税務・会計の情報ニュースレター「ボトムライン」の秋号をお 届けします

AUTUMN 2010
税 務・会計の情報ニュースレター「ボトムライン」の秋号をお
届けします。今 回は i X B R Lと法 人税 計 算 書・申告 書を中心
に取り上げます
iXBRL
とを義務付けました。
2 0 0 6 年3月に、歳 入関税 庁(H M RC)のオン
ラインサービスの見直しに関するカーター卿
の 報 告 書 が 公 表されました 。この 報 告 書 で
は、PAYE(源泉徴収課税)やVAT(付加価値
税)、自己納税申告、法人税申告の電子申告に
向けて、HMRCのシステムを大幅に見直すよう
求めていました。この見直しは過去数年間で段
階的に導入され、今ではPAYE申告やVAT申告
をオンラインで提出する企業・機関が多く、自己
申告でもかなりの割合に上っています。ただ、法
人税の電子申告をしている企業は現在のところ
約25%しかありません。
XBRLのタグの「辞書」は、
「タクソノミ」と呼ば
れています。英国会計基準(UK GAAP)の法定
財務諸表用のタクソノミには5,000以上のタグが
あり、法人税計算書ではタグが約4,500に上りま
す。ただ、義務付けられる法人税申告書のオン
ライン提出では当初、英国会計基準の財務諸表
用に約1,250のタグからなる「最小限のタグ付け
リスト」が導入されます。すべてのタグ付けが必
要となる2013年までは最小限のタグ付けリスト
に従うことになります。しかし、2013年1月1日以
降の会計年度から国際財務報告基準(IFRS)
に切り替えるよう中小企業に義務付ける提案が
出されており、これと併せて最小限のタグ付けリ
ストも拡張する方針が示されています。
法人税でも2010年4月1日以降に終了する会計年
度の法人税申告書では、2011年4月1日から電子
申告が義務付けられます。法人税申告書は申告
書「CT600」
(補足ページを含む)、財務諸表、
計算書およびこれらを補足する文書からなりま
す。自己申告書との大きな違いは、自己申告書
では財務諸表の提出が不要な点です。法人税
申告書をオンラインで提出する場合には、必ず
計算書をiXBRLフォーマットにしなければなり
ません。さらに2011年4月からは、法人税の納税
もすべてオンラインで行うことが義務付けられ
ます。
iXBRLは「Inline eXtensible Business Reporting
Language(インラインの拡張可能なビジネス報
告言語)」の略称です。これは、実はコンピュー
ター言語ではありませんが、XML(eXtensible
Markup Language/拡張マークアップ言語)ベ
ースの財務データ記述の標準言語です。XML
は、タグを用いて情報の意味や文章構造などを
定義していく言語で、ユーザーがタグの定義と
使い方を決めることができます。XBRLは複雑
な構造の文書をウェブ上で使えるように作られ
たもので、データの構造や内容を定義するのに
タグを用いています。このタグはバーコードと似
たような機能を果たすため、様々な種類の財務
情報をずっと簡単に処理できます。固有の識別
タグが、売上高やその規模、借方か貸方か、関
連する年度や期間など項目の記述内容を示すこ
とができます。タグは、たとえば「粗利益=売上
高-販売コスト」といった項目同士の関係を示
すのにも使えます。XBRLで提示したデータは
人間の目では簡単には読み取れません。そこで
iXBRLが開発され、これによりデータを元の文
章の内容や形式で表示しながら、タグ付けされ
たXBRLデータを抽出してソフトウエアで自動的
に処理できるようにしています。
XBRLフォーマットで提示したデータは、処理す
ることや適正基準との比較が簡単にでき、デー
タ処理の時間とコストを減らすことができます。
このためXBRLは世界中の政府や規制当局、そ
の他の機関に採用されています。2009年には米
証券取引委員会(SEC)も四半期および通年の
財務報告書をiXBRLフォーマットで提出するこ
税務や財務諸表のソフトウエアの主要サプライ
ヤーは現在、財務諸表や法人税申告書、法人
税計算書にタグ付けできるソフトウエアを試験
的に運用しています。このソフトは既存のソフト
に追加できるように開発されていますが、ワー
ドやエクセルで作成した財務諸表や計 算書に
も単独で使えるようになっています。タグ付け
を行う場合には、タグを特定の情報に適用させ
るかどうかの判断が必要で、このような場合に
XBRLでは、ユーザーがデータに付ける新しい
独自のタグを作ることでタクソノミを拡張できま
す。XBRLの名称で「拡張可能な」となっている
のはこのためです。
HMRCは最初の2年間については、タグ付けを
間違いがあっても罰則を科さない方針を示して
いますが、タグ付けを間違えると不必要な問い
合わせや調査をまねく可能性もありますので、で
きるだけ正しくタグを付けるよう努力することが
重要です。
監査実務委員会(APB)は会報2010/1の中で、
タグ付けは国際監査基準に従って実施する監
査の範疇外であると明言しています。ただ、監
査人は財務諸表の監査でタグ付けの正確性に
ついては保証しないものの、タグ付けの実施や
タグ付けの正確性に関する経営幹部へのサービ
ス提供、各タグの選択についてのアドバイス提
供、タグ付けを自動化する財務諸表作成ソフト
の供給、XBRLのタグ付けに関する幹部の訓練
など会計事務所が提供する監査以外のサービ
スには需要があるかもしれません。ただし、監
査人が監査以外のサービスを提供する場合、独
立性や客観性に対する脅威の可能性があるか
どうか、こうした契約を受けることが適切かどう
か、また適切なら妥当な予防措置を適用するか
どうかを監査人は検討します。
XBRLに関する監査以外のサービスには、マネ
ジメントの役割を担う脅威を引き起こす可能性
があります。具体的には、XBRLのタグ付けには
判断が関わることがあり、特にある取引やバラ
ンスがタクソノミでカバーされていない場合、あ
るいは情報開示にタクソノミの1項目以上が適し
ていると思われる場合などで判断の要素が加
わります。このような場合に会計事務所は、監査
を行う企業の経営陣が経営判断に責任を持っ
ており、企業が経営陣に判断を手伝うよう前も
って通知していることを確認しておく必要があり
ます。
当面の間は、タグ付けは財務諸表を作成し監査
が終わった後に行われることになるもようです。
このため、財務諸表の監査に関して自己レビュ
ーの脅威が起きることはありません。しかし、初
年度に実施するタグ付けが今後のタグ付けの基
本となる可能性があり、もし将来的にある段階
で監査要求事項が確立されれば、この最初の作
業に関して自己レビューの脅威が存在する可能
性も出てきます。このため会計事務所では、将来
的に自己レビューの脅威が出る可能性を回避す
る方法として、XBRLに関する監査以外のサー
ビスを設けようという考えが出てくることもあり
えます。
会社 登記 所(カンパニーハウス)は2 010 年夏
から会計監査が免除されている企業に対して
は、iXBRLフォーマットで財務諸表および簡易
版財務諸表を提出することを認めており、2010
年末にはウェブの提出機能にもこれが拡大され
る予定です。しかし、オンライン提出の義務付け
についての期限は今のところありません。
私どもはiXBRLに精通しているものの、ソフトウ
ェアのサプライヤーから新ソフトを提供されるま
では、財務諸表や法人税申告書を正しいフォー
マットで作成するのに必要な時間に対する影響
は推測するしかありません。お手伝いが必要な
場合にはお気軽に私どもにご連絡ください。
HSBCのスイス子会社の顧客に
対してHMRCが徹底調査を実施
歳 入関税 庁(H M RC)は「手 続き要綱第9 項
(Code of Practice 9)」により、富裕層の納税
者に対する調査に着手するため何百通もの書簡
を送付しました。対象となる納税者は、すべて
HSBCのスイス子会社の顧客です。同行の元行
員が銀行から顧客情報を盗み出し、フランスの
税務当局に手渡し、またフランスの税務当局は
HMRCにもこの情報を提供しています。HMRC
によれば、データには問題となる納税者に未申
告の収入源や利得があることが示されていると
のことです。
手続き要綱第9項は、HMRCが納税者に対して
過去20年間にさかのぼって英国の税務の不正
行為をすべて開示するよう求める手続きです。
この手続き中に納税者がHMRCに対して虚偽
の申し立てをしなければ、その納税者はHMRC
による起訴を回避できます。しかし納税者には、
かなりの罰金が科せられるうえ課税分に利子を
加えて支払わなければなりません。
税 務 代 理 人・アドバ イザ ー に
HMRCが送付するフォーム
HMRCは今後、財政的に大きな試練に直面する
ことが予想されるため、費用削減の方法を検討
しています。こうした試練を見越して、HMRCは
税務代理人や税務アドバイザーに送付するフォ
ームの見直しを行っています。フォームの一部に
ついて今後は発行しないことや、発行を一時的
に停止することを決め、更なる見直しを行ってい
ます。このため、受け取った文書のコピーを税務
アドバイザーである私どもに直接送付すること
が重要となります。
手続き要綱第9項による訴追免除は税金詐欺以
外の犯罪行為には適用されませんので、たとえ
ば収賄や商業上の不正、離婚手続き中の偽証な
どは訴追が免除されず、起訴されることもありえ
ます。
発行の取りやめ・一時停止となるフォーム
現在のHMRCの取り組みはHSBCのスイス子会
社に関連したものですが、海外銀行の従業員が
金銭のために機密情報を売るのは今回が初め
てではなく、今後も起こる可能性があります。
• SA 250 – 納税者参照番号(UTR: Unique
Taxpayer Reference)について納税者に知らせ
るとともに、年次自己申告書の作成についての
要件を詳述した書簡
海外銀行がからむ未申告の収入や利得がある
人は、情報が税務当局の手に渡る可能性があ
ることに留意すべきです。こうした方々は、手遅
れになる前に「リヒテンシュタイン情報公開制度
(LDF:Liechtenstein disclosure facility)」
への参加を表明すべきです。ただし手続き要綱
第9項による書簡を受け取った納税者は、通常
はLDFに参加できません。LDFは、その名称と
は異なりリヒテンシュタインに関連する納税者だ
けに限ったものではないうえ、自主的に申し出た
納税者に対しては、1999年4月以前の課税免除
や一律わずか10%の罰金など非常に寛大な規
定となっています。
最近HMRCは、起訴をする件数を5倍に拡大す
ると発表しています。納税者が自発的に申し出た
場合には起訴の可能性はほとんどなくなります
ので、未申告の納税義務がある納税者は発見さ
れる前に速やかに申し出るのが賢明でしょう。
• P2 – PAYEのコード通知書
• P800 – PAYEの課税計算書
• P810 – 特定の人への見直しフォーム:自己申告
書の作成が終わっていない人に送られるもの
• SA 251 – 以前に提出した申告書に基づき
HMRCが自己申告納税から除外するため、今後
は自己申告書が不要であることを納税者に知ら
せる書簡
• SA 252 – 自己申告書を提出していないもの
の、所得税で40%の高い税率の納税義務があ
る人に対する書簡
自己申告納税者に対するPAYE
コード通知書(P2)の発行
2010年12月からHMRCは、2010年の申告書を
全て入手するまでは、自己申告書を提出する必
要のある納税者に対するPAYEコード通知書の
発行を先延ばしにする予定です。これは2011年
1月31日のオンライン提出期限を順守する納税者
に適用されます。申告書で提供された最新情報
に基づくことになるため、HMRCが発行するコ
ード番号は従来よりも正確となるはずです。
短信
る予定です。
PAYE 課税計算
処理できるという提案をメディアで目にしたかも
最近、PAYEの調整プロセスの結果、PAYE
制度で徴収した税金に過払いや納税額の不
足があることがメディアで大々的に報じられ
ました。もしHMRCから書簡を受け取れば、
そこには2008 - 09年度と2009 -10年度の納税
額がの正確な数字を説明する税務計算書(フ
ォームP80 0)が入っています。計 算書にはこ
の各年度の総収入と適用される控除額が示
されています。
HMRCは、過払いとなっている人には全額を
還付すると発表しています。納税額が不足し
ている場合は、追加納税額が2 ,0 0 0ポンド以
下の場 合にはPAY E制度を通じて納付をす
ることになります。この支払いはすべて来年
度(2 011-12年度)に始まりますが、即時1回
納税額の不足については、HMRCが回収不能で
しれません。H M RCは、特定の状況に限っては
ロンドン・オリンピック組 織 委員会はこのほ
ど、2012年のロンドン・オリンピックおよびパラ
リンピックで働く最大7万人のボランティア(「
ゲームス・メイカー」と呼ぶ)の応募手続きを開
始すると発表しました。雇用主であれば、ボラ
ンティアになりたいという従業員からの要望で
生じる可能性のある業務の中断や雇用紛争を
回避するため、今のうちに方針を定めておくべ
きです。
ボランティアの仕事はオリンピックの全期間が
対象となり、労働日が最大で23日間失われる可
能性があります。ゲームス・メイカーに求められ
る技能は幅広く、メディアの経験やIT知識、医
療関係、イベント・マネジメントの経験など多岐
に渡ります。あらゆる規模の企業およびロンド
ンやロンドン周辺以外の企業でも、重要な従業
員が不在となる場合の管理方法やボランティ
アを希望する従業員への対応方法を検討する
必要があるかもしれません。
ボランティアの応募手続きはすでに始まってい
ます。最終候補者は2011年12月中に開かれる
選考イベントへの参加を求められます。ボラン
ティアになることが決まれば、2012年の2月、3
月、6月に実施される3日間で合わせて約15時
間の訓練に参加する必要があります。そしてオ
リンピックの開催期間(2012年7月27日~8月12
日)があり、さらにパラリンピック(2012年8月
29日~9月9日)で働く場合もあります。
企業にとっては従業員の才能を開発し、その経
験を広げる大きな機会であり、従業員にボラン
ティアを認めるだけでなく従業員にボランティ
アになるよう勧めることで企業にも多くの利点
があります。特に専門職の分野では、若手従業
員が世界的なイベントで実務経験を積む好機と
なります。さらに満足度や向上心の高い従業員
ほど生産性が高いという傾向があります。いず
れにせよ企業の必要性を満たすとともに従業員
が望めばボランティアに参加できるように、方
針を策定することを考える必要があります。
• 18歳~20歳の従業員:時給4.83ポンドを4.92ポ
ンドに引き上げ
• 18歳未満の従業員:時給3.57ポンドを3.64ポン
ドに引き上げ
納税不足を回収不能と見なすこともできます。基
注意:大きな改正点として、成人レート/基本レ
本的にこの状況とは、正確な納税に必要な情報
ートの時給を支払う年齢が従来の22歳以上から
をすべて提供されていて、このため当然ながら自
21歳以上に引き下げられました。
分の源泉徴収課税額が正しいと予期できた場合
です。その場合にはHMRCに問い合わせ、こうし
た根拠に基づいて納税額の不足について見直し
を求める必要があります。
PAYEの調整プロセスは毎年起こりえるもので、
たとえば課税年度中に収入や雇用状況に変化が
あった場 合に起こる可能 性があります。昨年は
調整プロセスが実施されなかったため、今 年は
HMRCがこのプロセスを1年分ではなく2年分に
ついて終わらせる必要があったわけです。
払いではありません。支払いが困難な場合に
全国最低賃金
は、HMRCは3年間に渡る支払いを認めるこ
2010年10月1日から以下のような新しい全国最低
とにしています。もし追加納税額が2,000ポン
賃金が適用されています。
ドを超える場合には、HMRCは各人に対して
• 21歳以上の従業員:時給5.80ポンドを5.93ポン
支払いの手続きを定めた書簡を改めて送付す
ドに引き上げ
連絡先
ロンドン五輪のボランティア
EU域内のVAT電子還付― ― 提出と
還付請求の期限延長
EU域内のVAT電子還付制度が2010年1月1日以
降のVATの還付請求の提出に適用されています
が、この電子還付制度の実施に不具合のあるこ
とが広く知れわたっています。このため欧州委員
会は、2009年12月31日までに終了した会計年度
に関する還付請求の提出期限を当初の2 010年9
月3 0日から延期することを提案しました。EU全
加盟国がこれを支持し、指令を改正するEU法の
採択手続きが行われていますが、法律は2010年
10月1日にさかのぼって適用されることになりま
す。このため企業にとっては、2009年12月31日ま
でに終了した会計年度の還付請求の提出は2011
年3月31日まで猶予ができます。
このニュースレターで取り上げたテーマについて詳しい情報を知りたい方、また私どもが提供できる様々なサービスについて知りたい方は、Stephen
Dabby や Morisha Christy、Tony Sian、Nick Nicolaou、Alex Green、Paul Bradleyまでご連絡ください。