IFRSにおける投資不動産等の売買損益等の認識について

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IFRSにおける投資不動産等の売買損益等の認識について
に
2012 年2月
はじめに
2011 年 11 月、IFRS およびFASBから、収益認識に関して「顧客との契約から生じる収益」の公開草案が再公
開されました。当初、2010 年6月に公表された公開草案に対して、関係者から 1000 通近くのコメントがなされたた
め、その後のディスカッションにおいて多くのテーマが再検討され、今回、内容を改め、再度公表されました。
この再公開草案は「顧客との契約から生じる」とされているとおり、企業の通常のアウトプットに関する収益認識を
対象とするものです1が、投資不動産や固定資産といった資産についても、当再公開草案の内容に従った形で修
正されることが提案されています。
今回は、この再公開草案で投資不動産等の売買損益の認識に関連すると考えられる部分の概要を説明します。
経緯
IFRSでは収益認識について、IAS18 号及びIAS11 号の他、いくつか解釈指針などがあるのみでガイダンスが
少なく実務上、複雑な取引への適用が難しいという点が指摘されていたのに対して、FASBでは収益認識に関す
る広範なガイダンスがあり、または業種別・取引別の収益認識要件があるものの、経済的に類似する取引の会計
処理が異なる場合があるという可能性が指摘されていました。
このため、双方において改善の必要性が認識され、2008 年 12 月「顧客との契約における収益認識についての
予備的見解」が公表され、これに対するコメントを分析、審議し、2010 年6月公開草案が公表されました。この公開
草案に対して上記の通り 1000 通近くのコメントがなされ、収益認識は全ての企業にとって重要であること、また再
公開草案を公表しないことで最終基準において意図せざる結果が生じることを避けるため、2011 年 11 月、今回
の再公開草案が公表されました。当該再公開草案に対するコメントは 2012 年3月まで受け付けられており、それ
を踏まえて、2012 年下期には新基準が公表される予定とされています。また、新基準の適用は少なくとも 2015 年
1月1日から開始する事業年度より後とされています。
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ただし、リース契約や金融商品などについては、当再公開草案は適用されない。
概要
再公開草案では、収益の認識について、以下の5つのステップに区分し、それぞれの要件に従い、具体的な取
引を検討し、契約を識別、金額を把握することとなります。
ステップ1
ステップ2
ステップ3
ステップ4
ステップ5
顧客との「契約」を識別する。
契約に含まれる別個の「履行義務」を識別する。
取引価格を算定する。
取引価格を別個の履行義務に配分する。
履行義務が充足された時点で収益を認識する。
投資不動産、固定資産に関する収益認識でも、これらのステップについて、それぞれ検討を行うこととなります
が、特にステップ5の履行義務の充足について、以下に説明します。
要件 - 支配の移転
ステップ5では、財やサービスが顧客に移転し、顧客が財またはサービスの支配2を獲得した時点で履行義務
が充足され、その時点で収益を認識することになります。履行義務の充足のパターンについて、ITベンダーが特
定のクライアントのために適合する仕様でアプリーケーションを開発しているケースなど、一定期間にわたり履行義
務が充足される場合と、一定の時点で履行義務が充足される場合の2つが前提とされています3。
支配の移転に関して、少なくとも次の指標を検討する必要があります。
1)
2)
3)
4)
5)
企業が資産について支払いを受ける現在の権利を有している。
顧客が資産の法的所有権を有している。
企業が資産の物理的占有を移転した。
顧客が資産の所有に伴う重要なリスクと経済価値を有している。
顧客が資産を検収した。
これらの指標のうち、4)および5)は、再公開草案で加えられたものです。特に4)については、収益の認識から
「所有に伴うリスクと経済価値」の考慮を削除するという公開草案に反対したコメントを受けたものであり、「リスクと経
済価値」は、支配の移転を判定する際に考慮すべき有用な要因であり、資産の支配の結果であることが多いことを
踏まえたものです。ただし、リスクと経済価値はあくまでも一指標であり、支配の移転に基づく財またはサービスの
移転による判定の原則を変更するものではありません。4
コメント事項
本再公開草案は、原則として顧客との契約から生じる収益を対象としていますが、前述のとおり、企業の通常の
活動のアウトプットではない一部の非金融資産(たとえば、投資不動産や有形固定資産など)の譲渡に関する損
益の認識についても、本再公開草案の内容と整合するように、現行のほかの基準を修正することが本再公開草案
において提案されています。
2資産の支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を指す。また、支配には、他の企
業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力が含まれる。資産の便益とは、財の製造又はサービスの提供のための当該
資産の使用等の方法で、直接又は間接に獲得できる潜在的なキャッシュ・フローである(再公開草案32項)。 顧客が資産の支配を獲得して
いるかどうかを評価する際に、企業は、約束した資産又は当該約束した資産の構成部分を買い戻す契約を考慮しなければならない(再公開
草案33項)
3履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、当該履行義務は一時点で充足されることとなる。
再公開草案 BC107 項
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PwC
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質問事項6として、この点について上記案に同意するか、否である場合の代替案について、個別事項としてコメ
ントが求められています。
最後に
当該再公開草案に対するコメントは 2012 年3月まで受け付けられており、それを踏まえて、2012 年下期には新
基準が公表される予定とされています。また、新基準の適用は少なくとも 2015 年1月1日から開始する事業年度よ
りは早くならないとされています。
我が国における不動産の売買損益の認識は、具体的な取扱いが明文化されているもののほか、税法の取扱い
も考慮しつつ実現主義の考え方に基づいて判断しているのが一般的かと思いますが、このようなIFRSの改定が
日本基準へ影響することも考えられるため、今後動向については留意する必要があると思われます。
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