米国発金融危機と 中国の国際通貨戦略

米国発金融危機と
中国の国際通貨戦略
野村資本市場研究所
シニアフェロー
関志雄
2009年4月20日
日米中のGDP成長率の推移
(%)
14
12
中国
10
8
6
米国↓
4
2
2007
2006
2005
2003
2002
2001
2000
0
2004
↑日本
(年)
(出所)IMF, World Economic Outlook, Oct. 2008より作成
1
米国の成長率の変動によるアジア各国・地域の成長
率への影響※
(%)
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
中
国
韓
国
ア
ン
ドネ
シ
日
本
フ
ィリ
香
港
タ
イ
ル
ピ
ン
マ
レ
ー
シ
ア
イ
シ
ン
ガ
ポ
ー
台
湾
0.0
※弾性値:米国成長率が1%上昇するときに当該国の成長率が何%変化するかを示す。
(出所)IMF, Regional Economic Outlook、Asia and Pacific, April 2008 (Table 2.11,
cross country regression).
2
中国と日本の対米輸出依存度
(%)
12
中国(市場為替レート換算)
10
8
6
中国(PPP換算)
日本(PPP換算)
4
2
2007
2006
2005
2003
2002
2001
2000
2004
日本(市場為替レート換算)
0
(年)
(注)当該国の対米輸出依存度は対米輸出をGDP(市場為替レート換算またはPPP換算)
で割ったもの。日本と中国の対米輸出は米国の対日と対中輸入で代用。
(出所)U.S. Census Bureau, IMFデータより作成
3
連動性薄い中国と米国との経済成長率
„
対米輸出依存度(輸出の対GDP比)は見かけほど
高くない
…購買力平価を考慮すると、中国のGDPは市場為替換算
のGDPより大きい
…中国は加工貿易が中心で、輸出に含まれる「輸入コンテ
ンツ」が高く、国内の付加価値が低い
„
資本規制が敷かれている
…金融機関が保有する海外資産が少なく、サブプライム
ローンの不良債権化による影響が小さい
…資本規制の下で、株価の海外市場との連動性が薄い
4
リーマン・ショック以降の中国・米国・日本の
株価の推移
(2008年9月12日=100)
130
上海総合
120
110
100
90
80
NYダウ平均
70
60
日経平均
12
50
9月
10月
11月
2008年
12月
1月
2月
3月
4月
2009年
(出所)Bloombergより作成
5
主要国・地域の世界経済成長への寄与度
(%)
6
5
4
3
世界 0.5%
2
1
中国
0.8%
0
-1
予測値
-2
2000
2001 2002 2003
中国
米国
2004 2005
ユーロ地域
2006 2007 2008 2009
(推)
日本
その他
世界
(出所)IMF, World Economic Outlook Update, January 28, 2009より作成
6
中国の国際通貨戦略
„
目標
…経済・金融の安定
…外貨準備の価値の維持・増大
„
手段
…人民元レートの安定維持
…人民元の国際化
…地域金融協力(通貨スワップ)
…周小川・人民銀行総裁によるSDR基軸通貨構想
7
2007年10月
2008年1月
2008年4月
2008年7月
2008年10月
2009年1月
2009年4月
2008年1月
2008年4月
2008年7月
2008年10月
2009年1月
2009年4月
2007年7月
2007年4月
2007年10月
2007年7月
2007年4月
2007年1月
2007年1月
2006年7月
2006年10月
NDFプレミアム
2006年10月
2006年7月
2006年4月
2006年1月
2006年1月
7.0
2006年4月
2005年10月
2005年7月
2005年4月
2005年1月
元高期待が強い
2005年10月
2005年7月
2005年4月
2005年1月
人民元の対ドルレート -現物Vs.先物(NDF)-
(元/ドル)
6.0
元高
6.5
先物(NDF、一年物)
7.5
8.0
現物
8.5
(%)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
(注)人民元の現物レートは介入など中国当局の政策の影響を直接受けるが、海外
で取引されている先物(NDF)レートはより市場の需給関係を反映している。
(出所)Bloomberg、中国国家外匯管理局より作成
8
人民元の国際化とは
クロスボーダーの取引および海外での取引
における人民元の使用割合、あるいは非居
住者の資産保有における元建て比率が高
まっていくこと
„ 具体的には、国際通貨制度における人民元
の役割の上昇、および、経常取引、資本取引、
外貨準備等における人民元のウェイトの上昇
のこと
„
9
人民元の国際化の進展
„
人民元の国際化はまだ始まったばかりだが、中国の周辺地
域を中心にある程度の進展が見られている。
… 経常取引の面では、人民元による貿易取引と決済(国境貿易が中心、
一般貿易へと拡大)、香港とマカオにおいては、中国からの観光客の
増加により人民元が現地通貨とともに広く流通
… 資本取引の面では、人民元建て外債(いわゆる「パンダ債」、日本の
「サムライ債」に相当)が2005年から発行開始(ADBが第一号)
… 外貨準備の面では、2008年12月以降、中国人民銀行が韓国、香港、
マレーシア、ベラルーシ、インドネシア、アルゼンチンの中央銀行との
間で、(ドルではなく)人民元と相手国通貨のスワップ協定を相次いで
締結している(総額6500億元)
10
人民元の国際化のメリットとデメリット
„
メリット
…為替リスクの軽減(経常取引、資本取引)
…金融機関の国際競争力の向上
…紙幣の発行額面と紙幣の発行コストとの差額である貨幣
発行特権を獲得できる
„
デメリット
…人民元の国際化には資本の自由な移動が前提となるた
め、中国は国際的ホットマネーの流入と流出の影響を受
けやすくなり、国内の金融政策など、マクロ経済政策の有
効性が損なわれる
11
人民元国際化の条件
世界経済(GNPないし輸出入)に占める中国
のシェアが大きいこと
„ 人民元の価値への信頼が確立されているこ
と
„ 中国が整備された金融市場をもち、かつ為
替・資本取引が自由・開放的であり、居住者・
非居住者が差別なく国内の金融市場にアク
セスできること
„
12
人民元の国際化は慎重に進めるべき
„
„
1997-98年のアジア通貨・金融危機当時のタイや
インドネシアの経験が示しているように、国内金融
システムの脆弱性に注意を払わず、資本取引の自
由化を急ぐことは、バブルの膨張と崩壊を招くことに
なり、非常に危険である。
人民元の国際化は、資本移動の自由化とその前提
条件となる国内の金融改革の歩調に合わせて、「漸
進的」に進めていくしかない。その地理的範囲も当
面、周辺諸国・地域にとどまるだろう。
13
周小川総裁の「国際通貨制度改革に
関する考察」
„
„
„
特定の国の通貨が基軸通貨の役割を兼ねる現在
のドルを中心とする国際通貨体制の限界を指摘し
た上、主権国家の枠を超えた基軸通貨の創出を提
案
具体的に、ドルの代わりに、国際通貨基金(IMF)の
SDRを基軸通貨にすべきだと主張
SDRとは、特別引出権のことで、IMFが発行する国
際準備資産である。その価値は主要な国際通貨の
加重平均に基づいて決められる(ドルが44%、ユー
ロが34%、円とポンドがそれぞれ11%)
14
周小川論文への疑問
„
中国の狙い
…今回の金融危機の責任の所在を明確化させること
…国際社会における発言権を高めること
…外貨準備運用の受け皿作り(ドルからSDRへ)
„
SDR構想の実現は困難
…IMF対する米国の実質的支配
…米国がSDR建てで国債を発行する可能性は低い
…IMFは世界の中央銀行の役割を果たせるか(国際協調が
困難)
15