児童の絵に対する言葉掛けの研究I

PF018
教心第 56 回総会(2014)
児童の絵に対する言葉掛けの研究I
-教員養成系大学の学生に対する質問紙調査の分析を基にして-
八桁
健(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科) 萩生田伸子(埼玉大学)
問 題
本研究は,次代の教員となりうる教員養成系大学の学
生が,小学生児童の描いた絵についてどのような感想を
持ち,また教員となった立場を仮定した場合どのような
言葉を児童に掛けるのかについて調査したものである。
将来小学校教員として勤務する可能性のある上記学
生であるが,美術を専攻した学生と他専攻(本研究では
教育心理カウンセリング専修を取り上げる)の学生とで
は,児童への言葉掛けに違いがあるのか。また,評価者
(学生)自身が受けた感想と児童への言葉掛けとの間に
は違いがあるのか。これらの観点について,大学生への
質問紙調査
(
「子どもの描画を評価する観点に関する予備
的研究」
)を統計的に分析し,得られた結果から児童の絵
に対する言葉掛けのあり方をどのように考えてゆくかの
考察に繋げることが本研究の目的である。
方 法
結 果
まず,事物(本調査では児童の絵)の性質や状態を表
す品詞である形容詞・形容動詞に着目して使用頻度を調
べたところ,
「
(評価者)個人としての絵の感想」では全
体で 143 種類もの形容詞・形容動詞が使用されていた。
それに対し,
「児童への言葉掛け」ではその種類が約半分
の 82 種類まで減少し,且つ,限られた僅かな形容詞・
形容動詞のみを複数回使用する傾向が認められた
(Figure 2)
。この複数回使用される語句を調べたところ,
「丁寧」
「元気」
「大きい」
「よい」等のごく当たり障りの
ない語句に集約されていることが明らかになった
(Figure 3)
。なお,美術専修の学生と心理専修の学生と
では,心理専修の学生にその傾向がより強く見られた。
50
美術専修・心理専修全体
個人としての感想
)
出 40
現
回 30
数
20
回
10
(
対象:埼玉大学教育学部(学校教育教員養成課程)学生 90 名
対象者内訳:教科教育コース 美術専修 35 名(学部 2
年;15 名,学部 3 年;16 名,学部 4 年;4 名)
, 教科
総合コース 教育心理カウンセリング専修 55 名(学部 2
年;27 名,学部 4 年;26 名,修士 1 年;2 名)
実施日:2013 年 11 月 21 日~12 月 12 日
手続き:評価者 1 名につき 4 枚の児童の絵を提示し,4
枚それぞれの絵について 3 つの質問項目(Table 1)と回
答欄を設定した。回答方法は全て自由記述とした。
から最低各 1 枚が入るよう考慮した。
分析方法:自由記述内容を電子テキスト化し,
「誤字・
脱字・誤記の修正」
,
「表記の揺れの統一」
,
「内容上一単
語として扱うことが適切と判断される語の辞書登録」等
の処理を行ったのち,テキストマイニングを行った。
児童への言葉掛け
0
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
65
69
73
77
81
85
89
93
97
101
105
109
113
117
121
125
129
133
137
141
○
形容詞・形容動詞の種類(種)
Table 1 質問紙の質問構成
Figure 2 出現した全形容詞・形容動詞の種類と出現回数
質問項目
1.その絵の印象を表現するのにふさわしい語句を出来るだけ
たくさん挙げて下さい.
2.個人的にはその絵をどのように感じるか,あなたのお気持
ちや感想,そう感じた理由などを文章で表現して下さい.
3.仮に学校の先生の立場からその絵の講評をするならば,ど
のような言葉で表現しますか?先生になったつもりになって
文章で表現して下さい.
使用した絵の構成:2012 年度,さいたま市立大久保小
学校と川口市立在家小学校,両校朝の 15 分間の描画活
動の時間に描かれた全校児童の絵の中から,
「運動会の
思い出」
「友だちの顔」
「大きな木」の 3 テーマの絵につ
いて取り上げ,
各テーマ毎に 5 名
(枚)
の絵を選定した。
Figure 1 調査に使用した絵(一部)
選定にあたっては絵画を専門とする大学教授監修の下,
構図・色・描画方法等の発想が特徴的と思われる絵を選
定した。評価者に提示した 4 枚の絵は上記 3 テーマの絵
Figure 3 頻出語句:
「個人としての感想」
(左)と「児童への言葉掛け」
(右)
考 察
評価者自身が児童の絵から受けた感想は,どんな受け
止め方であれ感想としては事実である。仮にネガティブ
に感じるものや,児童に言いにくいと感じる感想であっ
た場合に,教師自身が感じたことを完全に隠し,当たり
障りのない言葉のみで語っていては終始ステレオタイプ
的な言葉掛けに終わってしまうのではないだろうか。今
回の結果を基に,今後児童の心により深く届けられる言
葉掛けのあり方を考え直す必要性がある。実際の学校現
場では,本調査のように絵(作品)のみを見ての言葉掛
けだけではなく,児童一人ひとりの成長と向き合いなが
らその児童により合致した言葉掛けが求められるだろう。
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