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欧州の銀行に変革強いる低金利環境
スティーブ・ハッシー
2016年8月8日
アライアンス・バーンスタイン・リミテッド
金融機関クレジット・リサーチ責任者
欧州中央銀行(ECB)の政策は欧州の銀行の伝統的な
ビジネスモデルに挑戦状を投げつけている。これは欧
州の銀行業界に抜本的な変革を強いるものとなるのだ
ろうか? そうだとすれば、それを機に発展する銀行と
衰退する銀行に二極分化することになるのだろうか?
欧州の銀行は貸出需要低迷、激しい競争、規制コスト
上昇などに苦しんできたが、ECBの政策がさらなる打撃
となり、利益率が一段と圧縮されている。
それに加え、英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を
決定したことで、状況はさらに悪化する可能性がある。
ECBの政策で低金利が長期化するとみられるほか、過
去に経験したことがないほど収益拡大が難しい市場環
境になる見通しであるからだ。
金利が一段と低下するのに伴い、欧州の銀行は融資か
ら得られる利益が減少している。しかも、ECBに余剰資
金を預ける際の金利がゼロ%を大幅に割り込んでいる
ため、準備預金を積み上げれば金利を支払う状況に
なっている。
今のところ、銀行はマイナス金利に伴うコストを消費者
に転嫁することには消極的で、そのコストをほとんど自
分たちでかぶっている。しかし、個人から多額の預金を
集めている銀行は、いずれ預金コストを吸収できなくな
る限界点に到達するものと思われる。
小手先の対応で大丈夫か?
一部の銀行は、金利がさらに低下しても、これ以上の貸
出金利引き下げは見送る可能性がある。そして、いずれ
は金利引き上げに踏み切る動きが生まれるかもしれな
い。実際、スイスやデンマークではすでにそうした動きが
現れている。
銀行はまた、無料で提供してきた当座預金口座など、長
年リテール業務の中核と考えられてきたサービスに対
して手数料の徴収に乗り出す可能性もある。しかし、欧
州の銀行業界には競合先がひしめいている上、テクノ
ロジーを駆使した新興勢力や「チャレンジャー」バンクと
いった新規業者が市場に参入しているため、競争が激
化している。それは、伝統的な銀行にとって、標準的な
商品やサービスのコストを引き上げる余地が限られて
いることを意味している。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
https://blog.abglobal.com/post/en/2016/06/european-banks-respond-to-pressures-at-the-margin
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解と
は限りません。本文中で言及した資産クラスの過去のパフォーマンスは将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2016年7月6日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が
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しかも、銀行は融資拡大を通じて利益率を押し上げる
余地もあまりない。欧州では融資の伸びが低迷している
上、住宅ローンなど利ざやの少ない貸出に偏っている
からだ。
こうした事実はいずれも、小手先の対応では欧州の銀
行の利益を支えることはできないことを示している。銀
行の顧客も超低金利に苦しみ、銀行との付き合い方を
変え始めている状況においては、なおのことである。
預金者は、銀行に長期間資金を預けておいても受け取
れる利子が少なくなったため、すぐにアクセスできる口
座に切り替える人が増えそうだ。一方、ローンを抱えて
いる人々は低水準で金利を固定しようとする可能性が
ある。こうした傾向は銀行にとって、高い収益を生む資
産が徐々に蝕まれ、収益性がさらに落ち込むリスクを意
味している。
それとも大胆な変革が必要か?
これは、銀行が生き残りたければ伝統的なビジネスモ
デルを大胆に変える必要があることを示している。それ
には、たとえば預金口座から、投資信託や年金商品な
どの高利回り商品に顧客を誘導することが含まれるか
もしれない。
そうすれば、銀行は顧客と長期的な関係を強めることが
でき、その結果さらに様々な商品を販売することもでき
るほか、バランスシートを使わずに済むビジネスで手数
料を得ることも可能になる。
充実した投信商品のプラットフォームを構築している銀
行は、手数料を得られる貯蓄商品や年金関連商品に
重点を置く上でとりわけ有利な立場にある。規模の小さ
な銀行が手数料ビジネスを拡大するには、おそらく大
手銀行との提携などを通じて、遠回りの道を辿らざるを
得ないかもしれない。
銀行が最も大きく変わるのはどの領域か?
欧州の銀行の顧客は様々なグループに分けられる。貯
蓄行動や資産の保全方法の選び方に大きな相違があ
ることは、銀行セクターの変革が及ぼす影響が一部の
国では他国と比べ大きいであろうことを意味する。
ドイツ人は貯蓄を好む傾向があり、他のユーロ圏主要
国に比べ、国民の純資産に占める預金の割合が高い。
オランダの消費者は年金資産を重視する傾向があり、
例えば純資産の80%近くを住宅が占めるスペインの消
費者などと比べ、純資産に占める非金融資産(住宅な
ど)の比率は低い。
そのことは、ドイツとオランダの消費者がスペイン、イタリ
ア、フランスなどの消費者と比べ、金利変動の影響にさ
らされやすいことを示している。その結果、ドイツやオラ
ンダの銀行は顧客を伝統的な預金から引き離し、例え
ば手数料の得られる投資信託などに誘導する余地が
大きいかもしれない。
銀行が預金口座にどれだけの金利を支払っているか
については、地域によってばらつきがある。一部の国で
は、銀行は預金者を確保するため、口座に特別優遇措
置を提供している。例えば、フランスの顧客は「Livret A」
と呼ばれる非課税貯蓄口座を通じて無税で預金するこ
とができる。
ドイツとスペインの銀行は預金金利が最も低い。一部の
スペインの銀行は預金者を積極的にバランスシートに
反映されない商品に誘導してきた。一方、そうした動き
はそれほど起きていないことから、欧州最大の銀行市
場であるドイツでは今後そうした動きが強まる余地が残
されている。
それでも、銀行顧客の行動は緩やかなペースで変化す
ると思われる。そしてそのことは、欧州の銀行セクターの
変革が一夜にして革命が起こるのではなく、緩やかな
進化といった形で進む可能性が高いことを示している。
アライアンス・バーンスタイン株式会社
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