【課題】 ポリエチレンから構成される織布又は不織布 基材を用いて

(57)【要約】
【課題】 ポリエチレンから構成される織布又は不織布
基材を用いて、フィルター素材として有用な材料を提供
する。
【解決手段】 本発明に係る材料は、ポリエチレンから
構成される織布又は不織布に、放射線グラフト重合法を
用いて機能性官能基を導入したことを特徴とするもので
ある。
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(2)
特開平11−279945
1
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【特許請求の範囲】
能基を導入したものが考えられている。この放射線グラ
【請求項1】 ポリエチレン単繊維で構成される織布又
フト重合法は、様々な形状の高分子化合物に各種の機能
は不織布状の基材に、放射線グラフト重合を用いて機能
を導入することができるので、特に分離機能性材料の製
性官能基を導入したことを特徴とするポリエチレン材
造方法として、最近注目を浴びている。
料。
【0003】放射線グラフト重合用のポリマー基材とし
【請求項2】 請求項1に記載のポリエチレン材料から
ては、ポリオレフィン系の高分子材料が好適であると考
構成されるフィルター素材。
えられているが、その中でも、特にポリエチレンが放射
【請求項3】 機能性官能基がイオン交換基である請求
線グラフト重合用の最適な素材であると考えられてい
項2に記載のフィルター素材。
る。これは、ポリエチレンが、他のポリオレフィン系の
【請求項4】 ポリエチレン単繊維を用いて織布又は不
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材料と比較して、放射線を曝露した際に架橋しやすく且
織布基材を形成し、この基材に、放射線グラフト重合を
つ崩壊しにくいためである。ポリエチレンを用いた放射
用いて機能性官能基を導入することを特徴とする放射線
線グラフト重合用基材としては、フィルムや中空糸が良
グラフトポリエチレン材料の製造方法。
く知られており、イオン交換膜、電池用隔膜、空気浄化
【請求項5】 ポリエチレン単繊維で構成される織布又
用材料、アフィニティ分離膜、水処理材料、脱臭剤など
は不織布状の基材に、放射線グラフト重合によってメタ
として用いられている。例えば、放射線グラフト重合フ
クリル酸グリシジルが導入され、更に亜硫酸ナトリウム
ィルムを用いて電池用隔膜を製造することが、湯浅時
及びイソプロピルアルコールの混合水溶液中でスルホン
報,54,57−62(1983)「放射線前照射法に
化することによってイオン交換基が導入されている塩基
よるグラフト膜について」に開示されている。更に、多
性ガス除去用カチオン交換フィルター素材。
【請求項6】 ポリエチレン単繊維で構成される織布又
孔性中空糸膜のアフィニティ分離膜としての使用が特開
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平2−119937号公報に、ポリマー成形体の水処理
は不織布状の基材に、放射線グラフト重合によってメタ
材料としての使用が特開平5−111685号公報、特
クリル酸グリシジルが導入され、更にジエタノールアミ
開平5−111637号公報に、それぞれ開示されてい
ンの水溶液中でアミノ化することによってイオン交換基
る。
が導入されている酸性ガス除去用弱塩基性アニオン交換
【0004】一方、ポリオレフィンやポリエステルなど
フィルター素材。
のポリマー繊維から織布又は不織布を形成して、これを
【請求項7】 ポリエチレン単繊維で構成される織布又
フィルター素材として用いることが広く行われている
は不織布状の基材に、放射線グラフト重合によって、ビ
が、このような織布又は不織布といった繊維の集合体で
ニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド及び2
あるフィルター素材用の原材料としてポリエチレン単繊
−ヒドロキシエチルメタクリレートをグラフトすること
維が用いられた実用例は、本発明者が知る限りではほと
によってイオン交換基が導入されている酸性ガス除去用
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んどない。これは、ポリエチレンの融点や耐薬品性など
強塩基性アニオン交換フィルター素材。
の物理的・化学的特性が、他のポリオレフィン系材料の
【請求項8】 ポリエチレン単繊維で構成される織布又
代表例であるポリプロピレンなどと比較して劣っている
は不織布状の基材に、放射線グラフト重合によって、ビ
ために、ポリエチレン単繊維それ自体がフィルター素材
ニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド及びジ
としてはあまり注目されなかったためである。更に、ポ
メチルアクリルアミドをグラフトすることによってイオ
リエチレン単繊維で織布又は不織布を製造すると、その
ン交換基が導入されている強塩基性アニオン交換フィル
物理的強度が十分ではなく、「へたり」が起こるため
ター素材。
に、フィルター素材としての強度や形状安定性が得られ
【発明の詳細な説明】
ないなどといった問題点があったためである。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリエチレン単繊
【0005】このような背景のもと、本発明者は、放射
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線グラフト重合に対するポリエチレンの極めて優れた適
維から構成される織布又は不織布状の基材に、放射線グ
性に注目し、ポリエチレン単繊維から織布又は不織布を
ラフト重合を用いて機能性官能基を導入したことを特徴
構成し、これに放射線グラフト重合を用いて機能性官能
とするポリエチレン材料に関する。
基を導入することにより、優れた性質を有する機能性材
【0002】
料を提供することができることを見出し、本発明を完成
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】空気清
するに至った。
浄用ケミカルフィルターや純水製造用イオン交換フィル
【0006】
ターなどのようなフィルター素材として、極めて広範囲
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、ポリエ
にわたるポリマー繊維が用いられている。また、このよ
チレン単繊維で構成される織布又は不織布状の基材に、
うなフィルター素材として、織布又は不織布状のポリマ
放射線グラフト重合を用いて機能性官能基を導入したこ
ー基材に放射線グラフト重合法を用いて種々の機能性官
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とを特徴とするポリエチレン材料に関する。
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【0007】本発明において使用するポリエチレン単繊
【0014】また、放射線グラフト重合の後に更に2次
維の織布又は不織布としては、ポリエチレン単繊維を、
反応を行ってイオン交換基を導入することのできるモノ
ニードルパンチ法を用いたり、スポット溶接などによっ
マーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニ
てエンボス加工を行って、繊維の集合体を分散させない
ルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタク
ようにしたものや、当該技術において公知の方法を用い
リル酸グリシジルなどが挙げられる。例えば、メタクリ
て織布又は不織布の形態に形成したものを用いることが
ル酸グリシジルを放射線グラフトによってポリエチレン
できる。
不織布に導入し、次に、亜硫酸ナトリウムなどのスルホ
【0008】織布又は不織布基材に放射線グラフト重合
ン化剤を反応させてスルホン基を導入したり、又はジエ
を行う方法としては、予め基材に放射線を照射してラジ
タノールアミンなどを用いてアミノ化すること等によ
カルを形成した後、重合性単量体(モノマー)を接触さ
10
り、イオン交換繊維を得ることができる。
せる前照射グラフト重合法と、基材をモノマーの存在下
【0015】上記においては、本発明の適用例として、
で放射線照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、
主としてイオン交換フィルター素材を得る方法を示した
副生成物である単独重合物の生成量が少ないので、前照
が、本発明は、この他にもキレート基を有する重金属吸
射グラフト重合法が好ましい。また、重合方法として
着剤、触媒、アフィニティクロマトグラフィー用担体な
は、以下のような方法を用いることができる。
どにも適用することができる。
【0009】照射済基材をモノマー液に浸漬したままグ
【0016】
ラフト重合する方法を液相グラフト重合といい、この場
【発明の効果】本発明によれば、放射線グラフト重合に
合には反応温度20∼60℃、反応時間2∼10時間が
対して極めて優れた適性を有するポリエチレンにより構
好適である。
【0010】照射済基材に所定量のモノマーを付与し
成された織布又は不織布基材を用い、放射線グラフト重
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合によって機能性官能基を導入することにより、イオン
て、真空中又は不活性ガス中で反応させることによりグ
交換特性などの極めて優れた機能を有する材料を得るこ
ラフト重合する方法を含浸グラフト重合といい、この場
とができる。
合には反応温度20∼60℃、反応時間0.2∼8時間
【0017】以下、本発明を実施例により具体的に説明
が好適である。なお、この方法を用いると、グラフト重
するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
合後の基材が乾燥状態で得られるので、基材の取扱いが
【0018】
簡単で、廃液の発生量が少ないなどの利点が得られる。
【実施例】実施例1
【0011】照射済基材とモノマー蒸気とを接触させる
6d(デニール)のポリエチレン製繊維をエンボス加工
方法を気相グラフト重合といい、比較的蒸気圧の高いモ
により不織布化して、目付60g/m2 、厚さ0.4m
ノマーにしか適用できず、グラフトむらが発生しやすい
mの不織布を製造した。これに、窒素雰囲気下で、16
が、廃液発生量が少なく、グラフト重合後の基材が乾燥
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0kGyの電子線を照射した。処理された不織布をメタ
状態で得られるといった利点がある。この場合には、反
クリル酸グリシジルの20%メタノール溶液中に浸漬
応温度として20∼80℃、反応時間2∼10時間が好
し、40℃で5時間反応させて、メタクリル酸グリシジ
適である。
ルのグラフト率153%を得た。
【0012】本発明においては、上記のいずれの放射線
【0019】このグラフト不織布を、亜硫酸ナトリウム
グラフト重合法も用いることができる。放射線グラフト
及びイソプロピルアルコールの混合水溶液中に浸漬し、
重合によってポリエチレン基材に導入する重合性単量体
80℃で8時間反応させて、スルホン化を行った。
としては、それ自体が種々の機能性官能基を有する重合
【0020】得られたイオン交換不織布の中性塩分解容
性単量体や、或いはそれをグラフトした後に更に2次反
量を測定したところ、2.71meq/gであり、また
厚さが1mmに増加したが、不織布の形状を保ってお
応を行うことによって機能性官能基を導入することので
きる重合性単量体を用いることができる。
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り、強酸性カチオン交換フィルターとして塩基性ガスの
【0013】例えば、本発明によってイオン交換フィル
除去に使用可能であった。
ター素材を製造する場合、イオン交換基を有するモノマ
【0021】また、この不織布をプリーツフィルターに
ーとして、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホ
成形加工し、塩基性ガス除去用フィルターとして1.5
ン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリ
年間使用したが、交換容量や物理的強度の劣化は認めら
ルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルア
れなかった。
ンモニウムクロライド、2−ヒドロキシエチルメタクリ
【0022】実施例2
レート、ジメチルアクリルアミドなどを用いて放射線グ
実施例1と同様に、6dのポリエチレン不織布にメタク
ラフト重合を行うことにより、ポリエチレン基材に直接
リル酸グリシジル153%をグラフトしたグラフト不織
機能性官能基を導入してイオン交換フィルター素材を得
布材料を製造した。このグラフト不織布を、ジエタノー
ることができる。
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ルアミンの30%水溶液中に浸漬し、70℃で3時間ア
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ミノ化反応を行った。得られたイオン交換不織布のイオ
フト率139%を得た。中性塩分解容量1.31meq
ン交換容量を測定したところ、2.92meq/gであ
/gの強塩基性アニオン交換不織布が得られた。この不
り、また厚さが0.92mmに増加したが、不織布の形
織布は、アニオン交換フィルターとして十分に使用可能
状を保っており、弱塩基性アニオン交換フィルターとし
であった。
て酸性ガスの除去に使用可能であった。
【0025】比較例1
【0023】実施例3
6dのポリプロピレン製繊維を、実施例1と同様に不織
実施例1で使用した不織布に同様の条件で放射線照射し
布化し、同様の条件で放射線照射し、同様にグラフト重
たものを、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロ
合及びスルホン化を行って、中性塩分解容量2.59m
ライド及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートの混合
eq/gの強酸性カチオン交換不織布を得た。
水溶液中に浸漬し、45℃で5時間反応させて、グラフ
10
【0026】この不織布をプリーツフィルターに成形加
ト率122%を得た。中性塩分解容量1.2meq/g
工し、塩基性ガス除去用フィルターとして1.5年間使
の強塩基性アニオン交換不織布が得られた。この不織布
用したところ、プリーツの山部及び谷部に多くの亀裂が
は、酸性ガス用フィルターとして使用可能であった。
生じ、また着色や有機酸と思われる臭いが発生し、空気
【0024】実施例4
浄化用フィルターとして使用するには問題があった。こ
実施例1で使用した不織布に同様の条件で放射線照射し
れは、ポリプロピレンが放射線照射に対して崩壊性を示
たものを、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロ
し、即ち、放射線照射によって発生したラジカルが基材
ライド及びジメチルアクリルアミドの混合水溶液中に浸
中に残留し、これが空気中の酸素によって連鎖反応を起
漬した後、タオルで過剰のモノマーを拭い取り、モノマ
こしてポリマー主鎖が徐々に分解するためであると考え
ー量が146%となるように調製した。この不織布をガ
ラスアンプルに入れ、45℃で5時間反応させて、グラ
られる。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.6
識別記号
FI
B01J 47/12
B01J 47/12
E
D03D 15/00
D03D 15/00
Z
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