神奈川版:「読解力」向上のためのガイドブック 中学校 美術科 3年生 言葉から発想する抽象絵画 美術科 3年生 言葉から発想する抽象絵画 1 単元・題材の目標 2 生徒について 抽象絵画とはどういうものか理解し、自分の発 抽象絵画にあまりなじみのない生徒でも、抽象絵画 想力や構想力や表現力を広げることができるよ と具象絵画の表現の違いを理解することで、より多様 うにする。言葉を、一つのイメージとして読み解 で豊かな絵画表現ができることが分かる。そのため、 き、色や形や材質感を用いて、絵に表現させる。 生徒が初めて抽象的な表現をする際には何らかの手 第2学年及び第3学年の目標の一つである「対 掛かりとして、多様なテキストに対応した読む能力を 象を深く見つめる力,感性や想像力を一層高め, 育成する必要がある。さらに言葉を、色や形や材質感 独創的・総合的な見方や考え方を培い,豊かに発 を用いて抽象画として描くときの手掛かりとして読 想し構想する能力や自分の表現方法を創意工夫 み解き、目に見えるイメージとして発想を膨らませて し創造的に表現する能力を伸ばす。」に沿うもの 表現する姿勢につなげる。 である。 3 評価規準 美術への関心・意欲・態度 発想や構想の能力 創造的な技能 抽象絵画の意味すると ひとつの言葉のイメー 様々な表現形式や技法、 ころを理解し、作品に取り ジをよく読み取り、色や形 新しい画材に慣れ、自分の 組もうとする。 や材質感などを豊かに発 表したい言葉のイメージ 想して、画面を構成するこ を表現することができる。 とができる。 鑑賞の能力 参考作品や文章から抽 象絵画の意味を読み取り、 自らの制作にいかすこと ができる。友達の作品のよ さを味わい、自身の制作に いかすことができる。 4 学習指導計画 各時間 付けたい力 抽象への導 抽象絵画と具象絵画の違い 入 を資料から理解させる。 (1時間) キーワードから色や形を発 想し、イメージを基に自由に描 かせる。 学習活動 対象とするテキスト 抽象絵画とはどういうものなのか、理 ・カンディンスキーの 解し、それを描くためのイメージをも 文章 つ。「喜怒哀楽」それぞれの言葉からイ ・神とアダムの指先図版 メージできる色や形を、クロッキー用紙 ・三角形の鋭角と円の接 に色鉛筆で自由に描く。 触の図 【情報の取り出し】【解釈】【表現】 ・抽象画の図版 ・制作中のポロックの 写真 ・「喜怒哀楽」というキ ーワード 抽象の発展 好きな言葉や思い付いた言 生徒一人ひとりが自分の好きな言葉 ・教師の実演 (1時間) 葉から色や形をイメージして、 や思い付いた言葉から色や形をイメー ・友達の作品 自由に描かせる。 ジして、クレヨンで自由に描く。画材の ・国語辞典 違いによる表現の違いを感じる。 制作・まと 一つのキーワードを決め、 め その言葉から思い浮かぶ色や (2時間) 形、材質感を表現させる。 キーワードから、色や形、材質感を思 い浮かべて、アクリル絵の具、塑形用下 地材、キャンバスボード、ペインティン グナイフ、砂などの画材で、自分のイメ ージに合うよう工夫して表す。 1 ・教師の実演 ・参考作品 ・友達の作品 ・国語辞典 5 授 業 計 画 【 言葉から発想する抽象絵画】 (1時間) 時間 学習内容 テキスト 評価 評価規準 学習活動 評価方法 1 抽象絵画とはどういう ものなのか、理解する。 カンディンスキーの 「芸術と芸術家」から一 節の文章を読み抽象絵画 に関心をもつ。 カンディンスキーの 文章 予想される子どもの反応 ○抽象絵画に関するカンディンスキーの書いた 文章を読み、 感じたことや分かったことを発表 する。 よく意味が分からないという感想 等 何となくイメージがつかめるという感想 等 神とアダムの指先図 版 第1図 三角形の鋭角と円の接 触図 第2図 クレー、モンドリアン、抽象絵画の図版やポ 発言の確認 カンディンスキー、ポロ スター等をよく見て、 ック、吉原治良の抽象絵 抽象絵画への理解を 画の図版やポスターを見 より深めようとして て、抽象絵画について理 いる。【鑑賞の能力】 解を深める。 抽象画の図版 制作中のポロックの写真 を見て、その表現技法に 気付く。 制作中のポロック の写真 第3図 「喜怒哀楽」というキ ーワードを基に色鉛筆で イメージを色や形で表現 することができる。 「喜怒哀楽」というキ ーワード ○抽象絵画の図版やポスターを見ることで、 抽象 的な表現方法についてヴィジュアルなイメージ をもつ。 ○気付いたことを発表する。 具体的なイメージがもてたという感想 等 楽しそうな音が聞こえてくるようだという 感想 等 曲線がリズミカルに感じるという感想 等 よく分からないなぁという感想 等 制作中の抽象画家の 発言の確認 写真から描き方には ○一般的な絵を描く静かなイメージとは違い、 様々な方法があるこ アクティブに立って絵の具を振りまいている とを理解しようとし ポロックの姿を見て、作者の表現意図を探り、 ている。【関心・意欲 こんな描き方もあるんだという認識をもつ。 ・態度】 ○気付いたことを発表する。 こんな描き方もあるんだという感想 等 意外と規則的に絵の具を振りまいている 感じがするという感想 等 「喜怒哀楽」というキ 作品の分析 ーワードから、自由に 発想し、イメージを色 ○「喜怒哀楽」という言葉から思い描くイメージ や線、形で表現するこ を、クロッキー用紙に色鉛筆で描く。 とができる。 イメージを 色や形で表すことができる生 【発想や構想の能力】 徒 イメージが思い描けず、言葉の意味から具 体的な形を絵に取り入れてしまう生徒 2 「読解力」 スキル 指導上の留意点 情報の取り出し ○文章を読んで、意味を理解し、 ◇カンディンスキーの書いた文章から、抽象絵画への理解 解釈 を深められるように、ミケランジェロの「神とアダムの 抽象絵画への理解を深めるこ (カンディンス 指先」の図版と、三角形の鋭角と円の接触の図を用意し、 とができる。 キーの文章・神 具象的な形がなくても感じられるものを理解できるよ とアダムの指 うにする。 先図版・三角形 “今日の絵画では、画面に描かれた一個の点が、説明さ の鋭角と円の れた人物の表情以上に多くを語ることさえある。 三角形 接触図 ) の鋭角と円の接触はミケランジェロの描いた神とアダ ムの指先にも負けないドラマチックな効果を持ってい る。” カンディンスキー著 西田秀穂・西村規矩夫訳 1962 『カンディンスキー 芸術と芸術家』美術出版社 p.157 第1図(ここではイラストで示 第2図 す) 情報の取り出し ○資料(図版)からヴィジュアル なイメージをもち、自分の考え ○ クレー、モンドリアン、カンディンスキー、ポロック、 解釈 (抽象画の図版) を説明することができる。 吉原治良の抽象絵画の図版やポスターを提示して、何 表現 を感じるか質問し、板書で発言を確認する。 情報の取り出し ○資料(写真)から多様な描画方 法があることを理解し、自分の考 ○制作しているポロックのアクションペインティングの 解釈 (制作中のポロ えを説明することができる。 様子を見て、何を感じるか質問し、板書で発言を確認す ックの写真) る。 表現 情報の取り出し ○「言葉」のイメージを色や形に 第3図 置き換えて、表現することがで 解釈 (ここでは写真のイメージをイラストで示す) きる。 (「喜怒哀楽」とい ○「喜」「怒」「哀」「楽」、それぞれの言葉のイメージ うキーワード) を色や形に置き換えて、クロッキー用紙に色鉛筆で描く 表現 ようにうながす。 3 6 本単元・題材の学習と「読解力」 本単元は、言葉を、色や形や材質感を用いて、一つのイメージとして読み解き、絵に表現する題材である。「読 解力」を育成するという視点から、なるべく多くの種類のテキストを取り入れた。 抽象絵画を理解するにあたり、カンディンスキーの文章や、クレー、モンドリアン、ポロック、吉原治良など の抽象画の図版や、制作中のポロックの写真などのテキストを用意した。抽象絵画の理解と同時に、抽象的な言 葉のイメージを色や形に置き換えて読み解くこともこの題材で育てたい「読解力」である。 カンディンスキーの文章は、『カンディンスキー 芸術と芸術家』からの一節で、“三角形の鋭角と円の接触 はミケランジェロの描いた神とアダムの指先にも負けないドラマチックな効果をもっている”という一文におい て、抽象絵画の父といわれているカンディンスキーの抽象への考え方を端的に表している。日頃より抽象絵画を 目にすることはあっても、改めて、それがどのようなものなのかと考えたことはないであろう生徒達に抽象絵画 とは何なのかを理解させるには、インパクトのある文章である。実際に三角形の鋭角と円の接触の図とミケラン ジェロの描いた神とアダムの指先の絵を並べて見せることで、言葉では説明できなくても、目で抽象とは何かを 感じることができる。 クレー、モンドリアン、ポロック、吉原治良などの抽象画の図版は、一口に抽象絵画といっても、様々な表現 があることを知らせ、生徒の興味を引き出すために提示する。カラーコピーやポスターを使い、ヴィジュアルに 訴える。 制作中のポロックの写真は、立ち上がって足下に絵の具を振りまいているようなポロックの姿を見ることで、 生徒達の“絵画”に対する見方に、「こんな風な描き方もあるんだ」という風穴を開け、自由な表現ができるよ うに導くためのものである。 このようにして、段々と抽象絵画への理解を深めた生徒達は、いよいよ自分たちが抽象絵画を描いてみるとい う作業に入る。ただ、「色や形や材質感を抽象的に描いてみよう」といっても難しいので、具体的なイメージを もたない言葉をヒントに色や形や材質感のイメージをさがす。ここでは、言葉のイメージを広げる手だてとして、 国語辞典もテキストとして使う。また、友達や教師と会話しながら言葉のイメージを交換することでも、読み取 りが深まっていく。言葉を色や形や材質感で読み取っていく過程では、画材を色鉛筆、クレヨン、アクリル絵の 具、塑形用下地材、砂等と変えながら描いていくことで、イメージをより深化させ、自由な表現ができるように する。 生徒作品の例 『発 見』 迷いや不安、悩みの中で、何かを見付けた おどろき 喜び 感動 『騒 音』 「音」を絵で表現しようとして、はじけている ような大きな音をイメージしてかきました。 引用文献 カンディンスキー著 西田秀穂・西村規矩夫訳 1962『カンディンスキー 芸術と芸術家』美術出版社p.157 4
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