ボルタ電池の問題点 哲猫 2009 年 8 月 9 日 亜鉛板と銅板を希硫酸に浸した電池がボルタ電池であり、1800 年にボルタによって発明されている (友 人であるガルヴァーニの研究に大いに驚き、その結果ボルタ電池が発明されるようになったとされる)。 尚、ボルタは亜鉛と銅以外にも種々の金属板を使って電池 (ボルタ電池) を作り、その起電力を測定して いる。 このボルタ電池は、以前の (日本の) 高校化学の教科書で、電池の導入として必ず紹介されていたが、 幸いにして現在の教科書では参考程度の記述になっている。 というのは、電池をボルタ電池から紹介されると、大抵は金属のイオン化傾向に続いて電池の説明に なるので、電池には 2 種類の金属が必ず必要になるような錯覚を与えるという点 (しかし乍ら、この点 に関しては、電池をきちんと学習すれば、この手の誤解は生じない) ということと、ボルタ電池そのも のの説明が、かなり誤解を招くようなものであったからである (率直に言えば、この説明は嘘である)。 ボルタ電池では、亜鉛板が負極に銅板が正極になり、放電時の電極反応は 負極 : Zn −→ Zn2+ + 2e− 正極 : 2H+ + 2e− −→ H2 ↑ となるので (正極は銅板でなければならないのは何故かという疑問を持った人はまともな感覚の持ち主 であると思う)、外部回路に電子が流れていくので、放電可能となる (=電池として働く)。このように教 えられた。そして、ボルタ電池の起電力の初期値は 1.1 V であるが、直ぐに電位が低下して 0.76 V と なり、更に分極 (?) が起こる為電流が流れにくくなる。この分極を無くす為には、正極に過酸化水素水 を注げばよい。このとき、過酸化水素は電池の分極を減らすので減極剤 (?) として働く。このように解 説されていた。 実際にボルタ電池を作ると、起電力の初期値は 1.1 V 程度であるが、直ぐに 0.76 V まで起電力は低 下するし、ボルタ電池を外部回路に繋いでも殆ど電流は流れない。(かつての) 教科書と違うのは、教科 書では、銅板の方から水素が発生すると説明されていたが、実際は銅板では気体は殆ど発生せず、亜鉛 板での気体 (水素) の発生が銅板よりも盛んに起こる。ただし、亜鉛板を単独で希硫酸に入れたときより は、ボルタ電池を形成している亜鉛板での水素の発生は若干少なくはなる。 ボルタ電池で電流が殆ど流れなくなるのは、(かつての) 教科書では、銅板上で発生した水素が、 H2 −→ 2H+ + 2e− のように再びイオン化する (これはイオン化傾向が H2 > Cu であるから、水素と銅で局部電池が形成さ れるからであるとした) ので、正極の電位が下がり、電流が流れにくくなるという具合に説明されてい た。さらに、正極の電位が下がるのは、正極 (銅板) で水素が発生するからであるから、この水素を過酸 化水素水を使って酸化してしまえば、電位降下を阻止することができ、きちんと電流を外部回路に流す ことができるなどというとんでもない説明がされていた。銅板に付着した水素がイオン化することで、 部分的に電子の密度が上がるから正極に負の部分が生じる、これをもって分極と説明されていた。 先ず、ボルタ電池の起電力の初期値が 1.1 V で、次に学習することになるダニエル電池と同じになる ということに関しては何らの説明もなかった。しかし、理論上のボルタ電池の起電力は、電位が低下し たときの起電力の 0.76 V である。では、何故、ボルタ電池を組み立て、起電力を測定すると、最初だ け 1.1 V 程度になるのかというと、それは銅板の表面が酸化されていて CuO となっているので、実際 のボルタ電池の初期反応は 負極 : Zn −→ Zn2+ + 2e− 正極 : CuO + 2H+ + 2e− −→ Cu + H2 O となる為である。しかし、CuO は直ぐに消費される為、その後は理論的な起電力の 0.76 V 程度になる のである。 起電力に関しては、(かつての) 教科書の記述は、間違いではないので、百歩譲ることができるが、分 極及び減極剤に関しては、明確に誤りであるので見過ごすことはできなかった。ボルタ電池で銅板と亜 鉛板を繋ぐと、亜鉛板上での水素の発生が少なくなるのは、水素過電圧が Zn > Cu であるからである。 つまり、水素イオンの電子の受け取り易さは Cu > Zn であるから、銅板と亜鉛板を繋ぐと、銅板上で も水素イオンが電子を受け取ることができることになり、ボルタ電池が電池として働くことになるので ある。しかし、亜鉛のイオン化によって負極でできた電子が外部回路を通って正極に行き、そこで水素 イオンがこの電子を受け取る反応よりも、亜鉛板付近の水素イオンがこの電子を受け取る反応の方がや はり起こり易いので、ボルタ電池では、教科書の説明とは違って亜鉛板上で盛んに気体 (水素) が発生す ることになる。負極での水素の発生を抑制するには、負極の亜鉛を、水素過電圧の大きな水銀で、コー ティングするれば良い。そうすれば、ボルタ電池の負極で水素の発生がなくなるので、負極から正極に 電子が大いに移動することになる。このことで、マンガン乾電池に何故水銀が使用され続けてきたかの 説明に繋げることもできるのである。 という訳で、そもそも、理屈の上では、ボルタ電池の起電力は低いし、実際の反応を考えればボルタ 電池では極めて小さな電流しか取り出せないことが理解できるのである。だからこそ、ボルタは起電力 を大きくする為、電池を積み重ねて電堆というものを作ったのである。正極で水素が発生して、これが 分極を起こすから、起電力も低いし、電流も流れにくくなるというのは真っ赤な嘘である。 さらに、分極を抑える為に、減極剤として過酸化水素水を正極表面に注げば、正極 (銅板) 表面に付着 した水素を酸化できるので、起電力も電流も大きくなるというのも、大きな誤りであり、こちらは作為 的なものである。過酸化水素水を注いだ時点で、この電池は、2 種類の金属と電解液を使ったタイプの ボルタ電池ではもはやなくなる。この電池の電極反応は 負極 : Zn −→ Zn2+ + 2e− 正極 : H2 O2 + 2H+ + 2e− −→ 2H2 O となり、亜鉛 (還元剤) と過酸化水素 (酸化剤) の酸化還元反応を利用した、ボルタ型電池とは全く異なる 電池であり、従って、起電力は、酸化力が H2 O2 > H+ であるから、理論的なボルタ電池の 0.76 V よ りも大きな値 (実験すれば 2V 位) になる。 以上、何かと問題のあったボルタ電池が、電池の導入として、高校化学の教科書から無くなったとい うことは大いに良いことであると考える。嘘は良くない。ダニエル電池から出発すれば、酸化還元反応 を別々の電極で行わせることができれば電池ができるということがすっきり理解されると思う。ところ で、亜鉛と銅を使ったダニエル電池の負極側の電解液は何故硫酸亜鉛でなければならないのだろうか、 そのような疑問は起こらないものなのだろうか?
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