知覚リスクから見る消費者のネット購買行動

※本論文は、北川によって提出された卒論に修正がくわえられている。
作成に当たっては、モバイル社会研究所からの支援協力を受けた
知覚リスクから見る消費者のネット購買行動
枚数:22 枚
指導教員名:水越康介
学修番号:07159039
張
北川
碩
紗由美
目次
1. はじめに
2. 先行研究
1節 購買意思決定プロセス
2節 知覚リスク
3節インターネット通販におけるリスクと抵抗感に基づく商品類型化
3. データ分析
3.1 サービス・コンテンツ、最寄品、買回り品、専門品と知覚リスク(仮説 1 の検討)
3.2 パソコン通販とケータイ通販における購買のされ方(仮説 2 の検討)
4.まとめ
5.参考文献
1. はじめに
洋服をネットショッピングで購入する人が増えているようである。東京ガールズコレク
ションでは、ショーを見に来た客が、モデルが着用している洋服をその場で携帯電話から
注文する事ができるシステムを導入している。また、洋服や服飾雑貨に特化した
ZOZOTOWN も近年順調に売り上げを伸ばしている。しかし、以前はネットショッピング
で洋服を買うということは、自分の思い描いていた商品と実際の商品にギャップがあるこ
とが多く、リスクのあることだとされてきた。
では、なぜ今洋服をネットで買う流れができているのか。また、洋服以外のネット購買
はどのように行われているのか。この疑問を解くために、ネットショッピングと消費者の
知覚リスクの関係を調べたい。
本稿の目的は、以上を検討することで、私たちの購買行動とネットショッピングの関係
を見つけ、今後のネットショッピングの在り方と可能性について考えることである。
2.先行研究
2.1 購買意思決定プロセス
なぜ、消費者がネットショッピングにおいて洋服を購入するのか。この疑問に対して、
まずは消費者の購入意思決定プロセスを明らかにしていきたい。本稿では、購買行動を「製
品やサービスの購買を通して、それらを取得・確保するための行動の総称」と定義する(青
木、2010、p.54)。すなわち、購買行動は、製品カテゴリーの選択、ブランドの選択、買い
物場所の選択、購入数量、支払方法の選択など、消費者による様々な選択が含まれる行動
である。以上のような様々な選択によって、購買行動も非常に多様であるといえる。
購買行動の多様性を生み出す要因として、動機づけ、能力、機会の大きく3つを挙げるこ
とができる。一つ目の能力とは、消費者の情報処理能力や意思決定を行う上で必要な時間
などの資源のことである。二つ目の機会とは、どのような情報が利用可能であるか、その
情報がどのような形で提供されているか、といった情報環境を指す。最後に動機づけとは、
「人を行動へと駆り立てる心理的メカニズムだが、単に行動を駆動するだけではなく、目
標達成のための活動に時間やエネルギーを費やす意欲を生み出す」ものである。(青
木,2010,p.139)中でも、動機づけ要因である関与水準の高低によって購買行動を類型化する
手法が一般的に知られているという。
関与水準の高低によって購買行動を類型化する手法について、説明を加えていく。関与
水準の高低とは、その商品に対してどれほど興味をもっているかということであり、消費
1
者の行動は対象となる商品の関与水準によって購買行動を変えている。
例えば、自動車など高関与の製品を購入する場合には、消費者の行動は活性化され、情
報処理も活発に行われる傾向にあるのに対し、ティッシュペーパーなど低関与の製品の場
合では、行動や情報処理活動の程度は高関与の場合に比べて制約される傾向にある。コト
ラーは、アサエルの研究を紹介しながら、『消費者の購買行動は、購入しようとする商品に
よって異なる。例えば、ティッシュペーパーを買うときと車を購入するときの意思決定プ
ロセスは異なると考えられる。アサエルは、購買者の関与水準と、ブランド間の差異によ
って、購買行動を4つのタイプに分類した。』と述べている。(Kotler、2001、p.221)
高関与
ブランド間の違いが大きい
ブランド間の違いがあまりない
低関与
複雑な購買行動
バラエティ・シーキング購買行動
不協和低減の購買行動 習慣的な購買行動
購買行動の4つのタイプ(Kotler、2001、p.221)
以下に4タイプの購買行動について述べていく。
① 複雑な購買行動
複雑な購買行動は3段階のプロセスがある。第1段階で購買者は製品に対する信念を確
立し、第2段階で当該製品に対する態度を決定し、第3段階で慎重に吟味して選択する。
購買に対する関与水準が高く、なおかつ買いたい製品のブランド間の差異が大きい場合、
購買者は複雑な購買行動をとる。このケースに当てはまるのは、パソコンなどの、高価で、
購買頻度が低く、リスクが高く、自己表現に大きく関わる製品を買う場合であるという
(Kotler、2010、p.221)。
② 不協和低減の購買行動
関与水準が高い場合の買い物でも、ブランド間の差異を消費者がそれほど気にしない場
合もある。例えば、冷蔵庫などがこの購買行動に当てはまるといえる。冷蔵庫は毎日使用
するものであるし、価格も高いため、購買に際して多くの消費者は高い関与度をもつと考
えられる。しかし、大きさや容量、大体の機能といった属性以外はどのブランドも大差な
いと考える。
しかし、実際に買った後で気に入らない点に気付いたり、他のブランドの製品について
よい評判を聞いたりして、不安や迷い(不協和)を覚えることもある。そのような消費者は、
自分の購入した製品に対する肯定的な情報に敏感になるだろう。この例では、消費者はま
ず行動し、次に新たな信念を抱き、最後に態度を確立することになる。(Kotler,2001,p.221)
③ 習慣的な購買行動
ブランド間の差異がそれほど見られず、低い関与の製品に関して行われる購買行動であ
2
る。ティッシュペーパーなど、低価格で購入頻度の高い製品は殆どこの購買行動に当ては
まる。このような製品を買う場合、消費者は、信念、態度、行動という通常の購買プロセ
スを辿らない。広く情報を求めることはなく、また特性を吟味して購入ブランドを決定す
ることもない。ただテレビ広告や印刷広告の言うことを受動的に受け取っているだけであ
る。そして、広告の反復によって、ブランドへの確信ではなく、ブランドへの親密が生み
出される。製品に対して高い関与を抱いている訳ではないので、消費者が購買後に自分の
選択を評価することもない。このような低関与製品の場合、購買プロセスは、受動的な学
習によって形成されたブランド信念で始まり、次に購買行動に至り、場合によってはその
次に評価を伴うこともある。(Kotler、2001、p.222)
④ バラエティ・シーキング購買行動
低関与の製品でも、ブランド間の差異が大きい場合がある。この場合、消費者はブラン
ド・スイッチを頻繁に行う。例えば、クッキーである。消費者はクッキーに対してある種
の信念を持っていて、特に深く考えることもなくあるブランドを選び、消費しながらその
製品について評価する。その次には、違う味を求めて別のブランドを購入するかもしれな
い。このようなブランドスイッチは、不満からではなく、多様性を求めたいという気持ち
から起こる(Kotler、2001、p.222)。
関与の高低やブランドの差異は、消費者の購買行動における意思決定に大きく影響して
いることが分かる。ブランドの差異が大きく高価な買い物になるほど、消費者の意思決定
プロセスや購買行動は複雑になり、購買に参加する人も多くなるといえる。
以上から、消費者の購買行動はⅰ)動機づけ
ⅱ)能力
ⅲ)機会
によって多様化されてい
ることが分かった。特に動機づけに包括される関与の高低、商品のブランド間の差異は大
きく 4 つに分類することが可能である。本論文で研究対象に据えている洋服は、個人の資
質にもよるが、基本的には高関与の商品であり、消費者は複雑な購買行動もしくは不協和
低減の購買行動をとると考えられる。特にアウターなどの高価格帯の商品購入に際しては、
消費者は慎重に商品を吟味するはずである。
しかし、消費者は洋服を購入する際に、実際に商品を確認せずにインターネットを通じ
て購買することがある。これは非常に大きなリスクを持つ購買行動のはずであるが、消費
者はインターネットで商品を購買することに対してのリスクをどのように考えているので
あろうか。以上の疑問点を明らかにするために、次章では知覚リスクについての研究を元
に考えていくことにする。
2.2 知覚リスク
この節においては、消費者の知覚リスク、特にインターネット通販を利用する際の消費
3
者の知覚リスクについて明らかにしていく。本論文において、知覚リスクとは「消費者が
商品を購買し、消費・使用する際に主観的に感じる何らかの危険のこと」と定義する。(青
木、2005、p.72)消費者の購買行為とは、消費者自身が確実に予測することができないよ
うな結果をもたらし、更にその結果の中には不快なものも含まれるかもしれない。そうし
た意味において、消費者は購買行為に対してリスクを伴っているといえる。知覚リスクは、
消費者が商品選択と商品の消費について必要な知識を十分に保有していないことに起因す
る。
知覚リスクには、商品に関連するリスクと取引状況に関連するリスクがある。(青木 2005、
p.72-73)例えば、商品に関連するリスクとは、商品自体の不具合や商品使用によって自らに
悪影響を及ぼすといったリスクのことであり、取引状況に関するリスクとは、実際に商品
を確認できない為に引き起こされる商品選択の誤りや、個人情報が漏洩してしまうといっ
たリスクのことである。
特に商品に関連・起因するリスクには、商品の機能的なリスクと消費者の満足に関連す
る心理的・社会的なリスクが含まれている。青木(2005)は、このような分類をもとに知覚リ
スクの種類を整理している。
商品に関するリスク
①パフォーマンス・リスク
②物理的リスク
③身体的リスク
④心理的リスク
⑤社会的リスク
商品を上手く使いこなせず機能しない。
商品が破損してしまう。
商品が破損してしまう。身体の生命・健康を害してしまう。
自己への不満や屈辱を経験してしまう。
商品の購買・使用が準拠集団から認められない。
取引状況に関するリスク
⑥経済的リスク
⑦取引履行リスク
⑧情報漏洩リスク
⑨決済リスク
商品選択を誤ってしまうことによって金銭支出を無駄にしてしまう。
取引が履行されず、注文した商品を手に入れることができない。
購買者に関する情報が漏洩してプライバシーが侵害される。
クレジットカードなどの決済手段を使った際に、その決済に関する情報が漏洩し、悪用される。
青木(2005)は上記の様に知覚リスクを整理した上で、通信販売を通じた購買においては、
小売店における購買と比較して、消費者の知覚リスクは全般的に高まる傾向にあるが、と
りわけ売買状況に関連する経済的リスクと取引履行リスクが高まる事が考えられると指摘
した。つまり、ネットショッピングは実店舗における購買と比較すると消費者の知覚リス
クは高まる傾向にあるが、その中でも商品選択を誤ってしまったり、悪質な業者が金銭を
受け取ったあとで消費者に商品を発送しないといったリスクが高まるということである。
その理由としては、消費者は基本的に商品の実物を確認することができない状況におかれ
るからである(青木、2005、p.73)。
消費者は、商品の実物を確認できないため、商品の詳細(機能、サイズ、デザイン、色調
など)を十分に把握する事が出来ない。そのため、消費者が設定した購買目的に対して誤っ
4
た商品選択をする可能性が高まるのである。また、販売者と消費者が空間的に離れたまま、
直接接触することがないことから、販売者によって取引が履行されず、消費者が注文し決
済した商品が消費者に届けられない可能性、指定とは違った品質の商品が消費者に届けら
れる可能性、指定とは違った時期や場所に商品が届けられる可能性が高まる。
通信販売と同様に、インターネット通販においても売買状況に関連する経済的リスクと
取引履行リスクは比較的高まることが予測される。加えて、インターネットを通しての取
引ということから、売買状況に関連する情報漏洩リスクおよび決済リスクも高まるであろ
う。インターネットは不特定多数が容易にアクセスできることから、消費者によって企業
に提供された個人情報が不特定多数に、不正に取得される可能性がある。クレジットカー
ド決済に関する個人情報が漏洩し、悪用され不正な請求をされるといった事態も想定され
るのである。
2.3.インターネット通販におけるリスクと抵抗感に基づく商品類型化
2.1 で述べたように、消費者はブランド間の差異と関与の高低で消費行動を変化させる。
つまり購入する商品によって、リスクを重視した購買が行われることもあれば、リスクを
あまり考えずに行われる購買が行われることもあるということである。
渡辺・岩崎(2010)は、インターネット通販における消費者の知覚リスクと抵抗感に基づく
商品類型化を行っている。渡辺・岩崎(2010)は、ネットで販売されている主要な商品(38 種
類)を購買する場合の抵抗感に関するアンケート調査を行い、その結果をもとに商品ポジシ
ョニングマップを作成し、商品類型化を行った。( 図 2.1 参照) 図 2.1 はアンケートの回
答データから多次元尺度構成法を使って作成された布置図である。次元1(横軸)は商品
のネット購買への抵抗感を表しており、消費者は右に布置されている商品ほどネット上で
購買しやすく感じている。次元2(縦軸)は上方には有形な商品、下方はデジタルコンテ
ンツやサービスなどの無形な商品が多い。渡辺・岩崎(2010)は布置図において距離の近い商
品群をグループ化し、「サービス・コンテンツ」「最寄品」「買回り品」「専門品」の4類型
を抽出した。
図 2.1 商品別布置図(渡辺・岩崎、2010)
5
専門品
最寄品
買回り品
サービス・コンテ
ンツ
以下に、4 類型について説明を加えていく。
ⅰ)サービス・コンテンツ
「サービス・コンテンツ」は旅行やスポーツ観戦のチケットのような無形商品(サービス)
と、媒体に記録された文字や音楽、動画のような情報(コンテンツ)である。「サービス・
コンテンツ」は4類型のうちで消費者のネット購買に対する抵抗感が最も低い。この理由
は、音楽や映画、旅行などは購入の判断に目で見たり触ったりするよりも情報が重要であ
り、ネットである程度の情報が得られれば買いやすくなるためである。
ⅱ)最寄品
「最寄品」は雑貨や食料品など比較的安価なものが多く、比較などのコストをあまりかけ
ずに、頻繁に購入するものである。
「最寄品」は「サービス・コンテンツ」に次いで消費者
のネット購買に対する抵抗感が低い。この理由としては、多くの消費者は最寄品を購入す
る際に商品情報や商品比較のコストをあまりかけず、いつもの商品を購買しているからで
あると考えられる。
ⅲ)買回品
6
「買回品」は価格も高くなり、購入する商品を検討する際に通常はいくつかの店を回って
いくつかの商品を比較するものである。「買回品」にはパソコンやゲーム機、家電用品、携
帯電話などが含まれ、機能や特徴、仕様や価格、商品マニュアル、販売店情報など、ネッ
トで多様な情報が提供されている場合が多い。
「買回品」購買において、消費者は店舗に赴
いて比較検討を行う場合が多いので、先の2類型に比べ、ネット購買に対する抵抗感が強
まると考えられる。
ⅳ)専門品
「専門品」は不動産やブランド品など、高価なものが多いことが特徴として挙げられる。
その為、消費者は専門品のネット購買に対して抵抗感が高い。専門品を購買するにあたっ
て
、消費者は購買のための努力を惜しまない場合が多いため、ネットで情報を収集した
うえで、店舗に赴き、実際に商品を確認したり店員と話したりした上で購入を決定する。
渡辺・岩崎(2010)の研究から、ネットでの購入における抵抗感はその商品特性によっても
変わっていくということがわかる。彼らの議論によると、サービス・コンテンツ<最寄品
<買回り品<専門品という順で抵抗感が大きくなる。つまり、最も買われやすい商品はサ
ービス・コンテンツ、最も買われにくい商品は専門品ということになる。
また、商品特性によって抵抗感や買われ方が変化するということは、先行研究で挙げた関
与とブランド間の差異によって変化する消費者の購買行動や、知覚リスクとも関連してい
ると考えられる。
2.1 で紹介した関与とブランド間の差異によって変化する購買行動から考えると、最も購
入が行われやすいのは「最寄品」もしくは「サービス・コンテンツ」
、最も購入が行われに
くいのは「専門品」ということになる。この理由としては、「最寄品」「サービス・コンテ
ンツ」は、低関与の商品であることが多く、ブランド間の差異が小さい商品カテゴリだか
らである。対して、「専門品」は関与が大きく高価格商品であるので、購買する際には、購
買に参加する人も多くなり複雑な購買行動のパターンをとる商品カテゴリであると考えら
れるからである。
さらに、2.2 で紹介した知覚リスクと 2.3 の商品特性を合わせて考えると、最も買われや
すいのは「サービス・コンテンツ」に分類される商品ということになる。これは、「サービ
ス・コンテンツ」に分類される商品は比較的安価な商品が多いために、経済的リスクが他
のカテゴリの商品よりも低くなること、本や CD など使われ方に説明が要らない商品や無形
の商品が多いので、パフォーマンス・リスク、物理的リスクが低くなることに起因する。
知覚リスクの観点から考えても、最も買われにくいと考えられるのは「専門品」である。
不動産やブランド品などは高価な買い物になるため、経済的リスクや取引履行リスクにお
ける損害が大きく、消費者はネットでの購入を敬遠すると考えられるからである。
更に、ネットショッピングでの購買行動は、パソコンと携帯電話といった2つのツー
7
ルから行うことができる。パソコンと携帯電話では、画面の大きさ、閲覧できるウェブ・
サイト、使用する年代が異なってくると考えられるため、パソコン通販と携帯電話での通
販では知覚リスクや購入の様子が変わってくると想像される。
改めて、ここまでの発見をまとめれば大きく 2 つの点を指摘できる。
1 最もネットショッピングで購買されている商品は「サービス・コンテンツ」である。対
して、最も購買されていないのは「専門品」である。
2 パソコン通販と携帯電話での通販では、購入の様子が異なる。
上記 2 点を仮説として設定する。以下、分析を用いて確認していこう。
3.データ分析
この章では、NTT ドコモモバイル社会研究所が行ったアンケート調査のデータを基に仮設
に対して検討を行う。以下のアンケート調査は、モバイルインターネット機能を使って利
用するコンテンツの利用実態を明らかにする目的で、2010 年 2 月に、15 歳以上の一般ユー
ザ 2807 人に対して行われたものである。属性概要は以下のとおりである。
性別
男性
女性
12~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55歳~59歳60歳以上 総計
88
97
107
124
112
106
100
112
130
385 1361
84
93
104
121
112
102
99
112
133
486 1446
(単位:人)
3.1 サービス・コンテンツ、最寄品、買回り品、専門品と知覚リスク(仮説 1 の検討)
まず、サービス・コンテンツ、最寄品、買回り品、専門品が知覚リスクと関係し、先行
研究で述べたようにサービス・コンテンツ>最寄品>買回り品>専門品で購入されるかを
検討する。
以下の資料は、パソコン通販、携帯電話通販において直近に回答者が購入した商品につ
いて、商品属性毎にまとめたグラフである。ただし、今回の調査で対象となった商品を次
のように各カテゴリに分類するものとする。家電、玩具、スポーツ用品、日曜大工関連用
品は分類が難しいので、省略する。洋服に関しては、インナーやアウターなど、商品にも
よるが一般的には買回り品であろうと考えられる。
8
サービス・コンテンツ
最寄品
買回り品
専門品
書籍、CD.DVD、鉄道や飛行機の切符、レンタカーや宿泊の予約等
一般食品、化粧品、健康食品
パソコン・携帯電話関連用品、家具・インテリア
アクセサリー・宝石、自動車関連
図 3.3 「サービス・コンテンツ」を直近に購入した人の割合
鉄道や飛行機の切符、レンタカーや宿泊の予約など
CD・DVD
ケータイ通販
PC通販
書籍
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
25.00%
図 3.4「最寄品」を直近に購入した人の割合
健康食品
化粧品
ケータイ通販
PC通販
一般食品
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
図 3.5 「買回り品」を直近に購入した人の割合
9
20.00%
25.00%
家具・インテリア
ケータイ通販
PC通販
パソコン、携帯電話関連用品
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
25.00%
図 3.6 「専門品」を直近に購入した人の割合
自動車関連商品
ケータイ通販
PC通販
アクセサリー・宝石
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
25.00%
図 3.7 「洋服」を直近に購入した人の割合
ケータイ通販
洋服類
PC通販
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
25.00%
「サービス・コンテンツ」に分類される書籍と「最寄品」に分類される一般食品がほ
10
ぼ同じ割合で購入されている。また、「サービス・コンテンツ」に含まれる、鉄道や飛行
機の切符、レンタカーや宿泊の予約などの割合も高くはない。
以上の項目を除けば、「サービス・コンテンツ」「最寄品」「買回り品」「専門品」の順
に購買がされていることから、パソコン通販では完全に当てはまるということではない
が、おおよそ先行研究で説明された通りに消費者が購買をしていることが分かる。
上記のグラフから、携帯電話における通販においてもパソコン通販と同様にサービス・
コンテンツ」に分類される商品の購買者が多く、「専門品」に分類される商品の購買者が少
ない傾向が見られる。
また、洋服に関しては他のカテゴリの商品に比べ、全体的に購買者の割合が多く、しか
もパソコン通販と比較して圧倒的にケータイ通販での購買が進められている為、洋服はど
このカテゴリにも当てはまらないような独特な購買体系が取られていることが分かる。
以上の分析から、先行研究で述べられていた通り、携帯電話の通販、パソコン通販両方
において、サービス・コンテンツ<最寄品<買回り品<専門品の順に購入されている。し
かし、洋服は4類型のどこの分野にも当てはまらない独特な購買がなされる傾向がある。
3.2 パソコン通販とケータイ通販における購買のされ方(仮説 2 の検討)
次に、同じインターネット通販でも、パソコン通販における商品購買のされ方、携帯通
販における商品購買のされ方に違いはないか検討する。
分析手法としては、回答を各世代別に分けた後、
「各商品を購入したと回答した人数/各世
代の人数×100」の計算を行い、各世代の何%の回答者が各商品を購入しているかを調べた。
この分析を行うことよって、全体におけるパソコン通販利用者とケータイ通販利用者の割
合が分かり、両者がどれほど利用されているかが明らかになる。
ⅰ)サービス・コンテンツ
「サービス・コンテンツ」に分類される商品の分析として、書籍を例に挙げる。(図 3.8 参
照)
このグラフから読み取れることとして、第一に、若年層を中心として、パソコン通販を
介して書籍を購入する人が多いということである。パソコン通販では 12 歳~54 歳までの各
年代でおおよそ 10%の回答者が書籍を購入していると回答している。第二に、パソコン通
販と比較して、携帯電話での通販で書籍を購入する人が多いとは言えないということであ
る。携帯電話での通販ではどの世代でも回答率が 5%以下にとどまっており、書籍の購入に
関してはパソコン通販での回答とは大きな差があることが分かる。
図 3.8 パソコン通販、ケータイ通販で書籍を購入すると回答した人の割合(年代別)
11
(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010)
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
PC
35~39歳
携帯
30~34歳
25~29歳
20~24歳
12~19歳
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
ⅱ)最寄品
「最寄品」に分類される商品の分析として、一般食品を例に挙げる。
図 3.9 パソコン通販、ケータイ通販で一般食品を購入したと回答した人の割合(年代別)
(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010)
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
PC
35~39歳
携帯
30~34歳
25~29歳
20~24歳
12~19歳
0.00%
5.00%
10.00%
12
15.00%
20.00%
書籍同様、一般食品においてもパソコン通販では購入者が多く、携帯電話での通販
の購入者は比較的少ないといえるため、両者の間には大きな差が存在していることが、上
記のグラフから読み取ることができる。
またパソコン通販では、29 歳以下の年代では購入者が各年代の回答者の 5%以下にとど
まっていたのに対して、55~59 歳では 17%、60 歳以上でも 10%以上の回答者が一般食品を
パソコン通販で購入していることが分かる。
このことから、一般食品は年齢が上がるにつれパソコン通販で購入するのを好むことがわ
かる。年齢が下がるにつれパソコン通販と携帯通販利用の差は縮まっている。
ⅲ)買回り品
買回り品として、パソコン・携帯電話関連用品の購入について分析を行う。
図 3.10 パソコン通販、ケータイ通販でパソコン・携帯電話関連用品を購入したと回答した
人の割合(年代別)
(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010)
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
PC
35~39歳
携帯
30~34歳
25~29歳
20~24歳
12~19歳
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
書籍、一般食品同様に、買回り品であるパソコン・携帯電話関連用品においても、パソ
コン通販と携帯電話での通販との間に差があることが分かる。また、書籍、一般食品と比
較して更に購入者が少ない。
携帯電話での通販では全ての年代において各年代回答者の 2%以下にとどまり、更に 20~24
歳と 55 歳以上の年代に関しては回答者のうち購入したと回答した人は 0 人だった。
Ⅳ)専門品
13
「専門品」に分類される商品の分析として、アクセサリー・宝石を例に挙げる。(図 3.11
参照)
宝石・アクセサリーの購買においては、これまで見てきた商品群の購入の様子とは異な
り、パソコン通販とケータイ通販の間であまり差が開いていないことが分かる。
パソコン通販、携帯電話での通販どちらにおいても購入者が回答者の 3%を超えた年代はな
く、全体的にインターネット・ショッピングでアクセサリー・宝石類は購入されていない
ということが言える。また、年代によって購入状況に変化は見られない。
図 3.11 パソコン通販、ケータイ通販でアクセサリー・宝石を購入したと回答した人の割合
(年代別)
(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010)
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
PC
35~39歳
携帯
30~34歳
25~29歳
20~24歳
12~19歳
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
Ⅴ)洋服
最後に、洋服に関する購買について分析を行う。(図 3.12
参照)
12 歳~39 歳まで携帯通販による購買が大きいことが一目でわかる。12~39 歳までの購入
者が回答者の 5%~8%程度となっており、40 歳以上の年代の購入者が回答者の 2%程度しか
いないことを考えると、比較的若い世代に携帯電話での通販が利用されているということ
が分かる。
14
また、ネット・ショッピングにおいて洋服を購入したと回答した人は 335 人に上り、書
籍の 289 人よりも多い結果となった。洋服はサービス・コンテンツにも最寄品にも当ては
まらない購買のされ方をしているといえる。
図 3.12 パソコン通販、携帯通販で洋服を購入すると回答した人の割合(年代別)
(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010)
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
PC 35~39歳
携帯
30~34歳
25~29歳
20~24歳
12~19歳
0.00%
5.00%
10.00%
15.00%
20.00%
以上5つのグラフから考えられることをまとめると、全体的に携帯通販よりもパソコン
通販を利用することが多いようである。最寄品においては年齢が上がっていくにつれ、パ
ソコン通販の利用が増えている。買回り品と専門品はバラつきがあり、パソコン通販と携
帯通販の差異傾向を見出せなかった。しかし、洋服においてのみ携帯通販での商品購買が
多く、特に 40 歳以下で携帯に慣れ親しんでいる若年層による購買が顕著であった。
以下からは、オンライン・ショッピングにおける洋服の購買に焦点を当てて、パソコン
通販と携帯通販の違いを見てみる。(図 3.13、3.14 参照)
携帯だけでの特典やら携帯ネットショップでしか売っていないなどの特典要素と、忘れ
ないうちにや操作や支払いが簡単などの便利要素が携帯通販で購入する理由の大半を占め
ているとわかる。特に理由はないという回答の多さからは、携帯通販が非常に身近なもの
となっているといえる。
図 3.13 ケータイ通販で購入した理由(NTT ドコモモバイル社会研究所,2010,p.107)
15
携帯電話で購入すると割安または特典がある為
忘れないうちに買うため
携帯電話のショッピングサイトでしか売っていなかった
中古品やオークションの特定品のため
買い物に出かけた帰りやイベント会場などでどうしても欲しくなった
パソコンより操作しやすい
携帯電話料金と一緒に支払うと便利
複数店舗をネット上の価格を比べ見し、携帯電話で購入した
中古品ではないが数量限定品のため
切符や本のようにスペック情報だけで選択できる買い物だった
自分が自由に使えるパソコンを持っていない
友人などからの話に触発されて
携帯電話料金と一緒でしか支払う方法がない
テレビや屋外広告などに触発されて
セキュリティなどでパソコンより安心
その他
とくに理由はない
0
5
10
15
20
25
30
図 3.14 ケータイ通販で洋服を購入した理由
携帯電話で購入すると割安または特典がある
忘れないうちに買うため
携帯電話のショッピングサイトでしか売っていなかった
中古品やオークションの特定品のため
買い物に出かけた帰りやイベント会場などでどうしても欲しくなった
パソコンより操作しやすい
携帯電話料金と一緒に支払うと便利
複数店舗をネット上の価格を比べ見し、携帯電話で購入した
中古品ではないが数量限定品のため
切符や本のようにスペック情報だけで選択できる買い物だった
自分が自由に使えるパソコンを持っていない
友人などからの話に触発されて
携帯電話料金と一緒でしか支払う方法がない
テレビや屋外広告などに触発されて
セキュリティなどでパソコンより安全
その他
とくに理由はない
0
16
5
10
15
20
25
パソコンより操作しやすいという点が一般の携帯通販より突出している。ここから、操
作の容易さが携帯通販における洋服購入を左右するポイントとなると推測できる。確かに
携帯はパソコンのように起動するのに時間を要しないし、場所やネットの LAN も気にしな
くてよいので非常に便利といえる。そして上の一般の携帯通販と同様に特に理由はないと
いう回答の多さからは、洋服を携帯通販で購入することが非常に身近なものとなっている
といえる。
以上のグラフを比較すると、洋服を携帯通販で購入した理由のうち、「パソコンより操作
しやすい」「自分で自由に使えるパソコンを持っていない」という2つの理由が、一般商品
を携帯通販で購入した理由のグラフのものより、重要視されていることがわかる。
「パソコンより操作しやすい」「自分で自由に使えるパソコンを持っていない」という回答
は、携帯に慣れ親しんだ若年層に、より支持されていると考えられる。つまり、若年層が
携帯通販で洋服を購入している傾向にあるといえる。
仮説 1 の検証からは、インターネット通販はサービス・コンテンツ>最寄品>買回り品
>専門品の順番で購入されやすいことがわかった。これは携帯通販においてもパソコン通
販においても同じことがいえた。よって仮説 1 も先行研究通りの結果を得ることができた。
仮説 2 の検証ではパソコン通販と携帯通販の商品購買のされ方が異なることが分かった。
パソコン通販は、書籍が若年層を中心に幅広い世代に購入され、食品が年齢層の高まりと
共に購入が増加しているという傾向がある。携帯通販は、若年層の利用者が多く、特に洋
服の購買でその傾向が顕著に現れている。携帯に慣れ親しんでいる年代が携帯通販を多用
していると考えられる。このように、仮説 2 においては先行研究にはない新しい発見がで
きた。
4.まとめ
本稿では先行研究として、特に関与に焦点を当てた購入意思決定プロセス、知覚リスク、
インターネット通販におけるリスクと抵抗感に基づく商品類型化を取り上げ、実際の市場
では、仮説 1)インターネット通販においてはサービス・コンテンツ>最寄品>買回り品>
専門品の順番で購入されやすい。 仮説 2)インターネット通販と一言で表現しても、パソ
コン通販における購買のされ方と携帯通販における購買のされ方は異なる。 という 2 つの
仮説を立てた。
仮説を検証するために、NTT ドコモモバイル社会研究所が行ったアンケートデータを元に
分析を行った。その結果として、仮説1に関して、先行研究で行ったリスクと抵抗感に基
づく商品類型化の結果と似た傾向があるとわかり、証明された。また、洋服に関しては、
17
先行研究で用いた4類型のいずれにも当てはまらかった。仮説 2 においては、パソコン通
販と携帯通販の購買のされ方が異なることがわかり、先行研究にはなかった新しい発見が
できた。
実店舗と比較すると、ネットショッピングは現在、普及しつつあるもののまだ消費者の
知覚リスクによる抵抗が大きい。野島(2002)は、このような状況を踏まえ、ネインターネ
ット・ショップの取るべきリスク削減制度について研究を行っている。野島(2012)による
と、ネットショップ歴が長くなるほど消費者は自信をつける傾向にある。そこで、自信度
の高い消費者に対しては、「詳細情報(取引詳細情報、商品詳細)の提示」、自信度の低い消
費者に対しては「リアルの評価情報(口コミサイトや雑誌等)の提示」といったリスク削減
制度が有効であると述べている。今後、ネットショップは、ターゲットとする消費者を定
め、ターゲット層によってどのようなリスク削減制度を採用するか考え、実行する事が求
められ、そうした対応を多くのネットショップが取る事ができるかどうかが、ネットショ
ップが今後普及するかどうかのカギになると考えられる。今後の研究では、実際に利用者
が多いインターネット・ショップのリスク削減制度について検証していきたい。
5.参考文献
青木幸弘(2010)『消費者行動の知識』日経文庫。
Kotler(2001)『コトラーのマーケティング・マネジメント
ミレニアム版』第 10 版、月谷
真紀訳、ピアソン・エデュケーション
青木
均(2005)「インターネット通販と消費者の知覚リスク」
『地域分析』第 44 巻第 1 号。
渡部和雄、岩崎邦彦(2010)「ネット購買における消費者意識に基づく商品類型化」
NTT ドコモモバイル社会研究所(2010)『ケータイ社会白書 2011』中央経済社。
野島
美保(2002)「インターネット・ショップのリスク削減制度」『赤門マネジメント・レ
ビュー』第 1 巻第 2 号。
竹井 祐介(2011)「オンラインショッピングにおける大学生のファッション購買」首都大学
東京卒業論文。
【付録】
18
1. インターネット通販におけるリスク削減制度(今後のネットショッピングを考える)
オンライン・ショップの中には顧客獲得に悩むショップも多い一方で、順調に売り上げ
を伸ばしている店舗もあるようである。両者には消費者の知覚リスクに関連した違いがあ
るのではないだろうか。野島(2002)は、この違いを探るために、インターネット・ショップ
成功の阻害要因の中でも消費者の知覚リスクに焦点を当てて、インターネット・ショップ
の取りうる戦術について考察をした。
野島(2002)は、上記のような通信販売におけるリスクに対するリスク削減制度について理
論的分類を行った。リスク発生原因別、リスク削減方法別の2つの分類を挙げた上で、実
際の消費者がどのような視点でリスク削減制度を見分けているかを明らかにするために、
消費者の各リスク削減制度に対する重視度を測定し、消費者からみたリスク削減制度の分
類を考える。具体的な手法としては、消費者が同じような制度に対して同じような重視度
を持っているだろうと仮定し、リスク削減制度の重視度について主成分分析を行った。(補
足資料 1.1)。
この調査におけるリスク削減制度は、野島らが 2001 年秋に、インターネット・ショッピ
ング経験者 4750 名に対して行ったものである。重視度は 1(重要ではない)から、5(非常に
重要)の 5 尺度で測定された。
補足資料 1.1 制度重視度の主成分分析(野島、2002、p.210)、
初期の固有値
累積寄与度
制度
商品・サービスが有名である
ショップが実店舗をもつ
街中の実店舗で現物確認できる商品
他サイト・雑誌で紹介された商品
ショップがマス媒体で紹介
専門家による商品評価
消費者による商品評価
取引に関する消費者の評判
在庫状況表示
配送方法と納期の表示
個人情報取り扱い規定の掲載
FAQの掲載
詳細な商品記述
店主の写真・コメント
認証・表彰機関によるマーク
5.214
2.251
1.187
0.986
34.1%
49.1%
57.0%
63.6%
第1主成分 第2主成分 第3主成分 第4主成分
0.107
0.250
0.111
0 .7 0 9
-0.017
0.396
-0.007
0 .4 8 8
0.113
0.176
0.14
0 .8 4 8
0.064
0.8 1 0
0.241
0.207
0.051
0 .8 2 3
0.13
0.238
0.030
0 .6 7 8
0.461
0.13
0.102
0.252
0 .8 6
0.138
0.129
0.247
0 .8 1 5
0.089
0 .7 8 4
0.222
-0.001
-0.027
0 .8 2 0
0.094
-0.006
-0.004
0 .7 3 5
-0.121
0.152
0.168
0 .7 6 1
-0.105
0.211
0.193
0.154
0.017
0.15
0.188
0.060
0.186
0.313
0.007
0.329
0.189
0.094
0.119
野島(2002)は、各主成分の重み係数から、理論上想定した分類軸の中での消費者の行動パ
ターンとして、情報の種類という分類軸を見出した。情報の種類とは実際にウェブ・サイ
19
トが掲載しているリスク削減のための情報を、その内容によって分類したものを意味する。
そこから、消費者のリスク削減行動を考える際には、①リアルの評価、②外部権力の評価、
③消費者の評価、④取引詳細情報という情報の種類の概念を用いることが有用であると考
えた。
具体的に述べると、①リアルの評価では、商品・サービスの有名性、実店舗で現物でき
る商品であること、ショップが実店舗をもつということである。②外部権力の評価では、
他サイト・雑誌による商品紹介、専門家による商品評価、ショップがマス媒体で紹介され
ていることが挙げられる。③消費者の評価ではBBS による商品評価、BBS で過去の取引に
ついて消費者の声を聞くことができることなどである。④取引詳細情報では、在庫状況表
示、配送方法・納期の表示、個人情報取扱規定の記載、FAQ(よくある質問集)の記載であ
る。①~④の項目がそれぞれ重視される。
さらに野島(2002)は、消費者属性と重視されるリスク削減制度との関係を探るため、消費
者属性別にグルーピングをして、グループごとにリスク削減制度の重視度の重要度の平均
を求めた。具体的な手法としては、経験度(ネットショップ歴)・情報収集志向(ショップの
ウェブ・サイト以外の情報を収集するか)・自信度(あぶないショップや商店を見分ける自信)
について高低のグループに消費者を分け、それぞれのグループについてリスク削減制度の
重視度を求めた。(補足資料
1.2)
補足資料 1.2 消費者属性別の制度重視度の平均(野島、2002、p.211)
経験度( ネットショップ歴)
リアルの評価
外部権威の評価 消費者の評価 取引詳細情報
ネットショップ歴長
2.968
2.388
2.985
4.164
ネットショップ歴短
3.111
2.585
3.176
4.264
差
-0.143
-0.197
-0.191
-0.100
ρ値
0.000
0.000
0.000
0.000
サンプル数 ネットショッピング歴長 1332 ネットショップ歴短 3418 全体 4750
情報収集志向
リアルの評価
外部権威の評価 消費者の評価 取引詳細情報
情報収集思考強
3.12
2.608
3.327
4.290
情報収集思考弱
3.052
2.498
3.038
4.215
差
0.068
0.11
0.289
0.075
ρ値
0.000
0.000
0.001
サンプル数 情報収集思考 3364 情報収集思考弱 1386 全体 4750
自信度
リアルの評価
外部権威の評価 消費者の評価 取引詳細情報
自信度高
3.049
2.463
3.084
4.295
自信度低
3.082
2.56
3.14
4.211
差
-0.033
-0.097
-0.056
0.084
ρ値
0
サンプル数 自信度高 1462 自信度低 3288 全体 4750
各制度の平均値を比較してみると、どの消費者層においても取引詳細情報・消費者の評
価・外部権威の評価・リアルの評価の順に重視されている事が分かる。野島(2002) は、消
20
費者属性と組み合わせて考え、以下、大きく3つの結果をまとめた( p.212)。
第一に、経験度(ネットショップ歴)が高いほど、各制度の重視度が一様に低くなっている
ことである。ただし、ネットショップ歴の長短によって特定の制度が重視されるような傾
向は見られない。
第二に、情報収集志向が強いほど、各制度の重視度が高くなっていることが分かる。情
報を積極的に収集する消費者は、サイトが採用している制度に敏感であり、その重要性を
知っていると考えられる。平均値の差の大きさと有意水準を見てみると、特に消費者の評
価(BBS)を重視している事が言える。
第三に、自信度についてはある制度についてはプラスに、ある制度にはマイナスに効い
ている。自信度が高い人は、取引詳細情報の重視度が高い。また、統計的に有意な結果は
出ていないものの、自信度が高い人ほど評価情報の重視度が低いという傾向が見受けられ
る。彼らは、重視する制度と重視しない制度を区別し、制度選択に関する鑑識眼をもつ消
費者であると考えられる。
野島(2002)は以上の結果をもとに、ネットショップ歴と自信度・情報収集志向の関係を調
べ、今後の消費者像と、とるべきリスク削減制度について推測した。野島(2002)の調査によ
ると、ネットショップ歴が長くなるほど自信度が高くなる傾向がある。さらにその内訳を
見てみると、情報収集志向は強いが自信度の低い人の比率は、ネット歴が長くなっても変
わらない。この消費者は、情報収集を積極的に行うものの、制度選択の鑑識眼を持たない
人であると思われる。情報収集志向は弱いが自信がある人と、情報収集志向が強くて自信
がある人の比率は、ネット歴が長くなると増えている。つまり、時の経過に従い、情報収
集志向が弱く自信度も低い消費者は少なくなり、「情報収集志向が強く自信度が高い人」ま
たは「情報収集志向が弱く自信度が高い人」が増えている。ネットショッピング歴が長く
なるにつれて自信度が高くなる傾向にあるということである。
野島(2002)は、ネットショップ歴と自信度・情報収集志向の関係を見出した上で、イ
ンターネット・ショップの取るべきリスク削減制度について述べている。「今後取るべ
きリスク削減制度を考える際には、自信度が高い人が重視する制度(詳細情報)に留意す
べきであると思われる。従来、ネット広告や実店舗を併用したクリック&モルタル方式
といった「リアルの評価情報(商品・ショップの有名性)」が重視されてきた傾向にあっ
た。しかし、今後はむしろ詳細情報をいかに提示するかという点が重要になる可能性が
ある。」(p.212-213)これまでのインターネット・ショッピングでのリスク削減制度とし
て重視されてきた、クリック&モルタル方式とは、インターネット・ショップと実店舗・
実際の物流システムを組み合わせて相乗効果を図るビジネス手法を指す。例としては、
実店舗とインターネットのどちらでも販売や情報提供を行うマルチチャネル化や、予約
や注文はインターネット上で行い、商品の受け渡し・支払いを実店舗へ誘導するといっ
たやり方などがある。しかし、ネットショップ歴が長くなるにつれ、ネットショッッピ
ングにおいて自信をつけた消費者には、そのような方式を取る事よりもむしろ、取引等
21
の詳細情報を提示する事が、よりリスク削減としては効果的であると言える。しかし、
野島(2002)は続けて、ネットショップ歴の浅い消費者に向けてのリスク削減制度につい
ても以下のように言及している。「もちろん、自信度が低いネットショップ初心者向けに
は、リアルの評価情報が値有用であろう。ターゲットとする消費者によってどのようなリ
スク削減制度を採用すべきかといった、顧客と制度のマッチングが重要であると考える」
(p.213)。
以上から、ネットショップの取りうる戦術について整理する。ネットショップ歴が長い
消費者に対しては、リスク削減制度として詳細な商品記述や在庫状況などの詳細情報を提
示すること、ネットショップ歴が浅い消費者に対しては、商品サービスの有名性や、ネッ
ト上の商品が実店舗で確認できるといったリアルの評価情報を掲載することが、ネットシ
ョップ運営において有効であるとされる。ネットショップは、ターゲットとする消費者を
定め、ターゲット層によってどのようなリスク削減制度を採用するか考え、実行する事が
必要とされる。
2. ファッションに関するアンケート調査分析
竹井(2011)は、ネットショッピングにおける洋服についての購買の実態を明らかにする目的
で、2011 年 1 月に、19~24 歳の男女 146 名に対してアンケート調査を行った。
補足資料 2.1.
オンライン・ショッピングで洋服を購入した理由(竹井
2011)
ネットショッピングに比べて、明らかに実店舗での購入金額が高くなる傾向にあるとい
える。こうした現象は、知覚リスクとの関連から考える。これまで述べてきたように、ネ
ットショッピングで購買を行うということは、知覚リスクが高い行為である。よって、消
22
費者は、知覚リスクを警戒し、実店舗での購入ほどネットショッピングでは高価な購買を
したがらないことがわかる。それでは、なぜ知覚リスクが高まると予想されるにも関わら
ず、オンラインで購入を行うのか。竹井(2011)のアンケート調査の結果を元に考えてみるこ
ととする。
補足資料 2.2 ネットショッピング、実店舗における洋服の購入金額平均
24時間アクセスできるや時間の節約などの時間要素の理由が最も大きく、次に金銭的要
素と商品特典要素がくる。オンラインは欲しい商品を売るお店が家の近くにない、仕事な
ど忙しくて買いに行く時間がないといった悩みを解消できる。また、店舗は在庫や店舗面
積などの限界が多々存在するが、オンラインにはそういった問題がないので、実店舗のよ
うに行って欲しいものが買えずがっかり帰ってくることもない。欲しいものを時間にとら
われず、より豊富な種類を選べることができるのが魅力であるとわかる。そして、少数で
はあるものの、コミュニケーションが苦手な若者にとって他人の目を気にせず、店員と会
話せずに買い物できるのもオンラインの特徴で魅力のひとつである。
以上、時間的要素、金銭的要素、商品特典要素などのメリットがあることによって、消
費者はオンライン・ショッピングを利用するといえる。
23