婦人科医長 小野瀬 亮 - 神奈川県立がんセンター

2015/01/24 神奈川県立がんセンター
第6回市民公開講座「がんを知る」
~子宮体癌、前立腺癌の最新治療~
第1部 「子宮体癌について」
○手術療法と化学療法について
神奈川県立がんセンター 婦人科医長
小野瀬 亮
子宮体がん治療ガイドライン
子宮体がんガイドライン作成の目的は?
本ガイドライン作成の目的は、体癌の日常診
療に携わる医師に対して、現時点でコンセン
サスが得られ、適正と考えられる体癌の標準
的な治療法を示すことにある。それにより体癌
の治療レベルの均霑化と治療の安全性や成
績の向上を図ることが期待できる。
子宮体がん治療ガイドライン 2006年版より
子宮体がんガイドライン作成の目的は?
本ガイドラインはあくまでも診療上の参考に供
するものであって、これにより治療法自体に制
約を加えるものではない。実際の臨床におけ
る治療法の選択は、個々の症例や患者および
家族の意向にも考慮して、ガイドラインを参考
にしたうえで医師の裁量で行われるべきもの
と考える。
子宮体がん治療ガイドライン 2006年版より
子宮体がんガイドライン作成の目的は?
なお、本ガイドラインの記述内容に対しては日
本婦人科腫瘍学会が責任を負うものとするが、
治療結果に対する責任は直接の治療担当者
が負うべきものと考える。
子宮体がん治療ガイドライン 2006年版より
婦人科領域のがんの特徴
1 発見され易い(体表に近い所に臓器が存在し、症状
が出やすい)
2 他のがんに比べ治り易い
子宮頚癌の5年生存率=約85%
子宮体癌の5年生存率=約85%
卵巣癌の5年生存率 =約60%
3 子宮頚癌では、早期がんで発見されれば、100%治り、妊
娠・出産も可能
4 子宮頚癌は発生年齢の低下が顕著
5 子宮体癌の発生数が著しく増加している
子宮体癌とは
1)発生の平均年齢は56〜7才
40才未満は4.6%
2)若年発生は不妊症・月経不順・ホルモン産生腫瘍
3)TAM誘発体癌(乳癌との重複がんも多い)
4)90%以上は不正性器出血を伴う
5)体癌における診断率は組織診・細胞診とも85%程度
6)子宮体癌の65%は I 期である(新分類)
7)80%以上が類内膜腺癌で、うち54%はG1である
8)全体で5年生存率は83.6%
9)リンパ節転移の率は8〜15%
10)転移の80%は2年以内に生じる
子宮癌症例数の推移
7000
6000
5000
4000
子宮頸癌
3000
子宮体癌
2000
1000
0
2001200220032004200520062007200820092010
日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会
子宮癌症例数の推移
160
140
120
100
80
子宮頸癌
子宮体癌
60
40
20
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
神奈川県立がんセンター
子宮体癌 臨床進行期分類
2012年症例より変更
Ia期
間質
Ib期
腹腔洗浄細胞診は問
わない
IIIc1=骨盤陽性
IIIc2=傍大動脈陽性
症例数年次推移
90
80
70
60
IV
50
III
40
II
I
30
20
10
0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
(分類FIGO2008)
臨床進行期別症例数(N=831)
IV
8%
III
18%
II
8%
I
66%
(分類FIGO2008)
患者背景(組織型別)
類内膜
漿液性
粘液性
明細胞
腺扁平
15%
1%
3%
4%
4%
73%
その他
CQ01:
術前にI期と考えられる症例に対する
子宮摘出術式は?
①腹式単純子宮全摘術が奨められる。
②拡大単純子宮全摘出術あるいは準広汎子宮全摘術も考慮さ
れる。
子宮体がん治療ガイドライン 2013年版より
CQ2:
術前にII期と考えられる症例に対する
子宮摘出術式は?
臨床的に子宮頸部間質浸潤があると考えられる症例には、
準広汎子宮全摘出術あるいは広汎子宮全摘出術が考慮さ
れる。
子宮体がん治療ガイドライン 2013年版より
切除範囲:単純全摘vs広汎全摘
単純子宮全摘術
広汎子宮全摘術
広汎子宮全摘術の合併症
•
下肢リンパ浮腫(腫脹・蜂窩織炎・疼痛)
•
腟の短縮(性交障害)
•
術後神経因性膀胱(尿閉・尿満感欠損)
過去の症例では、II期体癌で単純子宮全摘を施行した症例と、
広汎・準広汎で子宮切除した群と予後・再発形式で差はな
かった。
神奈川県立がんセンターでは、子宮体癌にたいしては単純
子宮全摘術で子宮を切除しています。
CQ3:
骨盤リンパ節郭清の意義は?
①骨盤リンパ節郭清の正確な進行期を決定する上での診断
的意義は確立されている。
②骨盤リンパ節郭清の治療的意義は確立されていないが、
中・高リスク群と予想される症例では郭清が考慮される。
CQ04:
傍大動脈リンパ節郭清(生検)の意義
は?
①傍大動脈リンパ節郭清(生検)は手術進行期決定に必要
である。
②傍大動脈リンパ節郭清(生検)の治療的意義は確立され
ていないが、中・高リスク群と予想される症例では郭清(生
検)が考慮される。
CQ06:
卵巣温存は可能か?
①初回治療において原則として両側付属器摘出術を行い、手術
進行期を決定する。
②高分化型で筋層浸潤の浅い若年症例では卵巣温存に伴う危
険性を十分に説明した上で温存が考慮される。
CQ14:
腹腔鏡下手術は標準術式の一つと
なり得るか?
①病巣が子宮に限局し子宮頸部間質浸潤がないと予想される
早期子宮体癌(I期)に対しては、症例により腹腔鏡下手術の日
常診療での実践も考慮される。
②進行子宮体癌に対する腹腔鏡下手術は奨められない。
CQ26:
術前にIII・IV期と考えられる症例に
対する手術療法の適応は?
子宮摘出術と可及的腫瘍減量術が可能であれば、手術療法
を考慮する。
子宮体癌手術治療方針:個別化
1)腫瘍体積
6 ㎤を超える(画像/肉眼所見)
⇒1点
2)筋層浸潤
1/2を超える(画像/肉眼所見)
⇒1点
3)組織型
類内膜G1以外(術前生検組織)
⇒1点
4)術前 CA125値
0
閉経前 70U/mlを超える
⇒1点
閉経後 25U/mlを超える
⇒1点
点:単純子宮全摘+両付摘
1〜2 点:単純子宮全摘+両付摘+骨盤リンパ節廓清
3〜4 点:単純子宮全摘+両付摘+骨盤リンパ節廓清
+傍大動脈リンパ節廓清
頚部浸潤の予測される例も術式の変更は行わない
III・IV期症例でも可能ならば、子宮摘出・両側付属器摘出(可及的腫
瘍減量術)は施行する。
後腹膜リンパ節
「子宮体癌取扱い規約」より
「産婦人科手術のための解剖学」より。
子宮体癌の術式による差異
1998年4月〜2003年8月
全例
N=238
廓清なし
N=94
骨盤まで
N=64
傍大動脈まで
N=80
手術時間
3:51
1:59
3:20
6:28
出 血 量
490g
339g
500g
676g
輸
血
87例
20例
13例
54例
他家血
27例
13例
1例
13例
副 障 害
尿管損傷:2
イレウス:3
大腿神経マヒ:1
創離開:2
動脈血栓症:1
尿管損傷:1
尿管狭窄:1
イレウス:4
大腿神経マヒ:1
創離開:1
骨盤リンパ嚢胞:3
ドレーン長期:3
下肢浮腫:3
尿管狭窄:2
イレウス:3
創離開:5
リンパ嚢胞:6
ドレーン長期:4
ドレーン部膿瘍:1
下肢浮腫:3
(2例象皮症)
肺梗塞:2
子宮体癌の早期発見
1. ほとんどの市町村は子宮体癌検診を実施してい
るが、対策型検診を行うことでの死亡率低下効
果は認められていない
2. 子宮体癌検診は症状のある女性に対し、選択的
に行うことになっている
3. 子宮体癌患者の90%は不正性器出血の症状があ
る
4. 40歳未満の発生は5%以下である
→更年期以後の不正性器出血があった際は産婦人
科を受診し、検査を受けましょう
子宮体癌の術後再発リスク分類(子宮体がん治療ガイドラインより)
低リスク群: 類内膜腺癌G1あるいはG2で筋層浸潤1/2未満
頸部間質浸潤なし
脈管侵襲なし
遠隔転移なし
中リスク群: 類内膜腺癌G3で筋層浸潤筋層浸潤1/2未満
類内膜腺癌G1あるいはG2で筋層浸潤1/2以上
頸部間質浸潤なし
脈管侵襲あり
漿液性腺癌、明細胞腺癌で筋層浸潤なし
遠隔転移なし
高リスク群: 類内膜腺癌G3で筋層浸潤筋層浸潤1/2以上
漿液性腺癌、明細胞腺癌で筋層浸潤あり
付属器・漿膜・基靭帯進展あり
頸部間質浸潤あり
腟壁浸潤あり
骨盤あるいは傍大動脈リンパ節転移あり
膀胱・直腸浸潤あり
腹腔内播種あり
遠隔転移あり
子宮体癌(類内膜腺癌)の術後治療フローチャート
(子宮体癌治療ガイドラインより一部改変)
手術進行期の決定
再発リスク評価
低リスク群
経過観察
中リスク群
化学療法または
放射線治療
残存腫瘍なし
高リスク群
残存腫瘍あり
腫瘍減量手術
±放射線療法
±化学療法
±ホルモン療法
CQ17:
術後化学療法を行う適応と
推奨される薬剤は?
①高リスク群に対しアドリアマイシンとシスプラチンの併用療法
(AP療法)が奨められる。」
②TC療法等のタキサン製剤とプラチナ製剤併用療法も考慮される。
③中リスク群に対し術後化学療法が考慮される。
④低リスク群に対する術後化学療法は奨められない。
子宮体癌術後療法治療指針
術後補助化学療法の対象
1)原則としてIII期以上
2)I-II期では脈管侵襲陽性および
特殊組織型(漿・明・癌肉腫)のみ
術後補助化学療法の組み合わせ
タキソール+カルボプラチン療法を6
コース
(腹腔細胞診陽性のみ⇒3コース)
臨床進行期別生存率
生存率(
%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
20
40
60
80
100
120
140
生存期間(月)
I期(N=550):5年生存率 95.5%
II期(N=62):5年生存率 91.3%
III期(N=149):5年生存率 65.4%
IV期(N=70):5年生存率 27.3%
症例全体生存率
生存率(
%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
20
40
60
80
100
120
140
生存期間(月)
5年生存率:83.9% 10年生存率:80.6%
臨床進行期別5年生存率
I
96.3
II
92.7
III
80.6
IV
35.8
日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会 第54回治療年報(2006年治療例)
(分類FIGO1988)