CatNo.Z2016022 なぜ重量濃度?(1) SEM-EDX,EPMA(電子線励起による X 線分析)では、定量分析結果は重量濃度として得られます。 共存元素による影響を補正計算して重量濃度を得るのですが、補正計算が不要なケースであれば、標準試料と未知試料の特性 X 線の 測定強度比は重量濃度に一致する、あるいは X 線強度は重量濃度に比例するといわれています。 ところが、特性 X 線の発生量は軌道電子の遷移によるものなので関連する軌道電子の数に依存すると考えられるのに対して、重量濃 度は原子の重さ、すなわちほとんど原子核の重量に依存します。軌道電子の数と原子核重量(陽子数は一致していますが、中性子数 がさまざまで、結合エネルギーの影響もあります)には厳密な相関性はありません。つまり、特性 X 線の発生量と重量濃度には相関 性はないはずです。 電子線と物質の相互作用を考えてみます。 図 1 のように、電子線が物質中に侵入する微小領域を、炭素(C),マグネシウム(Mg)の純物質と化合物(MgC2)で考えてみます。 入射電子 C の K 殻軌道電子 図1 Mg の K 殻軌道電子 L, M 殻軌道電子 原子核 C MgC2 Mg 各物質とも軌道電子の合計が同一になる領域を示しています。円筒の長さが異なるのは、比重のちがいです。 30keV 以下の電子線では、原子核による制動輻射(原子核により軌道が曲げられる現象)や弾性散乱によるエネルギー損失は非常に少 なく、エネルギー損失はほとんど軌道電子との衝突(クーロン反発力による相互作用ですが、ここでは古典的に衝突とします)による ものです。よって、原子核を省略します。 入射電子 C の K 殻軌道電子 Mg の K 殻軌道電子 L, M 殻軌道電子 C EDX EPMA energy dispersive electron probe micro analyzer analysis wavelength spectrometer spectrometry MgC 2 quantitative weight concentration atomic number characteristic X-ray intensity Mg 図2 CatNo.Z2016022 各軌道電子の最小励起エネルギーを考えないことにする(Bethe のシンプルなエネルギー損失)と、電子線との衝突確率は、すべての 軌道電子で同じになります。軌道電子だけを考えた電子線の衝突現象は、原子の個数ではなく、軌道電子数を同一にした領域で比較 することができます。 純 C 中の K 殻軌道電子と衝突する確率は、 8 24 MgC2 中の C の K 殻軌道電子と衝突する確率は、 4 24 衝突→K 殻軌道電子が弾き飛ばされる→上の準位の軌道電子が K 殻に遷移する→特性 X 線またはオージェ電子の発生 となるので、 両試料での蛍光収率が同一とすると、特性 X 線の発生量は衝突確率に比例して、 4 ( ) 1 24 純 C と MgC2 で発生する C の特性 X 線発生量の比率は、 = = 0.5 8 ( ) 2 24 同様に、 純 Mg 中の K 殻軌道電子と衝突する確率は、 4 24 MgC2 中の Mg の K 殻軌道電子と衝突する確率は、 2 24 2 ( ) 1 24 = = 0.5 純 Mg と MgC2 で発生する Mg の特性 X 線発生量の比率は、 4 (24) 2 一方、MgC2 の重量濃度は、原子量を Mg:24.312,C:12.011 として、 12.011 × 2 炭素の重量濃度: 24.312 × 1 + 12.011 × 2 × 100 = 49.7 [wt%] 24.312 × 1 × 100 = 50.3 マグネシウムの重量濃度: 24.312 × 1 + 12.011 × 2 図3 [wt%] 特性 X 線の発生量と重量濃度がほぼ一致します。 わずかに異なるのは、A/Z(原子量/原子番号:軌道電子 1 個当たりの原子重量)が両元素で異なるためです。 A/Z は、図 3(天然同位体組成による計算結果)のように、さまざまな元素でいくらか異なるもののだいたい 2~2.5 の値を持ってい るため、原子重量と軌道電子数がほぼ比例関係となっています。 このようなことから、X 線の発生量は、見かけ上、重量濃度にほぼ一致しているように見える、ということになります。 電子線は、K 殻軌道電子だけでなく、他の軌道電子とも衝突を繰り返しながらエネルギーを失っていき、特性 X 線を発生していきま す。SEM-EDX,EPMA では、自己吸収による影響で一部検出されないケースもありますが、繰り返し衝突によって発生した特性 X 線を すべて検出しています。図 2 は衝突現象の、ある瞬間をとらえているようにみえますが、実は繰り返し衝突を 1 つの領域に凝縮して 表現しています。衝突による電子線のエネルギー損失は、通過した領域の原子の数ではなく軌道電子の数に依存します。電子線は軌 道電子との衝突によりエネルギーを失っていくので、K 殻軌道電子との衝突頻度は、他の軌道電子の数に影響されるということです。 これが図 2 で各試料の軌道電子数をすべて同一にした理由です。 図 2 からわかることは、K 殻軌道電子との衝突確率とは、試料中の全軌道電子に対する K 殻軌道電子の比率ということになります。 純物質では、1 個の原子内の軌道電子の総数に対する K 殻軌道電子の数で、2/Z になります。化学量論的な化合物では、1 分子ある いは化学式中の全軌道電子に対する K 殻軌道電子の総数になります。 n 種類の元素の重量濃度で表されている一般的な材料では、 元素 p の原子量:Ap,原子番号(軌道電子数):Zp,重量濃度[wt%]:Cp とすると、 𝐶𝑝 元素 p の K 殻軌道電子と衝突する確率は、 𝐴𝑝 × 2 𝐶 ∑𝑛𝑖=1 𝑖 × 𝑍𝑖 𝐶𝑝 𝐴𝑖 ×2 𝐴𝑝 2 純物質標準試料と n 種類の元素で構成される材料の特性 X 線発生量の比率は、 /( ) 𝐶 𝑍𝑝 ∑𝑛𝑖=1 𝑖 × 𝑍𝑖 𝐴 𝑖 ( ) と表せます。 両元素の A/Z のちがいを換算することによって、特性 X 線発生量の比率から重量濃度を計算することができます。 炭素: 12.011/6 × 0.5 × 100 = 49.7 24.312/12 × 0.5 + 12.011/6 × 0.5 マグネシウム: [wt%] 24.312/12 × 0.5 × 100 = 50.3 24.312/12 × 0.5 + 12.011/6 × 0.5 [wt%] n 種類の元素で構成される一般材料と純物質の特性 X 線発生量の比率を I1~n とすると、元素 p の重量濃度は、 𝐴𝑝 × 𝐼𝑝 𝑍𝑝 𝐶𝑝 = × 100 𝐴𝑖 𝑛 ∑𝑖=1 × 𝐼𝑖 𝑍𝑖 上式が、ZAF 効果が全くないとしたときの特性 X 線発生量(検出強度比)から重量濃度を求める計算式です。
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