バイオ医薬品の製造工程を スケールダウン

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APPLICATION BIOPHARMA TECAN JOURNAL 2/2009
バイオ医薬品の製造工程を
スケールダウン
カールスルーエ工科大学(ドイツ)の Biomolecular Separation
Engineering グループは、新しい Te-Chrom™モジュールと Atoll
社の 96 アレイ MediaScout® RoboColumn システムを搭載した
Freedom EVO® リキッドハンドリングワークステーションを使用して、
バイオ医薬品のプロセス開発向けの完全自動化クロマトグラフィプ
ラットフォームを開発した。
Biomolecular Separation Engineering グルー
プは、バイオ医薬品業界のダウンストリームプロ
セッシングをあらゆる側面から研究し、生産規模
拡大に向けたプロセス開発の迅速な最適化を目
指している。大規模生産を目的としたプロセス開
発には、通常、さまざまな潜在的可変要因と多
様な作業工程が関わるため、多くの時間と経費
がかかる。ダウンストリームプロセッシングのコスト
は、現在製造コスト全体の 85% 以上を占めて
いる。そこで同グループは、この問題に取り組む
ため、バイオ医薬品の製造に必要な作業工程を
すべてシミュレーションできるハイスループット技術
を開発した。このような小型化モデルにより、目
的のプロセスのパイロットスケールを試作する前
に、迅速かつ包括的な特性解析の自動化が可
能となる。
同グループの研究方針について Jürgen Hubbuch
Te-Chrom モジュール
教授は、
「私たちのグループは元々、従来の経験
に基づく段階的なプロセス開発を行っていました。
しかし程なく、時間的制約の厳しいバイオ医薬
品業界では、スケールアップ前に工程を完全に
最適化したり、理解したりするのは非常に困難だ
と気付きました。そこで 5 年ほど前からアプロー
チを改め、プロセス合成やスケールアップの前に
可能な限りプロセス解析ができる自動化に方向
転換しました。これによって、プロセス性能の大
幅改善と製造コスト削減につながりました。自動
化プラットフォームを選択する際に重視したポイン
トの一つは、新しいハードウェアをいくつか独自
に開発し、搭載できることでした。そのためには、
これらのモジュールを組み込む十分なスペースを
備え、OEM ロボット装置にも対応できる柔軟性
の高いシステムが必要でした。製品化されている
Biomolecular Separation Engineering グ ル ープ のメ
ンバー、
( 一 列目左から)Katrin Treier 氏、Benjamin
Maiser 氏、Katharina Lang 氏、Carolin Richter 氏、
( 二 列 目 左 から)Anna Siudak 氏、Stefan Oelmeier
氏、Patrick Diederich 氏、
( 三 列 目 左 か ら )Jörg
Kittelmann 氏、Jürgen Hubbuch 教授
すべての自動リキッドハンドリング システムを検討
した結 果、Tecan の Freedom EVO ワークス
テーションが卓越した柔軟性を備え、装置のワー
クテーブルにも十分なスペースがあることがわかり
ました。」と述べた。
同グループは、Atoll 社の 96 アレイ MediaScout
RoboColumnsをFreedom EVO ワークステーショ
ンに搭載し、最高 8 本のカラムを使用して同時に
完全自動化クロマトグラフィを実行できるようにした。
これらのカラムは、市販されているほぼすべての
プロセス分離用樹脂をあらかじめ充填した状態で
入手できる。またカラムの流速は、リキッドハンド
リングアームを使用して各カラム上端の耐圧注入
口で調節される。Hubbuch 教授は次のように述
べた。「クロマトグラフィ分離は、大半のバイオ
医薬品の精製プロセスにとって不可欠です。そ
こで Freedom EVO ワークステーションのおもな
役割のひとつは、新しいバイオ医薬品のクロマト
グラフィ分離を評価することです。このアプリケー
ションでは、Freedom EVO プラットフォームの
液相の注入が空気圧ではなく水圧で調節されるこ
とが長所のひとつとなります。これはクロマトグラ
フィではきわめて重要なポイントです。ヘッドスペー
スのエアの圧縮によって圧力にばらつきが生じる
と、カラムの流速に影響するためです。Tecan
と Atoll 社の技術を組み合わせることにより、大
量のデータを短時間で収集できるようになりまし
た。また、この自動化装置によって実験計画法
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APPLICATION BIOPHARMA TECAN JOURNAL 2/2009
A
0,25
0,20
A280 シグナル合計
AU
AU
0,14
A280 合計 (EXP)
A280 RBN (Peak deconv.)
A280 CTC (Peak deconv.)
A280 LYS (Peak deconv.)
0,15
0,10
0,14
B
0,12
0,12
0,10
0,10
0,08
0,08
AU
0,30
0,06
0,06
0,04
0,04
0,05
0,02
0,02
0,00
0,0
0,00
0,0
1,0
2,0
3,0
4,0
溶出量 [ml]
5,0
6,0
7,0
1,0
2,0
3,0
4,0
溶出量 [ml]
5,0
6,0
7,0
C
0,00
0,0
1,0
2,0
3,0
4,0
溶出量 [ml]
5,0
6,0
7,0
陽イオン交換カラム(SP Sepharose FF)を使用したリボヌクレアーゼ A、シトクロム C、リゾチームのクロマトグラフ分離の最適化(A ~ C)
。Te-Chrom™ と Atoll 社の
RoboColumn を搭載した Tecan EVO Freedom 200 を使用して分離(青のダイヤは Tecan EVO Freedom の実験データ、青線はすべての含有タンパク質の UV 280 シグナルの
近似曲線、赤線は分離した各タンパク質のデコンボリューション シグナル)
。
(DoE)が初めて活用され、実験期間の短縮と
テーブル上に最大限確保できます。これは私た
ていることからも、この研究がいかに重要かご理
原料消費の抑制が可能となりました。この装置
ちの新たな研究、すなわち工業生産工程全体
解いただけるでしょう。」
は、最適プロセスの開発期間を大幅に短縮する
のスケールダウン化を進めるために特に重要です。
だけでなく、プロセスをより的確に把握するために
工業生産用のコンポーネントをミニチュア版のモ
Biomolecular Separation Engineering グルー
も役立ちます。」
ジュール構造で組み立てると、プロセス全体をス
プについての詳細は、http://mab.ciw.uni-
ケール ダウンし、Freedom EVO ワークステー
karlsruhe.de/ を参照してください。
「 現 在 私たちは、 複 数の Freedom EVO ワー
ション上でランできます。これによってある特定の
クステーションを所有しています。また新たな装
パラメータの変動やばらつきが生産にどのような
自動化クロマトグラフィプラットフォームについての
置を買い足すごとにプラットフォームのデザインを
影響を与えるかについて、大幅に解明が進むで
詳細は、以下のウェブサイトを参照してください。
見直し、最新世代の Tecan モジュールを使用
しょう。」
www.tecan.co.jp/bioprocessing
できるようにしています。クロマトグラフィの実行
www.gelifesciences.com/bioprocess
中に RoboColumn プレートの下部を固定する 「最初の Freedom EVO ワークステーションを購
www.tecan.com/parallel
Te-Chrom モジュールなど、新たなアイデアも実
入して以来、Tecan とは密接に連携しています。 www.atoll-bio.com
現しました。さらに Te-Stack™モジュールを使用
今年中に 3 台目の Freedom EVO システムを導
することにより他の作業に専念できる時間を増や
入予定です。これによって柔軟性がさらに高まり、 MediaScout は ATOLL GmbH の登録商標
し、溶出中に分画を収集できるようにしてハイス
研修も実施できるようになります。Tecan と協力
ループット解析向けに最適化しました。 最新の
してこのカールスルーエ工科大学で Freedom
システムには Te-Stack と Te-Chrom、LiHa/
EVO システムの使用方法に関する講座も開く
MCA™ 96 ピペッティングアーム、プレートを操
予定です。自動化は、現在の私たちの研究に
作する RoMa アームを搭載し、ワークテーブルの
不可欠です。Freedom EVO プラットフォームは、
下には遠心分離機と Infinite
200 マイクロプ
高い柔軟性でプロセス開発の時間を飛躍的に短
レートリーダーを備えました。このように設定する
縮します。複数の大手バイオ医薬品メーカーがこ
® と、ハイレベルな柔軟性を実現するとともに、独
の手法に注目し、Freedom EVO ワークステー
自開発したハードウェアのためのスペースをワーク
ションをダウンストリームのプロセス開発に利用し
です。
■この記事は2009年1月発行 Tecan Journal 1/2009
に掲載されているユーザーストーリーをテカンジャパ
ンが日本語翻訳したものです。翻訳文の表現等に疑義
が生じた場合は、原文をご参照ください。
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