体外診断用医薬品 『アキュラシード』 - 「はたらき」を化学する 三洋化成

P
C
erformance
活 躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
120
hemicals
体外診断用医薬品
『アキュラシード』
前稿では、集磁性を生かした
高速磁気分離と再分散性に優れ
る超常磁性体磁性粒子『マグラ
医療産業分社
診断薬グループ 主任
北川 隆啓
[紹介製品の問い合わせ先]
医療産業分社
れ、かつ人の体に直接投与され
査、免疫検査に要する時間は、
ることのない医薬品である。
通常数十分から数時間程度であ
検体検査は、測定方法や検査
る。これは、臨床検査現場の高
ピッド』を紹介した。本稿では、
対象により表 1 に示すように分
効率な検査体制の構築に加え、
その長所を生かした体外診断用
類されることが多い。その多く
自動分析装置や診断薬の発達に
医 薬 品『ア キ ュ ラ シ ー ド』シ
は、検査の効率化や二次感染防
伴う測定時間の短縮が大きく寄
リーズについて紹介する。
止のためにすでに自動化されて
与している。
おり、分類ごとにさまざまな装
当 社 も、1998 年 に 免 疫 検 査
置が販売されている。また、検
を対象とする全自動化学発光酵
我々は血液検査、尿検査、心
体の採取から検査結果の報告ま
素免疫測定装置「SphereLight
電図などさまざまな検査を医療
でにかかる時間も、検査ごとに
Wako」の専用試薬『スフィア
機関で受ける。これらの検査は
大きく異なる。例えば、ウイル
ライト』シリーズを、和光純薬
臨床検査と呼ばれ、患者の健康
ス・細菌検査は、インフルエン
工業(株)と共同で開発してい
状態や傷病の状態を把握するた
ザウイルスなど迅速検査に対応
る。以下に、その後も高まる迅
めに行われる。臨床検査は、心
する一部の項目を除くと、菌の
速検査へのニーズと、それに応
電 図、MRI な ど 患 者 自 身 を 検
培養などに時間がかかるため結
える新たな体外診断用医薬品
査対象とする生理機能検査と、
果報告までに数時間から数日を
『アキュラシード』シリーズの
患者から採取した血液、尿、糞
必要とする。病理検査も、手術
便などの検体を検査対象とする
中に検体の採取から検査報告を
検体検査に大別される。体外診
行う術中迅速診断を除くと、通
断用医薬品(以下、診断薬)と
常数日以上かかる。一方、一般
は、主に検体検査の際に使用さ
検査、血液学的検査、生化学検
はじめに
特長を述べる。
迅速検査のニーズと課題
①診療前検査におけるニーズ
速やかな治療の開始と患者へ
の負担低減などの観点から、検
表1
検体検査の分類例
分類
査を行ったその日のうちに検査
検査対象例
結果を見ながら問診を受けるこ
一般検査
尿中のタンパクや糖分、糞便中の鮮血など
血液学的検査
赤血球、白血球、血小板など
生化学検査
ナトリウムなどの無機塩、
コレステロールなど
てきている。診療前検査によっ
免疫検査
腫瘍から産生される物質、甲状腺ホルモンなど
て患者は適切かつ速やかに治療
輸血検査
血液型、不規則性抗体、交差適合試験など
ウイルス・細菌検査
インフルエンザウイルス・結核菌など
を受けることが可能となり、治
病理検査
患部より採取された生体組織、細胞など
療開始の遅れによる疾患の重症
三洋化成ニュース
❶ 2016 春 No.495
とができる診療前検査が普及し
②緊急検査におけるニーズ
化を防ぐことができる。従来は
通院回数が減り、患者の身体的
検体を採取し、後日再来院して
負担を低減することができるだ
救命救急などの緊急性の高い
問診を行う必要があったが、検
けでなく、通院回数の低減は医
疾患においては、初期対応が患
査当日に治療が始まることから
療費削減にもつながる。
者の生命を左右し得ることもあ
診療前検査に対するニーズの
るため、迅速な検査とそれに基
高まりは、国が制定している診
づく速やかな治療の開始が重要
療報酬制度にも反映され、平成
である。例 え ば 胸 痛 の 患 者 で
1 D000 尿中一般物質定性半定量検査
18 年より外来迅速検体検査加
急性心筋梗塞や甲状腺クリー
2 D002 尿沈渣
(鏡検法)
算が開始された。外来迅速検体
ゼなどの疾患が疑われる場合、
検 査 加 算 と は、外 来 患 者 に 対
トロポニン T(急性心筋梗塞)
、
し、表 2 に示した厚生労働大臣
FT3、FT4、TSH(ともに甲状
が定める検査項目を実施した結
腺機能)の緊急検査を行い、こ
果について、検査実施日のうち
れらの結果を基に治療方針が決
に説明した上で文書により情報
められる。いずれの疾患におい
を提供し、当該検査の結果に基
ても、発症から治療開始までの
づく診療が行われた場合に、検
数時間が患者の予後を大きく左
体検査実施料の各項目の所定点
右するため、迅速かつ正確な検
数にそれぞれ 10 点を加算する
査結果が求められる。
表2
外来迅速検体検査加算の該当検査項目
特掲診療料の施設基準・別表第9の2
(平成26年度診療報酬改定より)
3 D003 糞便中ヘモグロビン
赤血球沈降速度
4 D005 末梢血液一般検査
ヘモグロビンA1c
(HbA1c)
プロトロンビン時間
(PT)
フィブリン・フィブリノゲン
分解産物
(FDP)
定性
5 D006
フィブリン・フィブリノゲン
分解産物
(FDP)
半定量
フィブリン・フィブリノゲン
分解産物
(FDP)
定量
Dダイマー
総ビリルビン
総蛋白
アルブミン
尿素窒素
(最 大 5 項 目)制 度 で あ る(参
③課題
クレアチニン
考文献 1)
。平成 18 年の開始当
検体の採取から結果報告まで
尿酸
初は加算点数が1点であった
の時間を短縮するためには、効
が、平 成 20 年 の 改 定 で は 5 点
率的な検査システムの構築に加
に、さ ら に 平 成 22 年 の 改 定 で
え、分析装置そのものの測定時
は 10 点まで引き上げられた。
間の短縮も必須である。最近で
診療前検査においては、検査
は、一般検査や血液学的検査に
カルシウム
結果が出る時間が長ければ、病
加え生化学検査においてはハイ
グルコース
院内での患者の待ち時間は長く
スループット(高速同時多検体
なる。待ち時間を少しでも短く
処理)の分析装置が上市されて
HDL-コレステロール
するためにも、迅速な結果報告
いる。免疫検査においても『ス
総コレステロール
が求められる。
フィアライト』などによって測
アルカリホスファターゼ
(ALP)
コリンエステラーゼ
(ChE)
γ-グルタミルトランス
フェラーゼ
(γ-GT)
中性脂肪
ナトリウムおよびクロール
6 D007 カリウム
乳酸デヒドロゲナーゼ
(LD)
クレアチンキナーゼ
(CK)
アスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ
(AST)
アラニンアミノトランス
フェラーゼ
(ALT)
LDL-コレステロール
グリコアルブミン
甲状腺刺激ホルモン
(TSH)
7 D008 遊離サイロキシン
(FT4)
遊離トリヨードサイロニン
(FT3)
癌胎児性抗原
(CEA)
8 D009
α-フェトプロテイン
(AFP)
前立腺特異抗原
(PSA)
CA19-9
9 D015 C反応性蛋白
(CRP)
図1
当社診断薬『アキュラシードFT3』
( 左)
と
和光純薬工業の専用自動分析装置「Accuraseed」
(右)
10 D017 その他のもの
三洋化成ニュース
❷ 2016 春 No.495
第一免疫反応
第二免疫反応
発光反応
<抗原と抗体との反応>
<抗原と酵素標識抗体との反応>
<酵素標識抗体によるルミノール反応>
抗体
固相担体
酵素標識抗体
血液検体
ルミノール・過酸化水素
第一B/F分離
第二B/F分離
不純物の除去
遊離の酵素標識抗体の除去
化学発光
抗原
(測定対象)
不純物
図2
遊離の酵素標識抗体
CLEIA法の測定原理
定時間の短縮化を進められては
リーズで実績のある、化学発光
いたものの、生化学検査と同じ
酵 素 免 疫 測 定 法(CLEIA 法)
水準には至っていなかった。こ
を 採 用 し て い る(図 2)。固 相
れは、免疫検査では原理上、抗
担体にあらかじめ結合させた抗
体抗原反応にある程度の時間を
体に、血液検体中の抗原(測定
固相担体としてガラスビーズ
必要とし、さらに後述する B/F
対象)を反応させ(第一免疫反
を用いる『スフィアライト』シ
分離を複数回行う必要があるた
応)、洗浄を複数回行いほかの
リ ー ズ に 対 し て、
『ア キ ュ ラ
めである。
不 純 物 を 除 去 す る(第 一 B/F
シード』シリーズは、前稿で紹
分離)。次に、固相担体上の抗
介した超常磁性体の磁性粒子
体と反応した抗原に酵素標識抗
『マ グ ラ ピ ッ ド』を 採 用 し た。
体を反応させ(第二免疫反応)
、
直径約 2μm の磁性粒子である
共同で免疫検査におけるハイ
再び洗浄を複数回行い遊離の酵
ため、直径 3mm のガラスビー
スループットの測定システム
素 標 識 抗 体 を 除 去 す る(第 二
ズを用いる『スフィアライト』
(分 析 装 置 お よ び 試 薬)の 開
B/F 分離)。この時、固相担体
と比較して反応効率が大きく向
発を進め、『スフィアライト』
上には「抗体−抗原−酵素標識
上し、免疫反応にかかる時間を
の半分である全項目わずか 10
抗体」のサンドイッチ状の複合
半分に短縮できた。
分での測定が可能な全自動化
体のみが残る。そして、複合体
さらに、『マグラピッド』の
学発光酵素免疫測定装置
の酵素標識抗体の活性を、化学
高速磁気分離と再分散性によ
「Accuraseed」およびその専用
発光試薬を用いて測定すること
り、複数回行われる洗浄をより
試薬『アキュラシード』シリー
により、抗原(測定対象)の濃
速く、確実に行うことを可能に
ズ を 上 市 し た(図 1)。こ れ に
度を求めることができる。
し た。1 回 の 測 定 で 2 回 の B/F
『アキュラシード』
当社と和光純薬工業(株)は
『アキュラシード』
シリーズの特長
①迅速測定
より、生化学検査との同時報告
が可能となった。
原理
『アキュラシード』シリーズ
は従来の『スフィアライト』シ
表3
測定時間の比較
測定機
固相
測定時間
反応時間合計
B/F分離・その他
アキュラシード
磁性粒子
(マグラピッド)
10分
7分
3分
スフィアライト
ガラスビーズ
20分
15分
5分
他社品
磁性粒子
17分
10分
7分
三洋化成ニュース
❸ 2016 春 No.495
表4 『アキュラシード』
シリーズの再現性
FT3
(pg/mL)
同時再現性
FT4
(ng/dL)
日差再現性
同時再現性
TSH
(μIU/mL)
日差再現性
同時再現性
日差再現性
試料1 試料2 試料3 試料4 試料5 試料1 試料2 試料3 試料4 試料5 試料1 試料2 試料3 試料4 試料5
平均濃度値
標準偏差
変動係数
(C.V.)
%
2.32
7.75
11.25
2.54
2.5
1.2
2.0
2.8
シリーズの測定範囲
表5 『アキュラシード』
および検出限界
FT3
(pg/mL)
FT4
(ng/dL)
TSH
(μIU/mL)
7.13
0.78
2.38
3.41
0.80
3.38
0.397 4.804 30.303 0.380 29.059
0.058 0.095 0.222 0.072 0.063 0.011 0.032 0.061 0.017 0.045 0.005 0.051 0.466 0.005 0.292
測定範囲
検出限界
0.5∼26
0.20
0.9
1.4
1.3
1.8
2.1
1.3
1.3
1.1
1.5
1.3
1.0
用いて n=20 で測定し同
廃 棄 す る こ と に な る。一 方、
時 再 現 性 を 評 価 し た。
カートリッジ式のモノテストタ
0.2∼8
0.09
一 般 的 に、デ ー タ の ば
イプであればそうした管理の必
0.005∼100
0.001
らつき具合を示す変動
要がなく、使用期限まで無駄な
係数(C.V.)は、10%未
く使用することができる。
分離を行い、それぞれ複数回の
満でばらつきが少ない、5%以
以 上 の よ う に、
『ア キ ュ ラ
洗浄が必要なため、測定時間は
下が好ましいとされるが、いず
シード』は、従来品の優れた性
この洗浄工程に大きく左右され
れの項目においても 1.1∼2.5%
能 を 維 持 し つ つ、わ ず か 10 分
る。
『アキュラシード』と『ス
となり、良好な再現性(高い測
での迅速測定を可能にした。
フィアライト』および他社品と
定精度)を有していることがわ
の測定時間の比較を表3に示
かる。また、日差再現性におい
す。『アキュラシード』は、従
ても同様に測定した結果、変動
『アキュラシード』シリーズ
来品と比較しておよそ半分とな
係 数(C.V.)は 0.9∼2.8 % と 良
は 2016 年 3 月時点で、甲状腺関
るわずか 10 分での測定を可能
好な結果が得られている。さら
連(FT3、FT4、TSH)および
にしている。なお、『アキュラ
に『アキュラシード』は、検出
高血圧関連(ALD*1、ARC*1)
シ ー ド』の 短 時 間 測 定 の 鍵 と
限界が小さい(高い感度を有し
の項目をラインアップしてい
なった『マグラピッド』の詳細
ている)ため、低濃度域まで測
る。今後これらに加えて、腫瘍
については、前稿を参照いただ
定できる。
マーカー、糖尿病、心疾患、感
きたい。
③モノテストタイプ
染症などの項目を順次上市して
今後の展開
『ア キ ュ ラ シ ー ド』は『ス
いく。
『アキュラシード』によ
『ア キ ュ ラ シ ー ド』は『ス
フィアライト』と同様に、1 検
り生化学検査との同時報告が可
フィアライト』と同様に、業界
体ごとに測定試薬が封入された
能となり、迅速な結果報告が求
トップクラスの測定精度(再現
モノテストタイプを採用してい
められる診療前検査や緊急検査
性)と感度(どれくらい微量ま
る(図 1 左)。B/F 分 離 液 以 外
において今後大きく貢献してい
で 測 定 で き る か)を 有 し て い
の 5 種類の試薬(固相、酵素標
くものと期待する。
る。『アキュラシード』の性能
識抗体(抗原)液、過酸化水素
例 と し て、甲 状 腺 疾 患 に 関 連
液、基 質 液、免 疫 反 応 用 緩 衝
*1 和光純薬工業株式会社製
する項目 FT3、FT4、TSH*1 の
液)を 1 つのカートリッジに封
同時再現性と、日を変えて再現
入している。一般的に用いられ
参考文献
1)特掲診療料の施設基準(平成 26 年度
診療報酬改定より)
性をみる日差再現性、および測
るボトルタイプの試薬は開封後
定範囲と検出限界を表 4、5 に
の使用期限を管理する必要があ
示す。
り、開封後は使用期限が短いた
②高精度かつ高感度
異なる 3 濃度域の管理検体を
め全量使い切れなかった場合は
三洋化成ニュース
❹ 2016 春 No.495