【数学】証明する力を育てる論証指導の工夫

証明する力を育てる論証指導の工夫
―図形からの気付きを証明の根拠に関連付けて―
研究員
西中 学校
臼田
要介
研 究 の 概 要
本 研 究は 、中 学校 第 2学 年の 図形 領域 の 論証 指 導に おい て、 図形 か らの 気付き を証明 の根拠 に関
連付 け る活 動を 取り 入 れる こと で、 根拠 を 明確 に して 筋道 立て て証 明 する 力が育 つよう に、指 導の
工夫を 図った 。
Ⅰ
主題設定の理由
新学 習指 導 要領 の数 学科 の 目標 は「 数 学的 活動 を通 して 、 数量 や図 形 などに 関する 基礎的 な概念 や
原 理・ 法則 に つい ての 理解 を 深め 、数 学 的な 表現 や処 理の 仕 方を 習得 し 、事象 を数理 的に考 察し表 現
す る能 力を 高 める とと もに 、 数学 的活 動 の楽 しさ や数 学の よ さを 実感 し 、それ らを活 用して 考えた り
判 断し たり し よう とす る態 度 を育 てる 」 と示 され 、数 学的 活 動を 通し た 思考力 や表現 力の育 成が強 調
さ れて いる 。 数学 科で は、 事 象を とら え 、と らえ たこ とが ら を考 察し 、 解決し ていく 過程に おいて 、
数 学的 な表 現 を用 いて 筋道 を 立て て考 え て問 題を 解決 して い く。 考え て いく過 程や考 えた結 果を数 学
的 な表 現を 利 用し て、 式に し たり 、グ ラ フに した り、 記述 し たり 、説 明 したり してい く。ま さに「 考
える こと」 と「表 現する こと」 は表裏 一体で お互い に必 要不可 欠な関 係にあ る。
数 学 科 の 内 容 は 「 数 と 式 」「 図 形 」「 関 数 」「 資 料 の 活 用 」 と あ り 、 ど の 内 容 も 重 要 で 確 実 に 身 に 付
け させ なけ れ ばな らな い。 そ の中 の「 図 形」 領域 は筋 道を 立 てて 自分 の 言葉で 論理的 に説明 したり 、
証明 したり して、 根拠に 基付い て解決 したり してい くこ とが多 い。
とか く論 証 指導 は形 式的 に なり がち で 、生 徒は とに かく 自 分の 知っ て いるこ とを使 って何 かを説 明
し よう とし 、 根拠 を段 階的 に 積み 上げ て いく こと がで きな い 。ま た、 証 明の根 拠に何 を使っ たり、 何
を かい たり す れば よい のか わ から ない こ とが 担当 して いる ク ラス の生 徒 から見 て取れ 、苦手 意識を さ
らに 助長さ せてい るよう に感じ る。
担 当 し て い る ク ラ ス の 生 徒 ( 34 人 ) で 「 自 分 で 問 題 を 解 い て 解 け た 時 」 に 数 学 は 楽 し い と 感 じ る
生徒 が 27 人 (79 %) である 。しか し、数 学は苦 手とい う生徒 は 23 人( 68 % )であ り、「でき た・
わ か っ た」 と 感 じ る生 徒 は 3 人 ( 8 % ) しか い な い。「 わか っ た・ でき た 」感 を味 わい た いと 思っ て
いる 生徒は 32 人 (94 % )であ り、生 徒た ちは数 学は苦 手では あるが 、でき るよう になり たい、 わか
る よう にな り たい とい う思 い を強 く持 っ てい る。 また 、授 業 の取 り組 み の様子 を見る と積極 的にわ か
ら な い と こ ろ を 質 問 し た り 、 問 題 を 意 欲 的 に 解 こ う と し た り す る 姿 が 見 ら れ る 。 し か し 、「 自 分 の 考
えた ことを かく」 ことが 不得意 だと感 じてい る生徒 は 20 人( 59 %)、「自分 の考え たこと を伝え る」
こと が不得 意だと 感じて いる生 徒は 30 人 (88 % )であ った。 その原 因とし て「自 分の考 えに自 信を
持てないから」と 9 割近くの生徒が感じている。また「内容はわかるが考えたことを式や言葉にす
る こ と が で き な い 」 と い う 生 徒 も 多 か っ た 。 生 徒 は 自 分 の 考 え に 「 自 信 」 が 持 て ず、「 考 え る こ と 」
と「 表現す ること 」に苦 手意識 を持っ ている 。
以上 のこ と から 、図 形領 域 の論 証指 導 にお いて 、図 形の 性 質を 証明 す る時に 合同に なりそ うな図 形
を 見つ け、 そ の図 形か らの 気 付き を証 明 で必 要な 根拠 に関 連 付け る活 動 を取り 入れる ことで 、根拠 を
明確 にして 筋道立 てて証 明する 力が育 つよう になる と考 え、本 主題を 設定し た。
-1-
Ⅱ
研究のねらい
図形 領域 の 論証 指導 にお い て、 図形 か らの 気付 きを 証明 に 必要 な根 拠 に関連 付ける 活動を 取り入 れ
る こと で、 根 拠を 明確 にし て 筋道 立て て 証明 する 力を つけ る 指導 の工 夫 を図る ことを 実践を 通して 明
らか にする 。
Ⅲ
研究の見通し
研究構想図
目指す生徒像
1
合 同に な り そ うな 図 形を 見つ け出 し 、
図形からの気付きを根拠に関連付ける
○図形からの気付きを根拠に関連付けられる
活動を取り入れることにより、視覚的
にわかりやすくしたり、三角形の合同
○証明に対する抵抗感や苦手意識が軽減する
○根拠を明確にして筋道を立てて証明がかける
条件を見つけやすくしたりすることが
でき、証明に対する抵抗感が軽減する
【 見 通 し 2】
で あろう 。
「付箋紙」 の並び替え
2
図形と根拠をかいた付箋紙を見比べ
な が ら、 証 明 に 必要 な 根拠 を選 んだ り 、
【 見 通 し 1】
色別の「付箋紙」の活用
並び替えたりすることで、筋道を立て
て考え、根拠を明確にしながら証明が
生徒の実態
か けるよ うにな るであ ろう。
○自分の考えたことをかいたり、伝えたりすることが
Ⅳ
研究の内容と方法
不得意
○考えたことを式や言葉に表現することができない
1
研究の 内容
(1)証 明する 力
論証 指導 の 重点 は図 形の 証 明に 他な ら ない 。そ の指 導が 形 式的 な証 明 になり がちで 、生徒 はとに か
く 自分 の知 っ てい るど んな こ とで も使 っ て説 明し よう とす る ため 、筋 が 通って いなか ったり 、何を 根
拠 に使 った ら いい かわ から な くな った り して しま う。 つま り 、わ かっ て いるこ とや知 ってい ること を
整理 して筋 道を立 てて、 根拠を 段階的 に積み 上げて いく ことが 難しい と感じ る。
そこ で論 証 指導 にお いて 形 式的 な指 導 にな らず 、生 徒自 ら に「 証明 す る力」 が身に 付けば 、証明 へ
の苦 手意識 や抵抗 感を軽 減させ ること ができ、図形の 性質な どを証 明する ことが できる と考え る。
「証
明 す る 力 」 と は 「 抵 抗 な く 証 明 し よ う と す る 意 欲 」、「 筋 道 立 て て 考 え る 力 」、「 根 拠 を 明 確 に し て 表
現す る力」 の3つ が必要 である と考え る。
(2)図 形から 気付き を根拠 に関連 付ける 活動
証明する際に証明の根拠に何を使ったり、何をかいたりすればよいのかわか
らないことが見られるので、苦手意識や抵抗感を軽減させ、筋道立てて証明が
かけるようにするために取り入れる。その方法として、図形から気付く理由が
は っき りし て いる 等し い辺 や 角を 色分 け して 、そ の色 と同 じ色の 付箋紙 (図 1)
に式や言葉で根拠をかく。そうすることで、視覚的にとらえやすくなり、図形
と付箋紙にかいた根拠を常に振り返ることができ、筋道の通った証明がかける
-2-
図1 色別の付箋紙
よ うに なる と 考え る。 根拠 を 付箋 紙に か くこ とに より 、証 明 にお いて 必 要でな ければ その付 箋紙を 除
いた り、付 箋紙ど うしの 順序を 入れ替 えたり ことも でき る。
(3)ア イテム カード
図形領域で学習した既習事項をすぐに思い出し
たい時や根拠となることがらを探したい時にすぐ
に探せられる既習事項をまとめたヒントカードの
こ と を 「 ア イ テ ム カ ー ド 」 と 名 付 け た ( 図 2)。 ケ
ント 紙(21 ㎝× 14 ㎝ )を使 い、自 分でま とめて 作
成 す る 。1 枚 のカ ード には 1つ の 重要 事項 を かき 、
そのカードの角に穴を開けリングでくくることに
より 、効率 よく振 り返ら れるよ うにし た。
2
研究の 方法
(1)
図2 自作のアイテムカード
授業実 践計画
対 象
藤岡市立西中学校 2 年 Basic コース(2 クラス分) 34 名
実 施 期 間
平成 23 年 10 月~ 11 月中旬
単 元 名
「平行と合同」
・
「図形の性質」
生徒 A
合同になりそうな三角形の中で等しい辺や角を1つも見つけられないため、証明をかくことに苦手意
識を持っている。
抽
出
合同になりそうな三角形の中で自力で等しい辺や角を1組または2組見つけ、あとは合同条件に合う
生徒 B ように理由がはっきりしていない辺や角を選び、証明をかこうとする。合同条件から見つけ出してしま
うので、常に筋の通った証明がかけず、証明に自信がなくなっている。
生
徒
(2)
合同になりそうな三角形を推測し、等しい辺や角を3組見つけ出すが、理由がはっきりしていない辺
生徒 C や角を選んだり、
「等しい辺2組、その間の等しい角1組」を選んでいるのに、合同条件は「1辺とそ
の両端の角がそれぞれ等しい」を選んだりしてしまう。その結果、筋が通っていない証明をかくことが
多く、証明に自信がなく、抵抗感を持っている。
検証計 画
検証項目
見通し1
検 証 の 観 点
合同になりそうな図形を見つけ出し、図形からの気付きを根拠に関連付ける活動を取り入
れることにより、視覚的にわかりやすくしたり、三角形の合同条件を見つけやすくしたりす
ることができ、証明に対する抵抗感を軽減することに有効であったか。
検証の方法
○学習活動の
記録
○観察
○授業ノート
見通し2 図形と根拠をかいた付箋紙を見比べながら、証明に必要な根拠を選んだり、並び替えたり ○取り組みの
することで、筋道を立てて考え、根拠を明確にしながら証明がかけることに有効であったか。 様子
○アンケート
-3-
Ⅴ
1
研究の実践と考察
研究の 実践
学 習 活 動
◇予想される生徒の反応
時
間
指 導 及 び 留 意 点
(★ 努力を要する生徒への支援)
図形の性質を見つけて、その性質が正しいかどうか証明してみよう。
○問題文にかいてある通り 10 ○コンパスと三角定規を利用してなるべく大きく作図させる。
に図形を作図する。
○問題の作図に取り組み、図形の条件を意識することで図形の性質を見つけやすくする。
★指示通りかけない生徒は、一緒に作図を進めていく。
○作図した図形を見て「ア
イテムカード」を活用し
ながら理由がはっきりし
ている等しい辺や角どう
しに同じ色を付ける。
【問題】
平行な2直線 l と m 上に、点 A、B をそれぞれ取り、
線分 AB の中点を E とする。点 E を通る直線 n と
直線 l、m との交点をそれぞれ C と D とする。
l
A
E
この図において CE = DE になることを証明しなさい。
m
◇ AE と BE(仮定)
◇∠ AEC と∠ BED
(対頂角)
◇∠ EAC と∠ EBD
(平行線の錯角)
◇∠ ECA と∠ EDB
(平行線の錯角)
C
D
n
B
15 ○三角形を構成している辺や角に着目させ、等しいものに同じ色を付けるように伝える。
○ただ色を付けるのではなく、
「理由がはっきりした」ということに意識を向かせ、等しい辺や角ど
うしに同じ色を付けていく。
○見つけられなければアイテムカードを活用して、理由がはっきりしている辺や角を探す。
○ DE と CE、AD と BC に同じ色を付けた場合、理由をきいたり、結論であったりと証明には使え
ないことを確認する。
★等しい辺や角に気付くことができない生徒には、隣同士で相談したり、個別指導を行ったりする。
○等しい辺や角どうしに同 10 ○等しい辺や角の場合は対応順に気をつけてかかせる。
じ色を付けた図と同じ色の
○角は3つのアルファベットで挟み、誰が見てもわかるようにかかせる。
付箋紙に式の根拠をかく。
○アイテムカードを使わずに図形の中で等しい辺や角のことを「仮定」であることを再確認する。
★隣同士で相談したり、気付いたこと考えたことを発表し合ったりする学び合う場を設定する。
○3つある合同条件の中で 15 【生徒の予想される反応】
どれが当てはまるか、色分
◇ AE = BE(仮定)
けした図を見ながら確認
◇∠ EAC =∠ EBD(平行線の錯角は等しい)
し、証明を完成させる。
◇∠ ECA =∠ EDB(平行線の錯角は等しい)
◇∠ AEC =∠ BED(対頂角は等しい)
◇△ AEC ≡△ BED(1辺とその両端の角がそれぞれ等しい)
○証明特有の言葉や形式的な記述にこだわらず、自分なりの言葉で記述できるようにする。
★早く並び替えられた生徒に黒板上で並び替えてもらい、それを参考にして、自分の根拠をかいた
付箋紙を並び替え、
「アイテムカード」も利用して証明を完成させていく。
2
研究の 結果と 考察
証 明する 力を身 に付け るため の手順 を以下 のよう にす る。
①問題 文にあ る図形 の作図 をする 。
⑤ 図 形 から の 気 付 き を根 拠 をか い た付 箋紙 に 関連
②問題 文を読 み、結 論を確 認する 。
付 けさ せ、合 同条件 を見つ ける。
③合同 になり そうな 三角形 を見つ け出す 。
⑥ 図 形 と根 拠 を か い た付 箋 紙を 見 比べ なが ら 、両
④図形の中にある「理由がはっきりしている」
者 を 常に 振 り 返 ら れる よ うに し て、 図形 か らの
辺や 角を色 分けす る。
気 付 きと 証 明 に 必 要な 根 拠を 関 連付 けて 筋 道を
立 てて 証明す る。
-4-
(1)【見 通し1 】
証 明する 力を身 に付け るため に①か ら⑤の 手順に 従っ ていく 。
① 図形の 性質を 気付き やすく するた めに l//m と線分 AB は 提示し ておい て、AB の 中点 E と
線 n を 作図 した。
②
③
④
直
作図し た後、 結論で ある DE = CE を証明 するこ とを全 員で確 認した 。
合同に なりそ うな三 角形△ AEC と △ BED を 見つけ 出した 。
「 理 由 が は っ き り し て い る 」 辺 や 角 に 色 を 付 け た 。 ま ず 、「 対
頂 角」が あるこ とに気 付いた 生徒は 、図の 中の∠ AEC と ∠ BED
に 色(今 回は青 色)を 付けた。ま た、それと 同じ色 の付箋 紙に「 ∠
AEC =∠ BED」 や「対 頂角は 等しい 」と根 拠を記 入し、 ノート に
貼 った。次に、生徒は コンパ スで長 さを測 ったか ら「辺 AE と 辺 BE
が等しい」ということに気付いた。そこで、図に青色以外(今回
は 赤 色 ) で 色 を 付 け 、 同 じ 色 の 付箋 紙 に 「 AE = BE」 や 「 仮 定 」
と根拠を記入し、ノートに貼った。さらに、生徒は平行線がある
こ と に 気 付 き 、 平 行 線 の 性 質 を 覚 え て い た 生 徒 は 20 人 お り 、 他
の 14 人 の 生 徒 は 忘 れ て い た た め 、 ア イ テ ム カ ー ド を 使 っ て 平 行
図3 アイテムカードを活用している様子
線の 性質 で 「平行 線の錯 角」 という 根拠を 見つけ 出した (図 3)。
図 には緑 色を黄 色の色 を付け、それ ぞれ同 じ色 の付箋 紙に「 ∠ EAC
= ∠ EBD」、「 ∠ ECA = ∠ EDB」 や 「 平 行 線の 錯角 は 等し い」 と
根拠 を記 入 し(図 4)、 ノート に貼っ た。こ のよう に図形 からの 気
付 きを付 箋紙に 式や言 葉でか いた根 拠に関 連付け る活 動を行 った。
⑤ 図 形 か ら の 気 付 き ( 図 5) と 根 拠 ( 図 6) の 両 者 を 比 較 し 、 赤
と緑と青から「1辺とその両端の角がそれぞれ等しい」という合
図4 付箋紙に根拠をかいている様子
同 条件を 見つけ た。
⇔
図5 色分けした図
図6 色分けした図と同じ色に根拠をかいた「付箋紙」
在 籍 して い る コ ース の 34 人 に アン ケ ー ト を採 っ たと こ ろ、 図形 の性 質 を証 明す る 際に 、等 しい 辺
や 角 に 色 分 け す る こ と は 視 覚 的 に 「 と て も と ら え や す く な っ た 」「 と ら え や す く な っ た 」 と 答 え た 生
徒 が 合 わせ て 33 人 ( 97 % ) であ っ た (表 1)。こ のこ とか ら 生徒 が証 明 する 際に 等し い 辺や 角に 色
-5-
分け するこ とは視 覚的に とらえ やすく なった ことが わか る。
ま た 、 33 人( 97 % ) の 生 徒 が 三角 形 の 合 同条 件 が 「 とて も
見 つ け や す く な っ た 」「 見 つ け や す く な っ た 」 と 答 え て い る
(表 2)。
抽出生徒 A は「色別にして辺や角に同じ色を付けること
によって、同じ色どうしだと目にパッと入って見分けやす
い」と感想にかいていた。抽出生徒 B は図形の中に「同じ
色や1つの色だとごちゃごちゃになりわかりにくかったけ
表1 「視覚的にとらえやすくなった」と
答えた生徒の割合
44%
53%
0%
3%
とてもとらえやすくなった
とらえやすくなった
あまりとらえやすくなかった
とらえやすくなかった
れ ど、 等し い 辺や 角を 同じ 色 にす ると わ かり やす かっ たし 、
どこ を言っ ている か見つ けやす く、合 同条件 もすぐ に探 すこ
とが できた 」と感 想にか いてい た。抽 出生徒 C は「 三角形 を
見比べて、同じ色を探せるのでとてもわかりやすいし、辺
や角を色で分けると合同条件もわかりやすく理解できる」
とかいており、理由のはっきりする等しい辺や角に赤色や
黄色などと色分けをしてかき込むことで、視覚的にとらえ
や す く な り 、「 1 辺 と そ の 両 端 の 角 が そ れ ぞ れ 等 し い 」 と い
う三角形の合同条件を的確に選び出せていた。しかし、理
由が はっき りしな い辺や 角に色 を付け る生徒 が1名 いた 。
表2 「合同条件が見つけやすくなった」と
答えた生徒の割合
32%
65%
3%
0%
とても見つけやすくなった
見つけやすくなった
あまり見つけやすくなかった
見つけやすくなかった
図形からの気付きを証明に必要な根拠に関連付ける活動
を取り入れたことは、証明に対する苦手意識や抵抗感を軽
減す るのに 「とて も役に 立った」「 役立っ た」が 合わせ て 85
%( 29 人 )であ った( 表 3)。生徒 が図形 からの 気付き を証
明に必要な根拠に関連付ける活動が証明に対して苦手意識
や抵 抗感を 軽減す るのに 役立っ たと考 えられ る。
以上のことから合同になりそうな三角形を見つけ出し、
表3 「証明に対する抵抗感を軽減できた」と
答えた生徒の割合
53%
32%
3%
図形からの気付きを根拠に関連付ける活動を取り入れたこ
とによって、視覚的にとらえやすくなり、合同条件が見つ
けやすくなった。そして、証明に対する苦手意識や抵抗感
を軽 減させ ること に有効 であっ たとい うこと が言え る。
12%
とても役立った
役立った
変わらなかった
役に立たなかった
(2)【見 通し2 】
⑥
「1辺とその両端の角がそれぞれ等しい」という
合同条件を見つけ出すことができたので、根拠をか
いた付箋紙のうち、黄色の付箋紙を除き、証明の根
拠 と し て 必 要 な 残 り の 3 枚 の 赤 ( AE = BE)、 青 ( ∠
AEC =∠ BED)、 緑(∠ CAE =∠ DBE)の付 箋紙を
選 び出し た(図 7)。「1辺 とその 両端の 角がそ れぞれ
等 しいか ら△ AEC ≡△ BED であ る」と 根拠と して明
確 になっ たもの を、筋 道を立 てて並 べてい た。
図形と根拠をかいた付箋紙を見比べて、証明の根拠
として必要な付箋紙を選んだり、並び替えたりするこ
とで 筋道を 立てた 証明が 「とて もかき やすか った」「 かき
-6-
図7 証明に必要な付箋紙を選び、並び替える様子
や す か っ た 」 が合 わ せ て 31 人 ( 91 % )で あ っ た (表 4)。
このことから図形と付箋紙を見比べ、証明の根拠として必
要な付箋紙を選んだり、並び替えたりして付箋紙を利用す
る こと は筋 道 を立 てた 証明 が かき やす か った と考 えら れる 。
また、付箋紙を活用することで「かきやすくなかった」と
いう 生徒が 1 人も いなか ったこ とから もわか る。
筋道を立てて根拠を明確にした証明を「完全にかけた」
生徒 が 5 人( 15 %)であっ た( 図 8)。式の 根拠し かかか ず、
言葉の根拠をかかなかったりしたが、筋道を立てて「かけ
た」 生徒が 18 人( 53 % )であ った 。完全 な証明 とは言 えな
いま でも、筋道を 立てて かける ように なった 生徒が 23 人( 68
%)であった。図形からの気付きを証明に必要な根拠に関
表4 「証明がかきやすい」と答えた生徒の割合
50%
41%
9%
0%
とてもかきやすかった
かきやすくなった
あまりかきやすくなかった
かきやすくなかった
表5 証明がかけたアンケートの結果
取り入れる前
連付ける活動を取り入れる前は証明や説明に全く必要のな
い こと をか い たり 、とり あえず 気付い たこと をかく 生徒が 5
人 ( 15 % ) で あ っ た こ と か ら 、 図 形 か ら の 気 付 き を 証 明 に
必要な根拠に関連付ける活動は有効であったと考えられる
( 表 5)。 残 り の 11 人 ( 32 % ) の 生 徒 は 証明 を 完 全 にか け
な か っ た が 、 8 人 ( 23 % ) の 生 徒 は 作 図 を し た 図 形 の 中 に
取り入れた後
0%
10%
完全にかけた
20%
30%
40%
かけた
50%
60%
70%
80%
90%
100%
かけなかった
等しい辺や角を1組または2組気付くこと
ができ、根拠をかくことができていた。し
かし、3 人(9 %)の生徒は図の中で等し
い辺や角を見つけられず、根拠がかけず全
く手 がつけ られな かった 。
抽 出生徒 C は「 付箋 紙は見 つけや すいし、
動かして違うところに貼ったりできるし、
筋道を立てるのに立てやすくとても使いや
すかった」と振り返っており、証明に必要
な付箋紙を選んだり、並べ替えたりして筋
道を立てた証明がかけるようになった。ま
図8 完全に証明をかけたノート
た、 付箋紙 の使い 方が慣 れてき た生徒 の中に
は自分がかいた図の中にある等しい辺や角と付箋
図9 証明に必要ないので「×」を
つけた付箋紙
紙の色を同じにして証明を進めようとしていた。
個別に指導をして証明を進めさせ、このような生
徒は 10 人( 30 %) であっ た。「図形と 同じ色 の付
箋紙を使うことで図形のどこの部分が証明の根拠
として必要なのかを見やすく、図形と付箋紙をす
ぐ振り返ることができるので非常に役に立った」
と感想にかいている生徒もおり、図形からの気付
きと証明に必要な根拠を常につなげることにも役
立っ ている ことも わかる 。
授業を進めていく中で図形に付ける色と気付き
カー ドは最 低何組 必要か という 問いに 対して、「 3
種類あれば三角形の合同を導ける」ということに
-7-
図10 付箋紙を並び替えて証明問題を解いたノート
25 人 ( 73 % ) が 気 付 く よ う に な っ た 。
また、証明に必要ではない付箋紙には
「バツ」をかいたり、証明では使わな
い付箋紙は違う場所に貼ったりと自分
なりに付箋紙の使い方を工夫して証明
を考えられるようになった生徒もいた
(図 9、図 10、 図 11)。
以上のことから、図形と根拠をかい
た付箋紙を見比べながら証明に必要な
付箋紙を選んだり、並べ替えたりする
ことは筋道を立てて考え、根拠を明確
にした証明がかけるようになったこと
に有 効であ ったと 言える 。
Ⅵ
1
○
研究の成果と今後の課題
図11 証明をまとめた生徒のノート
研究の 成果
合 同に な りそ うな 三角 形 を見 つけ 出 し、 その 三角 形の 中 で理 由が は っきり してい る等し い辺や 角
に赤 ・青 ・ 黄・ 緑な どと 色 分け する こ とで 、等 しい 辺や 角 が一 目で わ かり、 視覚的 にとら えやす く
な り、三 角形の 合同条 件を的 確に探 し出す ことが でき た。
○
色 分け し た辺 や角 と同 じ 色の 付箋 紙 に証 明に 必要 な式 や 言葉 の根 拠 をかき 込むと いった 図形か ら
の気 付き を 証明 に必 要な 根 拠に 関連 付 ける 活動 を取 り入 れ たこ とで 、 証明に 対する 苦手意 識や抵 抗
感 が軽減 させる ことに つなが った。
○ 図 形か ら の気 付き と付 箋 紙に かい た 証明 に必 要な 根拠 を 振り 返り な がら見 比べ、 証明に 必要な 根
拠を かい た 付箋 紙を 選ん だ り、 並び 替 えた りす るこ とで 、 筋道 が立 て やすく なり、 根拠を 明確に し
た 証明が かける ように なった 。
2
○
今後の 課題
証明をかけなかった生徒はいたが、図形に1組だけでも等しい辺や角を
探し出せていたので、まずは合同になりそうな三角形を見つけられる力が
必 要だと 感じた のでそ の指導 の工夫 を考え ていき たい 。
○
証明を結論からさかのぼって証明を考えていく方法を試みたが、筋道を
立てたり、考えたりする上でとても重要な方法だと感じた。そこで最初に
図 12 のよ うに簡 単に証 明の流 れをと らえさ せ、「図形か らの気 付き を根拠
に 関連付 ける活 動」と 絡めた 指導を 工夫し ていき たい 。
図12 証明の流れ
〈主 な参考 文献〉
○
○
「論理的な思考力を育てる図形の論証指導の工夫』佐藤明彦(群馬県総合教育センター
「数学 的な思 考力・ 表現力 を鍛え る授業 24」 熊倉 啓之 編 ( 明治図 書 2011)
2004)
○
「 子ど もの力 を引き 出す板 書・ノ ート指 導のコ ツ」岩 瀬直樹 ・川村 卓正
2010)
-8-
著
( ナツメ 社