勝浦市職員措置請求の監査結果の公表 地方自治法第242条第1項の規定による勝浦市職員措置請求についての監査 結果を、同条第4項の規定により次のとおり公表する。 勝 監 第 1 6 8 号 平 成 27年11月3 0 日 勝浦市監査委員 市 川 愼 一 勝浦市監査委員 黒 川 民 雄 1.請求人 勝浦市浜勝浦69番地 久我敏行 2.請求書の受理 平成27年10月1日に提出された本請求は、所要の法定要件を具備して いるものと認め、平成27年10月1日にこれを受理した。 3.請求の内容 請求人提出の勝浦市職員措置請求書よる主張事実の要旨並びに措置請求は 次のとおりである。 (1)請求の要旨 (請求書の原文を掲載している。ただし、一部の固有名詞は記号に置き 換えている。) 勝浦市長は2015年2月21日に(仮称)市民文化会館建設舞台設備の 工事代金として378,400,000円を A 社に支払った。2013年9月 に支払った5千万円と合わせると4億2千万を超える大金である。 ところが、市民の切望した映画鑑賞は市の担当者の怠慢と設計施工業者の 不誠実さにより、新設導入した設備を使用することが出来ない、また備え付 けのスクリーンは極めて小さな物で客席の後ろの方の席からはスマートフォ ンの画面の方が大きいのではないかという極めてお粗末な結果になってしま った。 そのため、いわゆる劇場用映画を上映する時には備え付けられたプロジェ クターは使用できず、また、スクリーンも小さすぎて入場料をとることも躊 躇われるので、演劇などの背景照明用に使うホリゾントという布を代用して いる。これはプロジェクターの画像を再生する能力を持ったものではない。 市役所担当者とその任命責任者である市長の責任は重大であるが、彼らの 怠慢と無知につけ込んだ業者の法的責任も問われるべきである。 少なくとも、当時の担当者 C 個人と設計者 B 社と施工業者 A 社が賠償す べき金銭である。 (2)措置請求 (仮称)市民文化会館に新設導入した設備は、映画鑑賞に使用出来ないた め、市が被った損害の補填に必要な措置を要求する。 4.請求人の陳述及び証拠の提出 平成27年10月9日に監査委員は請求人に対し、地方自治法第242条 第6項の規定に基づく証拠の提出及び陳述の機会を平成27年10月21日 に設ける旨、通知したところ、同日、請求人から陳述に出席する旨、回答が あった。 平成27年10月15日に請求人は、新たな証拠を追加提出した。 平成27年10月21日に証拠の提出及び陳述の機会を設けた。 請求人は、追加の証拠を提出し、請求内容の補足として芸術文化交流セン ター建設における市民意見聴取及び映像設備の選定から決定までの経過を主 に陳述を行った。 5.監査対象事項 請求人の請求の内容及び陳述の要旨から、本件に係る工事請負契約に基づ いて行われた請負代金4億2840万円の支出行為が、違法又は不当なもの で、本市に損害を与えているか、どうかを監査対象事項とした。 6.監査等の実施 監査を次のとおり実施した。 ・平成27年10月28日に芸術文化交流センター、財政課を監査対象課 として監査を実施した。 ・平成27年11月19日 当時の関係課職員から事情を聴取した。 企画課長(当時市民会議事務局) 福祉課児童係長(当時市民会議事務局) 生活環境課生活環境係長(当時社会教育課文化施設準備室主査補) 7.監査の結果 (1)事実の確認 監査の結果、請求人の主張に関して次の事項を確認した。 ①勝浦市長は2015年2月27日に(仮称)市民文化会館建設舞台設備の工 事代金として378,400,000円を A 社に支払った。2013年9月に内 金として支払った5千万円と合わせると 4億2千万を超える大金であるとの ことについて。 平成25年9月5日 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約に基 づく前払金50,000,000円を支出し、平成27年2月27日に残金37 8,400,000円を支出し、同年2月27日にホリゾント幕購入契約を締結 し、4月20日に1,641,600円を支出した。 財務会計上の行為を含めた本件事業の経過 平成21年12月 (仮称)勝浦市市民文化会館基本構想・基本計画策定 平成23年 (仮称)勝浦市市民文化会館建設位置等検討委員会報告書提出 6月14日 平成23年12月 1日 (仮称)勝浦市市民文化会館基本構想の改訂 平成24年 8日 (仮称)市民文化会館設計業務委託契約締結 3月 契約相手方:B 社 平成25年 2月15日 (仮称)市民文化会館設計業務委託完了 同年 6月25日 第1回市民会議 同年 7月23日 第2回市民会議 同年 7月26日 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約締結 契約相手方:A 社 契約金額 428,400,000 円 契約期間 平成 25 年 8 月 2 日~平成 26 年 10 月 31 日 同年 8月26日 第3回市民会議 同年 9月 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約 5日 に係る前払金支出 同年 10月 同年 10月23日 平成26年 8日 8月14日 50,000,000 円 第4回市民会議 勝浦市市民会議提言書を市長に提出 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約 変更締結 契約期限について、平成 26 年 10 月 31 日を 同年 11 月 28 日に変更 同年 11月28日 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)完了報告 同年 12月 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)検査 4日 平成27年 2月16日 ホリゾント幕購入契約締結 同年 2月27日 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約に係る 工事費支出 同年 同年 3月17日 4月20日 378,400,000 円 ホリゾント幕納品 ホリゾント幕購入費支出 1,641,600 円 ②芸術文化交流センターに設置した映像設備 品 名 プロジェクター 【内訳】 ① 3 チップ DLP プロジ ェクター 仕 様 3 チップ DLP 方式 数量 1式 備 考 (1) PT-DZ21K(Panasonic) WUXGA 光出力:20000 ルーメン ② ズームレンズ 解像度:1920×1200 長焦点ズームレンズ (1) ET-D75LE30(Panasonic) F 値:2.5 焦点距離:50.5mm~ ③取付金具 スクリーン 97.9mm 天井つり下げ型 幕地:ホワイト無孔 幕巾 6,840mm 幕丈 7,500mm (1) ET-PKD510H 1式 (1) 床収納スプリング巻取式 つなぎ目あり イメージサイズ 300 インチ ヒダ無し ブルーレイディスク&ハードディスクレコーダー (6,640×3,735) その 1 再生可能ディスク: (1) SR-HD2500(JVC ケンウッド) BD-RE/R,DVD-RW/R/RAM BD ビデオ、DVD ビデオ、 CD-RW/R,CD(JPEG)、 SD(JPEG),DISC(AVCHD) ブルーレイディスク&ハードディスクレコーダー その 2 再生可能メディア: (1) DMR-BRT260-K( Panasonic ) BD-RE/R,BD-Video DVD-R/-RW,+R/+RW(12c m/8cm) DVD-VIDEO/VCD/CD-DA( 12cm/8cm), CD-RW/R,CD(CD-DA,JPE G) SD カードスロット ホリゾント幕 【内訳】 ①幕地 W=14,900mm H= 6,400mm #142 1式 (1) ゲレッツ社(ドイツ)製 基本材質:PVC(塩化ビニル) 表面加工:無し PVC オペラ・ホワイ ト 表面保護:無し 色:白 厚さ:0.30mm 透明性:無し ② 下部重り用 SUS パイプ ステンレス製(両端調整錘 (1) スクリーンタイプ:フロント 付) ③ 吊り下げ用ベルト 径 27.2mm L=14,800mm (60) ③市民の切望した映画鑑賞は市の担当者の怠慢と設計施工業者の不誠実さに より、新設導入した設備を使用することが出来ない、また備え付けのスクリー ンは極めて小さな物で客席の後ろの方の席からはスマートフォンの画面の方 が大きいのではないかという極めてお粗末な結果になってしまったとの主張 について。 下記に示す芸術文化交流センター開館後における映画上映実績のとおり、7 回の映画上映のうち、2回、新設導入した設備を使用して上映した実績があり、 映画鑑賞は新設導入した設備を使用することが出来ない、とする請求人の主張 は事実に反するものと監査対象課は説明している。 芸術文化交流センター開館後における映画上映実績表 (開館から10月31日までの間) 上映作品 上映日 作品名 上映機材の別 劇場公開日 投射した機材の別 主催等の別 プロジェクターの別 3月21日 闘争の広場 昭和34年6月19日 300インチスクリーン 3月22日 アナと雪の女王 平成26年3月14日 ホリゾント幕 5月4日 望郷の鐘 平成27年1月17日 300インチスクリーン 5月5日 ベイマックス 平成26年12月20日 ホリゾント幕 委託業者持込 市主催 ふしぎな岬の物語 平成26年10月11日 ホリゾント幕 委託業者持込 市主催 平成27年3月7日 ホリゾント幕 委託業者持込 市主催 平成27年4月18日 ホリゾント幕 委託業者持込 市主催 6月28日 備付機材使用 委託業者持込 備付機材使用 貸館 市主催 貸館 ドラえもん 7月26日 8月16日 のび太の宇宙英雄記 (スペースヒーローズ) 名探偵コナン 業火の向日葵 次に、請求人がスクリーンが極めて小さな物と主張することについて、サイ ズの決定根拠を監査対象課は次のとおり説明した。 (1)②で示すようにスクリーンは、幕丈 7,500mm、幕巾 6,840mmの幕の 中に丈 3,735mm、巾 6,640mmのスクリーンを納め、上下左右にスクリーンを 囲む黒の縁を施し、その縁のうち、スクリーン下は、舞台床から人の身長程の 高さまで縁を施している。 このスクリーン下の縁は、会議、講演会で使用する際、スクリーンに投影す る映像等を舞台上の人や物で遮ることの無いよう、一定の高さにスクリーンを 設営しようとするもので、この考え方は、多様な取組で市民交流の推進及び交 流人口の増加を図ろうとする「(仮称)勝浦市市民文化会館基本構想・基本計画」 中、 「第4章建築計画」、 「3めざすべき方向」に掲げる多目的使用に則したもの である。 これに基づきスクリーンの丈を定めた後、画像再生の縦横比4対3の割合に 応じ巾及びサイズを決定することとし、基本設計時点では、400インチと決 定したところ、実施設計時に音響設計を反映した反射板の形状に修正した際、 反射板の高さを低く変更したことで必然的に天井高も下がったため、400イ ンチスクリーンでは、前記した映像投射の支障が生じることから、スクリーン 下の縁部分を維持するため、縦横比16対9の割合に改めた300インチのス クリーンに変更し設置したものである。 以上、スクリーンの大きさは、ホールの形状等に応じた適正な規格のものを 設置しており、請求人の主張は認められないとしている。 ④いわゆる劇場用映画を上映する時には備え付けられたプロジェクターは使 用できず、また、スクリーンも小さすぎて入場料をとることも躊躇われるので、 演劇などの背景照明用に使うホリゾントという布を代用している。これはプロ ジェクターの画像を再生する能力を持ったものではないとの主張について。 これに対し、監査対象課は、次のとおり説明している。 (1)③芸術文化交流センター開館後における映画上映実績表のとおり、ホリ ゾント幕を使用し、5回の映画上映を実施したところである。 スクリーンの性能を表す場合、スクリーンゲインという数値が用いられる。 スクリーンゲインは、スクリーン生地が固有に持つ反射特性を示したもので、 スクリーン生地が任意の角度に対してどの程度の光を反射するかを数値で表わ し、標準白板と呼ばれる完全拡散板(酸化マグネシウムを焼き付けた純白板) に光を当てたときの輝度を1とした時、同一条件下でのスクリーン生地の輝度 との比率を表すものである。 通常、映画館に設置されるスクリーンのうち、取付・取り外しができるタイ プのスクリーンゲインは、反射角 0°の条件で輝度 1.00~0.90 が主流で、同一 条件下で購入したホリゾント幕と比較すると輝度 0.98 でほぼ同等の輝度をも っている。 さらに映画鑑賞の場合は、正面ばかりを観るのではないため、角度によるス クリーンゲインの数値の低下が少ないスクリーンほど性能が良いとされてお り、購入したホリゾント幕は、反射角の角度が-30°から 30°で輝度 0.83 以上 を有し、見る角度による輝度の低減を抑えた仕様となっている。 以上のとおり監査対象課は説明したうえで、購入したホリゾント幕は映像再 生に必要な性能を有するものであるから、請求人の主張は認められないとして いる。 ⑤市役所担当者とその任命責任者である市長の責任は重大であるが、彼らの怠 慢と無知につけ込んだ業者の法的責任も問われるべきである。 少なくとも、当時の担当者 C 個人と設計者 B 社と施工業者 A 社が賠償すべき 金銭であるとの主張について。 新設導入されたプロジュクター、スクリーン及びホリゾント幕について、前 述の説明及び上映の実績を示したとおり、映画鑑賞に堪えられるものではない との主張は認められない。 したがって、市長、市役所担当者、設計業務委託受託者 B 社及び工事請負業 者 A 社の法的責任は存在せず、当然、市の損害は見当たらないのだから、賠償 する必要もないと監査対象課は説明している。 ⑥請求人が、市民会議の場で当時の担当者が(仮称)市民文化会館建設工事(舞 台設備)契約から納入までの間に検討し、その結果、市民会議で示した参考機 種を変更することも有りえる旨の発言をしたにもかかわらず、変更しなかった ことは、検討を怠ったためとする主張について。 これに対し、監査対象課は、演劇等における演出効果はもとより、(1)③ に示すスクリーン機能を併せ持つホリゾント幕を選定並びに購入したことが 検討結果であると説明している。 これを説明するにあたり、監査対象課は、変更に係る検討を再生から投影ま で一連の映像設備を構成する機材を個別に分けて次のとおり説明している。 まず、プロジェクターの機種については、市民会議で説明したとおり、光出 力を基準に選定した結果、同会議で示した機種を基本としたうえで、契約から 納入までには、相当の期間があることから、この間、参考機種を上回る性能若 しくは、安価で同等の性能の機種が出現した場合、導入効果の検討を経て変更 することも想定されるため、参考としていたものの、結果的に上記検討の要件 に見合う機種の出現がなかったため、検討はしていないとしている。 次に、再生機材の変更について、請求人は、映画館用のディスクを再生でき る機種の変更を再三に亘り申し入れたと主張しており、これについて調査検討 した結果は以下のとおりとしている。 一般的に民間の映画館では、映画配給会社との作品の借用契約に基づき、複 製等を防止するための強固な保護機能を付して映画配給会社から提供を受け、 上映している。 その一方で、地方自治体が所有する公共施設で映画鑑賞会を地方自治体が主 催する場合、民間会社と同様に作品を借用することは困難な状況にある。 これらは、ロードショー終了直後若しくは終了後、経過した期間の短い作品 については特に困難で、上映価値の優劣に伴うものと推測されるが、これを踏 まえると請求人が主張する劇場用映画を再生可能とする機種を仮に導入した としても、借用の許諾が得られない以上、再生は不可能であるから、請求人の 申し入れは当を得ず、請求人の申し入れに応じた機種に変更する余地は無い。 続いて、スクリーンについては、 (1)②のとおり、そのサイズはスクリーン を吊り上げる位置の天井高に応じ決定しているのだから、変更することは、困 難である。 以上、映像設備を構成する機材を個別に検討しても、配給元の借用状況のほ か、ホールの構造や機能の制約で変更が困難な中、ホリゾント幕を購入したこ とは、市民会議の委員意見を可能な限り取り入れるよう、経済性をはじめ、3 00インチスクリーンとの使用区分を含めた映像再生における総合的な検討 を経た結果であり、契約後、映像設備について検討していないとする主張は事 実に反するものであるとしている。 (仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約における映像設備 品 名 プロジェクター 【内訳】 ① 3D チップ DLP プロ ジェクター 仕 様 3D チップ DLP 方式 数量 1式 備 考 (1) PT-DZ21K(Panasonic) WUXGA 光出力:20000 ルーメン ② ズームレンズ 解像度:1920×1200 長焦点ズームレンズ (1) ET-D75LE40(Panasonic) F 値:2.5 焦点距離:96.6mm~ ③取付金具 スクリーン 154.1mm 天井つり下げ型 幕地:ホワイト無孔 幕巾 6,840mm 幕丈 7,500mm ヒダ無し ブルーレイディスク&ハードディスクレコーダー その 1 再生可能ディスク: BD-RE/R,DVD-RW/R/RA M、 BD ビデオ、DVD ビデオ、 CD-RW/R,CD(JPEG) ,SD(JPEG),DISC(AVCHD) ブルーレイディスク&ハードディスクレコーダー その 2 (1) 1式 (1) 床収納スプリング巻取式 つなぎ目あり イメージサイズ 300 インチ (6,640×3,735) (1) SR-HD2500(JVC ケンウッド) (1) DMR-BRT260-K( Panasonic ) 再生可能メディア: BD-RE/R,BD-Video DVD-R/-RW,+R/+RW(12c m/8cm) DVD-VIDEO/VCD/CD-DA( 12cm/8cm), CD-RW/R,CD(CD-DA,JPE G) SD カードスロット ③との相違は、プロジェクター中、②のズームレンズの変更である。 その内容は、施工段階でプロジェクタからスクリーンまでの投映距離= 30,471 ㎜で確定したため、ET-D75LE40 では投映距離=30,803 ㎜~ 49,200 ㎜となり、ズームで調整範囲外であったため、ズーム調整範囲 投映 距離=16,057 ㎜~31,183 ㎜であるET-D75LE30 に決定したものであると 監査対象課は変更の理由を説明している。 (2)判断 以上のような事実関係の確認、監査対象課の説明及び関係職員に対する事情 聴取に基づき、本件請求について次のように判断する。 ①本件請求書及び陳述内容の全趣旨から、請求人は、監査請求の本件映像設備 が、映画鑑賞に使用出来ず、市は損害を被ったと主張しているが、 これについ て判断する。 本件請求の映像設備に係る(仮称)市民文化会館建設工事(舞台設備)契約 に基づいた財務会計上の支出負担行為及び支出命令については、違法又は不当 な事項は認められない。 しかしながら、住民訴訟において主張することのできる違法事由は、当該財 務事項自体に存在する財務会計法規上の違法のほか、財務事項と事実上直接的 な関係に立つ非財務会計上の行為に法令違反があってこれを看過しては執行機 関の誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)違反をもたらすような場合 の違法を含むと解するべきである。 そして、原因行為に重大明白な違法がある場合あるいは著しい裁量権濫用の 違法がある場合には、原因行為と財務事項との間に事実上の直接的な関係があ るということになり、財務事項自体も違法となると解するのが相当である(平 成14年6月18日横浜地方裁判所判決 平成9年(行ウ)第33号)とされる。 これを住民訴訟の前置である住民監査請求制度並びに本件に照らせば、請求 人の主張の全趣旨から、実質的には、上記の財務会計上の行為の違法又は不当 をもたらす行為(以下「原因行為」という。)である芸術文化交流センターの映 像設備導入の違法又は不当をいうものであるが、本件住民監査請求における請 求の原因として財務会計上の行為の違法又は不当が問題とされる以上は、実質 的な争点が、財務会計上の行為の背後にある原因行為である芸術文化交流センタ ーの映像設備導入という非財務的な行為の適否であっても、財務会計上の行為と 事実上の直接的な関係があるかどうかの見地から判断対象となり得るとされる。 前述のとおり財務会計上の支出負担行為及び支出命令については、違法又は 不当な事項は認めらないとしても、財務事項自体も違法となると解される原因 行為と財務事項との間に事実上の直接的な関係を認める著しい裁量権濫用の事 実を判断する必要がある。 まったく必要性のない施設を建設する場合や、必要性の著しく乏しい施設を 適正な建築費用よりも著しく高額な費用で建設する場合等、社会通念に照らし 著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、法の趣旨に著しく反する行 為として、地方公共団体の長に与えられた広範な裁量権を逸脱したものとして 違法の評価を受けると解すべきである。 (平成16年1月23日長野地方裁判所 判決 平成13年(行ウ)第6号) 請求人は、映像設備導入自体の必要性を否定しておらず、当事者間に争いは ないから、映像設備がまったく必要のないものとは認められない。 請求人は、新設導入した設備を使用してすることが出来ないと主張している ところ、これに反し、使用した事実を(1)②のとおり確認するとともに、ホ リゾント幕がスクリーンの代用として十分機能するとした根拠を監査対象課か ら(1)②、③のとおり確認した。 そうすると、芸術文化交流センターには、スクリーン機能を有する2つが存 在するのだから、そのうち、いずれかを使用すれば十分で、他を不用とするこ との妥当性について検討する。 これに対し、監査対象課は使用実績等を示し、以下のとおり説明している。 芸術文化交流センターホールのプロジェクター及び300インチスクリーン の使用実績表 日付 (開館から10月31日までの間) イベント等の名称 1月11日 成人式 1月21日 勝浦市教育研究会 1月22日 3月21日 4月15日~17日 5月4日 青少年相談員 連絡協議会講演会 貸館による映画鑑賞 乳幼児健診 貸館による映画鑑賞 第65回 7月3日 「社会を明るくする運動」 夷隅地区大会 10月3日 10月15日 勝浦落語会 第5回千葉県 観光物産大会 10月20日 県公立文化施設協議会研修会 10月25日 防災講演会 使用機材 用途 プロジェクター及び スライドショーをスク 300インチスクリーン リーンに投影 プロジェクター及び 総会資料をスクリーン 300インチスクリーン に投影 プロジェクター及び 講演資料及び内容をス 300インチスクリーン クリーンに投影 プロジェクター及び 映画「闘争の広場」上 300インチスクリーン 映 プロジェクター及び 健康促進VTRをスク 300インチスクリーン リーンに投影 プロジェクター及び 映画「望郷の鐘」上映 300インチスクリーン プロジェクター及び 大会資料をスクリーン 300インチスクリーン に投影 プロジェクター及び ライブ映像をスクリー 300インチスクリーン ンに投影 プロジェクター及び 大会資料及び内容をス 300インチスクリーン クリーンに投影 プロジェクター及び 研修資料をスクリーン 300インチスクリーン に投影 プロジェクター及び 講演資料をスクリーン 300インチスクリーン に投影 集客等実績 (人) 210 150 360 550 606 150 700 400 400 40 300 芸術文化交流センターホールのホリゾント幕の使用実績表 (開館から10月31日までの間) 日付 3月22日 4月5日 4月12日 4月28日 5月3日 イベント等の名称 映画「アナと雪の女王」 東雲流しののめ会「舞踊まつ り」 天津ダンスクラブ「カラオケ発 表会」 教育研究会総会 浅野歌謡教室 「カラオケ発表会」 使用機材 プロジェクター 及び 用途 集客等実績 (人) 映画上映 313 ホリゾント幕 舞台照明効果 440 ホリゾント幕 舞台照明効果 150 ホリゾント幕 プロジェクター 及び 映画「闘争の広場」上 140 ホリゾント幕 映 ホリゾント幕 舞台照明効果 500 映画上映 400 舞台照明効果 720 映画上映 320 プロジェクター 及び 5月5日 映画「ベイマックス」 5月16日 第1回勝浦落語会 5月24日 映画「ふしぎな岬の物語」 5月31日 芸文協まつり ホリゾント幕 舞台照明効果 400 6月14日 演劇鑑賞会「踊るごんぎつね」 ホリゾント幕 舞台照明効果 180 6月28日 映画「ストロボ・エッジ 」 ホリゾント幕 映画上映 162 6月29日 海上保安庁啓発 イベント ホリゾント幕 舞台照明効果 300 映画上映 240 映画「ドラえもん 7月26日 のび太の宇宙英雄記 (スペースヒーローズ )」 ホリゾント幕 ホリゾント幕 プロジェクター 及び ホリゾント幕 プロジェクター 及び ホリゾント幕 8月5日 鳥羽一郎コンサート ホリゾント幕 舞台照明効果 700 8月8日 心研野球塾講演会 ホリゾント幕 舞台照明効果 700 映画「名探偵コナン プロジェクター 及び 映画上映 159 8月16日 業火の向日葵」 ホリゾント幕 9月4日 都市陶芸展~6日 ホリゾント幕 会場照明効果 400 9月20日 明大マンドリン倶楽部演奏会 ホリゾント幕 舞台照明効果 820 使用実績表で示すとおり、300インチスクリーンは、各種大会、会議の資 料投影用に多く使用している。一方、ホリゾント幕については、本来の舞台照 明効果を主に使用している。 こうした実績のとおり、開催するイベントの内容や集客数に応じて、使用を 区分して、300インチスクリーンとホリゾント幕が状況に応じて相互に機能 補完するものであるから、その一方が不用とはならないとしている。 監査において、監査対象課は、映画配給会社からの作品借受の状況を踏まえ、 映画の上映について方法を区別することで、効果的に進めると方針を示し説明 している。 具体的には、市が主催となって劇場用映画の上映を行う場合、市が借用する ことが困難なロードショーが終了した直後の作品等については、再生設備の持 込及び操作を含めた上映に関する業務委託契約をもって実施し、それ以外の作 品については、映画配給会社から作品を借用し、導入した映像設備を市職員が 操作して上映するとしたもので、映画配給会社からの借用条件等を反映した適 切な運用と認める。 以上、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く事実は認められないので、違法 とされる著しい裁量権濫用の事実は見当たらない。 ②請求人は、市民会議の提言書の内容が反映されていないことを主張している。 請求人の主張のように市民会議の意見が反映されていないことを違法とする ためには、市民会議を規定した法規が存在し、かつ、その法規により市は市民 会議の意見に従い芸術文化交流センターを建設する義務が課されるか、又は、 法規が存在しない場合は、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである などして、合理性を有する判断として許容される限度を超えていると認められ るときに限り、裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法であると判断され るべきである。 しかしながら、市民会議について具体的に規定する法規は、存在せず、市長 には、この市民会議のあり方について広範な裁量権を有するものと判断される。 勝浦市市民会議設置要綱によれば、1条で市民と行政の協働によるまちづく りを推進するため、市民の視点からまちづくりに関して意見や提言を行う会議 体として、勝浦市市民会議を設置すると目的が掲げられている。 本件請求の市民会議では、当初、事務局から議題として、(仮称)市民文化 会館の愛称募集と施設等の活用方法の2点を提案したところ、委員から施設に 関する意見が出されたことから、直ちにこれを議題に取り上げ議論を進めた後、 施設に関する事項を提言に取り入れるなど、これら経過をみれば、会議が市民 協働の理念の基づき、委員主体で積極的且つ柔軟に運営されたものと認める。 そして、本件請求に係る市民会議の提言書には、委員から出された意見又は 要望事項が記載されており、これらの多くは実際に反映されているところであ り、市民会議に要請した行政成果は十分得られたものと認められる。 したがって、市民会議の提言書に掲げた事項のうち、反映されることの無か った項目があったとしても、経済性等、総合的な検討を経て決定した結果とす れば、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなどして、合理性を 有する判断として許容される限度を超えているとは認められず、裁量権の逸脱 又は濫用があるものとして違法となるとは認められない。 (3)結論 以上のことから、本件事業における市長の判断が、社会通念に照らして著し く妥当性を欠くものとは認められず、地方公共団体の長に委ねられている裁量 権の範囲を逸脱又は濫用するものとはいえない。 よって、監査対象とした本件支出が市に損害を与えている事実は認められず、 請求人の主張には理由がないものと判断する。 なお、市民協働の推進をまちづくりの理念に掲げる本市にあって、今後、留 意する点として次のとおり意見を付す。 (4)意見 近年、多くの自治体で市民生活に密着する課題や施策の決定に際し、市民意 見を反映できるよう、事前に意見聴取の機会を設けている。 本件においても、市民待望の芸術文化交流センターの竣工を間近に控え、そ の運営方法を主に市民意見を聴取する場を設けたものであるが、市側の施設説 明の中で委員理解を求める努力に欠けた面が見受けられる。 市民会議の提言には、強制力がなく、加えて、その後の意思決定内容につい て、委員に対する説明義務はないとしても、会議の趣旨や委員各位の積極的な 審議姿勢に鑑みれば、何らかの事後説明の必要があったのではないかと意見を 付す。 今後、市民会議にあっては、行政の信頼を維持しながら、円滑な会議運営を もって、発展的議論の場として機能発揮するよう望むところである。
© Copyright 2024 Paperzz