イブン・スィーナー(アヴィケンナ)の音楽論 新井裕子 イ ブ ン ・ ス ィ ー ナ ー Ibn Sīnā( Avicenna, 980-1037) は 、 哲 学 者 、 医 学 者 と し て イ ス ラ ー ム 世 界 の み な ら ず 西 洋 世 界 に も 広 く 知 ら れ た 人 物 で あ る 。彼 が 著 し た『 治 癒 の 書 Kitāb al-Shifā'』 、 『 救 済 の 書 』 に は 音 楽 に つ い て 書 か れ た 章 が あ り 、 そ れ は 中 世 イ ス ラ ー ム の 音 楽 理 論 上 重 要 な も の と さ れ て い る 。本 稿 は 、上 記 著 作 と 『 医 学 典 範 Qānūn fi'l Tibb』 の 脈 拍 と 音 楽 に 関 す る 箇 所 を 用 い て 彼 の 音 楽 理 論 を 再構成しようとするものである。 構 成 は 以 下 の よ う で あ る 。史 料 / 音 楽 の 定 義 / 楽 音( 1. 音 sawt と 楽 音 nagham、 2.音 程 bu'd、2-1.調 和 音 程 ab'ād al-muttafiq と 不 調 和 音 程 ab'ād al-mutanāfir、2-2. 音 程 の 結 合 と 分 割 、3.類 jins、4.グ ル ー プ jam'、5.展 開 intiqāl)/ イ ー カ ー ァ īqā' ( 1.定 義 、2.要 素 と 構 造 、3.表 示 の 仕 方 、4.分 類 と 種 類 、5.詩 と 韻 律 論 )/ 楽 器( 1. ウ ー ド 上 で 示 さ れ た 音 程 関 係 、2.ウ ー ド 上 で の グ ル ー プ )/ タ ァ リ ー フ ta'līf/ 今 後の課題 イブン・スィーナーが、アヴィケンナとして西洋世界でも知られていたことを 考えると、彼の音楽論が西洋の音楽理論に何らかの影響、ないしインスピレーシ ョ ン を 与 え た と 考 え る こ と も で き よ う 。ま た 、彼 の 著 作 と さ れ て き た『 救 済 の 書 』 の 中 の 音 楽 に 関 す る 部 分( と く に オ ッ ク ス フ ォ ー ド Bodleian Library 所 蔵 の Marsh 521 写 本 、フ ォ リ オ 番 号 159b-170b。こ の 写 本 に 基 づ い て 彼 の 音 楽 論 が ド イ ツ 語 訳 されている)が、実は彼の弟子による後世の著作である可能性が高いことも指摘 した。
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