平成 15 年度特別展 虫はしぜんのビックリ箱 ∼きみのとなりの珍虫奇虫∼ 企画書 イチジクキンウワバの蛹(ぬけがら) (昆虫館で採集・人間の顔に見える) 伊丹市昆虫館 1 1.基本データ 期間:平成 15 年 7 月 16 日から 9 月 8 日まで 場所:伊丹市昆虫館 1 階特別展示室 メインタイトル:「虫はしぜんのビックリ箱!」 サブタイトル:「きみのとなりの珍虫奇虫」 主担当:学芸員 奥山 清市 2.テーマについて 「生物多様性 ※」は、自然を理解するための大切なキーワードである。そして、地球上のあ りとあらゆる環境に適応し、全世界に数百万種とも言われる昆虫類は、この生物多様性を理解 するための最高の教材である。どう最高かと言うと、わざわざ出かけなくても、街中の公園や 学校の校庭、家の中でさえもその豊かな多様性に触れることができる事に尽きる。近所を探険 するだけで、春夏秋冬を通し出会うことができる虫たちの形態・生態・行動の豊かさには、本 当に驚かされるばかりだ。 今回の特別展のテーマは、「身近な珍虫奇虫」である。昆虫の多様性の中で最もわかりやすい のは、やはり「形態の多様性」であろう。人間の想像を超えるような奇抜な形や、自然の芸術 作品とも言える美しい色彩の虫たちは、身近な環境に数多く生息している。そのビジュアル的 なインパクトは、まさに「しぜんのビックリ箱」である。今回の展示では、この生きた「ビッ クリ箱」たちを数多く紹介し、来館者をまず驚かせたい。「へえ∼」「うっそ∼」「ほんま?」と いう驚きを介して、こんな珍虫奇虫を産み出し許容する、自然の奥深さに興味をもってもらい たいのである。そして、何気に見過ごしがちな身近な自然環境を再評価するきっかけとしても らえるならば、嬉しいと考えている。 さて、ふつうの「ビックリ箱」なら、ネタがばれた後はただの「箱」である。しかし、「しぜ んのビックリ箱」にこれは当てはまらない。何故なら、自然は驚きと発見に満ちた「無限のビ ックリ箱」なのであり、興味を持ってアプローチをすれば、無限の答を用意して応えてくれる のである。その事に気がついた時、人は自然と言う生涯つき合うに値する「宝箱」を手に入れ ることができるのである。しかし、無関心の人間には何も与えてくれない、まったくもってつ れないのも、また自然なのである。もし「身近な珍虫奇虫」たちが伝道師(Evangelist )となり、 この自然の「宝箱」に目覚める方がおられるならば、これ以上の喜びは無い。今回のテーマに は、このような願いが込められているのである。 ※ 生物多様性(Biological Diversity, Biodiversity) 生物多様性とは、「すべての生物の間の変異性を言うものとし、種内の多様種、種間の多様性、 そして生態系の多様性を含むものである」と定義され、自然界における「生命の豊かさ」を包 2 括的に表す概念である。すべての生物は自然の中で、多様で複雑な相互関係で結ばれており、 「複 雑」ゆえに「安定」している。生物多様性が失われれば、自然環境の安定もまた失われるので ある。 3.特別展で来館者に伝えたいこと 今回の特別展で、来館者に伝えたいと考えている内容は以下の3つ。 ①「自然には、様々な昆虫、様々な生物がすんでいるということ」 (生物多様性) ②「身近な環境にも、様々な昆虫、様々な生物がすんでいるということ」 (身近な環境の 生物多様性) ③「どんな身近な環境でも、きちんと観察すれば、興味深い昆虫、興味深い発見にたく さん出会えるということ」 (身近な自然観察の再評価) 4.珍虫奇虫について さて、今回の特別展で取り上げるようとしている珍虫奇虫の概念は、以下の 2 点である。 ① 「その外見(形態)に、一目でわかるインパクトがある昆虫」 できるだけ説明を省きわかりやすく展示をしたいので、「変」「怪しい」「面白い」「すご い」「綺麗」など、一目でその虫の珍奇度がわかるような、ビジュアル的にインパクトのある昆 虫を中心に展示する。例として、アケビコノハ幼虫(写真)、ヘビトンボ(写真)、ウマノオバ チ、イチジクキンウワバ蛹など。 ▲アケビコノハ(幼虫) ▲ヘビトンボ ② 「ただ見ただけではインパクトに欠けるが、観察する視点や情報を提供することに よって、その形態(もしくは生態・行動)に興味深い特徴が発見できる昆虫」 例えば、ナミテントウは、最も普通に見ることができるテントウムシであるが、そのはねの 模様パターンが100以上もあるという点から考えれば、立派な珍虫奇虫である。また、同様 にテングチョウも普通種ではあるが、テングチョウと呼ばれる理由を説明し(口の小あごのひ 3 げが前に大きく突き出し、その形が天狗の鼻に似ている)、納得してもらえるならば、奇虫と呼 んでも問題ないほどのインパクトを持つ昆虫であると考えている。このナミテントウや、テン グチョウのように、一見普通だが見方によって珍虫奇虫に変わる昆虫も紹介していく。 今回の特別展では、特に珍虫①にウエイトを置いて展示していきたい。また、コノハムシや ジンメンカメムシ(図)など外産の代表的な珍虫奇虫も展示するが、特別展のメインとなるの は、あくまでも身近な環境に生息する「きみのとなりの珍虫奇虫」でいきたいと考えている。 ▲コノハムシ ▲ジンメンカメムシ 5.展示内容について 展示のタイトルは、全て(仮)です。もっと、センスのあるタイトルを皆で考えましょう! ① 関西の珍虫奇虫・・・標本および生態展示 関西地域で観察できる珍虫奇虫の紹介。今回の展示のメインである。その中でも市街地や公 園等に生息する珍虫奇虫にウエイトをおき、生体展示をふんだんに取り入れて展示したい。ま た、特別展開催期間中に観察できる珍虫奇虫については、特にその「探し方」「見つけ方」「生 息場所」「発生時期」などの情報に力を入れ、興味を持った利用者がその虫と「出会える」よう なアシストをしたい。 また、特別展期間中に採集・飼育できる珍虫奇虫は、できるだけ多くの種の生態展示をおこ ないたい。これらは、キャプションも最小限にして、フロアスタッフが解説をおこなうといっ た形で、展示していきたい。 ※関西の珍虫奇虫展示予定種リスト(別添)も参照のこと。 ② 人と自然の博物館企画展(テーマ:昆虫の採集方法)紹介・・・パネル展示 兵庫県立人と自然の博物館(通称:ひとはく)では、夏休み期間中に、昆虫の採集方法やト ラップをテーマとした企画展を開催する予定である。現在、ひとはくの八木剛研究員に相談し ている段階であるが、うまく展示をリンクできたら、面白いと考えている。 4 ③ 日本の珍虫奇虫(関西以外の珍虫奇虫) ・・・標本およびパネル展示 日本に生息する珍虫奇虫の中で、関西に生息していない(もしくは、ほとんど報告がない) 珍虫奇虫を、標本を中心に展示する。できれば他の昆虫館の紹介も兼ねられないだろうかと考 えている。例えば丸瀬布町昆虫生態館ならアイヌキンオサムシやオオイチモンジ、石川県ふれ あい昆虫館ならクロコムラサキなど、それぞれの地域環境の珍虫奇虫を展示するのである(も し逆の立場だったら、伊丹市昆虫館はキベリハムシでしょう)。他の昆虫館の協力を得られたら、 面白い展示になるのではと考えている。 また、当館とゆかりの深い沖縄の珍虫奇虫についても、生態展示を中心に紹介したい。 ④イチ押し珍虫奇虫・・・標本および生態展示 昆虫館スタッフ(学芸員)が、それぞれイチ押しの昆虫の標本(もしくは生体)を、その理 由コメント付きで紹介する。例えば、僕(担当奥山)は、是非「ルリボシカミキリ」と「クジ ャクチョウ」を紹介したいと考えている。両種とも僕の生まれ育った山形で慣れ親しんだ非常 に綺麗な昆虫であるが、関西には生息せず関西の昆虫少年にとっては、憧れの珍虫奇虫である。 これを是非紹介したいと考えていて、特に「ルリボシ」は是非、生態展示に挑戦してみたいと 思っている。また、カメムシ研究会の竹本さんの協力で、図鑑でしか見たことがない憧れの「ニ シキキンカメムシ」が展示できそうなので、もし採集できたらこれも是非、このコーナーで展 示したい。 他にも、角正学芸員だと、北海道での学生時代に採集した光もの甲虫コレクションの公開と か、各自が思い入れのある珍虫奇虫を展示したい。 また、伊丹市昆虫館のスタッフに限らす、他の昆虫館や博物館、またアマチュアの研究家や 愛好家の方の思い入れのある珍虫奇虫を展示しても面白いと考えている。 ⑤ 世界の珍虫奇虫・・・標本および生態展示 コノハムシや、バイオリンムシ、ユカタンビワハゴロモ、ゴライアスオオツノハナムグリな ど、昆虫図鑑等で紹介されている、代表的な世界の珍虫奇虫を標本で展示する。 また、植物防疫所の認可を得て、マレーシアからコノハムシ、サカダチコノハムシ等の生き た昆虫を取り寄せ、生態展示をおこないたい。平成 12 年に実施した特別展「かくれたい・め だちた・ギタイ」において、同様の方法で生態展示の実績があるが、今回は特に「ジンメンカ メムシ」の生態展示に挑戦したい。 ⑥ 珍虫奇虫顔ハメパネル・・・参加体験型展示 顔ハメパネルとは、「観光地によく置いてある、顔のところをくりぬいてあって、そこから顔 を出して写真を撮る記念撮影パネル」のことである。顔ハメを展示に取り入れる利点として、 2つの点があげられる。操作の説明が必要ないということと、その経験(写真)を家に持ち帰 ることができるという点である。今回の企画では、「ジンメンカメムシ」「メンガタスズメ」な 5 どをモチーフに、珍虫奇虫顔ハメパネルを製作し展示をおこないたい。もちろん、観光地と同 じものではなく、随所に博物館ならではの工夫をこらしたい。また、顔ハメの最大の欠点であ る、本人が自分の姿を(写真を見るまでは)確認できないという点に関しては、何らの対策は 必要であろう(フロアスタッフの小道具として鏡を用意する、チェキ等のインスタントカメラ を配置する、フロアスタッフの小道具にデジカメを用意してテレビ画面で確認できて、気に入 ったら有償でプリントアウトするなど)。 さらに、顔ハメと同じ使用法で、顔ハメぬいぐるみも作成したら面白いと考えている。 ▲ 戸隠流忍法資料館の顔ハメ ▲ジンメンカメムシの顔ハメのイメージ (いぢちひろゆき著「全日本顔ハメ紀行」より引用) ⑦ 珍虫奇虫スタンプ大集合・・・参加体験型展示 最近、昆虫館では展示にスタンプを取り入れており、好評である。これは安価に高品質のス タンプを製作してくれる「スタンプ工房デジはん」とう業者に依頼していている。そこで、関 西地域で観察できる珍虫奇虫をモチーフに、子どもたちがつい押したくなるような魅力的なス タンプを作成(30 種ほど)し、気に入った珍虫奇虫のスタンプをノートなどに押して、その昆 虫の印象をスタンプと一緒に家に持ち帰ってもらいたいと考えている。 スタンプは、昆虫のイラストと、名前、観察できる時(発生時期)と観察できる場所(生息 場所・生息環境)を入れて、デザインしたものにしたい。 ●「デジはん」に注文したスタンプのサンプル 6 ⑧ 珍虫奇虫人気投票・・・参加体験型展示 展示してある珍虫奇虫の人気投票をおこなう。特にエントリーはおこなわず、展示してある 全ての珍虫奇虫の中から、気に入った昆虫を選び、投票してもらう。投票は、箱に入れるので はなく、ポスト・イット等に、好きな珍虫奇虫の名前とイラスト、選んだ理由などを書いて、 壁面に張り付けていくような感じにしたい。 ⑨ クイズ「めざせ!珍虫奇虫はかせ」 ・・・参加体験型展示 昨年、一昨年と特別展に導入して、好評であったクイズを今回も取り入れたい。基本的には 昨年までのフォーマットを踏襲するが、さらに改良し、また初級編、中級編、上級編などのバ リエーションを増やすことにより、ヘビーリピーターにも対応できるようにしたい。 6.その他 ① 館内スタッフだけでなく、積極的に館外の方の意見を取り入れる。 現在のところ、八木剛さん(兵庫県立人と自然の博物館)、盛口満さん(珊瑚舎スコーレ)、 初宿成彦さん(大阪市立自然史博物館)、竹本卓哉さん(カメムシ研究会)から、今回の特別展 への協力を内諾してもらっている。せっかくの機会なので、他の昆虫館や博物館のスタッフ、 市井の研究家や愛好家、当館の利用者に、いろんな形で今回の企画に関わって欲しいと考えて いる。とりあえず、この企画書を PDF にして、当館のホームページからダウンロードできるよ うにして、興味がある方に読んで頂けたらと考えている。 ②フロアスタッフに活躍してもらう。 一昨年、昨年の特別展を経て、当館にも強力なボランティアのフロアスタッフが育っている。 本当に頼りになる方々なので、今回の特別展も大活躍してもらいたい。また、今年は 10 人を 越える博物館実習生がいるので、彼らにもフロアスタッフとしての活躍を期待している(当館 では、博物館実習生に夏の特別展のフロアスタッフ業務を経験してもらっている)。 また、フロアスタッフ用の特別展解説七つ道具キットを作成し、フロアスタッフの方々が、 より効果的に展示解説できるようにしたい。 ③ 常設化、教育プログラム化を視野にいれて展示を作成する。 「身近な環境に住む興味深い昆虫」を紹介することで、「身近な環境を再評価し、新たな興 味を持ってもらう」という今回の特別展の意図は、環境教育的にも普遍的な有効性を持つと 考えている。したがって今回の特別展では、ハード・ソフトともに、常設化・環境プログラ ム化を視野に入れての展示製作をおこないたいと考えている。 7
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