第4章 乳幼児健診の判定 第1節 判定の標準化に向けて 今までのマニュアルにおける「疾病分類の管理区分」 (「問題なし」 「要指導」 「要観察」 「要精検」等) につ いては、一定の基準は設けていたが、保健指導やフォローの必要性も加味されて判定されており、疾病の発生 頻度、診断力、把握率などが混在していた。 また、 「保育・家庭環境分類」では、分類が細かく、複数の項目に 該当することも多いことから判断に迷うことがしばしばあり、市町村間で計上の仕方も異なっていた。そのため、 市町村間の頻度の差等の評価が難しかった。 このマニュアルにおいては、健診情報をさらに健診の精度管理等に活用できるよう、判定の標準化に向けた 新たな考え方を導入した。 <疾病の発見の項目> ・身長、体重等の客観的なデータや視聴覚検査等の基準が明確な項目については、数値化又は客観的な基 準で計上する。 ・その他の項目は、健診当日の医師や歯科医師の所見の有無で計上する。 <保健指導・支援の項目> ・「子育て支援」及び「授乳」については、健診に従事した多職種によるカンファレンス等において、各従事者 の観察事項等の情報や意見を踏まえ、総合的に支援の必要性を検討し、計上する。 第2節 疾病の発見 市町村から県に集積される医師・歯科医師の判定項目についての考え方を以下のように示す。 XX項目名 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診のいずれか 判定区分 1:所見なし、2:所見ありなど報告に利用する区分 判定方法 医師・歯科医師が診察で、どのように判定するのかについて具体的に記述 判定基準 判定方法で用いる診察や問診の結果、どのような場合に「所見あり」と判定すべきなのか 具体的に例示 判定上の留意点 判定の際に参考となるポイントや判定基準を利用する上での考え方などを記述 早期発見の対象 となる疾患 該当項目に所見がある場合に、診断される可能性の高い疾患名やその項目を利用してスク リーニングすべき疾患名などを例示 専門機関への紹 介ポイント 乳幼児健診実施機関から医療機関等に紹介する際の留意点などを記述 15.2 聴覚異常 対象健診:1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし、2:所見あり 判定方法 をチェックする。 家人(母親)が、 「聞こえの発達チェックリスト1)」 1. 絵本を読んでもらいたがる。 2. 絵本を見て知っているものを指す。 3. 簡単ないいつけがわかる。 (「その本を取って」 「このゴミを捨てて」など) 4. 意味があることばを1つか2つ言える。 5. 意味があることばを3つ以上言える。 6. 絵本を見て知っているものの名前を言う。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下の所見を1つも認めない。 137 1. 体重の評価 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 判定区分 1:97パーセンタイル超 2:90パーセンタイル超 3:90∼10パーセンタイル 4:10パーセンタイル未満 5:3パーセンタイル未満 判定方法 体重の実測値をパーセンタイル発育曲線にプロットして判定するか、 または母子保健情報データベー スソフトなどを利用して判定する。 判定基準 1:97パーセンタイル超:体重>97パーセンタイル値 2:90パーセンタイル超:97パーセンタイル値≧体重>90パーセンタイル値 3:90∼10パーセンタイル:90パーセンタイル値≧体重≧10パーセンタイル値 4:10パーセンタイル未満:10パーセンタイル値>体重≧3パーセンタイル値 5:3パーセンタイル未満:3パーセンタイル値>体重 判定上の留意点 保健指導にあたっては、体重の絶対値の大小よりも発育曲線のカーブに沿った増加であるかどうか に注目する。早期産児では修正月齢を考慮する。 早期発見の対象と なる疾患等 体重が小さい場合 : 子ども虐待(反応性愛着障害) や子育ての不適切さ、内分泌疾患ほかの基礎 疾患など。消化管や循環器などに基礎疾患を持つ場合には、 その疾病のため体重増加が不良とな るものがある。 3∼4か月児の母乳栄養児で、母乳以外は飲ませてはいけないと極端に考えている場 合には支援が必要である。母乳育児支援とは、母乳で育てることのみを目指した支援ではなく、何ら かの理由で母乳による子育てができない場合も含めた支援である。 体重が大きい場合:先天異常、症候性肥満や内分泌疾患も念頭におく (4. 肥満度)。 専門機関への 紹介ポイント 発育曲線に沿わない変化、低出生体重児や基礎疾患児など体重の少なさを説明できる理由が明ら かでない場合には紹介を必要とする (4.2.6 身体発育不良)。顔貌、小奇形、周産期の異常などに も留意する。 母子保健情報データベースソフトでは、体重を入力することによりどの区分に分類されるか自動計算される。 その基準は、1か月刻みの乳幼児身体発育値に基づいており、例えば月齢3か月児では、満3か月∼4か月未満のパーセンタイル 値を参照している。発育曲線上のプロットと違って、基準値は連続しておらず階段状に変化する。このため日齢3か月1日と3か月 28日の子では、かなりの体重差があるものの同じ基準で判定されていることに注意が必要である。 2. 身長の評価 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 判定区分 1:97パーセンタイル超 2:90パーセンタイル超 3:90∼10パーセンタイル 4:10パーセンタイル未満 5:3パーセンタイル未満 判定方法 身長の実測値をパーセンタイル発育曲線にプロットして判定するか、 または母子保健情報データベー スソフトなどを利用して判定する。 判定基準 1:97パーセンタイル超:身長>97パーセンタイル値 2:90パーセンタイル超:97パーセンタイル値≧身長>90パーセンタイル値 3:90∼10パーセンタイル:90パーセンタイル値≧身長≧10パーセンタイル値 4:10パーセンタイル未満:10パーセンタイル値>身長≧3パーセンタイル値 5:3パーセンタイル未満:3パーセンタイル値>身長 判定上の留意点 3∼4か月児健診・1歳6か月児健診の身長は臥位で測定され、泣いているなど測定困難な場合もある (2.2.1発育とその評価)。変化が大きすぎる場合や極端な値であった場合は、再計測を考慮する。早 期産児では修正月齢を考慮する。 早期発見の対象と なる疾患等 身長が低い場合 :小人症を示す内分泌代謝疾患、先天異常など。子ども虐待では、 身長より体重の 増加不良の目立つことが多い (4.2.6 身体発育不良)。消化器や循環器などに基礎疾患を持つ場合 には、 その疾病のため身長の増加が不良となるものがある。3歳児健診の低身長の判定は5.低身長 を参照。 身長が高い場合:高身長を呈する内分泌疾患や先天異常など。 専門機関への 紹介ポイント 身長が10パーセンタイル未満の場合、 身長の変化だけでなく体重の変化も確認する。 138 顔貌、小奇形、周産期の異常などにも留意する。 なる疾患等 増加不良の目立つことが多い (6. 身体発育不良)。消化管や循環器などに基礎疾患を持つ場合に は、 その疾病のため身長の増加が不良となるものがある。3歳児健診の低身長の判定は5. 低身長を 参照。 身長が高い場合:高身長を呈する内分泌疾患や先天異常など。 専門機関への 紹介ポイント 身長が10パーセンタイル未満の場合、 身長の変化だけでなく体重の変化も確認する。 顔貌、小奇形、周産期の異常などにも留意する。 母子保健情報データベースソフトでは、身長を入力することによりどの区分に分類されるか自動計算される。その基準は、1か月刻 みの乳幼児身体発育値に基づいており、例えば月齢3か月児では、満3か月∼4か月未満のパーセンタイル値を参照している。発 育曲線上のプロットと違って、基準値は連続しておらず階段状に変化することに留意する。 3. 頭囲 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:97パーセンタイル超 2:90パーセンタイル超 3:90∼10パーセンタイル 4:10パーセンタイル未満 5:3パーセンタイル未満 判定方法 頭囲の実測値をパーセンタイル発育曲線にプロットして判定するか、 または母子保健情報データベー スソフトなどを利用して判定する。 判定基準 1:97パーセンタイル以上:頭囲≧97パーセンタイル値 2:90パーセンタイル以上:97パーセンタイル値>頭囲≧90パーセンタイル値 3:90∼10パーセンタイル:90パーセンタイル値>頭囲≧10パーセンタイル値 4:10パーセンタイル未満:10パーセンタイル値>頭囲≧3パーセンタイル値 5:3パーセンタイル未満:3パーセンタイル値>頭囲 判定上の留意点 頭囲は、体格の大小や親の頭の大きさとも関連する。発育曲線のカーブに沿っているかどうかが判定 のポイントとなる。頭囲測定の方法は標準化されているが、泣いているなど測定困難な場合もある (2.2.1発育とその評価)。変化が大きすぎる場合や極端な値であった場合は、再計測を考慮する。 早期発見の対象と なる疾患等 水頭症や大頭症をきたす疾患、精神運動発達遅滞、骨軟骨異形成症ほか。 小頭症をきたす疾患、染色体異常、精神運動発達遅滞、頭蓋縫合早期癒合症ほか。 専門機関への 紹介ポイント 頭囲拡大が胸囲より5cm以上も大きく、体重増加不良や嘔吐を伴う場合は早急な対応が必要な場 合もある。大泉門や小泉門の所見、顔貌、小奇形などにも留意する。 母子保健情報データベースソフトでは、頭囲を入力することによりどの区分に分類されるか自動計算される。その基準は、1か月刻 みの乳幼児身体発育値に基づいており、例えば月齢3か月児では、満3か月∼4か月未満のパーセンタイル値を参照している。発 育曲線上のプロットと違って、基準値は連続しておらず階段状に変化する。3∼4か月のパーセンタイル値と4∼5か月のパーセン タイル値は1cmほど違うため、生後満4か月前後の日齢の場合には、自動判定結果には注意が必要である。 4. 肥満度 判定区分 判定方法 対象健診:3歳児健診査 1:ふとりすぎ 2:ややふとりすぎ 3:ふとりぎみ 4:ふつう 5:やせ 6:やせすぎ 体重と身長の実測値を用いて、幼児の身長体重曲線または以下の計算式により判定する。 肥満度(%) = (実測体重−標準体重) ÷標準体重×100 標準体重は、男女別に以下の計算式で求めることができる。 2 ・男子: 0.00206×実測身長(cm) −0.1166×実測身長(cm)+6.5273 2 ・女子: 0.00249×実測身長(cm)−0.1858×実測身長(cm)+9.0360 判定基準 以下の判定区分による。 1:ふとりすぎ 肥満度≧ 30% 2:ややふとりすぎ 30%>肥満度≧ 20% 3:ふとりぎみ 20%>肥満度≧ 15% 4:ふつう 15%>肥満度>−15% 5:やせ −15%≧肥満度>−20% 6:やせすぎ −20%≧肥満度 早期発見の対象と なる疾患等 肥満の場合 : 単純性肥満、 甲状腺機能低下症などの症候性肥満、Prader-Willi症候群などの先 139 天異常 やせの場合:栄養不良、 るいそう、神経性食欲不振症、被虐待児や基礎疾患を有する児 3:ふとりぎみ 20%>肥満度≧15% 4:ふつう 15%>肥満度>-15% 5:やせ -15%≧肥満度>-20% 6:やせすぎ -20%≧肥満度 早期発見の対象と なる疾患等 専門機関への 紹介ポイント 肥満の場合 : 単純性肥満、 甲状腺機能低下症などの症候性肥満、Prader-Willi症候群などの先 天異常 やせの場合:栄養不良、 るいそう、神経性食欲不振症、被虐待児や基礎疾患を有する児 ・肥満度+20%以上が続く場合。 ・肥満であるが成長率が低下している場合(通常、肥満では成長率の増加を伴うことが多い)。 ・肥満度−15%未満が続く場合。 5. 低身長 対象健診:3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:10パーセンタイル未満 3:3パーセンタイル未満 判定方法 身長の実測値を用いて、 自動集計ソフトまたはパーセンタイル発育曲線により判定する。 判定基準 判定区分による 判定上の留意点 3歳時のone pointだけでなく、 これまでの成長経過をみて判断することが重要である。 早期発見の対象と なる疾患 成長ホルモン分泌不全性低身長、 ターナー症候群、骨系統疾患、 甲状腺機能低下症、子ども虐待な ど 専門機関への 紹介ポイント 3パーセンタイル未満が続く場合。 横断的標準身長・体重曲線など標準偏差による発育曲線を用いる場合には、 −2SD以上の成長率 の低下が認められる場合。 6. 身体発育不良 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:1∼2階級以内 3:2階級超 判定方法 体重の実測値をパーセンタイル発育曲線にプロットし、 その変化から判定する。 母子健康手帳に掲載されている発育曲線のグラフは、97パーセンタイルから3パーセンタイルの帯で 示されている。 まず、 これに体重の値をプロットして、発育曲線のカーブに沿っているかどうか目視で判 定する。その結果、体重の増加が発育曲線のカーブに沿わず増加不良傾向を認めた場合には、 パーセンタイル発育曲線のグラフ上にプロットし、 その程度を判定する。 パーセンタイル発育曲線には、 7本の曲線が発育曲線基準線として示されている。 この7本の基準線 は上から97、90、75、50、25、10、 3パーセンタイル曲線と呼び、2本の基準線の間を階級と呼ぶ。 もの。 判定基準 19. 臍ヘルニア 1:所見なし:体重の変化が1階級以内にあるか、1本の発育曲線基準線を越えて増加した 対象健診:1歳6か月児健診 判定区分 判定方法 判定上の留意点 判定基準 早期発見の対象と なる疾患等 専門機関への 判定上の留意点 紹介ポイント なお3歳児健診での肥満の判定は、4. 肥満度で判定する。 2:1∼2階級以内 :り 体重の変化が1本の発育曲線基準線を越えて減少したもの。 1:所見な し、2:所見あ 3:2階級超:体重の変化が、2本の発育曲線基準線を越えて減少したもの。 または、3パーセンタイル 未満であった体重が、 その基準線に沿わずに離れる傾向を示すもの。 ・ 臍の突出が乳児期のどの時期に始ま ったかを問診する。 ・臍の陥凹の有無を観察する。 身体発育は、 身長や頭囲、胸囲など増加や体重とのバランスによっても示される。体重増加が不良な ・ 臍窩を触診して臍正中部の筋膜の欠損有無を検索する。 場合、 他の計測値とくに身長の変化とのバランスから、小柄な体格と栄養不良など健康の問題とをお ・ 力ませて腹圧が上昇した時の臍の形態の変化を観察する。 おまかにつかむこともできる。 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 ・内分泌疾患、消化器疾患、神経筋疾患、悪性新生物など ・ 栄養不良 (アレルギー児への偏った食物制限や極端な偏食ほか) 2:所見あ り ・ 子ども虐待(ネグレク ト、心理的虐待、 身体的虐待、 性的虐待) 問診では、 臍の突出が、 生後1か月ころから始ま っている ことが多い。 先天異常な ど基礎疾患を持つ児で も、 治療経過や親のかかわ 身体発育がよ 診察では、臍中央部を触診して、腹壁の欠損孔を触知できる。りが適切でないために、 り遅れる場合も ある。 安静時は認めず、 腹圧上昇時に臍の突出を認めることもある。 子ども虐待や子育ての不適切さが疑われる場合には、 医療機関での身体所見の精査とともに、要保 常に突出していて、 安静時にも消失しない場合には、臍腸管嚢胞や尿膜管嚢胞等が臍の皮下に存 140 護児童対策地域協議会な ど関係機関との連携が必要である。 紹介後も保健機関は継続的な支援 在する可能性がある。 の中心と なることが多い。 巨大なヘルニアでは、 時に腸管の嵌頓を生じる危険があり、圧迫にて容易に消失しないことがあった なる疾患等 専門機関への 紹介ポイント ・子ども虐待(ネグレクト、心理的虐待、 身体的虐待、性的虐待) 先天異常など基礎疾患を持つ児でも、治療経過や親のかかわりが適切でないために、 身体発育がよ り遅れる場合もある。 子ども虐待や子育ての不適切さが疑われる場合には、医療機関での身体所見の精査とともに、要保 護児童対策地域協議会など関係機関との連携が必要である。紹介後も保健機関は継続的な支援 の中心となることが多い。 7. 筋緊張 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法と3∼4 か月児の正常所見 ①仰臥位の姿勢の観察:顔は正中を向き、上肢は半伸展∼伸展、下肢は半屈曲、手は軽く握っている。 ②引き起こし反射(4.2.8 頚定) ③垂直保持(陽性支持): 垂直に引きあげたのち診察台へ下肢をおろしたり、 あげたり (ツンツン) する。 上肢は伸展∼半伸展のまま、手は開いている。下肢は軽く屈曲または半屈曲。 ④水平抱き (腹位) :検者の手で児の腹部を支え、正確に水平に持ちあげる。 やや頭を挙げ、体幹は ゆるい屈曲か伸展、上肢は伸展、 かるく手を開き、下肢は軽く伸展。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①仰臥位の姿勢:下肢開排可能、膝窩角90∼110° ・後弓反張、蛙肢位、 つよい緊張性頚反射肢位、手を強く握る。 ・不随意に口を開ける。 下肢開排制限、膝窩角90° ②引き起こし反射:頭がついてこないで垂れてしまい、上肢は力なく伸展したまま。棒のように立ってしまう。 ・そってしまう。90° で頭部が容易に前屈してしまう。 ③垂直保持から立位の姿勢:すり抜け徴候・手を握り、上肢伸展、回内下肢伸展、交 、尖足。 ④水平抱き (腹位) :逆U字型・そりかえり 判定上の留意点 問診票において、低出生体重や周産期の異常所見等がある場合は、 より丁寧に診察を要する。 早期発見の対象と なる疾患 重度精神運動発達遅延、脳性麻痺 専門機関への 紹介ポイント 筋緊張低下・亢進を認める場合は、専門機関への紹介を要する。 8. 頚定 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法と3∼4 か月児の正常所見 引き起こし反射:児を仰臥位の状態から児の手掌の尺側から検者の拇指を入れ、 およそ3秒程度か けて、 ゆっくり引き起こす。 体幹が45° 及び90° のところで判定する。 ・45° で頚は体幹と同一線上協力するように頭を持ち上げ、上肢は肘をやや屈曲さ せ、下肢は屈曲または半屈曲する。 ・90° で坐位となっても頚はくらくらせず前屈もしない。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ・頭がついてこないで垂れてしまい、上肢は力なく伸展したまま。 ・棒のように立ってしまう。 そってしまう。下肢が伸展してしまう。 ・90° で頭部が容易に前屈してしまう。 判定上の留意点 ・問診票において、低出生体重や周産期の異常所見等がある場合は、 より丁寧に診察を要する。 ・生後3か月初期の児では、坐位では揺らすと前屈して しま う こ とがあって も 141 明らかな異常とはいえない。 また、児によって多少のバリエーションがあるため、 1か月程度期間をおい ての再判定が必要な場合もある。 2:所見あり ・頭がついてこないで垂れてしまい、上肢は力なく伸展したまま。 ・棒のように立ってしまう。 そってしまう。下肢が伸展してしまう。 ・90° で頭部が容易に前屈してしまう。 判定上の留意点 ・問診票において、低出生体重や周産期の異常所見等がある場合は、 より丁寧に診察を要する。 ・生後3か月初期の児では、 坐位では揺らすと前屈してしまうことがあっても明らかな異常とはいえな い。 また、 児によって多少のバリエーションがあるため、 1か月程度期間をおいての再判定が必要な 場合もある。 早期発見の対象と なる疾患 脳性麻痺、重度精神運動発達遅延 専門機関への 紹介ポイント 追視を認めない、 あやし笑いがない、上下肢の動きが乏しいなどの随伴症状の多い場合は、専門機 関への早期の紹介が必要 9. 運動発達 対象健診:1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:異常なし 2:既医療 3:要観察 4:要紹介 判定方法 運動発達に関する過去の健診結果、母子健康手帳や問診による発達歴、問診場面での親の訴え や保健師等による観察、 そして診察場面での子どもの姿勢、粗大運動、微細運動、反射等の所見や 親の心配ごとなども考慮して総合的に判定する1)。 判定基準 1 : 異常なし:運動発達の遅れの疑いがないと判定されるもの 2 : 既医療:既往症、問診から運動発達の遅れを伴う疾病を診断されているもの 3 : 要観察:運動発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、 保健機関での経過観察が必要と判定されるもの 4 : 要紹介: 運動発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、 診断や治療・療育のために専門機関(医療機 関や療育機関他)への紹介が必要と判定されるもの 判定上の留意点 3:要観察の判定にあたっては、保健機関で経過を観察する手段や間隔(医師の診察や保健師の 相談ほか) を具体的に示すこと。親子教室などの療育的役割を持つ事業への勧奨を要観察とする かどうかは、 その事業の目的や内容により市町村で定める。医師・健診スタッフ間で方針を統一して判 1) 定する 。 早期発見の対象と なる疾患 ・脳性まひ、神経筋疾患、代謝異常症、精神発達遅滞ほか ・鑑別診断として、子ども虐待にも留意する。 専門機関への 紹介ポイント 4:要紹介と判定する場合は、適切な機関(医療機関や療育機関他) や紹介時期などを、地域の早 期療育等の状況 1)を踏まえて保健師などのスタッフと検討し、具体的に示す。子どもの発達を促すた めの支援の必要性についても検討する2)。 1)発達の遅れの早期発見と療育のため、地域の関係機関が連携した活動が行われている (2.4.2母子保健活動における発達支援 ◆市町村における発達支援の例参照)。保健機関や関係機関が提供する相談支援体制を踏まえて判定する。 2)子育て支援の必要性の判定では、子どもへの親のかかわり方や受療行動について、助言や情報提供のみで親が行動できるか、 保健機関での継続支援が必要か、他機関と連携した支援が必要かなど支援の実現性を踏まえて判定する。 10. 精神発達 対象健診:1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:異常なし 2:既医療 3:要観察 4:要紹介 判定方法 言語や認知、社会性の発達、 アタッチメント形成などの精神発達について判定する。 過去の健診結果、母子健康手帳や問診による発達歴、問診場面での親の訴えや保健師等による観 察、 そして診察場面での子どもの様子や親の心配ごとなども考慮して総合的に判定する1)。 判定基準 1:異常なし:精神発達の遅れの疑いがないと判定されるもの 142 2:既医療:既往症、問診から精神発達の遅れを伴う疾病を診断されている もの 3:要観察 : 精神発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、保健機関での経過観察が必要と判定されるも 判定方法 言語や認知、社会性の発達、 アタッチメント形成などの精神発達について判定する。 過去の健診結果、母子健康手帳や問診による発達歴、問診場面での親の訴えや保健師等による観 察、 そして診察場面での子どもの様子や親の心配ごとなども考慮して総合的に判定する1)。 判定基準 1 : 異常なし:精神発達の遅れの疑いがないと判定されるもの 2 : 既医療:既往症、 問診から精神発達の遅れを伴う疾病を診断されているもの 3 : 要観察:精神発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、 保健機関での経過観察が必要と判定されるもの 4 : 要紹介:精神発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、 診断や治療・療育のために専門機関(医療機関 や療育機関他)への紹介が必要と判定されるもの 判定上の留意点 3:要観察の判定にあたっては、保健機関で経過を観察する手段や間隔(医師の診察や保健師の相 談ほか) を具体的に示す。親子教室などの療育的役割を持つ事業への勧奨を要観察とするかどうか は、 その事業の目的や内容により市町村で定める。医師・健診スタッフ間で方針を統一して判定する2)。 早期発見の対象と なる疾患等 ・言語発達遅滞、広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)、注意欠陥・多動性障害、軽度精神発達遅 滞など(社会性の発達など、 まだ健常児でも到達していないところもあり、DSM-Ⅳなどのマニュアル 式の操作的診断基準では診断されない場合がある。) ・鑑別診断として、子ども虐待にも留意する。 専門機関への 紹介ポイント 4:要紹介と判定する場合は、適切な機関(医療機関や療育機関他)や紹介時期などを、地域の早 期療育等の状況 2)を踏まえて保健師などのスタッフと検討し、具体的に示す。子どもの発達を促すた めの支援の必要性についても検討する3)。 1)集団場面や遊びを通じての子どもの様子の観察などを用いることもできる (5.1健診の運営システム◆集団健診の特徴を活か した工夫参照)。集団健診ではほとんど用いられないが、PARS(PDD-Autism Society Japan Rating Scale)、M-CHAT (The Modified CHAT )などのスクリーニング尺度がある。 2)発達障害児等の早期発見と療育のため、地域の関係機関が連携した活動が行われている (2.4.2母子保健活動における発達支 援◆市町村における発達支援の例参照)。保健機関や関係機関が提供する相談支援体制を踏まえて判定する。 3)子育て支援の必要性の判定では、子どもへの親のかかわり方や受療行動について、助言や情報提供のみで親が行動できるか、 保健機関での継続支援が必要か、他機関と連携した支援が必要かなど支援の実現性を踏まえて判定する。 11. 大泉門開大 対象健診:1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 前頭部を触知する。大泉門の大きさは、 その菱形の相対する辺の中点間の距離の和を2分したもの で表す。 通常18か月までに閉鎖する。大泉門を触知する場合は、膨隆していないかを確認する。 判定基準 1 : 所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2 : 所見あり ・大泉門を触知し、 かつ膨隆を認める。 ・骨縫合離開・隆起を認める。 ・顔貌異常・頭蓋骨異常・成長遅延・発達遅延を伴う。 判定上の留意点 触知する大泉門が1横指未満で、以前より閉鎖傾向を認め、頭囲拡大・大泉門膨隆・成長障害・発 達遅延などの他の異常所見を伴わない場合は、2歳程度で閉鎖が期待できることがある。 早期発見の対象と なる疾患等 頭蓋内圧亢進を呈する疾患 骨疾患 先天奇形症候群 22.2 四肢形態異常 (O脚、X脚など) 内分泌疾患(甲状腺・副甲状腺) 判定区分 専門機関への 紹介ポイ 判定方法ント 対象健診:1歳6か月児健診・3歳児健診 1:所見なし、2:所見あり 大泉門膨隆に加え、頭囲拡大を認める場合は、早期に紹介 顔貌異常 ・頭蓋骨異常・成長遅延・発達遅延等を伴う場合も専門機関へ紹介する。 他の随伴症状 健常児の正常下肢形態は出生直後がも っとも膝内反(O脚)の程度が強いが、成長によ り自然改善 がない場合も、 2歳を超えて も閉鎖しない場合は、 紹介する。 し、3∼4歳ごろにはむしろ膝外反(X脚)が強くなり6∼7歳ごろにほぼ正常な膝形態になる。 したがっ て1歳6か月健診で訴えが多いO脚、3歳健診で訴えが多いX脚は多くは生理的であり、 その後の経 過にて自然に改善することが多い。 またO脚は下 内捻による前足部が内側を向く 「内旋歩行」 をし めすことも多いが、 これも多くはO脚の矯正とともに改善する。 しかし以下の病的なO脚、X脚もあり注意が必要である。 143 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 12. 顔貌 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 頭・顔全体・眼・耳・鼻・口などの各部分の観察 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 顔・頭部全体:顔面非対称、前額突出、頭蓋変形、 平な顔、 チアノーゼなど 眼: 両眼隔離・接近、内眼角贅皮、眼瞼下垂、眼裂斜上・斜下、小眼球、斜視など 耳: 耳介低位、大耳、小耳、耳介変形、副耳など 鼻: 平な鼻背、高い鼻背、小さい鼻、 くちばし状の鼻、鼻翼低形成など 口: 巨舌、小口、大口、魚様の口、高口蓋、狭口蓋、 口角の下がった口など 顎: 小顎、下顎突出など 判定上の留意点 単一のものは異常とはいえない。 早期発見の対象と なる疾患 ダウン症候群などの染色体異常・先天奇形症候群、 チアノーゼを呈する心疾患・肺疾患など 専門機関への 紹介ポイント チアノーゼ・皮膚色不良を認める場合には、早期の紹介が必要。他の身体奇形所見を複数有する場 合も専門機関への紹介が必要。 13. 追視 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 ペンライトの点光源か玩具を視標とし、 目の前にその視標を提示したときに固視するか否かを見る。 次に固視するなら、 その視標を左右、上下に動かして追視するかどうかを判定する。 23. 股関節開排制限(先天性股関節脱臼) 判定基準 判定区分 判定方法 判定上の留意点 早期発見の対象と なる疾患等 判定基準 専門機関への 紹介ポイント 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 1:所見なし、2:所見あり 2:所見あり ①開排制限 ・目の前に提示した視標を見ない 児を泣かせない (股関節に力が入る と正確な診断ができない) ・視標を動かして も目で追わない 骨盤を左右に傾けず水平にする。 両大 部を両手で優しく保持して開排する。 この時に股関節の ・視線を合わせない 屈曲角度を 9 0度以上とする。 開排制限があればそれ以上無理に開排しない (無理に開排する と ・眼の揺れ(眼振)がある 徒手的に整復され骨頭障害が生ずることがある。) ②歩容異常 眠い、 機嫌が悪い、体調不良などのせいで視標を見ないこともあるので児の目以外の様子にも注意 脱臼では片側例では跛行、 両側例はアヒル様歩行になる。 する ことが必要である。 また、視反応の悪さは精神発達遅滞のある児に もみられる。 ③下肢長差 脱臼では見かけ上の下肢長差が生ずる。 両眼の高度の視力障害 ・先天白内障 1:所見な し 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 ・先天緑内障 ・網膜芽細胞腫 2:所見あ り ・先天網膜疾患 ①開排制限 開排角度70度未満 (ベッドから20度以上) を開排制限ありと判定する。 疾患によ っては早期に治療するこ とで有効な視覚の獲得が可能と なるため、 すぐに治療が始められ 特に開排角度に左右差がある女児に注意する (両側同等の軽度の男児の開排制限は内転筋 る医療機関へ紹介する必要がある。 拘縮が原因で股関節には異常がないことが多い。) ほとんどの股関節脱臼は開排制限を呈する が、関節弛緩性が強いと開排制限を呈しない脱臼もある。開排制限は向き癖と反対側に生ずるこ とが多い。 ②歩容異常 歩行開始後に跛行が続いている例は、専門医を紹介する。 ③下肢長差 股関節を90度屈曲させて、骨盤の傾きをなくし尾側から膝の高さを比較する方法(Allisサイン)が 最もよい。 144 判定上の留意点 先天性股関節脱臼の危険因子である女児、秋冬生まれ、骨盤位、家族歴(家系に先天性股関節脱 14. 斜視 対象健診:1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 頭の位置をまっすぐにして正面の眼前30cmくらいの所にペンライトの点光源を提示し、両目とも角膜 の中央である瞳孔の真ん中に光の反射が映れば顕性の斜視はないとする。斜視があると、 この光の 反射の位置がずれる (ヒルシュベルグ検査)。 次に両目の視線がペンライトや玩具などの視標にきちんと合うかを確認し、 この視標を上下、左右に 動かして、眼球の動きに制限や遅動、過動などの異常がないかを観察する。出来れば視標を出す距 離を眼前30cmだけでなく、 それ以上の遠い距離でも両目の視線が合うかを観察する。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ・一眼の角膜反射の位置が瞳孔の真ん中でなくずれる場合そのずれの位置により 外側にずれる…内斜視 内側にずれる…外斜視 下側にずれる…上斜視 上側にずれる…下斜視 ・視標を見せた時、両目の視線が合わないことがある 間歇性斜視 麻痺性斜視 ・目の動きに制限や遅動、過動がある 眼筋麻痺 神経麻痺 判定上の留意点 早期発見の対象と なる疾患等 ・乳幼児では内眼角贅皮によって見かけ上、内斜視に見える偽内斜視が多い。 これは角膜反射で鑑 別が可能である。 ・角膜反射法では微小角の斜視や間歇性斜視が見逃されることがある。 これらは1歳6か月児健診で 見逃されても視機能の発達には大きな影響がないため問題とならない。 ・上斜視がある場合は頭を決まった方向にかしげる頭位異常をとることが多い。 かしげたままでは斜視 が出ないことがあるため見逃す可能性があるので頭の位置にも注意が必要である。 専門機関への 紹介ポイント ・先天内斜視 ・高度遠視が原因の調節性内斜視 ・外斜視 ・頭位異常を伴う上斜視 これらは早期に治療することで良好な視機能の獲得が可能である。 片眼の斜視の中には器質的疾患による重度の視力障害も多いため、片眼の緑内障や白内障、網膜 芽細胞腫などの発見につながる。 斜視が疑われる場合は一般眼科へ紹介する。 明らかな大角度の斜視については精密検査や斜視の治療として手術が必要となるため早期に小児 眼科を標榜している病院へ紹介する。 145 15.1 聴覚異常 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 をチェックする。 家人(母親)が、 「聞こえの発達チェックリスト1)」 1. 大きな音に驚く。2. 大きな音で目を覚ます。 3. 音がする方を向く。 4. 泣いている時に、声をかけると泣き止む。 5. あやすと笑う。 6. 話しかけると、 「アー」 「ウー」などと声を出す。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下の所見を1つも認めない。 2:所見あり 問診、診察所見から以下の所見が1つでも認められる。 ①難聴の家族歴がある。 ②片側あるいは両側の外耳道閉鎖を認める2)。 ③聞こえの発達チェックリストで、 できる項目が3つ以下である。 判定上の留意点 ・ 「難聴の家族歴」 とは、父、母あるいは兄弟姉妹(双生児を含む) に難聴者・児がいることを指す。 また、 「外耳道閉鎖」については片側のみでも所見ありとする。 ・ 「難聴の家族歴」や「外耳道閉鎖」が認められる場合には、 出生時に産科医から聴覚の精査を勧め られることが多いが、 万全を期す意味で、 精査済みかどうかを3∼4か月児健診の問診等でも確認し、 未受診であれば受診を勧める。 ・この月齢では、光に対する反応が発達してきて、明るく/暗く なったことに気付いたり、人影を追っ たりし始める。 しかし、音への興味はまだ薄く、強大音(例:ドアの閉まる音、 バタン!!) には驚いたりす るが、普通の大きさの声に対する反応はまだ乏しい。 ・口蓋裂児やダウン症児では、滲出性中耳炎が頻発し、 中耳炎による難聴(伝音難聴) によって反応 が不良な場合がある。伝音難聴は治療により改善するものも多いが、 中耳炎の有無は耳鼻科医に よる鼓膜所見等の確認が必要となる。 ・問診の際に、新生児聴覚スクリーニングを受けているかどうかについても確認をしておくことが望まし い。 早期発見対象疾患 先天性難聴(家族性難聴、外耳道閉鎖を含む)、滲出性中耳炎 専門機関への 紹介ポイント 強大音に対して無反応であれば、鼓膜所見の確認のためにも、基幹病院(市民病院クラス)の耳鼻 科へ紹介する。 1)愛知県における新生児聴覚スクリーニングの手引き (平成19年)参照 http://www.achmc.pref.aichi.jp/Hoken/tebiki.pdf 2)小耳症に伴う外耳道閉塞などの肉眼的所見 15.2 聴覚異常 対象健診:1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 をチェックする。 家人(母親)が、 「聞こえの発達チェックリスト1)」 1. 絵本を読んでもらいたがる。 2. 絵本を見て知っているものを指す。 3. 簡単ないいつけがわかる。 (「その本を取って」 「このゴミを捨てて」など) 4. 意味があることばを1つか2つ言える。 5. 意味があることばを3つ以上言える。 6. 絵本を見て知っているものの名前を言う。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下の所見を1つも認めない。 2:所見あり 問診、診察所見から以下の所見が1つでも認められる。 ①難聴の家族歴がある。 ②片側あるいは両側の外耳道閉鎖を認める2)。 ③聞こえの発達チェックリストで、 できる項目が3つ以下である。 判定上の留意点 ・ 「難聴の家族歴」 とは、父、母あるいは兄弟姉妹(双生児を含む) に難聴者・児がいることを指す。 ま た、 「外耳道閉鎖」については片側のみで も所見あ り とする。 146 ・ 「難聴の家族歴」や「外耳道閉鎖」が認められる場合には、出生時に産科医から聴覚の精査を勧 められることが多いが、万全を期す意味で、精査済みかどうかを確認し、未受診であれば受診を勧め 2:所見あり 問診、診察所見から以下の所見が1つでも認められる。 ①難聴の家族歴がある。 ②片側あるいは両側の外耳道閉鎖を認める2)。 ③聞こえの発達チェックリストで、 できる項目が3つ以下である。 判定上の留意点 ・ 「難聴の家族歴」 とは、 父、 母あるいは兄弟姉妹(双生児を含む) に難聴者・児がいることを指す。 また、 「外耳道閉鎖」については片側のみでも所見ありとする。 ・ 「難聴の家族歴」や「外耳道閉鎖」が認められる場合には、 出生時に産科医から聴覚の精査を勧め られることが多いが、 万全を期す意味で、 精査済みかどうかを確認し、 未受診であれば受診を勧める。 ・ 1歳頃の始語(ママ、 マンマ等のことばの出始め) を経て、 有意味語が増えているか?早い児であれ ば、 二語文(パパ カイシャ等) が出てくる。 ・簡単ないいつけ (ことばでの指示) に従えるか? ・平成16年度に、 1歳6か月児健診から二次精査を経て三次精査機関に紹介された38例のうち、 両 側に中等度以上の難聴は3例(7.9%) 、 滲出性中耳炎も3例(7.9%) 、 聴力正常22例(57.9%) 、 広汎性発達障害/自閉症が5例(13.2%) であった。難聴よりも発達障害が多くなっている。 早期発見対象疾患 後天性難聴、 滲出性中耳炎、 発達障害、 言語発達遅滞 専門機関への 紹介ポイント 家人の観察等からも、難聴が疑われるのであれば、鼓膜所見の確認も含めて、基幹病院(市民病院 クラス) の耳鼻科へ紹介する。 1)愛知県における新生児聴覚スクリーニングの手引き (平成19年)参照 http://www.achmc.pref.aichi.jp/Hoken/tebiki.pdf 2)小耳症に伴う外耳道閉塞などの肉眼的所見 16. 斜頚 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 出生後からいつも顔が同じ方向しか向かない (向き癖が強い) 頚部にしこりがある 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①向き癖と反対側の胸鎖乳突筋の下部(鎖骨に近い部分) に腫瘤が触れる。 ②頭をベットの端から出して、助手に両肩を保持してもらい、首の可動域を調べる。 回旋可動域(首を左右に回してあごが肩につくか)、側屈可動域(頭を左右に傾けて耳が肩につく か) を調べる。筋性斜頚があれば、腫瘤と同側への回旋、腫瘤と反対側への側屈が制限される。 ③腫瘤と同側の後頭部が 平(斜頭) となる。 判定上の留意点 骨盤位、巨大児、吸引分 など分 早期発見の対象と なる疾患 筋性斜頚児は腫瘤と同側の股関節に開排制限を伴うことが多く、股関節異常にも気を配る必要が ある。 専門機関への 紹介ポイント 筋性斜頚の腫瘤は出生直後ははっきりせず、生後3∼4週で最大になり、 1歳までに約80%が自然消 退し、頚部の可動域制限も改善する。 したがって手術は1歳まで待機するが、合併症の精査、生活上 の指導などもあり、斜頚を疑えばその時点で専門医を紹介する。特に腫瘤が大きく、可動域制限も強 い重症例では腫瘤が最大となる生後3∼4週に徒手筋切り術を行なう施設もあり、 なるべく早く専門 医を紹介する。 時に問題があった児に筋性斜頚は好発する。 147 母子保健情報データベースソフトでは、身長を入力することによりどの区分に分類されるか自動計算される。その基準は、1か月刻 みの乳幼児身体発育値に基づいており、例えば月齢3か月児では、満3か月∼4か月未満のパーセンタイル値を参照している。発 育曲線上のプロットと違って、基準値は連続しておらず階段状に変化することに留意する。 17. 心音異常 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 聴診で心雑音の有無や心音が不規則か異常に速いか遅くないかを判定する 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①収縮期雑音:心疾患では収縮期雑音が聞かれることが多い。 ただし第3∼4肋間を中心に聞かれ る楽音様雑音は機能性心雑音(無害性心雑音) であり、健康児で聴取されることが多い。 ②拡張期雑音:心疾患がある可能性が大きい。 ③連続性雑音 : 動脈管開存症などで聞かれる。 ただし幼児期以降に聴取され、立位で雑音が大き く なる場合には静脈コマ音で健康児で聞かれることが多い。 ④Ⅱ音の固定性分裂:心房中隔欠損症を疑う。 ⑤Ⅱ音亢進:肺高血圧を疑う。 ⑥ギャロップリズム:心拍数が多いときにも聴取されることがあるが、心不全でも聴取する。 ⑦心音が不規則:呼吸性不整脈または期外収縮などを疑う。 この場合には心電図記録が必要にな ることが多い。 ⑧心音が異常に速い場合(無熱・安静でも150/分以上): 上室頻拍や心室頻拍を疑う。乳児期に は心不全症状を伴うことが多い。 ⑨異常に遅い場合(安静時60/分以下) :完全房室ブロックや洞機能不全などを疑う。 判定上の留意点 問診票の心雑音を指摘されたことがありますかの質問に「はい」 と回答している場合、先天性心疾患 によるものか無害性心雑音によるものかを鑑別する必要がある。心疾患によっては心雑音が出生直 後よりだんだん大きくなる場合もだんだん小さくなる場合もあるので注意深く聴取する。 乳児期に心雑音を指摘された場合には、多呼吸、発育不良、哺乳力低下などの症状やチアノーゼ がないかよく観察する。 心疾患をすでに発見されている場合には、家族の心疾患に対する理解、治療の有無と内容、経過 観察のための受診の有無などを確かめる。 妊娠中に胎児エコー検査で心臓に異常があるといわれた場合には心疾患の有無を確かめる。胎児 心エコー検査で心臓に異常がある場合には重症な心疾患が多い。 早期発見の対象と なる疾患等 ①チアノーゼ型心疾患や重症な非チアノーゼ型心疾患は出生直後からチアノーゼや心不全症状な どで乳児期早期に発見されることが多い。 ②3∼4か月児健診で初めて発見される場合には心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症などの非チア ノーゼ型心疾患が多い。 まれに高度肺高血圧を伴う心室中隔欠損症などが発見されることがある が、 Ⅱ音の亢進がある。 ③心房中隔欠損症は乳幼児期またはそれ以降に左右短絡が増加し、第2肋間胸骨左縁に収縮期 雑音、 また第4肋間胸骨左縁に低調性拡張期ランブルを聴取するようになる。 専門機関への 紹介ポイント ①機能性(無害性)心雑音でなければ専門医療機関へ紹介 ②心音が不規則な場合には専門医療機関へ紹介 ③異常に速い場合または遅い場合には早急に専門医療機関へ紹介 148 専門機関への 紹介ポイント 18. 腹部腫瘤 判定区分 判定方法 判定基準 ・肥満度+20%以上が続く場合。 ・肥満であるが成長率が低下している場合(通常、肥満では成長率の増加を伴うことが多い)。 ・肥満度−15%未満が続く場合。 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 1:所見なし 2:所見あり ・啼泣を避けて、安静時に腹部の触診を行う。 ・各種の腫瘍に随伴する以下の所見の有無に注意する。 眼窩部の出血班、眼球突出、跛行、皮膚結節、腹痛、不機嫌、食欲不振、体重減少、便秘、排尿 障害、 出血傾向、血尿 ・腫瘤の触知部位と可動性に注意する。 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 腹部に腫瘤を触知する場合に判定する。 なお次の所見の合併は重要である。 眼窩部の出血班、眼球突出、跛行、皮膚結節:神経芽腫に随伴する。 腹痛、不機嫌、食欲不振、体重減少:悪性腹部腫瘍に随伴する。 便秘、排尿障害:骨盤腔に出現する後腹膜奇形腫や卵巣腫瘍に随伴する。 出血傾向:悪性腫瘍の骨髄転移によって生じる。 血尿:腎芽腫や尿路系の横紋筋肉腫に随伴する。 判定上の留意点 ・神経芽腫に伴う眼窩部の出血班は虐待と間違われることがある。 ・腹痛を訴える場合には、腫瘍内出血や卵巣腫瘍の茎捻転等の緊急処置を要することが多い。 ・肝芽腫などは強い触診によって破裂することがある。 ・重症の便秘例では糞塊を腫瘤と間違えることがある。 早期発見の対象と なる疾患 神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、奇形腫(後腹膜、卵巣)、水腎症、卵巣嚢腫、横紋筋肉腫 専門機関への紹 介ポイント 腹部腫瘤を触知した場合はすべて専門機関への紹介が必要となる 19. 臍ヘルニア 判定区分 判定方法 判定基準 対象健診:1歳6か月児健診 1:所見なし 2:所見あり ・臍の突出が乳児期のどの時期に始まったかを問診する。 ・臍の陥凹の有無を観察する。 ・臍窩を触診して臍正中部の筋膜の欠損有無を検索する。 ・力ませて腹圧が上昇した時の臍の形態の変化を観察する。 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 問診では、臍の突出が、生後1か月ころから始まっていることが多い。 診察では、臍中央部を触診して、腹壁の欠損孔を触知できる。 安静時は認めず、腹圧上昇時に臍の突出を認めることもある。 判定上の留意点 常に突出していて、安静時にも消失しない場合には、臍腸管嚢胞や尿膜管嚢胞等が臍の皮下に存 在する可能性がある。 巨大なヘルニアでは、時に腸管の嵌頓を生じる危険があり、圧迫にて容易に消失しないことがあった 症例は手術を急ぐ必要がある。 早期発見の対象と なる疾患 臍腸管嚢胞や尿膜管嚢胞は感染や出血の原因となるのでこれらを防ぐことができる。 嵌頓を生じる率は少ないが、注意することでヘルニア嵌頓による消化管壊死の危険を回避できる。 専門機関への 紹介ポイント 1歳までに90%が自然治癒するので、 この時期にヘルニア孔を認める症例は自然治癒の確立が低 149 く、手術の対象となる。 症例は手術を急ぐ必要がある。 早期発見の対象と なる疾患 臍腸管嚢胞や尿膜管嚢胞は感染や出血の原因となるのでこれらを防ぐことができる。 嵌頓を生じる率は少ないが、注意することでヘルニア嵌頓による消化管壊死の危険を回避できる。 専門機関への 紹介ポイント 1歳までに90%が自然治癒するので、 この時期にヘルニア孔を認める症例は自然治癒の確率が低 く、手術の対象となる。 臍ヘルニアの例 1歳女児 脱出腸管が多いので嵌頓や衣服の 擦過によるヘルニア底部の皮膚の びらん形成に注意を要する。 2か月男児;臍上部型 臍の上部に横方向に比較的大きな 筋膜欠損を認め、保存的治療の効 果があまり認められないことが多 い。 資料提供:あいち小児保健医療総合センター小児外科 渡邉芳夫氏 20. 停留精巣 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 陰嚢内容の触診 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 陰嚢内に精巣を触知しない症例で 1) そけい部にも精巣を触知しない場合 2) そけい部に精巣を触知して陰嚢底まで用手的に引き下ろせない場合 は停留精巣の可能性が高い。 3) そけい部に精巣を触知して陰嚢底まで用手的に引き下ろせるがすぐ挙上する場合 4)入浴時や睡眠中には陰嚢内に精巣を触知可能な場合 は移動性精巣といえる。 早期発見の対象と なる疾患 停留精巣 専門機関への 紹介ポイント 生後6か月までは自然降下が見られることがある。現在、停留精巣の理想的手術時期は、生後6か月 から2歳頃の間といわれている。精巣を触知しない場合や精巣が挙上したままの場合、専門医への 受診を勧める。入浴時や睡眠中に触知可能なら問題のないことが多いが、精巣の大きさに左右差が あれば専門医の受診が望ましい。 150 早期発見の対象と なる疾患 脳性麻痺、重度精神運動発達遅延 専門機関への 追視を認めない、 あやし笑いがない、上下肢の動きが乏しいなどの随伴症状の多い場合は、専門機 紹介ポイント 関への早期の紹介が必要 21. そけいヘルニア 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 啼泣時のそけい部の膨隆、排便や排尿の腹圧によって生じるそけい部の腫脹を視診で確認する。 そけいヘルニアを認めた場合には、圧迫による消失の有無、用手圧迫によるヘルニアの還納の容易 さ、男児では膨隆が陰嚢に達するか否かを確認する。 女児ではそけい部に小指頭大の腫瘤として触知される。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 出現と消失を繰り返すそけい部の膨隆所見 腫瘤の圧迫にてグジュグジュ音を伴う腫瘤の消失 女児でそけい部に触れる小指頭大の腫瘤 男児では腫大した陰嚢に透光性が無い 判定上の留意点 常に陰嚢が腫大している場合には陰嚢水腫とヘルニア嵌頓の識別が必要となる 1歳未満のそけいヘルニアは嵌頓を生じやすいので注意が必要である。 早期発見の対象と なる疾患 ヘルニア嵌頓による腸管壊死や卵巣壊死を未然に防ぐ。 専門機関への 紹介ポイント ヘルニアが疑われるすべての症例 そけいヘルニアの例 1か月男児 男児;陰嚢に達 するヘルニア 1歳未満でこの タイプのヘルニ アは嵌頓を生じ る危険が比較的 高い。 2歳女児 9歳女児;大陰 唇に達するヘル ニア ヘルニアとして 気づかれないこ とが多い。 資料提供:あいち小児保健医療総合センター小児外科 渡邉芳夫氏 151 判定上の留意点 の 4:要紹介 : 精神発達の遅れを伴う疾病等が疑われ、診断や治療・療育のために専門機関(医療機 関や療育機関他)への紹介が必要と判定されるもの 3:要観察の判定にあたっては、保健機関で経過を観察する手段や間隔(医師の診察や保健師の相談 22.1 四肢形態異常 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 早期発見の対象と なる疾患等 判定方法 専門機関への 判定基準 紹介ポイント ほか) を具体的に示す。親子教室などの療育的役割を持つ事業への勧奨を要観察とするかどうかは、 その事業の目的や内容によ り市町村で定める。医師・健診スタッフ間で方針を統一して判定する2)。 1:所見なし 2:所見あり ・ 言語発達遅滞、広汎性発達障害 (自閉症スペクトラム)、注意欠陥・多動性障害、 軽度精神発達遅 先天性の四肢の欠損、 重複など明らかな奇形は新生児期に診断されている ことが多いので3∼4か 滞な ど (社会性の発達な ど、 まだ健常児で も到達していないと ころ も あ り、 DSM-Ⅳな どのマニュアル式 月児健診にて判定が必要な四肢形態異常は、新生児期に見逃されうるあるいは成長とともに明らか の操作的診断基準では診断されない場合がある。 ) になって くる異常の判定が中心となる。 ・鑑別診断として、子ども虐待にも留意する。 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 4:要紹介と判定する場合は、適切な機関(医療機関や療育機関他)や紹介時期などを、地域の早 2 を踏まえて保健師などのスタッフと検討し、 期療育等の状況 具体的に示す。子どもの発達を促すた 2:所見あり ) ①四肢・体幹のバランス 1)集団場面や遊びを通じての子どもの様子の観察などを用いることもできる (5.1 健診の運営システム◆集団健診の特徴を活 四肢が体幹に比し短い 四肢短縮型骨系統疾患(軟骨無形成症など) か した工夫参照)。集団健診ではほとんど用いられないが、PARS (PDD-Autism Society Japan Rating Scale)、 体幹が四肢に比し短い 体幹短縮型骨系統疾患(脊椎骨端異形成症など) M-CHAT (The Modified CHAT )などのスクリーニング尺度がある。 ②全身の関節の動きが硬いあるいはゆるくて動きすぎる 2)発達障害児等の早期発見と療育のため、地域の関係機関が連携した活動が行われている (2.4.2母子保健活動における発達支 先天性多発性関節拘縮症、 エーラーダンロス症候群、 マルファン症候群など 援◆市町村における発達支援の例参照) 。保健機関や関係機関が提供する相談支援体制を踏まえて判定する。 ③上肢 3)子育て支援の必要性の判定では、 子どもへの親のかかわり方や受療行動について、助言や情報提供のみで親が行動できるか、 肩の高さが違う 先天性肩甲骨高位症 (スプレンゲル変形) 保健機関での継続支援が必要か、 他機関と連携した支援が必要かなど支援の実現性について判定する。 肘の変形や可動域障害 先天性橈尺骨癒合症など 前腕の変形短縮 橈骨列形成不全、尺骨列形成不全など 手指の変形(爪が二つある、指が太いあるいは小さい、指間の皮膚が癒合、母指が伸びないなど) 多指、合指、屈指、短指、強直母指(ばね指) など ④下肢 左右の下肢形態が異なる、片側の短縮萎縮あるいは肥大 片側肥大症、脛骨列・腓骨列形成不全症、先天性下 偽関節症 膝の変形や可動域障害 先天性膝蓋骨脱臼、反張膝など 足が変形している 先天性内反足、先天性垂直距骨など 足趾の変形 多趾、合趾、斜趾、内反母趾、外反母趾 判定上の留意点 衣服を取って、上肢、下肢の形態を左右しっかり比較する。全身の関節を動かして可動域に制限が ないかを確認する。母が気にしている訴えに耳を傾ける 早期発見の対象と なる疾患 先天性内反足、先天性垂直距骨などの足部疾患 早期からのギプス矯正が必要であり、 その疑いがあれば、早期に専門医を紹介する。 専門機関への 紹介ポイント 先天性手指奇形、足趾奇形である多指(趾)、合指(趾) などの手術は1歳前後で行われることが多 い。 22.2 四肢形態異常(O脚、X脚など) 対象健診:1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 健常児の正常下肢形態は出生直後がもっとも膝内反(O脚)の程度が強いが、成長により自然改善 し、3∼4歳ごろにはむしろ膝外反(X脚)が強くなり6∼7歳ごろにほぼ正常な膝形態になる。 したがっ て1歳6か月児健診で訴えが多いO脚、3歳児健診で訴えが多いX脚は多くは生理的であり、 その後 の経過にて自然に改善することが多い。 またO脚は下 内捻による前足部が内側を向く 「内旋歩行」 をしめすことも多いが、 これも多くはO脚の矯正とともに改善する。 しかし以下の病的なO脚、X脚もあり注意が必要である。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①O脚、X脚の程度が強いもの。臥位で膝間が3横指以上、 あるいは足関節の内果(くるぶし)間が3 横指以上 ②低身長を伴うもの (くる病、骨系統疾患などの可能性あり) ③左右の膝形態が異なるもの、下肢長差があるもの (ブラウント病、 くる病、骨系統疾患など疾患性 の可能性がきわめて高い) 152 ④経過にて悪化しているもの また、 この時期の下肢の異常所見として、尖足や反張膝にも注意する。 2:所見あり ①O脚、X脚の程度が強いもの。臥位で膝間が3横指以上、 あるいは足関節の内果(くるぶし)間が3 横指以上 ②低身長を伴うもの (くる病、骨系統疾患などの可能性あり) ③左右の膝形態が異なるもの、下肢長差があるもの (ブラウント病、 くる病、骨系統疾患など疾患性 の可能性がきわめて高い) ④経過にて悪化しているもの また、 この時期の下肢の異常所見として、尖足や反張膝にも注意する。 判定上の留意点 問診票の家族歴に低身長、O脚が多い場合、 くる病、骨系統疾患など遺伝性のある疾患を考慮に入 れる必要があり、 より丁寧な診察が必要である。 早期発見の対象と なる疾患 病的O脚、X脚を呈するくる病は早期診断できれば、活性型ビタミンD製剤などの治療により膝変形、 低身長の改善が期待できる。 専門機関への 紹介ポイント 判定基準で所見あり例は専門医を紹介する。 ※四肢形態異常には、多指(趾)症、合指(趾)症などの小奇形や外反肘など先天異常に伴う所見も含まれるが、多くは、 1歳6か月 児・3歳児健診以前に指摘を受けるため、X脚O脚などこの時期で発見されるものに注目して記述した。本項目は、県への集積項 目ではない。 23. 股関節開排制限(先天性股関節脱臼) 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 ①開排制限 児を泣かせない (股関節に力が入ると正確な診断ができない) 骨盤を左右に傾けず水平にする。両大 部を両手で優しく保持して開排する。 この時に股関節の 屈曲角度を90度以上とする。開排制限があればそれ以上無理に開排しない (無理に開排すると 徒手的に整復され骨頭障害が生ずることがある。) ②歩容異常 脱臼では片側例では跛行、両側例はアヒル様歩行になる。 ③下肢長差 脱臼では見かけ上の下肢長差が生ずる。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①開排制限 開排角度70度未満(ベッドから20度以上) を開排制限ありと判定する。 特に開排角度に左右差がある女児に注意する (両側同等の軽度の男児の開排制限は内転筋 拘縮が原因で股関節には異常がないことが多い。) ほとんどの股関節脱臼は開排制限を呈する が、関節弛緩性が強いと開排制限を呈しない脱臼もある。開排制限は向き癖と反対側に生ずるこ とが多い。 ②歩容異常 歩行開始後に跛行が続いている例は、専門医を紹介する。 ③下肢長差 股関節を90度屈曲させて、骨盤の傾きをなくし尾側から膝の高さを比較する方法(Allisサイン)が 最もよい。 判定上の留意点 先天性股関節脱臼の危険因子である女児、秋冬生まれ、骨盤位、家族歴(家系に先天性股関節脱 臼や変形性股関節症がいる。) ではより丁寧な診察が必要である。 2等親以内に股関節異常があれ ば所見がなくとも、専門医を紹介してもよい (X線でしか診断できない亜脱臼や臼蓋形成不全を呈す る例も多い)。臀部や大 の皮膚溝の非対称、 クリックサインなども重要な所見である。 (4.2.23 乳児 期の股関節健診の進め方参照) 早期発見の対象と なる疾患 3∼4か月健診で診断されないと、痛みなどの症状がないため歩行開始後に跛行が生ずるまで診断 が遅延されることが多い。3∼4か月健診におけるスク リーニングは治療の予後に大きく影響し、 きわめ 153 て重要である。 臼や変形性股関節症がいる。) ではより丁寧な診察が必要である。 2等親以内に股関節異常があれ ば所見がなくとも、専門医を紹介してもよい (X線でしか診断できない亜脱臼や臼蓋形成不全を呈す る例も多い)。臀部や大 の皮膚溝の非対称、 クリックサインなども重要な所見である。 (4.2.23 乳児 期の股関節健診の進め方参照) 早期発見の対象と なる疾患 3∼4か月児健診で診断されないと、痛みなどの症状がないため歩行開始後に跛行が生ずるまで診 断が遅延されることが多い。3∼4か月児健診におけるスクリーニングは治療の予後に大きく影響し、 き わめて重要である。 専門機関への 紹介ポイント 外来装具治療(リーメンビューゲル装具) は生後6か月までに開始する必要があり、3∼4か月児健診 で疑わしい場合は早急に専門医を紹介する。 ◆乳児期の股関節健診の進め方 (1) 問診 先天性股関節脱臼の危険因子を確認する。 【危険因子】 1) 先天性股関節脱臼・亜脱臼、変形性股関節症の家族歴がある 極めて重要である。2等親以内にこれらの疾患がいれば、股関節所見の有無にかかわらず専門医を紹介し てもよい。XPなどの画 診断でしか確認できない亜脱臼・股関節臼蓋形成不全を伴う児も多い。 2) 女児である(男児の約5から9倍) 3) 骨盤位出生である (頭位の5から6倍) 4) 冬季生まれである。 特に寒冷地では出生後の衣服が厚くなる冬季生れに脱臼は多い。 (2) 診察のポイント 乳児をリラックスさせ泣かさないようにして行なう。 1) 臀部や大 の皮膚溝の非対称 通常股関節は屈曲外転位をとるが、脱臼のある場合、外転が制限され、膝が前方を向く肢位となる。鼡径部 の皮膚溝は深く、後方まで延長し、伸展位における大 内側の皮膚溝も深く、数は増加していることが多い。 2) 開排制限の有無 開排70度未満を開排制限と定義している教科書が多い。向きぐせと反対方向の開排制限が多い。男児の 開排70度程度の両側開排制限は単なる内転筋拘縮であることが多い。 3) 下肢長差 股関節90度屈曲位で骨盤の傾斜をとって、下方から確認(Allis sign) 4) クリックサイン 脱臼の場合は開排させることにより整復されコクッという感じが手で触れることがある。 あまり積極的に行なわない。何度も行なうと骨頭壊死の危険性がある。 5) 坐骨結節と大転子の位置関係の触診 開排位で、検者の示指と中指によりそれぞれ坐骨結節と大転子を触診する。正常ではこれらは近接してほ ぼ平行に触れるが、脱臼股では、大転子は坐骨結節の後上方にやや離れて触れる。時に開排制限が明ら かでない例があるため、 この診察手技は重要であるものの熟練が必要である。 (3) 事例 左股関節に開排制限を認める乳児の診察所見。 154 24. 母斑 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 視診による 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 茶(黒) あざ ① 平母斑:薄い茶色の平坦な色素斑で体表のあらゆる部分に出現する。多毛を伴うものもある。 範囲は生来から変わりないことが多いが、神経線維腫症でみられるカフェオレ斑は進行性に増加す る。 ②色素性母斑:母斑細胞の増殖による良性腫瘍で、生下時から存在する境界明瞭な黒色斑で多 毛を伴うことがある。比較的小さなものは黒子(ホクロ) と称しているが、 ある程度大きいものは色素性 母斑と呼んでいる。 青あざ ①太田母斑 : 生下時から認める青色斑で発症部位は、前額、眼瞼、頬部、側頭部などである。眼球 結膜や口腔粘膜にも青色斑を認めることがある。 ②異所性蒙古斑 : 生下時から認める青色斑で通常の蒙古斑の発現部位である殿部以外のものを 示す。殿部以外の蒙古斑は通常の蒙古斑に比べ、 自然消退が遅い傾向がある。 その他のあざ ①脂腺母斑:生下時から認める脂腺要素の形成異常で、 頭部と前額部が好発部位である。頭部では 限局した脱毛斑としてみられ、 幼児期では黄色から濃い肌色であるが、 徐々に褐色調になってくる。 ②表皮母斑:生下時から認める表皮要素の形成異常で、淡褐色から茶褐色をしている。生下時に はあまり目立たないことがあるが、徐々に表面が粗雑になってくる。体のどの部位でも生じ得るが、四 肢では縦に直線状に配列することがある。 ③神経線維腫症(レックリングハウゼン病) : 平母斑と同様の茶色斑で、個々の色素斑のみでは 平母斑と区別がつかない。5mm以上の色素斑が6個以上異常あれば、神経線維腫症の可能性が 高くなるが、診断には皮疹以外の症状を要する。 判定上の留意点 茶(黒) あざ 平母斑か色素性母斑かの区別は難しい場合があるが、厳密に区別する必要はな い。 青あざ 殿部以外の異所性蒙古斑でも自然消退する可能性はあるので、殿部と比べて色調がかな り薄い場合は所見なしにしてもよい。逆に濃い場合は治療の必要なことが多い。 早期発見の対象と なる疾患 茶(黒) あざ 色素性母斑の中でも巨大なもの 青あざ 青あざは0歳時での治療効果が高いので早期発見が望ましい。 専門機関への 紹介ポイント 茶(黒) あざ 広範囲の黒あざは早期に手術、 レーザーの可能性がある。 平母斑はレーザーが効 きにくいので治療が難しい場合が多いが、顔面など目立つ部位では早期にレーザーをすることがあ る。小範囲で目立ちにくい部位の場合、緊急性はないが、治療を希望される場合は紹介する。 青あざ 0歳でのレーザーの治療効果が非常に高いので早めの治療が必要である。特に色調の濃 い青あざの場合、 レーザー設備のある形成外科へ紹介する。年長児でも治療は可能だが、全身麻 酔が必要になることが多い。 その他のあざ 脂腺母斑は中年(30代)以降に悪性腫瘍に移行することがあり、思春期までに切除 することが望ましい。 155 母斑の例 早期発見対象疾患 専門機関への 紹介ポイント る。 ・1歳頃の始語(ママ、 マンマ等のことばの出始め) を経て、有意味語が増えているか?早い児であれ ば、二語文(パパ カイシャ等)が出てくる。 ・簡単ないいつけ (ことばでの指示) に従えるか? ・平成16年度に、 1歳6か月児健診から二次精査を経て三次精査機関に紹介された38例のうち、両 側に中等度以上の難聴は3例(7.9%)、滲出性中耳炎も3例(7.9%)、聴力正常22例(57.9%)、広汎 性発達障害/自閉症が5例(13.2%) であった。難聴よりも発達障害が多くなっている。 後天性難聴、滲出性中耳炎、発達障害、言語発達遅滞 家人の観察等からも、難聴が疑われるのであれば、鼓膜所見の確認も含めて、基幹病院(市民病院 1)愛知県における新生児聴覚スクリーニングの手引き (平成19年)参照 http://www.achmc.pref.aichi.jp/Hoken/tebiki.pdf 2)小耳症に伴う外耳道閉塞などの肉眼的所見 茶あざ ( 平母斑) 黒あざ (色素性母斑) 異所性蒙古斑 資料提供:あいち小児保健医療総合センター形成外科 中里公亮氏 156 太田母斑 25. 血管腫 対象健診:3∼4か月児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 視診による 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり いちご状血管腫 生後2週頃までにはじめは平坦な紅斑として出現し、徐々に増大・膨隆し赤色の 軟らかい腫瘤となる。生後6か月頃以降は徐々に退縮し、5∼6歳までに自然消退することが多いが、 皮膚の萎縮、 隆起が残ることが多い。 単純性血管腫 出生直後から平坦な紅斑として存在する。紅斑は均一であったり、濃淡があったり する。周囲に増大することは少ないが、成長に伴って面積は大きくなる。通常は自然消退しない。 顔面正中部(前額部、眼瞼部、鼻、口唇部)の血管腫はサーモンパッチと称し、 自然消退するもの が多いが残るものもある。 海綿状血管腫 多くは出生直後から軟らかい皮下腫瘤として存在する。皮膚表面の色調は正常 色∼淡青色∼赤紫色であり、表面にいちご状血管腫を伴うこともある。流入する血流の変化に よって大きさが変化するようにみえることもある。 判定上の留意点 早期発見の対象と なる疾患等 専門機関への 紹介ポイント いちご状血管腫は局面型・腫瘤型・皮下型の3つに分かれ、皮下型の中には視診では海綿状血管 腫と鑑別が困難なものもある。 いちご状血管腫 腫瘤形成が大きく、 びらん・出血を伴うもの。眼瞼で視野を妨げるもの。 単純性血管腫 顔面の三 神経領域の血管腫(Sturge-Weber症候群)四肢の肥大を伴う血管腫 (Klippel-Trenaunay-Weber症候群) Kasabach-Merritt症候群 いちご状血管腫 レーザー治療が効果的で早期に赤色調は消退するが、腫瘤形成の強いタイプで は腫瘤退縮の効果は少ない。最終的な瘢痕に関しては、 レーザー治療をしてもしなくてもあまり変わら ないことが多い。眼瞼の巨大ないちご状血管腫では弱視の可能性があり、 ステロイド治療を考慮する ため早期の紹介が望ましい。 単純性血管腫 ①単純性血管腫は0歳児でのレーザー治療の効果が高いので早期の治療が望ましい。 ②サーモンパッチ (前額部、上眼瞼の血管腫) でも色調の濃いものはレーザー治療の対象になること がある。 ③顔面の三 神経Ⅰ∼Ⅱ枝領域に認めた場合 ④血管腫を伴う四肢の片側肥大を認めた場合 海綿状血管腫 Kasabach-Merritt症候群を疑うような全身状態の場合 157 血管腫の例 いちご状血管腫 単純性血管腫 スタージウェーバー症候群 資料提供:あいち小児保健医療総合センター形成外科 中里公亮氏 158 26. 湿疹 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 急性の皮疹:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗 、痂皮 慢性の皮疹:湿潤性紅斑・苔癬化病変、痒疹、鱗 、痂皮 皮膚の様子:乾燥皮膚、搔痒、皮膚描記症、掻破痕、鳥肌様皮膚 皮疹の分布:頭部、顔面、 口周囲、体幹、四肢、手指、間擦部、臀部 合併症:毛嚢炎、座瘡、伝染性膿痂疹、皮膚真菌症、 合併アレルギー:食物アレルギー、ぜん息、蕁麻疹 アレルギー疾患家族歴:湿疹、食物アレルギー、ぜん息、花粉症 アレルギー検査の既往:特異的IgE抗体、皮膚プリックテスト 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり 乳児湿疹:次のいずれかに該当するもの ・ 顔面や間擦部位に限局した湿疹 ・かゆみを伴わない乾燥皮膚 ・ 適切な治療やスキンケアで2か月以内に消失する湿疹 アトピー性皮膚炎:次のいくつかに該当するもの ・かゆみを伴う湿疹(必須) ・ 顔面を超えて体幹や四肢に広がる湿疹 ・ 適切な治療をしても増悪・寛解を繰り返して2か月以上持続する湿疹 ・アレルギー疾患の家族歴を有する ・ 合併アレルギー疾患を有する ・アレルギー検査で陽性所見がある 判定上の留意点 兄姉の食物アレルギーや保護者にアトピー性皮膚炎がある場合には、食事やステロイド軟膏に対す る不安が強いことが多い。予防的な食物除去は推奨されない。積極的にスキンケアを行って湿疹を 改善させることが、 アレルゲン感作を予防する上でも有効である。 早期発見の対象と なる疾患等 アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、接触皮膚炎 皮膚感染症:膿痂疹、皮膚真菌症、 カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫 乳児湿疹:乳児脂漏性湿疹、間擦疹、乾燥性湿疹 専門機関への 紹介ポイント 中等度以上の湿疹:湿潤(ジクジク)、掻爬・出血、 かゆみの強い湿疹 全身状態:体重増加不良、脱水傾向、不眠、下痢 保護者の不安や無理解:食物アレルギー、 ステロイド拒否、 スキンケア不足 159 27. 被虐待跡 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:所見なし 2:所見あり 判定方法 頭部、顔面、体幹、四肢、外陰部など全身の視診により、熱傷や挫傷、擦過傷、裂傷、凍傷などの外傷 や、 その瘢痕、紫斑、出血斑や色素沈着などの皮膚所見を認めた場合に、 その所見の状態や受傷 機転を親に質問することによる。 判定基準 1:所見なし 問診、診察所見から以下に例示するような所見を認めない。 2:所見あり ①外傷の部位が不自然な場合 手足、特に肘関節、膝関節の背側などは外傷跡が残りやすい場所である。傷痕が診察をしてはじ めて見える部分(背中、臀部、大 内側、腋窩、 そけい部、外陰部など) にある場合や乳児の顔や 頭部の外傷は不自然な外傷である。 ②親の説明が不自然またはつじつまが合わない場合 外傷を見た時には、親に理由を尋ねる。通常親は些細な怪我でも、 その受傷機転をよく覚えてい る。回答があいまいであったり、 3∼4か月児が自分でころんだり、落ちたりなどつじつまの合わない 説明の場合は、否定するのではなく、医療機関での精査を勧め、関係機関に連絡する。 ③皮膚や着衣の清潔が極端に損なわれている場合 身体発育不良を伴う場合や親の表情、態度に不自然さを認める場合には、関係機関と連携した 支援が必要である。 判定上の留意点 乳幼児健診は9割以上の高い参加率を認めるが、健診受診者の虐待通告は統計上かなり少ない。 これは健診受診者の中には、 ただちに一時保護などの行政措置を必要とする状況が少ないためで あり、発育発達の遅れや身体発育不良と判定される中には、要支援家庭が少なからず含まれている (4.2.6 身体発育不良)。健診未受診者のリスクが高いことも示されている。歯科健診の結果も参 考となる (4.4.6 被虐待児の口腔所見)。 早期発見の対象と なる疾患等 ・子ども虐待(身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、 ネグレクト) ・養育環境が不適切なために生ずる事故 ・養育環境や親の子育て状況が不適切なために生ずる身体発育不良 (いずれの場合も、関係機関連携による支援が必要である。) 専門機関への 紹介ポイント 子ども虐待を疑う場合には、児童相談所・要保護児童地域対策協議会に、法律に基づいて通告す る義務がある。親の同意なく通告しても守秘義務違反にはあたらない。 また、発育や発達の遅れ、 身体所見の精査等を理由に、医療機関に紹介することもできる。 この場合 は親の子育ての不適切さを指摘するのではなく、子どもに生じている状況について説明し親の同意 を求める。紹介を拒まれた場合は、 (同意なしに)通告することができる。 160 4.2.28. 3歳児視覚検査 対象健診:3歳児健診 (1)フローチャート 開 始 アンケート配布 アンケート回収 質問項目 訴え 問1のみか あり はい なし ステレオテスト 実施 検査結果 合格 視力検査 可 不可 (未実施を含む) いいえ 未実施 不合格 再検査 再検結果 回収 可 視力0.5 視力検査 不可 未満 以上 はい 管理中か いいえ 問題なし 管理中 精密健診 票 発 行 終 了 終 了 終 了 161 判定上の留意点 問診票の家族歴に低身長、O脚が多い場合、 くる病、骨系統疾患など遺伝性のある疾患を考慮に入 れる必要があり、 より丁寧な診察が必要である。 早期発見の対象と 病的O脚、X脚を呈するくる病は早期診断できれば、活性型ビタミンD製剤などの治療により膝変形、 (2) 3歳児健康診査視覚検査アンケー ト 低身長の改善が期待でき る。 なる疾患 判定基準で所見あり例は専門医を紹介する。 専門機関への 【アンケー 紹介ポイ ント ト】 ※四肢形態異常には、 多指(趾) 症、合指 (趾) 症などの小奇形や外反肘など先天異常に伴う所見も含まれるが、 多くは、 1歳6か月 お子さんについて、 当てはま る ところ を○で囲んでください。 児・3歳児健診以前に指摘を受けるため、X脚O脚などこの時期で発見されるものに注目して記述した。本項目は、県への集積項 目ではない。 1 目が寄ることがありますか。 いいえ ・ は い 2 目が外や上にずれることがありますか。 いいえ ・ は い 3 テレビを見るときに、 離れると見にくいようですか。 いいえ ・ は い 4 ものを見るとき、 次のような様子をしますか。 ア 顔をしかめたり、 目を細めて見る。 いいえ ・ は い イ 頭を傾けて見る。 いいえ ・ は い ウ 顔を回して、 横目で見る。 いいえ ・ は い エ あごをひいたり、 あげたりして見る。 いいえ ・ は い 5 明るい戸外で片目をつぶりますか。 いいえ ・ は い 6 まぶたが下がっていますか。 いいえ ・ は い 7 じっと見ているときに、 目が揺れていますか。 いいえ ・ は い 8 瞳(黒目の中央) が白っぽく見えることがありますか。 いいえ ・ は い 9 黒目の大きさが左右でちがいますか。 いいえ ・ は い 10 その他、 目について心配なことがありますか。 いいえ ・ は い あればお書き下さい。 【視力検査の結果】 1 視力検査をしましたか。 は い ・ いいえ 2 検査の方法を理解して検査が出来ましたか。 は い ・ いいえ 3 小さい輪の切れ目が両目で見えましたか。 は い ・ いいえ 4 小さい輪の切れ目が右目で見えましたか。 は い ・ いいえ 5 小さい輪の切れ目が左目で見えましたか。 は い ・ いいえ 162 専門機関への 紹介ポイント 外来装具治療(リーメンビューゲル装具) は生後6か月までに開始する必要があり、3∼4か月健診で 疑わしい場合は早急に専門医を紹介する。 (3)アンケートと対象疾患 アンケート 1 目が寄ることがありますか。 対 象 疾 患 ・内斜視 ヒルシュベルグ法、 カバーテストなどで、内斜視と偽内斜視を鑑別するとよい。 TNOテスト、 ラングステレオテストを用いても鑑別できる。 2 目が外や上にずれることがありますか。 ・外斜視 間歇性のものが多いので、気付かれないことがある。近見時には斜視がなく 両眼視機能が良いので、 ステレオテストは合格することが多く、 ステレオテスト による判定はできない。 ・上斜視 眼筋麻痺によるものがほとんどで、頭位の異常(斜頚、顔の回しなど) を 伴うことが多い。 3 テレビを見るときに、 離れると見にくいようですか。 4 ものを見るとき、 次のような様子をしますか。 ア 顔をしかめたり、 目を細めて見る。 イ 頭を傾けて見る。 ウ 顔を回して、横目で見る。 エ あごをひいたり あげたりして見る。 a あごをひき上目使いをする場合 b あごをあげて見る場合 *視力不良の発見のための項目 ・屈折異常 遠視、近視、乱視があるが、弱視の原因となる遠視と乱視の検出が重要。 ・弱視 斜視や強い屈折異常のために視機能発達の停止や遅延のあるもので、 早期の治療で視力は回復する。 ・器質的異常 視力不良(3と同じ) ・眼筋麻痺 斜筋の麻痺(上斜筋麻痺が多い) の時に見られ、眼性斜頚という。 筋性斜頚との鑑別は、反対に傾けさせた時抵抗なく曲げることができ、 この時に眼位の上下のずれが顕著となる。 ・眼筋麻痺 水平筋、特に外直筋の麻痺で見られる。反対方向を見させると、 外転制限がはっきりする。 ・眼位性眼振 側方視に眼振の静止位があるもので、正面や反対方向を向かせると、 眼振が顕著になる。 ・強い乱視 垂直方向の屈折度が弱い乱視の時に見られ、通常回す方向が決まって いない。 ・視力不良 強い乱視、高度遠視の時に良く見られる。 ・眼筋麻痺 上方視をすると眼位がよくなる時に見られ、正面視や下方視で 斜視が顕著となる。 ・眼位性眼振 上方視に眼振の静止位があるので、正面視で眼振が顕著となる。 ・眼瞼下垂 瞳孔が隠れてしまうため、 下目使いとなり 間からのぞこうとしてあごを上げる。 ・眼筋麻痺 下方視をすると眼位が良くなる時に見られ、正面視や上方視で斜視が 顕著となる。 163 ・眼位性眼振 下方視に眼振の静止位があるので、正面視で眼振が顕著となる。 5 明るい戸外で片目をつぶりますか。 ・間歇性外斜視 戸外へ出ると片目つぶりを訴えるものが多い。 6 まぶたが下がっていますか。 ・眼瞼下垂 あごを突出してものを見る者が多い。 7 じっと見ているときに 目が揺れていますか。 ・眼振 眼振のみで視力の比較的良い者と、器質的異常があり高度の視力障害を 有する者とがある。 8 瞳(黒目の中央) が白っぽく見える ことがありますか。 ・網膜芽細胞腫 ・先天性白内障 など 9 黒目の大きさが左右でちがいますか。 ・小眼球(小さい) ・先天性緑内障(大きい) (4)視覚検査判定基準 判 定 基 準 視覚アンケート項目1∼10のすべてに「いいえ」 と答 え、更に、視力検査項目のすべてに「はい」 と答えた もの。 視覚アンケート項目1∼10でいずれか1項目にでも 「はい」 と答えたもの。 ただし、視覚アンケート項目1のみ「はい」 と答えた ものに対しては、内斜視の疑いか偽内斜視かを鑑 別するために、 ステレオテストを行い、異常がなけれ ば「いいえ」 と答えたものとする。 指 導 区 分 異常なし 異常の疑いあり 精密健康診査受診票を交付し、委託医療 機関で受診させる。 再検査 3歳6か月の頃に家 庭で再 検 査を行わせ、 その結果を判定基準に基づき振り分ける。 視力検査項目1、 2の両方とも 「はい」で視力検査 項目3、 4、 5のいずれかに「いいえ」 と答えたもの。 視力検査項目1、 2のいずれか1項目にでも 「いいえ」 と答えたもの。 164 【参考】 ランドルト環の作成方法 ①検査距離2. 5mで0. 1と0. 5の視標を作成する基準 <0.1の視標> 切れ目の幅: 7. 5㎜ 線の幅: 7. 5㎜ 外径(全体の高さ・幅) : 37. 5㎜ <0.5の視標> 切れ目の幅: 1. 5㎜ 線の幅: 1. 5㎜ 外径(全体の高さ・幅) : 7. 5㎜ 【2. 5mで0. 1の視標のイメージ図(0. 5の視標は( )の数字)】 37.5mm ! (7.5mm)! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 正方形部分抜く (a) 視角 7.5mm (1.5mm) 37.5mm (7.5mm) ②作成法 図1のように、縦横5段に正方形を積み、内側9個に内接する円と、一番外側の正方形に内接する円を描く。 次に図2のように二つの円に挟まれた輪の部分を黒く塗りつぶす。 さらに上図および図3のように、 その輪の小さ い正方形1つ分を切れ目として抜く。 その際、抜いた正方形のすぐ内側の正方形のごく一部に円がかかってい るのでそれも除く。図4が完成図である。 図1 165 図2 図3 図4 【注記】 2.5mの検査距離で用いる視標の切れ目の幅は正確には次のようになる。 切れ目の幅が広くなり過ぎないように注意すること。 0.1の視標の切れ目の幅:7.27mm(小数点以下第3位を四捨五入) 0.5の視標の切れ目の幅:1.45mm(小数点以下第3位を四捨五入) ③印刷 ランドルト環はコントラストが高く印刷されている必要がある。少し前までは標準視力表でコントラスト90%以 上、准標準視力表で85%以上であった。現在はやや下がっているが、高いコントラスト地が必要であることは 同じ。白の上質紙に黒で印刷する。 ランドルト環には、欠け、 ピンホール、色抜け、断線があってはいけないとされている。 J IS規格では、視力1. 0 の人が3倍の拡大鏡で観察し、欠けなどがないことと規定されている。 コピーや謄写版式の印刷機は不 適当である。 印刷後、仕上がったものを一度拡大鏡で確認してみること。 166 29. 3歳児聴覚検査 対象健診:3歳児健診 (1)フローチャート 聴覚アンケート・聞こえの検査用紙の発送 家 庭 聴覚アンケートの記入・聞こえの検査の実施 市 町 村 聴覚アンケート・家庭での聞こえの検査結果の回収 家庭での聞こえの検査の判定 合格 不合格・不能 不適切 家庭での再検査 (追跡対象) 保健師による聞こ えの検査を実施 合格 不合格・不能 聴覚アンケート 問題なし 問題あり アンケ∼ト1 アンケート2∼5 アンケート6∼8 保健師による聞こ えの検査を実施 合格 (終了) (主治医管理) 委託医療機関 不合格・不能 (終了) 慢性耳鼻咽喉科疾患疑 難 聴 要精検 要精検 疑 診察など ABR、 ピープショウテストなど (ティンパノ (ABR対応医療機関) 対応医療機関) 異常なし 異常あり 難聴精査医療機関紹介 167 (2)3歳児健康診査聴覚検査アンケート 【アンケート】 (アンケートの記入法の説明を動画で見る) お子さんについて、当てはまるところを○で囲んでください。 1 現在、 滲出性(しんしゅつせい) 中耳炎で治療を受けていますか。(a)受けていない (b)受けている 2 中耳炎に何度もかかりましたか。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)かからなかった (b)かかった ( 回) 3 ふだん口をあけて息をしていますか。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)していない (b)している 4 いつも、 いびきをかきますか。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)かかない (b)か く 5 いつも鼻汁を出していたり、 鼻づまりがありますか。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)な い (b)あ る 6 ことばのおくれや発音の心配がありますか。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)な い (b)あ る 7 三語文が話せますか。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)話せる (b)話せない 例えば、 「おとうさんは会社へ行った。」 など 8 耳の聞こえが悪いように思ったことがありますか。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (a)な い (b)あ る 例えば「名前を呼んでもなかなか振り向かない。」 「よく聞き返す。」 「テレビの音をいつも大きくしたり、 近づいて見たりする。」 など 【聞こえの検査】 1 指こすりによる聞こえの検査 (検査の実施方法を動画で見る) 右記の□の中に、 聞こえていれば○、 聞こえていないようなら×、 右耳 左耳 わからない場合は△をつけてください。 2 ささやき声による聞こえの検査 (検査の実施方法を動画で見る) 下記の□の中に、 正しい絵を指さしたら○、 ちがう絵を指さしたり、 指さしをしなかったときは×を つけてください。 また、 検査がうまく行えなかったときは未記入のままにしてください。 [1回目] ツミキ ジュース キリン ウ マ オフロ ボール ウ マ オフロ ボール →(注)6個とも○でなければ、[2回目]を行ってください。 [2回目] ツミキ ジュース キリン 今回、 お子さまに聞こえの検査をされて、 お気づきになった点やお子さまの聴力についてご質問がありましたら ご記入ください 168 (3)アンケート・聞こえの検査と対象疾患 アンケート・聞こえの検査 <アンケート> 1 現在、 滲出性中耳炎で治療を 受けていますか。 2 中耳炎に何度もかかりましたか。 3 ふだん口をあけて息をしていますか。 4 いつも、 いびきをかきますか。 5 いつも鼻汁を出していたり、 鼻づまりがありますか。 6 ことばのおくれや 発音の心配がありますか。 7 三語文が話せますか。 8 耳の聞こえが悪いように 思ったことがありますか。 <聞こえの検査> 1 指こすりによる聞こえの検査 2 ささやき声による聞こえの検査 対 象 疾 患 *1∼5は滲出性中耳炎など慢性耳鼻咽喉科疾患に関する項目 ・中耳炎を繰り返す子どもは耳管機能不全のある場合が多く、痛みを伴う急性 中耳炎がいったん治癒したようにみえても、滲出性中耳炎として存在する可 能性が高い。 *3、 4はアデノイドの大きい子どもを検出する項目 *5は鼻炎、副鼻腔炎の子どもを検出する項目 *3∼5とも滲出性中耳炎の危険因子となり得る。 「いつも」 「常に」 という点に 注意して確認し、異常と判定する。 *6∼8は難聴に関する項目 ・「発音の心配」に関してはサ行、 カ行が正しく言えないなど3歳児なら生理的 な誤りの範囲で、 「 聞こえの検査」が合格の場合、 あえて異常としなくてもよ い。 ・「ことばのおくれ」 として6で保護者に確認しているが、保護者によって基準が あいまいなため、三語文という基準を示してある。 ・音への反応そのものを尋ねる項目 30dB程度の低音域から高音域までを含んだ音が聞こえるかどうかみる。 40dB以内の音で、選ぶ言葉により周波数についても情報が得られる。 「ツミキ」、 「ジュース」、 「キリン」は中高音域の音を、 「ウマ」、 「オフロ」、 「ボー ル」は低中音域の音を多く含んでいる。 *上記の2検査とも合格なら、言語に影響を及ぼす40dB以上の難聴の 存在は否定できる。 169 (4)聴覚検査判定基準 判 定 基 準 家庭での聞こえの検査で合格となり、更に、聴覚ア ンケート項目1∼8のすべてについて (a) を○で囲ん だもの 家庭での聞こえの検査では合格となったが、聴覚ア ンケート項目1について (b) を○で囲んだもの 指 導 区 分 異常なし 主治医管理 家庭での聞こえの検査では合格となったが、聴覚ア 異常の疑いあり ンケート項目2∼5のいずれかについて (b) を○で囲 (滲出性中耳炎等) んだもの 聴覚アンケート項目6∼8のいずれかについて (b) を 異常の疑いあり ○で囲んだもの及び家庭での聞こえの検査で不合 (難聴等) 格又は不能となったものについて、市町村で再度 聞こえの検査を行なった結果、不合格又は不能に なったもの 精密健康診査受診票を交付し、委託 医療機関で受診させる。 【聞こえの検査の判定基準】 1 指こすりの検査 左右とも○がついたものを合格とし、 それ以外を不合格とし、検査にのらなかった場合を不 能とする。 2 ささやき声の検査 1回目の検査で6個全部に○がついた場合、 または1回、 2回の検査を合わせて10個以上 に○がついた場合に合格とする。 それ以外を不合格とし、検査にのらなか った場合を不能とする。 ※この2検査とも合格の場合「聞こえの検査」合格とする。 家庭での聞こえの検査で「不合格又は不能」となったものについて、市町村で再度聞こえの検査を行った結果、「合格」したものは、 家庭での聞こえの検査に 「合格」したものとみなす。なお、 この場合、聴覚アンケート項目6∼8については(a)の回答を○で囲ん だものとみなし、聴覚アンケート項目1∼5の結果により判定する。 170 30. 尿検査 対象健診:3歳児健診 判定区分 1:− 2:± 3:+ 4:++∼ 判定方法 原則早朝第一尿を使用し、 テストテープを用いて行う。 (±)以上を陽性とする。 検査項目:潜血, 蛋白, 糖 (参考1) 判定基準 判定:潜血、蛋白、糖のいずれか1項目が(±)以上を陽性とし、再検査を行う。 再検査でも陽性であった場合は、医療機関に受診を勧める。 【緊急受診を必要とする場合】 1. 蛋白尿単独で4+以上、2. 肉眼的血尿、3. 血尿蛋白尿 3+以上 緊急を要する強陽性が判明した場合は、初回検査であっても保護者に連絡し、医療機関に緊急に 受診するように勧める。 判定上の留意点 愛知県では、 『 愛知県腎臓病学校検診マニュアル』 を2009年に作成し、腎臓病学校検診の標準化 に向けて動き始めたところである。 その意図は、慢性腎臓病を持つ小児の病状が進行し末期腎不全 となって透析や腎移植に進んでしまうことをできるだけ減少させることにあり、乳幼児健診においても 同様である。 判定基準や、専門機関への紹介ポイントを遵守すること。 『 愛知県腎臓病学校検診マニュアル』 (http://www.ai-jinzou.or.jp/pediatrics/pediatrics.html)参照。 早期発見の対象と なる疾患等 小児の慢性腎臓病のうち、腎機能が半分以下となるstage 3以上の多くの原疾患は先天性腎尿路 疾患である。 しかし、 これらの疾患の多くは、検尿だけではスクリーニングできない。 しかし、後天性の 糸球体疾患(いわゆる腎炎)の発見には非常に役立ち、 またこれらの疾患の多くは近年治療可能と なった。 【血 尿 単 独 例】 良性家族性血尿、特発性高カルシウム尿症、 ナットクラッカー現象 尿路結石、遺伝性腎炎、後天性糸球体疾患(いわゆる腎炎) の極初期など 【蛋 白 尿 単 独 例】 体位性蛋白尿、 ネフローゼ症候群、後天性糸球体疾患(いわゆる腎炎)の 一部(多くは血尿を伴う)Dent病(特発性尿細管性蛋白尿症) など 【血尿蛋白尿合併例】 1.後天性糸球体疾患(いわゆる腎炎)、遺伝性腎炎 2.血尿単独と蛋白尿単独の原因の合併など 【尿 糖】 糖尿病、腎性糖尿 ごく稀にファンコニー症候群、先天性腎尿細管異常症など 専門機関への 紹介ポイント ・緊急を要する強陽性所見の場合は直ちに対応するよう保護者に連絡する。 ・先天性腎尿路疾患は、小児腎臓専門施設での診断、治療が必要であり、 その判断は検尿のみで は判定できない場合が多い。一般医療機関から小児腎臓専門施設への紹介ポイント等について 十分理解する必要がある。 (参考2) 参考1 【尿検査の精度向上のための留意点】 1)精度管理のために以下のような留意が必要である。 (ア)試験紙を正しく保存し、比較表の汚染を防ぐ。 (イ)潜血試験紙については、製造後1年以上経つと、未開封であっても劣化する。開封後は、試験紙を取り 出すとき以外は密封して冷暗所に保存し、 2週間以内に使用する。 なお、 ビタミンCを多く含む食品・薬品を 摂取した被験者の尿は潜血反応が偽陰性となる可能性がある。 (ウ)蛋白と糖の試験紙は未開封であれば使用期限内の精度は保たれる。 (エ)コントロールとして、蛋白、糖、潜血の値がわかっている対照尿を検体尿の間に必ず入れて、判定の精度 を保つことが望ましい。 (オ)検査室の室内照度は自然光, 昼光色蛍光灯で1000ルクス以上とする。 (カ)検体は日陰で風通しのよい場所で保存する。 (キ)検尿は採尿後5時間以内に実施することが望ましい。 (ク)厚生労働省の『疫学研究に関する倫理指針』によると、匿名化データを送るなら疾患登録において同意 は不要となり、提供元の倫理審査も不要である。各検査機関が異常者の数など匿名化されたデータを集 171 積できるような体制作りを検討していくには尿蛋白及び尿潜血の各々の陽性数(率)だけでなく、両者とも の陽性数(率) も検討できるようにすることが重要である。 2)正しい尿のとり方 検査前日はビタミンCを多く含む食品や薬品を大量に摂ることは避ける (検査前日は, 夜間に及ぶ過激なス ポーツは控えた方がよい)。 また、体動による蛋白尿の影響を避けるために早朝第一尿が望ましく, 随時尿は 次善の策である。 (ア) 早朝尿(早朝第一尿、中間尿) ①学校検尿では原則として早朝第一尿を検査する。 ②検尿前夜は入浴して体(特に陰部) を清潔にする。 ③就寝時には必ず排尿し、起床直後の尿を採取する。 ④採尿は出始めの尿を取らず、排尿途中の尿(中間尿) を採るのが望ましい。 (イ) 随時尿 検尿には早朝尿が良いが、 それが困難な場合は次善の策として、激しく動き回った後の尿を採るのでは なく、可能な限り安静後のものが望ましい。可能であれば1時間程度椅子に腰掛けるなどの安静後の尿で検 尿を行なう。(この年齢の体位性蛋白尿は少ないと考えられるが、偽陽性者を若干減らすことができる) 参考2 【小児腎臓専門施設への紹介】 各医療機関は、次のような場合に小児腎臓専門施設に紹介する。 血尿単独例 肉眼的血尿の場合 蛋白尿単独例 1. 2+以上 2. 1+以上が3ヶ月以上持続 3. ±であっても半年以上持続する場合 血尿蛋白尿合併例 全例 なお、小児腎臓専門施設は、愛知腎臓財団ホームページに掲載されている。 http://www.ai-jinzou.or.jp/pediatrics/pediatrics.html 一般の医療機関が上記の小児腎臓専門施設に紹介する基準は以下のようであり、腎生検の基準に相当 する。前述した疾患はそのうち主に尿検査で判定できるものである。 1. (2+)以上の蛋白尿 2. スポット尿(一回尿)で蛋白/Crが0.2以上およびまたは蓄尿蛋白尿0.02g/kg/日が3-6ヶ月以上継続する場合 3. 血尿/蛋白尿が合併している場合* 4. 肉眼的血尿 5. 低蛋白血症 6. 低補体血症 7. 高血圧、浮腫、腎機能障害の存在 8. 良性家族性血尿を除く, 腎疾患の家族歴がある場合 上記が1項目でも該当する場合は専門医受診を勧める。 なお、運動制限が必要と考えた場合は、 その制限が妥当かどうかを判断するためにも一度専門施設に紹介する。 *: 血尿1+以上かつ蛋白尿1+を同時に認める場合。 172 31. 医師総合判定 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:異常なし 2:既医療 3:要観察 4:要医療:4.1精神面(再掲)4.2身体面(再掲) 5:要精密 判定方法 健診医が自ら診察した所見の有無に基づき判定する。 健診カルテや問診票、母子健康手帳などに記述されている問診結果や既往症なども利用する。 判定基準 市町村から県(保健所) を経由して国に報告される 「地域保健・健康増進事業報告」の報告項目で ある。国の基準は以下のとおりである。 1 : 異常なし:異常なしと診断を受けた者を計上すること。 2 : 既医療:受診の際に既に医療を受けている者を計上すること。 3 : 要観察:要観察と診断を受けた者を計上すること。 4 : 要医療:要医療と診断を受けた者を計上すること。 要医療と判定した場合には、4.1精神面(再掲) または4.2身体面(再掲) の計上が必要である。 4.1 精神面(再掲) :要医療のうち、精神面での医療が必要と診断を受けた者を計上すること。 4.2 身体面(再掲) :要医療のうち、 身体面での医療が必要と診断を受けた者を計上すること。 5:要精密:要精密と診断を受けた者を計上すること。 1,2,3,4,5のうちのいずれか一つを選択する。4.1と4.2は複数選択してよい。 判定上の留意点 1)複数の内容で違う区分を判定した場合: 4.要医療の判定がある場合には、 これを最優先とする。 それ以外は、5( 要精密)>3( 要観察)>2 (既医療)>1(異常なし) の順に、最も高い区分を医師総合判定に計上する。 2)検尿・視聴覚検査で診察終了後(再検査を含む) に精密検査が必要となった場合は、 「要精密」 と判定する。 3)県への集計項目 (疾病の発見の項目)は、すべての健康課題を網羅していないので集計項目に 所見がない場合にも、2(要観察)以上に判定する場合がある。 32. 精密健康診査結果 対象健診:3∼4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診 判定区分 1:異常なし 2:要観察 3:要医療:3.1精神面(再掲)3:2身体面(再掲) 判定方法 健診の事後措置として、専門機関等で精密健康診査を受けた者の受診結果を報告する。専門機 関の医師等の判定による。 判定基準 市町村から県(保健所) を経由して国に報告される 「地域保健・健康増進事業報告」の報告項目で ある。国の基準は以下のとおりである。 精密健康診査を受けた者の受診結果を計上すること。 1 : 異常なし:異常なしと診断を受けた者を計上すること。 2 : 要観察:要観察と診断を受けた者を計上すること。 3 : 要医療:要医療と診断を受けた者を計上すること。 要医療と判定された場合には、3.1精神面(再掲) または3.2身体面(再掲) の計上が必要である。 3.1 精神面(再掲) :要医療のうち、精神面での医療が必要と診断を受けた者を計上すること。 3.2 身体面(再掲) :要医療のうち、 身体面での医療が必要と診断を受けた者を計上すること。 判定上の留意点 地域保健事業報告の考え方に統一する。 173 33. 現在歯 対象健診:1歳6か月児歯科健診・3歳児歯科健診 判定区分 (歯式に記号を記入する) 判定方法 視診、必要に応じて触診 判定区分 健全歯 健全歯 要観察歯 記号例 説 ・う / またはう 明 処置が認められない歯。 ※ 耗、摩耗、着色、酸 、外傷による破折、形成不全 などでも、う が認められない限り健全歯とする。 − CO ・主として視診にてう窩は認められないが、う の初期症状(病変)を疑わしめる所見があ る歯。 ・経過観察を行うことが適当と判断される歯。 ※学校歯科健康診断の基準を参照のこと。 予防填塞歯 シ ○ C 判定基準 未処置歯 う 歯 サ ○ 処置歯 喪 失 その他 ○ ・う 予防のため、小窩裂溝に合成樹脂や歯科 用セメントを填塞している歯。 ・歯質に実質欠損が認められる歯。 ・治療中の歯。 ・処置歯にう が再発している歯。(二次う ・フッ化ジアンミン銀(サホライド)を塗布し た歯。 ※実質欠損がなく、歯面に着色した状態の場合は、 健全歯あるいはCOと判定する。 ・う 処置が完了している歯。 ※矯正装置や外傷歯の処置など、う ものは含めない。 の処置でない 歯 ・う や外傷などにより抜去、脱落した歯。 ※未萌出歯や先天性欠如歯は含めない。 癒合(着)歯 ゆ合 ・2本の歯が癒合(着)している歯。 ※後方歯を欠如とし、現在歯数は1歯とする。 先欠 ・先天的に欠如している疑いのある歯。 先天性欠如歯 過剰歯 過剰 ) ・先天的に過剰に萌出している歯。 判定上の留意点 ・口腔内に歯の一部でも萌出している場合は現在歯とする。 ・触診が必要な場合は、探針で 合面のプラークを深部に押し込まないよう、やさしい力で 水平に動かして探ること。 早期発見の対象 となる疾患等 ・歯数の異常 ・歯の萌出遅延、異所萌出 専門機関への 紹介ポイント ・極端に萌出が遅い場合は、保護者のかかりつけ歯科医、あるいは小児歯科医に相談するよ う勧める。 保健指導の ポイント ・歯の萌出について保護者が不安を感じている場合は、萌出時期や順序は個人差が大きく、 概ね6か月以上の遅れがなければ問題はないことを伝える。 174 34.1 う 罹患型 対象健診:1歳6か月児歯科健診 判定区分 1:O1型 2:O2型 3:A型 4:B型 5:C型 判定方法 歯垢付着状況、問診・アンケート(生活習慣・食習慣)、う 判定 O1 型 説 部位 明 う がなく、かつ口腔環境がよい。 ( O 2 型の基準に該当しないもの ) う はないが、口腔環境が悪いため、近い将来う 発生が予測される。 ※次の基準のうち、1項目以上該当するもの。 O2 型 判定基準 歯垢 上顎4前歯の唇面に、およそ半分以上歯垢または 歯石が付着している。 おやつ回 おやつとして1日に3回以上飲食する習慣があ 数 る。 おやつ 甘いおやつ(砂糖を含むアメ、チョコレート、ク ッキー等)を、ほぼ毎日食べる習慣がある。 飲み物 甘い飲み物(乳酸飲料、ジュース、果汁、スポー ツドリンク等)を、ほぼ毎日飲む習慣がある。 母乳 母乳を飲みながら寝る習慣がある。 哺乳ビン 哺乳ビンでミルク等(お茶、水を除く)を飲みな がら寝る習慣がある。 歯みがき ほ と ん ど み が か な い 、ま た は 、子どもだけでみがく。 A型 上顎前歯部のみ、または臼歯部のみにう B型 上顎前歯部および臼歯部にう C型 下顎前歯部を含む、他の部位にう がある。 がある。 がある。 判定上の留意点 ・生活習慣・食習慣の状況については、問診・アンケートの他、他職種が把握した情報も参 照する。 早期発見の対象 となる疾患等 ・う 専門機関への 紹介ポイント ・C型の者には、小児歯科医への受診を勧める。 保健指導の ポイント ・この時期にう が認められた者には、う の問題だけでなく、養育姿勢や育児能力などの 問題を併せ持っている場合が多いため、多職種と連携してフォローアップを行う。 発生のスクリーニング 参照3.6 1歳6か月児の歯科健康診査 −3.歯科保健指導のポイント「う 175 罹患型」 34.2 う 罹患型 対象健診:3歳児歯科健診 判定区分 1:O型 2:A型 3:B型 4:C1型 5:C2型 判定方法 う 判定基準 部位 O型 う がない。 A型 上顎前歯部のみ、または臼歯部のみにう B型 上顎前歯部およびび臼歯部前歯部にう C1型 下顎前歯部のみにう C2型 下顎前歯部を含む、他の部位にう がある。 がある。 がある。 がある。 早期発見の対象 となる疾患等 ・う 専門機関への 紹介ポイント ・C2型の者には、小児歯科医への受診を勧める。 保健指導の ポイント ・多数歯にわたる重症う が認められた者には、う の問題だけでなく、養育姿勢や育児能 力などの問題を併せ持っている場合が多いため、多職種と連携してフォローアップを行う。 発生のスクリーニング 参照3.6 1歳6か月児の歯科健康診査 −3.歯科保健指導のポイント「う 176 罹患型」 35. 反対 合(下顎前突) 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) ・下 顎 前 歯が上 顎 前 歯よりも、歯 性、機 能 的、骨 格 的に前 突し、正 常 ①上顎前歯が舌側傾斜もしくは転位している。 ②臼歯部のう による歯冠崩壊が著しい。 ③下顎全体が近心転位している。 ④上顎の発育不全がある。 合と逆になっている状 態 。 判定基準 参考 【学校歯科健康診断の基準】 3歯以上が上下反対の 合になっているもの。 原因 判定上の留意点 資料提供:愛知学院大学歯学部 小児歯科学講座 中野 崇 氏 ・1歳6か月児では乳歯 合が不安定であり、歯列・ 合異常の判定は難しいが、3歳児で は乳歯 合が確立し、判定が可能となる。 ・早期介入が必要な症例、専門医による定期管理が必要な症例を見逃さないよう診察する。 ①乳歯の萌出位置異常が原因になることがある。 ②臼歯部で めないなど、機能的に顎を前に出して前歯部で む癖がある者に多い。 ③遺伝的な場合がある。 ④口唇口蓋裂の者に多い。 早期発見の対象 となる疾患等 ・骨格性などの遺伝的要因が疑われる場合は、 永久歯 専門機関への 紹介ポイント ・早期介入が必要な症例や骨格性などの要因が疑われる場合は、小児歯科医または矯正歯科 医による定期管理を勧める。 保健指導の ポイント ①永久歯との交換期(7歳前後)に、注意深く観察するように伝える。 ②う の治療を早急に勧め、場合によっては保 装置を兼ねた義歯が必要となる。 ③骨格性などの遺伝的要因が疑われる場合、永久歯 合にそのまま移行する確立が高いた め、専門的な診断を必要とする。 ④口唇口蓋裂の主治医による継続管理を勧める。 177 合もそのまま移行する可能性が高い。 36. 上顎前突(過蓋 合) 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 1) 上顎前突 ・上顎の過成長、または下顎が上顎に 対して後方に移動している状態。 判定基準 2) 過蓋 合 ・上顎前歯が下顎前歯に垂直的に深く み 合っている状態。 ・上顎前歯が下顎前歯の2/3以上被って いる状態。 参考 【学校歯科健康診断の基準】 ・上の前歯が下の前歯より8㎜以上出ているもの。 ・デンタルミラーの直径1/2程度。 資料提供:愛知学院大学歯学部 小児歯科学講座 中野 崇 氏 原因 判定上の留意点 ・指しゃぶり・吸唇癖などの口腔習癖や、おしゃぶりの常用による。 ・口呼吸(鼻づまり)による。 ・遺伝的な場合がある。 早期発見の対象 となる疾患等 ・家族性などの遺伝的要因が疑われる場合や骨格性の場合は、永久歯 る可能性が高い。 専門機関への 紹介ポイント ・家族性などの遺伝的要因が疑われる場合や骨格性の場合は、小児歯科医まやは矯正歯科医 への相談と管理を勧める。 ・第一大臼歯萌出後でも過蓋 合が改善していない場合は、小児歯科医まやは矯正歯科医へ の相談と管理を受けるように伝える。 ・口呼吸(鼻づまり)を伴う場合は、耳鼻科医への相談を勧める。 保健指導の ポイント ・口腔習癖などの外力の影響によるものは、年齢、習癖頻度、 合への影響の程度を考慮し た上で、経過観察、あるいは習癖をやめる努力を促す。多職種の助言内容と異ならないよ う注意し、保護者に不安を与えないように配慮する。 ・この時期の過蓋 合は、第一大臼歯の萌出と成長発育により自然治癒する場合があるの で、前後的な不正を伴わない場合は、永久歯との交換期(7歳前後) まで経過観察とする。 合もそのまま移行す 参照 3.6 1歳6か月児の歯科健康診査 −3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 3.8 3歳児歯科健康診査 −3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 178 37. 開 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 ・奥歯で んでも前歯が み合わずに上下の歯の間が開いている状態。 判定基準 参考 【学校歯科健康診断の基準】 ・上下前歯の切縁間に6mm以上の垂直的空 ・デンタルミラーのホルダーの太さ以上。 (歯冠長の1/3以下のものは除外する) 資料提供:愛知学院大学歯学部 があるもの。 小児歯科学講座 中野 崇 氏 原因 判定上の留意点 ・指しゃぶり・吸唇癖・舌癖などの口腔習癖や、おしゃぶりの常用による。 ・口呼吸(鼻づまり)による。 早期発見の対象 となる疾患等 ・永久歯との交換期(7歳前後)まで口腔習癖などの原因が除去できない場合は、永久歯 合もそのまま移行する可能性が高い。 専門機関への 紹介ポイント ・口腔習癖が4歳以降もやめられない場合は、小児歯科医または矯正歯科医に相談するよう に伝える。 ・口呼吸(鼻づまり)を伴う場合は、耳鼻科医への相談を勧める。 保健指導の ポイント ・口腔習癖などの外力の影響によるものは、年齢、習癖頻度、 合への影響の程度を考慮し た上で、経過観察、あるいは習癖をやめる努力を促すよう保健指導を行う。多職種の助言 内容と異ならないよう注意し、保護者に不安を与えないように配慮する。 参照 3.6 1歳6か月児の歯科健康診査− 3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 3.8 3歳児歯科健康診査− 3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 179 38. その他の歯列・ 合異常 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 1) そう生 ・個々の歯の位置がずれて萌出している状態。 ※臼歯部 合は正常で、前歯の萌出位置がずれて交差している状態。 ・歯の大きさや数に対して顎骨が小さく、歯列が乱れている状態。 参考 【学校歯科健康診断の基準】 隣接歯がお互いの歯冠幅径の 1/4以上重なりあっているもの。 2) 正中離開 ・上顎中切歯の間に空 判定基準 正中離開(過剰歯を伴う症例) がある状態。 参考 【学校歯科健康診断の基準】 ・上下中切歯間に6mm以上の空 のあるもの。 ・デンタルミラーのホルダーの太さ程度。 交 3) 交 合 ・ 合した際に上下の歯列が交 いる状態。 合 して 4) 切端 合 ・上下の前歯が先端で当たっている状態。 資料提供:愛知学院大学歯学部 小児歯科学講座 中野 崇 氏 原因 判定上の留意点 ・そう生は、歯数の不足(先天的欠如歯、癒合歯)、過剰歯(埋伏歯)、口腔習癖、先天的 な歯の位置異常(口唇口蓋裂など)による。 ・正中離開は、埋伏過剰歯(正中歯)、上唇小帯の異常発達による。 ・交 合は、上下歯列の幅径不調和、摂食機能不全(片 み)、頬 、横向き寝による。 早期発見の対象 となる疾患等 ・正中離開では、埋伏過剰歯 (正中歯)の疑いがある。 ・骨格性の場合は、永久歯 合もそのまま移行する可能性が高い。 専門機関への 紹介ポイント ・正中離開では、埋伏過剰歯 (正中歯)を疑い、レントゲン検査を必要とする。 ・骨格性が疑われる場合や上下歯列の幅径不調和を認める場合は、小児歯科医または矯正歯 科医への相談と定期管理を勧める。 保健指導の ポイント ・口腔習癖などの外力の影響によるものは、年齢、習癖頻度、 合への影響の程度を考慮し た上で、経過観察、あるいは習癖をやめる努力を促す。多職種の助言内容と異ならないよ う注意し、保護者に不安を与えないように配慮する。 参照 3.6 1歳6か月児の歯科健康診査− 3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 3.8 3歳児歯科健康診査− 3.歯科保健指導のポイント「口腔習癖」 ・永久歯との交換期(7歳前後)に、注意深く観察するように伝える。 180 39. 小帯異常 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 1)上唇小帯 ・上唇小帯が肥大し、口唇への移行部で扇状に広がる。 ・上唇小帯の付着部位が歯槽頂部にあり、切歯乳頭と連結している。 ・付着部位を確認するためBlanch test※を行う。 ※上唇を挙上した時に見られる 貧血帯の範囲を見るテスト 2)舌小帯 ・舌を前方に出した時に、舌尖部がハート型の凹みを示す。 ・大きく開口した状態で、舌尖部を上顎の切歯乳頭につけることができない。 ・舌の運動制限、下顎中切歯の歯間離開が見られる。 ・舌の運動制限により発音に影響が見られる。 判定基準 3)頬小帯 ・主に下顎の犬歯・臼歯部の小帯の肥厚、高位付着に関連する歯の周囲に 炎症が見られる。 上唇小帯異常 舌小帯異常 出典 B 出典 A 出典 D 舌尖部の (ハー ト型凹み) 出典 B A 資料提供:愛知学院大学歯学部小児歯科学講座 中野 崇 氏 B 資料提供:愛知学院大学歯学部小児歯科学講座 小野 俊朗 氏 D 出典:小児の口腔科学 第2版(学建書院) 判定上の 留意点 ・1歳6か月児では、上唇小帯や頬小帯の後退が不十分なものもあり、一見して小帯肥大を 思わせるものもあるが、多くの場合は増齢的に解消していくため、原則として異常と判定 せず、経過観察とする。 ・3歳児では、明らかな機能不全が伴う場合は「異常あり」とする。 (この時点で外科的処置を行うことはほとんどなく、増齢的に解消していくこともあるため、 継続して経過観察を受けるよう保護者に伝える。) 早期発見の対象 となる疾患等 ・上唇小帯付着異常、上唇小帯肥大 ・舌小帯付着異常、舌小帯短縮症 ・頬小帯付着異常 専門機関への 紹介ポイント ・学齢に達しても異常があり、かつ機能不全が伴う場合は、専門医(口腔外科、耳鼻科な ど)に相談するように伝える。 保健指導の ポイント ・上唇小帯の付着部位が歯槽頂部にあり、ブラッシングが困難でカリエスリスクが高い場合 は、適切なブラッシング指導を行う。 181 40. 歯肉異常 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 1)歯肉炎 ・全身疾患や服薬の影響によるもの。 ・歯頸部に食物残渣や歯垢が付着し、口腔細菌の感染によるもの。 2)歯肉膿瘍 ・う などによる細菌感染により、歯肉が限局的に発赤・腫脹し、圧痛があり、 波動を触知するもの。自発痛は訴えないことが多い。 3)その他 ・歯肉ヘルペス、萌出性のう胞、エプーリス、乳頭腫、歯肉肉芽腫、 歯肉のメラニン色素沈着など。 萌出性のう胞 歯肉膿瘍 判定基準 出典 A 出典 A エプーリス 歯肉のメラニン色素沈着 出典 D 出典 A A 資料提供:愛知学院大学歯学部小児歯科学講座 中野 崇 氏 D 出典:小児の口腔科学 第2版(学建書院) 判定上の 留意点 ・萌出性のう胞は、第一乳臼歯(D)の萌出時に認められることがある。 早期発見の対象 となる疾患等 ・歯肉のメラニン色素沈着は、同居家族の受動喫煙の影響が疑われる。 専門機関への 紹介ポイント ・全身疾患が原因と考えられる場合は、専門医(小児科)に相談を勧める。 保健指導の ポイント ・歯肉炎は、適切なブラッシング指導を行う。 ・同居家族に喫煙者がいる場合は、受動喫煙の害を説明し、禁煙を促す。 182 41. その他の口腔軟組織異常 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 1)口角びらん ・口角部の皮膚粘膜移行部にびらんを認めるもの。 2)口唇ヘルペス ・口角部の皮膚粘膜移行部に群発した小水疱を認め、掻痒感、または るもの。 熱感を訴え 3)コプリック斑 ・頬粘膜に散在性の帯黄白色のやや隆起した斑点を認め、その周囲を紅暈で囲まれ ているもの。 判定基準 4)潰瘍性口内炎・壊疽性口内炎 ・口腔粘膜に、カタル症状や、水疱形成が認められる、もしくは水疱が破れて潰瘍 を形成しているもの。 5)口腔カンジダ症 ・口蓋、舌、頬粘膜、口唇に認められる淡雪状白苔を付着した偽膜性病変。 剥離すると出血をきたす。 6)その他 ・血管腫、地図状舌、溝状舌、ガマ腫など。 口唇ヘルペス コプリック斑 出典 A 血管腫 出典 D 口腔カンジダ症 出典 C 出典 C 出典 D A 資料提供:愛知学院大学歯学部小児歯科学講座 中野 崇 氏 C 資料提供:あいち小児保健医療総合センター 加納 欣徳 氏 D 出典:小児の口腔科学 第2版(学建書院) 早期発見の対象 となる疾患等 ・コプリック斑は麻疹の皮膚発疹に先立って見られ、麻疹の早期発見に役立つ。 ・口腔カンジダ症は、カンジタ・アルビカンスによって発症する日和見感染であり、病中病 後や抗生剤の長期使用などにより起こる。 専門機関への 紹介ポイント ・コプリック斑が認められた場合は、小児科へ受診を勧める。 保健指導の ポイント ・口唇ヘルペスは、著しい食欲の減退をきたすことがあり、脱水症状と二次感染の予防に留 意するよう伝える。 183 42. 歯の形態・歯数異常 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 1)歯の形態 ・奇形・・・巨大歯、矮小歯(円錐歯、栓状歯)、結節など。 ・形成(発育)不全・・・エナメル質形成不全、癒合(癒着)歯、白斑歯など。 2)歯数 ・先天性欠如歯、過剰歯など。 癒合(癒着)歯 先天性欠如 判定基準 過剰歯(正中離開を伴う症例) 資料提供:愛知学院大学歯学部 小児歯科学講座 中野 崇 氏 早期発見の対象 となる疾患等 ・極端な奇形歯は、正常な乳歯列を乱し、不正 合の原因となる。 ・乳歯の先天的欠如歯や癒合歯は、永久歯における先天的欠如歯が50%以上予想される。 専門機関への 紹介ポイント ・結節により舌や頬粘膜に外傷を生じる場合は、形態修正が必要であることを伝え、小児歯 科医への相談を勧める。 ・形成不全がある場合は、一般的にう リスクが高いため、小児歯科医による定期的な観 察・管理を勧める。 ・欠如歯が多数にわたる場合や著しい萌出遅延の場合は、小児歯科医への相談を勧める。 保健指導の ポイント ・癒合(癒着)歯の結合部はう になりやすいため、ブラッシング指導や保健指導を行う。 また、永久歯との交換期 (7歳前後)に注意深く観察するよう伝える。 ・結節では、結節部付近が不潔になりやすく、う を惹起しやすい傾向にあるため、ブラッ シング指導を行い、場合によって形態修正が必要であることを伝える。 184 43. 口腔のその他の異常 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 対象健診:3歳児歯科健診(1歳6か月児歯科健診) 1)色調 ・テトラサイクリン系抗生物質の投与、新生児出血性疾患、 象 質形成不全症、外傷(歯髄壊死)による変色など。 2)口腔 ・口唇口蓋裂、斜顔裂、横顔裂など。 3)その他 ・歯石沈着、流涎症(唾液分沙過多)など。 外傷による変色(正面から) 同(口蓋側から) 判定基準 資料提供:愛知学院大学歯学部 小児歯科学講座 中野 崇 氏 判定上の 留意点 ・色調の異常には、脱灰により白濁している歯、歯面の色素沈着(茶渋など)は含めない。 専門機関への 紹介ポイント ・色調の異常で全身性疾患が原因と考えられる場合は、既往症に注意し、専門医(小児科 医)に相談を勧める。 保健指導の ポイント ・口唇口蓋裂を有する児の多くは、医療機関で管理されていると考えられるので、疾患に対 しての指導はほとんど不要だが、歯列不正を伴っている場合には、う 予防の観点から口 腔衛生の重要性を伝える。 185 44. 歯垢付着 対象健診:1歳6か月児歯科健診・3歳児歯科健診 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 視診 判定基準 1 ) 1 歳 6 か 月児 ・判定部位 上顎両側の乳中切歯および乳側切歯(計4歯)の唇面 ・判定基準 およそ半分以上に歯垢または歯石が付着している場合 2)3歳児 ・判定部位 全歯の唇面 ・判定基準 ほぼ全歯に歯垢または歯石が付着している。 判定上の 留意点 ・歯垢および歯石の付着状況を判定する。 ・着色のみの場合は除外する。 専門機関への 紹介ポイント ・多量の歯石沈着があり、歯肉炎の原因となっている場合は、小児歯科医への相談を勧め る。 保健指導の ポイント ・ブラッシング指導を行い、歯みがきや仕上げみがきの習慣をつけるよう促す。 45. 指しゃぶり・おしゃぶり 対象健診:3歳児歯科健診 判定区分 1:なし 2:あり 判定方法 問診・アンケート、聞き取りにて把握 判定基準 ・指しゃぶりやおしゃぶりによって、上顎前突、開 いていると思われるもの。 判定上の 留意点 ・頻度や指の位置によって歯列・ 専門機関への 紹介ポイント ・指しゃぶりやおしゃぶりが4歳以降もやめられない場合は、情緒面を考慮して小児科医に 相談することを勧める。 保健指導の ポイント ・外遊びや手を使う遊びを増やし、習癖の頻度を減らしていくよう促す。 ・強度の指しゃぶりの習慣があり、歯列・ 合に影響が出ている場合は、正常な顎及び歯列 の発育が妨げられることがあるため、背後にある心理的要因に配慮した上で中止の方向へ 助言する。 ・舌癖、吸唇癖、片 み、頬 、横向き寝などの習癖がある場合は、歯列・ 合の経過観 察を勧める。 、交 合などの歯列・ 合異常を招 合異常への影響の度合が異なる。 186 46. 歯科医師判定 対象健診:1歳6か月児歯科健診・3歳児歯科健診 判定区分 1:異常なし 2:既医療 3:要観察 4:要医療 判定方法 歯科医師が自ら診察した所見の有無に基づき、総合的に判定する。 健診カルテや問診票、母子健康手帳に記述されている問診結果等も利用する。 1:異常なし・・・全ての項目で異常が認められない児 2:既医療・・・既に医療を受けている児 例)現在治療中、医療機関で定期管理中または経過観察中、など。 3:要観察・・・現時点では歯科治療の必要はないが経過観察を要する児 例)生活習慣や口腔清掃の改善を要する、要観察歯(CO)を有する、 治療を完了しているが定期管理を受けていない、 う 以外の疾病・異常の疑いがある、 歯列、 合異常を招いている口腔習癖がある、など。 判定基準 4:要医療・・・歯科治療や精密検査、専門医等による相談や指導を要する児 例)未処置のう があり歯科受診していない、 う 以外の疾病・異常があり歯科受診していない、など。 歯科医師の判定フロー例 う なし あり う リスクなし 1. 異常なし う リスクあり 2. 既医療 3. 要観察 4. 要医療 う 以 外 の 疾異 病常 判定上の 留意点 なし あり 1. 異常なし 2. 既医療 3. 要観察 4. 要医療 ・「う 」と「う 以外の疾病・異常」で異なる区分を判定した場合 4:要医療の判定がある場合には、これを最優先とする。 それ以外は、3:要観察>2:既医療>1:異常なしの順に、最も高い区分を判定結果 とする。 ・1歳6か月児健康診査では、う 予防や進行抑制のために、う 罹患の予測を行い、保健 指導を通じてよりよい生活習慣・食習慣を形成させることを念頭におく。 ・3歳児健康診査では、口腔清掃などの習慣形成において大切な時期であり、1歳6か月児 時の危険因子の改善状況も併せて評価する。 187 第3節 子育て支援・保健指導 1. 子育て支援の必要性の判定 (1) 判定のためのステップアプローチ 近年、疾病のスクリーニングから子育て支援へと健診で取り扱われる健康課題が大きく変わる中、 その評価 についても、従来、疾病のスクリーニングで用いられてきた「要指導」 「要観察」などの区分や考え方では、子育 て支援という新しい健康課題の評価にそぐわなくなってきた。 このため子育て支援の必要性を判定する新しい 区分の開発が必要であった。 健診現場では、 まず子どもの問題の有無や、保護者の困難や不安、子どもへのかかわりの不適切さなどへ の気づきから、子育て支援の必要性の検討が始まる。その上で保護者の状況が、改善のため助言や情報提 供を行えば自ら行動できる状況であるか、保健機関からの支援があれば改善が望める状況であるのか、支援 のためには保健機関以外の他機関との連携も必要な状況であるのかと、支援の方法やその実現性を加味し て支援策を立てることが多い。 こうした現場の実状を踏まえて開発されたのが子育て支援の必要性の判定区 分である。 考え方の基本は以下のとおりである。 子育て支援の必要性に対する判定は、 まず、子育てが困難になるような子どもや親、家庭の要因があるかど うかを判断し、 その要因や素因の特定を行う。 1) 子育てが困難になる要因がなければ、支援の必要性はない 何らかの要因や素因を認める場合には、次にその解決方法として、 2) 保健機関からの助言や情報提供があれば、親が自ら行動して望ましい方向に変わる可能性が高い 3) 保健機関からの継続的な支援があれば、親の行動変容を促すことができる可能性が高い 4) 保健機関からの支援のみでは不十分で、医療や福祉、保育、教育など他機関と連携した支援が必要 など支援の実現性の判定の二段階に分けて行う必要がある (図) 1)親・家庭・子どもの要因 有 無 2)親が自ら支援を利用 不能 可能 3)保健機関のみで支援 不能 可能 支援の 必要性なし 助言・情報提供 で自ら行動できる 保健機関の 継続的支援 地域関係機関と連携した継続的支援 図 判定のためのステップアプローチ (2) 子育て支援の必要性 以上の考え方に基づいて、本マニュアルでは子育て支援の必要性を以下のように区分して判定する (表)。 子育て支援が必要な要因は、 「子の要因(発達)」、 「子の要因(その他)」、 「親、家の庭要因、親子の関係 性」、 「授乳(3∼4か月児健診)」、 に区分する。複数の要因の特定が必要な場合がある。 それぞれの要因に対して、支援の方法や実現性も加味して、支援の必要性なし、助言・情報提供で自ら行 動できる、 「保健機関の継続支援が必要」、 「機関連携による支援が必要」、のいずれかひとつに判定する。 188 表 子育て支援の必要性 評価の視点 判定区分 判定の考え方 子の要因 (発達) 子どもの精神運動発 達を促すための 支援の必要性 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動 できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 子どもの精神運動発達を促すため 親のかかわり方や受療行動等への 支援の必要性について、保健師ほ かの多職種による総合的な観察等 で判定する。 子の要因 (その他) 発育・栄養・疾病・ その他の子どもの 要因に対する 支援の必要性 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動 できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 子どもの発育や栄養、疾病など子 育てに困難や不安を引き起こす要 因への支援の必要性について、保 健師ほかの多職種による総合的な 観察等で判定する。 親、家庭の 要因 親、家庭の要因を 改善するための 支援の必要性 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動 できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 親の持つ能力や疾病、経済的問題 や家庭環境など子育ての不適切さ を生ずる要因への支援の必要性に ついて、保健師ほかの多職種によ る総合的な観察等で判定する。 親子の 関係性 親子関係の形成を 促すための 支援の必要性 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動 できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 愛着形成や親子関係において子育 てに困難や不安を生じさせる要因 への親子への支援の必要性につい て、保健師ほかの多職種による総 合的な観察により判定する。 授乳 授乳への支援の 必要性 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動 できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 適切な授乳方法の選択と実践、授 乳時の環境の適切性や授乳への父 親や家庭、身近な人の理解、困っ た時の相談先、授乳中でも外出し やすく働きやすい環境など、授乳 への支援の必要性について、保健 師ほかの多職種による総合的な観 察により判定する。 項目名 (3) 判定の方法 乳幼児健診において子育て支援が必要と気づく場面は、受付、待ちあい、保健師などによる問診、医師の 診察、集団指導や個別指導の場面などさまざまである。 このため、子育て支援の必要性の判定は、健診に従 事した多職種によるカンファレンス等において、各従事者の観察事項等の情報や意見を踏まえ、総合的に判定 することがのぞましい。 実際の判定にあたって、支援が必要な要因を特定することは、実際に支援を始めようとする対象者や方法を 明確化することである。支援の直接の対象が子どもであるのか親であるのか、家庭環境の改善が必要なの か、 それとも乳児期の愛着形成や幼児期の子どもの自立といった親子の関係性に対するアプローチが必要な のか、多職種によるカンファレンスで検討し、何から始めるべきかという優先度や何ならできるという実現性も加 味して判定する。その地域で利用できる社会資源や保健・福祉サービスなどの充実度は、実現性の観点から 判定に影響を及ぼす可能性がある。 子の要因(発達)の判定は、子どもが持つ特徴や困難さに対して、 その発達を促すために保護者の行動を どのように支援するのかの視点で行う。例えば、保健機関からの助言や情報提供があれば、親自らが子どもと のかかわり方を変えることや適切な資源の利用ができるのか、 それとも保健機関での継続的な相談や訪問、教 室参加の必要があるのか、 さらに保健機関だけでなく療育機関や医療機関など他機関と連携した親や子ども への支援が必要であるのかなどである。 この際、子どもの行動や様子が医学的なスクリーニング基準を満たす 189 かどうかについては、必ずしも加味する必要はない。 健診現場からの質問や意見 子育て支援の必要性の判定区分を、県内ですでに利用している現場からは次のような質問や意見 をいただいています。 ・子の要因(発達) と医学的診断との違い 従来の疾病分類で「精神発達」に分類してよいか迷うような気質、例えばかんしゃくが強い、人見 知りが強い傾向はあるが、精神発達のゆがみや遅れとは言い切れないようなものについては、 どのよう に考えて分類してよいのかとの質問がよくあります。 子の要因(発達)の判定は、病名がつくかどうかとは別の視点で考えます。かんしゃくが極端に強いと か人見知りが強い、 しないなどの所見は、 あとで振り返ると発達障害の重要なサインかもしれません が、 そうでないかもしれません。病気と診断されなくとも、 その程度に支援やフォローの必要性がある場 合には、子の要因(発達) として判定することになります。 ・支援の対象者の明確化 体重増加不良という健康課題を、支援の必要性を用いて判定した結果、支援の対象者の違いに 気づいたとの意見がありました。つまり、子どもが飲まない、飲んでいるけど育たないなど子どもの持つ 疾病などが原因で体重が増加しないのであれば子の問題とし、親の知識不足により飲ます量が不適 切、親の疾患、精神障害等が原因で適切な育児ができなのであれば親の問題と判定するということ です。 ・より幅広い対象者の評価 親、家庭の要因と従来の保育家庭環境分類との関連をみると、養育姿勢や育児能力では問題な しと判定した中に、親、家庭の要因では支援が必要と判定されるケースが認められています。 こうした事実から、子育て支援の必要性の判定の視点は、 より幅広い対象の数値化が可能であり、母子 保健活動の実状をより適切に反映する可能性が示されました。 (あいちの母子保健ニュース 第36号 平成22年3月30日発行より引用一部改変) 190 (4) 評価区分とその典型例 ここに示す典型例と似た事例であってもその地域で利用できる社会情勢やマンパワーによって評価区分が 異なる場合がある ○子の要因(発達)に対する支援の必要性 助言・情報提供で自ら行動できる (1歳6か月児健診) 母親は産後のため、父親と2人で健診を受診した。発育・身体所見は特に問題ない。 本児は食べ物にこだわりがあり、内容は定期的に変わる。口元がゆるくよだれが多い。 父は本児の自己主張が強く、関わりにくさを訴えていたが、父親より母の方が本児に上 手に対応していると言う。絵カードでのやり取りはできなかったが、始語は7か月と早 く、現在は2語文が話せる。また、積み木は5個積め、「どうぞ」「ちょうだい」のやり 取りは可能であった。 児のこだわりや関わりにくさの訴えはあったが、絵カード以外の1歳6か月健康診査 のやり取りはできたこと、両親が本児の発達をきちんと見られている環境であることか ら、遊び方や関わり方などを助言することで改善が見られると考えた。心配があればい つでも保健師に連絡してもよいことを付け加えた。 保健機関の継続支援が必要 (1歳6か月児健診) 絵カードの指さしができず、指すということを理解していないように感じられた。積 み木もつめず、言葉による指示にも反応しない。遊びには乗ってくるが、ひとりでしゃ べり、言葉によるやり取りができなかった。人見知りもあまりない。母親は初めての子 どもなので、児の行動に振り回されている印象であった。 児の発達及び母親の関わり方に支援が必要であると考え、まず、問題を明確にするた め、保健センターで開催している「事後教室」に6か月くらい通ってもらうという方針 をたてた。 機関連携による支援が必要 (3歳児健診) 母は本児をスリングで抱いて来所。予診時、児のことばは単語のみで、二語文はでて いない。落ち着きがなく、どの場面でも保健師と関わりが難しい子であった。家庭で聴 力検査、視力検査もできず、健診場面で再度実施したが、やはりできなかった。身長・ 体重の伸びは良好。 1歳6か月児健診時も全体的に発達が遅く、事後教室を紹介したが、2回参加しただけ であった。 3歳児健診時に心理士の面接を実施したが、1年くらいの遅れが見られること、母親も 問題意識が薄く、本児を赤ちゃん扱いしており、積極的に相談機関に相談をしてこな かった方であることから、精神・発達面で診療可能な医療機関の紹介か児童相談セン ターの発達相談につなげ、フォローすることとした。 191 ○子の要因(その他)に対する支援の必要性 助言・情報提供で自ら行動できる (1歳6か月児健診) 14.5㎏、身長82.0㎝、カウプ指数が21.96の肥満傾向であった。母親は、寝る前に 必ず、50∼100ccのフォローアップミルクを与えている。これを機に減らすか、お茶 を与えるよう指導した。また、食事についても大皿盛りではなく、本児用に盛り付けを して、量の確認ができるように助言した。 運動発達には問題ない。母親自身、本児が太ってきていることに気がついていたた め、具体的な保健指導で改善されると考え、計測ができる育児相談の場を紹介した。 保健機関の継続支援が必要 (3歳児健診) 体重19.5㎏、身長90㎝、カウプ指数が24.07と肥満。朝食は菓子パン、1.5∼2リッ トルの炭酸飲料を兄弟4人で1日で空ける。ジャンクフード(ハンバーガーとポテト、 ジュースのセット1人前)をぺろりと食べる。野菜は嫌い、肉は好き、わかめ、きの こ、枝豆は食べる。食べ方ではだらだら食べることが多く、飲み物にも砂糖加えるなど している。おやつの時間は決まっていない。母親も肥満について心配しているが、なか なか規則正しい生活習慣に戻せない。 肥満の問題であるが、食生活・う蝕等母親への育児全体の支援が必要と考え、家庭訪 問と育児相談による継続支援とした。 機関連携による支援が必要 (3歳児健診) 大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症で治療が続き、3∼4か月児健診及び1歳6か月児健診は未 受診であった。現在、在宅酸素療法中で酸素は1㍑/分使用。恥ずかしがり屋のところは あるが、ことばなどの精神発達面は問題ない。友達への関心もある。母親は正職員で働 いているため、看護師のいる保育園に4月から入園した。本人は保育園で遊びたいの で、HOTを外したがるが、園としては病状がわからないので、行動を制限してしまっ ている。母親によれば1日に2∼3時間は酸素を中断してもよいと医療機関から言われて いる。 本児のできることを増やし、地域で楽しく生活できるよう、病院・保育所と連携し支 援する必要があると判断した。 192 ○親、家庭の要因に対する支援の必要性 助言・情報提供で自ら行動できる (1歳6か月児健診) 子どもの発達、発育には今のところ問題ない。母親は「他県から転入し、地域に馴染 めず、引きこもりの状態である」と話される。週末は夫がいるためよいが週の終りころ には怒りっぽくなる。子どもにペースを乱されることで疲れるが、子どもはかわいく、 手を出すことはない。時々実家に電話で話を聞いてもらい、気分転換をしている。 母に病的な感じはなく、相談や仲間づくりの場として、地域の子育てサロンを紹介 し、イライラしてしまった時のために保健センターの電話相談を紹介した。 保健機関の継続支援が必要 (3∼4か月児健診) 不妊治療を5年実施し、双胎誕生。遠方にある母方実家の支援があり、本児たちは順 調に発達・発育している。産後に一度自宅に戻ったが、母一人ではできないと思い即日 実家に戻った。父親は育児に不慣れでできないという。 母は器用なタイプではなさそうだが、実家にいる今の時点では問診上も問題ない。 しかし、遠方であることから、予防接種や育児相談などを活用するのに不便を感じて いるのでそろそろ自宅に戻りたい気持ちがある。 保健センターが実施している、双子の会への参加を促すとともに、両親が揃っている ところで家庭訪問し、それぞれの役割を明確にして父親も育児参加できるよう支援する こととした。 機関連携による支援が必要 (3∼4か月児健診) 母親がうつ病の治療中で、産後ほとんど育児ができず、昼間、授乳(ミルク)とおむ つを替えるのがやっとの状況である。家事やその他の夜の育児は実家の親が中心で行っ ている。児は現在のところ発達・発育も良く、本日の健診では特に問題なかった。 しかし、実家も遠く長期に支援を求めることは困難であることから、今後、父親も交 え、主治医とも連絡をとり、ヘルパーや保育園等の活用も含めて、母親の育児を支援す る体制を検討する必要があると判断した。 193 ○親子の関係性に対する支援の必要性 助言・情報提供で自ら行動できる (3∼4か月児健診) 問診票に「子どもがかわいいと思えない」との記入があった。児は発達、発育、清潔 等特に問題がみられなかった。「かわいいと思うより、こんなに育児が大変だとは思わ なかった」との発言がある。育児が大変な時は近くに住む母方実家の祖母が助けてくれ ている。 今が一番大変な時であること、あなただけでなくみんなそう思っていること伝える と、「少し安心した」との返答あり。 育児相談や育児教室を紹介し、心配なときはいつでも連絡してよいことを伝え、1か 月後に確認の電話をすることとした。 保健機関の継続支援が必要 (1歳6か月児健診) 児は簡単な指示が入りにくく、多動傾向があり、言葉もほとんど出ていない。母親か らは、上の子と比較して、非常に育てにくい子という訴えがあった。母親は本児に対し て叱ることが多く、手が出てしまうこともあるという。 家庭訪問や育児相談で状況を確認するとともに、保健センターが実施している親支援 教室(MCGなど)の参加を勧めていくこととした。 機関連携による支援が必要 (3∼4か月児健診) 母親は17歳で第1子を出産したが、育てることができず、施設に預けた。今回の妊娠 中に5歳になった第1子を引き取った。第2子となる本児を出産後、本児との関係は良好 だが、第1子との親子関係は未形成である。 本児は、発育・発達の問題はない。第1子のことでは月1回家庭相談員が訪問予定。 本児と家族への支援は保健センターの保健師が中心に行うこととし、児童課や児童相 談センターとも連携し、具体的な支援を検討することとした。 194 2. 授乳の支援 (1) 評価の考え方 授乳の支援は、子どもを健やかに育てることを目的とした子育て支援である。 授乳に関する支援の必要性について、次の区分で判定する。 ・支援の必要性なし ・助言・情報提供で自ら行動できる ・保健機関の継続支援が必要 ・機関連携による支援が必要 (2) 評価区分とその典型例 助言・情報提供で自ら行動できる (3∼4か月児健診) 母乳のみで育てており、体重の増えも問題ない。しかし、両方の乳房の外側に3㎝く らいのしこりがあり、腫脹・痛みの訴えがあった。 しこりを取るための授乳方法を教え、軽減しない場合は、受診するよう乳房マッサー ジをしてくれる産科・助産院を紹介した。 保健機関の継続支援が必要 (3∼4か月児健診) 母乳のみで育てているが、体重の増えが悪い。出生3200g、1か月児健診時4300 g、本日4か月10日で5600g。母親は、ミルクを足した方がよいと思い、与えてみた が、全くミルクを受け付けなかったので、母乳のみで育ててきた。授乳間隔も2時間く らいであり、母乳育児に関して疲れを訴えた。 助産師による家庭訪問を実施し、必要があれば乳房マッサージをしてくれる産科・助 産院を紹介することとした。 機関連携による支援が必要 (3∼4か月児健診) 母親は妊娠中から抑うつ状態があり、産婦人科から紹介された精神科病院に通っている。 母親は、母乳で育てたいという思いが強く、精神科から処方された薬を出産後中断してい る。母親は、夜も眠れておらず、表情は暗く、乏しい。 本児は体重増加もよく、発達も今のところ問題ない。実家の母親の協力はある。 母親は「精神科に受診すると薬を飲まされるので、行きたくない」という。 精神科に保健師から連絡取ることは了解を得られ、主治医と相談しながらサポートするこ ととした。 この事例は、「親、家庭の要因」においても「機関連携による支援が必要」と判定した。 195 授乳編 授乳・離乳の支援ガイド 平成19年3月14日厚生労働省 雇用均等・児童家庭局母子保健課 授乳の支援を進める5つのポイント ∼産科施設や小児科施設、保健所・市町村保健センターなど地域すべての 保健医療従事者が、授乳を通して、育児支援を進めていくために∼ 授乳は、赤ちゃんの心とからだを育みます。温かいふれあいを通して、赤ちゃんの心は育ちます。授乳を通して、親 は繰り返し赤ちゃんの要求に応えることで、赤ちゃんを観察して対応していく力を育み、赤ちゃんは欲求を満たす心 地よさを味わうことで、心の安定が得られ、食欲を育んでいきます。 授乳の支援は、赤ちゃんを健やかに育てることを目的とした育児支援です。授乳を通して、安心して赤ちゃんに対 応できるように、妊娠中から出産後まで継続した支援が必要です。 ①妊娠中から、適切な授乳方法を選択でき、実践できるように、支援しましょう。 ②母親の状態をしっかり受け止め、赤ちゃんの状態をよく観察して、支援しましょう。 ③授乳のときには、 できるだけ静かな環境で、 しっかり抱いて、優しく声をかけるように、支援しましょう。 ④授乳への理解と支援が深まるように、父親や家庭、 身近な人への情報提供を進めましょう。 ⑤授乳で困ったときに気軽に相談できる場所づくりや、授乳期間中でも、外出しやすく、働きやすい環境づくりを 進めましょう。 母親育児の支援を進めるポイント ∼もう一度、母乳育児の意味を考え、支援を進めていくために∼ 無理せず自然に母乳育児を実践できるように、妊娠中から出産後の環境を整えることは、赤ちゃんを「育てる」 ことに自信をもって進めていくことができる環境を整えることでもあります。 ①すべての妊婦さんやその家族とよく話し合いながら、母乳で育てる意義とその方法を教えましょう。 ②出産後はできるだけ早く、母子がふれあって母乳を飲めるように、支援しましょう。 ③出産後は母親と赤ちゃんが終日、一緒にいられるように、支援しましょう。 ④赤ちゃんが欲しがるとき、母親が飲ませたいときには、いつでも母乳を飲ませられるように支援しましょう。 ⑤母乳育児を継続するために、母乳不足感や体重増加不良などへの専門的支援、困ったときに相談できる場 所づくりや仲間づくりなど、社会全体で支援しましょう。 196 離乳編 ■離乳の支援に関する基本的考え方 離乳とは、母乳または育児用ミルク等の乳汁栄養から幼児食に移行する過程をいう。 この間に乳児の摂食 機能は、乳汁を吸うことから、食物をかみつぶして飲み込むことへと発達し、摂取する食品は量や種類が多くな り、献立や調理の形態も変化していく。 また摂食行動は次第に自立へと向かっていく。 離乳については、乳児の食欲、摂食行動、成長・発達パタンあるいは地域の食文化、家庭の食習慣等を考 朧した無理のない離乳の進め方、離乳食の内容や量を、個々にあわせて進めていくことが重要である。子ども にはそれぞれ個性があるので、画一的な進め方にならないよう留意しなければならない。 また、生活習慣病予防の観点から、 この時期に健康的な食習慣の基礎を培うことも重要である。 一方、多くの親にとっては、初めて離乳食を準備し、与え、子どもの反応をみながら進めることを体験する。子 どもの個性によって一人一人離乳食の進め方への反応も異なることから、離乳を進める過程で数々の不安やト ラブルを抱えることも予想される。授乳期に続き、離乳期も、母子・親子関係の関係づくりの上で重要な時期に ある。そうした不安やトラブルに対し、適切な支援があれば、安心して適切な対応が実践でき、育児で大きな部 分を占める食事を通しての子どもとの関わりにも自信がもてるようになってくる。 離乳の支援にあたっては、子どもの健康を維持し、成長・発達を促すよう支援するとともに、授乳の支援と同 様、健やかな母子・親子関係の形成を促し、育児に自信をもたせることを基本とする。特に、子どもの成長や発 達状況、 日々の子どもの様子をみながら進めること、強制しないことに配慮する。 また、生活リズムを身につけ、食 べる楽しさを体験していくことができるよう、一人一人の子どもの「食べる力」を育むための支援が推進されるこ とをねらいとする。 ■離乳の支援のポイント 1 離乳の開始 離乳の開始とは、 なめらかにすりつぶした状態の食物を初めて与えた時をいう。その時期は生後5∼6か月 頃が適当である。 発達の目安としては、首のすわりがしっかりしている、支えてやるとすわれる、食物に興味を示す、 スプーンな どを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる (哺乳反射の減弱) などがあげられる。 なお、離乳の開始前の乳児にとって、最適な栄養源は乳汁(母乳又は育児用ミルク)である。離乳の開始前 に果汁を与えることについては、果汁の摂取によって、乳汁の摂取量が減少すること、 たんぱく質、脂質、 ビタミ ン類や鉄、 カルシウム、亜鉛などのミネラル類の摂取量低下が危惧されること、 また乳児期以降における果汁の 過剰摂取傾向と低栄養や発育障害との関連が報告されており、栄養学的な意義は認められていない。 また、 咀しゃく機能の発達の観点からも、通常生後5∼7か月頃にかけて哺乳反射が減弱・消失していく過程でス プーンが口に入ることも受け入れられていくので、 スプーン等の使用は離乳の開始以降でよい。 2 離乳の進行 ⑴離乳の開始後ほぼ1か月間は、離乳食は1日1回与える。母乳または育児用ミルクは子どもの欲するままに与 える。 この時期は、離乳食を飲み込むこと、 その舌ざわりや味に慣れることが主目的である。 ⑵離乳を開始して1か月を過ぎた頃から、離乳食は1日2回にしていく。母乳または育児用ミルクは離乳食の後 にそれぞれ与え、離乳食とは別に母乳は子どもの欲するままに、育児用ミルクは1日に3回程度与える。生後 7∼8か月頃からは舌でつぶせる固さのものを与える。 ⑶生後9か月頃から、離乳食は1日3回にし、歯ぐきでつぶせる固さのものを与える。 食欲に応じて、離乳食の量を増やし、離乳食の後に母乳または育児用ミルクを与える。 離乳食とは別に、母乳は子どもの欲するままに、育児用ミルクは1日2回程度与える。 鉄の不足には十分配慮する。 197 3 離乳の完了 離乳の完了とは、形のある食物をかみつぶすことができるようになり、エネルギーや栄養素の大部分が母乳 または育児用ミルク以外の食物からとれるようになった状態をいう。その時期は生後12か月から18か月頃であ る。 なお、咀しゃく機能は、奥歯が生えるにともない乳歯の生え う3歳ごろまでに獲得される。 (注)食事は、 1日3回となり、 その他に1日1∼2回の間食を目安とする。母乳または育児用ミルクは、一人一人の 子どもの離乳の進行及び完了の状況に応じて与える。 なお、離乳の完了は、母乳または育児用ミルクを飲 んでいない状態を意味するものではない。 4 離乳食の進め方の目安 ⑴食べ方の目安 食欲を育み、規則的な食事のリズムで生活リズムを整え、食べる楽しさを体験していくことを目標とする。 離乳の開始では、子どもの様子をみながら、 1さじずつ始め、母乳やミルクは飲みたいだけ飲ませる。 離乳が進むにつれ、 1日2回食、 3回食へと食事のリズムをつけ、生活リズムを整えていくようにする。 また、 いろ いろな食品の味や舌ざわりを楽しむ、家族と一緒の食卓を楽しむ、手づかみ食べで自分で食べることを楽し むといったように、食べる楽しさの体験を増やしていく。 ⑵食事の目安 ア 食品の種類と組合せ 与える食品は、離乳の進行に応じて、食品の種類を増やしていく。 ①離乳の開始では、 アレルギーの心配の少ないおかゆ(米)から始める。新しい食品を始める時には一さ じずつ与え、乳児の様子をみながら量を増やしていく。慣れてきたらじゃがいもや野菜、果物、 さらに慣れ たら豆腐や白身魚など、種類を増やしていく。 なお、はちみつは乳児ボツリヌス症予防のため満1歳まで は使わない。 ②離乳が進むにつれ、 卵は卵黄(固ゆで) から全部へ、 魚は白身魚から赤身魚、 青皮魚へと進めていく。 ヨーグ ルト、 塩分や脂肪の少ないチーズも用いてよい。食べやすく調理した脂肪の少ない鶏肉、 豆類、 各種野菜、 海 藻と種類を増やしていく。脂肪の多い肉類は少し遅らせる。野菜類には緑黄色野菜も用いる。 ③生後9か月以降は、鉄が不足しやすいので、赤身の魚や肉、 レバーを取り入れ、調理用に使用する牛 乳・乳製品のかわりに育児用ミルクを使用する等工夫する。 フォローアップミルクは、母乳または育児用ミ ルクの代替品ではない。必要に応じて (離乳食が順調に進まず、鉄の不足のリスクが高い場合など)使 するのであれば、 9か月以降とする。 このほか、離乳の進行に応じてベビーフードを適切に利用することができる。 離乳食に慣れ、 1日2回食に進む頃には、穀類、野菜・果物、 たんぱく質性食品を組み合わせた食事とする。 また、家族の食事から調味する前のものを取り分けたり、薄味のものを適宜取り入れたりして、食品の種類や 調理方法が多様となるような食事内容とする。 イ 調理形態・調理方法 離乳の進行に応じて食べやすく調理したものを与える。子どもは細菌への抵抗力が弱いので、調理を行 う際には衛生面に十分に配慮する。 ①米がゆは、乳児が口の中で押しつぶせるように十分に煮る。初めは「つぶしがゆ」 とし、慣れてきたら粗 つぶし、つぶさないままへと進め、軟飯へと移行する。 ②野菜類やたんぱく質性食品などは、初めはなめらかに調理し、次第に粗くしていく。 ③調味について、離乳の開始頃では調味料は必要ない。離乳の進行に応じて、食塩、砂糖など調味料を 使用する場合は、 それぞれの食品のもつ味を生かしながら、薄味でおいしく調理する。油脂類も少量の 使用とする。 ⑶成長の目安 食事の量の評価は、成長の経過で評価する。具体的には、成長曲線のグラフに、体重や身長を記入し て、成長曲線のカーブに沿っているかどうかを確認する。からだの大きさや発育には個人差があり、一人一 人特有のパタンを描きながら大きくなっていく。身長や体重を記入して、 その変化をみることによって、成長の 経過を確認することができる。 体重増加がみられず成長曲線からはずれていく場合や、成長曲線から大きくはずれるような急速な体重 増加がみられる場合は、医師に相談して、 その後の変化を観察しながら適切に対応する。 198 離乳食の進め方の目安 離乳食の開始 生後5、 6か月 <食べ方の目安> <食事の目安> 調理形態 Ⅰ 穀類(g) ○ 子どもの 様 子 を見ながら、1日 1 回 1さじずつ 始める。 離乳の完了 7、 8か月 ○ 1日2 回 食 で 、 食 事 のリズム をつけていく。 9か月から、 11か月頃 12か月から、 18か月頃 ○食事のリズムを 大 切 に 、1日3 回 食に進めて いく。 ○ 1日3回の食 事 のリズムを大切 に、生 活リズム を整える。 ○家族一緒に楽 しい食 卓 体 験 を。 ○自分 で食 べる 楽しみを手づか み食 べから始 め る。 ○母乳やミルクは 飲みたいだけ与 える。 ○いろいろな味や 舌ざわりを楽し めるように食品 の種類を増やし ていく。 なめらかにすり つぶした状態 舌でつぶせる固 さ 歯ぐきでつぶせ る固さ 歯ぐきで噛める 固さ 全がゆ 全がゆ90 軟飯90∼ 50∼80 ∼軟飯80 ご飯80 つぶしがゆから始 める。 すりつぶした野菜 なども試してみる。 慣れてきたら、つ ぶした豆腐・白身 魚などを試してみ る。 1 Ⅱ 野菜・果物(g) 30∼40 40∼50 20∼30 回 15 15∼20 10∼15 当 Ⅲ 魚(g) た 又は肉 (g) 15 15∼20 10∼15 り の (g) 又は豆腐 45 50∼55 30∼40 目 子どもが示す姿 指導ポイント 安 又は卵(g) 全卵1/2 全卵1/2 卵黄1∼ 量 ・運動 (g) 又は乳製品 80 ∼2/3 全卵1/3 ・養育者に不安があれば、発達のマイルストーン をもとに、具体的に「いつまで、どのような状 哺乳する力が弱い 100 50∼70 況になるまでフォローする」と説明する 粗大運動(四肢の動きが弱い) →健診担当者の「様子をみましょう」は、養育者 ・感覚への反応 が『問題ありません』と受け取る傾向がある 音(乏しい・敏感) →マイルストーンから大きく外れる場合は、専門 抱きにくい・抱かれにくい 機関等へ相談を勧める こだわり(哺乳瓶・乳首・ミルク) 上記の量は、 あくまでも目安であり、 子どもの食欲や成長・発達の状況に応じて、 食事の量を調整する。 ・情緒反応 ・養育者自身が子どもにどう関わればよいのかわ 表情が乏しい・硬い <成長の目安> 成長曲線のグラフに、 体重や身長を記入して、 成長曲線のカーブに沿っているかどうか確認する。 からず、うまく対応できていないことがある 泣かない・よく泣く (例)子どもの月齢に合わないおもちゃで遊ばせ 物や動きを目で追わない たがる、子どもに触れない等 アイコンタクトが乏しい、短い →子育て支援センターや親子教室等の情報提供や おとなしく手がかからない 参加を呼び掛ける かんが強い →1歳6か月健診までの相談も可能であることを伝 ・興味関心 える(必要であれば担当者から連絡する) おもちゃへの反応が乏しい ・行動面の個人差が生じやすい年齢であるため、 ・運動 養育者の不安が高まる時期と考えられる 粗大運動(座位・ハイハイ・歩行ができない、 →子どもの状況や相談内容によっては、相談の 不安定) フォローや専門機関へ紹介が必要である 微細運動(握る、つまむ)できない 動作模倣ができない ・「始語は何だった?」と確認を行う ・コミュニケーション 始語が遅い(内容も確認) 199 →興味の偏りや狭さを示している場合もあり、高 機能児の指摘となることがある 単語の数が増え方・消失する 指さししない 3. 生活習慣への支援 問 診から得られる幼 児 期の生 活習慣に 表 幼児の朝食の喫食状況 対して、支援を行う根拠として次に示すよう なデータがある。 (1) 朝食 1歳 2歳 3歳 4歳 5-6歳 毎日食べる 89.3 85.0 83.6 87.8 89.6 週に1∼2回ぬく 6.3 10.5 10.3 7.2 6.9 週に3∼4回ぬく 1.0 1.5 0.6 0.4 1∼6歳において、"毎日は朝ごはんを食べ ない"子どもが10%前後みられ、朝食の欠食 週に1∼2回しか食べない 2.0 2.0 2.2 1.6 の問題は低年齢化している(表参照)。 その他 1.3 2.1 1.9 2.3 学力と就寝時間、朝ごはんと関係の調査で は、就寝時間が早く、朝ごはんを食べている 無記入不明 0.2 0.6 0.2 0.1 グループが最も学力が高く、就寝時間が遅 資料:(社)日本小児保健協会「平成12年度幼児健康度調査」 く、朝ごはんを欠食しているグループは学力 が低いという結果が出ている。 (「全国学力・学習状況調査」結果より) 0.7 1.6 1.0 0.2 (2) 就寝時間 就寝時間は、幼児の睡眠時間の確保や適切な生活習慣を身につける上で重要であるが、就寝時間が最もば らつきが大きく22時以降に就寝する6歳以下の幼児の割合は29% (約3割) に上っている。 (ベネッセ教育研究 開発センター「第3回幼児の生活アンケート」2005年) 科学的に、 21時前に寝かせると、細胞を守り、規則的な眠気をもたらし、性的な成熟を抑制して、老化を防止 する作用・抗がん作用がある「メラトニン」が分泌され、夜遅くまで光を浴びていると分泌が抑えられる。「メラトニン 」は5歳くらいまでに最も多く分泌される。朝早く起きて、太陽の光を浴びると、やる気が出て感情や行動をコント ロールする「セロトニン」が分泌される。遅寝遅起きでは、両方のホルモン分泌が抑制され、体だけが早くに成熟 し、心とのバランスが崩れ、落ち着きのない、 イライラした、攻撃性の強い、稚拙な感情表現しかできない子どもにな るといわれる。就寝時間はテレビの視聴時間や朝食の摂取状況等さまざまな生活習慣に影響が及ぶ。 (3) テレビの視聴時間 テレビの視聴時間が4時間以上の子ども (長時間視聴児)では4時間未満の児に較べ, 有意語出現の遅れが 1.3倍高率であった。 また、子どもの近くでテレビが8時間以上ついている長時間視聴家庭の子どもで有意語出現 の遅れの率が高く、特に、長時間視聴家庭における長時間視聴児の有意語出現の遅れの率は短時間視聴家 庭の子どもの2倍であった。 テレビを介したコミュニケーション機会となっていることも認められるが、言語発達全般 (2004. 日本小児科学会発表) に悪影響であるという結果を得ている。 (4) おやつ 幼児のおやつの回数は、一日一回、通常午後2∼3時に、一日の必要エネルギーの10∼20%程度にあたる2 00kcalを目安にするのが基本である。回数、内容、与え方(手洗いのしつけを含む)の把握から、養育者の育児知 識、子との接触度等を知ることができる。 また、歯科保健の側面からも重要な因子であり、不規則な飲食がう に 影響するのは言うまでもない。 (5) 排泄自立 2歳前後になると、大脳の発達にともない自分の意思で膀胱括約筋・肛門括約筋をコントロールできるようにな り、短時間の排泄コントロールが可能になる。排尿間隔が2時間くらい空き、排尿の前に仕草で尿意を伝えられ、 大人の真似をしたがる等あればトレーニング開始の時期。養育者がトイレ誘導し、座らせること、できたら誉め、失 敗しても怒らない等のトレーニング姿勢は、 自立に大きく影響するものと考えられる。 3歳は排泄が随意的にできる ようになる年齢ではあるが、 トイレットトレーニングは時間がかかり忍耐を要する。 トレーニングの完了(夜尿もなくな る)までには、個人差も大きく、養育環境、養育姿勢による影響が大きい。 200 ◆幼児期の食事指導のポイント 食べることは生きるための基本であり、子どもの健やかな心と体の発達に欠かせない。食を通じた子どもの健 全育成(いわゆる「食育」)は、子どもが、広がりをもった「食」に関わりながら成長し、 「楽しく食べる子ども」に なっていくことを目指している。乳幼児健診においても、 「食育」の観点を踏まえた食事指導や栄養指導を行う 必要がある。 幼児期に育てたい 食べる力 ―食べる意欲を大切に、食の体験を広げよう― ○おなかがすくリズムがもてる ○食べたいもの、好きなものが増える ○家族や仲間と一緒に食べる楽しさを味わう ○栽培、収穫、調理を通して、食べ物に触れ始める ○食べ物や身体のことを話題にする (厚生労働省:「楽しく食べる子どもに∼食からはじまるすこやかガイド∼」より) 1 規則正しい食事をする。 朝・昼・夕食、間食の食事リズムを大切にする。いつでもどこでも食べられる食環境は、過食に陥りやすい状況 でもある。食事量のバランスをはかるとともに、毎食、主食(ごはん・パン・麺) +副菜(野菜・きのこ・いも・海藻料 理) +主菜(肉・魚・卵・大豆料理) を組み合わせる。 2 よく噛んで食べる習慣をつける。 十分に咀嚼することは顎の発達、唾液の分泌を促して、消化吸収を助け、 う 予防にもつながる。柔らかい 食べ物だけでなく、噛みごたえのある食べ物、弾力があるもの、塊状のものなどを与え、 よく噛んで食べる習慣を つける。 3 多種類の食品を食べるようにする。 野菜類や海藻などの食べにくい食品に対する偏食が生じ始める時期である。彩りや切り方などを工夫し、多 様な食品の味、香り、食感などに慣れさせ、好き嫌いなく何でも食べられるようにする。 また、油脂類のとり過ぎに留意しながら、茹でる、蒸す、煮るなどの調理も取り合わせる。 4 薄味に慣れる。 食事量が増えるとともに塩分量も多くなりがちである。幼児期から薄味に慣れさせることが大切である。 5 牛乳・乳製品を毎日とるようにする。 牛乳や乳製品は保育園や幼稚園でとるだけでなく、家庭でも毎日とることを習慣化する。 6 おいしく、楽しく食べるようにする。 食事の準備や料理の手伝い、後片付けなどの食事づくりに参加することは、食べることへの興味を育む。家 族そろって食べる中で、食事のマナー、食べ方、食具の使い方などを学び、食事の自立に向けて望ましい食習 慣の基礎づくりをはかる。 「おうちでごはんの日」の毎月19日は、一緒に食卓を囲むように心がける。 7 間食の与え方に注意する。 間食は楽しみであるとともに不足栄養素の補給としても重要である。与える時間と量を決めて、 ジュースや菓 子などの甘いものに偏らないようにし、不足しがちなカルシウムや鉄分が補える食品を用いるとよい。水分補給も 考慮し、牛乳、水、 お茶を組み合わせる。量は1日の総エネルギーの10%程度とする。 201 8 個人に合わせた食事内容とする。 エネルギー及び栄養素の摂取量については「日本人の食事摂取基準」に基づき、個々の栄養状態、身体発 育に応じて評価する。食物アレルギーがある子どもには、 アレルゲンに配慮しながら、栄養素の偏りにも注意す る。 9 衛生面に注意する。 幼児は細菌等への抵抗力が弱いので、新鮮な食品を用い十分加熱をする。調理前、食事前にはきちんと手 洗いをする。 202 第4節 疾病を持つ子どもの理解と家族への支援 1. アトピー性皮膚炎 診断や治療の基本と最新の考え方 定義:増悪と寛解を繰り返す、搔痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。 アトピー素因とは、 アレルギー疾患の家族歴・既往歴又はIgE抗体を産生しやすい素因。乳児では2か月 以上、 その他では6か月以上を慢性とする。 薬物治療:ステロイド軟膏で皮膚炎をほぼ完治させることを目指す。 ステロイド外用薬は皮疹局所の重症度に 応じて選択し、数日使用すれば明らかに改善を認めるランクを、原則として希釈せずに1日2回塗布する。 局所の湿疹がなくなるまで塗布を続け、 その後から隔日塗布などの間欠的使用に移行する。 スキンケア:石鹸をよく泡立てて、強く擦らな いように手で洗う。入 浴 後 1 0 分 以 内 に、保湿剤を使用する。 外用薬 使用量の目安:ステロイド薬・保 湿 剤とも、人差し指第1関節の長さに軟 膏チューブから出した量(1FTU、約 0.5g)で両掌の面積に塗布できる。幼 児の全身に塗布するためには、5g以 上の軟膏が必要となる。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導のポイント 1) 3∼4か月頃 滲出液を伴う湿疹(写真1)は強いアレルギー性炎 症によるものであり、食物アレルギーの合併率も高い。 放置するとIgE抗体が上昇して食物アレルギーも増悪 することがあるので、積極的な治療をすることが望まし い。 2) 1歳6か月頃 滲出液は減少して治癒傾向を示すことも多いが、乾 燥皮膚を主体とした湿疹が持続するか、新たに発症 することがある。 この時期以降に発症する湿疹は、食 物アレルギーの関与は少ない。 3) 3歳頃 乾燥の強い湿疹が持続する場合は、十分な洗浄と 保湿を継続することが大切である (写真2)。強い炎症 や苔癬化(硬いゴアゴア) を伴う湿疹には、 ストロングク ラスや、時にはベリーストロングクラスのステロイドを使 用する (写真3)。 写真1 滲出液を伴う湿疹 写真2 乾燥の強い湿疹 写真3 苔癬化 資料提供:あいち小児保健医療総合センターアレルギー科 伊藤浩明氏 203 2 脳性まひ 診断や治療の基本と最新の考え方 脳性まひとは、胎生期から新生児期の間に生じた脳の不可逆的病変によって起こる、主に運動機能障害の 総称である。脳性まひの有病率は、 日本の研究で1,000人当たり1.34人という報告がある。他方、 その原因は近 年 変 化してきており、欧 州 の 研 究 によると、脳 性まひ のうち約 9 0%が 脳 室 周 囲 白 室 軟 化 症( P V L : periventricular leukomalasia)であるという報告がある。PVLは、早産児や低出生体重児での罹患率が 高いことが分かっており、早い段階で適切に療育へつなげるためにも、障害の早期発見は子どもとその保護者 にとって重要であり、健診者は適切な診断が求められる。 障害のタイプによって運動発達は異なる 脳性まひによる運動機能障害は非進行性であり、 そのタイプや程度によって予後が大きく異なってくる。障害の 主体は「筋緊張異常」であり、 そのタイプは大きく5つに分類される。それぞれの特徴について、簡単に説明する。 a)痙直性・ ・ ・四肢及び体幹の筋緊張亢進を主症状とする状態。両上下肢及び全身に亘ってほぼ等しく障害 される「四肢麻痺」、上肢よりも下肢が強く障害される「両麻痺」、身体の片側のみの痙直性を特徴とす る「片麻痺」、 そして、身体の片側により強く障害され、対側もある程度障害されている「両側片麻痺」、 に大きく分類される。 b)アテトーゼ・ ・ ・無目的で無意味な不随意運動を示す状態であり、大脳基底核等の錐体外路系の異常によ って起こる。 c)運動失調・ ・ ・運動の協調性が障害されている状態であり、小脳や脊髄の病変が疑われる。初期の症状は アテトーゼに似ているが、バランス能力が求められる立位や歩行の段階で協調性の障害は目立ってくる。 d)低緊張・ ・ ・筋の張りや量(かさ)が少なく、 自発的な運動が乏しく弱々しい状態。 しばしば触覚や運動覚ある いは前庭覚の障害を伴う。 e)混合型・ ・ ・上記のいずれかの特徴に当てはめることが難しい運動障害の状態であり、複合的な原因により 協調運動障害を示す。運動機能障害としてはこのタイプが最も多い。 障害のタイプにより、児が呈する姿勢保持の能力や方法が異なる。a)の場合、非対称性緊張性頚反射等の 原始反射の影響を受けるためにしばしば姿勢保持が困難となる。 b)やc)では、支持面を定めにくく、 どの姿勢 においても無駄な動きが多いのが特徴である。 d)の場合は、重力に打ち勝って動くことができないために、仰向 けでの遊びが多くなり、 またうつ伏せでは頭部を正中位に保持することが難しい。障害のタイプに加え時期に よって状態は異なるので、 それぞれの問題に見合った生活上のアドバイスを行う必要が生じる。 哺乳や食事の仕方を観察する 筋緊張の問題は、口腔機能にも影響していることが多い。乳児期において、哺乳リズムの不調(のみ方が下 手)や頻回にムセが起こる等の訴えがあれば、小児神経科の受診も考慮されるべきである。幼児期では、乳児 嚥下からの離脱が上手くいかないことで問題が発見されることがある。哺乳瓶でしか飲まない、離乳食の受け 入れや捕り込みが悪い、噛まずに飲む、口を開けたまま飲み込む等の訴えが想定される。姿勢を保てないことが 食事環境の問題を引き起こしていることもあり、注意が必要である。 「療育」の変遷とその目的 脳性まひ児等への支援は「療育」に位置付けられる。療育とは、 もともと脳性まひ等による肢体不自由児の育 成のために多職種が協働で取り組む活動を指していたが、近年では、広汎性発達障害児など発達支援が必 要なすべての子どもに対する活動も含むようになり、 その目標は「障害の克服」から「障害があっても自立した生 活ができる人の育成」を目指した、子育て支援から始まる一貫した「地域ケア」を指すように変化していった。 と りわけ、脳性まひ児においては運動機能に問題を有するため乳児期からの支援が望ましく、保健から医療・福 祉へと早期に連携する必要がある。障害を持つ児が、障害の確定を待たずに、保護者の障害理解への援助 も含めて、児のライフステージに応じた「療育」を目指すこととなる。 204 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月以降 指導ポイント1 : 「抱っこしにくい」 とき 緊張性を認める児では、身体を強く反らせるとか、手足が突っ張っている等により、抱っこで落ち着いた状 態に保つことが難しい場合がよくある。児の身体を包み込むように、 しっかりと抱かかえるよう指導する。体躯 を丸めて頚部が後屈しないような姿勢にするのがポイントである。 また、低緊張の児では、表情や反応が乏し い、仰向けに寝た状態で腕や脚を動かさない等が聞かれる。ぐにゃぐにゃ して抱っこしにくいことが多いの で、両肩(肩甲帯) をしっかり把持して、頚部が過度に伸展しないように持ち上げ、抱擁抱っこ (前抱き) をする よう指導する。 指導ポイント2 : 感覚面の問題は発達の阻害因子 目が合わない、話しかけても反応が鈍い、手足や顔を触ると過度に嫌がる、体の向きを少し変えただけで 泣き出す等の感覚面の異常は、児の成長発達を大きく妨げる。 これらの場合、保護者はついつい過剰に刺 激する傾向にあり、児の反応に困った時の対応が適当でない場合は指導が必要である。触る時は圧迫する ように把持し、触る場所は身体の末端から中心へ徐々に変えていくようにする。把持した児の手を目の前に誘 導し、 「視る」ことを促すのもよい。児の両手を目の前でゆっくり合わせると、 目と手の協調性を促すことに繋が る。揺らす時は、抱擁して行うように指導する。外からの刺激に慣れてきたら、 うつ伏せの恰好をとらせることも 良い。 指導ポイント3 : 早期療育への連携 最初の健診では、脳性まひの有無を含めて、 より専門的な支援が必要か判らない場合がある。保護者が 不安に感じている場合は、躊躇することなく専門外来の受診を勧めることが早期療育への近道である。保護 者の認識が不十分であれば、 その後の予防接種の機会等で適宜指導し、時期をみて療育へ連携する。 2) 1歳6か月頃 指導ポイント4 : 視線の高さに着目 この頃前後の脳性まひ児は、 リハビリテーション等の専門的支援を受けている場合がほとんどである。児 の状態は大きく3つのタイプに分かれる。一つめは、歩行は獲得されていないものの活動的でつかまり立ちを したり い いで移動したりできるレベルである。訴えを聴き、必要に応じて関係者に連携する。二つめは、ず り い移動のレベルであり、視線の高さが腰より高い位置になる姿勢を維持することが難しい状態である。表 情はやや単調で、発声するが言葉は不明瞭であることが多い。 これらの児には、視線が高い位置になる姿 勢での活動の機会を増やすよう指導する。たとえば、床上では正座がつぶれたような恰好−正座で両かかと を外側に外した恰好で 割り座 と呼んでいる−にすると、おすわりが安定して両手が使いやすくなり、視線も 高くなるので、遊びが拡がり、精神発達の向上が期待できる。三つめは、寝返りレベルの状態である。特に、 筋緊張異常により姿勢を制御することが難しく、側彎等の変形が問題となる。専門外来への受診を勧める。 指導ポイント5 : 食事の仕方と姿勢 特に頚が座っていない脳性まひ児では、 リラックスした座位で食事をしていない場合がある。食事時の頭 頚部の不良肢位は、咀嚼や嚥下機能の向上の妨げとなり、 また誤嚥を誘発しやすくなるので、 この時期に指 導する必要がある。 たとえば、涎が多い、口を開いたまま飲み込む等の訴えがあれば、口唇を閉じる練習が必 要となる。専門的な支援を必要とするので、医療機関と連携することが望ましい。 3) 3歳頃 指導ポイント6 : 療育相談への対応 階段昇降やジャンプなどの応用的な動作が獲得されている脳性まひ児では、 リハビリテーション等の専門 的な支援を受けていない場合もある。保護者が不安に感じた時に何時でも対応できるような態勢であること を伝え、就学前まで関係を維持する。未歩行児では、 その後就学までの療育内容が児の成長発達や保護 者の障害理解に大きく影響する可能性があり、通園等の療育へ適切に連携する。3歳の時点で生活の主体 が臥位である場合には、車いす等の生活支援用具が必要となる。身体障害者手帳の申請を含め、専門的 な生活環境整備を促していく時期となる。 205 まとめ 脳性まひ児の療育の視点で解説した。 ここに記載した指導ポイントはほんの一例である。一口に「脳性まひ」 と言っても、その状態や家庭環境は様々であり、多様な対応が求められている。すべての子どもとその家族が 地域に根付いて暮らしていくために、保育や医療を含む関係機関が連携して、障害を持つ児とその家族の 「育つ環境」の整備を重視した療育支援を実践することが望まれる。 参考文献 1)Inge Flehmig(諸岡啓一、有本潔共訳) :乳児の発達−正常とボーダーライン−. 分光堂、1995 2)澤村誠志・奥野英子編著: リハビリテーション連携論−ユニバーサル社会実現への理論と実践−. 三輪書 店、2009 3)水本憲枝、田内広子、矢野喜昭他:療育に関わる各専門家の考え方についての研究(第11報) Evidence-Based-Educationのための発達予測−. 愛媛大学教育学部紀要52( 1) :117‐127、2005 4)Peter LR, Stephen DW, Steven EH, et al: Progressive for Gross Motor Function in Cerebral Palsy-Creation of Motor Development Curves-. JAMA, September 18(Vol.288):1357-1363, 2002 5)堺裕、田原弘幸:脳性麻痺理学療法の現状と課題. 理学療法24 :421‐426、2007 6)木原秀樹:脳性麻痺の療育ネットワーク. 理学療法24 :464‐468、2007 7)薮中良彦:脳性麻痺の理学療法. PTジャーナル39:301‐308、2005 206 3. てんかん 診断や治療の基本と最新の考え方 てんかんとは、 「脳の異常に過度なあるいは同期性の神経細胞活動に起因する一過性の徴候・症状の発 現である」 と定義されている。 現在、新たなてんかん国際分類が検討されているが、現時点では、 1981, 89年からのものが多用されてい る。すなわち、 てんかん発作は全般発作と部分発作(焦点発作) に分けられる。 全般発作は、発作の始まりから両側大脳半球性の徴候を有する発作であり、部分発作は、大脳に局在する てんかん焦点に起始する発作である。 全般発作を有するてんかんは、全般てんかん、部分発作のみを有するてんかんを、部分てんかん (局在関連 性てんかん) といわれるが、難治てんかんの児には両方の発作型を有する例もある。 明らかな脳の器質性疾患を認めるてんかんは、症候性てんかんといわれ、遺伝性素因の要素が強いもの は、特発性てんかんといわれている。 てんかんの治療は、明らかな誘発原因がなく繰り返す場合には、抗てんかん剤の内服治療の対象となる。小 児てんかんのおよそ7割は、発作消失に至るとされている。発作消失後3∼5年経過した後には、抗てんかん剤 は漸減し、断薬を試みる。断薬後の再発率は5∼20%程度の場合が多いが、 てんかんの型により異なる。 ひと まとめに、 「てんかん」 といっても、発作予後・発達予後はかなりの幅があるため、児毎の状態を十分に把握した 上での、指導・支援が必要である。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 この時期のてんかん発作は、症候性てんかんが多い。発達遅延を認めている例も多く、何らかの器質的疾 患に起因するてんかんである可能性も高いため、 てんかんや小児神経の専門医の診療を受けることが望まし い。発作頻度の高い児は、重度な発達遅延を認めるケースが多い。保護者への早期からの介入が大切なこと も多い。 2) 1歳6か月頃∼3歳 良性乳幼児てんかんの児も多くなる年齢のため、 てんかん発作を有しても発達に問題のないケースも多い。 てんかん発作を有しても、患児毎で発達予後・発作予後も異なってくる。各々の児のてんかんの重症度や発達 レベルで、対応を変える必要がある。 207 4. 自閉症スペクトラム (高機能群を中心に) 診断や治療の基本と最新の考え方 いわゆる 軽度発達障害 という用語は、医学的定義はなく、 むしろ福祉的、教育的用語と理解されている。 し かし小児保健の視点でいえば「精神発達遅滞を合併していない(IQ70以上)狭義の発達障害」 と考え、対応 することができる。 この範疇に入る疾患としては、 「高機能広汎性発達障害(高機能自閉症、 アスペルガー症候 群、高機能の非定型自閉症)」 「注意欠陥・多動性障害」 「学習障害」 「発達性協調運動障害」 「軽度の知的 障害」が含まれる。 この群の問題点は、現行の乳幼児健診(乳児、1歳6か月、3歳児)では発見されにくい。 また 養育者や保育士らも日常生活場面では気づきにくいことが多く、何の対応もなされないまま就学することが多く、 その結果、学童期以降に社会への不適応を生じることである。 また、発達障害は機能的な脳の中枢神経系の 障害であるが、 まだその社会的認識は不十分である。そのため「だらしない」 「わがまま」 「怠けている」等の誤 解により子どもたちは叱責され、 「親のしつけがなっていない」など養育者も周囲からの非難が生じやすい。障 害として認められにくいことが虐待のリスクともなり得る。 発達障害者支援法の制定以来、乳幼児健診の際に発達障害の早期発見への努力が明記された。 これは 確定診断である必要はなく、 あくまでも 養育者に子どもの発達の説明と対応の仕方を伝え、受容に基づく環境 整備を支援 することが目的と考える。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 子どもが示す姿 4 か 月 頃 1 歳 6 か 月 頃 指導ポイント ・運動 哺乳する力が弱い 粗大運動(四肢の動きが弱い) ・感覚への反応 音(乏しい・敏感) 抱きにくい・抱かれにくい こだわり(哺乳瓶・乳首・ミルク) ・情緒反応 表情が乏しい・硬い 泣かない・よく泣く 物や動きを目で追わない アイコンタクトが乏しい、短い おとなしく手がかからない かんが強い ・興味関心 おもちゃへの反応が乏しい ・養育者に不安があれば、発達のマイルストーン をもとに、具体的に「いつまで、どのような状 況になるまでフォローする」と説明する →健診担当者の「様子をみましょう」は、養育者 が『問題ありません』と受け取る傾向がある →マイルストーンから大きく外れる場合は、専門 機関等へ相談を勧める ・運動 粗大運動(座位・ハイハイ・歩行ができない、 不安定) 微細運動(握る、つまむ)できない 動作模倣ができない ・コミュニケーション 始語が遅い(内容も確認) 単語の数が増え方・消失する 指さししない バイバイ(逆バイバイ、しない) ・食事 偏食が強い ・行動面の個人差が生じやすい年齢であるため、 養育者の不安が高まる時期と考えられる →子どもの状況や相談内容によっては、相談の フォローや専門機関へ紹介が必要である ・対人反応 人見知り(少ない、強い) 後追いがない 同年代に興味を示さない ・ひとり遊びの傾向のある子どもに対し、養育者 がどのように遊べばよいか迷っていることもある →担当者も遊びに入り、具体的に養育者に見本を 示す(後日、フォローでもよい) ・養育者自身が子どもにどう関わればよいのかわ からず、うまく対応できていないことがある (例)子どもの月齢に合わないおもちゃで遊ばせ たがる、子どもに触れない等 →子育て支援センターや親子教室等の情報提供や 参加を呼び掛ける →1歳6か月健診までの相談も可能であることを伝 える(必要であれば担当者から連絡する) 208 ・「始語は何だった?」と確認を行う →興味の偏りや狭さを示している場合もあり、高 機能児の指摘となることがある ・健診ではできず、養育者から「家ではできます」 には落とし穴がある →対人や新奇場面の不安の高さを表していること もあり、必ずフォローを行う 3 歳 頃 バイバイ(逆バイバイ、しない) ・食事 偏食が強い ・健診ではできず、養育者から「家ではできます」 には落とし穴がある →対人や新奇場面の不安の高さを表していること もあり、必ずフォローを行う ・対人反応 人見知り(少ない、強い) 後追いがない 同年代に興味を示さない ・行動 多動・落ち着かない マイペース 睡眠リズムが不安定 ・ひとり遊びの傾向のある子どもに対し、養育者 がどのように遊べばよいか迷っていることもある →担当者も遊びに入り、具体的に養育者に見本を 示す(後日、フォローでもよい) ・運動 粗大運動(走れない、跳べない) 不器用(粗大・微細) ・感覚への反応 音(苦手な音、嫌がる場所) 洋服の素材・形、タグを嫌がる ・コミュニケーション 二語文がでていない 一方的なコミュニケーション エコラリア(おうむ返し) 「わからない」が多い 吃音(どもり) ・食事 道具がうまく使えない、手づかみ ・対人反応 養育者と離れられない 同年代と遊べない ・行動 遊びが広がらない、続かない こだわり(並べ方、洋服) 怪我が多い・乱暴 順番が待てない ・養育者は就園を意識し、不安が高まる時期であ る →粗大運動の稚拙さに対し、専門機関で精査が必 要となる場合がある。子どもの状況によっては 個別訓練の対象となる。 →着脱、食事は自立していることが望ましい。 しかしトイレットトレーニングは子どもの発達 により個人差がみられやすく、就園時期が目標 とはならないことを養育者に説明し、安心して もらう。 ・「マイペース」という言葉に養育者の抵抗は少 なく、そこから生活場面での困り感を聞き出し やすくなることもある ・「よくしゃべる」=「コミュニケーションが成 立している」訳ではないことを指摘する必要が ある →高機能児パターンとしてフォローが必要である ・言葉が急激に増える2∼3歳頃に吃音は出現し やすい →早期の対応(養育者への対応の指導)が必要で あり、専門機関への受診を勧める ・対人や行動面は集団生活でフォローする必要が あることを伝える →就園後の状況をみて、専門機関へ相談する必要 があることも説明しておく 乳幼児健診を受診する養育者の中には、漠然と子どもの状況に不安を抱いて受診される方もいるが、多くの 方は「子どもが健康で、疾患や障害がないという保証を受ける」ことを目的としているのではないだろうか。養育 者が子どもの発達に何らかの問題(不安) を気づいている場合は、乳幼児健診から発達相談がスタートするこ とになるであろう。 しかし養育者自身が子どもの問題に気づいていない場合、 あるいは認めたくない場合には、 健診担当者がきちんとその可能性やフォローの必要性を具体的に伝えることが、早期発見および早期対応に つながるきっかけとなると考えられる。子どもの発達の指摘に対する養育者の反応は様々であると思うが、 その 後の専門機関で相談を受ける側の印象としては、 「健診で大丈夫と言われた(のに)」 「健診で相談したが、 『経過をみましょう』 と何もしてくれなかった」 という養育者の思いが、将来の疾患受容の際に大きな抵抗となるこ ともあると感じる。 1歳6か月、3歳児健診後に子どもが目覚ましく発達するケースもあり、過度な指摘となる可能性も考えられる が、養育者に「いつ頃までにどのような状況に発達するか一緒に見守る」 といった見通しを持たせたフォロー体 制で支援することが大切と考える。1歳6か月時点で「様子を見ましょう」 と、 その後のフォローなく3歳児健診まで 経過させてしまうほうが、養育者に将来負担をかけることになるではないだろうか。 209 5. 被虐待児 診断や治療の基本と最新の考え方 子ども虐待は、子どもに対して不適切な行為を行うこと (abuse) と子どもにとって不可欠な行為をしないこと (neglect)の2つの軸で捉える事ができる。身体的虐待、性的虐待、 ネグレクト、心理的虐待の4区分が用いら れている。親や保 護 者や世 話する人によって引き起こされた、子どもの健 康に有 害なあらゆる状 態( c h i l d maltreatment, Kempe H) という幅広い捉え方もある。 虐待による死亡例は、乳児期に多く、乳児期の急性硬膜下血腫はほぼ偶発的な事故ではないとのデータは 多い。揺さぶられ症候群、代理によるミュンヒハウゼン症候群(Meadow症候群) など、医学的に特異な所見を 1 有するケースも少なからず存在する (子ども虐待診療手引き参照 )。わが国では、2009年の改正臓器移植法 に伴い、被虐待児を移植の適応から除外する基準 2も提唱されている。 被虐待体験は、複雑性外傷後ストレス障害として子どもの心に重大な結果を及ぼす。その結果、社会性や 行動の障害など発達障害児と共通する困難を幼児期から学童期に示すことになる。特に性的虐待では、解離 性障害など重大な結果をもたらすことも少なくない。 一方、子ども虐待は子育ての中でおきる養育者の行為であり、育児の不安感や困難感など子育て上に起き る一般的な困難とつながる問題である。健やか親子21の第2回中間評価(2009年) において「子どもを虐待し ていると思う親の割合」は3.7%(3∼4か月児健診)、9.5%(1歳6か月児健診)、14.1%(3歳児健診) と低い頻 度ではない。子育て支援に重点を置いた乳幼児健診が、虐待予防の立場からも推進されている。 また、妊娠 期の母子健康手帳交付時などから、子育ての困難が予測される家庭を拾い上げて、家庭訪問や相談など細 やかな支援に取り組む試みが始められている。 1) http://www.jpeds.or.jp/guide/project.html 2) 山田不二子:小児科臨床 2010:63(7):1561-1570 年齢に伴う子どもの姿の変化と保護者への指導 1) 新生児期、 3∼4か月頃から乳児期 乳児期は子ども虐待による死亡の危険性が最も高く、特に身体的虐待によることが多い。 ネグレクトや不適 切な養育による直接的な影響、 あるいは愛着形成不全による身体発育不良(反応性愛着不全など) を示す。 ま た、適切なかかわりが得られないために精神運動発達の遅れを認めることがある。 妊娠産褥期から出産後数か月は、マタニティーブルーズ、産後うつ病など、女性にとって一生の中で最もここ ろの問題が発生しやすい時期である。乳幼児健診の場面においても、問診や診察の場面でのふとしたしぐさ や質問から、背景にある不安や困難感に気づく視点が求められる。エジンバラ産後うつ病調査票などのスク リーニング尺度の利用も有効である。 虐待発生には、子どもの要因、親家庭の要因、心理社会的要因などさまざまな要因が重層的に絡み合って いるが、社会的な孤立、特に保健福祉関係者などの相談サービス担当者からの孤立は、重大な結果につなが る場合がある。多くの問題点や子育ての課題は抱えていても、親の困難をしっかりと受け容れ、支援が継続さ れるよう多機関で連携した支援が必要である。 若年出産や養育能力が低い場合などは、母の子育てへの直接的なサポートが必要である。内縁の夫など 不安定なパートナーとの関係やDVが背景にある場合は、乳児への重大な身体的虐待が起きるリスクは高く、 早急な対応が求められる。 2) 幼児期 2∼3歳頃から自我が芽生え、運動や言語面でも独り立ちが始まる時期であるが、被虐待児の中には、親の 暴力やネグレクトのために「悪いのは自分だ」 との自己不全感に陥ってしまい、親の前ではやけにおとなしい態 度を取ったり、保育者など受容的にかかわりを持つ相手にはべたべた甘えたりなど、不自然な態度を示すこと がある。 また、広汎性発達障害や注意欠陥・多動性障害などとまったく同じような衝動性や多動性が起き始める 時期でもある。子どもにかかわる保育者などは、障害が原因であっても、被虐待体験によるトラウマが原因で あっても、社会の規範やルールに反する行為に対しては、 きちんと正すかかわり方が必要である。 210 子どもが親の思い通りに行動しなくなるため、 「しつけ」 としての虐待行為やネグレクト行為は、 ますますエスカ レートし、死亡に至ることもある。健診未受診で、電話連絡や家庭訪問が拒否される場合は、他機関とも連携 し、早急な子どもの安全の確認が必要となる。 親の子育てへの支援とともに、子どもに対しては、保育士や指導員など健康な社会性を持つおとなとの出会 いもたいせつな経験となる。 3) 学童期 なお、生命の危険は伴うものの、 リジリエンシーが起きずに成育した場合、虐待という複雑性のトラウマが行 動化される。学校生活でのさまざまな問題行動(多動、衝動コントロールの欠如、易刺激性、不注意、かん黙、 抑うつほか) を示すため、指導困難な問題児と捉えられる。 スケジュール管理、次に起きることの予想、持ち物の 整理などができないなどの困難もある。知能に見合った学力を得ることができず、境界性知能を示すことも多 い。反社会的な仲間との交流から非行などの行為障害に陥ることもある。 性的虐待の場合には、 きょうだいや友人相手の性加害の再現も起きる。 リストカットなどの自傷行為や自殺企 図(未遂)、気分や身体症状の訴えがコロコロ変わる、性格が急に変わるような態度を取る、当然知っているべ きことを忘れてしまうためにウソツキと思われてしまうなど解離性障害の症状を示すことも多い。 学童期のこうした行動、行為に対しては、薬物治療や精神療法も含めた医療的ケアが必要であるが、同時 に日常生活面での支援や子どもとの信頼関係の構築も重要である。 保健機関は、通常学童期の子どもに直接かかわることはないものの、 きょうだいや親支援の継続のため関係 機関ネットワークの一員としてひきつづき家庭訪問や相談などを期待されることが多い。 211 6. 被虐待児の口腔所見 診断や治療の基本と最新の考え方 近年、児童虐待の相談件数は増加している。その背景には、社会的な要因である経済不安や核家族化が 関与していると言われている。就学前の小児、 とくに乳幼児においては、 自らの虐待について小児本人からの 情報を得ることは困難である。従って、虐待を疑わせる特徴的な口腔所見について、健診時の診察により、 その 可能性をスクリーニングすることは重要である。 そのためにも被虐待児の口腔所見を判断するにあたり、成長に 応じた口腔内の正常 、歯の萌出状況を理解しておくことが重要である。 児童虐待防止法では、虐待は身体的虐待、性的虐待、 ネグレクト (養育放棄・怠慢)、心理的虐待に分類さ れている。 その中で身体的虐待、 ネグレクトは特に歯科と関連が深いと言われており、身体的虐待の表現として は顔面口腔の外傷が、 ネグレクトではう があげられている。 う に関しては、 これまでの調査により、虐待を受 けている小児は口腔清掃状態が悪く、多発性う を認める上、未処置歯数が多いとの報告がある。 う の放 置は、口腔内のみならず、全身の重篤な感染症を引き起こす可能性が十分あることからも、虐待の予防および 早期発見が重要である。 さらに、重篤な症状を呈していなくても 気になる親子関係 を感じた際には、 その後の 親への支援方法について検討することが必要である。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 ○小児の表情が乏しい、口腔外の創傷、歯肉、口腔粘膜の外傷 ○授乳と哺乳量と体重の増加について検討し、育児不安がないかを聞く。歯みがきの前段階として、口の中を 触れられることになれるための導入が重要であることを指導する。 2) 1歳6か月頃 ○表情が乏しい、口腔清掃状態(プラークの沈着状況)が悪い、 う の多発、重症のう 、 う 未処置歯を有 する。 ○早期にう を発症することは、栄養摂取や発音獲得に不利になること、後継永久歯に対する影響を説明す る。哺乳ビンの使用については、糖類含有飲料の摂取場面、頻度とう リスクとの関係を説明する。 3) 3歳頃 ○表情が乏しい、口腔内外の創傷、偏食、食欲がない、食べ物への執着、口腔清掃状態が悪い、う の多発、重症なう 、う 未処置歯を有する。1 歳 6 か月児健診で指摘された危険因子の改善が認め られない。 ○3 歳児では個体差が明確になる。多発性のう と育児環境について、養育者の話に曖昧な点や食い違 いがないか、口腔清掃の習慣形成ができているか検討する。 212 7. 低出生体重児 診断や治療の基本と最新の考え方 2500g未満で出生した児を低出生体重児と呼ぶが、在胎22週出生児や、出生体重500g未満の児が救命 できるようになり、 その様相は様々である。 ここでは主に極低出生体重児を中心にポイントを述べる。 いろいろな意味でのハイリスク児であると認識する 2003年の調査では3歳時点で、極低出生体重児の8.5%に脳性麻痺、7.9%に精神発達遅滞が認められる と報告されている。慢性肺疾患、頭蓋内出血、壊死性腸炎など成長や発育に影響を与える疾患の合併も認め ることがある。低出生体重児は(特に在胎週数や出生体重が小さいほど)成長・発達の障害におけるハイリスク 児であることを念頭におくことが大切である。 「小さいね」 には要注意 両親特に母親は、低出生体重児を持ったことに対して少なからず精神的に負い目を持っていることが一般 的である。そのため、両親は比べられることに敏感であり、健診の場に勇気を出して来ていることも多い。保健 師訪問などで築かれた関係を大事にしながら、 「ちっちゃいね」 と決して声をかけずに、 その子なりに発育・発達 してきている点に注目して、小さく生まれたお子さんが成長し健診の場に来られたことを受け入れることが大切 である。 「病院で診察してもらっているからいいね」ではなく、病院では話せない不安もあるので、両親の不安に しっかり寄り添うことは重要である。 継続的なつながりを 地域とつながることは子育てにとっては大切なことである。NICUに入院したことにより両親が地域とのつな がりを持ちにくいこともある。両親が孤立せず地域の誰かと、不安や育児の相談が出来ているか確認し、関係 が希薄な場合には適切な地域の支援事業を紹介しながら、継続的な関係性を保つことは大切である。 健診受診の有無の確認を 出生病院などで発達のフォローアップを受けていることも多く、健診時期はkey ageでもあるので時期的にも 重なり、集団健診を受診しない場合もある。 しかしながら、NICUに長期に入院し母子分離を経験している親子 は虐待のハイリスクでもある。健診を受診しない場合には、病状・養育環境も含めて状況確認が必要であり、病 院と連携を持つことは大切である。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 修正月齢での発達の評価を 3∼4か月児健診は暦年齢での健診になっていることがほとんどで、 自治体による健診の指定時期には修正 月齢は様々である。そのため、発育や発達段階が4か月に達していないことも多い。健診での評価は修正月齢 での評価が必要である。実際には訪問事業などで親子との関わりはあると思われるので、BCG接種時期も考 慮しながら、健診日程を決めるなど柔軟な対応が望まれる。 このことは、初めて集団での健診になるために不安 の強い親子が、同時に健診に参加している周りの親子との差異を感じにくくすることにもつながり、親子への精 神的なフォローのひとつにもなると思われる。 予防接種スケジュールの確認 低出生体重児の予防接種に関しては、在胎週数に関わらず歴年齢で行っていく。 2) 1歳6か月頃 境界域の発達遅れのフォローアップを 1歳6か月での健診においても修正月齢での評価が必要である。 超低出生体重児では、歩行開始や有意語の出現が修正1歳6か月過ぎるまで遅れることもあり、他に精神遅 滞や脳性麻痺の徴候がないか注意が必要である。 こういった境界域の児に対して、 その児がどの発達段階に 213 あるか評価し、段階に合わせた適切な支援が必要となる。病院でのフォローアップとの兼ね合いもあるが、両親 の不安の多くは発達の遅れであり、適切な地域の事業などを紹介し、継続的に様子を見ていくことは大切であ る。 3) 3歳頃 低身長 発育の面では低身長に注意が必要である。出生時にSGA(small for gestational age)であり、3歳でも −2.5SD未満の低身長の児にはGH療法が適応になるので出生病院や専門機関の受診を促す。 発達フォローの連携と継続 低出生体重児には発達の偏りを持つ児が少なくない。多動であったり、不器用さが目立ったりすることも多く、 発達障害の特徴を持つことも多く認められる。単に様子観察ですませるのでなく、成功体験を積ませる事に気 をつけながら、具体的な環境調整、家族への支援、機関連携などの発達支援の視点が必要になる。 3歳児健診以降、保育園・幼稚園などの集団に入っていく時期にもなってくるので、境界域にあると思われる 児には、医療機関でのフォローアップの継続が行われるかを確認し、親子が出来る範囲の助言を与えながら、 再診察の時期を決め、 フォローを行う。 214 8. 肥満児 診断や治療の基本と最新の考え方 診断: 大多数の肥満は、単純性肥満であり、過度の栄養摂取や運動不足に起因するものである。 肥満度基準で肥満と診断されれば、基本的な既往歴、家族歴(家族の体重も)の聴取に加え、児の日常生 活パターンを必ず確認し、食生活、身体活動状況などを把握するように努める。多くの場合、 そこで何らかの原 因が認められるはずである。肥満度が増加している状況では、通常は成長率も増加している。肥満度が増加し ているのに、成長率が低下している場合には、頻度はきわめて稀であるが、 クッシング症候群や甲状腺機能低 下症などの症候性肥満も念頭におくべきである。 治療: 肥満治療の基本は、成人と共通で、食事、運動療法である。ただし、小児の食事療法では、過度の食事制 限により成長発達に必要な栄養摂取が得られないということは避けなければならない。多くの場合、年齢相当 以上の栄養を摂取しているはずであり、 まずは年齢相当の栄養摂取を行うよう指導する。医学的に早急な減量 を要する場合(閉塞性無呼吸など) を除き、最低限、今の体重を超えないことを目標に指導する。身長は自然に 伸びていくので、体重が増えなければ肥満度は自然と軽減していくものである。体重を毎日決められた時間に 測定し、表などに記録していくのも効果的である。 最新の考え方: 近年、DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)という概念が生み出され、多くの研究 者によって支持されている。DOHaDとは、子宮内発育が抑制された低出生体重児では、成人に達した時に、 虚血性心疾患や脳卒中、2型糖尿病、高血圧などの生活習慣病が多く認められ、 この基盤が胎児期の環境に よって形 成されるという胎 児プログラミング仮 説を発 展させた概 念である。すなわち、低出生 体 重 児(とくに small for gestational age: SGA児)では、 もともと将来、生活習慣病を発症する率が高いため、 それに加え、 小児期早期からの体重増加、肥満があると、 より生活習慣病発症の危険性を増すことになる。低出生体重児 (とくにSGA児)は、肥満による生活習慣病発症のハイリスク群として念頭におき、急激な体重増加傾向には注 意すべきである。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 母乳栄養は制限する必要はない。 人工栄養児で、極端な肥満であればミルク量の制限を考慮する。 2) 1歳6か月頃 おやつ、 ジュースなどは、量や時間などを決めて与えるようにする。 児が欲しがるだけ与えるという態度は改めるよう指導する。 3) 3歳頃 この時期以降の肥満は成人期までトラッキングする可能性が高くなり、 この時期までには正しい食習慣を身 につけることが肝要である。 一般的に、 身体を動かすことが好きな年齢域であり、積極的に身体を動かす (遊びで構わない)機会を設ける。 発達障害児などでは、食へのこだわりが強く、食事の制限などに家族が難渋する場合もしばしば認められ る。状況に応じ専門医療機関への受診を考慮すべきである。 215 9. 心不全を伴う心疾患 診断や治療の基本と最新の考え方 乳幼児期に心不全を伴う心疾患には大量の左右短絡を伴う先天性心疾患(心室中隔欠損症、動脈管開 存症など)、重症弁膜疾患(僧房弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症など)、肺血流量の多い チアノーゼ型心疾患、拡張型心筋症や冠動脈起始異常症などの心筋疾患、頻脈や徐脈などの不整脈などが ある。一方、チアノーゼ型心疾患でも肺血流量の少ないファロー四徴症などは心不全にはならない。大部分の 症例は出生直後や心不全症状が出現したときに専門医療機関に紹介され、正確な病型診断がなされ、何ら かの治療を受けている。 最近は内科的薬物治療、外科的手術、 カテーテルインターベンションなどの治療も著しく進歩し、重篤な心不 全を伴う心疾患の予後も著しく改善している。 しかし心疾患によっては心不全が持続し、治療にも関わらず予 後不良である場合もある。治療前、中、後も医療機関を受診する必要があるので、疾患について理解している か、 また定期健診を受けているかなどを確かめ、 また必要に応じ、 日常生活の育児指導や治療に対するサポー トやアドバイスを行う。予防接種は主治医と相談しながら前向きに検討する。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 この頃の心不全症状は体重増加不良、哺乳力の低下、弱々しい泣き声、多呼吸、陥没呼吸、喘鳴、チアノー ゼ、浮腫などが見られる。大欠損孔を伴う心室中隔欠損症はこの頃に心不全を発症したり、重症化したりする 場合もある。 乳児期早期に心不全が発症した場合には何らかの治療を受けていることが多く、完治している場合と完治 せず姑息手術や対症療法を受けている場合もある。前者の場合には心不全症状は消失するが、後者の場合 には心不全症状が有る場合もあり、注意深い観察が必要である。 乳児期早期の発育・発達の問題は重要であるので、適切な育児、栄養に関するサポートが求められる。心 全症状が軽ければ月齢に応じて離乳食を進め、予防接種も受けるように指導する。貧血は心不全を増悪する ことがある。母乳栄養だけの場合には鉄欠乏性貧血になりやすい。心不全症状が重篤であれば、水分や塩分 制限がある場合もあるので主治医と相談しながら食事指導や生活指導を行う。 2) 1歳6か月頃 この頃の主な心不全症状は体重増加不良、易疲労性、多呼吸、浮腫、肝腫大、発育・発達の遅れなどであ る。治療により心疾患が完治していれば、発育・発達はほぼ正常となり、運動能力も健常児とほぼ同等である。 心疾患が完治せず、心不全症状がある場合には、定期健診を受けるように指導する。 また心不全が悪化しな い範囲で発育・発達を促すように、家族や患児へのサポートが必要である。軽度な症状であれば、食事制限の 必要はないが、明らかな心不全があれば、水分や塩分制限、薬物治療など主治医と相談しながら指導する。 必要な予防接種を受けるように指導する。 3) 3歳頃 大部分の症例は外科手術や内科治療を受けており、完治していれば健常児とほぼ同等の生活ができる。 し かし完治していない場合で姑息手術だけ受けている場合、対症療法を受けている場合には発育・発達が遅れ たり、運動能力が十分ではなかったりすることもあるので日常生活のサポートが必要である。運動に制限を加え る方向ではなく、心不全を悪化させない程度に運動に参加できるような配慮も必要である。 手術が終了していても定期健診が必要であり、 また投薬がある場合には家族および患児にその投薬の意 味を十分理解させることも肝要である。集団生活を行うようになるので感染症には十分注意する。 発育・発達に問題がある場合には発育・発達を促すようなサポートが必要であり、同時に食生活の指導も必 要である。必要な予防接種を受けるように指導する。 216 10. チアノーゼ型心疾患 診断や治療の基本と最新の考え方 チアノーゼ型心疾患は重症なものが多い。ほとんどの症例は出生直後に専門医療機関に紹介され、 3∼4 か月児健診までに正確な病型診断がされ、手術を含めた何らかの治療を受けているか、近い将来、治療が予 定されている。チアノーゼ型心疾患は何らかの治療を受けない限り、予後不良であるので、チアノーゼを認め、 医療機関を受診していなければ早急に専門医療機関の受診を勧める。 最近は外科的手術やカテーテルインターベンションなどを含む内科的治療も急速に進歩し、重症な先天性 心疾患の予後も著しく改善している。チアノーゼ(型心疾患)があれば、家族が心疾患に関し十分理解してい るか、医療機関を受診しているかなどを確かめ、必要に応じ、育児や手術に対する心理的なサポートを行う。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 チアノーゼ型心疾患の症例は新生児早期にチアノーゼを含めた何らかの症状が出現するので早期に診断 や治療方針が決定され、根治手術や姑息手術(肺動脈絞扼術、Blalock-Taussig短絡手術、Glenn手術な ど) など、何らかの外科治療や内科治療がすでに行われていることが多い。そのため、チアノーゼは消失、 また は軽快していることも少なくない。 左右短絡量が多い場合には哺乳力低下、多呼吸、体重増加不良などの心不全症状があり、呼吸器感染を 起こしやすいが、肺血流量が少ないとチアノーゼが強い。心不全症状がなければ月齢に応じて離乳食を進め、 予防接種も受けるように指導する。 啼泣時にチアノーゼ発作(無酸素発作) を起こす症例もあるので、症例によってはひどく泣かせないようにする。 2) 1歳6か月頃 多くのチアノーゼ型心疾患の患児はすでに何らかの外科的・内科的治療を受けている。疾患が完治してい れば発育・発達はほぼ正常で、運動能力も健常児とほぼ同等であることが多い。 しかし疾患が完治していない 場合やまだチアノーゼがある場合には発達や運動能力は低下していることが多いので、発育・発達を促すよう に、家族や患児へのサポートが必要である。食事は心不全が無ければ健常児と同じでよいが、心不全があれ ば主治医の指示に従う。必要な予防接種を受けるように指導する。 3) 3歳頃 外科手術や内科治療を受けており、完治していれば健常児とほぼ同等の生活ができる。 しかし完治してい ない場合や姑息手術だけ受けている場合には発育・発達が遅れたり、運動能力が十分ではなかったりするこ ともあるので日常生活のサポートが必要である。 手術が終了していても定期健診が必要であり、主治医の指示に従うこと、 また投薬がある場合には家族およ び患児にその投薬の意味を十分理解させることも肝要である。 発育・発達に問題がある場合には発育・発達を促すようなサポートが必要であり、同時に食生活の指導も必 要である。必要な予防接種を受けるように指導する。 217 ・行動 多動・落ち着かない マイペース 睡眠リズムが不安定 ・「マイペース」という言葉に養育者の抵抗は少 なく、そこから生活場面での困り感を聞き出し やすくなることもある 11. 尿路奇形と尿路感染 ・養育者は就園を意識し、不安が高まる時期であ る 診断や治療の基本と最新の考え方 ・運動 →粗大運動の稚拙さに対し、専門機関で精査が必 はじめに 粗大運動(走れない、跳べない) 要となる場合がある。子どもの状況によっては 尿路感染症を扱う にあたり、重要なポイントを述べておきたい。 不器用(粗大・微細) 個別訓練の対象となる。 →着脱、食事は自立していることが望ましい。 1 ・感覚への反応 小児科医が尿路感染を特に意識しておかなくてはいけない時期は、新生児期、乳児期と幼児期早期で 音(苦手な音、嫌がる場所) しかしトイレットトレーニングは子どもの発達 ある。その理由は以下のとおりである。 洋服の素材・形、タグを嫌がる により個人差がみられやすく、就園時期が目標 ①この時期は上部尿路感染(腎盂腎炎)で腎を巻き込むこ とが多いこと、腎の瘢痕を残しやすいこと。 ・コミュニケーション とはならないことを養育者に説明し、安心して ②症状が非特異的であり、医師が意識しなければ診断できないこと。 二語文がでていない もらう。 ③敗血症を合併することが多い。 一方的なコミュニケーション ④しばしば尿路奇形を合併する。 エコラリア(おうむ返し) ・「よくしゃべる」=「コミュニケーションが成 2 「わからない」が多い 尿路感染症の治療のゴールは、いかに腎のダメージを防ぐかである。 立している」訳ではないことを指摘する必要が 上部尿路感染によ 吃音(どもり) る腎瘢痕は、腎機能障害や高血圧を引き起こす。低年齢期に繰り返し上部尿路感 ある 染を起こすこ とのないように管理しなくてはならない。もしも上部尿路感染を起こ してしまったら早期に感受性 ・食事 →高機能児パターンとしてフォローが必要である 道具がうまく使えない、手づかみ のある抗生剤で十分な期間の治療を必要とする。 ・対人反応 ・言葉が急激に増える2∼3歳頃に吃音は出現し 養育者と離れられない やすい 尿路感染症の症状 同年代と遊べない →早期の対応(養育者への対応の指導)が必要で 1) ・行動 発熱 あり、専門機関への受診を勧める 2) 遊びが広がらない、続かない 不機嫌 3) こだわり(並べ方、洋服) 哺乳不良、食思不振 ・対人や行動面は集団生活でフォローする必要が あることを伝える 4) 怪我が多い・乱暴 嘔吐、下痢 →就園後の状況をみて、専門機関へ相談する必要 5) 順番が待てない 排尿障害、頻尿、残尿感、失禁 6) 恥骨上部痛 7) 尿のにおいの変化 2歳以下の場合は、5)6)の症状の訴えはないので、それ以外の非特異的な症状で疑って検査する 必要がある。 尿検査 1 採尿法 尿バッグ採尿は非常に汚染の頻度が高く、それは膿尿についても細菌尿についても言える。中間尿採取 法も特に女児の場合は信頼性に乏しい。膿尿はあるが尿路感染症と考えにくく、導尿してみたら全く白血 球は見られなかったということも少なからずある。しっかりと尿路感染症を診断しようと思ったらカテーテル導 尿法は必須である。 2 膿尿 尿沈渣により5∼10 個/ HPF 以上の白血球の存在は尿路感染症を疑わせる。導尿による検体であれば 強く疑って良いが、膿尿のない尿路感染症も 10%程度にあることを知っておかなくてはならない。 3 細菌尿 歴史的に 10 5cfu/ml 以上の細菌尿をもって尿路感染症とされる。しかしもし無菌的に採取された尿(膀 胱 刺法やカテーテル採尿法)で単一菌であれば 10 3cfu/ml で有意であろう。逆に排尿でとられたり複 数菌の場合は 10 5cfu/ml 以上であっても有意とすることはできない。 起因菌は、大腸菌、腸球菌、緑膿菌、クレブシエラ、表皮ブドウ球菌、プロテウス(尿路結石を疑わせる) が代表格である。 4 尿中酵素など 尿中の NAG、 β2-MG、LDH アイソザイムなどが利用される。抗生剤がすでに使用されていて、膿尿も細 菌尿もはっきりしないような場合に、有用であることがある。LDH アイソザイムは低年齢では比較的 LDH5 が高く参考にならないことが多い。最も利用価値があるのはβ2-MG だが、異形成腎、他の尿細管障害で も上昇するため、他の情報とあわせて総合的に判断しなくてはならない。 218 尿路感染症の診断とその重要性 1 生後2か月以下の熱発は sepsis work-up と称して、血液培養、髄液検査、尿検査が行われる。 2 繰り返すが、2歳以下の場合は非特異的な症状で疑って検査をしなければ診断することはできない。 繰り返す発熱に対して focus をしっかり考えずむやみに抗生剤で治療することで、基礎にある尿路奇形を 見落として上部尿路感染を結果的に繰り返すことになり、腎機能障害を伴った腎瘢痕を来たすような場合も ある。このような不注意で将来慢性腎不全から透析導入になってしまうような不幸は避けなければならない。 3 ひとたび尿路感染が疑われれば、尿検査により診断される。新生児、乳児、幼児期早期の尿路感染 症診断のための採尿の黄金律はカテーテル採尿であることを忘れてはならない。年長児で中間尿を採る 場合も、男児であれば亀頭を出して清潔にして、女児であれば外尿道口周囲を清潔にして採取すべきで ある。膿尿がないことで尿路感染を否定してはならない。 尿路感染の治療 基本的に上部尿路感染は静注抗生剤の使用が良い。 特に新生児、乳児は入院して静注抗生剤治療が必要である。十分な hydration を行なって洗い流し、 ドレナージの目的で持続導尿を行なうこともある。 抗生剤の選択は、初発の場合起因菌のほとんどが大腸菌であるので第一あるいは第二世代のセフェム を使用することが多い。複雑性尿路感染で、しかも再燃の場合は予防内服に使用している抗生剤を考慮 して起因菌を推察し決定する。尿培養の結果薬剤感受性がはっきりすれば、その時点で変更する。その ためにも発症時の培養が重要で、必ず抗生剤投与前に尿を採取する必要がある。投与期間は最低 1 週 間である。尿路の異常がないことを確認するまでは予防内服を継続する。 重大な尿路異常を思わせる所見あるいは症状 1) 排尿の異常 尿勢が悪い、尿線を作らない、失禁、排尿時のいきみ 2) 頻回の発熱の既往 3) 腰仙部の dimpling 尿路感染後の対応と画 診断 上部尿路感染を起こしたら、少なくとも尿路系のエコーは必須である。そこで異常がなくとも、2 回以上 起こすようなら尿路精査と称して排尿時膀胱尿道造影やシンチグラムを行うべきである。 1. エコー 救急で可能な唯一の画 診断である。基礎疾患を診断できる可能性がある。 ① 膀胱壁の状態、膀胱頚部の状態 強い膀胱壁の肥厚や、膀胱頚部の過形成は、尿道の狭窄や神経因性膀胱を疑わせる。 → 膀胱内圧軽減とドレナージのために持続導尿を ② 膀胱内の異常構造物 嚢状に拡張した尿管瘤 → 内尿道口を閉塞させているようなら持続導尿を ③ 膀胱部尿管の拡張 UVjunction の逆流や狭窄。拡張が排尿や腹圧で大きく変動するなら逆流が疑わしい。 ④ 腎盂、腎杯の拡張 水腎症の診断。所見がこれだけであれば尿路感染の原因には成り得るが緊急性はない。 ⑤ 腎の形態・大きさ、皮髄境界 瘢痕の有無、皮髄境界が不鮮明ならば形成異常を含めた腎機能障害を考える。 2. 排尿時膀胱尿道造影(VCUG) 最も重要な検査である。 219 ① 注入時 膀胱内占拠性病変(尿管瘤など) ② 充満時 膀胱容量、膀胱の形態、膀胱壁の状態(不整、肉柱形成、憩室など)、 VURの有無と程度、腎内逆 流の有無。 ③ 排尿時 斜位 45゜ で行なう。尿道の情報を主に。狭窄の有無、後部尿道の拡張や延長、膀胱頚部の過形成。 V URの有無と程度、腎内逆流の有無。 ④ 排尿後 残尿の有無と程度。ただしカテーテル挿入のための痛みにより残尿があることが多いので注意。 3.DTPA利尿シンチ ① 片腎機能を知る。 糸球体相から片腎のGFRを測定できる。 ② UPjunction やUVjunction の狭窄の程度を知る。 ラシックスに対する反応が重要で、手術適応を決めることになる。 4.DMSAシンチ 1) 片腎機能を知る。 2) 瘢痕の有無を知る。 なお、最近は静脈性腎盂造影(IVP、 DIP)を行うことはほとんどなく、ヨード剤によるアレルギーを考えると 症例を限定して行うべきである。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 この時期の尿路感染症の症状は非特異的であり、発熱時に医師が常に意識しなければ診断できな いことに注意が必要である。また、この時期の上部尿路感染では腎の瘢痕を残しやすいことも知ってお くべき要点である。 2) 1 歳 6 か月頃 1 歳未満ほどではないが、乳児期と同様の注意が必要である。 3) 3 歳頃 排尿機能は、3 ∼ 4 歳の時期に赤ちゃん膀胱(脊髄反射型)から大人の膀胱(大脳関与型)に 移行する。つまりこの頃はまだ脊髄の反射によるものが残っており、しかも個人差がある。それ故トイレッ トトレーニングを急ぐことや厳しく行うことに弊害が伴うこともある。本人の成熟に合わせてゆっくり行うのが 良い。 包茎については、この時期まだ多くの児が生理的包茎(包皮と亀頭の生理的癒着)の状態である。 これを用手的に剥離すると、包皮に傷が付き瘢痕となって将来的に真性包茎となる可能性がある。生 理的包茎は思春期に自然に解除されるので、放置するのが良い。 220 12. 先天性股関節脱臼 診断や治療の基本と最新の考え方 Ⅰ 赤ちゃんを脱臼にさせないために 先天性股関節脱臼という疾患名は、文字通り読めば先天的に股関節がはずれている疾患ということになる が、他の先天異常や奇形を合併し、出生時にはすでに高位に脱臼している真の先天性股関節脱臼(奇形 性脱臼)とは異なり、多くの「いわゆる先天性股関節脱臼(以下先天股脱)」は、家系に股関節異常が多い、 関節の弛緩性が強いなど先天股脱になりやすい体質、素因を持った赤ちゃんが、出生後の外的な環境因 子(オムツ、衣服、向き癖、股関節開排制限など)が影響して、脱臼に進展すると考えられる。 すなわち赤ちゃんは成人と異なり、あし(股、膝)を曲げた肢位が安息肢位である。あし(股、膝)が 伸ばされると、緩んでいる筋が緊張し、股関節が脱臼する方向に力が加わる ( 図1)。 図1 腸腰筋 大 屈筋群 もし脱臼になりやすい素因を持つ赤ちゃんがこのような肢位を強制されると出生後に脱臼に進展する。過去 日本でよく使用されていた布による巻きオムツ、三角オムツは、あし(股、膝)を伸ばした位置で固定される ことになり、これが過去に日本で脱臼が多発していた一因といわれてる。紙おむつが主流になった現在でも、 タイトな衣服、寒冷地での重ね着、あし ( 股、膝 ) をのばした肢位でのだっこやスリングなどを避け、育児法 に注意しなければならない。先天股脱は衣服が厚くなる秋冬生まれに多いことはよく知られた事実である。出 生後あし(股、膝)の動きを制限しない育児、オムツ、衣服を指導する必要がある。 Ⅱ 診断 先天股脱は脱臼していても 痛などの自覚症状はない。したがって医師あるいは医療関係者が物言わぬ 乳幼児の股関節の異常を見つけ出さなければ診断できない。 1 乳児期(3 ∼ 4 か月) a 開排制限 股関節 90 度屈曲して開排する。開排が 70° 以下(ベットから 20° 以上)を陽性所見としている。先天 股脱は女児が圧倒的に多く、女児で左右差がある開排制限に注意する。男児の両側同程度の軽度の 開排制限は単なる内転筋の拘縮であることが多い。ほとんどの開排制限は向き癖と反対側に生ずる。 b 下肢短縮,臀部大 皮膚溝の非対称 脱臼であれば陽性となるが、脱臼でなくても、開排制限が強いと骨盤の傾きにより下肢長差があるように みえることもある。なるべく骨盤の傾きを修正して調べる。皮膚溝の左右差は大 より臀部皮膚溝の左右 差を気をつけてみる ( 図2)。 c 画 診断 X 線診断が行われることが多いが、最近では被爆のない超音波診断も行われている。 221 図2 2 1歳以後(歩行開始後) 先天股脱は独歩の開始が遅れるが脱臼していても歩行は可能となる。しかし片側脱臼では跛行を呈する。 両側脱臼では骨盤が前傾し、腰椎の前彎が強くなり、いわゆるアヒル様歩行となる。 X 線にて確定診断が行われる。 Ⅲ治療 1 乳児期(3∼6か月) リーメンビューゲル装具での整復が一般的である (図 3)。外来で治療が行われる。 2 歩行開始後(1歳以後) 牽引による整復あるいは手術による整復が行われる。 入院で治療がおこなわれることが多い 3 整復後 先天股脱の治療は整復のみで終了するものではない。 整復はあくまで第一関門であり、いかに成人の股関節 になった時に、一生痛みのない正常形態にするかが目 標となる。整復後にも臼蓋形成不全が遺残すれば、 5 歳ごろに臼蓋の被覆を促進する骨盤骨切り術などの 補正手術を行なう。 図3 健診時期別保護者への指導のポイント 早期診断以上の名医はないことを認識する。独歩開始後まで診断が遅延すると、整復にも難渋し、また整 復後にも臼蓋形成不全が残存し、補正手術が追加されることも多くなる。 1) 3∼4か月頃 この時期に診断されれば外来でのリーメンビューゲル装具治療が可能であり、この時期までに診断することは 重要である。危険因子として、女児、骨盤位出生、秋冬生まれ、家族歴がある。これらの危険因子を複数 持つ児は特に注意する。出生後の育児法が改善された現在、家族歴の持つ意味は大きくなっており、2等親 以内に股関節異常があれば、異常所見がなくてもそれだけで専門医を紹介する(所見に乏しい亜脱臼・臼 蓋形成不全を伴なっていることも多い)。 2) 1 歳以後 歩行開始後跛行が続いている場合の鑑別診断の第1選択肢は先天股脱である。すぐに専門医を紹介する。 222 13. 弱視 診断や治療の基本と最新の考え方 弱視の診断 医学的弱視は、原則として眼球に異常が無く、訓練・治療で視力が獲得できるものに診断名として用いられ る。正常な新生児の眼は構造上ほぼ完成しているが、出生直後の視力は光が判別できる程度である。出生か ら8歳までの感受性期間に「ピントがあった物を鮮明にみる」 という視覚刺激をうけることで、生後3か月で0. 1、 3歳で0. 6∼1. 0を目安に視力が発達するといわれている。 弱視の診断は視力・屈折・眼底など諸検査に基づいて行なう。原因の多くは、屈折異常(遠視・近視・乱視) の程度が強い、屈折の左右差が大きい、斜視があるなどである。先天白内障や先天性眼瞼下垂のように、異 常に対する手術(白内障手術・眼瞼下垂手術) に加えて術後の弱視訓練を行うことで視力の向上を図るものも ある。 弱視≠ロービジョン 弱視という言葉は、弱視教育の対象となる視覚障害(ロービジョン) をさして使用されることもあるが、 これは 種々の疾患により回復困難な視力障害を社会的・教育的に表現したものである。上記の医学的弱視とは異な る。 弱視が治る≠裸眼視力が良くなる 弱視眼では、 「一番合うメガネ」をかけても、相応の視力が得られない。つまり矯正視力が不良である。弱視 の治療は、 「メガネが要らない眼にすること」ではなく、 「合うメガネをかければ、見える」 ようにすることがゴールで ある。 したがって、 「弱視治療を受ければ裸眼視力が向上する」わけではない。弱視が治癒しても、屈折異常 (遠視・近視・乱視)が残っていれば、多くの場合、眼鏡は必要である。 治療用眼鏡の使い方・保険適応 弱視ではない人が日常生活をより快適に過ごすための眼鏡は、生活用眼鏡といい、かけ外しは本人の自由 である。弱視治療用眼鏡は、眼鏡そのものは生活用眼鏡と同様のフレーム・レンズで医師の処方箋に基づいて 眼鏡店で購入するが、常用することが必要である。入浴・プールなどの特殊な状況を除き、常に装用する。先天 白内障術後など屈折異常が高度の場合は、眼鏡ではなくコンタクトレンズが処方されることがあるが、やはり常 用する。 2006年から弱視治療用の眼鏡・コンタクトレンズは保険給付の対象となった。一定の条件下で療養費が支 給されている。 健眼遮 による弱視訓練 片眼弱視の場合、弱視眼の視力の発達を促す目的で、健眼を遮 する訓練を行うことがある。通常2∼6時 間/日の部分時間遮 が多いが、効果が薄い場合は終日遮 を行うこともある。遮 訓練期間中は、健眼の 弱視化や両眼視機能(両目を同時に使う機能、立体視など)の低下がみられないか、医師の診察・指導を受け る。 アイパッチ・布パッチなどの遮 用品は市販されているが、医師の指示なしに遮 訓練を行うことは危険で ある。 アイパッチ・布パッチは健眼を覆い隠すのに対し、点眼液(アトロピン) を使用して健眼をぼやけて見づらい 状態にする遮 方法もある。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 先天内斜視(または乳児内斜視)は乳児期から内斜視を認める。固視眼が左右どちらかのみの場合、非固 視眼が斜視弱視となる。 外見上、 目が寄っているようにみえるが実際の斜視は無いものは、偽内斜視という。 この時期の親からの訴え 223 では多くみられる。病気ではない。ただし、中には間欠性内斜視(時々内斜視になる)や、最初は偽内斜視で あったがのちに実際に斜視を発症した、 などの事例も存在するので、訴えがあれば眼科受診を勧める。 頻度の少ないものとして、先天白内障・眼瞼下垂など0歳代から手術と弱視治療が必要になるものがある。 特に、片眼の先天白内障は早期発見が重要であるが、早期治療にもかかわらず健眼との視力差は大きく、入 院・手術・健眼遮 訓練・コンタクトレンズ装用、 と保護者の負担は多大である。 2) 1歳6か月頃 調節性内斜視は1歳6か月頃、手元の物を見ようとしたときに目が寄ることで気づかれることが多い。遠視が あり、眼鏡を装用すると装用中は斜視が軽快する。 「眼鏡を外すとやっぱり目が寄るから治らない」 「眼鏡はか わいそうだから手術を受けさせたい」ではなく、眼鏡装用して良好な視覚刺激・眼位で過ごすことで視機能の 発達を促すことが大切である。低年齢にて眼鏡をかけることへの理解が、家族にも周囲にも求められる。 3) 3歳頃 集団生活において外見・眼鏡の問題が出てくることがある。斜視について友達に外見的に「おかしい」 と言 われる、保護者が斜視・眼鏡を装用していることでいじめられたり集団に溶け込めない原因にならないか不安 に感じるなどである。医学的弱視は「ロービジョン」ではないので、通常は、集団生活において視力の面で特別 な配慮は必要としない。 予後良好な片眼弱視の場合、 3歳児健診での発見から眼鏡・健眼遮 訓練などの治療を開始して就学前 までに治療を終了できる。必要な遮 時間・患児が降園後に家庭で過ごす時間は個人差があるため、園の理 解のもとに保育時間中もアイパッチなど使用して健眼遮 することがある。 自覚的検査が困難な乳児でも、検査が不完全な幼児でも、年齢に応じた検査・診察は可能である。弱視の 早期発見のためには、異常を感じたら積極的に眼科・小児眼科の受診を勧めたい。 224 14. 難聴 診断や治療の基本と最新の考え方 新生児聴覚スクリーニング検査 新生児聴覚スクリーニング検査は、短時間の簡易な検査で Pass( 通過 ) あるいは Refer( 不通過 ) と 判定される。最近では、難聴の早期発見に大きく寄与しているが、Refer( 不通過 ) はあくまで 「要精密検査」 であり難聴の確定診断ではない。 1−3−6プラン 0∼1か月で新生児聴覚スクリーニング検査を行い、3か月までに耳鼻科で精密検査をして確定診断を し、6か月までに補聴器を装用。この流れを「1−3−6プラン」という。これはこの時期までに補聴を開始 できた難聴児が、就学時に健聴児とあまり差のない言語力を獲得していたとの報告による。 滲出性中耳炎の治療により聴力が改善することも 滲出性中耳炎からくる伝音難聴は、治療により改善する。「所見あり」と判定された場合には、耳鼻科 医による鼓膜所見の確認も大切である。 ことばの遅れと難聴、発達遅滞、発達障害 1歳6か月児、3歳児健診で「所見あり」となる児の中には発達遅滞、発達障害を有する児も少なくない。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 この月齢では光への興味が出てくるものの、音に対してはまだまだであり、聞こえが正常であっても大きな音 に驚くだけである。 2) 1歳6か月頃 1歳頃の始語を経て、有意味語が増えているか?簡単な言いつけに従えるか? 最近、聞き返しが多いなど、 「聞こえ」が変化したように感じられる時には、滲出性中耳炎の確認が必要である。 「ことば」が遅い理由は、難聴とは限らず、発達障害が隠れている場合がある。 3) 3歳頃 左右別等、聴力検査がある程度正確となり、軽・中等度の難聴を発見できる時期である。 また今では数年に 1∼2名にはなっているが、高度難聴発見の最終の機会である。難聴・言語発達遅滞の疑いの中から、聴力正 常の多くの発達障害が見つかっている。 225 15. 口唇口蓋裂 診断や治療の基本と最新の考え方 口唇口蓋裂は、先天性奇形のうちでも発現頻度が高い奇形の一つで、約400∼600人に1人の割合で出生 する。口腔機能には、呼吸する、食べる、話すなどのほか、情動の表出、 コミュニケーションがあるが、口唇口蓋 裂を有する小児では、出生直後から成長期を通して哺乳、咀嚼・嚥下、言語発達に問題を生じることが多い。 形態的には、歯の形や形成状態の異常、歯数異常や歯列不正、顎や顔面の発育の問題から、歯周病、齲 に対する易罹患性や 合の不全が問題となる。 また、中耳炎や合併症などを生じることが多いため、関連他科 との連携が重要となる。 そのため、健診を通して、必要な時期に保健指導、診断および適切な治療を受けること が重要であり、 その結果として形態的・機能的に良い結果を得られることが多くなる。 健診時期の年齢の子どもの姿と保護者への指導 1) 3∼4か月頃 出生直後から哺乳障害が認められることがあるため、口唇裂・口唇口蓋裂の哺乳障害の改善は重要であ る。児の唇・顎形態、吸啜状態などを考慮して指導する。 ホッツ床の使用、口唇形成術について担当医師の意 見を聞き、3か月から5か月までに哺乳量の獲得、哺乳に要する時間の短縮をチェックし、歯の萌出までに夜間 授乳や哺乳ビン使用の中止を目標とする。一般的に生後3か月、体重6kgを目安に口唇裂初回手術が行われ る。 2) 1歳6か月頃 この時期では卒乳を迎えた小児が多くなり、食事にも規則性が見られる。 また、養育者による口腔清掃習慣 をつけ、 う の早期発生に気をつける。指導のポイントでは、1歳6か月児健診時に卒乳が完了していない場合 や哺乳ビンを使用している場合は、授乳と哺乳ビン使用の中止を促す。 う の発症要因としては飲食物摂取 の規則性(哺乳の期間・頻度を含む)が重要で、食事の規則性は哺乳の規則性の上に成り立つことを指導す る。 また、顎列部に萌出する乳歯はその位置、形成状態、機能の面からう に罹患しやすいため、 ブラッシング 指導が重要である。 ここまでの時期では、 ホッツ床の管理、離乳食の指導、言語発達のチェック、 う の予防、 中耳炎の検査を主たる管理項目とする。口蓋形成術は、定型発達児では2歳以降に言語機能が発達すること から、1∼2歳、体重10kgで実施されることが多い。 3) 3歳頃 第二乳臼歯が萌出完了し、機能的にも成長が見られる。乳歯の早期発症型のう は進行が速く、 その後の 矯正歯科治療を阻害するのみでなく、顎骨の劣成長を招くことも念頭に指導する必要がある。 また、3歳以降の 歯肉炎、 う の要因として生活習慣・食習慣に加え、歯みがきが重要になるため、歯みがき・仕上げみがきの習 慣が獲取されていることを確認する。 226
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