門家の話を聞くことによって、 子どもたちの関心・意欲が高まり効果的な取組となるようにした。また、活動の中で個の活動と他者と の活動を取り入れ活動に広がりを持たせ、お互いの見方や感じ方のよさを味わえるようにした。 本題材では、「不思議」をキーワードとした。自分が感じた不思議、発見した不思議を追求していく 活動を通してよく見る目を育てていけると考えた。また、その不思議から、「作者のほかの作品はどう なっているのだろうか」 、 「他の作者もそう描いているのだろうか」といった次へのきっかけとなること も考えられる。その不思議を追求したことによって、今後の自分の表現活動に生かしてみるという可能 性もある。 また、子どもたちに「知っている画家は?」と質問すると、ほとんどの子どもたちが「ピカソ」と答 える。そして、「変な絵を描く人だよね。」という子もいる。「ピカソの名前は知っていても作品は知ら ない。」という子も多い。 「ピカソ」は、子どもたちにとって名前は知っているが印象に残る作品はなく、 作風が「変わっている」という感覚である。「ピカソの不思議な絵」は、子どもたちにとって興味深い 対象となり、追求していく段階においても興味を失わず、よく見て、深く考えていける題材であると思 い、選んだ。 評価にあたっては、ワークシートや感想文の内容の読み取り、授業中の子どもの表情の観察やつぶや きの記録などを通して、児童の活動のよさを知る手立てとした。 「個に応じた手立て」 ○児童理解 ①既習経験の理解 ○題材の工夫 ⑤評価規準の作成、⑥提案の工夫 ⑦児童との対話の視点の明確化 ○場の工夫 ⑯鑑賞方法の工夫 ○支援 ⑰鑑賞の見る視点の提示 (1)【児童の実態】 本学年の児童は 5 年生の時の学校公開授業で,美術館の協力を得て、掛け軸の鑑賞を中心とした、 日本画や日本の文化に触れる体験をした。子どもたちの心を美術館へと向かわせることを目的とした 鑑賞の授業を学習した。 「個に応じた手立て」①既習経験の理解 今年度の 9 月に鑑賞の学習に関するアンケートを実施し、下記のような結果となった。 <6 年生 97 人に実施> 好きな理由 鑑賞の授業がすき 12 人 きらい 85 人 ・勉強になる。・楽しい。いろいろ見ると自分の表現に生かせる。 きらいな理由・つまらない。・あきる。・わけわからない。(特にピカソはわからない) 美術館へ行った事がある。 16 人 学校での鑑賞の授業は,友達の絵を見て感想を書いたり、巡回名画を見て感想を書いたり、模写し たりと、今ひとつ鑑賞としてはもの足りないものがあった。そのため,作品を深く見つめていくこと ができず、消化不良のままであったように思われる。そのため、前記のような結果が出たものと推察 される。 今年度の修学旅行では、9月に星野富弘美術館に行った。事前学習から興味を持ち、美術館では実 物の絵を見て、感激していた。富弘さんが口で描いたこともに感動し、微妙な色使い、色の変化、リ アルな形など描写力にも感動し、よく見ていた。 (2)【題材観・指導観】 <感性を育てる> 表現や鑑賞の活動を通して、感じよう、よく見ようという「心で見る」ことの体験を積み重ね ていくことが感性を育てる上で大切なことである。豊かな人間性を育てるために、知識を伝達し 蓄積する学習を重視するばかりではなく、豊かに感じる心を育てることが重要である。 <よく見る目を育てる> 作品を鑑賞するときに、不思議に思ったことや自分の心に留まったものを追求するために、さら に深く見ようとする。また、見慣れた風景の中にも改めてよく見れば、よさや美しさを発見できる。 生活用品の中にも職人やデザイナーの願いを感じるような出会いもあるだろう。見過ごしていたこ とや、作者の意図などを再認識する機会となったり、自分の経験や願いと結び付けて自分流の解釈 を加えたりすることもできる。 <制作の軌跡や作者を追う> 作品との出会いをきっかけに、図書の利用やインターネット、美術館の利用などによって作者 の制作の歴史・軌跡を追い、表現活動への理解をさらに深めていくような活動も考えられる。 3【題材の目標】 関→作品に進んで触れながら、表現の工夫を発見し楽しんでいる。 鑑→相互に働きあい、自分の感じ方をさらに深めながら表現のよさを味わっている。 ここでは「能動的な鑑賞活動」を目指し、鑑賞の能力を培う。 能動的とは・・・美術館に足を向ける。行ってみたいと思う。行ってみる。 ・・・身近な造形作品に目を向ける。 ・・・本物を見たい。調べたり美術館に行ったりする。展覧会に行く。 4【題材の評価規準】 関 資料作品をよく見てよさや工夫に気付き、楽しさを味わっている。 鑑 相互の活動を通して自分らしい見方や感じ方を深め、能動的な鑑賞活動をしている。 「個に応じた手立て」⑥提案の工夫 提案1「ピカソを知っていますか?」、 「ピカソが描いた絵はどれでしょう」 提案2「この絵の第一印象を書きましょう」 提案3「この絵の不思議を探ってみましょう。この絵はどうやって描かれたのかな?」 提案4「美術館の先生にこの絵の不思議を聞いてみましょう」 提案5「今日の発見、今日の感想を書きましょう」 【個の変容】について これからの評価は、子どもの長期的な成長の「みとり」が大切である。そのため、本題材において も、各提案の評価も大切にしながら、「個の変容」という点に評価規準を設定した。提案1の感想で Cの評価の児童が、提案5の感想でAの評価になった場合、それは個の変容、成長として認めていく。 また、前時の鑑賞の授業でCの評価の児童が、今回の鑑賞の授業でAの評価になった時も同様である。 個の変容は、1時間の中に見られることもあったり、一つの題材の中に見られることもあったり、 学期の中、年間を通して見られる場合など、さまざまな場面で見られるであろう。個の変容を見逃さ ないためにも日々の評価記録の蓄積は大切なものになってくる。そして、まさしくこの「個に応じた 日々の取り組み」が、評価がより確かで信頼性のあるものとなっていくと考える。 5【本時の展開】 ※指導上の留意点◆評価の観点 ○具体的な支援 ◇評価方法 子どもの活動 提案1「ピカソを知っていますか?」 「ピカソが描いた絵はどれでしょう」 ・ピカソが描いた絵と他の数 枚を見ながら、クイズ形式に 答える。(ドラマールを含め る) ・ゲストティーチャーの先生 から答えを聞く。 ※今日の授業が「いつもと違う雰囲気」で始める。 ○一人一人に注目し、興味・関心を喚起する言葉掛けと表情で話す。 ※提案での一人一人の変化をみる。 ※本時の鑑賞資料はピカソ「ドラマール」 提案2「この絵の第一印象を書きましょう」 ・ 「ドラマール」の絵を見ての ※どんなことでも、思いついたことを書くよう言葉掛けする。 第一印象をメモカードに書 く。 提案3「この絵の不思議を探ってみましょう。 ※書くように声をかける。 この絵はどうやって描かれたのかな?」 ◆A→自分の表現と関連付けて考える。 ・さらに「ドラマール」をよく 友達とも積極的に意見交換をする。 見て考え、まわりの友人と話 発表をうなずきながら聞く。 し合う。 B→自分の考えを導き出す。 友達とも話してみる。 発表を聞く。 ○Cの児童への支援として、思いついたことを聞き出し紹介して、 話し合いに加われるようにする。また、形や色などに注目させる など、ヒントを出して考えを深めさせる。 ◇記入内容、表情、発表の様子と発表内容 個別の評価 ⑦児童との対話の視点の明確化 ※ 記録を活用 する。 提案4「美術館の先生にこの絵の不思議を聞いてみましょう」 ・「多視点画」の原理について ⑯鑑賞方法の工夫 知り、描き方の工夫や素晴ら ※ピカソの静物画で、「多視点画」の原理を説明する。 しさを知る。 視点の移動による見え方の違いを、「描かれたカップ」で説明す ・ る。 ○ 理解していない子には,個別に指導する。 ☆多視点画の図解 ・ピカソ作品をいくつか鑑賞 ⑰鑑賞の見る視点の提示 し、ピカソの芸術の偉大さに ※ピカソの作品を数点提示して、その芸術のすばらしさに触れさせ 触れる。 る。 このほかピカソのキュビスム時代の作品を鑑賞する。 提案5「今日の発見、今日の感想を書きましょう」 ・感想カードに感想を書く。 ◆A→鑑賞を楽しみ、さまざまな発見をし、意欲的に感想を書いて いる。 B→自分の考えをまとめて感想を書いている。 ○言葉をかけて聞きだし、アドバイスする。 ◇感想カードの記入内容、表情、つぶやき 成果と課題 成果 ・鑑賞嫌いの子が,題材の工夫,ゲストティーチャーの活用などにより、これまでになく興味 関心を示してくれた。 ・個の活動を評価することによって、「ピカソって・・・」「出会いときめきの瞬間」「ほんと うの題名は・・・」個の変容が見られた。特に,最後の「ほんとうの題名は・・・」の授業 (第 2 回会場校授業 11 月 29 日)では、画集を見ながらほんとうの題名を探していくうちに, その絵の解説や作者などに興味を持ち,熱心に読んでいた。興味から知識獲得へと変容した。 ・窓から見える富士山や図工室に飾ってある名画などを見て、 「美しい」といえる子が増えた。 課題 ・個の変容は見られたが,個の伸びについてどう評価するがということ。 ・今後の表現活動にどのように生かされるのか。 ・図画工作は感性,造形力,創造性,経験知,技能,知識など、一人一人の個性が違う。幅広 くさまざまな方向へ展開される、「個の伸び」をいかに見取り,評価していくかが最も重要 である。そのための実践的な取組や、教師の資質向上が課題となる。
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