観葉植物 कवितािली Kavitavali / カヴィターワリー(1) [始めに] 1623 年ごろに成立したとされる。1623 年が Tulsidas 逝去の年であるので、まさに最晩年の 作品である。全部で 325 詩節。組み立ては以下のとおりである。 बाल काांड (少年の巻) 22 詩節 अयोध्या काांड (アヨーディヤーの巻) 28 詩節 अरण्य काांड (森林の巻) 1 詩節 ककष्कांधा काांड (キシュキンダーの巻) 1 詩節 सांदर काांड (美の巻) 32 詩節 लांका काांड (ランカーの巻) 58 詩節 उत्तर काांड (後の巻) 183 詩節 但し、Nagaripracarini Sabha 版では、「हनमानबाहक」という章(44 詩 節)が最後に付加されている。 『ラームチャリットマーナス』の組み立てと同じであるが、最後の उत्तर काांड が半数以上の詩 節を占めている。 訳出にあたって、テキストは、Gita Press 版を基にし、随時、Nagaripracarini Sabha 版を参照 した。 各章のタイトルは、Gita Press 版を基にした。 बाल काांड (少年の巻) 子供としての姿の瞥見 1 今朝アワド王の宮殿の門まで行ってきたわ 王様が王子様を胸に抱いて出てこられた 愁いを除くその子を見て わたしはうっとりとなってしまった うっとりすることの ないような人たちは最低よ カージャルを塗った魅力ある目は カンジャン鳥の雛みたいで 友よ その目はまた 月の表面に咲き出たばかりの おなじ二輪の青蓮みたいだった 2 足には足輪 蓮の手には手首飾り 胸には美しい宝石の首飾り 幼子の青黒い体に 黄色い上衣が映えていた 王様はその子を胸に抱きながら歓喜な さっていた 蓮のような顔 その美形の花蜜を 見る人々の蜂の目は喜び 飲んでいた あのような子供が心に宿ることがなければ この世に生きてなんの甲斐があるだろう 3 体の光沢は青蓮のようで その目は蓮の麗しさも凌ぐ 土埃にまみれている時でも とても美しく カーマ神の大変な美も圧倒する 雷光のように乳歯が輝き 歓声を上げながら児戯に耽っている アワド王の四人の子供たちよ 永久にわたしの心の寺院で遊びまわるように 子供としての遊戯 4 お月様が欲しいと強情を張ったり 自分の影を目にして怖がったり 手拍子を打って踊ったりする 母親たちすべての心に喜びが溢れる むずかってなにかを強情にねだり それを手に入れるまではせがみつづけている アワド王の四人の子供たちよ 永久にわたしの心の寺院で遊びまわるように 5 若葉のような唇を開くと クンダの花の蕾のようなきれいな歯の並び そして美しく輝く高価な真珠の首飾り まるで黒い雲を裂いて稲妻が閃くよう ちぢれた髪の房が顔に垂れかかり 頬には揺れ動く耳飾り わたしは命すら捧げよう 可愛い坊や あなたのそのあどけない話し方に 6 蓮の足に小さな沓が美しく 蓮の手に小さな弓矢を持ち 少年たちといっしょに遊びまわる サラユー川の岸辺や四辻や市場で このような子供たちに愛を抱かないとすれば 念誦もヨーガも三昧もなんになろう その人たちは驢馬や犬に等しく この世に生きてなんの甲斐があるだろう 7 美しいサラユー川の岸辺を ラーマが兄弟や友達といっしょに歩きまわる 手には小さな弓矢 腰には矢筒を結わえ 身にまとう黄色い衣が新鮮でよく似合う その際の美しさの比喩を求めて サラスヴァティー女神はあらゆる世界をさまよった が 思慮深く探し求めても見つからず 女神の知恵も役立たずに終わった 弓の祭儀 8 王位の天蓋の影が美しい 地上の王たちがみな 大地を覆いつくしながら ジャナカ王の国土にやって来た 彼らは力強く 威厳があり 力に秀で 姿も身形も美しい 彼らはシーターの婿選びという めでたい儀式に呼ばれたのだ 吟詠詩人たちは王たちへの賛辞を頌し 楽人たちも楽器を奏でる その場に集う勇者たちの中にも 楽の音に合わせて手を叩く者がいる 都人たちはみな心に喜び アワドの獅子 ラーマの顔を何度も見やる 9 シーターの婿選びに集った王たちの中には 名も知られていない大王がたくさんいた 彼らはまるでヴァーユ神 インドラ神 アグニ神 スーリヤ神 クベーラ神のように 美点に溢れ 姿はチャンドラマー神かカーマ神かと 見紛うほど美しかった まるで強力なバーナースラや羅刹王ラーヴァナのような 戦で常に完勝であることを誇りとする 勇者もいた そのような王たちの集う中 わが力強き主 ダシャラタ王の息 ラーマは シヴァの弓を即座に持ち上げた 1 0 カーマ神退治と三都破壊を困難だと考え シヴァ神は硬い物質の粋を集めて弓を作らせた ジャナカ王の元に集った偉大な王たちのすべてを その弓は無力と化し みずからの力を増大させた 金剛石よりも 亀の甲羅よりもずっと硬いこの弓を どの王もどんなに力をこめても 即座に持ち上げることはできなかった その弓がラーマの蓮の手が触れると たちまちにして折れた まるで出来立ての頃から シヴァ神にそう教えこまれていた かのように 1 1 とても重たい大地が揺れ動いた すべての山 海 池とともに それ以来蛇は耳が聞こえなくなった 有象無象とともに 方位の守護神たちは不安に 戦いた 方位の守護象たちはよろめいた 十肩のラーヴァナはつんのめった 天駕 月 太陽がたがいに衝突した ブラフマー神はシヴァ神とともに仰天した 大地を支える野猪 亀 蛇も もぞもぞ 動き出した ものすごい音が宇宙を貫いた ラーマがシヴァ神の弓を折ったとき 1 2 ある女が女友達に語る 黒い雲の肌色の 目を楽しませる ラーマという幼子を あんたの愛のこもったお乳で育てなさいよ その王子様はいともたやすく弓を折ってしまったわ 居並ぶ大王たちの みずからの威光への誇りを粉微塵にして ジャナカ王 シーター王女 あたし あんた トゥルシー みんなの望みが叶うわ あたしが昨日話したように カウサリヤー妃の小宮に 喜んで身を捧げるのよ ねえ あんた ダシャラタ王に 祝福を捧げるのよ 1 3 ドゥーバ草 ダヒー 化粧粉を 金の皿に満たし 灯明の皿を手にし 美しい女たちが歌いながら進む 勝利の花輪を手にしたジャーナキーの その蓮の手の麗しさよ ラーマ様の首にかけなさい と女友達らがシーターを促す ジャナカ王国の人々は心に喜ぶ 格子窓から覗く王妃たちの姿も美しい まるでチャコールの雌鳥たちが巣に坐したまま 瞬きもせずその目で月光を飲み干しているみたいに 1 4 都ではニサーナ太鼓が 天空ではデゥンデゥビー太鼓が鳴りわたる 天駕に乗って天女たちが 歌を歌いながら舞う 三界には万歳の声 ラーマの胸には勝利の花輪 神々はラーマの美しい姿にうっとりとしながら 宙から花の雨を降らせる ジャナカ王の誓いは成就した みんなの願いは叶った 彼らの全身に歓喜が漲る 色黒の少年と色白の少女の美しさを目にして 乙女たちは藁を千切るまじないをし 祈願する 二人が永久に生きますようにと 1 5 優れた王が卑しい王によく言い聞かせる 世間をよく見て 尊く清らかに物事は語りなさい ジャーナキーは世の母であり ラーマチャンドラは世の父である そう心に思い 見なせば 面目を失うことはないだろう 多くの結婚を目にし ヴェーダやプラーナにも耳を傾け 男女の真価を知る 賢明な聖人にも訊ねたところ このように義父や家族集団が同等な例はほかにないし ラーマのような優れた花婿 シーターのような優れた花嫁もほかにはいない 1 6 サラスヴァティー女神 ブラフマー神 パールヴァティー女神 シヴァ神 さらにシェーシャ蛇 ガネーシャ神もいった 長命のローマシャ仙 カーカブシュン ディ仙も証言した なにごとをも見透かし 比類のない鑑識眼を持つナーラダ仙も 十四世界のすべての男女を見わたし いった この世界で光り輝いているのは一組の男女だけで それ以外の夫婦については言うべきことも聞くべきこともないと ラクシュミー女神 ヴィシュヌ神 賢明なハヌマーン神もいった シーターのような女性 ラーマのような男性はほかにはいないと 1 7 美しい館でラーマは花婿に シーターは花嫁になった 美女たちがいっしょに歌を歌い 若いバラモンたちがそろってヴェーダを唱える 腕輪の宝玉に映ったラーマの影 その影を見つめるジャーナキーは すっかりわれを忘れ 手はじっとそのまま 瞼を動かす気配もない パラシュラーマとラクシュマナの対話 1 8 諸王の集う中 シヴァ神の強弓を毀した 強い腕力を持つ者に わしは告げる その者にわしの硬い斧の刃がもちこたえられるかどうか 音に聞こえた その者の剛勇を わしは見てみたいと思う 王たちの集いを離れて 今すぐ見参あれ 咆哮する獅子が象に対するごとく わしはその者を取り押さえてやる わしはこの地上の王族の 隠れた幼児さえ見逃さなかった わしは王族殲滅という 秀でた誉れを身に帯びているのだ 1 9 斧を手にするパラシュラーマが とても不遜な言葉を吐くと 王たちは恐れをなし まるで無言の行に入ったかのようだった ラクシュマナは怒りの言葉を耳にして 腹を立てたが 微笑みながら恭しく言った ブリグ族の白眉よ あなたの名声はこの世界に充ち満ちています あなたの赫々たる威光は まさにすべてあなたがいわれたとおりです だが折れてしまったシヴァ神の弓は 二度と元に戻らないでしょう それにあの弓があなたとなんの関わりがあったというのですか 2 0 胎児でさえ斬り殺すほど鋭い刃の 恐ろしい斧を持ったこのわしが 王たちの集いでたずねているのだ だれが弓を折ったかと その者の力を打ち砕いて みせよう 小さな口でたいそうな返事をするわい わしと戦い殺されて 名前でも残すつもりか ヴィシュヴァーミトラよ この色白の高慢ちきな小童は 一体だれの息子なのだ 2 1 犠牲式の守護のために 王によってわたしに遣わされた インドラ神も負かす羅刹どもを 打ち砕いた ゴータマ仙の妻の 大変な罪を滅ぼし 彼女を解脱させた ジャナカ王の 目を喜ばせる賓客となった すさまじい腕力でシヴァ神の弓を毀した 諸国の王たちに勝利し シーターを娶った 色黒と色白の体をしたこの二人とも 大変な勇者であり 名前はラーマとラクシュマナ コーサラ国王ダシャラタの王子である 2 2 シヴァ神の強弓が折られたと聞き 王族にとっての恐ろしい死神 パラシュラーマ が斧を手に駆け付けた ラーマとラクシュマナを優しく見つめてから 次には激しい怒りの目で二人を睨め 付けた 麗しきラーマは比類なき勇者であり 謙譲の徳を備え 勝利に輝いていた ブリグ族の主もすぐれた勇者であったが 素直にラーマに弓矢をゆだね 立ち去っ た अयोध्या काांड(アヨーディヤーの巻) 森への出立 1 鸚鵡が羽を落とすように 王族の衣装と装身具を捨てて ラーマの体は比類なく美し くなった アヨーディヤーの都を宿営地の樹木のように見捨て 都の人々を旅の道連れのように 見捨てた 同行する すぐれた弟と清らかな妻は まるで「ダルマ」と「カルマ」が美しい肉体 を備えたかのよう 蓮の目をしたラーマは旅人のように 父の王国を捨てて去って行った 2 羽を落とした鸚鵡のように 藻の失せた水面のように 飾りと衣装を捨てて ラーマ の体は美しくなった 父母と親愛なる人々を その愛と関係に応じて 心から敬った後 美しい妻とすぐれた弟とともに 蓮の目をしたラーマは 父の王国を捨てて去ってい った まるでアヨーディヤーにはしばらく賓客として滞在した 旅人であったかのように 3 愛情に声を震わせ カウサリヤーがスミトラーにいう 「友よ わたしはカイケーイーを第二夫人とは考えず 自分の姉のように彼女につく してきたわ ラーマがわたしを『母さん』と呼ぶと わたしはいった 『わたしはおまえの母さんではなく バラタの母さんだよ 坊や おまえに祝福あれ おまえの母さんはカイケーイーなのよ』と 素直な心でラーマはカイケーイーを母だと信じ 身口意 彼女を継母であるとは考えなかった しかしシラスの花のように優美な わたしの幸福を切り裂こうとして 邪な運命の神は 欺瞞の短刀を 怒りの金剛石の上で研いだのね」 4 「どうしようもないですわ お姉様」と スミトラーはカウサリヤーの足元に平伏し ていう 「運命の神がわたしたちに耐えさせようとするものは 耐えなくてはなりません あなたの人格の素晴らしさは あなたからラーマが生まれたことからもわかります なのにバラタの母親はこのようなことをする必要があったのでしょうか あなたは王家に生まれ 王家に嫁ぎ 世継ぎの御子を授かりました なのにあなたは 幸福を奪われてしまいました ちょうど鹿が甘露の宿る月の体を汚し その上 腕のないラーフが月を捕えてしまうことがあるように」 船頭の洗足 5 その方の名号は 越えがたき輪廻の河に溺れかかった アジャーミラのような無数の 悪人を救い出した その方を想起することにより スメール山も石塊となり 広大な海も山羊の蹄ほどに なる その方の蓮の御足から 大罪を滅ぼすガンジス河が流れ出る その主がこの川を渡るために 土手に立って渡し船を求めている 6 「この船着場からすこし先までは腰までしか水はありません どれほどの深さかごら んにいれましょう あなたの御足の埃に触れて わたしの小舟も解脱してしまったら 家内にどう説明し たらいいのでしょう わたしどもにはこの小舟以外 ほかに生活の支えはないのです 息子たちをどのようにして食べさせていけばいいのでしょう たとえわたしは殺されても あなたの御足を洗わないでは 主よ 舟にお乗せするわ けにはいきません」 7 「あなたの御足を悪くいっているのではありません ただあなたの御足の埃には大変 な力があるのです 木でできた小舟は石よりも柔らかで 水に浸かってさらに柔らかくなっています あなたの聖なる御足をお洗いして後 舟にお乗りいただきたいのですが いかがなも のでしょうか」 船頭の巧みな言葉を聞き 主はシーターのほうを向いて大声で笑った 8 「食べ物といえば家には 一枚の葉盆に盛られた魚しかなく 息子たちはみんな小さ いのです 船頭カーストですから 息子たちにヴェーダを教えることもできません おう 主よ 家族はみんなこの舟にすがっています 貧しい文無しですから べつの舟を作らせることもできません ゴータマ仙の妻のようにわたしの舟が解脱してしまっても ニシャード族のわたしが 主よ あなたと口論できるでしょうか 主ラーマよ 衷心から申し上げます あなたの御足を洗わないでは 主よ 舟にお乗せするわけにはいきません」 9 「その方の御足を洗う聖なる水 ヴェーダで称揚されるガンジス河を シヴァ神が頭上に受けとめた その方の御足に近づこうと 最高のヨーガ行者 聖者たち 神々が 肉体を制御し 精神を集中させて 様々にヨーガ 念誦を修している その方の御足の埃に触れてアハリヤーは解放され ゴータマ仙は彼女をまるで新妻のように家に連れ帰った まさにその御足を目の前にして その御足を洗うことなくあなたを舟にお乗せすれば わたしは自分の仕事を失い 人々の笑い者になるでしょう そういうわけにはまいり ません」 1 0 主の意向を汲み取り 船頭は息子たちと妻を呼ぶと 彼らは主の御足を拝し 主を取り囲んで座した ガンジス河の水を小さな木の椀に汲んできて 主の御足を洗い その聖なる水を何度も回し飲みした 神々は愛情をこめて船頭の幸運を祝し 花の雨を降らせては 何度も大きな声で万歳を唱えた 船頭の家族の純朴で親密な 様々な言葉を聞き ラーマはシーターとラクシュマナのほうを何度も見て笑った 森の道で 1 1 ラーマの妻が都の外に出て 忍耐強く道を二歩進むと 額に玉の汗が浮かび 優美な唇が乾いてしまった 振り向いてたずねる 「後どれくらい歩くの どこで草の庵を結ぶの」 妻の性急さを見て取り 夫の美しい目から涙が滴り落ちた 1 2 「ラクシュマナが水を捜しにいきました あの子は少年です 夫よ しばらく木陰に立って待ってやってください わたしはあなたの汗を拭い 扇いで風を送り そして熱砂で焼けたあなたの足を洗いましょう」 ラーマは妻が疲れているのを見て取り ながい間木陰に座って 彼女の足の刺を抜いてやった シーターは夫の愛情を確認し 喜びに体は震え 目には涙が溢れた 1 3 若木の枝をつかんでラーマが立っている 肩には弓を帯び 手には矢を持ち 弓なりの眉毛 大きな目 比類のない頬の美しさ 汗の滴が浅黒い体に映えている 無数の星でいっぱいの 大きな闇の塊であるかのように その姿を心に宿しなさい 愚かな者よ たとえ命を捧げなくてはならないとしても 14 蓮の目 蓮の顔 頭にはもつれ髪 大柄な体に青春が躍動している 色黒と色白の間には 稲妻のような美女 彼らは苦行者の衣をまとい 首から花輪を下げている まったく比類のない二人の少年は 手に弓矢を持ち 腰に矢筒を結わえ きっとどこかの王子たちにちがいない 三界の白眉である三人を目にして 人々は画廊の絵のように不動となった 1 5 先に行くのは色黒の王子 後に従うのは色白の王子 苦行者の美しい装いをし カーマ神も恥じ入るほどの美しさである 弓矢を手に持ち 森林用の衣を腰にきれいに結わえ 美しい矢筒が目に映える 彼らとともに 乳海の娘 ラクシュミーのような 月の顔の美女 彼ら三人は 見る人の心を奪ってしまう 彼らの心には喜びが躍動し 体には青春が躍動し 形姿のあちこちに美しさが躍動している 1 6 美しい顔 甘美な蓮の目 頭には きれいな花を挿した もつれ髪の冠 肩には弓 手には矢が美しく映え 腰には矢筒 美しい衣類に優る 苦行者の衣 彼らとともに たおやかな女性 その体に塗油した際の垢で ブラフマー神は稲妻の輝きの群を創造したかのよう 色白の王子の肌の色を目にすると 黄金も美しく思えず 色黒の王子を目にすると 黒雲の傲りも挫けてしまう 1 7 樹皮の衣 手には弓矢 腰には矢筒 美形の倉である 二人の王子の肌は それぞれ黒雲と雷光の色をしている 彼らに伴う美女は 天性の美しい身体をし 咲き始めの蓮よりも柔らかな足をしている それぞれカーマ神 従者ヴァサンタ ラティ女神に生き写しで 彼らの姿を目にすると 身も心も奪われてしまう まるでカーマ神たちが 苦行者の装いをした 美しい旅人なって 人々の目に果報をもたらすために 道を歩いているみたい 1 8 「色黒と色白の間にきれいな女の人がいたわ ねえ あんたもわたしとおなじようにあの人を見てきたらどう 道を歩くなんて考えられないほど優美で その蓮の足に触れると 大地も縮み上がるみたいだったわ」 その話に村の女たちは魅惑され その体は喜びに震え 目からは涙が滴り落ちた 「そして二人の王子はまったく魅力的な姿で とっても美しかったわ」 1 9 「色黒も色白も生まれつき美しく その魅力はカーマ神にも優るほどだわ 弓と矢を手にし 腰に矢筒を結わえ 頭のもつれ髪も美しく 苦行者の装いをしてい る 彼らに伴うのは 月の顔の美女で その美形のごくわずかしかラティ女神は保持して いないわ あの人たちは足に沓も履いていない 裸足のままで歩いていけるはずもないのに 心 が縮む思いだわ」 2 0 「王妃が大馬鹿者で その心は石や金剛石よりも硬いことが わたしにはわかったわ 王も善悪の判断がつかず 女の言ったことに耳を貸した ほら なんて素敵な容姿でしょう あの人たちと別れてしまったら 彼らと親しい人たちは生きていけるはずがないわ 友よ あの人たちは身近で可愛がるのが当然なのよ なぜ森に追放したりしたんでし ょう」 2 1 「頭にはもつれ髪 広い胸と大きな腕 赤い目と弓なりの眉毛 弓矢と矢筒を携え 森の道を歩む姿がとても美しい おのずと敬意をこめてあなたを何度も見つめると わたしたちの心は魅惑されてしま う」 村の女がシーターにたずねる 「ねえ 教えてよ あの色黒の人はあなたのいったい なんなの」 2 2 甘露の混ざったような 美しい言葉を聞き シーターにはよくわかった 彼女たちが 利口なのが シーターは目を横に向けて 目配せで彼女たちに理解させ 微笑を浮かべて去ってい った その時 目の果報であるラーマを見つめる女たちは みな美しかった ちょうど日の出とともに 愛の池に 美しい蓮の蕾が花開いたかのように 2 3 心を落ち着けて女たちはいう 「友よ さあ あの人たちが夜に留まる場所を わたしたちも見に行きましょう 世間がたとえ悪くいっても 別にかまいはしない ともかくわたしたちの目は果報を 得ることになるわ あの人たちはおたがいにきっとすこしは語り合うでしょうから その快い言葉を聞き わたしたちの耳は幸福を得ることになるわ」 大変な愛慕の念に女たちの瞼は閉じられ ラーマを心のなかに見て その体は喜びに 震える 2 4 「柔らかな足をし 色黒と色白の体が 無数のカーマ神を恥じ入らせるほど美しかっ たわ 手には弓矢を持ち 頭にはもつれ髪 蓮の目が赤く 美しかった 友よ 彼らを真心から見た者は 彼らから心を戻すことができなくなるわ この道を今日その少年たちが 月の顔の娘を伴って通っていったの」 2 5 「彼らは顔も目も蓮の花のように美しく 眉毛はカーマ神の弓みたいだったわ 愛らしく優美な体をした 色黒と色白の少年たちで 頭のもつれ髪がよく似合ってい た 腰には矢筒を結わえ 手には弓と矢を持っていた そして不意に彼らの流し目がわた しに注がれたの その時から 友よ あなたにどのように語ったらいいのでしょう 二体の甘美で魅力的な像が わたしの心のなかに宿ってしまったの」 森で 2 6 背後の妻に心からの愛情をこめて流し目を送り 彼女の心を奪い ラーマは狩りに出 かけた 色黒の体に玉の汗が美しく映え その美しさはわたしの心を喜びで満たす 敏捷な目 美しい眉毛が揺れ動くと カーマ神の弓でさえその美しさには舌を巻く 矢筒を腰に結わえ 弓に矢を番えたまま 鹿を追いかけるラーマの姿は美しい 2 7 美しい数本の矢を腰に帯び 手に弓矢を持ち ラーマは森で狩猟をしている その美しさをどのように表したらいいのだろう この世ならぬその美しい姿を目にして 牝鹿も牡鹿もびっくり仰天し 心を奪われて 見つめている 五本の弓を携えたカーマ神だと 彼らは心に思い 身動きもせず 逃げようともしな い 2 8 ヴィンディヤ山脈に住む隠遁者や苦行者など 偉大な修行者たちは 妻がいなくて不 幸だった ゴータマ仙の妻が解放されたという話を聞き 彼ら聖者たちは喜んだ 「あなたの美しい蓮の御足に触れて すべての岩が月の顔の美女になるでしょう ラーマよ 本当にありがたいことです あなたが親切にも森にお出でくださったこと は」 अरण्य काांड (森林の巻) マーリーチャの追跡 1 パンチャヴァティーの美しい草庵の近くで まことに美しいラーマが座っている 傍らの妻シーターも弟ラクシュマナも素晴らしい 彼らの体中に大変な美が溢れてい る その時 鹿を目にし 鹿の目をしたシーターが愛らしい言葉を語ると その言葉は最 愛の夫の気に入った ラーマは弓矢を手に取り 黄金の鹿を追って駆けていった ककष्कांधा काांड (キシュキンダーの巻) ハヌマーンの飛躍 1 アンガダを始めとする猿たちが 頭も体も鈍り ためらっていたとき 風神の息子は瞬時にして跳躍した 勇躍たちまちにして いともたやすく山頂に至った 四方を見わたすと あらゆるものが不安になった 地下界の水が地上に溢れ出し 大地を支える野猪はもぞもぞと動き出し 蛇と亀は無力となった ハヌマーンが四本の足で強く踏みしめると 山は平らになり 彼がまたもや空に跳ぶと 山も四アングル跳ね上がった सांदर काांड (美の巻) [始めに] 1. Tulsidas にまつわる伝説には、ラーマ神との関わりを示す伝説が多いのは当然だが、ハ ヌマーン神との関わりを示す伝説も若干ある。ハヌマーンの活躍するこの巻は、その意味 で注目に値する。ちなみに、『ラームチャリットマーナス』では、ランカー炎上については、 わずかしか触れられていない。さらに、これは余談であるが、遠く南米アルゼンチンの文 豪ボルヘスに、『怪奇譚集』という古今東西の奇譚を集めた作品があるが、その中で Tulsidas とハヌマーン神にまつわる伝説の一つに出くわすことができる。 2.「惨事の描写」は文学の不易のテーマである。宗教詩人Tulsidasはこの巻で、このテーマ に立ち向かった一人の文学者としても立ち現れているのではないだろうか。「水を 水を 水を」という詩句には、日本の現代史とも共鳴するものがあるように思える。 無憂樹の森 1 インドラ神やヴァルナ神やブラフマー神の森よりも素晴らしい ラーヴァナの森は 春の魅力を増す装身具のようだ 古い葉がいたずらに散らないように風が警戒し この森がカーマ神とラティ女神の散策の場所であるかのように 風は大事に育てあげ ている 美しい貯水池 池 整然とした庭園を目にして 風神の息子ハヌマーンのような 感官を超越した者も 感官にとらわれてしまった しかし無憂樹の下のシーターの様子を目にすると たちまちこの森が三界の憂いの中心のように見えてきた 2 園丁は群雲 番人は巨大な兵士 たえず甘露の粋のような水がきれいに撒かれている 勇敢な羅刹 ラーヴァナはこの庭園に大変な愛着を抱き 息子のメーガナーダより可愛いと みずからの命より愛しいと思っていた そのことを聞き知っていながら ハヌマーンはシーターの姿を認めると ラーマの力を恃んで 公然とその庭園に侵入した 十頭のラーヴァナが見守る中 風神の息子である勇者は その庭園を破壊した ランカー炎上 3 衣を掻き集めては油に浸し 羅刹たちは あちこちの路地から駆け出してきて ハヌマーンの尾に結ぶ 元々戯れ好きの猿なので 怯えた様子でぐったりとし 足蹴の攻撃に甘んじながら 臆病な奴らだと心の中では思っている 子供たちは歓声を上げては手拍子を打ち 罵詈雑言を浴びせる 猿を引き立てる後に続き 様々な太鼓を打ち鳴らす 尾が大きくなりはじめると その尾のあちこちに羅刹たちは火をつける まるでヴィンディヤ山脈の山火事か無数の太陽かと 見紛うばかり 4 子供たちは群をなして ハヌマーンの尾に火をつけながら あちこち走りまわった ハヌマーンは体を小さくして縛めから逃れ それからスメール山よりも巨大になった 戯れ好きのハヌマーンは黄金の櫓に跳び乗るや すぐさまそこからラーヴァナの宮殿に登り すっくと立った 大きな尾を天空に伸ばしている姿が輝かしかった 羅刹兵たちはその姿を見て震え出した 死神のように恐ろしい姿であったから まるで火と太陽が無数に輝く 光輝の倉みたいだった その爪は巨大で おなじく巨大な顔は怒りで赤くなっていた 5 巨大な尻尾と炎の群は まるで死神がランカーを呑み込もうとして 舌を伸ばしているみたい あるいは中空にたくさんの流れ星が降っているよう 勇者のなかの勇者がまるで剣を抜いたよう インドラ神の強弓 夥しい雷光 あるいはスメール山に火の大河が流れているよう それを見て羅刹や羅刹女は狼狽していう 「すでに森は破壊され 今度は都が焼き滅ぼされるだろう」 6 いたるところ火炎だらけなのを見て 羅刹たちは泣き叫ぶ 「家が燃えるぞ 逃げろ 逃げろ 家に火がついたぞ」 「どこだ 父さんは 母さんは 兄弟は 姉妹は 妻は 兄嫁は 息子は 幼子は 可哀相な奴らどもよ 逃げるんだ」 「象を放て 馬を放て 牛も水牛も放て 山羊を放て」 「寝ている者は起こせ 起きろ 起きるんだ」 この有様を見て羅刹女たちは狼狽して男たちにいう 「夫よ わたしが何度もいったのに あの猿には関わるなと」 7 炎の群を目にし 民の恐怖の叫びを耳にし 十頭のラーヴァナは命じた 「捕まえろ 捕まえるんだ」 すると強力な兵士たちが駆け出して行った 大小の槍や綱や堅い棒や 水の入った容器を手にして また弓矢を手にした勇者たちもいた まるでランカー島は供犠の火炉 様々な物は供犠用の薪 羅刹たちは供犠のためのビンロウジの実や大麦や胡麻の実や稲 ハヌマーンの尾は供犠用の柄杓 強力な敵は供物 神々への呪文の結語として ハヌマーンは何度も大音声を発しながら 供犠を行う 8 ハヌマーンは雷鳴のような轟きを発し 炎の群を身に帯びて輝かしかった 勇敢な兵士たちが逃げ出した ラーヴァナはあわてて立ち上がり 命じた 「走れ 駆けろ 捕まえるんだ」 それを聞き 羅刹の軍団がふたたび駆け出した まるでサーワン月の雲から滝の雨が降るみたいに しかし兵士たちは炎の攻撃に身を焦がし 強風に弄ばれ 倒れ込んだ 大変な潰走状態となった 大臣たちはラーヴァナの体に激しくぶつかり 無理やりラーヴァナを背後に押しやっ ていった 彼らはいう 「主よ 私たちの力は通じません あの恐ろしい火には」 9 ハヌマーンの巨大な恐ろしい外見を目にし その獅子吼を耳にし メーガナーダは立ち上がった ラーヴァナも沈痛な様子でいった 「速さでは風に 熱では無数の太陽に勝り 恐ろしさでは死神をも また大きさではヴァーマナを凌いでいる」 賢明な者たちは後悔し いった 「これほどの使者を遣わした主が 今にもここにやって来ようとしている そのラーマが怒れば シヴァ神でさえ無事でいられようか 最強の勇者にこれ以上敵対するのは無意味なことだ」 1 0 「水を 水を 水を」と 王妃たちはみな狼狽して叫び 逃げていく 象のようなのろい足取りから 王妃たちだとわかる 衣を着るのも忘れ 宝石を散りばめた装身具も身に帯びていない 口をカラカラにさせ 彼女たちはいう 「なんとかわたしたちを救ってくれる人がい るでしょうか」 マンドーダリーは何度も手を揉み合わせては 頭を叩きながらいう 「あれほど昨日わたしが何度もいったのに だれも耳を貸そうとしなかった ヴィビーシャナも可哀相に 何度も呼びかけて いった 『あの猿は大きな禍です 多くの家が破壊されるでしょう』と」 1 1 「森を荒らしたのなら荒らしたでかまわなかった べつに困ることはなかった その猿を愚かにも縛り上げ 無理やり森から連れてきた まったく恐れを示さないのを見ても 特に注意を払わなかった 一族の斧 メーガナーダと相談して あの猿を解放することもしなかった わたしの息子の大きいのも小さいのも みんな無益に蛇と戯れ 刀の刃に首を当てている」 マンドーダリーは泣きに泣いて みずからを害している 「あのろくでもないメーガナーダに わたしは何度も呼びかけて話したのに」 1 2 王妃たちはみな身を焦がしながら逃げていく 風神の息子 ハヌマーンの姿を恐怖のため正視できない 十頭のラーヴァナの妃たちは手を揉み合わせては 頭を叩きながらいう 「これっぽっちも館から持ち出すことができなかったわ 館の品々はすっかり燃えてしまった わたしもあんたもなにも持ち出せなかったわね 自分の命のことだけで精一杯で 中庭や倉のことには頭が向かなかったわ」 マンドーダリーは悲しそうにメーガナーダを見やり 腹立たしくいう 「このろくでなしが播いた種の結果を 今みんなが刈り取っているのよ」 1 3 ラーヴァナの妃である羅刹女たちは 悲しみに泣き叫びながらいう 「ああ ああ この有様をだれか伝えてちょうだい 二十臂と十頭のラーヴァナ様に どうしたの メーガナーダ いったいどうしたの マホーダラよ あんたはなぜわたしたちを励ましてくれないの なぜ保護の手をさしのべてくれない の どうしたの アティカーヤ いったいどうしたの アカンパナよ ほんとに哀れな人たちだわ 女たちを見捨てて逃げていくとは シャーラ樹より大きな腕を 無意味に体につけて伸ばしているのね 愚かな人たちだわ その腕の力を恃んで ラーマに敵対したとは」 1 4 市場や城郭に 邸宅や館や門に 路地をあちこち駆け巡り ハヌマーンは盛大に火をつけた みな苦痛の叫び声を上げ おたがいに気遣うこともできない 民は不安に駆られてあちらこちら逃げまどう ハヌマーンが尻尾を何度も振りまわすと 粒々の菓子のように火の粉が飛び散る まるでランカーを砂糖水のように溶かしてしまい そのなかに火の粉の粒菓子を浸そ うとするかのように その光景を目にし 羅刹女たちは狼狽していう 「これから羅刹は絵に描いた猿とすら いざこざを起こしてはならない」 1 5 「火事だ 火事だ」 と叫びながら みなあちこちに逃げまどう 母親は娘のことを 父親は息子のことを気遣うこともできない 髪はほどけ 衣服は脱げ 黒煙に目も見えず 老いも若きも何度も何度も叫ぶ 「水を 水を」と 馬は嘶きを上げて駆け去り 象は咆哮とともに大群衆に突っ込む 群衆は突き飛ばされ 地に叩き付けられ 押し潰される みな家族の名前を大声で叫び 極限の状態で泣き喚く 「父さん 父さん 炎に体が燃えてしまうよ 体が焦げてしまうよ」 1 6 四方八方に炎の帯の 恐ろしい火炎がひろがり みな煙に狼狽し おたがいを見分けることもできない 水を渇望して泣き喚き 体を火に焼かれ 惨死する 「兄弟よ 助かれよ」 「妻よ 逃げろ」 「夫よ 夫よ 逃げて」 「父さん 父さん 逃げなさい」 「息子よ 息子よ 逃げろ」 その有様を見て 民は動揺し 動転していう 「さあ 十頭のラーヴァナよ 今こそあなたの二十の目でしかと見てください」 1 7 市場ごとに 邸宅や館ごとに 戸口や壁ごとに それぞれ一匹の猿が見える 上にも下にも猿 あらゆる方向に猿が見える まるで三界に猿が満ちあふれたかのように 目を閉じると心の中に 目を開けると目前に 猿が立っている 他の者を呼んでも すぐそこに猿が駆け寄ってくる 「さあ 今こそどうだ 前はだれもわたしの忠告を聞かなかった 呼び止めた者たちが みな苛立つものだった」 1 8 あわてふためいて走りまわる者 「物を家の外に出せ」といっている者 暑さにまいって水を飲み 「もう歩けない」といっている者 危難に瀕している者 焼け死ぬ寸前に助け出された者 呆然と立ちつくし 「火は恐い」といっている者 ある者たちはいう 「猿は見事に手を下した なのに 今も愚か者は強がりをやめようとしない」 「さあ走って火を消そう」 「馬鹿なことをいうな 今燃えているのは 海の水でもサーワン月の雨でも消すことのできない 特別な火な んだぞ」 1 9 十頭のラーヴァナは怒りを発し 終末の雲を呼んだ ラーヴァナの命を受け たちまち雲の軍団が駆け付けた ランカー王はいった 「ランカーが燃えている すぐに火を消せ 猿を水に押し流し 大海に沈めて殺してしまえ」 「諾 主よ」 辞儀をして雲の王は出発した 雷鳴を何度も轟かせ 土砂降りの雨を降らせつづけた しかし水によって火は勢いを増し あっという間に前よりも四倍に燃え広がった 雲たちは動揺し 顔を背けて逃走した 2 0 雲たちは体を炎に焦がし 疲労に衰弱し 散々である 水分を失い 凋み 大声で叫び合う 「以前われわれは十二個の太陽も 終末の劫火も見た シェーシャ蛇が吐き出す火も何度も見たことがある しかし水がギー油のように変化するとは 今まで耳にしたこともない 風神の息子はなんという驚異を示したことか」 雲たちの言葉を聞き 大臣たちは頭を叩きながらいう 「十頭のラーヴァナよ この異変は神に逆らった報いです」 2 1 ラーヴァナはいう 「火神も風神も水神も日神も月神もヤマ神も また死神も方位神も わたしを恐れて 震えおののいている わたしの主はシヴァ神であり ヴィシュヌ神さえ常にわたしに脅えている 大変な苦行と勇気とにより わたしはブラフマー神のすべてを手に入れた 今やこの三界にわたしに匹敵する王は他に存在しない 何人かの王については その王子や王女を人質にしている このようなわたしに逆らう 神という名前のものはいったい何者なのだ マールヤヴァーンよ そなたのいっていることは馬鹿げている」 2 2 「地上の王 地下界の蛇王 天界の王 方位の守護神がどれほどいるとしても またどれほど多くの勇者がいるとしても」 とマールヤヴァーンはいう 「羅刹の王よ 今はもうあなたに対してだれも心の中ですら悪事を働こうとしませ ん しかし火はラーマの怒りであり 風はシーターの吐息であり 猿は神に逆らった報いであると 見なすべきです 猿の姿は方便にすぎません あなたのような勇猛な戦士 勇者の中の勇者がここにいるというのに あの猿はなんら恐れることなく 威嚇しながら何度となくランカーに火をつけていま す」 2 3 様々な飲み物 揚げ物 漬け物 施物 色々な稲が 納屋で燃えている 無数の黄金の冠 寝台 籠 台座を持ち出そうとして カハール・カーストの者たちがみな 荷を負ったまま火に焼かれている 火の手が勢いを増し せっかく運び出された品物が その場所で燃えている 火炎が襲い 家や倉に満ちる 館も外壁も市場も燃え尽きた 象は象小屋で 馬は馬小屋で焼け死んだ 2 4 市場や通りに大量の金が まるでギー油のように溶けて流れ出した 金の都 ランカーという鍋が 熱のために煮え立っている ハヌマーンは 強力な羅刹たちという様々な種類の揚げ菓子を そのなかに丁寧に心をこめて漬けて 揚げ菓子の山を作った 風に命じて料理を並べさせ 火という客人たちを衷心から歓待し饗応した その様子を見て女たちが 罵りながらいう 「ラーマ王に敵対するとは ラーヴァナも気が狂ってしまったのだわ」 2 5 ラーヴァナという不治の病が 巨人の胸で進行し 日に日に彼は不安を募らせ あらゆる幸に見放されてしまった 神々や超人や聖人が様々な治療を施したが 効果はなかった 巨人は悲しみに閉ざされ いささかの平安も得ることがなかった その時ラーマの命を受けてハヌマーンという薬師が 海を越えて渡り ランカーという容器をきれいにし 羅刹という薬草を ランカーの金と宝石で包み それを念入りに燃やして ムリガンクという薬を作った シーターとの別れ 2 6 ランカーが燃え尽き 煙も失せた後 ハヌマーンは尾の火を海の水で消した シーターの足元に頭を垂れ 合掌して立ち上がった 「母よ どうか印の品をお授けください」 それを聞いてシーターは ハヌマーンを祝福し 美しい頭飾りを外して与えた 「息子よ あなたにどういえばいいのでしょう わたしがどのように日々を送っているかは あなたの見たとおりです あなたがいることが大きな心の支えでしたのに その支えを無にしてあなたは去って いくのですね」 シーターは目に涙を溜め 愛情のために声を震わせていた 彼女が不安な様子であるのを見て ハヌマーンは恭しく述べた 2 7 「母よ あっという間に一週間ほどが過ぎるでしょう 気をたしかにお持ちください 敵が破滅するまでもうわずかの期間しかありません 海に橋を架け 日種族の光であるラーマ殿は弟君とともに 猿の軍団を引き連れて ここに無事やって来られるでしょう」 遜った言葉によってシーターを慰めた後 ハヌマーンはトゥリクータ山に登り 大声で叫んだ 「ラーヴァナ象を倒す 獅子ラーマ 万歳 万歳」 風の勢いで海を波立たせながら 猿王はかなたの岸へと跳んでいった 2 8 勇ましい風神の息子は海を越え ランカーをすぐれた修行の地と考え そこが火葬場であるかのように 一晩中 幽鬼たちを呼び覚まそうと呪法を行なった ハヌマーンの大勇を見て シーターのごとき貴婦人も心に喜び 賜物を与えた ジャームバヴァットはいう 「庭園を荒らし アクシャの軍団を打ち倒し 城を焼い た ラーマの威勢という太陽の まるで光のようにハヌマーンは 人間という蓮 猿というチャクワー鳥の 憂いを払った そのハヌマーンが戻ってきたぞ 戻ってきたぞ」 2 9 空を見上げ 大きな歓声を耳にして ハヌマーンが戻ってきたのを知り みな喜び 正気を取り戻した 沈みかけた船から助かった旅人たちのように 新たな命を得たことを知り みな抱き合った 「ラーマ万歳 ラクシュマナ万歳 スグリーヴァ万歳」 と叫びながら 戯れ好きな猿たちは跳びはね 砂浜の上で踊りはじめた アンガダ マヤンダ ナラ ニーラといった強力な猿たちが 大きな尾を振りながら 顔に様々な表情を作って踊った 3 0 命の恩人 ハヌマーンが帰ってきた 彼を抱擁する者 足の埃を手にする者 尻尾に口づけする者 何度もシーターの消息をたずねる者 それに答えるだけで風神の息子からは 疲労も苦痛もすっかり消えてしまう 彼が空腹なのを知り 彼の前に芋や果物を運ぶ者 花を手折って彼の力強い腕を拝する者 ある者はいう 「恩恵の海 ラーマが嘉する者には すべての成就がある」 3 1 シーターの愛情 品性について またランカーについて 熱心に話しながら進み行くうちに あっという間に行程を終えた 王子アンガダは猿の軍団に呼びかけていった 「今日こそ木の実を食べるがよい」 それを聞くと猿たちは われ先にとマドゥヴァ ナの森に入り込んだ 猿たちに殴られた園丁らが 大声で叫びながら王の館に駆けつけた 「アンガダ様が庭園を荒らされました」 と体の傷を見せながらいった すると猿王スグリーヴァはいった 「猿どもが仕事を果たして戻ってきたのだ 主ラーマに誓っていうが 今わたしの心は大きな喜びでいっぱいだ」 ラーマの寛大さ 3 2 クベーラ神の都 ランカーは スメール山に等しい 創造神の知恵が自由に発揮されて ランカーは創造された そこにシヴァ神に帰依する 二十臂の勇者 王族の威光の倉 ラーヴァナが王となった 三界の富 品物 財物を山のように集めて保管し そのため世界は藁同然となった 三日間の断食という森住まいの後 その品々は 惜しげもなく喜捨されるように 海辺で大王ラーマによってヴィビーシャナに与えられた लांका काांड (ランカーの巻) 羅刹たちの不安 1 「獰猛な熊と巨大な猿が大きな山を運んで 海を埋め立ててしまうだろう 強力で勢威ある勇者たちの腕をへし折り その死体で大地を飾り 大王の権威を失墜させるだろう」 ランカーの炎上を見た者は だれもが意欲をなくしていた 大臣たちはみな声を大にして 宣誓口調でいった 「シヴァ神やヴィシュヌ神に守ってもらっても 助からないだろう ラーマ王子が怒れば だれも戦を挑む者はいない」 トリジャターの励まし 2 トリジャターが何度もシーターにいう 「ラーマ様はたった一本の弓で七つの海を干してしまうでしょう 羅刹の軍団を一族もろとも殲滅し ジャッカルなどの動物 魔女の集団 カーリカー女神群の飢えを 満たしてやることでしょう ヴィビーシャナを公然と王に据え 彼に情けをかけるでしょう その時 空では楽器が鳴り響き 神々の心は愛で満たされるでしょう ラーヴァナがいかほどの者でしょう 哀れなメーガナーダがいかほどの者でしょう 虫に等しいクンバカルナがいかほどの者でしょう ひとたびラーマ様が戦で怒ったと したら」 3 恭しく愛情をこめてシーターはトリジャターにいう 「背の君についてなにか知らせがありましたか」 トリジャターはいう 「はい ありました 日種族の光 ラーマ様は 海に橋を架け こちら側に渡りました 恐怖の羅刹 ラーヴァナの使いが その様子をつぶさに見て 帰ってきました 彼らの顔が曇り 体には力がなく 元気が失せているのを見ると 羅刹というこの世の暗黒が 消滅に向かっているようでした 王たちというチャクワー鳥の悲しみを払うために 猿軍という蓮を開花させるために ラグ族の太陽がまもなく昇ることでしょう」 羅刹たちの不安 4 スバーフ マーリーチャ カラ ドゥーシャナ トリシラー ヴァーリンを滅ぼすた めに 二本目の矢で狙う必要のなかった方 そのラーマに対して 妻シーターを運命に逆らって誘拐したうえ 十頭のラーヴァナは戦いを企てようとしている ラーマとハヌマーンの所業を思うと ラーヴァナへの非難が家々に広がり 海に橋が架けられたという知らせに 民はみな動揺している 険阻な城砦に住まいし ラーヴァナのような強力な統治者がいながら ランカーでは火事を恐れて だれも飯を炊いて食べようとしない 5 「千の腕」という名を持つ者を殺した パラシュラーマのような 世界を征服する勇者が ラーマの前では空手となった 気でも触れたのか 小父の忠告にも耳を貸さなかった ハヌマーンがランカーを炎上させなかったとでもいうのか 今のうちラーマ王子と仲直りした方がいい さもなければ だれが象でだれが獅子か 思い知らされるだろう ラーヴァナは名声も行いも人の噂もでっかいが その法螺話もでっかすぎる 渡海 6 石が船のようになったとき 猿たちは 「ラーマ万歳」 と唱えながら 対岸に降り 立った 橋を渡りながら 山や岩を手にした猿たちはみな 海の潮が満ちてくるように美しか った 彼らは怒りを発し ラーマの命令を成就するだろう いともたやすくランカー城に跳 びのるだろう 戦で四軍の軍団をたちまちにして滅ぼし 邪悪なラーヴァナを徹底的に打ちのめすだ ろう 7 巨大で恐ろしげな多数の猿と熊 まるで死神が様々な外見を取り 怒りを発して駆けているよう 山や岩を シャーラやシュロやタマーラの木を折って手に取り 海を埋め立てるその様子に 神々は歓喜した 方位の守護象たちはよろめき 亀と野猪はもぞもぞ動き出した 山々の群は震え シェーシャ蛇は押し潰されそうになった 猿たちは激昂し ラーマに誓いを立てながら進む 怒った猿の軍団を だれが押しとどめることができよう 8 シュカとサーラナが戻って来た 彼らを呼び寄せると 彼らは語りはじめた しかし彼らの体には 敵軍のことを考えるだけで 恐怖の戦慄が走った 「強力な猿たちと巨大な熊たちは死神のように恐ろしいです いったい地上のどこにいたんでしょう どこから地下に戻るんでしょう」 ラーマの威勢を聞き ラーヴァナは笑った 恐怖に顔が青ざめているのに 笑ってごまかした ラーマに刃向かえば ブラフマー ヴィシュヌ シヴァの神々にすら不幸が見舞い ラーマ王の恩顧があればこそ すべての者は安穏であるのに 使者アンガダ 9 王子アンガダがランカーにやって来ると 「来たぞ 来たぞ あの猿がまたやって来たぞ」と 民は騒ぎ立てた 物を家から運び出す者もいれば あわてふためいて走りまわる者もいる 「とんでもないことになった 一体どうなるだろう」 勇者たちも苦悩に陥った 猿王アンガダがラーマに誓いを立ててから 咆哮すると まるで雷鳴が轟いたかのように 羅刹たちは耳を覆った ハヌマーンのことを思い出し 彼らは恐怖に青ざめた そして 鷹が襲いかかってきた時のラワー鳥のように 身を隠した 10 主ラーマの力を恃んで ヴァーリンの息子 アンガダは ラーヴァナさえなんとも思わず きつい言葉を口にする 「シヴァ神の賜物が台無しになっていくようだな なぜ腹を立てているんだ わしはおまえのためを思って話しているんだぞ いいかい ラーヴァナよ 主に同行しているわれわれ猿たちが 堅固な城や城郭の櫓 に登り 怒りにまかせてちょっと打撃を与えるだけで すべてが土塊の山のように潰れてしま うだろう 彼らがランカーに手を下せば ランカーは掌のようにぺちゃんこになるだろう」 1 1 「主はドゥーシャナ ヴィラーダ カラ トゥリシラー カバンダを殺した 巨大なシュロの木を弓矢で貫いた それは主にとって朝飯前のことだった ある勇猛な英雄が たった一本の矢で打ち負かされた 強力なヴァーリンの力については おまえも知っているだろう わしはおまえにとってよかれと思って語っているのに おまえはすこしも恐れを示さ ないな だが べつにおれの知ったことではない おまえがこれまでの悪行の報いを受けるだ けだ 勇者という象たちにとって 獅子のごとき 斧を手にするパラシュラーマも みずか らの敗北を認めた おまえになにができるというのだ 卑しい者よ おまえのごときはものの数にも入ら ない」 1 2 「ラーヴァナよ おまえにいっておくが ラーマ王に刃向かうなどという 血迷った ことはしない方がいいぞ 強力なヴァーリン カラ ドゥーシャナなど多くの者が 自分の能力を忘れて危ない 橋を渡り 橋から落ちた おまえもどうせおなじ目に遭うぞ そうでなく命が助かりたいと思ったら シーターを連れてラーマに会いにいくことだな ブラフマー ヴィシュヌ シヴァの神々が 無数にいたとしても ラーマの怒りから身を防ぐことはできないのだから」 1 3 「おまえは偉大な羅刹王であり わしはラーマ王の僕であるスグリーヴァの僕である 犬でも自分の路地では強いものだ わしの前で大口を叩いて恥ずかしくないのか おまえの二十の腕 十の頭をもぎ取ってしまうところだ そうしないのも主の命令に 背くのを恐れるからだ 獅子が象に対するように 戦場でおまえの軍勢を粉砕してやる このわし ヴァーリ ンの息子 アンガダが」 1 4 「コーサラ王 ラーマのために 今すぐにでもわしは トゥリクート山を根こそぎに し 海に落として沈めることもできよう それどころか この偉大な二の腕で激しく平手打ちを加え たちまちにしてこの宇宙 を押し潰すこともできよう もし命令に背くことをわしが恐れなかったら ここに居合わせた者どもすべてを わしは手で揉み崩し その血で捏ね合わせると ころだ しかしわしはヴァーリンの息子であるからには 戦でおまえの十の首を取るつもり だ」 1 5 大変な怒りを発してアンガダは 会衆の見守る中 宣誓のために足を踏ん張った ランカー中が怯え 騒然となった メーガナーダに等しい勇者たちが 激昂して名乗りを上げ 足を退かそうとした しかし羅刹の兵士たちはみな 努力の甲斐もなく 疲労困憊してしまった 足はびくともせず スメール山よりも重くなった まるでブラフマー神が大地といっしょに創造したものであるかのように すべての勇者たちが称賛した この世で最強なのはヴァーリンの息子 アンガダドで あると 1 6 アンガダは ラーマの力を思い 誓いを立てて足を踏ん張った 兵士たちが寄ってたかって持ち上げようとしたが その足は微動だにしなかった さすがの大地も辛抱ができなくなった 大地に山がのめり込みはじめた 大地を支える 我慢強いシェーシャ蛇も 重みに耐え切れなくなった ヴァーリンの息子 強力なアンガダの圧力の下 大地は震え 海は跳ね上がり スメール山は裂けようとした 大地を支える亀の硬い背には そのかみマンダラ山を支えた際にできた瘤があったが 今それが役に立った それでも胸には痛みが走った ラーヴァナとマンドーダリー 1 7 黄金山の頂に登り 猿の軍勢を目にしたマンドーダリーは とても怯えてラーヴァナに語る 「サハスルバーフのような暴れ象を戦で破った獅子 パラシュラーマでさえ その方を見たら 驕りが消えた その勇敢な戦士 コーサラ王は いともたやすく強力なヴァーリンを負かした ねえ あなた 今はもう屈服し 『ラーマ様 あなた様におすがりします』 と懇願 する時です そうしながら 今すぐにもシーターを連れ戻しにいくべきです」 1 8 「マーリーチャを矢で吹き飛ばし ターラカーを殺した シヴァの強弓を毀し すべての人たちを幸せにした 一万四千もの羅刹たちとともに カラとドゥーシャナを死の世界に送った 下劣なことに あなたはまだその方を認知しようとしない ねえ あなた わたしの忠告を聞きなさい 神に背いてヴァーリンがどのような結果を得たでしょう すでにあなたの二十の腕と十の頭は潰されたも同然なのです あなたがシヴァ神の主に刃向かったまさにその時に」 1 9 「ヴァーリンを滅ぼし つい先日は 石を船に変えた 主よ なのにあなたはまだ神を認知しようとしない 死神のように恐ろしい 猿と熊の軍勢が 木や高い山の頂を手にしている 彼らとともにコーサラ王がやって来た ラーマはすでに王位のシンボルとして あなたの天蓋のような十の頭を 切り離した も同然なのです 主よ いいですか シヴァ神の賜物を台無しにしてはいけません 今すぐ一族の安穏のためにシーターを戻しなさい」 20 「猿の軍勢は数え切れないほどで 強力な勇士 ハヌマーンが無数にいると考えたらいいでしょう ラーマが怒りを発し 弓に矢を番えるとき ふたたびシェーシャ蛇は方向の感覚を失い 身を震わすことでしょう ヴァーリンもあなたのように傲りたかぶっていたが ラーマは彼を押し潰し ヤマの碾臼に送った」 マンドーターリーはいう 「ラーヴァナよ わたしの忠告を聞きなさい 急いで王女シーターを連れてラーマに戻しなさい」 2 1 「あなたの強力な敵である方の 使いの猿は あなたの森を荒らし 都市を燃やし 息子を殺し 無事に帰っていった 二番目の使いの猿は 会衆の間で誓いを立て 怒りを発し すべての者を卑下させ その誇りを挫いた」 怯えたマヤの娘 マンドーダリーが語る 「愚かな主よ わたしの忠告を聞きなさい ダシャラタ王の息子 誉の高い 勇猛な戦士 ラーマが 戦で怒りを発さないうちに 急いで会いに行きなさい」 2 2 「森を荒らし アクシャを殺し その軍団を壊滅させ 都を燃やしたあの猿の力を あなたもその目で見たはずです 別の猿が あなたも臨席していた羅刹たちの集まりで 怒りを発し 足を踏ん張ってびくともしなかった まさにそれは主ラーマの力による ものだった 主よ わたしの忠告を聞きなさい 一族を滅ぼすのは最悪の損失です もはや二十の腕を頼みにする気持ちは 捨て去りなさい ラーマが弓をもたげて怒りを発し あなたの十の頭を粉砕する矢を 取り出さないうちに 急いでラーマに会いなさい」 2 3 「あなたも見たように ラーマの使者 勇猛な英雄である 風神の息子は ランカーのように険阻な城塞を激しく押しやり 倒してしまった 強力なヴァーリンの息子は つい先日怒りを発して あなたの傲りを挫き 即座に足を踏ん張り あなたの軍勢が熱心に足を退かそうとするのを見ていた 今やラーマみずから猿たちを引き連れ 海に橋を架け渡してやって来た 主よ 逃亡しても 土塊を引っ掻いて食べるような状態になるだけです 傲りを捨てて ラーマと会う準備をしなさい シーターを戻しなさい さもないと 夫よ あなたは惨死することになるでしょう」 2 4 「あっという間に果てしない海を渡り 風神の息子は 恐れを知らない者であるかのように あなたを罰した 庭園を荒らし アクシャやその他の守護の者たちを殺し あなたの巨大な兵士たちを コメのように搗き潰した 次にはあなたも居合わせる中 猿の王子 アンガダが怒りを発し 足を踏ん張り すべての人を無力にして やっと止めた 夫よ こんなことをわたしがいっても あなたは恥ずかしくないのですか まだあな たは懲りないのですか 今日アンガダたちは城の中を まるで寡婦の館であるかのように うろうろと見てま わった」 2 5 「その方の怒りという 耐えがたい病の熱によって滅ぼされ この世のどこをさがしてもクシャトリヤ族は見当たらなくなった 主よ 心の目で御覧なさい マーヒシュマティーの王 勇士サハスラバーフは有能な戦士であったが 大王よ その王という船は一族ともども その方の力の海の波に呑まれて沈んでしま った しかしその方 パラシュラーマは 強弓が毀れるや ラーマにいささか立腹したが その途端 彼は名誉を失う者となってしまった」 2 6 「地上のクシャトリヤを滅ぼした 王族の殲滅者は 手に硬い斧を持ち 勇者の性癖を有していることを ラーマは知っていた そこで王たちにきわめて恵み深いラーマは パラシュラーマと弓矢の戦いになれば 王たちの命も危ないと 心に想像した 弓が毀れたことにより 彼が立腹しているのを見てとったラーマは 彼の解脱を禁じ 彼が最強であるという 世間の大きな誤解を打ち破った 主よ ですから十の頭を地に垂れ 二十の手で合掌し 是非ともラーマに会いなさい ラーマを神と認めて」 2 7 「小父上も忠告し ヴィビーシャナも何度もいいました 夫よ わたしもあなたの足に触れ 平伏して懇願しました 主よ ジャナカプルでパラシュラーマがどのように行動したか それはよく知られて います 彼は都合の良い機会をとらえて 巧妙に振る舞いました ジャヤンタ ヴィラーダ カラ ドゥーシャナ カバンダ ヴァーリン このうちだれもラーマに逆らうことによって 命を全うできませんでした 主よ 自分の愚かさの結果を 二十の目で御覧なさい いともたやすく猿がランカーを燃やしてしまいました まるで寡婦の苫屋であるかの ように」 2 8 「ラーマと盟友を結ぶことこそ つねに利益です たやすい仕事をむつかしく考えて はいけません 夫よ わたしは自分が理解することを述べているだけです よく考えてください 今は戦うべき時ではありません 破滅してしまいますよ 主よ パラシュラーマの話は聞かれたはずです 強力なヴァーリンは言葉を間違えた ために滅ぼされました あなたの弟のヴィビーシャナはラーマに会いに行きました 主よ ラーマはすでに海辺に逗留しているとのことです」 2 9 「猿と熊の軍団を守護するハヌマーンは ヤマ神や恐ろしい死神の番人のようなもの です ランカーのごとき巨大で険阻な 難攻不落の城塞にとって ハヌマーンはそれを倒壊させ 炎上させる災厄そのものです 羅刹軍という蝦蛄の群にとって 風神の息子は隼です 主よ ラーマと会うことこそ益です 羅刹の兵士たちは内心震え上がっています」 羅刹と猿の戦闘 3 0 怒ったラーヴァナは 勇敢な戦士たちを戦に召集した 彼らは戦いの準備のやり方をすっかり心得ていた 四軍の軍団が出発すると 勢いよく太鼓が打ち鳴らされた 羅刹王の軍隊は称賛に値するものだった その軍勢を目にして 猿と熊たちは歓声を上げた まるで素寒貧が御飯の盛られた葉盆を見て 渇望するように ラーマの様子からその意向をくみ取り ハヌマーンは心に喜んだ それはまるで猟師が鷹の目隠しを外して 鷹に猟の許可を与えたかのようだった 3 1 勇敢な羅刹 ラーヴァナの 強力な勇者の軍団が 鎧を身につけ 象に飾り布をかけ 熱狂的に出発した 一方こちら側ではメール山やマンダラ山のように巨大な熊と猿が 海岸の丘や樹木を引き抜いて 手に持っていた 両軍はともに激昂し たがいに睨み合い ついに激戦に突入した 将軍たちはそれぞれ自分たちの軍団の兵士たちを称賛した 首なしの胴体の群がゆらゆらと まるで怒りの踊りを踊った ラーマの勇者たちは戦いで激しい攻撃を加えた 32 鹿のように足の速い 美しい色艶をした 飾り立てた馬に 選り抜きの伊達男たちが 乗った 彼らは誇り高く 戦でけっして体力の消耗することのない勇者たちだった しかし象を見た獅子のように ハヌマーンは彼らに襲いかかり すべての者たちをいともたやすく投げ飛ばしていった 兵士たちは宙を回転し 呻きながら地面に落ちてきた 頑固なハヌマーンはなおも羅刹たちを威嚇しながら殺していった 3 3 着飾った勇士たちが美しい馬を飾り立て 鋭い槍を手にして馬上の人となり 轡を並 べて進んでいった 肉づきのいい 大きな腕をした 巨大な体の彼らは 力強く 常勝の者たちであり あらゆる面ですぐれていた 彼らが疾駆すると 大地の胸は高鳴り 山は強い衝撃に震えた 彼ら 戦に激烈な 無数の兵士たちを ラクシュマナは圧倒し 滅ぼした 気前の良い人が貧者の貧困に対してそうするように 3 4 山をつかんで猿と熊は進んだ まるでサーワン月の雲が空にたちこめるように 一方 神々の抑圧者 ラーヴァナの 勢威ある勇士たちの軍団も 怒りを発して突進 した 頑固に敵意を募らせるラーヴァナの 戦陣を固守する 世に聞こえた勇者たちが ラーマ軍と激突し 一歩も引き下がらなかった ラーマとラーヴァナ双方の勇者たちの間で 戦の殺し合いが いや増しに 盛大に繰 り広げられた 3 5 羅刹の勇士たちは矢を放ち 大小の槍を投げて戦う 一方こちらからは シュロやタマーラの木が また大きくて鋭い 山の破片が投げら れた 雄叫びを上げて兵士たちは激突した 真の勇者は剣の森にとびこみ 臆病者は姿をく らました 猿や熊は爪や歯で敵の腕を引き裂く 地面に横たわった首がたがいに叱責し合った 3 6 羅刹という暴れ象の群を滅ぼす 百獣の王のように ハヌマーンは戦った 突進し 無数の兵士を地面に叩きつけ 大音声を発し ラーマに加護を祈った 一方むこうからラーヴァナが大声で威嚇すると ラーマ軍の勇士たちは失神した だれがそれに耐えることができよう しかし風神の名高い息子が戦う様は まるで死神にとってさえ恐ろしい死神が現れ たみたいだった 3 7 巨大な羅刹の勇者たちは 死神が呑みつくすのも憚るほど恐ろしく とても強力で 激越な戦士たちであったが 彼らはハヌマーンの罠にはまった 彼らを尾に巻きつけ 空を見上げて大声を上げてから 頑固なハヌマーンは彼らを空 に飛ばした 彼らの体は次第に水分を失い 空を飛んでいくうちに旋風に呑み込まれ ついには地 上に落ちてこなかった 38 シヴァの山 カイラーサを二十の手で持ち上げ 思う存分に弄んだ 十頭のラーヴァ ナ その大勇を耳にすると 方位の守護神 方位の守護象 ダーナヴァ 神々が みな怯 えた その賛歌が今も世に名高い 非常に誉のある 強力な勇士 そのラーヴァナを ハヌマーンが拳で殴ると ラーヴァナは倒れた 雷に打たれた山のように 3 9 城よりも堅く 山よりも広大な 強力で大きな二の腕を持ち 勇者たちの間でも雷に喩えられる この上なく激烈な 一騎当千の強者たち その強力で勇猛な戦の名将たちを 頑固なハヌマーンは威嚇しながら殺していった 深手を負ってうろうろする勇士たちについて ラーマはその名を挙げてラクシュマナ に教えた 4 0 象には象をぶつけて殺し 馬には馬をぶつけて殺し 戦車には頑丈な戦車をぶつけて粉砕した ハヌマーンの素早い平手打ち 足蹴 つまみ捨てを目にして 羅刹の軍勢は震え上がり 卒倒した ラーマは僕ハヌマーンを何度も誉め称える 「ラクシュマナよ 兵士たちを巻きつけ 地に叩きつける長い尾の なんと美しいこ とか ほらほら ハヌマーンの戦いぶりを見てごらん」 わたしも賢明な主 ラーマの為さり様を誉め称える 4 1 ある者はそっと押し潰し ある者は海に沈め ある者は地にめり込ませ ある者は空高く投げ飛ばす ある者はその手をつかんで地に投げ倒し ある者はその足を引き抜き ある者はその体をすっかり引き裂いてしまい ある者はその体を足で潰して足蹴にす る その戦いぶりを見て ラーマ ラーヴァナ 神々 ブラフマー神 ヴィシュヌ神 シヴァ神 チャンディー女神は魅惑される 強力で勇敢な戦士たち 強大な羅刹の将軍たちをハヌマーンは殺戮した 4 2 強力で勢威ある 強い腕をした羅刹の勇士たちが 駆け寄り ハヌマーンを取り囲んだ 大力の塊 ハヌマーンは まるで獅子が吼えるように叫んでから 尾を巡らしては兵士たちをあちこち投げ飛ばした 足蹴にして彼らの体を砕く 彼らは哀願しながら逃げていく 「ハヌマーンよ 後生だから助けてくれ」 と叫びながら 彼らは所々で地に倒れると また呻き声を発しながら立ち上がった その様を眺めながらシヴァ神やシッダたちは 体を揺すって何度も大笑いした 4 3 その勇猛さを聞いて勇者たちは怯え その付けた火にランカーは今もラックのように照り映えている まさにその強力で勇猛な戦士 ハヌマーンが 羅刹軍を注視してから その力を探るかのように進み出た アカンパンは震えだし アティカーヤの体は痩せ衰えた 現れたクンバカルナも人々に溜息をつかせるだけだった 獅子が象を見て吼えるように その様を見て叫び声を上げ ラーマの勇将 勇気ある 風神の息子は走り出した 4 4 命知らずの戦士たちのなかの白眉 十頭のラーヴァナの 勇気の山頂を砕くに まるで金剛石の鑿のようなハヌマーン 彼の恐ろしい威嚇の叫び声を聞くと 方位の守護象は大地を牙で支えながら悲鳴を上げる 大地を支える亀とシェーシャ蛇は恐怖に縮こまり シヴァ神も脅える 大地とスメール山は揺れ動き すべての海が跳ね上がる 動揺したブラフマー神は耳が聞こえなくなり 四方八方に目をやる 家々では羅刹の妻たちが流産する 4 5 だれの威嚇の叫び声に シヴァ神とブラフマー神は驚き 太陽は馬車を駆るのを忘れ 一瞬茫然としたのであったか だれの激烈さに ビーマに等しい強力無双の兵士たちが その恐ろしさを見て 手で目を覆ったのであったか 主ハヌマーンを賢者たちが称賛していうように 名前の聞こえた 敵方の優れた勇者たちを ハヌマーンは威圧した いうまでもないだろう 天界 人間界 地下界に ハヌマーンのように剛胆な勇者はどこにもいない 4 6 暴れ象の群を見て 百獣の王が山から突進してくるように ハヌマーンは羅刹の軍団に襲いかかった すさまじい平手打ちを加え 足をつかんで地に叩きつけた 兵士たちは全滅し すべての者の生命力が失せた 彼らが倒れると 大地の胸は高鳴った まさに倒れようとする兵士たちを まるで市が立ったかのように ジャッカルが襲っ た ラーマの勇者 勇猛な戦士 ハヌマーンは 威嚇の叫び声を上げてから全軍を粉砕した 4 7 ある所では木や山を引っこ抜き 敵軍に雨霰と降らす ある所では馬と馬とをもみくちゃにし 巨象を地に引きずる 足蹴や平手打ちやつまみ捨ての音が 敵の頭や胸に打ち鳴らされる 手強い軍団を粉砕しながら 勇者は雷鳴のような大音声を発する 兵士たちを尾に巻き上げ 地に叩きつけながら 「ラーマ万歳 ラーマ万歳」と叫ぶ 主 風神の息子は 断固として戦い 神の戯れを行う 4 8 ラクシュマナは無数の羅刹たちを殺し その砕かれた ばらばらの体が キンシュクが花を咲かせたように美しい ハヌマーンも殴り 投げ飛ばし 力強い腕を引っこ抜き 体を引き裂きながら 羅刹たちを粉砕した さらに まるでラーマの矢の 目にも止まらぬ速さを示すかのように 首のない胴体の群が 鬨の声を上げながら 跳びはね 走りつづける シヴァ神 ブラフマー神 方位の守護神 その他の神々が 天駕に乗り この修羅の巷の瞠目すべき光景に見入っている 4 9 地に横たわる多くの死体から あちこちで血が流れ出る まるで山から紅土の泉が流れ出るように すさまじい血の川 横たわる大きな象が川の高い土手をなし 倒れた馬が まるで岸から根こそぎ倒れた樹木のよう 兵士たちの死体は大きな水棲動物のよう この光景に勇者は興奮を覚え 臆病者は恐怖する ジャッカルがけたましい叫び声を上げては 死体の腹を切り裂いて食べる 烏と鷺が子供のように騒ぎ立てる 5 0 ざんばら髪の魔女が群をなし 人の胃を袋として肩にかけ 腸をお守りとして首に巻きつけた 頭蓋骨を削って水瓶や鉢を作った まるで女性苦行者のように戦いの川で沐浴し その岸辺に座った 脳味噌を血で捏ねては 炒り粉みたいに食べている さらには脳味噌を血に溶かして飲んでいる悪鬼もいる 幽鬼の主 シヴァは 幽鬼 屍鬼を引き連れ この様子を目にして 合掌しては笑っている 5 1 ラーマの弓から放たれた矢は ラーヴァナの体を貫通し 骨格を砕いた 忍耐強いラーヴァナは痛みをものともしなかった その様子を見て魔女たちが 血を 飲もうと鉢を手に集まった 血の飛沫を浴び その輝きを散りばめた 主ラーマの姿は素晴らしかった 大変な美 しさが放射されていた まるで大きなエメラルドの山に たくさんの美しい臙脂虫が広がっていくみたいに ラクシュマナの昏倒 5 2 巨大な兵士たちが名乗りを上げ 傲慢なメーガナーダに激突した みながそれぞれの力を十二分に発揮した 弟ラクシュマナが傷ついたのを見て ラーマは嘆き悲しんだ この世の宿りである神の 心の希望が弱まった しかし主には弟にたいする愛執も シーターにたいする愛着もない 主はいう 「ヴィビーシャナのためになんの手配もしてやれなかった」 主は支援の約束を名誉と思い 情けをかけた者は保護する ラーマのような主は他にいない その品性にわたしは祝福を捧げる 5 3 森を住処とし 十頭のラーヴァナのごとき者を敵としながら その顔の光輝は月をも凌いでいる 強力無双のヴァーリンを滅ぼし スグリーヴァを守護し ヴィビーシャナを王位に就けた 妻は攫われ 弟は戦に倒れた しかしその心は庇護を求めに来た者たちへの心配でいっぱいである ラーマのような 支援の手を惜しみなくさしのべる 恵み深い勇者は 他にどこにもいはしない 5 4 巨大な山を引っこ抜き すこしも遅れることなく直ちに引き返した 風神の息子の速さは 風 心 ガルダ鳥を恥じ入らせるほどだった そのものすごい速さを述べようとしても ふさわしい比喩の対象がまったく頭に浮かんでこない あたかも空に山の美しい直線が引かれたかのように ハヌマーンは一目散に駆け抜けた 5 5 ハヌマーンが出発したことを聞いて ラーヴァナは羅刹カールネーミを派遣した 彼は聖人の姿をとり ハヌマーンを騙そうとしたが その果報を得た ハヌマーンはたちまち何ヨージャナもの大きな山を引っこ抜いた 多くの巨大な兵士を滅ぼし 番人たちを殺した ハヌマーンの速さと力と勇気を 恵み深いラーマは称賛する 「バラタの無事な便りと山を持ち帰った」と いって まるで主ラーマが猿族の主の僕になったみたいだった 品性の海 主ラーマは心から感謝した 戦争の終わり 5 6 父によって森に追放されても その顔は晴れやかだった 十頭のラーヴァナのごとき勇者を敵とし 妻を攫われた 強力なヴァーリンを滅ぼし 猿王スグリーヴァを守護し ヴィビーシャナに情けをかけた 橋を架けて海を渡った すさまじい戦いが始まり それを眺めるシヴァ神もブラフマー神も肝を潰した 勇士ラクシュマナは傷つき まるで猿とおなじ色になった そのような悲しみの中 主は一瞬にして三界の愁いを払い すべての者たちの拠り所となった 5 7 ラーマはクンバカルナを戦で殺した 十の首を砕き ラーヴァナも滅ぼした 日種族の白眉 ラーマの 太陽の光輝のような激烈さに 敵はまるで霞のように溶け てしまった 神々はニサーナ太鼓を打ち鳴らし 歌う 「隷属は去った 望みが叶った」と 猿も熊もみなが踊る 「おお よかったな 万歳 おお よかったな」 5 8 ラーマはラーヴァナを一族もろとも戦で殺し 羅刹を殲滅した 神々や聖人は喜び 花を雨と降らす それを目にして ナーガ 人間 キンナラ ブラフマー神 ヴィシュヌ神 シヴァ神 は 心には喜びと愛情が溢れ 体には戦慄が走る 恩恵の倉 ラーマの左側に シーターが座し その姿を見ると 悲しみは消え 喜びは増す 諸王はみな暇乞いをし それぞれの国に帰った 主はすべての者を満足させ お墨付きを与えた
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