5.クレジットカード 1.2003 年度の回顧 ①『銀聯』ブランドの展開 昨年のこの項では 02 年度は中国でのクレジットカード産業の大きな発展を予感させる 1 年であったと書いたが、03 年度はまさしくクレジットカード元年ともいうべき年であった。 02 年 3 月に設立された『中国銀聯(China Union Pay)』は中国で「銀行カード」を発行 する全ての国内金融機関のATM相互開放ネットワークを完成、またショッピング機能を 補完する加盟店カード端末の相互開放を実現した。 これにより、既に 6 億枚発行されていると言われる「銀行カード」の利便性が飛躍的に改 善された。 従来金融機関を跨る相互開放の仕組みが無かった為、「銀行カード」発行銀行は、預金引 出し機能以外にショッピング機能を付与していたが、「銀行カード」保有者は発行銀行が契 約している「銀行カード」加盟店でしかショッピング利用できなかった。そして「銀行カー ド」加盟契約銀行は加盟店から 1%∼2%の手数料を徴収してきたのであったが、『銀聯』設 立による相互開放の実現と共に、国内での「銀行カード」取引は全て『中国銀聯』経由で行 なうように改められた為、手数料収入の一部を『中国銀聯』に支払う仕組みに変更された。 既存の「銀行カード」も含め、今後中国で発行される国内利用の「銀行カード」には、発行銀 行のロゴマークとともに全て『銀聯』ロゴマークの表示が義務つけられている。 消費者は、『中国銀聯』ブランドを拠りどころに「銀行カード」を利用していくことになる 為、「銀行カード」発行銀行は、むしろ本来的なサービス競争に力点が置かれていくものと 思われる。 更に「銀行カード」を保有するのは、平均以上の収入のある沿岸部及び内陸部一部の都市 住民と思われるが、今まで複数枚保有していた「銀行カード」の一枚化が加速され、今後銀 行取引でのリテール部門に於けるメイン化策として銀行カードの推進に更に拍車がかかる ものと思われる。 ②クレジットカード推進気運の高まり 中国発行カードの種類(2003 年 12 月、当社調べ) カード種類 デビット 枚数 5.69 億枚 説明 国内専用 ? ショッピングのできるキャッシュカ 国際 ? ード。預金金額内で利用可能。国際カ ードは外貨預金口座が必要。 準クレジッ 2,500 万枚 国内専用 - ト 申請時に保証人とデポジットが必要 なカード。オーバードラフト枠があ り、預金金額以上に利用が可能。オー バードラフト分は利息課金される。 クレジット 300 万枚 国内専用 140 万枚 申請者の信用状況に応じて与信枠が 与えられる、デポジットの不要なカー 国際 160 万枚 201 ド。国際カードは外貨決済が基本。 約 6 億枚発行されていると言われる「銀行カード」であるが、かなりの「銀行カード」が睡 眠カードになっているのは当地金融機関のカード担当者も認めるところであり、いかに自 行「銀行カード」を活性化=メイン化させるかがこれからの最大の課題である。 しかしながら、現行「銀行カード」は 95%以上がデビット機能しか持ち合わせておらず、 又「銀行カード」加盟店からの手数料収入も 1∼2%と僅かなものであり、カード処理端末導 入コストを考えれば収益的には旨味の少ない商品であると言わざるを得ない。 銀行業務に於ける個人取引メイン化策の最も有効な商品として登場したのがクレジットカ ードである。 クレジットカードの推進は、サービスとして顧客の消費行動に利便性を提供するととも に、口座の活性化を促し、加盟店からもデビットカードに比べ高い手数料収入が見込める ものとなる。更には、利用したクレジットカード代金の返済方法を 1 回払いだけでなく、 分割返済・リボルビング返済等顧客のニーズに合わせた返済方法を提供することによりク レジットカード利用会員から利息収入を受け取ることができるのである。 欧米や日本ではクレジットカードの返済方法が多様化されており、顧客は更に多くの利 便性を享受し、発行銀行は高い収益性を確保できることになる。 中国でも一部金融機関でクレジットカード機能のついた「銀行カード」の発行は、最優良 顧客や自行行員を対象として僅かではあったが進められてきた。80 年代前半、国際ブラン ドカードが相継いで中国市場に参入、当地金融機関との提携により先ず海外で発行された 国際ブランドカードが中国で利用できるよう加盟店作りが開始された。国際ブランドカー ド加盟店の推進は中国政府の外貨獲得政策の有効手段として中国人民銀行の奨励のもと積 極的に進められた。80 年代後半には、大手国有銀行で試験的にクレジットカード機能のつ いた「銀行カード」の発行が開始された。また、同時に預金を担保とした準クレジットカー ドと呼ばれる「銀行カード」の発行も僅かながら行なわれてきた。これらのカードは国内専 用カードであった為、国際ブランドとの提携による「銀行カード」も発行されたが、これら のカードは券面に国際ブランドの表示はあるものの、実際は中国国内でしか利用できない カードであった。 国際ブランドと提携し海外でも利用できる真の国際クレジットカードの発行は 90 年代後 半になってからである。 クレジット(=与信)カード発行の前提条件としては、先ず第一に与信の裏づけとなる 経済的信用性の向上=個人可処分所得の増加である。 90 年代後半からの中国経済発展は、沿岸部住民の可処分所得の飛躍的な増大をもたらした。 ここ数年の一人当たり国民所得を見ると全中国平均ではまだ 1000 米ドルに満たないが、沿 岸部主要都市では既に 5000 米ドルに達しようとしている。 202 『中国情報ハンドブック 03 年版』より 年末総人口 (万人) GDP/人 USD 建て 都市住民 可処分所得 就業者賃金 日本への観光人数 (団体数) 128,453 966 - - 71,179(3,399) 北京市 1,423 3,355 12,464 21,852 15,003(644) 上海市 1,625 4,908 13,250 23,959 9,446(468) 深セン市 504 5,365 24,941 28,087 46,730(2,287) 広州市 721 5,033 13,381 25,104 但し広東省全省 蘇州市 584 4,313 10,617 15,924 - 大連市 558 3,054 8,200 15,525 - 全国 *日本への団体観光客数は 2000 年 9 月から 2003 年 8 月までの総数。 欧米先進国の例から一人当たりのGDPが 5000 米ドルを超えるとクレジットカードが急 速に拡大すると言われており、既にその条件にかなった都市部が急速に増えつつある。 そしてクレジットカード発展のもう一つの条件が、信用リスク回避の為のインフラ整備 =個人信用情報交換制度の普及である。中国では、個人信用情報制度の整備が立ち遅れ、 金融機関は自行が保有する情報のみを拠りどころとしている為、常に信用リスク発生の危 険にさらされていた。住宅ローンや自動車ローンと違い無担保・保証人を不要とするクレ ジットカードでは、どの金融機関も積極的な推進を控えざるを得ない環境であった。 一昨年、上海に中国で初めて個人信用情報機関が設立され、上海にある金融機関は個人信 用情報の報告・登録を義務つけられ、クレジットカード発展の基礎的条件が確立したこと になる。 個人信用情報機関は、今後北京、主要都市で設立が予定され、最終的には全国ネットで 結ばれることになる。 2003 年度はこれらの諸条件が出揃い、クレジットカード発展のインフラがほぼ整った環 境になったと言える。 (2)2004 年度の展望 昨年 12 月、人民銀行並びに中国銀行業監督管理委員会(銀監会)は「銀行カード」業務に 関し次々と新施策を発表した。 先ず、香港での人民元業務の開放に伴い、中国で発行された「銀行カード」が香港で利用 でき、人民元でも決済させる政策を発表した。香港で『中国銀聯』の加盟店を展開し、既 に中国国内で発行されている『中国銀聯』マーク付きのカードがそのまま香港で利用でき るようになった。 更に、今まで中国国内の利用でも外貨でしか決済できなかった国際クレジットカードに、 国内利用分は人民元決済できるダブル通貨決済カードの発行を認可した。 今年に入り、銀監会は上海のシティBKと上海浦東発展銀行の提携による国際クレジット カードの発行を認可、外資金融機関で初めてクレジットカード発行が実現した。 国有 4 大銀行や大手株式制商業銀行は、今年度中のダブル通貨決済クレジットカード発 行を目指しており、リテール部門での激しい争奪戦が繰り広げられるものと思われる。 203
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