真菌と日和見感染症 fungal infection (mycosis) and opportunistic infection 日和見感染症 ・日和見感染は、元来は人体に対して病原性の弱い病原菌が、宿主の免疫能が 低下した時に感染を来した場合をいう。 ・ 白血病、悪性リンパ腫、癌などの基礎疾患や膠原病、臓器移植など副腎皮質ステロイドや 免疫抑制剤投与により感染に対する抵抗力、免疫能の低下した患者をコンプロマイズドホ スト(易感染宿主) compromised host という。 ・ 免疫不全(好中球減少、液性免疫不全、細胞性免疫不全)患者:コンプロマイズドホスト に発症する感染症を日和見感染症という。 ・ 日和見感染の主要原因微生物 1. 細菌 a.グラム陽性球菌:表皮ブドウ球菌 b.グラム陰性桿菌:緑膿菌、セラチア、クレブシエラなど 2. ウイルス:サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス 3. 真菌:カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムコール ニューモシスチス・カリニ* (*これまで原虫の一種と考えらていたが最近では真菌の一種と考えられている。 ) 4.原虫:トキソプラズマ など 深在性真菌症 ・真菌感染症は深在性(または内蔵)、皮下、表在性真菌症に大別される。 ・ 深在性真菌症(カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムコール症)はコ ンプロマイズドホストに発症する日和見感染症の中でも最近増加傾向にあり、診断、治療 に苦慮することも少なくなく臨床上重要である。その中でカンジダ症の頻度が最も高いが、 最近アスペルギルス症が増加してきている。 ・ 診断:深在性真菌症の診断法(表1)、診断手順(図1) ・ 治療:抗真菌剤 アムホテリシン B:最も有効であるが副作用(発熱、低 K 血症、腎障害)が強く問題、フ ルシトシン、アゾール系:ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、キャンデ ィン系(β-グルカン阻害剤):ミカファンギン 14 - 1 - 表1 診断法 表3 1. 臨床的診断 1) 臨床症状および理学的所見 2) 画像所見 2. 免疫血清学的診断 1) 特異抗原・抗体の検出 2) 特異的代謝産物の検出 3) 特異的細胞壁成分の検出 3. 微生物学的診断 1) 直接鏡検 2) 培養 4. 病理学的診断 1) 形態的診断 2) 免疫組織化学的診断 5. 遺伝子診断 1) Polymerase chain reaction (PCR) 法 2) DNA プローブ法 表2 アスペルギルス症の病型 A. 定着型 1. 肺アスペルギローマ 2. 気管支断端アスペルギルス症 B. 侵襲型 3. 侵襲性肺アスペルギルス症 4. 慢性壊死性肺アスペルギルス症 5. 播種性アスペルギルス症 C. アレルギー型 6. 気管支喘息 7. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 8. 粘液性気管支閉塞 9. 気管支中心性肉芽腫症 10. 好酸球性肺炎 11. 過敏性肺炎 表4 カンジダ症の病型 クリプトコッカス症の病型 A. 深在型 1. 肺クリプトコッカス症 2. 中枢神経クリプトコッカス症 3. 播種性クリプトコッカス症 4. 骨クリプトコッカス症 B. 表在型 5. 皮膚クリプトコッカス症 A. 深在型 1. カンジダ血症 2. カンジダ眼内炎 3. 肝・脾カンジダ症 4. 肺カンジダ症 5. 腎カンジダ症 6. 中枢神経カンジダ症 7. カンジダ心内膜炎 8. 播種性カンジダ症 B. 表在型 9. 皮膚カンジダ症 10. 粘膜カンジダ症 a) 口腔・咽頭カンジダ症 b) 性器カンジダ症 c) 消化管カンジダ症 d) 気管支カンジダ症 e) 尿路カンジダ症 11. 慢性皮膚粘膜カンジダ症 C. アレルギー型 12. 気管支喘息 14 - 2 - 図1 診断手順 検査実施の決定 症例 基礎疾患の有無 1. 白血病 2. 再生不良性貧血 3. 悪性リンパ腫 4. 臓器移植 5. 膠原病 (SLE など) 6. 癌腫 感染・発病の要因の有無 1. 細胞性免疫能低下 2. 液性免疫能低下 3. 顆粒球数低下 4. 常在菌叢の攪乱 5. 汚染(手術、尿道・静脈 留置カテーテルなど) 病原別罹患臓器の頻度 検査内容 一般検査 血算、赤沈、生化学検査、CRP、検尿、 蛋白分画など 放射線学的検査 単純写真、断層写真、CT、MRI、血流シ ンチグラフィーなど 菌学的検査 直接鏡検、分離培養など 病理組織学的検査 生検材料、手術材料など 血 清 学 的 検 査 カンジダ症 マンナン抗原(LA 極東、Pastorex Candida) 易熱性蛋白(Cand-Tec 法) 47kDa 抗原(ドット免疫結合法、 リポソームイムノアッセイ) D-アラビニトール クリプトコッカス症 莢膜多糖体(セロダイレクト栄研) アスペルギルス症 沈降抗体(免疫拡散法、向流免疫電気泳動法) ガラクトマンナン(Pastorex Aspergillus) 真菌感染症一般 β-グルカン 真菌係数 = エンドトキシンテスト - エンドスペーシーテスト (1-3)-β-D-グルカン(G-テスト) 14 - 3 - A. カンジダ症 candidiasis ・ カンジダ症は最も高頻度に経験される深在性真菌症である。コンプロマイズドホ ストに続発する代表的な内因性(皮膚・消化管常在菌)の真菌症でその診断は容 易でない。 ・ 病型(表2)では消化管、腎・尿路、肺などが多いが、IVH(中心静脈栄養)な どの留置カテーテル誘発性のカンジダ血症が増加している。 ・ Candida.albicance は、消化管に常在しているので消化管カンジダ症が最も多く、 肺カンジダ症の感染経路は Candida の誤嚥・吸入による嚥下性(経気道性)感染 と IVH カテーテルや消化管、尿路カンジダ症などからの血行性感染がある。 ・ カ ン ジ ダ 属 : ( 内 因 性 )C.albicance, C.tropicalis 、 ( 外 因 性 )C.glabrata, C.krussssei B. アスペルギルス症 aspergillosis ・Aspergillus の吸入による外因性感染であり、大部分は A.fumigatus により、 肺病変が最も多い。最近増加しており剖検例では最も多い。 ・ 病型(表3)は定着型、侵襲型、アレルギー型に大別される。 ・ コンプロミズドホストで重要なのは侵襲性肺アスペルギルス症であり、 急性骨髄性白血病などの高度の好中球減少患者に好発し、発熱、咳、血痰、 胸痛で発症し難治性である。胸部 X 線像は上葉に好発し時に空洞を形成するが、 好中球回復期に認められる三日月状空気透亮像は本症に比較的特徴的である。 C. クリプトコッカス症 cryptococcosis ・ C.neoformance は土壌や鳥(ハト)の糞に生息し、経気道性に感染して 肺に初感染巣を形成する。 ・中枢神経に親和性を示し病型(表4)では髄膜炎が多い。 ・ 他の日和見真菌と比べて病原性が強く基礎疾患をもたない健常人にも発症する。 ・ 胸部 X 線像は原発性では胸膜直下の結節状陰影であり無症状のことが多いが、続 発性では肺炎様浸潤影で空洞形成多く、びまん性陰影をとることもある。 14 - 4 - D. カリニ肺炎 pneumocystis carinii pnenmonia ・ P.carinii は免疫不全(特に細胞性免疫不全:AIDS, ATL など)患者に日和見感 染症として重症肺炎を起こすが、HIV 感染症の AIDS 患者の初発症状として最も多 く重要な指標疾患である。 ・ 症状は発熱、乾性咳、呼吸困難、頻脈で、胸部 X 線像は両側肺野にびまん性浸潤 影が認められる。 ・ 診断は喀痰、肺胞洗浄液、肺生検材料から病理組織学的に P.carinii を直接検出 することによる。 ・ 治療は抗真菌剤は無効であり、trimethoprim-sulfamethoxazole(ST 合剤)、ペ ンタミジンが有効である。予防投与も行われる。 (P.carinii はこれまで原虫の一種と考えらていたが最近では真菌の一種と考え られている。) 14 - 5 -
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