景観設計における模型とCGの活用方法について

景観設計における模型とCGの活用方法について
環境システム工学科
毛利
洋子
模型やCGなどの表現媒体は、景観設計を行っていく上で欠かせない道具である。現在はプ
レゼンテーションで主に利用されている。しかし、これらの媒体は、景観設計を進めていく過
程で、構造物の形を発想し定着していく思考・検討の道具としても有効に活用されるべきだと
考えられる。そこで、本研究は、一般に利用されている表現媒体の特徴の整理を行い、形の発
想から実現可能な構造物へ具体化する過程で、それらの媒体がどのように活用されるべきか明
らかにしたものである。また、橋の景観設計における外形の検討で模型とCGの活用の流れを
示し、具体例として実際に模型とCGを用いてデザイン検討を行っている。
1.はじめに
景観設計では各計画地域での計画コンセプト、
地形、地域文化、
環境などに対応するデザインが必要となり、
豊かな発想が求められる。それぞれの技術者が思い描く構造物の形を視覚化し、検討を重ね、より洗練され
た形にしていくには模型やCGなどの表現媒体の活用が必要になる。しかし、現在では、模型やCGなどの
表現媒体は、プレゼンテーションで主に利用されていて、形を発想し定着していく思考・検討のための道具
1)として有効に活用されているとは言い難い状況である。
こうした状況の背景には、表現媒体の特徴が整理されないまま利用されていることが挙げられる。その為、
各表現媒体の特徴が生かされずに利用され、模型やCGを利用することが景観設計を行うこと、と結果的に
捉えられてしまう要因になっているとも考えられる。
土木構造物として、デザインし決定していく場合は数人のチームで検討することが多い。議論をしながら検
討を進め、立体的な把握を行うには模型やCGでの表現が適していると考えられる。そこで、本研究では、
模型とCGを同範囲で作成する作業を通して、一般的に利用されている表現媒体の特徴を「使う」という立
場から整理し、それぞれの活用についてまとめる。また、山里に架かる高架橋を対象とし、橋の景観設計で
の表現媒体の活用方法を整理する。さらに、対象としている高架橋でデザイン検討を行い、模型とCGを活
用した具体例をあげ、各表現媒体の活用が思考・検討の道具として有効であることを示し、多彩なデザイン
の発想につながることを示したい。
2.表現媒体の整理
2-1 表現媒体の種類
一般に、形を表現し伝える方法(媒体)として、スケッチ、図面、透視図、アクソノメトリック、アイソメ
トリック、模型、コンピューターグラフィックス(CG)、CGの一種であるフォトモンタージュ、CADが
挙げられる。これらの一般的な特性をまとめた 2),3)。
「図面」は、物体の特徴を平面、立体、断面といった基面ごとに定量的・平面的に表現し伝える。
「透視図」は、遠くの物が小さく見える集中性を表現し、
図面にはない奥行きの手がかりを具体的に伝える。
1
また、視点の位置をほぼ無制限に選択できるため、見たい視点から描き表現することができる。
「アクソノメトリック」は、平面、立面、断面が一緒にすばやく描ける三次元的表現である。立面を立体的
に生かしたもので、結果としてできる像の水平面は大きさ、縮尺ともに変わらない。
「アイソメトリック」は、平面が傾けられて奥行きが縮小して見られる3次元的表現である。透視図よりも
全体の表面部分を多く表わし、小さな図の中に平面や形についての複雑なディテールを多量に盛り込むのに
有効である。
「模型」は、主に発砲材や粘土によって作成される。材料の切れ端の様な明確な形をなさないものもから、
追加加工が可能な状態、比較したい部分の取り替えが可能な状態の検討模型(スタディ模型)
、完成した計画・
デザインを表現し伝える、展示用模型などがある。
「コンピューターグラフィックス(CG)
」は、「CAD」のように図面から透視図へ、また、透視図から図
面への変換が可能であり、設計変更を容易に行うことができる。色、形、配置を自由に変更でき、同じ画層
データを色々な段階や目的に応じて何度も利用することができる。「フォトモンタージュ」は、カメラで撮影
した写真上に描画したものであり、精密に描けば臨場感溢れるものになる。
このように、現在、一般的に利用されている表現媒体の特徴を簡単に挙げた。本研究においては、正面、側
面、平面を基面とした 2 次元的表現を図面、紙面に描かれ3次元的表現ができる透視図、アクソノメトリッ
ク、アイソメトリックを含めてスケッチとし、フォトモンタージュとCADを含めてCG、材料の種類や精
度を問わず模型の4つに分類する。
図面6)
スケッチ5)
CG7)
模型6)
図1
表現媒体
2
2-2 表現媒体の性格付け
前節で分類したスケッチ、模型、CG、図面の4つの表現媒体について、景観設計で構造物の形をデザイ
ンする時にこれらの媒体を利用するという立場から、その特徴を整理する。これらの特徴を実際につかむた
めに、模型とCGを作成した。
模型と CG の作成と参考資料1),3),4)より考えられる4つの表現媒体の特徴を以下に示す。
【スケッチ】手軽に表現できるため、頭の中で浮遊する形のアイディアを留め、視覚化したい場合に適す
る。その人自身が理解できる程度の抽象的な表現となるが、描くことによって自分のイメージを即座に目で
確かめながら面的に具体化できる。一方で抽象的であるため、イメージの伝達・検討を行うには、状況を十
分に把握している人たちである必要がある。
【模型】頭の中にある形のイメージを立体的に確かめながら具体化することができるので、求めている形か
どうか確認できる。手先を使うこと、あるいは材質によって、意外な形が生み出される可能性をもち、素材
の暖かみなど経験的・感覚的な事を表現できる。スケールが一定であるため、連続性によるバランスや、接
合部分や付属品の納まりをみる場合に、立体的・現実的把握ができた上で比較・検討できる。検討模型は比
較したい部分だけが取り外し可能な状態であるが、形の修正・変形を行う場合は新たに作成することとなり、
作業時間を要する。完成模型は客観性が高く、添景を加えることにより実物に近い形の印象とスケール感の
伝達が可能と考えられる。色彩検討は修正ができないため苦手となる。
【CG】寸法の与えられた形をスクリーン上で立体的に表現できるが面的である。視点が任意に設定でき
る為、様々な角度からの見え方をチェックできるが、視覚に訴えるだけであり経験的・感覚的なことを伝え
ることはできない。操作性が高く、材質に左右されることもない為、与えられた形の曲線的な変形が可能で、
修正、変更、形の組み合わせ方、配置によるバランスなどの微調整が簡単にできる。縮尺を変えながらの比
較・検討も容易である。また、建設前後での周辺景観の変化をストックでき、周辺景観に対する影響の認識
につながる。色彩・光などにより現実に近い写真的な表現、または写真との合成により仮想空間を演出し雰
囲気を伝えることはできるが、構造物としての立体感やスケール感は伝わりづらい。
【図面】詳細の寸法まで正確に構造物の数値情報を伝えるので、正面、側面、平面の基面に現われる形の特
徴を定量的に検討・把握できる。立体的な把握は平面からの想像に頼る。
2-3 活用の場と表現媒体
前節でまとめた4つの表現媒体の特徴を考えると、それぞれに適する活用の場があると考えられる。形を
確立するまでには、発想したアイディアを表現し検討を加えていく過程8)−10)がある。その過程で4つの
表現媒体が最も適していると考えられる活用の場を、それぞれの特徴をもとに図式化した(図2)
。
縦軸は形が確立していく発想・試行・修正・定着の流れに着目している。横軸はデザインが具体化される
に従い表現する相手(対象)が変わることに着目しており、発想した自分自身(私)への視覚化から、デザ
インチーム(中心)での検討、第三者(公)への伝達と変化し、時間的には「私」から「公」に向かって流
れる。この2つの軸によって位置付けられる場と4つの表現媒体について整理していく。
まず、縦軸である発想・試行・修正・定着の段階を踏み、形が確立していく過程について、4つの表現媒
体の適性を考える。この縦の流れは大きく二つに分かれる。一つ目は、頭の中に浮遊する無形なものから視
覚化し有形なものにする、発想から試行の段階である。二つ目は、さらに有形にしたことで思い描いていた
形との印象の違いを修正し、実現可能なものにするために変形させ確立していく、修正から定着の段階であ
る。つまり図2で発想側と定着側では必要とする表現媒体の質が異なると考えられる。発想側での表現媒体
は、形を創出し表現することに適したものであり、視覚化・立体化することで、個人が頭の中に描くイメー
ジを留めるための表現媒体である。より手軽に表現でき、経験的・感覚的なイメージも反映しやすいものが
よいため、主にスケッチや模型が適しているということになる。一方、定着側では、既に存在する基本とな
3
る形(創出した形)を、その計画対象地の地形・文化、
発想
または計画コンセプトから得られるデザインコンセプ
トに適した形になる様に手を加え、実現可能な形へと
検討を繰り返し変形・修正するための媒体となる。そ
スケッチ
の為、操作性がよく、変化の跡をストックしやすい媒
体となり、主にCGや図面となる。
次に、横軸である表現する対象(相手)の変化について
模型
4つの表現媒体を見てみると、
大きく3つに分かれる。
形のデザインプロセスを時間的に追って説明する。ま
私
公
ず、自分自身に対して視覚化する「私」に近い表現は、
自分以外の人が理解する必要もないので、主観的で抽
CG
象的な表現となる。よってスケッチ、模型が主に適し
た表現媒体である。さらに、デザインチームで案を出
図面
し合い検討を行う段階では、計画の設定・条件などが
把握できている人たちに伝わる程度の具体性、客観性
が必要となる。また、議論しながら適した形を検討し
定着
ていくため、対象である構造物だけでなく、周辺景観
とのバランスの認識、立体的な把握、比較・検討しや
図2
表現媒体の特徴
すい操作性のよさも必要となり、模型やCGがより適
している。さらに「公」に近づくと、形が確立されて、第三者へ形の定量的な情報を正確に伝達し、設計前
後の変化を把握するためにも、CGや図面が適していると考えられる。
このように、表現媒体の特徴により活用の場にはズレが生じ、それぞれが他の代用にはならないことを示し
ている。図2において、デザインプロセスとしては上から下へ、左から右へ流れていく為、表現媒体の流れ
としては左上から右下へ流れていくと言うことがいえる。
3.橋梁の景観設計での表現媒体の活用
3-1 橋梁における景観設計
これまで、形単体のデザインプロセスにおいて表現媒体の活用を整理してきたが、ここで橋梁の景観設計で
の表現媒体の活用について考える。 橋梁の景観設計で考慮されること11)として、空間的要因(可視量、見
られる頻度、視点)
、形態的要因(プロポーションや橋の形に表現されるシンボリック・力強さ・繊細さなど)、
感覚的要因(見る人に与える安定感や調和感)、また、周辺環境と調和しているか、橋そのものの形が意味を
持ち美しいか、などが挙げられる。橋梁の外形は、このような要因からデザインが異なり、大きく分けると
目立たせるか、馴染ませるか、ということである。目立たせる場合は、都市内などでのランドマーク性の高
い場合であり、日本の複雑な地形に、構造物や人工地形が入り組んだ風景の中では、圧倒的に馴染ませる場
合が多い。そこで本研究では、日本で一般的によく見られる、景観に馴染む橋梁のデザインが求められる景
観設計での表現媒体の活用に着目する。
対象として大分県の山間部に計画中のO高架橋を選んだ。ここは日本の典型的・伝統的な景観といえる、
山間部の起伏に富んだ自然地形と、その谷間を縫うようにつくられた棚田による田園風景から構成されてい
る。この計画地は道路計画全体で見ても特に典型的・伝統的な山里の田園風景が見られ、視点場となる道路
に対しても前景に川が横断し、適度な距離を確保していることから良好なまとまりのある景観を提供してい
る。このように景観要素を多く含み、日本で多く見られる場所であること、また自然地形、人工地形、構造
物と多くの要素を含んでいることが対象とした理由である。
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また本研究では形を確立する過程での検討に着目しているため、橋梁の景観設計の中でも、外形のデザイ
。
ン過程で、各表現媒体を有効に活用する流れを示した(図 3-112)−16))
3-2 橋梁デザインでの活用
橋梁デザインでは全体の外形から各部分へと形の検討が行われる。図 3-1 でその各段階を点線枠で示し、全
体から細部へ流れていく様子を示している。また、点線枠の中ではその段階で着目している形に対する検討
を行う際、活用する表現媒体の流れを示している。特に模型とCGは、お互いを繰り返し、比較・検討作業
に活用していることを示している。 図 3-1 の流れに沿って説明する。
「現状の把握」まず、現地調査を行う。計画地を訪れることによって視点場の確認、スケールの確認、地域
「現状の把握」
特性の把握を行い、デザインコンセプトづくりからモチーフの検索につなげる。地域特性11)とは、自然特性
(機構、地形、環境)
・社会特性(土地利用、人口・産業・気質、歴史・文化・風土、関連整備計画、関連法
規)・市場特性(大都市への関連・交通手段・周辺環境との関連)・景観特性(景観、眺望)などがある。こ
こでは特に自然特性、社会特性、景観特性について考慮する必要があり、一方で現地での印象も大切である。
さらに地形の特徴を認識し、視点場からの見え方などを把握するために、周辺模型(1/1000~1/500 程度)を
作成する。
「構造形式の検討」次に、橋梁の形式の検討を行う。構造形式は周辺景観との調和を考慮する必要があり、
「構造形式の検討」
周辺と橋全体とのバランス、橋全体の形状に着目する。計画地の周辺景観に適すると考えられる形を挿入(試
行)することによって、さらに違うバリエーションを考え検討する。対象地の景観や地域特性を考慮し、思
い描く形式を視覚化することから始まるため、抽象的になり、手軽に表現できる方がよい。そこでスケッチ
が主な表現媒体となる。スケッチによって様々な形式を挙げ、多少、案を絞り込み、検討を進めると立体的
な把握を行う必要から、模型を活用する。スケッチで良いと思っていても、立体的な模型にすると様々な角
度から見たり触れたりすることが可能になり、違った印象を受けることも多い。また模型を作成する過程で
周辺模型の中に材料の切れ端のような物を置くことが、新たな発想を生むこともある。このような印象の違
いや新たな発想が主な検討課題となり、より洗練された形にするために、修正・比較・検討を行うことにな
る。その際、様々な視点で見ることができる上に、操作性も良く、案をストックしやすい方がよいので、C
Gの活用が考えられる。再び模型にして立体的に形を把握して、模型とCGを繰り返し活用しながら、立体
的な把握を確実なものにし、実現可能な形にしていく。さらに、そのような検討から発想を得たりするので、
違う案についても同じ様に検討を繰り返していくことから、図 3-1 における枠の中のような表現媒体の流れ
となる。
「決定した構造形式での検討」ここでは、構造物である橋梁全体の形状と各部材に着目する。数案に絞り込
「決定した構造形式での検討」
まれた形式で、桁側面、脚、橋台など構造物単体の全体的なバランスを検討する。形を模索するというより
橋全体のバランスを把握することが主な検討項目となるため、立体的な認識とスケール感が必要となる。よ
って全体模型(1/100∼1/200 程度)で検討する。また、他の周辺模型や部分模型、CGと見比べて検討する。
「構成要素の形状を検討」各部材と橋梁全体に着目する。部材(橋脚)の形をデザインし、橋脚・桁側面の
「構成要素の形状を検討」
形状や接合部の納まりも確認しながら検討する。橋脚の形は、まず発想した形のスケッチや簡単な模型を用
いて検討する。さらに、桁と橋脚の納まりや接合部分の形状を検討するには立体的な把握が不可欠であるた
め、部分模型(1/50~1/20)を用いて検討する。構造形式の場合と同様に立体的にすることによってスケッチ
で描いていた印象との違いが生じ、それが検討課題となる。その検討課題によって、変形・修正していくた
めにCGを用いる。そうすることが、違ったデザインを考えることにつながり、新たな形を模型におこして
模型とCGでの検討を繰り返しながら検討を進めていく。
橋梁のデザインは、さらに詳細部分のデザイン検討へと移っていくが、外形のデザインとしては、この段階
までが主な検討となる。
5
現状の把握
<地形・地域文化・計画コンセプト>
現地調査
周辺模型
・地形・地域の特徴を認識
・視点場の確認とスケールの把握
デザインモチーフの抽出
∼1/500∼
構造形式の検討
周辺と構造物の
スケッチ
<周辺と構造物・構造物の外形>
別案へ
・形式を周辺景観に挿入し適当な形を検討
・立体的に周囲とのバランスを検討
・部材の配置などの形状を検討・修正し
ながら絞り込む
CG
周辺と橋梁模型
∼1/500∼
<構造物全体の形状と各部材>
決定した形式で形状を検討
・桁側面、脚、橋台など構造物単体の全
体的なバランスを検討
・部分模型と見比べることでイメージが
深まる
橋梁全体模型
1/100~1/200
構成要素の形状を検討
<各部材の形状・構造物全体の中での納まり>
スケッチ
・脚・桁側面や接合部の形状の納まりを確認
しながら検討
・スケッチから模型におこしイメージとの
違いを修正しつつ検討
・他の案と比較・検討しながら決定していく
別案へ
部分模型
CG
1/50~1/20
図 3-1
橋梁のデザインプロセス
6
3-3 橋梁のデザインでの表現媒体の流れ
橋梁のデザインプロセスにおける表現媒体の活用について検討してきたことで、図 3-1 のように各段階で表
現媒体の活用の流れが、スケッチから模型、CGへと流れていくことが明らかになった。検討の過程につい
てまとめているため、図 3-1 の様になるが、検討の結果、絞り込まれた案は図面として残されていく。これ
は 2-3 節の終わりで示した図2で、
表現媒体の活用の流れが左上から右下へ流れていくことと一致している。
つまり、構造物(橋梁)が一つの形となるまでには、そのプロセスの各段階で表現媒体の活用の流れが渦を
巻くように存在し、プロセス全体を見るとスパイラル状に活用されながら形を確立していくことになる(図
3-2)
。 図2のように各表現媒体の活用の場がすべて重なることなく、各表現媒体が他では代用できない特徴
を持っていることが、このような流れを導いている。
時間軸
現地調査
CG
スケッチ
模型
A案
構造形式の決定
A’ 案
A”案
構成要素の
形状を検討
図 3-2
表現媒体の活用
7
4.ケーススタディ
4.ケーススタディ
4-1 対象
これまでに各表現媒体の特徴の整理、橋梁の景観設計での活用を示してきた。ここでは、各表現媒体が思考・
検討の道具として活用されることを示し、多彩なデザインに役立つことを示す。 本研究では形の発想から確
立する検討過程での表現媒体の活用に着目している。対象としているO高架橋について3章で示した図 3-1
に従い景観設計でのデザイン検討を行い、模型とCGの活用を具体的にあげる。デザイン検討は5,6人の
チームとして行った。
O 高架橋は橋長 154mの中規模橋で有効幅員は 9.5m、桁高が約 24m。曲率半径が 600m で緩やかにカーブ
を描く、自動車専用道路の高架橋である。地質条件は特に悪条件はなく、スパン割の自由度も高い。
4-2 考慮すべき要素
O高架橋における景観設計で考慮すべき要素として、規範性、眺め、バランス、透過性、水平性、奥行き、
ディテールが挙げられている。「規範性」は、この道路計画全体でみてキーランドスケープを目指す必要性。
「眺め」は、視点場である道路から見た景観に対する考慮。「バランス」は一体的に眺められることから全体
のバランスに配慮。「透過性」は、対象地における橋梁はあくまで脇役であり、現況の風景を新たに見直すた
めのアクセントであることから、透過性の高い構造物を目指すこと。
「水平性」は現況の景観に、建設によっ
て一本の水平線が引かれることでアクセントとなるため、水平性を強調した表現にすること。「奥行き感」は、
棚田による奥行きのある景観が存在するため、新しい構造物の水平性に対しこの奥行き感を阻害せず新旧の
コントラストにより魅力を引き出す必要があること。よって特に橋脚の配置及び形状に留意する。「ディテー
ル」としては、地域の生活者から最も良く眺められるため構造物のテクスチャーや配水管処理などが重要と
なることである。このようなことを考慮しながらデザイン検討を試みた。
図 4.1-1 模型
図 4.1-2
CG
4-3 構造形式の検討
構造形式の検討の前に行う「現状の把握」の段階では、まず現地調査となり、実際に数人で現地を訪れた。
その後、周辺模型(1/400)を作成し、さらに同範囲で CG も作成した(図 4.1)。CG 製作用のソフトウエア
は Auto desk 社製3D studio MAX release3.0 である。
8
「構造形式の検討」では透過性、奥行き感、バランス
などが主に考慮される。これらの考慮すべき要素と馴
染ませるという前提を考えながら、周辺地形を含めた
スケッチを描くことで、アーチや斜帳橋などの様々な
形式の中から桁橋に絞られた。また、橋長を考えると
3スパンか4スパンとなり、橋脚の配置の自由度が高
いことも考えケッチにより外形の検討を行う。
スパン割とそのバランスと共に桁の検討も可能で
あるため、同時に桁の側面形状についても検討する。
その結果、桁の形状が、等断面の3スパンと4スパン、
変断面の3スパンについて立体的な把握を行った。
図 4-2.1
等断面 4スパン
桁の形状の検討は、その側面形状によるライン・陰
影、橋脚の配置とのバランスは、遠景を主として検討
するため、模型を周りから見ることにより把握できる
(写真 4-3)。一方、アイレベルから桁下付近での桁、
橋脚の形状を把握する場合は模型の内側に視点を落
とす必要がある。よって、この場合は任意な視点移動、
設定が容易な CG を活用した(図 4-2)
。
橋脚の配置やスパン割についての検討は、周辺景観
とのバランス、橋全体でのバランス、奥行き感などの
立体的な把握が必要になる為、模型を活用する。また、
操作性の高い CG を用いることで、グランドレベルに
関係なく橋脚の移動、配置が可能で、微調整や橋脚を
図 4-2.2
等断面 3スパン
傾けたまま固定することもできる。このように、模型
では思いつきにくい検討、作業を要する検討も簡単に
行うことができ、模型と CG の両方を活用することが
幅広い検討につながった。
模型とCGを活用しながら見え方を確認し、考慮す
べき要素に基づき、適する形式を検討する。景色の見
え方としては橋の桁と脚がフレームの様な役割をす
ることになり、4スパンではその田園風景の奥行きを
遮ることになる。よって3スパンである方がこの場所
には適すると考えられた。また、控えめながらも、ア
クセントとなるデザインを求めていること、新旧のコ
図 4-2.3
変断面 3スパン
ントラストによって魅力を引き出すことを考慮する
と、変断面3スパンの形式が最適であると考えられる。
この様に、更に洗練された案の発想に繋がる、図3での「別案へ」の方向には進まず、この段階での検討
は立体化した 3 つの案について比較・検討により適する形を選ぶに留まった。
次の段階である「決定した形式で形状の検討」については、今回の対象が桁橋で複雑な形ではないことか
ら周辺模型でも表現できるため、検討の必要はないと考えられ、次の段階へ進むことにした。
検討の結果、変断面の3スパンが最適となった訳だが、経済性の理由から、実際には等断面の4スパンで
計画が進行している。そこで、次の段階である橋脚のデザインは等断面4スパンで行う。
9
写真 4-3.1
写真 4-3.2
写真 4-3.3
等断面 4スパン
等断面 3スパン
変断面 3スパン
10
写真 4-4.1 角柱からの変形
写真 4-4.2
(P1)
円柱からの変形
(P2)
4-4 構成要素の検討
「構成要素の形状を検討」の段階は、ここでは橋
脚の検討である。4-2 節で述べた考慮すべき要素と
共に、接続する桁との納まり具合を考えながら形の
検討を行う。今回は橋脚の形として角柱、円柱、板
の形からの変形にヒントを得て、スケッチによって
形を桁に当てはめた(試行)。その中でも、考えられ
る形について、立体的な形の印象と桁との納まり、
スケール感の把握のため、模型(1/50)を作成した。
現在、採用されることが多いT型橋脚(P3)を含
めて、写真 4-4 に示す。
P1は、シャープなラインが桁・橋脚ともに統一
図 4-3 T型橋脚
され納まりが良い。また、そのシャープな美しさが
(P3)
水平性を邪魔せず、透過性や奥行き感を感じさせそ
うである。一方で生活者の視点である近い距離では
量感から圧迫感を受けることが考えられた。
P2は、側面に角がないためソフトな印象を与え、
地上に近いほど側面が細くなっていることもあり
圧迫感や量感はあまり感じられない。桁とのバラン
スは、桁のシャープさと相反する丸みによって逆に
水平性を引き立てていると考えられ、納まりは良い
写真 4-4.3 T型橋脚
と思われる。
(P3)
P3は、下から見上げた時の視線の滑らかな誘導
が妨げられ、接合部分が煩雑となり納まりが悪い。
それによって水平性も妨げられる。
11
さらに、橋脚全体で脚が並んだ時のバランスと周辺景観との調和を検討する必要がある。よって、スケール
が無く、視点移動が自由にできるCGを活用し、さらに検討を行った。(図 4-5)
図 4-5.1
P1
図 4-5.2
P2
図 4-5.3
12
P3
CG での検討でも、やはり P1 の量感が感じられた。
直線的なシャープな美しさも、周囲の景観のなかに置
くと硬さを感じさせる。P2 については側面の丸みによ
って透過性、奥行き感ともに良いと思われる。また周
囲の景観にも馴染んでおり、水平性も引き立つことが
わかる。P3 は、煩雑な接合部分に目がいき、水平性が
引き立っていないことがわかる。
このような検討から、P1 について手を加え量感を抑
えることで、さらに適する形にできないか、検討を行
った。そこで、垂直方向のラインの分節で水平方向に
絞ることを考え、ラインの美しさを保ちながら、量感
を抑えたバランスのよい形を目指した。絞る位置を検
討しながらスケッチし、スケッチしながら考えること
で形が定まってきた。その結果、立体的に把握するた
めに模型(P4)を作成した(写真 4-6)。さらに、全体的
なバランスや周辺景観との調和などを検討するため、
CG も作成した。
(図 4-7)
以上のように検討を進めてきたが、スケッチ、模型、
写真 4-6
CG と活用し、検討を進めることで、さらに別案が生ま
模型 P4
れた。この様に、表現媒体の活用の流れが、図 3-1 の
様に繰り返されることが示せた。
図 4-7
CG
13
P4
5.終わりに
本研究では、景観設計における模型とCGなどの表現媒体に着目し、形の発想から現実可能な形へ導く過程
での有効的な活用方法について検討した。
まず、2章において、景観設計として構造物をデザインする時に、表現媒体を思考・検討の道具として活用
する立場から、スケッチ、模型、CG、図面の4つに分類し、それぞれの特徴をまとめた。それぞれの特徴
を整理したことで、適する活用の場がある事を明らかにすることができた。形の発想や創出に至るまでの「き
っかけ」を与える表現媒体としてはスケッチや模型が適し、創出された形をより洗練し、実現可能な形へ導
き、第三者へ伝達するにはCGや図面の活用が有効であることがわかった。つまり、デザインプロセスでは
表現媒体をスケッチ、模型、CG、図面という一つの流れで活用することが有効であることを図式化によっ
て示した。また、数人のチームでの検討では模型やCGの活用が有効であることも明らかになった。このよ
うに、それぞれの表現媒体が、他にとって変われない特徴を持ち得ることを示したことから、使い分けが必
要であることがいえる。
3章では、橋梁の景観設計で各表現媒体の活用方法を示した。外形の検討での活用方法を示すことによって、
2章で明らかにした表現媒体の活用の流れが、各段階で繰り返される様子をフロー図(図 3-1)によって明らか
にした。構造物が一つの形になるまでの過程では、各表現媒体の活用の流れが繰り返され、形が確立されて
行くことから、プロセス全体で見るとスパイラル状に進行していく(図 3-2)。
4章では、実際に模型とCGを橋梁のデザイン検討過程で活用した例を示した。表現媒体を思考・検討の道
具として活用することで広がったデザイン例を示している。
本研究では、各表現媒体の異なる特徴によって、それぞれに適する活用の場があることを明らかにした。ま
た具体的に橋梁のデザイン検討で模型・CGを活用したことで、使い分けることの必要性、思考・検討の道
具としての有効性を示した。
現在ではCGによる仮想空間だけでの意匠の表現、設計も可能となっている。特に3次元曲線による表現
はCGが得意とし、建築分野では曲線的な建築物が建設され今後の新しい形となっていく。しかし、CGで
の表現は形の発想を視覚的に伝えることが主であり、スケール感、立体感の把握や経験的、感覚的なことの
反映が難しい仮想空間だけのデザインである。本研究では、手作業である模型の活用がより実体験から得ら
れる経験による感覚、感性を表現でき、立体的な把握に適した媒体であると述べた。CGと共に使い分け、
活用することが仮想空間と現実とをつなげることでもある。その検討を行った上で形を決定する重要性を示
すことにもつながることを期待する。
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<謝辞>
本研究を進めるにあたり、終始適切な御助言、御指導を頂きました小林一郎教授に深く感謝申し上げます。
また、広く御指導頂きました星野裕司助手にも、心から感謝の意を表すると共に厚く御礼申し上げます。そ
して、CG の作成にあたり、貴重な時間を割き、ご指導頂きました難波正幸さん、緒方正剛さんをはじめ、施
設設計工学研究室の方々にも感謝の意を表します。また、共に模型を作成し、様々な面でお世話になった同
輩にも深く感謝申し上げます。最後に、離れたところから支えていただいた両親に心から感謝の意を表し、
本論文の結びと致します。
平成 13 年 2 月 7 日
<参考文献>
(1) 杉山 和雄:思考の道具としての表示技術(1)
、橋梁と基礎. No9. Vol30.1996.
(2)トム・ポーター、スウ・グットマン:建築プレゼンテーション・マニュアル4
集文者
(3)小栗 ひとみ:コンピュータグラフィック技術、橋梁と基礎. pp64~67 No8. Vol29.1995.
(4)中野 忠明、金光 弘志、中井 祐:パース・模型、橋梁と基礎 pp68~pp71 No8. Vol29.1995.
(5)レンゾ・ピアノ:航海日誌、TOTO 出版
(6)景観デザイン研究会 編:景観デザインレポート「Pia ・Do」
、街路モニュメント、茂原 豊田川
(7)都市・公共土木のプレゼンテーション:小谷通泰、土橋正彦、中山英生、吉川耕司
、榊原和彦編
著
(8)畑村陽太郎:設計の方法論、岩波書店
(9)田中央:デザイン論、岩波書店
(10)E.S.ファーガソン:技術屋の心眼、平凡社
(11)篠原 修、鋼橋技術研究会(編)
:橋の景観デザインを考える、技報堂出版
(12)高木 千太郎:丸子橋、橋梁と基礎. No8 Vol29.1995.
(13)塩入淑史、関文夫、野村孝芳、山崎紀産:廿六木大橋、大滝大橋の景観設計・意匠設計、
橋梁と基礎. pp2~7 No4. Vol33. 1999
(14)森山彰:西瀬戸自動車道の景観設計、3新尾道大橋の景観設計、橋梁と基礎. pp8~10 No5.Vol33 1999
(15)山田憲彦、山田一夫、大橋隆樹:天王洲ふれあい橋の設計施工、2橋梁デザインコンセプト
橋梁と基礎.pp10~13 No3. Vol31.1997
(16)山田憲彦:東京アクアラインの景観検討、橋梁と基礎. pp21~24 No12. Vol31.1997
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