日本における余暇生活診断法の動向 今井毅(日本体育大学、横浜市、日本) 金俊希(龍仁大学校、龍仁市、韓国) 要 約 現在日本で公開されている5つの余暇生活診断モデルを定性的に調査した。日本の余暇生活診断法 は健全に発展している、と判断できる。しかし日本の余暇生活診断法には、「すべての人にある一定 の楽しむ力を保障する」という社会的責任が欠けている、と考えられる。 Ⅰ はじめに 日本が国策として国民の余暇生活能力の必要性に言及したのは、つぎのように 1973 年であった。 「余暇を意義あらしめるためには、その余暇を有効に利用しうる空間と費用と集団と施設が必要であ るが、さらにもっと重要なものとして、各人の側における能力と目的がある。余暇が増大する社会で は、「よき勤労者」としての能力とともに人生をエンジョイしうる能力が必要とされるのである。し たがってライフサイクルを考えた、つまり自分が将来もつことになる余暇時間の量と質を考えた事前 の準備が国民の側に要るだろう。」(経済企画庁余暇開発室編『余暇社会への構図』 、大蔵省印刷局 1973 年) 上記を政策原理の出発点とすると、市場原理とも呼ぶべき国民の側の要求も生まれていた。経済急 成長のなかで発生してきた、働き盛りのメンタルヘルス問題、子育て終了期の主婦の生きがい問題、 退職前の退職準備や生涯設計の問題、高齢者の生きがいの問題などがそれであった。 そうした政策原理と市場原理がうずまくなかで、下記の余暇生活診断法が開発されていた。その内 容は本稿の文献紹介⑴で紹介されている。 1「あなたのレクリエーション診断」(開発者:小田切毅・薗田碩哉/1974 年) 2「レクリエーション診断機」(開発者:川口文子ほか/1975 年) 3「余暇適応力診断」(開発者:脇田保/1977 年) 4「レクリエーションに対する自己の診断」(開発者:高橋和敏/1977 年) 5「余暇と交友チェックシート」(開発者:中高年雇用福祉協会/1983 年) 6「ライフワーク・チェックリスト」(開発者:奥井礼喜/1983 年) 7「余暇生活度チェックリスト」(開発者:浅野晃/1984 年) 1991 年には㈶日本レクリエーション協会が、余暇生活相談員と余暇生活開発士の資格認定を開始し たことによって、余暇生活診断法はすべての余暇生活支援者に期待されるツールとなった。 本稿では、2005 年から本格的になるとされる自由時間革命の時代にそなえて、余暇生活診断法の現 状の把握と課題の発見を試みた。 1 Ⅱ 材料と方法 本稿でとりあげる診断モデルは、現在公開されている下記の5つである。インターネットで検索 できるもの、または出版物として入手でるものに限った。 1 日本レクリエーション協会の診断モデル「余暇生活パターンチェック」(1989 年公開) 2 ウイット&エリスの診断モデル「余暇生活診断テスト」(1992 年公開) 3 LEEP の診断モデル「余暇アンケート」(1997 年公開) 4 Dreamer-PAL(余暇資源研究所)の診断モデル「余暇生活実現度チェック」(2002 年公開) 5 プレジャーショップの診断モデル「快楽生活様式診断」(2003 年公開) これら5つの診断モデルについて、文献とインターネットから資料収集し、モデルの開発者と改訂 者と研究者と運営担当者に取材調査(面接と電話とメールの取材を含む)をして、現状把握をおこな った。 現状把握の視点は、支援プログラム全体とその内の診断部分のプログラムに大きくわけた。支援プ ログラムをもたない診断モデルは、診断の機能を十分に発揮できないからである。下記の1∼4の項 目で支援プログラム全体について、5∼9の項目で診断部分のプログラムについて、現状把握を試み た。 1 コンセプト(どのような考え方で支援しているか) ⑴ 余暇概念=余暇をどう捉えているか ⑵ 使 命=どんな志をもって支援しているか ⑶ 目 的=何を達成しようとしているか 2 アプローチ(支援プログラムはどのような方式ですすめられているか) 3 ターゲット(支援プログラムの主な対象は誰か、参加実数は何名だったか) 4 参加費(支援プログラムの受講料や教材費などはいくらか) 5 診断手順(どのように診断をすすめているか) 6 診断基準(得点と評定段階はどのように結びつけられているか) 7 診断機能(診断の機能はどのように使われているか) ⑴ 調整機能=全体からみた到達状況がわかり、今後の見通しを判断できるようになっているか ⑵ 強化機能=長所や適性がわかり、やる気や自信をもてるようになっていか ⑶ 問題確認機能=短所や弱点や不足や誤りがわかるようになっているか ⑷ 処方機能=問題を克服する方向や課題をえられるようになっているか 8 診断法の検証(受診者のデータの蓄積や診断法の検証はおこなわれているか) 9 診断人財(だれが開発して、だれが診断しているか) Ⅲ 結果 上記Ⅱの材料と方法にもとづいて整理した結果が、以下の5つの表である。 なお各表の内容は、それぞれの診断モデルの関係者(開発者、改訂者、研究者、運営担当者)が一 部修正・加筆して作成されたことを付記す 2 表1 日本レクリエーション協会の診断モデル「余暇生活パターンチェック」 項 目 内 容 余暇概念:自由時間の有効活用 使 命:豊かな余暇生活の機会を提供する人財を養成する 余 暇 生 活 開 発 士 ・ 相 談 員 養 成 講 座 コンセプト 目 的:カウンセリングの技術で個人の余暇生活全般の相談に応えて いく人財(余暇生活相談員)と、その役割にコンサルティン グの技術を加えて組織や地域の余暇生活関連事業を開発・展 開していく人財(余暇生活開発士)を養成する 通信教育方式 アプローチ 1 余暇生活相談員養成科 4 科目 6 単位で 半年間の講座 2 余暇生活開発士養成科 8 科目 12 単位で 1年間の講座 ターゲット (参加者数) 参加費 18 才以上の男女 1 20 才以上で余暇生活相談員資格取得可(約 15 名/2002 年) 2 24 才以上で余暇生活開発士資格取得可(約 46 名/2002 年) 受講料 余暇生活相談員¥40、000/余暇生活開発士¥70、000 必要器材:パソコン(windows)、印刷機、FD「余暇生活パターンチェック」 ステップ:1 フェースシートに入力する 診断手順 2 設問 20 項目に YES,NO で回答する 3 5パターンの数値とグラフとメッセージがプリントアウトされる (娯楽型、気晴らし型、自己開発型、休養型、ゆとり感覚型) 所要時間:パソコン1人1台で約 3∼5 分 5段階評定 Aランク(YES が 17 以上): 余暇生活を満喫している 余 診断基準 暇 生 活 パ タ ー ン チ ェ 診断機能 ッ ク 診断法の検証 Bランク(YES が 13∼16) :現状維持をこころがけよう Cランク(YES が 8∼12) :もう一歩の改善が望まれる Dランク(YES が 4∼7):積極的な行動が望まれる Eランク(YES が 3 以下):もっと余暇に対する理解が望まれる 調 整 機 能 :パターン結果から、今後とりくむ方向を判断できる 強 化 機 能 :Bランク以上の得点で、自信をもてる 問題確認機能:Cランク以下の得点で、問題に気づける 処 方 機 能 :結果から相談員が助言できる 検 証 の有無:妥当性、信頼性は科学的に検証されていない データベース:これまで 5 年間で、2100 名のデータベースを蓄積している 開発者 著 作:浅野晃(日本レクリエーション協会) PC ソフト開発:八木一男(余暇開発研究所)[email protected] 診断人財 組織運営担当:片山昭義(日本レク協会)[email protected] 支援者 名 称:余暇生活相談員、余暇生活開発士 資 格:日本レクリエーション協会の公認資格 実 員 数:相談員 1831 名、開発士 731 名(03.4.1.現在) 3 表2 ウイット&エリスの診断モデル「余暇生活診断テスト」 項 目 内 容 余暇概念:自由な心の状態、としてとらえている コンセプト 全 体 プ ロ アプローチ グ ラ ム ︵ L ターゲット D B (参加者数) の ︶ 参加費 使 命:余暇生活支援者にカウンセリングや治療の指針を与える 目 的:余暇生活の認識と態度を数量化し、相対的に比較検討する セラピューテイック・レクリエーション・サービス方式 診断→教育→参加というサービス過程の初期に位置づけられている すべての人(1989 年の時点で、下記が対象となった) 中学生 200 名、一般大学生 511 名、喘息患者 49名、精神障害の青少年 44 名、 思春期障害の青少年 71名、セラピューティックレクリエーション専攻大学院生63 名、アルコール依存患者 35 名、ヘロイン依存患者 28 名、身体障害者 17名、情 緒障害者 14名、精神障害者 13 名 『余暇生活診断テスト・マニュアル』¥700 必要器材:「余暇生活診断テストワークシート」と鉛筆と消しゴム ステップ:1 自由の認識度を下記のスケールでチェックする A 主観的レジャー能力の認識度 20 項目 B レジャーに対するコントロール能力 17 項目 C レジャーに何を求めているか 20 項目 診断手順 D レジャー体験の深度 18 項目 E レジャーにおける社交能力 20 項目 2 自由の認識度が不足している人のためにチェックする F レジャー体験の阻害要因 20 項目 G レジャーの嗜好性 60 項目 診 断 部 分 診断基準 の プ ロ グ ラ ム 診断機能 H レジャー機会についての知識 28 項目 所要時間:上記1の A から E までを 30 分かけて行う 評定段階を設定していない 受診した生活環境グループの標準値でスコアを比較する 調 整 機 能 :グループ内で比較し 5 つのスケールで余暇生活全体を調整できる 強 化 機 能 :グループ内の比較で高いスコアの領域(A∼E)に自信をもてる 問題確認機能:グループ内の比較で低い場合は、ステップ2で問題を確認できる 処 方 機 能 :ステップ2の低いスコアの領域を改善できる 診断法の検証 検 証 の有無:参考文献の(4)と(6)で妥当性、信頼性は検証されている データベース:日本人 623 名が 1994 年に受診した 開発者 著 作:ピーター・ A ・ウイット(ノーステキサス大学) :ゲーリー・ D ・エリス(ユタ大学) 診断人財 翻 訳:日本レクリエーション協会 [email protected] 研究者:野村一路(日本体育大学) [email protected] 支援者 名 称:余暇生活相談員・余暇生活開発士 実 員 数:0 名 4 表3 LEEP の診断モデル「余暇アンケート」 項 目 内 容 余暇概念:自由時間 Leisure Exploration Project コンセプト 使 命:セラピューティック・レクリエーションの啓蒙とそのサービスを確立 する 目 的:障害者や高齢者の自由時間の確立とセラピューティック・レクリエー ション専門家の国内就業を支援する アプローチ セラピューテイック・レクリエーション・サービス方式 1 アセスメントの実施 2 プランニングの援助 3 セラピューティックレクリエーション専門家への情報提供 ターゲット 1 学生(約 14 名/2002 年) 2 障害者(約 14 名/2002 年) (参加者) 3 高齢者(約 25 名/2002 年) 参加費 教材「余暇アンケート」¥0、「My Life」¥0 必要器材:ワークシート「余暇アンケート」と筆記用具 ステップ:1 40 項目の設問に、1「そう思わない」∼5「そう思う」の5点尺 度に○をつける 診断手順 2 設問 1∼24 までの「余暇自主性」と設問 25∼40 までの「余暇退 屈度」の集計作業をする 3 集計結果を下欄評価基準にもとづいて解釈する 所要時間:約15分 5段階評定(自主性、退屈度ともに下記の基準で解釈している) 診断基準 3.9 点以上(非常に強い)、3.3∼3.8 点(比較的強い)、2.8∼3.2 点(渾沌とし ている)、2.2∼2.7 点(あまりない)、2.1 点以下(ほとんどない) 調 整 機 能 :得点によって、余暇生活援助の必要性を判断できる 余 暇 ア ン 診断機能 ケ ー ト 強 化 機 能 :自主性は高いほど、退屈度は低いほど自信をもてる 問題確認機能:自主性は低いほど、退屈度は高いほど、混沌としている 場合も、余暇支援が必要と判断できる。 処 方 機 能 :知的機能に支障がない場合、余暇教育プログラム「My Life (12 ユニット)」で余暇生活を改善できる 脳挫傷、脳内出血、痴呆症等による知的機能の低下が見られる場 合、プログラムによる改善には個人差がある。 検 証 の有無:参考文献の⑸と⑺で妥当性、信頼性は検証されている 診断法の検証 データベース:インタビューやケースワーカーから個別カンファレンスを実施し、 数値結果とは異なる個々人の背景を把握している 開発者 野村一路(日本体育大学) 佐橋由実(樟蔭女子短期大学) 診断人財 茅野宏明(武庫川女子大学) [email protected] 支援者 名 称:学生スタッフ 資 格:余暇生活相談員、認定心理士等の資格候補 実 員 数:5 名 5 表4 Dreamer--PAL(余暇資源研究所)の診断モデル「余暇生活実現度チェック」 項 目 内 容 余暇概念:自由な時間 コンセプト 使 命:ゆとりある生活の発見・創造を目指す人々を支援する 目 的:余暇生活支援者が活用できるツールを研究開発する Dreamer--PAL レジャーカウンセリング方式 アプローチ プロセス(診断→設計→情報提供)の初期にコンピュータによる支援方式を位置 づけている ターゲット (参加者数) 参加費 余暇生活開発士、余暇生活相談員、生涯生活設計指導者などの専門家 1 余暇生活相談員受験者(学生 60 名/2002 年) 2 余暇生活開発士・相談員資格保持者(20 名/2002 年) 学生 「余暇情報演習」の授業内で実施(授業料として前納) 余暇生活開発士資格保持者の実地指導(1人あたり約¥1000) 必要器材:パソコン(windows) 、 印刷機、CD-ROM[「余暇生活実現度チェック」 ステップ: 1 理想型を4パターン(娯楽型・発散型・探究型・創造型)から選択する 診断手順 2 余暇条件(人・物・金・時間・情報など)の整備度をチェックする 3 理想型パターンと他のパターンの達成度合をチェックする 4 心理的・性格的・潜在的志向性から余暇生活の可能性をチェックする 5 実際活動の面と潜在的可能性の面から理想型との適合度をチェックする 6 上記2∼4を数値化・グラフ化してプリントアウトする 所要時間:パソコン1人1台で約 20 分 余 暇 生 活 診断基準 実 現 度 チ ェ ッ ク 診断機能 4段階評定 1 Aランク(22 点以上)選択理想型の達成度・可能性とも高いレベルにある 2 Bランク(16∼21 点)達成度・可能性は平均的レベル、あと1歩の努力 3 Cランク(8∼15 点) 選択理想型の見直し、余暇に対する積極性を求む 4 Dランク(7 点以下) 余暇活動や考え方に対する全般的見直しが必要 調 整 機 能 :どのパターンが自分に向いているか判断できる 強 化 機 能 :理想と現実にズレがなければ、自信をもてる 問題確認機能:活動実現度、指向性、条件度、適合性から判断できる 処 方 機 能 :結果から相談員が助言できる 診断法の検証 検 証 の有無:妥当性、信頼性は科学的に検証されていない データベース:ウェブサイト 1500 名、イベント会場 2000 名を蓄積している 開発者 福田峰夫(Dreamer-PAL/余暇資源研究所) [email protected] 診断人財 支援者 名 称:余暇資源研究所及び日本余暇学会スタッフ 資 格:余暇生活開発士および余暇生活相談員の取得者 実 員 数:6名 6 表 5 プレジャーショップの診断モデル「快楽生活様式診断」 項 目 内 容 余暇概念:自己の責任において快楽を味わう時間 使 命:人生百年時代に生きる人々が、共に生きる喜びを味わえるように、支 コンセプト 援する 目 的:「恩恵に浴して楽しむ→自助努力して楽しむ→援助して楽しむ」方法を プ レ ジ ャ アプローチ ー シ ョ ッ プ ターゲット (参加者数) 身につける 参加体験学習方式(ワークショップにかえてプレジャーショップと呼んでいる) 1 1会合が 90 分の、全 12 会合で完結する 2 4人1組が4組の1ユニットで進行する 3 アドバイザーからではなくプログラムから学ぶ 人生の節目にある老若男女 1 子育て後の人/50 才∼80 才(約 300 名/2002 年) 2 就職前の人/20 才前後(約 700 名/2002 年) 3 快楽失調になっている人(未確認/2002 年) 参加費 ワークブック『プレジャーショップ(12 会合)』¥2400 テキスト『快楽生活術』(NHK 出版)¥680 必要器材:ワークシート「快楽生活を診断する」と鉛筆と消しゴム ステップ:1 5領域の活動要求を探索する/マトリックスに書込む (自然活動、社会活動、知的活動、身体活動、情緒活動) 診断手順 2 10 項目の条件の整備度を採点する/マトリックスの点数をかこむ (目標、技能、体調、態度、仲間、用品、空間、時間、情報、資金) 3 様式を診断する/診断機能別に記述する 所要時間:上記3ステップで 90 分 3段階評定(活動要求の実現度と条件の整備度が、下記の基準で評定される) 診断基準 快 楽 生 活 様 式 診 診断機能 断 1 依存段階(39 点以下の得点):恩恵に浴して楽しめる 2 自律段階(40∼69 点の得点):工夫努力して楽しめる 3 貢献段階(70 点以上の得点):援助して楽しめる 調 整 機 能 :総合得点から、今後とりくむ課題の優先順位を判断できる 強 化 機 能 :活動別および条件別に、上位の得点から自信をもつことができる 問題確認機能:活動別および条件別に、下位の得点から自分の課題を判断できる 処 方 機 能 :第1会合(診断)以降で、条件別に自分の課題を改善できる 診断法の検証 検 証 の有無:妥当性、信頼性は科学的に検証されていない データベース:これまで 700 名のデータベースを蓄積している 開発者 今井毅(日本体育大学) [email protected] 診断人財 支援者 名 称:プレジャーライフ・アドバイザー 資 格:プレジャーショップ全 12 会合に参加し、総合得点 70 点 を超えた人が、コーチング資格を取得すること 実 員 数:0 名 7 Ⅳ 考察 現在日本で公開されている5つの診断モデルの現状をみてきた。ここでは、5つのモデルを踏まえ て、日本の余暇生活診断法について、気がついたことや気にかかることを述べておきたい。 まず気がついたことは、日本の余暇生活診断法は健全に発展している、ということである。その理 由として次の5点があげられる。 第1は、他の領域の診断、たとえば職業診断や性格診断や教育診断や健康診断とは一線を画してい ることである。それは、遊びと余暇の理論を駆使して、明確な志と目標のもとに進められているから である。 第2に、診断の進め方である。明確なステップがそれぞれのモデルに設定されている。ワークシー トやパソコンといったツールも活用している。所要時間も短いものが多く、実用性が高い。 第3に、診断基準が多彩である。どれひとつとして同じものがない。 第4に、診断の機能が上手に使われていることである。調整、強化、問題確認、処方ともに、診断 結果を有効に活用するしくみとなっている。 第5は、診断法の妥当性や信頼性の検証を試みているものが多いことである。検証するためのデー タ蓄積や、さらに信頼性をたかめるための個別データ集めをしているモデルもある。 いうまでもなく、レジャー・レクリエーション・サービスが診断を必要とするのは、社会に対して、 成果への責任をもつことを意味している。上記にあげた理由は、成果への責任をはたすために工夫や 努力している姿といってよいであろう。 つぎに気にかかることである。もっとも精力的に科学的にとりくまれた「余暇生活診断テスト」が なぜ普及しなかったかである。 日本レクリエーション協会は、1989 年には開発者のピーター・ウィット博士を招聘し、 1992 年に は『余暇生活診断テスト・マニュアル』(1995 年に第 2 刷)を翻訳・公開し、1994 年には日本人 623 名の受診者のデータをもとに妥当性と信頼性を検証している。しかしこの診断テストは、公認資格を もつ余暇生活相談員も余暇生活開発士にも使われていないのである。 そこで、この余暇生活診断テストの検証に携わった研究者たちと余暇生活開発士・相談員養成の運 営担当者に、なぜ普及しなかったかをたずねたところ、概ね次のような回答を得た。 1 翻訳がわかりにくかった 誤植や表現に困難な文章があり、集計しても正しい結果にはつながらないのが実情であり、文 章としても理解しにくいところがある。 2 アメリカの障害者の標準化の結果が示されており、日本人にあまりなじめなかった 特に余暇生活相談員・開発士は中高年を対象にし、福祉レクリエーションワーカーは障害者を 対象という棲みわけが影響している。 3 検証研究のための研究におわった 妥当性は検証されたものの、そのツールを使うことを強力にアピールしなかった。研究成果を あげればよい、ということで研究グループの役割は終わった。 これらを総括すると、『余暇生活診断テスト・マニュアル』は、余暇生活開発士・相談員養成講座 のなかに位置づけられるほどこなれていなかった、といえよう。 8 最後に、1つの疑問に対する提案をしたい。日本の余暇生活診断法には、「すべての人にある一定 の楽しむ力を保障する」という視点が欠けているのではなかろうか。この疑問をもつにいたった背景 は、次のとおりである。 1 50 才以上の世代の人口が成人人口の過半数となり、人生 100 年設計の時代をむかえている 2005 年には、50 才以上の人口が 40%、20∼49 才の人口が 39%、0∼19才の人口が 21%にな り、成人人口の過半数が 50 才以上の社会となる。 その上に、現在 50 才の人の 75%は 100 才まで生きる、というシュミレーション結果もでてい る。日本人が人生 100 年の設計をもち、価値観やライフスタイルや産業や社会を改革していく時 代に入っているのである。 2 日本人は快楽を得にくい遺伝子をもっている 日本人は、幸福感をもたらす脳内快楽物質の受容体遺伝子が短くて快楽物質を受取りにくく不 安傾向の強い遺伝子をもっていることが判明している。それだけに余暇生活を心底から楽しめな い人は、余暇生活不全や快楽失調の状態になり、心身の障害や病気だけでなく社会病理をも増大 させている。 3 消費不況が続いている 日本は経済的に世界で最も恵まれた国の一つである。たとえば外貨準備高は1位(3,560.2 億円)、 対外純資産は1位(179 兆 2,570 億円)、国内総生産は2位(42,451 億円)、個人金融資産は2位 (1,439 兆円)の立場にある。 しかし 1992 年に日本経済がバブル崩壊して以来、いまなお国民の余暇生活の要求は抑制され ている。現にレジャー消費は、1995 年の 95.5 兆円をピークに、2002 年には 83 兆円に落ち込んで いる。レジャー消費の節約は、国の赤字が毎年 10 兆ずつ増えていくのを応援しているようなも のである。 このような背景をもっている日本だからこそ、余暇生活支援者の社会的責任は、障害者も健常者も 老若男女が心底から楽しめるように貢献することにある、といってよいであろう。すべての人にある 一定の楽しむ力を保障する責任があるのである。 それにはどうしても診断が必要になる。そして、外的評価によって自己の位置付けができる診断法 が有効である。 たとえば、これから始めてみようという初級レベル、ひとり前に楽しめるように工夫努力している 中級レベル、ひとり前に楽しめてまわりの人から一目おかれる上級レベル、といった内容の診断基準 を共有できないだろうか。 その場合の内容は、活動種目の初級・中級・上級というレベルではない。スポーツに特定の活動種 目がないように、余暇生活にも特定の活動種目はないからである。 イメージとしては「体力診断テスト」にちかいので「余暇生活力診断テスト」と呼んでおこう。そ れがあれば、全国一斉におこなえる。日本人の余暇生活力の標準もわかる。余暇生活力の低い人は、 余暇生活の相談員や開発士の処方をうけられる。余暇生活力の高い人は、みんなからモテる。 適切な診断をおこない、その結果をサービスに活用すれば、すべての人がある一定の楽しむ力をも てるようになる可能性がある。人はある一定の楽しむ力をもてるようになれば、自信をもてるように なる。そして、日本は元気になる。 9 ギリシャの喜劇詩人アリストパネスが 2414 年前に書いた戯曲『女の平和』がある。当時ギリシャ は、アテネとスパルタが戦争中であった。そこでアテネの女性が団結して「和平締結まで一切セック スしない」といったら、スパルタの女性も団結して「私たちも和平締結まで一切セックスしない」、 ということになった。 このセックス・ストライキに、アテネの兵士もスパルタの兵士も、「もうたまらない」と音をあげ て、和平締結したというわけである。 日本人の年間レジャー消費は、およそ 83 兆円で、国家予算に匹敵する。そのレジャー費を節約し て半分に減らしてしまうと、国の財政は破たんをして、政権も交代せざるをえなくなる。日本では、 レジャーストライキで、国を平和に導くことができる時代にはいっているといえよう。 しかし心底から楽しめるレジャー能力を身につけていないと、自分自身が快楽失調におちいって、 病気や社会病理をまねき、自分も国も自滅することになる。 レジャー・レクリエーション専門家には、すべての人がある一定の楽しむ力を保障する責任がある ということは、レジャー・ストライキを行使できるほどの余暇生活力を身につけることを、支援する ことでもある。 Ⅴ 余暇生活診断に関する文献紹介 ここでは、余暇生活診断に関する文献(論文と単行本)を紹介する。当スピーチに関わる参考文献 は省略した。 論文 ⑴ 今井毅「余暇生活診断法の開発に関する研究⑴ー既存余暇生活関連診断法の内容分析ー」 『レクリエーション研究第 12 号』(第 14 回日本レクリエーション学会大会号)p.70~73、 1984.10.発行 ⑵ 今井毅「余暇生活診断法の開発に関する研究⑵ー診断法モデルの構造と機能ー」『レクリエ ーション研究第 13 号』(第 15 回日本レクリエーション学会大会号)p.100~105、 1985.10.発行 ⑶ 「余暇生活診断テストの理念」『自由時間研究』第 14 号、1993.3.発行 ⑷ 野村一路・茅野宏明・清水やす子・西原隆一・浮田千枝子「余暇生活診断テスト(LDP) 日本語オリジナル版作成に関する研究」『自由時間研究』第 15 号、p.60∼114、1994.3. 発行 ⑸ 茅野宏明・中澤由夫・平岡貴子『余暇生活診断のツール開発に関する研究」『自由時間研究』 第 17 号、p.31∼50、1994.3.発行 ⑹ 野村一路・茅野宏明・佐橋由実「余暇生活設計のためのツール開発に関する研究ーILM 日本語版の信頼性と妥当性に関してー」『自由時間研究』第 19 号、p.11∼25、1996.3. 発行 ⑺ 野村一路・茅野宏明・佐橋由実「余暇生活設計のためのツール開発に関する研究(Ⅱ)ー ILM日本語版の信頼性と妥当性に関してー」『自由時間研究』第 21 号、p.40∼49、 10 1997.3.発行 ⑻ 福田峰夫「余暇生活診断・新ツールの研究開発」『余暇学研究』第5号、p.90∼97. 2002 年 単行本 ⑼ 日本レクリエーション協会『余暇生活診断とレクリエーション処方の開発に関する研究』、 日本レクリエーション協会、1988 年 ⑽ レジャー・レクリエーション研究所『余暇生活設計の方法開発に関する研究』日本レクリ エーション協会、1989 年 3 月 ⑾ レジャー・レクリエーション研究所『余暇生活設計の推進方法に関する研究』日本レクリ エーション協会、1990 年 3 月 ⑿ 浅野晃『ゆとりを演出する余暇生活プラン』日本レクリエーション協会、1992 年 3 月 ⒀ 日本レクリエーション協会『知的余暇生活術』日本レクリエーション協会、1989 年 ⒁ 日本レクリエーション協会『余暇生活診断テスト実施マニュアル』日本レクリエーション 協会、1992 年 ⒂ 日本レクリエーション協会『福祉レクリエーション援助の方法』中央法規出版、2000 年 本稿の英文フルペーパーは、下記に掲載されています。 Takeshi Imai & Jun Hi Kim, The Tendency of Leisure Life Diagnostics in Japan, 2003 Daegu Universiade Conference Proceedings, 2003,793-798 11
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