「水彩絵の具と友達になろう!」楽しみながら工夫して 自分の思いを表現する児童の育成 『虹色パレット』と多様な表現方法への取り組みを通して 研究員 研 究 の 概 藤岡第二小学校 藤巻 直子 要 本研究は、児童が水彩絵の具に親しみ、混色の仕方や様々な技法を知ることで、表現の幅を広げて いけるよう工夫したものである。『虹色パレット』の使い方を通して、水彩絵の具がいつも児童の身 近にあって、一番使いやすい画材だと思えるような指導の工夫を行った。 Ⅰ 主題設定の理由 新しい学習指導要領では、図画工作科の目標を、 「表現及び鑑賞の活動を通して、感性を働かせながら、 つくりだす喜びを味わうようにするとともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操を養 う」としている。また、新たに「感性」という言葉が加わり、児童の感覚や感じ方を今まで以上に重視す ることが明確に示されている。つまり自分の感じたことを大切にして、一人一人が作品を通して思いを表 現できたときに、 「つくりだす喜び」を味わうことができると考える。第1学年及び第2学年の内容には、 「感じたことや想像したことから、表したいことを見付けて表すこと」とあり、児童自身の思いを大切に して表現することは、低学年の児童の発達段階にも適していると考える。 水彩絵の具は、混色や水の量、筆のタッチなどで、幅広い表現が可能な画材である。小学校で初めて触 れる児童が多く、絵の具・パレット・筆・筆洗など、多くの道具を使うことに対するあこがれの気持ちも 大きい。2つの色を混ぜて新しい色を作るだけでもドキドキした感じを味わうことができる。水彩絵の具 を思い通りに使えるようになったとき、児童の「つくりだす喜び」はさらに高まると考える。 本学級の児童は、年度の最初の題材「いっぱい、ゆめいっぱい」で、クレヨンと水彩絵の具を使って、 自分の将来の夢を描いた。絵の具を使うことにはとても意欲的で、夢中になって作業をしていた。用具の 使い方については、実態をとらえるために、あえて細かい指導をせずに描かせたところ、パレットにどう 色を出せばいいのか、混色をどうすればいいのか迷う姿も見られたが、色が濁っていたり、塗り残しがあ っても、自分の描きたいものを描ききったという満足感を多くの児童が感じていた。その姿から、子ども たちは自分の思いを伸び伸びと描けることに喜びを感じることをあらためて実感した。一方で、児童の思 いがさらに作品に表れるようにするために、色の作り方や選び方、塗り方を教えていきたいという思いを 強くした。また、児童が、使った用具の一つ一つを丁寧に洗い、片付けるのに多くの時間を必要としたこ とに対しても、手だてを考えたいと思った。 6年間を通して水彩絵の具は最も使用頻度の高い画材であり、多くの題材で使用される。しかし、「絵 の具は難しい」と、指導方法に悩む教師が多いのが実態である。自分自身も「こうすれば失敗を防ぐこと ができる」「きれいに仕上げることができる」という指導をしてきた部分があると感じている。また、用 具の準備や片付けに手間と時間がかかると考え、扱うことを構えてしまう教師も多い。こうしたことから、 水彩絵の具のよさである表現の幅を生かして大いに活用できるような実践を研究したいと考えた。 低学年の児童は水彩絵の具を使うことが大好きで、伸び伸びと作品づくりに取り組んでいる。しかし、 6年生にアンケート調査をしたところ、「色塗りで失敗してしまう」という苦手意識を持つ児童が 67 %お り、そう思うようになったのは、2年生までが 16 %なのに対し、3年生の時が 39 %、4年生の時が 59 %、5年生の時が 67 %と、学年を追うにつれ増えてきていたという現状がわかった。 そこで、水彩絵の具がいつも身近にあって、子どもにとって親しみやすい「ともだち」になっていくよ うな指導をしたいと考えた。パレットの使い方や絵の具の混ぜ方を楽しく学べる題材を開発したり、筆以 外の用具を用いて様々な表現方法にチャレンジする場面を作る。また、図工以外の場面でも水彩絵の具を 取り入れる場面を意識的に設定する。そうすることで、児童が水彩絵の具を「自分の思いを表すのに一番 使いやすい画材」と感じられるようにしたい。 パレットの使い方を学習する最初の段階で、小部屋に赤から順番に色を並べるよう児童に伝えた。赤・ オレンジ・黄色・レモン色・黄緑・ビリジアン・青と並べたところで、「この色の並び方は何かに似てい るね」と投げかけると、「虹!」という答えが返ってきた。この赤から始まるパレットを『虹色パレット』 と名付け、水彩絵の具の学習のベースとしていくことにした。『虹色パレット』は、洗わない。パレット は毎回洗ってきれいにしておくもの、という概念を捨てることによって、自分が作った色を大切にし、活 用することができる。また、パレットにいつでも色が出ているので、思いついたときにすぐ絵の具を使う ことができる。さらに、片付けにかかる時間を大幅に短縮することができる。 『虹色パレット』をベースに、水彩絵の具の利点を生かし、児童が混色の楽しさを味わいながら、色に 対しての感覚を磨けるような題材を開発し、「絵の具って楽しい!」と思える多くの体験をさせていきた い。そうすることで、一人一人が自分の感覚や感じ方、思いを楽しみながら工夫して表現することができ るようになると考え、本主題を設定した。 Ⅱ 研究のねらい 水彩絵の具の指導において、パレットの使い方を意識させ、混色の楽しさを味わわせる題材を開発して いく。また、筆だけでなく、様々な用具を用いて自分が作った色を活用する機会を多く設定し、色に対す る愛着を持たせていく。こうした活動を通して、子どもたちが、水彩絵の具で自分の思いを楽しみながら 工夫して表現することができるようになることを、実践を通して明らかにする。 Ⅲ 研究の見通し 1 『虹色パレット』で、混色の基本は隣り合う色を混ぜること、作った色を大切にして活用すること を学ぶことにより、自分の意図した色作りができ、使う色の幅を広げることができるであろう。 2 「絵のぐであそぼう」の題材において、様々な用具や技法を大きな画面で思い切り試すことにより、 新しい水彩絵の具の使い方を見つけ出し、表現の幅を広げることができるであろう。 3 「わたしのザリガニ」の題材において、今までの学習内容を確認し、自分が使いたい色や表現方法 を選んで活用することで、感じたことや思いを楽しみながら工夫して描くことができるであろう。 Ⅳ 研究の内容と方法 1 研究の内容 (1) 『虹色パレット』による活動について 始めにパレットの小部屋に赤から順番に色を出す。子どもたちが使っている絵の具セットでは、レモン 色から始まり、黄色・オレンジ・赤と色が並んでいる。しかし、紫色がないため、赤の次が青になってお り、色が少しずつ変化して次の色になるという連続性を意識させるのには適していない。そのため、赤か ら始める必然性があるのである。次に、隣り合う色を混ぜるとその中間の色ができるという基本を確認す る。自分の意図する色がなかなか作れない子どもに、一つのよりどころを与えることができると考える。 さらに、「チューブから出したままの色は絵の具会社の人が作った色」「必ず二つ以上の色を混ぜて、『自 分の色』を作る」という意識を持たせる。そして、パレットにできた『自分の色』は大切にとっておくこ と、そのためにはパレットを洗わないことを確認する。今まで、余った色はただの汚れに過ぎなかったが、 これからは次の機会に使うことができる。また、そこに別の色を足すことによって、新たな色を生み出せ る。そうした意識を持たせることで、作品だけでなく、色やパレットに対する愛着も持たせることができ ると考える。 (2) 表現の幅を広げる活動について 本校の6年生にアンケート調査を行った結果、絵の具について感じていることで、「筆で上手に塗れな い」ことを挙げた児童が 49 %いた。そこで、低学年において筆以外の道具を使った様々な技法を体験し、 水彩絵の具で表現する楽しさを味わわせることで、高学年につながる意欲付けが図れると考えた。ローラ ー、霧吹き、スタンプ、絞り染めなどのいろいろな技法を楽しんで体験し、その技法を使って大きな画面 に海の中の世界を描いていく。こうすることで、筆で塗るだけにとどまらない水彩絵の具の楽しさを味わ うことができる。また、いくつかの技法を組み合わせるなどの工夫も生まれると考える。 (3) 自分で色や表現方法を選んで活用する活動について 様々な用具や技法を大きな画面で思い切り試す活動の後、教室で飼い、生活科で観察しているザリガニ を描く。ここでは、自分で見つけた色を作り、それをどんな表現方法で彩色していくかに重点を置く。ザ リガニの透明感があり赤みがかった微妙な色、ゴツゴツとした甲殻の感じなどを表現するために、今まで 体験した色作りや技法を生かしていく。自分だけの色で、自分だけの塗り方で描くことが、子どもたちの ザリガニに対する思い、絵の具に対する思いを表現することになると考える。 2 研究の方法 (1) 授業実践計画 対 象 藤岡市立藤岡第二小学校 実施期間 単 元 名 2年5組 25 名 平成 22 年4月~ 11 月上旬 いっぱい、ゆめいっぱい(4月) わたしのあじさい(6月) たのしかったねえんそく(5月) 絵のぐであそぼう(9月) わたしのザリガニ(10・11 月) (2) 検証計画 検証の観点 『虹色パレット』で混色の基本と作った色を大切に 観察、つぶ 描くものに応じて自分の 見通し して活用することを学ぶことは、意図した色作りをし やき、パレッ 色を作り、使う色の種類も たり使う色の幅を広げることに有効であったか。 ト、作品 増えている。 1 「絵のぐであそぼう」の題材において、様々な用具 見通し や技法を大きな画面で思い切り試すことは、新しい水 2 彩絵の具の使い方を見つけ出し、表現の幅を広げるこ 検証の方法 ねらいが達成された児童の姿 検証項目 観察、つぶ やき、作品 多様な技法を試して効果 に気付き、表現の幅を広げ ている。 とに有効であったか。 「わたしのザリガニ」の題材において、自分が使い 観察、児童 自分の色を作り、塗り方 見通し たい色や表現方法を選んで活用することは、感じたこ の感想、作品 や技法を選び、工夫して描 3 とや思いを楽しみながら工夫して描くことに有効であ ったか。 いている。 Ⅴ 研究の実践と考察 1 『虹色パレット』による活動について (1) 実践内容 4月 題材名 いっぱい、ゆめいっぱい 学 習 内 容 指 導 上 の 留 意 点 将来の夢を描く(クレヨ 児 童 の 様 子 ○児童の実態を捉 ○パレットの使い方にとまどうもの ン ・ 水 えるために、細か の、意欲的に絵の具を使い、楽しん 彩) な技術指導はしな でいた。 い。 ○パレットで色が濁ったり(図1) 画面に色を重ねすぎたり(図2)す 図1 濁ったパレット 5月 題材名 図2 色を重ねすぎた作品 る児童が見られた。 たのしかったね えんそく 遠足で印象に残った場面 を描く (クレヨン・水彩) ○ 使 いや す く片 付けや すい パレ ット の使 ○赤から並んだ色を見て「虹の色 い方を伝える。 だ!」という児童の発言から、『虹色 ・ パ レッ ト の小 部屋に 赤か ら順 番に 色を パレット』と命名した。 出す。 ・ 絵 の具 会 社の 人が作 った 色( チュ ーブ ○自分で色を作るという意識が出て の 色) を その まま使 わず に、 自分 の色 きて、パレットの大部屋に色が増え、 を作る。 作品に使われる色の幅も広がってき ・ パ レッ ト は洗 わずに 自分 の色 に継 ぎ足 図3 虹色パレット 6月 題材名 た。(図3) し なが ら 使っ ていく 。絵 の具 は乾 いて ○パレットの固まった絵の具に水を も水を加えれば使えることを知らせる。 加えて「起きなさい」と声をかける。 わたしのあじさい 画用紙にあじさいの花を ○ 「 わた し の」 という 言葉 で、 混色 を工 ○「わたしの」という言葉を意識し 印刷したものに、自分が作 夫して自分の色を作ることを意識させる。 て、人とは違う色を作り、自分だけ った色を一つ一つ塗ってい ・ 赤 と青 を 混ぜ ただけ でも 多様 な色 が出 のあじさいにしようとしていた。 く 来ることに気付かせる。 ・混色の基本は隣り合う色を混ぜること、 ○前題材で自分が作った色をもとに、 パレット上でさらに色を変化させる 離 れた と ころ の色を 混ぜ ると 隠し 味に ことができてきた。 なることを知らせる。 ○ 「こんな色ができちゃった」ではな く、「違う色にしてみよう」と意図し た色作りができてきた。 (2) 考察 初めはチューブからパレットに出した色に水を加えただけで、そのまま使うこともあった児童も、「絵 には自分が作った色を使うんだよ」という声かけに、「自分で色を作ろう」「友達の色とも違う自分だけの 色を作ろう」という意識が生まれ、パレット上に「自分の色」が増えていった。また、赤の隣はオレンジ、 オレンジの隣は黄色、という色の連続性をパレットの上で確認し、「まず隣り合う色を混ぜて新しい色を 作る」ことを意識したために、意図した色作りができるようになってきた。さらに、作った色を一度使っ ただけですぐに洗い流し、似たような色をまた作り直すということを繰り返していた児童が、パレットを 洗わずに絵の具を残すことで、一度使った色に小部屋の色を加えて変化させ、別の所に塗るということが できるようになってきた。 児童は、パレットを洗わずに絵の具を乾かすことに「大丈夫かな…」という表情であったが、実際に水 を足して絵の具が使えることを知ると、 「起きなさい!」と楽しそうに声をかけながら、活動をしていた。 パレットに残った色が、児童にとっては「よごれ」ではなく「使える色」に変化し、次の時間には、その 色をもとにまた新しい色が作れるようになってきた。 あじさいを塗る児童が手にするパレットには、前 時で使った黄色や緑、茶色の絵の具が出ている。(図 4)赤と青を混ぜて紫色を作っていた児童が、色を 変化させるためにパレット上の自分の色を加える様 子が見られた。その結果、紫色だけにとどまらずに 色の幅が広がり、個性豊かなあじさいが描かれた。 (図5) 図4 虹色パレットを使う 図5 色の幅が広がる 2 表現の幅を広げる活動について (1) 実践内容 9月 題材名 絵のぐであそぼう 学 習 内 容 指 導 上 の 留 意 点 児 童 の 様 子 ローラー、スパッタリン ○ 多 くの 道 具に よって 技法 の広 がり を体 ○班で作業することで、楽しそうに グ、たたきぼかしなど、筆 験 さ せ、 水 彩絵 の具に 、よ り親 しみ を持 取り組み、いろいろな技法を思い切 以外の技法も用いて絵の具 たせるようにする。 りよく試していた。 を使い、共同で大きな画面 ・ 道 具の 使 い方 や技法 を示 範す る。 ○指や手のひらで描く、スタンプ、 に海の世界を描く。 ・ 班 で交 流 をし ながら 共同 製作 をさ せる 紙を貼るなど、自分で工夫して新し こ とに よ り、 自信を 持っ て技 法を 使え いやり方を見付ける姿も見られた。 るようにする。 ○友だちが描いた上から何度も色を ・ 大 きな 紙 を用 意し、 失敗 を気 にせ ずに 重ねたり、技法を組み合わせたりす 大 胆に 絵 の具 で遊べ るよ う、 声か けを ることにより、複雑な色調や変化の する。 ある面構成が生まれていた。 (2) 考察 「絵のぐであそぼう」の題材名通り、子どもたちには「この時間は、 絵の具で思い切り遊んで、楽しむことが一番大事。きれいに仕上げよう と思わなくていいし、失敗してもいいんだよ」と初めに声をかけた。そ のため、班の4~5人で机4つほどの大きな紙を前にしても、躊躇する ことなく活動を始めることが出来た。ローラーを手にした子はどんどん 画面に色をつけていった。(図6)また、パレットを手に持って移動し、 指に絵の具をつけて描いたり、紙を貼って海草を表現したりと、(図7) 工夫して新しいやり方を見付けていた。 共同製作の効果も表れた。一人がローラーで描い た 上から 別の子 が違う色を ローラーで重 ねること で、色が深みを増したり、ローラーで描いた上から スパッタリングの霧吹きのような模様が重なったり して、偶然に新しい効果が生まれていった。さらに、 たたきぼかしのタッチが重なるなど、短い時間に多 くの技法の効果を体験することができた。そうして 出来上がった作品は、一人では表現できない複雑で 大胆な色遣いになっていた。(図8) 図7 紙の海草 図6 図8 ローラーで描く 多様な技法で描いた作品 3 自分で色や表現方法を選んで活用する活動について (1) 実践内容 10 ~ 11 月 時 題材名 わたしのザリガニ 学 習 内 容 指 導 上 の 留 意 点 児 童 の 様 子 1 ○ザリガニのすみかを ○ 実際の水の中の様子だけではなく、こ ○「絵のぐであそぼう」の経験を生 2 描く。 ん な だっ た らい いなと いう 水の 中の 世界 かして、躊躇なくいろいろな技法を を描くようにさせる。 試していた。 での技法の効果を振 「 な かよ し のザ リガニ を、 どん なと ころ ○1年生で体験したスタンピングを り返る。 に住ませてあげようか」 覚えていて、野菜などを使っていた。 ・筆以外の技法も使っ ○ 製 作途 中 で児 童に自 分の 使っ てい る技 ○手形を押す、布に絵の具を浸して て、海の中の世界を 法 を 紹介 さ せ、 友達の 作品 を参 考に いく 着色するなど、自分で技法を生み出 想像し描く。 つ か の技 法 を組 み合わ せる 工夫 が生 まれ している児童も見られた。 るようにする。 ○技法を組み合わせる中で、色も重 ・「絵のぐであそぼう」 なり、深みを増していた。 3 ○ザリガニを鉛筆で描 ○ 必 要に 応 じて 、教室 にい るザ リガ ニを ○ほとんどの児童はワークシートを く。 観察する。 見ずに、イメージの中にあるザリガ ・生活科でザリガニを ○ 本 物に 近 づけ て描く こと より も、 自分 ニを描いていた。 観察して描いたワー の ザ リガ ニ に対 する愛 着が 描け るよ うに ○一匹を大きく描いた余白に、たく クシートを参考に、 声かけをする。 さんのチビザリガニを描くなど、1 背景とは別の紙にザ 「ザリガニに名前をつけてみよう」 時間止まらずに夢中で紙いっぱいに リガニを描く。 「○○くんはどんなザリガニにするの?」 描き続けた。 ○ 背 景で の 色使 いを例 に、 固有 の色 にこ ○赤いザリガニも、オレンジ系、茶 4 ○多様な色と技法でザ だわらない描き方を紹介する。 系など様々な色ができ、虹色や緑色 5 リガニを描く。 「自分のザリガニの色をつくろう」 で塗る児童もいた。 ○ 彩 色し た 後で 切り抜 くの で、 鉛筆 の下 ○自分で技法を選んで塗り方を考え、 を組み合わせて彩色 描 き の線 か らは み出し ても 大丈 夫な こと 工夫しながら黙々と作業を進めてい をする。 を伝える。 た。 ○ ザ リガ ニ は新 聞紙に 包ん で配 布し 、初 ○組み合わせた瞬間、驚いたり、嬉 め て ザリ ガ ニと 背景を 組み 合わ せた とき しそうな笑顔が出たり、様々な表情 み合わせる。 の強い印象が味わえるようにする。 が見られた。 ・ザリガニを背景のど 「 ザ リガ ニ が描 けたら 、す みか に連 れて ○「背景からはみ出してもいいんで こよう」 すか」「いいよ」 ○ 児 童の 作 品を 例に、 ザリ ガニ を入 れる ○友達の背景と組み合わせて、ザリ 工夫を加えたい部分 場 所 によ っ て違 った効 果が 生ま れる こと ガニが目立つことがわかったとき、 を考えて描く。 を示す。 「わーっ!」と歓声が上がった。 ○ 友 達の 背 景と 自分の ザリ ガニ を組 み合 ○作業に入るとすぐ、自分の描き足 わ せ 、ザ リ ガニ が目立 つ配 色に 気付 ける したいところに取りかかることがで ようにする。 きた。 ○ 作 品に 込 めら れた思 いや アイ デア に気 ○ザリガニの名前、家族構成、性格 9 ○「わたしのザリガニ 付 け るよ う に、 どんな ザリ ガニ か、 どん などを想像を広げて詳しく書いた。 発表会」(鑑賞会)をす なところに住んでいるのかについて書き、 ○一生懸命発表し、友達の発表も楽 る。 発表する。 しみながら 真剣に聞いていた。 検証授業1 ・背景と同様に、技法 6 ○ザリガニを切り抜く。 検証授業2 7 ○背景とザリガニを組 こに貼るか考える。 ・自分の作品にさらに 8 検証授業3 (2) 考察 本題材では、「わたしのザリガニ」を、選んだ技法や色を使って描いた。はじめに背景を描く。ザリガニ の住む水の中をローラーで大胆に描いた後、ピーマンの断面でスタンプをする、(図9)水の風景に赤い 色を使い、ローラーのほか、野菜のネットやビニールのプチプチを使ってスタンピングをするなど、 (図 10) どの児童も自分のイメージに合わせて技法を選び、自分の色で水中の様子を表していた。 検証授業1 多様な色と技法で描くザリガニ 色や技法を工夫して描いた友達の背景を見た児童は、 ザリガニを描く段階でも思い思いのやり方で描くこと ができた。オレンジがかった赤や暗い茶色など、自分 のイメージする色を使う。ローラーで塗った色は、鉛 筆の線を大胆にはみ出している。(図 11)キッチンペ ーパーを小さく丸めたものにえび茶色の絵の具をつけ、 たたきぼかしの技法で描くことで、ザリガニのゴツゴ 図10 多様な技法を使って ツした殻を表そうとしている。(図 12)青みがかった 描いた背景 色や虹色でザリガニを塗る児童、自分の手形をザリガ 図9 背景を描く ニの模様に使う児童もいた。 一人一人が描く方法を考え、黙々と作業する様 子に、授業を参観した他校の教師からは、「子ど もたちがいちいち教師に聞かないで自分で考え活 動している様子に驚いた」「パレットを洗わない という使い方は、目からうろこだった」「はみ出 しても、本物と違う色になっても大丈夫。失敗は 失敗じゃないとわかった」という声が聞かれた。 図11 ローラーでザリガニを塗る 図12 たたきぼかしで描く 検証授業2 背景と組み合わせたザリガニ 切り抜いたザリガニを背景と組み合わせたとき の新鮮な驚きが、そのまま製作に対する意欲とな っていた。一度ザリガニを組み合わせた後、再び 背景に暗い色を重ね、ザリガニの色がより目立つ ように工夫した児童。その後でザリガニのはさみ がはみ出すくらい大きく画面に貼った(図 11)。 授業の導入で紹介された友達の作品から強く印 図13 背景と合わせる 図14 背景と合わせる 象を受け、ザリガニを貼った上から、水草になる 和紙を貼り付けていた児童もいた。(図 12) 検証授業3 「わたしのザリガニ発表会」 鑑賞会「わたしのザリガニ発表会」の原稿には 児童の思いがあふれんばかりに書かれていて、初 めに抱いたイメージが作品づくりの過程でどんど んふくらんでいったことがわかる。「こけがいっ ぱいはえててかくれがになっているところにすん でいます。名前はロッキーです。力じまんをして います」(図 15)という児童の文からは、後から 重ねた暗い色はこけを表していることや、はみ出 す ほ ど大 きく描 かれ たザリ ガニ への 思いが わか る。 「わたしのザリガニは、あかという名前です。 図15 発表会原稿 図16 発表会原稿 海のあさせにすんでいます。ゆうひの色をうえにつけました。いいすみごこちになるといいねと気もちを こめました」 (図 16)という児童の文からは、海を赤く描いたのには、自分の思いがあったことがわかる。 ザリガニに手形をつけた児童は、「わたしのザリガニは、つよくて、やさしくて、ゆうきがあるザリガニ です。そのめじるしは、わたしのてがたです」といい、淡い色で背景を描いた児童は、「朝だから明るい 色で海をえのぐでぬりました」といっている。児童それぞれが自分のザリガニや、すみかのイメージをし っかりと持ち、その思いを表すために意図した色や技法を使っていたことがわかる。 以上のことから、自分が使いたい色や表現方法を選んで活用することは、子どもたちの「こんなふうに 描きたい」という思いを実現し、試行錯誤を楽しみながら工夫して描くために有効であったと考える。 Ⅵ 研究の成果と今後の課題 1 研究の成果 ○児童が水彩絵の具で描くことを楽しみ、工夫しながら自分の思いを表現するようになった。単にローラ ーを使うことが楽しい、色を混ぜるのが楽しいということにとどまらず、いろいろな技法を試したり、自 分でイメージに合う色を作ったりという試行錯誤を心から楽しんでいる。それは、作品と対話しながら真 剣に考えて自分で答えを出し、黙々と作業をする様子に表れている。 児童の感想から、自分で作った色を気に入っていることや、多様な技法を使った表現で、自分の思う効 果が出せたことに喜びを感じていることがわかる。また、作品からは、ザリガニの色や表現の仕方がそれ ぞれ違うなど、思いを表すために一人一人が工夫して描いたことがわかる。 ○児童の使うパレットが変化した。パレット上にはいつも自分で作った色があって、その色を活用してい た。また、授業開始の前からパレットを手に持って待ちかまえたり、図工以外の場面でも気軽にパレット を手に取ったりするようになった。こうした姿から、児童が自分のパレットに愛着を感じ、親しみを持っ て水彩絵の具を使えるようになったことがわかる。 2 今後の課題 ○1年生から6年生まで、小学校の6年間を通して水彩絵の具での活動を楽しみ、発達段階に応じた力が つくように、系統的な指導計画の作成をする。具体的には「絵の具と遊ぼう」の題材をどの学年にも設定 する。低学年では、大きな画面でいろいろな技法に親しんだり、色を混ぜることで生まれる変化を楽しん だりする。中学年では、筆を使っていろいろな塗り方を楽しみ、表現の幅を広げていく。そして高学年で は、色や筆のタッチから受ける印象を感情の表現に結びつけていく。このようにして、作品づくりの前の 段階で、十分に水彩絵の具を使った試行錯誤の活動を保証していけるようにしたい。 ○児童の生活と密着した題材を開発する。今回の「わたしのザリガニ」も、教室で毎日世話をして育て、 生活科で観察した経験があってこその作品となっていた。同じ2年生では、国語の「スイミー」の世界を 想像して描く(絵の具の黒を初めて使う)ことや、生活科で育てた大根を観察して描く(絵の具の白を初 めて使う)ことは、意欲を持って取り組める題材になると考える。また、3年生が初めて触れたリコーダ ーを吹く姿を描く題材は、音楽の鑑賞活動と関連させる。吹いている曲をイメージさせ、背景の描き方に 生かすことで、観察して描く部分と、想像して描く部分の両方を取り入れる題材とすることができる。こ のように、他教科との関連も考えて、魅力的な題材の開発に努めていきたい。 <主な参考文献> 「描くことを楽しみ、描くことで『生きる力』を育む」林 耕史 (形 forme No.293 日本文教出版)
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