1 落雷のしくみと対応 東京理科大学嘱託教授 首 藤 克 彦 1.はじめに

落雷のしくみと対応
東京理科大学嘱託教授
首 藤 克 彦
1.はじめに
フランスのダリバールが雷が電気現象であることが最初に実証され、翌年フランクリン
の有名な凧の実験が行われた。それまで雷は、天帝の怒りとして恐れられていた。
雷の本質が解明され、雷事故を防止する技術は進歩してきたが、毎年、雷による人身事
故が発生している。雷現象を正しく理解することは、人身事故防止に重要である。
2.雷による人身事故
落雷による死者は、最近の 10 年間では、わが国では、年平均約 5 人、アメリカでは約
50 人、フランスでは約 10 人であり、減少傾向にある。
新聞報道によると、ここ約 50 年間の落雷による人身事故は、約 90%が屋外発生し、登
山・ハイキング中での事故(約 20%)が最も多い。学校行事(約 12%)
、ゴルフ中(約 11%)
がこれに続く。
屋外での事故は、落雷の直撃によるもの、側雷による事故が多い。直撃による事故は、
グランドなどの平地、山頂、尾根などで発生し、約 80%が死亡し,約 20%は一命を取り
留めるが意識を失うなど重症となり、数週間の入院が必要になっている。
側雷による事故は、樹木などの高い物体に落雷した場合、落雷した物体より近くいる人
に放電して死傷する場合である。樹木に雨宿りしていて死亡する事故のほとんどがこれに
相当する。
3.屋外での雷対策
3.1雷は何処に落ちるか
高いところに落雷すると思われるが、平地、海面など平坦な場所にも落雷し、何処にで
も落雷すると思ってよい。雷雲の直径は、10km~30km 程度、時速 5~50km で移動する。
雷雲の端の部分で落雷することも多く、雷鳴が聞こえなくなっても、20 分程度は落雷する
ことがあり、「晴天の霹靂」との言葉どおり、雨も降ってなく雷鳴もほとんど聞こえないと
きや、雷雲が通り過ぎた後に直撃を受け死亡した例も多い。
3.2 雷雲の接近
雷雲の接近は、以下のようなことで判断できる。
(1)
入道雲が成長し、上空が暗くなる。
(2)
大粒の雨が降り出す。
(3)
ラジオで AM 放送受信時、カリカリという雑音が入る。
(FM 放送受信時には雑音
は入らない)
(4)
雷鳴が聞こえる。
3.4 避雷対策
登山中での避雷対策としていくつか心得るべきことを以下に述べる。
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(1) 雷注意報発令中、雷雨中は非常に危険である。
(2) 携帯ラジオを携行し、AM 放送に入るガリガリという雑音に注意する。50km程度
はなれた雷放電より放送に雑音が入り、雷鳴より早く雷雲の接近が検知できる。
(3) 携帯型雷警報機は、雷放電より発する電磁波により雷の接近を検知するもので、携
帯すると事故防止に役立つ。
(4) 早朝に活動を開始し、早めにキャンプ地へ入る。これは、午後 2 時ころより 4 時こ
ろまでが雷活動が活発であるためである。
(5) 山頂や尾根で雷鳴を聞いたら、雷雲の中に入っていると考えてよい。このような場
合、直ちに低いところや窪地に移動し、姿勢を低くして雷雲の通過を待つ。近くに
山小屋があれば逃げ込む。洞窟の中は、比較的安全である。
(6) 特に山頂や稜線は非常に危険である。グループ登山では、それぞれの人が数m以上
はなれリスクを分散すべきである。
(7) 岩盤地帯は落雷があったとき非常に危険である。岩盤地帯に落雷すると、雷撃電流
は、岩盤の表面を流れ、その経路の人の死傷に繋がる。
(8) テントの中は危険である。高い樹木の近くに張られたテントは非常に危険である。
これは、テントの支柱に落雷することも考えられ、樹木に落雷した場合、側雷を受
けることも考えられるからである。
4.おわりに
落雷より身を守るには、雷現象について正しい知識を身につけることが肝要である。
雷現象についての知識があれば、その場に応じた行動が取れることと思われる。落雷を
他人事と思わずに行動し、雷による人身事故が減少することを祈っている。
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