神奈川版:「読解力」向上のためのガイドブック 中学校 理科 3年生 天体の1日の動きと地球の運動 理科・2分野 3年生 天体の1日の動きと地球の運動 学習指導要領内容(6)地球と宇宙ア天体の動き土地球の自転・公転(ア) 1 単元・題材の目標 2 生徒について 本単元は、星や太陽の1日の動きについて調べ、 天体・宇宙についての映像等の情報は多く、生徒の 星空全体の動きとその規則性を見いだすととも 関心も高いが、学習内容を深く理解しているというわ に、地球の自転と関連付けてとらえることを主な けではない。中学校では天体の日周運動が地球の自転 目的としている。天体の日周運動を地球上の視点 による相対的運動であること等を学習する。夜間の天 からの情報、宇宙視点からの情報等を理解、解釈 体観察は、夜間であることに加え、天体の天球上の移 し、それらを総合的に熟考・評価することによっ 動時間が長くかかること等によって実施が困難であ て地球の自転と関連付けて考えられるようにす る。実物を使っての観察・実験の不足から生徒は空間 る。 的な認識やそれに基づく思考面に課題が見られる。そ また、宇宙の中の地球という視点で学習するこ うした状況のもとで天文シミュレーションソフト、映 とにより、生徒の地球及び宇宙の仕組みの学習に 像資料等(テキスト)を効果的に活用し、事象を多角 対する興味・関心を高める。 的に「読解する力」を育成したい。 3 評価規準 自然事象への 関心・意欲・態度 科学的な思考 星や太陽の1日の動き 観察・実験の技能・表現 東西南北のそれぞれの 星の動きを、天文シミュ 自然事象についての 知識・理解 星や太陽の日周運動に に興味をもち、日常生活と 方位の星の動きから、星や レーションソフトを使って ついて理解し、それが地球 関連付けて、積極的に調べ 太陽の日周運動を見いだ 記録しまとめることができ の自転によって起こる見 すとともに、地球の自転と るとともに、透明半球を使 かけの運動であることを ようとする。 関連付けて考えることが って太陽の動きを調べ記録 説明できる。 できる。 することができる。また、 自分の考えを的確に表現す ることができる。 4 学習指導計画 各時間 付けたい力 星の1日の 星の1日の見かけの動きにつ 動き 学習活動 夜空の星の動きを、天文シミュレーシ・天文シミュレーション いて調べ、星空全体の動きと規 ョンソフトを駆使して調べ、星の動きの ソフトによる星の動き 則性を見いださせる。 (2時間) 規則性について考える。 【情報の取り出し】【解釈】 【熟考・評価】【表現】 夜空の星の 対象とするテキスト 星空全体の動きと規則性を地 ・東西南北の方向の星の 写真 ・星の日周運動の図 天動説から地動説への転換に関するビ ・コペルニクスの科学史 1日の動き 球の自転と関連付けて理解させ デオを視聴し、地球の自転について関心 のビデオ資料 はどうして る。 をもち、理解を深める。また、星の動き ・回転する椅子を使った 起こるのか は地球の自転による見かけの動きである (2時間) ことを実験によって理解する。 太陽は1日 太陽の1日の動きの観察を行 星・天球の動き 太陽の1日の動きの観察を行い、その ・透明半球を使用した太 にどのよう い、その観察結果から、太陽の 観察記録から、太陽の1日の動きの規則 陽の日周運動の観察 に動くのか 1日の動きの規則性を見いださ 性を考える。 (2時間) せる。 及び観察記録 ・太陽の日周運動の写真 1 5 授業計画【星の1日の動き】(2時間) 時間 学習内容 テキスト 1 評価 評価規準 評価方法 学習活動 予想される子どもの反応 夜空の星はどのように 動くかを考える。 ○生活経験を基に、星の動きについて気付いた ことを発表する。 ・西に沈む ・東から出てくる ・太陽や月と同じように動く ・北極星は動かない 等 星の動きの規則性を調 べる。 天文シミュレーション ソフトによる星の動 き。 ○天文シミュレーションソフトの使い方を知 る。 ○画面上の方位の確認をする。(第1図) <例> 南を向いたとき、右手の方は西であ る。等 (東) (南) (西) 第1図 画面の中の方位の関係 それぞれの方位の星 記述の点検 ○天文シミュレーションソフトを使って、星の の動きを描くことが 動きを調べる。(第2図) できる。 ○東西南北の星の動きをワークシートに記入 する。(第4図) 【技能・表現】 第4図 各方位の星の動き ○星の動きについて気付いたことを記入する。 星の動きを観察して 記述の分析 ・北の空の星は、反時計回りに動く その規則性を見いだ ・北の空の星は、ある星を中心に円を描く すことができる。 ように動く 【科学的思考】 ・南の空の星は、左から右に動く ・南の空の星は、真南にきたときに一番高 くのぼる ・東の空の星は、左下から右上に動く ・西の空の星は、左上から右下に動く ・1日たつとほぼ同じ場所にもどる ・一つの星の動く速さはどこでも一定であ る。 ・星空全体は、東から西に動いている 等 2 「読解力」 スキル 指導上の留意点 ◇操作の基本は、時間をかけて確実に指示する。 情報の取り出し ○日常生活の体験(方位)とテ キスト(天文シミュレーショ 解釈 ン)を関連付けて理解するこ (天文シミュレ とができる。 ーションソフ ト) 第2図 天文シミュレーションソフト (ステラナビゲーター/株式会社アストロアーツ) ◇一つの星だけでなく、三つくらいの星に注目させる。 (第3図) 南 第3図 方位による星の動きのちがい 情報の取り出し ○テキスト(天文シミュレーシ ョン)から情報(星の日周運 ○できるだけ多く天体の運動の規則性について気付くよ 解釈 動)を読み取ることができる。 うに、「星の動く方向はどっちか…」「動く速さはどう (天文シミュレー ションソフトに か…」などアドバイスをしながら机間指導をする。 よる星の動き) ○読み取った情報を、具体的に ○自分の考えをまとめるにあたって、箇条書きにしてみ 表現 表現することができる。 る、図にしてみるなど、考えを整理する工夫をさせる。 ○箇条書きで述べたいことを表 (第5図) すことができる。 <箇条書きにした場合の例> ○図を使って表すことができ ・北の空の星は、反時計回りに動く る。 ・北の空の星は、ある星を中心に円を描くように動く ・南の空の星は、左から右に動く <図にした場合の例> ○読み取った情報(方位ごとの 熟考・評価 星の動き)を総合的に考察す (天文シミュレー ることができる。 シ ョ ン から読 み 取 っ た情報 を 表 し た図や 記述) 表現 ○自分の考え(星の運動の規則 性)を、テキスト(図、記述 等)を利用して表現すること ができる。 第5図 星の動きを記したワークシートの例 3 時間 学習内容 評価 テキスト 2 評価規準 評価方法 星の日周運動の規則性 を発表する。 東西南北の方向の星の 写真 学習活動 予想される子どもの反応 ○東西南北の方向の星の写真を見て、星の動き について気付いたことを発表する。(第6図) ・北の空の星は・・・ ・星はすべて・・・ ・1日後に星は・・・ ・星空全体は・・・等 南 東 西 第6図 東・西・南の星の写真 (ReKOS〔理化学研究所〕サンプル 画像をもとに合成) 星の日周運動について 星の動きの規則性を 記述の分析 ○星の日周運動の図から星の日周運動について まとめ、星の日周運動 まとめる。(第7図) 理解する。 について説明できる。 ・星空全体は、東から西へ1日に1回転する 【知識・理解】 星の日周運動の図 ・星の動く速さは一定で、24時間で360度回転 する ・1時間では15度回転する 天球や星の動きを正 記述の点検 ○天球や星の動きを作図する。(第8図) しく作図できる。 【技能・表現】 ・円や楕円が上手く描けない ・真東から出た星が真西に沈む図にな らない 等 ・南の星が見えている時間が短い線に ならない 等 第7図 日周運動の図 「理科ねっとわーく (「天球図でさぐる地球 と天体の動き」(天球は 東から西へ回転する)」) 科学技術振興機構 第8図 天球上の星の動きの作図例 4 「読解力」 表現 (発表) スキル 指導上の留意点 ○読み取った情報を、的確な言 ○表現が乏しい生徒の発言には、言葉を足して的確な表 葉で発表することができる。 現になるように支援する。 ・星は、左回りに・・→(どの方向の星が?) ・星は右に移動する・・→(どの方向の星が?) ・星はもとの位置に戻る。→ (何時間後?) ・星は東から西に動いている。→(どの星が?) 等 解釈 ○テキストから正しく情報(天 ◇天球や星の動きを正しく作図することができるように 球や星の動き)を読み取るこ する。 熟考・評価 とができる。 ・円はコンパスを使って描かせる。 (星の日周運動 ○テキストに書かれた情報を、 ・地平線の楕円は、円に近くならないようにする。 の図) 視点を変えて読み取ることが ・真東から出た星が真西に沈むように描かせる。 表現 できる。 ・各星の移動の線が互いに平行になるように描かせる。 ◇天球の動きが一定の速さであることは、天文シミュレ ーションソフトの観察で再確認させる。 ◇地球や天球を外側から見た図に慣れさせる。(第9、 10 図) <例>天球儀を使用し、イメージしやすくする。 第9図 天球図 「理科ねっとわー くコンテンツ(「天球図でさぐる地 球と天体の動き」(天球の星座と地 球の動き)」)科学技術振興機構 第 10 図 天球儀 5 6 本単元の学習と「読解力」 本単元は、「テキスト」の情報から天体の動きの規則性を読み取ることに重点に置いた。天体の動きは本物の 星空のもと、時間をかけて観察を行うことが理想であるが、時間的、場所的な制約で実施は困難である。また、 観察にかかる時間が長くかかり間延びしてしまう可能性がある。 そこで、次のようなテキストを用意して、生徒ができるだけ実感を伴いながら天体の動きの規則性を学ぶ方法 の例とした。 非連続型テキストとして天文シミュレーションソフトや天体写真の使用 天文シミュレーションソフトという非連続型テキストを駆使することにより、時間的、場所的制約や観測が間 延びする短所を取り払った。操作的なものは、ごく基本的な操作のみにとどめるのがよい。(時間を進ませる。 東西南北の星空を出す。視野を広くしたり狭くしたりする。等) 天文シミュレーションソフトは市販されているものやフリーソフトなど多くの種類が存在する。どのソフトも 基本的な操作はすぐに理解できるものが多い。これらのソフトの良いところは星の動きをリアルに再現できる点 にある。年月日を指定すれば、自分の生まれた日の星空や一万年後の星空が再現でき、観測地点を北極や赤道な どの地点に指定すれば、その場所での星空を再現できる。生徒は驚くほど探求心をもって取り組む。疑似体験で はあるが、十分時間を与えて星の動きの不思議さを探らせるには有効である。 また、天体写真は、天文シミュレーションソフトを使い、星の動きについて熟考させる場面で提示すると効果 的である。東西南北の星の写真は一見すると何が写っているのか理解するのが難しく、いきなり提示するテキス トとしては効果的であるとはいえない。しかし、天文シミュレーションソフトを使った後に提示すると、生徒は ごく自然にイメージすることができ、東西南北の星の写真に何が写っているのかを理解しやすい。 ※天文シミュレーションソフトウェアには次のようなものがある。 (平成 18 年 12 月現在) ・フリーソフトウェア「Stellarium0.8.2」Project coordinator:Fabien Chéreau Linux、 MacOS X 、Windows ・シェアウェア「stella theater Pro」Toxsoft 氏 ・デジタルコンテンツ「理科ねっとわーく『太陽系シミュレーター(理化学研究所)』科学技術振興機構 ・市販のソフトウェア「ステラナビゲーターver.8」株式会社アストロアーツ Windows 98SE/2000/Me/XP 科学史の活用 天文の単元は、多くの場面で空間概念が必要とされる。しかし、天動説から地動説への転換については、その 歴史が物語るように、その解明は中学生にとってはたいへん困難なものである。そこで、古くはアリスタルコス の地動説に関する史実、中学生になじみのあるものとしてはコペルニクスやガリレオ・ガリレイの物語などを導 入して、いかにして人々の考えが天動説から地動説へと変わったかを紹介する等の科学史の活用は、地動説的な 空間概念の形成に効果的である。科学史を解説する本としては、「はじめての地学・天文学史」(矢島道子・和田 純夫著 ベレ出版)や「中学 理科こばなし」(河端良三著 星の環会)等が詳しい。 表現の充実 日ごろの授業の中で、自分の意見を述べたり書いたりする機会を充実すると同時に、観察の目的をはっきりと 意識し、何についてどのように記述すればよいかを理解しながら表現する習慣を身に付けさせることで、論理的 に分かりやすく伝える表現力は育成される。 デジタルコンテンツ、シミュレーションソフト等 理科のテキストはあくまでも実際の「自然の事物・現象」であるが、時間的・物理的な制約等で、直接的な観 察・実験が困難な場合には、デジタルコンテンツやシミュレーションソフト等が有効である。また、実際に観察 ・実験が可能である場合であっても、補助的に使用することより、観察・実験を効率よく実施することが可能に なる。 科学的な思考力を育成するプロセスの前の、テキストから情報を取り出すプロセスに課題がある場合には、デ ジタルコンテンツやシミュレーションソフトは非常に有効な教具(テキスト)である。 6
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