近現代の日本と世界 (欧米のアジア進出)

神奈川版:「読解力」向上のためのガイドブック
中学校 社会科
2年生
近現代の日本と世界 (欧米のアジア進出)
社会科・歴史的分野 2年生
近現代の日本と世界
(小単元:欧米のアジア進出)
学習指導要領〔歴史的分野〕(5)近現代の日本と世界 ア の一部
1
単元・題材の目標
2
16~19世紀の欧米諸国における市民革命、産業革
命について理解させ、その後の欧米諸国のアジア
進出の目的や、アジアの国々への影響について様
々な資料を基に探らせる。
3
生徒は「ヨーロッパ人との出会いと全国統一」の学習に
おいて日本と諸外国とのかかわりについて学んできたが、
まだ日本の動きを国際的視野から考えるまでに意識は高
まっていない。本小単元では、日本の歴史に影響を及ぼす
世界の動きを学ぶとともに、歴史上の事件や事象が、社会
的、経済的要因に基づいていることを認識させられるよう
工夫した。生徒はグラフの読み取りはある程度できるの
で、複数の資料を総合して考えさせる活動を取り入れた。
評価規準
社会的な事象への
関心・意欲・態度
欧米諸国の市民革命や
産業革命に関心をもち、
近代国家の基礎の形成
や、その後のアジア諸国
への影響について意欲的
に探っている。
4
生徒について
社会的な思考・判断
市民革命及び産業革命と
その後のヨーロッパのアジ
ア進出について、その背景
や影響を多面的・多角的に
考察している。
資料活用の技能・表現
社会的事象についての
知識・理解
市民革命や産業革命、その 市民革命や産業革命、その
後の欧米諸国とアジア諸国の 後の欧米諸国とアジア諸国
関係について、資料から情報 の関係について理解し、基本
を収集し、適切に活用・表現 的知識を身に付けている。
している。
学習指導計画
各時間
付けたい力
学習活動
対象とするテキスト
市民革命の
欧米諸国が、市民革命を通し フランス革命がどのような歴史的背景 ・マリー・アントワネット
時代
て近代国家を形成していった過 の基で起こり、その後の歴史にどのよう が言ったとされる言葉
(1時間) 程を理解させる。
・岩(税金)に押しつぶされ
な影響を与えたのかを考える。
【情報の取り出し】
【解釈】
【熟考・評価】 た第三身分の絵
・立ち上がる第三身分の絵
・革命前後の変化の絵
・人権宣言
産業革命と
産業革命後の社会・経済の変 産業革命が起こったことによって経済 ・イギリス工業の発展のグ
欧米諸国
化を理解させる。
の仕組がどう変わったのか、社会生活に ラフ
(1時間)
どのような変化をもたらし、どのような ・イギリスの主要貿易品目
の推移の変化のグラフ
問題が起こったかを理解する。
・技術の進歩の図
【情報の取り出し】【解釈】【表現】
・産業革命に関する文章
ヨーロッパ
イギリスを中心としたヨーロ ヨーロッパ諸国がアジアに進出し、ど ・インドとヨーロッパのビ
のアジア進 ッパ諸国がアジア進出した理由 のようにアジアの国々を利用したのかを デオ
出
とその経緯を理解させる。
産業革命との関係を考えながら探り、ア ・インドの綿布輸出のグラ
(1時間)
フ
ジア進出が及ぼした影響を理解する。
【情報の取り出し】【解釈】【表現】 ・イギリスの綿布輸出のグ
ラフ
・インドとイギリスの綿布
輸出のグラフ
・イギリスの綿織物の輸出
先のグラフ
1
5
授業計画【欧米のアジア進出】(3時間)
時間
学習内容
テキスト
1
評価
評価規準
評価方法
学習活動
予想される子どもの反応
革命前のフランスの状
況について理解し、革命
までの過程を考察する。
マリー・アントワネットが
言ったとされる言葉(資料
Ⅰ)
岩(税金)に押しつぶされ
た第三身分(絵)
(資料Ⅱ)
資料に表現され 記述の確認
たものを適切に
読み取り、これ
を基にして革命
前後の変化につ
いて説明してい
る。
【技能・表現】
○資料Ⅰ・Ⅱから得られる情報を基に当時のフラン
スの状況を理解する。
フランスで起こった変
化について考える。
立ち上がる第三身分(絵)
(資料Ⅲ)
提示された資料 記述の分析
から得られた情
報を基にフラン
ス革命について
適切に考察して
いる。【思考・
判断】
○資料Ⅲを見て、この後フランスで起こる変化を予
測する。資料Ⅲの絵が示す状況を考え、ワークシ
ートにまとめ、発表する。
今まで我慢していた農民や市民(第三身分)の怒
りが爆発し、貴族や僧侶(特権身分)に襲いかか
ろうとしている。など
王妃は世間知らずだ。ひどい。
農民や市民が大変な思いをしている。など
○資料Ⅳからフランス革命前後の三つの身分の関係
の変化を読み取り、どのような変化があったのか
自分の言葉で説明する。
革命前は、貴族と僧侶が特権身分として農民や
市民の上に立ち苦しめていたが、革命後は立場
が逆転し、第三身分が中心となって社会を動か
すようになった。など
革命による社会の変化
について考える。
革命前後の変化(絵2枚)
(資料Ⅳ)
○資料Ⅱ・Ⅲ・Ⅳと照らして、資料Ⅰのマリー・ア
ントワネットが言ったとされる言葉を評価する。
○人権宣言の内容とその後の共和政について確認す
る。
人権宣言と革命後のフ
ランスの動きについて確
認する。
人権宣言
2
産業革命後のイギリス
の貿易の変化について考
える。
イギリス工業の発展・イギ
リスの主要貿易品目の推
移(グラフ)
(資料Ⅴ)
産業革命に関心 記述の点検
をもち、その影
響について意欲
的に追究しよう
としている。
【関心・意欲・
態度】
○資料Ⅴ、Ⅵを見て、分かること、予想できること
を考える。
産業革命と綿織物の関
係について考える。
イギリスの主要貿易品目
の推移(グラフ)
(資料Ⅵ)
・技術の進歩(図)(資料
Ⅶ)
複数の資料の情 記述の分析
報と産業革命を
適切に関連付け
て考察してい
る。【思考・判
断】
○資料Ⅶを加え、綿織物の輸出割合が大きくなった
理由を考え、ワークシートにまとめ、発表する。
その頃イギリスで多くの機械の発明や改良が行
われ、生産の増大につながった。など
産業革命による社会の
変化について理解する。
産業革命(教科書の文
章)
産業革命による 記述の確認
社会の変化につ
いて理解してい
る。【知識・理
解】
○ワークシートに従って教科書の内容を整理するこ
とを通して、産業革命によってどう社会が変化し
たかを理解する。
2
18 世紀末から工業生産が急激に増えている。
1850 年、輸出品の中で綿織物が4割を占めるよ
うになっている。
1850 年になると輸入品の綿・絹織物の割合が 10
分の1になっている。
原綿が2割を占めるようになった。
「読解力」
スキル
指導上の留意点
情報の取り ○絵や写真の中から状況を判断す ◇資料Ⅰはマリー・アントワネットが言ったとされていた
が、別の人が別の場面で言ったものであるらしいことに触
出し、解釈、 ることができる情報を取り出す
れておく。
ことができる。
(・マリー・ア
ントワネッ ○複数の情報を照らし合わせて、解
資料Ⅰ
釈することができる。
トが言った
とされる言
パンがなければ、ケーキを食べればいいのに。
葉
○この絵を他の人に紹介するとしたらどのように話すかを
・岩に押し
考えさせ、より具体的に考えられるようにさせる。
つぶされた
第三身分の
絵
○第三身分の様子に注目させ、その変化を中心に読み取るよ
・立ち上が
うにさせる。
る第三身分
の絵・革命
前後の変化
の絵)
○一つのテキストを、他のテキスト 「資料Ⅱ~Ⅳの絵が示すストーリーと照らして、資料Ⅰ
から得た情報に基づいて評価す がマリー・アントワネットが言ったとされたことについて
あなたはどう思いますか?いずれかの資料の内容にふれな
ることができる。
がらあなたの考えを述べなさい。」
○テキストを、そのテキストが書か
解釈
(人権宣言) れた背景を基に解釈することが
できる。
熟考・評価
(同上)
情報の取り ○グラフが示す特徴的傾向を一定
の視点から指摘することができ
出し、解釈
る。
(イギリス工
業の発展
・イギリス
の主要貿易
品目の推移
のグラフ)
資料Ⅴ
「ワイド版歴史資料集」
(新学社)
表現
○資料に基づいて、自分の意見を表 ○綿織物の輸出割合が大きくなるとともに原綿の輸入割合
が大きくなっており、綿織物の輸出割合が綿織物の生産に
現することができる。
関係が深いことに気付かせる。
資料Ⅶ
情報の取り ○テキストに記述された内容を、一
定の形式にしたがって整理する
出し、解釈
(「産業革命」 ことができる。
教科書の文
章)
3
時間
学習内容
テキスト
3
インド国内の状況とイ
ギリスの進出について理
解する。
インドとヨーロッパ
(ビデオ)
評価
評価規準
評価方法
資料から得られ 記述の点検
た情報を整理
し、適切に表現
している。【資
料活用の技能・
表現】
学習活動
予想される子どもの反応
○ビデオを見てインド国内の状況とイギリスの進
出についてワークシートの設問にしたがって考
える。
インドの主な輸出品は、香辛料と綿織物であっ
た。
インドのキャラコ(綿織物)はイギリスで大変
人気があった。
東インド会社は綿織物を手に入れたくてインド
に進出した。
○資料Ⅷを見て、気付いたこと、分かること、予想
できることを考え、ワークシートにまとめ、発表
する。
19世紀末からのインド
の貿易の変化について理
解する。
インドの綿布輸出
(グラフ)(資料Ⅷ)
インドからの輸出量は1800 年ころを境に急激に
減少している。
資料や学習内容 記述の分析
に基づいて、イ
ンドの貿易の変
化とその原因に
ついて、適切に
考察している。
【思考・判断】
イギリスのインド進出
の意図を考える。
イギリスの綿布輸出
(グラフ) ・インドとイギリ
スの綿布輸出(グラフ)(資
料Ⅸ)
○資料Ⅷにみられる変化が出てきたのはなぜか、原
因を考え、ワークシートにまとめ、発表する。
綿布が売れなくなったのではないか。
産業革命を終えたイギリスが大量に綿布を生産
し、輸出するようになったからではないか。
○イギリスがインドに綿織物を輸出するようにな
ったことを確かめるには、どのような資料があれ
ばよいかを考える。
イギリスの綿織物の輸出量の変化を示す資料
(資料Ⅸ)、イギリスの綿織物の輸出先。など
イギリスの綿織物の輸出先 イギリスのイン 発言の確認
ド進出について
(グラフ)(資料Ⅹ)
意欲的に追究し
ようとしてい
る。【関心・意
欲・態度】
○資料Ⅹを見て気付いたこと、分かること、予想で
きることを考え発表する。
インドへの輸出割合が急激に増え、3割を越え
ている。
アジア地域への輸出が4割を占めている。
○疑問に思うことを発表する。
インドは国内で良質な綿織物を作ることができ
るのに、
なぜイギリスから輸入しなければならな
いのか。
イギリスがどのように 欧米諸国とアジ 記述の確認
中国を市場化したか理解 ア諸国の関係に
する。
ついて理解し、
基本的知識を身
に付けている。
【知識・理解】
4
○清の鎖国政策とアヘン戦争へ至る経緯と、南京条
約の内容を確認する。
「読解力」
スキル
指導上の留意点
情報の取り ○ビデオから指定された条件に合 ○はじめにワークシートの質問を読ませてから視聴し、ポ
イントをとらえさせる。
致する情報を取り出すことがで
出し
○「主な輸出品は何か。インドの貿易はどのように行われ
きる。
(インドと
ていたか」の2点について気を付けて視聴するようアド
ヨーロッパ
バイスする。
のビデオ)
情報の取り ○グラフが示す特徴的傾向を指摘 ○既習の学習とのかかわりを考えていけるよう必要に応じ
補助発問を行う。
することができる。
出し、解釈
○輸出量の推移を細かく分析するのではなく、全体的な推
(インドの
移を読み取るようアドバイスする。
綿布輸出の
グラフ)
資料Ⅸ
「ワイド版歴史資料集」
(新学社)
情報の取り ○複数の情報を照らし合わせて、解 ○グラフの種類による特徴に注意させながら、複数の資料
が互いに因果関係をもっていることに気付かせる。
釈することができる。
出し、解釈
(インドと
イギリスの
綿布輸出の
グラフ、イギ
リスの綿織
物の輸出先
のグラフ)
表現
○資料に基づいて、自分の意見を表 ○綿布の輸入を大きな目的としてインドに進出したイギリ
スは、産業革命によって綿布の大量生産が可能になると
現することができる。
インドから綿花を輸入し(原材料の供給)、自国で生産
した安価な綿布をインドに輸出し、インドの綿布産業を
壊滅に追い込んだことを補足する。
イギリスの綿織物の輸出先
100%
90%
7
0
6
5
4
80%
10
18
70%
その他
4
22
31
60%
50%
4
資料Ⅹ(例)
7
12
中国・日本・ジャワ
インド
35
9
アメリカ合衆国
9
20
アメリカ(合衆国を除く)
25
13
トルコ・エジプト・アフリ
カ
40%
30%
51
20%
10%
ヨーロッパ
8
0%
1820年
1840年
1860年
5
6 本単元の学習と「読解力」
本単元は、市民革命と産業革命の概要をつかみ、これらがその後の歴史に与えた影響について展望する単元で
ある。歴史が大きく動く変革期の学習であり、扱う内容も多くなりがちであるが、資料から様々な情報を読み取
り考えさせることで、具体的なイメージをもつことができ、知識に偏らない効果的な学習を行うことが期待でき
る。そこで「読解力」の育成という視点から、教材には絵やビデオを含む非連続型テキストを中心に取り上げた。
単元冒頭のフランス革命の学習に当たっては、非連続型テキストである絵から情報を取り出し、解釈させる学
習活動を行った。本単元で扱った「岩(税金)に押しつぶされた第三身分」「立ち上がる第三身分」「革命前後
の変化」はより具体的にイメージを広げることができるように、ストーリー性のある一連の資料として提示した。
絵から学習に有効な情報を取り出して、絵の意味を解釈するには、多くの場合、学習内容の基本的知識との関連
付けが必要であり、ここでは、僧侶・貴族などの特権階級と「第三身分」の平民というアンシャン=レジームの
身分制度についての知識が必要である。読解に必要な知識が既に学習した内容にない場合には、最小限の説明を
行ったり、必要な事柄を解説したテキストとあわせて読解させたりするようにしたい。また、これらのテキスト
では、一つひとつのテキストを読み解くばかりでなく、三つのテキストの連続性やストーリー性を読み取ること
ができるようにさせたい。
本単元では、非連続型テキストとしてビデオ「インドとヨーロッパ」を使用した。社会科の学習に限らず、近
年、教材として活用できる質の高いマルチメディア素材がインターネット上から比較的容易に入手できるように
なり、今後も効果的な教材としてその活用が期待されている。ビデオなどの映像資料は絵と同様の特徴をもつと
ともに、時間の経過にしたがって情報が連続的に提示され、画面や音声が後に残らないという特徴をもっている。
これらのテキストを適切に読解する力を付けるステップとして、メモを取らせるなどの工夫が必要である。画面
からの情報、音声からの情報の両方について注意を払い、5W1Hなど注目すべきポイントを絞って内容をとら
えさせることも可能である。今回は視聴する上で注意すべき点を予め示してから視聴させた。
本単元の2時間目以降は、学習内容と関連付けたグラフの読み取りが中心である。ここではグラフから正確な
数値を読み取るのではなく、大まかな推移とその傾向をつかむことが目的である。複数の資料の大まかな傾向か
らその意味するものを考えさせる学習である。インドの綿布輸出の減少とイギリスの綿布輸出の増加という情報
だけでは結論は得られないので、イギリスの綿織物の輸出先のグラフを読み取り、結論を得ることになる。資料
Ⅸの二つのグラフが示すものだけでは、イギリスからインドに綿布が輸出されたとはいえないし、資料Ⅹは割合
を示すグラフで総量等の記載がないので、この数字が増えたことがインドの輸入量の増加を示すものではない。
二つの情報を照らし合わせることによって結論が導かれるということに気付き、これを自分の言葉で分かりやす
く表現できる力を付けさせたい。
このようにテキストの一つ一つを考察するばかりではなく、複数のテキストから一定の結論を導き出すに当た
り、一つ一つのテキストが結論を述べるに必要な説明資料となりうるか否かまで考察することで、考えることの
面白さ、楽しさを実感することができれば、問題解決力につながる更に大きな力の基礎の形成が期待できる。
社会科の学習における調べ学習と「読解力」
調べ学習は社会科では重要な学習活動である。調べ学習ではテーマに沿って個人やグループで必要な資料
を収集し、整理し、発表を行ったりレポートにまとめたりする。調べ学習の過程で行われる諸活動は、「読
解力」と関係するものが少なくない。既に身に付けた「読解力」をいかすことで、より効果的な調べ学習を
行うことができる。
..
しかし、「読解力」の育成という視点に立つと、調べ学習を行うことがそのまま「読解力」の育成につな
がるとは限らない。教師が読解のプロセス、特に情報の取り出し、解釈にかかわりにくいからである。PISA
型「読解力」では、読解の対象となる※テキストが示されるが、一般的に調べ学習では、書籍などの出版物、
Web ページ、現地調査など限定されていない範囲から資料を収集する場合が多い。読解の対象となるテキス
トは示されるのではなく、自分で見付けることになる。このとき生徒が読解の対象とした各種のテキストか
ら適切に情報を取り出すことができたか、適切に解釈しているかを指導・評価するには、教師が読解のプロ
セスにかかわらなければならない。限定されていない範囲から生徒が選択し読解の対象としたテキストを教
師が把握し、調べ学習のテーマに照らしてどのような視点から読解することが適切であるかを判断し、指導
するのは現実的ではない。調べ学習は「読解力」を活用する場ではあるが、「読解力」を育成する場とする
には指導の工夫が必要である。
※ 本研究の中学校社会において読解の対象とする「テキスト」については、「中学校社会の学習と『読解力』」
を参照
6