ポスター

Swift/BAT AGNの「すざく」による追観測
~ 「隠されたAGN」には2つの種族が存在する!? ~
江口 智士、上田 佳宏 (京都大)、寺島 雄一 (愛媛大)、Richard Mushotzky、Jack Tueller (NASA/GSFC)
- Abstract 宇宙X線背景放射(CXB)は、多数の活動銀河核(AGN)からの放射の重ね合わせと考えられている。最近の種族合成モデル(e.g., Gilli et al. 2007)に
よれば、CXBの30 keV付近の強度ピークには、強い吸収(log NH > 23)をうけた「隠されたAGN」が大きく寄与する。しかし、隠されたAGNの検出は困難
であり、この種族に関する理解はまだ不十分である。本ポスターでは、Swift/BAT硬X線サーベイで新たに見つかった6つのAGN の「すざく」による観
測結果を報告する。広域スペクトルの解析の結果、(1)散乱成分が極端に弱く(<0.5%)反射成分が強いグループと、(2)散乱成分が大きめで反射成分の
弱いグループにきれいに2分されることが分かった。前者が、分厚いトーラスに深く埋もれた「新タイプAGN」に対応し、後者は「古典的AGN」に相当
すると考えられる。我々の結果は、隠されたAGNに2つの異なる種族が存在する可能性を示唆する。
1. Introduction
宇宙X線背景放射(CXB)とは、宇宙から一様・等方にやってくるX
線のことであり、その起源は多数の活動銀河核(AGN)からの放射と
考えられている。CXBは30 keV付近に強度のピークを持つが、この
23
-2
ピークは強い吸収(水素柱密度で10 cm 以上)を受けた「隠された
AGN」からの寄与が非常に重要である。しかし隠されたAGNは、その
吸収の強さのために10 keV以下のエネルギーバンドの観測では検出
が困難である。
いっぽうSwift/BATは15 keV以上のエネルギーバンドで全天サー
ベイを行った。このバンドは光電吸収の効果が最小であるため、
Swift/BATカタログは近傍宇宙における最も「無バイアス」なAGNサ
ンプルを提供する。
そこで我々は、Swift/BATカタログの中からこれまで精度の良いX
線観測が行われていなかった6つのAGNを選び出し、「すざく」で追
求観測した(Table 1)。本ポスターでは、AO-1で観測した全ターゲ
ットについての系統的な解析結果を報告する。
3. スペクトル・フィッティング
我々は「すざく」のXISとHXD/PIN検出器、およびSwift/BAT検出
器のデータを使用して、0.2-200 keVという広範囲のスペクトルに
対して同時フィットを行った。使用したモデルは、
1. 吸収を受けたべき成分+散乱成分+鉄輝線
2. 吸収を受けたべき成分+散乱成分+反射成分+鉄輝線
3. 2種類の吸収を受けたべき成分+散乱成分+反射成分+鉄輝線
である。各ターゲットについて統計検定および反射成分に対する鉄
輝線の等価幅を用いて、最も適当なモデルを選択した。その結果、
SWIFT J0138.6-4001、J0255.2-0011、J0601.9-8636の3天体がモデ
ル2に、残り3天体がモデル3になることがわかった(Figure 2)。
Figure 2
「すざく」とSwift/BAT
による観測データを同時
フィットした結果。トー
ラスを透過してきたべき
成分の強度に対する反射
成分の強度比をRと定義
すると、中心核から見た
反射体の立体角をΩとし
てR=Ω/2πと書ける。ま
た、透過してきたべき成
分に対する散乱成分の強
度比をfscatで表す。
2. Swift/BATスペクトルによるEcutの推定
4. Discussion
1型AGNまたは吸収補正した2型
AGNのX線スペクトルは~ 100 keV
までべき型をしており、それより
高エネルギー側では指数関数的な
カットオフexp(-E/Ecut)が掛かる
(Figure 1)。
通 常 A G N の E cut の 値 は 、 数
100-500 keVの範囲にあると言わ
れているが、個々の天体のスペク
トルからその値を精度良く決定す
ることは困難である場合が多い。
特に吸収の強い2型AGNにおいて
は、Ecutはトーラス起源の反射成分と強くカップリングする。
そこで我々は、吸収の影響をほとんど受けていないSwift/BATス
ペクトルを用いて、「反射成分が全くない場合」と「透過成分に対
して反射成分の強度が2倍の場合」という両極端のケースを考え、
それぞれのモデルにおいてEcutをフリー・パラメータにして、下限
値の推定を行った(Table 2)。これにより6天体中3天体について
は、Ecut > 300 keVという結果を得た。そこで今回の解析では、
Ecut = 300 keVに固定してスペクトル・フィッティングを行った。
スペクトル・フィッティン
グの結果、6天体のいずれも
が強い吸収を受けた「隠され
たAGN」であることがわかっ
た。さらにこれらがR-f scat
平面上において、「散乱成分
(fscat)が0.5%よりも小さく反
射成分(R)が0.8より大きい」
グループとそれ以外のグルー
プに2分されることがわかっ
た(Figure 3)。f scat < 0.5%
Figure 4
というのは、可視光セレクト
の2型AGNの典型値3-10%
(e.g., Turner et al. 1997)
に較べて遙かに小さい。fscat
の値がトーラスの開口角に対
応すると仮定すると、Levenson et al. 2002の数値シミュレーションからトーラスの傾斜角が
求まる。これと視線方向の水素柱密度(NH)とを組み合わせて考える
と、fscat < 0.5%のグループはトーラスが非常に分厚く開口角が極
端に小さい「新タイプAGN」であり、残りのグループは「古典的
AGN」であると考えられる(Figure 4)。
Figure 1 (Gilli et al. 2007)
Figure 3
5. まとめ
Swift/BAT硬X線全天サーベイで見つかったAGNのうち6天体を、今
回我々は「すざく」で追求観測した。「すざく」とSwift/BATのデ
ータを同時にスペクトル・フィッティングすることにより、初めて
精度よく反射成分と散乱成分の強度を決定することができた。その
結果、これら6天体が「トーラスが非常に分厚く開口角が極端に小
さい新タイプAGN」と「古典的AGN」に2分されることがわかった。
現在はサンプル数が6個と小さいため、AGNの種族がこのように2
分されるのか、それとも「新タイプ」と「古典的」の中間型が存在
するのかわからない。サンプル数を増やすことが今後の課題であ
る。
- References Gilli et al. 2007, A&A, 463, 79
Levenson et al. 2002, ApJ, 573, L81
Turner et al. 1997, ApJS, 113, 23