中国の国有企業は海外直接投資から恩恵を受けたか. Do State

る。ゆえに、固定コストが変わらないとき、国内企業の生産
中国の国有企業は海外直接投資から恩恵を受けたか.
性が下がる。
2、多国籍企業は技術労働者に対して高い賃金を支払う。結
Do State-Owned Firms in China Benefit from Foreign Direct
果、クラウディングアウト効果が起こり、技術労働者が多国
Investment?
籍企業に集まる(つまり多国籍企業が高い賃金を提示するた
めに国有企業にいる技術労働者が少なくなる)。技術労働者が
03_12550
周
維娜
Weina Zhou
減少することによる生産性の低下は以下のように説明できる。
S,U は現地企業の技術労働者数と未熟練労働者数で、 Os
指導教員
田中
隆一
樋口洋一郎
Advisers
Ryuichi Tanaka
Yoichiro Higuchi
と O u は技術労働者と未熟練労働者の生産額とする。ゆえに、
多国籍企業が入ってくる前に、現地企業の生産性 LP は:
(1)
Ⅰ.背景:
LP =
Os + O u
S+ U
海外直接投資 (FDI) が受け入れ国の経済発展にどのよ
となるが、多国籍企業が参入し、現地企業より技術労働者に
うな影響を与えているかについては昔から議論してされてき
対して、高い賃金を提示し続ける場合、現地企業の生産性は
た。Keller & Yeaple (2003) は 1987∼1996 アメリカのプラ
(2)
ントレベルのデータを使って FDI が国内製造業の生産性を
LP =
Ou
U
11% 上げるという結果を得た。一方 Germidis (1977) は 12
と収束していき、低下する。さらに生産性が下がるにつれて
カ国の発展途上国のデータを使って、多国籍企業から国内企
賃金も下がる可能性がある。
業にほとんど技術移転の効果がなかったことを発見した。ま
Ⅳ.実証分析:データの説明
た、Barrr, Borg, Strobl (2005) ではアイルランドのデータ
1995 年から 2004 年までの省別パネルデータを用いて分析する。
を使って、多国籍企業の多い輸出産業では現地企業の生産性
95 年からデータを取る理由:
が下がり、賃金も下がるという結果を得た。
1、92 年から 94 年まで為替レート RMB が約 50%減少し、
FDI が受入国に与える影響は様々であり、その国の状況
中国の FDI インフローは大幅に増加した。
と FDI の性質によって大きく変わってくるため、更なる実証
中国におけるFDIインフロー額
分析が必要である。
中国では 92 年以後、FDI が急激に増加し始め、94 年以後
FDI インフロー額は世界第2位を維持し続けている。今まで
万ドル
Ⅱ.本研究の目的:
FDI インフローが中国に与える影響に関する既存研究は、ほ
てきた。そこで本研究は中国の伝統部門−国有企業―に焦点
19
84
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88
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98
20
00
20
02
20
04
とんど中国の全体的は経済発展をターゲットとして分析され
700
600
500
400
300
200
100
0
をあてて分析を行う。多国籍企業の、国有企業の生産性と賃
2、94 年に中国政府は国有企業改革が行って、国有企業は独
金に与える影響について分析し、その原因を検討する。
自経営活動を行うようになった。その前には国有企業は生産
Ⅲ.FDI が受入国に与える影響:理論的フレームワーク
で得られた利潤をほぼすべて政府に納めることになっていた
ポジティブな影響:
が、94 年以後国有企業は利潤を政府に納める必要がなくなっ
(EX:バングラデシュ、アメリカなど)
年
1、多国籍企業は高い技術を持っているため、多国籍企業で
た(その代わりに税金を支払う)。 ゆえに、94 年以後、国有
働いていた人が現地企業に移ることにより、スピールオーバ
企業は企業利益を最大化するインセンティブをもつようにな
ー効果が生じる。
った。また、国有企業が今まで政府に押し付けられてきてい
2、多国籍企業が受け入れ国で中間財を調達して生産を行う
た「高い就職率、低い賃金」の政策も徐々に廃止されている。
場合、中間財の需要が引き上げられ、中間財産業の生産性や
国有企業の民営化: 2000 年から国有企業の民営化が始めら
賃金を引き上げる。
れ、赤字企業が民営化される傾向が強い。
3、多国籍企業の輸出活動が、現地企業にとって外国市場開
変数の説明:
拓の効果があり、現地企業の輸出イノベーションコストが下
がる。
4、多国籍企業は比較的に高い賃金を支払うため受入国全体
の平均賃金を引き上げる。
変数名
変数の表す意味
LP
国有工業企業実質生産額/労働者数
平均 標準偏差
20.403
21.684
WAGE 対数を取った国有企業の平均実質賃金 9.024
0.402
FDI
多国籍企業労働者数/労働者数
0.021
0.027
EXPORT
一人当たり多国籍企業の輸出額
0.102
0.256
1、多国籍企業は高い生産技術や経営ノウハウを持っている
IMPORT
一人当たり多国籍企業の輸出額
0.112
0.280
ので、限界コストが現地企業より低い。ゆえに、現地企業の
GDP
一人当たりGDP
0.847
0.607
マーケットシェアが多国籍企業に容易に取られ、生産量が減
INVEST
一人当たり国有企業の投資額
0.158
0.128
ネガティブな影響:
(EX:アイルランド、ベネズエラなど)
考えられる原因の一つとしては、多国籍企業が技術労働者に
Ⅴ.多国籍企業が国有企業の生産性に与える影響の推計:
対して高い賃金を支払っているため技術労働者が多国籍企業
推定式:
に集まり、国有企業の技術労働者数が減る。つまりクラウデ
LP it = β 0 + β 1 FDI
+ β 5 INVEST
it
+ β 2 EXPORT
it
it
+ β 3 IMPOET
it
+ β 4 GDP it ィングアウト効果が起こり、そのために国有企業の生産性が
+ c i + s t + u it
下がったのではないか。多国籍企業と国有企業の賃金格差が
推計方法:2way fixed effectで観測不可能の効果 c i と s t を
取り除く。分散不均一と系列相関の影響を考慮するため、
Robust Standard Errorを用いる。
大きければ、技術労働者が多国籍企業に集まり、国有企業に
技術労働者が減少する、つまりクラウディングアウトが起こ
ったという証拠となる。ゆえに、生産性を引き下げる原因を
探すために、平均賃金の差 difference it を生産性の回帰式に入
推定結果:
1、多国籍企業の労働者数が多い省ほど国有企業の生産性が
低い。(ネガティブな影響)
れてテストする。
推定結果:
2、多国籍企業の輸出活動により、国有企業の生産性が高ま
った。(スピールオーバー効果)
1、多国籍企業と国有企業の賃金格差が大きい省では国有企
業の生産性が低い。多国籍企業が技術労働者市場をクランデ
ィングアウトしたために、国有企業の生産性が下がったと考
変数
係数
Robust Std Err 有意水準
FDI
-177.193
81.271
**
えられる。
EXPORT
38.931
14.135
***
2、全体的有意性が高まった上に、FDI の係数の絶対値が 1/3
IMPORT
8.171
10.420
GDP
52.083
11.646
INVEST
-15.202
14.939
程度増加している。
***
(*10%有意、**5%有意、***1%有意)( R 2 = 0.93 )
Ⅵ.多国籍企業が国有企業の賃金に与える影響の推計:
推定式:
WAGE
it
= β 0 + β 1 FDI
+ β 4 iIMPORT
it
it
+ β 5 GDP
+ β 2 WAGE
it
it − 1
+ β 6 INVEST
+ β 3 EXPORT
it
+ c i + s t + u it
変数
係数
Robust Std Err 有意水準
FDI
-262.891
73.766
***
DIFFERENCE
-0.002
0.001
***
EXPORT
33.421
10.852
***
IMPORT
8.703
8.095
GDP
56.268
8.853
***
INVEST
-33.694
11.006
***
( R = 0.94 )
内生性:
2
1.今期の賃金は前期の賃金に依存する(ダイナミックパネル)
2.FDI は国有企業の賃金に影響を与えると同時に、FDI は賃金
の安い省で行われる。(同時内生性)
Ⅷ.まとめと考察
本研究は 95 年から 2004 年までのデータを使い、多国籍企
業が中国国有企業に与える影響について実証分析を行った。
推計方法:
分析結果として、多国籍企業により国有企業の生産性は低下
i 方向の階差と時間ダミーで c i と s t で観測不可能の効果を取
し、さらに国有企業の賃金も低下するという結論が得られた。
ゆえに、国有企業は海外直接投資から恩恵を受けていない。
り除く。しかし、以上の二つの内生性が存在するかぎり、OLS
国有企業の生産性の低下の原因の一つはクラウディングア
推計量には一致性が満たれない。ゆえに、操作変数を使って
ウト効果である(技術労働者市場での、多国籍企業による国
Generalized Moment of Method(GMM)で推計する。
有企業の締め出し)という仮説をたて、賃金格差をクラウデ
内生変数:wage, FDI
ィングアウト効果の指標とすることで仮説が有意であるとい
操作変数:二期前と三期前のwageとFDI を操作変数として使
う結果を得た。
う。(Hansan J Statisticsより直交条件が満たされている)
何故スピールオーバーの効果がなくて、ネガティブな効果あ
推計結果:
ったのか?
多国籍企業の労働者数が多い省ほど国有企業の賃金が低い。
1、スピールオーバー効果は多国籍企業で技術を身に付けた
変数
係数
Robust Std Err
有意水準
労働者が現地企業に移動して始めて生じるものである。国有
WAGEt-1
0.565
0.119
***
企業が今まで取ってきた「高い就業率、低い賃金」の政策の
FDI
-1.884
0.829
**
下で、国有企業が賃金を上げられない。国有企業の賃金は多
IMPORT
-0.042
0.029
国籍企業と比べるとあまりにも低いため、国有企業から多国
EXPORT
0.026
0.045
籍企業へ移動する労働者はいるが、多国籍企業から国有企業
GDP
0.112
0.057
**
へ移動する技術労働者がいないため、スピールオーバーの効
INVEST
0.113
0.062
*
果がないため、生産性が下がったと考えられる。
( R 2 = 0.98 Hansan J statistics: 0.103)
Ⅶ.多国籍企業は何故国有企業の生産性を引き下げたのか:
参考文献 Barry et al.(2005) 「Foreign Direct Investment and Wages in
Domestic Firms:Productivity Spillovers VS Labour-Market Crowding out」