本山美彦(京大) 報告内容(抜粋) 東アジアにおける通貨バスケットの政治経済学 序 ① 2005 年 2 月 6 月 21 日の人民元改革は、東アジア通貨バスケットの実現を促す大きな 力となるだろう。 ②それまでは、中国はドル・ペグを維持し、外貨準備も圧倒的にドルで保有していたが、 これも大きく変動し、ドルの大幅下落が東アジアをして、通貨バスケットの採用に向かわ す。そして、これが共通バスケット設立機運を生み出すであろう。 1. 地域内金融協力 ① アジア通貨危機以降、域内で相互の為替レートの安定について話し合いがもたれてき た。 ②それは、相互の金融事情の調査、域内金融市場の整備、緊急時の相互融通、政策の調整、 等々を内容とするものであった。 ③金融事情の相互調査が必要なのは、東アジア地域がドル一辺倒であり、リスク分散がで きていなかったために、通貨危機が起こったからである。さらに、急激な金融の自由化と 突然の外資引き上げが地域に打撃を与えた。こうした反省から、金融市場の整備と緊急時 の相互融資の必要性が域内で認識されるようになった。 ④資本流入規制、金融組織監督、債権市場の創出、ドル・ペグの見直しが今後は必要にな る。 2. 東アジアでは中間的為替体制が望ましい ①中間的体制というのは、完全な固定相場制と完全な変動為替制度との中間という意味で ある。 ②この中間的体制は長期的には維持できないものであるとしばしば言われる。 ③しかし、アジア通貨危機以後、東アジアは IMF の勧告に従って、変動相場制に移行した。 しかし、完全な変動相場の不安定な為替レートは経済に大きな打撃を与えがちである事に 変わりはない。 ④表 1 は、IMF によって区分される為替相場制の一覧である。 3. 域内経済政策のすり合わせ ①東アジア経済の統合が進むために、為替制度と政策のすり合わせは不可欠になる。 ②現在の東アジアの多様性のために、共通通貨の創出などははるかに遠い将来のことで、 実現は事実上不可能であると言われているが、経済統合の急激な進展から見るかぎり、為 替政策の同一化は思ったよりも早く訪れるであろう。 ③EU が EMS(ヨーロッパ通貨システム)を作ったのは 1978 年であり、それがやっと 20 数年かけて共通通貨の実現に結実した。そうしたヨーロッパの経験を生かすために、真剣 な議論が起こるべきである。 ④アイケングリーンは、「並行通貨」の提唱を東アジアに対して行っている。並行通貨と は文字通り、自国通貨と並行して流通させる共通通貨のことである。 ⑤ドル、円、ユーロを代表とする共通バスケットの成立が、自然ではあるが、中国元やウ ォンなどのこともあり、軽々にバスケットの内容を云々することはできないが、今回の中 国元の動きが通貨バスケット機運を高めたことは確かである。今後は、日本がどのような -1- 姿勢を取るかが重要となる。 4. 通貨バスケットへの反対論 ①特定の国際通貨にペグし、中央銀行が単一の通貨にのみ介入するという「シングル・ペ グ」方式は分かりやすくおなじみのものである。 ②流動性や介入の機動性(素早さ)を重視すれば、もっとも取り扱いやすいドルにペグし たいという中央銀行が多いのは確かであり、その面から、わざわざ、通貨バスケットを採 用する必要はないという意見は結構多い。 ③そうした批判にもかかわらず、中国は通貨バスケットの採用に踏み切った。2.1%の人民 元の引き上げ、変動幅を上下 0.3%に広げたということよりも、中国通貨当局がマーケッ トをコントロールしつつ通貨バスケットの採用に向けて舵を切ったということの方が重要 である。 5. 域内貿易の性格 ①チェンマイ合意に参加した諸国は、通貨バスケットへの動きを今後は見せるのではない か。 ②表 2 は、これら諸国の貿易動向を示したものである。中国を見ても明らかなように、日 本を除く域内貿易の比重は 35%になる、日本を含めると、じつに 50%もの大きさなのであ る。さらに域内貿易と 3 大貿易パートナーズを併せると 85%ものとてつもなくおおきな貿 易の結合度を示している。東アジア各国が同じような性格の貿易構造を持っているのであ る。 ③こうした貿易の結合度の強さを見るとき、日本だけがドルに対して大きく為替相場を変 動させるという体制を維持すれば、東アジア諸国の受ける打撃はますます大きなものにな ってしまうであろう。日本にのみ輸出し、円高の恩恵を受けようとしていた過去の事情が、 今ではなくなっている。輸出と輸入とが並行して急増しているという新しい条件下では、 円を含む東アジアの為替レートの安定は、東アジア経済にとって不可欠なものになってい る。ここに、日本もまた東アジア通貨バスケットに参加しなければならないという必然性 がある。 ④インドの貿易動向を見る限り、インドはアジアとの共通項はなく、その意味で通貨バス ケットに入ることはないだろう。 6. 通貨バスケットの中身 ①通貨バスケットの中身を決定する要因は、貿易の比重であるとするのが自然であろう。 表 3 は 5%以上の比重を各国ごとに示したものである。 ②ただし、通貨バスケットの中身を域内貿易比重の高い国を含めてしまえば、共通バスケ ットにならない。中国は自国の元をバスケットに入れることができないからである。東ア ジアが単一の共通バスケットを実現させるには、域外通貨を採用するしかない。ここに、 難問が存在する。 ③ 韓国とタイはそうした方向に動きだしている。 結論 東アジアは、ドル体制の崩壊の可能性を見据えて行動すべきである。IMF や世銀は東ア ジア通貨バスケットに対して冷淡である。しかし、米国の姿勢に変化が生じている。この 機運を活かして東アジア諸国は域内為替安定システム構築の合意が必要である。 -2-
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