第7章 ファイナンス・リース

第 3 編「債権」
第 2 部「各種の契約」
民法(債権法)改正委員会
第 19 回 全体会議
2009.2.14
第7章
I
ファイナンス・リース
ファイナンス・リースの意義と成立要件
Ⅳ-4-1
ファイナンス・リースの意義と成立
ファイナンス・リースは,リース提供者が,ある物(以下,「目的物」という。)
の所有権を第三者(以下,「供給者」という。)から取得し,目的物を利用者に
引き渡し,利用者がその物を一定期間(以下,「リース期間」という。)利用す
ることを忍容する義務を負い,利用者が,その調達費用等を元に計算された特定
の金額(以下,「リース料」という。)を,当該リース期間中に分割した金額(以
下,「各期リース料」という。)を支払う義務を負う契約をいう。
【提案要旨】
提案【Ⅳ―4-1】は,冒頭規定として,ファイナンス・リースの基本的な内容と性格を
示す規定である。ここでは,当事者の義務が以下のようなものであることが示される。
第 1 に,リース提供者の義務が,「ある物の所有権を……取得し,その物を利用者に一定
期間(リース期間)利用させる」ということを内容とするものであることを示す。
なお,ここで「利用させる義務」は,以下の二つの局面で現れる。
まず,利用者に目的物が引き渡される(リース提供者から引き渡される場合に限らない)
ことを実現するというレベルのものである。
次に,目的物が引き渡されてからは,後の規定によって示されるように,利用者が使用収
益をできるようにリース提供者が積極的な義務を負担する関係ではなく,利用者の使用収益
を承認するという形で実現されることになる。
第2に,利用者が支払うのは,目的物「の調達費用等を元に計算された特定の金額」であ
るということを示す。これは,リース料が,「目的物の使用収益の対価」ではないというこ
とを示す点に意味があり,この点で,賃貸借とは決定的に区別されることになる。
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Ⅳ-4-1-1
利息制限法の適用
利息制限法との関係については規定を置かない。
【提案要旨】
ファイナンス・リースが,信用供与としての性格を有することから,利息制限法の適用が
ないかが問題となる。しかしながら,このような問題は,ファイナンス・リースに限らない,
消費貸借という法形式以外による信用供与一般について問題となるものであり,また,具体
的な規定を置くこと自体についても困難であるために,利息制限法との関係ないし利息の規
制については特に明文の規定を置かないことを提案するものである。
II
ファイナンス・リース契約の効力
1 目的物の受領とリース期間の開始
Ⅳ-4-2
目的物の受領とリース期間の開始
(1)利用者は,目的物が供給者またはリース提供者から引き渡された後,ただちに目
的物の検査を行い,契約に適合したものであることを確認したときは,それをリ
ース提供者に通知するものとする。
(2)前項の通知をなした時に,目的物の受領がなされたものとし,その時からリース
期間が開始するものとする。
【提案要旨】
提案(1)は,利用者への目的物の引渡しがなされた場合の,利用者の検査確認義務を規定す
るとともに,それをふまえた通知義務を規定するものである。
また,提案(2)は,その通知をもって,目的物の受領として,リース期間が開始することを
規定するものである。
利用者の検査確認義務を一般的に規定することは,他の典型契約との関係ではやや特殊で
あるが,ここでの検査確認が,利用者と(主として)供給者との目的物の引渡しをめぐる関
係だけではなく,(信用供与者としての)リース提供者との関係を規律するものであり,一
定の時点を以て,リース提供者と利用者との関係の基本的な性格が変わるということに対応
した規定を用意するものである。
2 目的物に関する利用者の義務等
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Ⅳ-4-3
目的物の利用に関する利用者の義務
利用者は,目的物の受領の後,契約又はその目的物の性質によって定まった用法
に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
【提案要旨】
本提案は,目的物の受領後,利用者が,契約又はその目的物の性質によって定まった用法
に従って,その物の使用及び収益をしなければならないという義務を規定するものである。
ファイナンス・リースにおいても,他の利用型契約と同様に,他人の物(リース提供者が
所有権を有する物)を利用するという性格は共通であること,また,リース提供者の有する
権利が実質的には担保権にほかならないとしても,その担保的価値を保存するための義務と
して,このような用法遵守義務を規定することが適切であると判断したものである。
Ⅳ-4-4
目的物についての維持管理及び修繕義務
利用者は,目的物についての維持管理の義務を負担し,目的物が損傷したときは,
それを修繕しなければならない。
【提案要旨】
本提案は,賃貸借の場合と異なり,目的物についての維持管理の義務を負担するのが,利
用者であることを示すものである。
Ⅳ-4-5
無断で第三者に使用収益させることの禁止
利用者は,リース提供者の承諾を得なければ,目的物を第三者に使用又は収益さ
せることはできない。
【提案要旨】
本提案は,利用者が,リース提供者に無断で,目的物を第三者に使用収益させることはで
きないことを規定するものである。
無断で第三者に使用収益させた場合の解除等,その法律効果については,特に規定してい
ないが,これは解除や損害賠償等,債務不履行に関する一般のルールによって処理すること
で足りると考えられることによる。
なお,このような観点からは,規定の積極的意義は必ずしも大きくはないことになるが,
目的物に対する担保的利益を有するリース提供者は,目的物の使用収益の状況について一定
の利害を有しているのであり,債務者の手元に担保目的物がないことが当然に容認されるべ
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きものだともいえないという見地から,任意規定としてのデフォルト・ルールを置くことが
適切であると判断し,提案するものである。
3 目的物の損傷と滅失
Ⅳ-4-6
目的物の損傷及び滅失
(1)目的物が損傷したことにより,目的物の利用が一時的に不可能となり,又は制限
された場合において,その損傷がリース提供者の義務違反によるものではないと
きは,利用者は,当該期間における各期リース料の債務を免れないものとする。
(2)目的物が滅失した場合において,その滅失がリース提供者の義務違反によるもの
ではないときは,利用者は,残リース期間におけるリース料の債務を免れないも
のとする。目的物が利用者の義務違反によって滅失した場合は,利用者は期限の
利益を失う。
【提案要旨】
提案(1)は,目的物の損傷の場合の各期リース料の支払いに関するものである。
ファイナンス・リースにおける各期のリース料は,当該期間における目的物の使用収益の
対価ではなく,【Ⅳ-4-1】に示されるように,「その調達費用等を元に計算された特定
の金額(以下,「リース料」という。)を,当該利用期間中に分割して支払う金銭(以下,
「各期リース料」という。)」であり,賃貸借の場合と異なり,目的物の使用収益(の可能
性)の有無によって直接左右されるものではないということを示すものである。
提案 (2)は,目的物が滅失した場合のリース料について規定するものである。
ファイナンス・リースが信用供与であるということを前提とすれば,一般的な所有者危険
負担は妥当しないことを前提として,目的物の滅失のリスクを利用者が負担することを定め
たものである。
なお,賃貸借契約においては,目的物の滅失によって契約関係が終了することを規定する
ことを予定しているが,ファイナンス・リースにおいては,契約関係を終了させると,その
場合に,利用者がリース料の支払いについての期限の利益を失う可能性がある。利用者の義
務違反が認められない場合についてまで,目的物の滅失によって当然に期限の利益を失わせ
るということは適切ではないと考えられるので,契約を終了するものとはせず,単にリース
料債務が存続するということを規定するものである。他方,目的物が利用者の義務違反によ
って滅失した場合は,実質的に,利用者による担保目的物の滅失であると評価できるので,
期限の利益を失わせるとするものである。
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4 目的物の契約不適合
Ⅳ-4-7
目的物の契約不適合についての責任
(1)利用者による受領がなされた目的物が契約に適合しないものであった場合におい
て,リース提供者は,利用者に対して,これについての責任を負わないものとす
る。
(2)リース提供者が,(1)に規定した目的物の契約不適合に関して供給者に対して
有する権利(解除権を除く)は,利用者の請求によって,利用者に移転する。利
用者が消費者である場合には,これに反する特約は無効とする。
(3)利用者が消費者であるときに,リース提供者が,事業者たる供給者との間で,供
給者の責任を減免する特約を結んだ場合には,リース提供者が消費者であったと
すれば,消費者契約法 8 条及び 10 条の規定によって,当該免責特約が無効とされ
る範囲で,リース提供者は,利用者に対して,その責任を負担する。
【提案要旨】
提案(1)は,まず,ファイナンス・リースにおける出発点として,賃貸借と異なり,目的物
の契約不適合は,リース提供者の利用者に対する責任をもたらすものではないということを
原則として示すものである。
次に,提案(2)において,(1)に規定した目的物の契約不適合に関してリース提供者が供給者
に対して有する権利(解除権を除く)が,利用者からの請求によって,利用者に移転するこ
とを定めるものである。
これによって,利用者の利益の確保が,実質的に図られることになる。なお,提案(2)がこ
のような利用者保護のための性格を有するものであり,(1)の失権のいわばカウンターバラン
スをとるものであることから,利用者が消費者である場合には,これを特約によっても排除
することができないものとしている。
提案(3)は,提案(2)のしくみが,リース提供者が供給者に対して有する権利が,利用者の
利益を実現するうえで前提となるということをふまえて,その実質を確保するための手当て
を提供するものである。すなわち,リース提供者と供給者との間の契約で,供給者の責任を
減免する特約を結んだとしても,かりに,その契約が消費者契約であったとすれば,消費者
契約法 8 条及び 10 条によって,その特約が無効とされる範囲内で,リース提供者の利用者に
対する責任を認めることで,消費者契約法によって認められた範囲での,消費者たる利用者
の利益を実質的に確保するということを目的とするものである。
5 目的物についての第三者の権利
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Ⅳ-4-8
利用者の通知義務
目的物について権利を主張する者があるときは,利用者は,遅滞なくその旨をリ
ース提供者に通知しなければならない。ただし,リース提供者がすでにこれを知
っているときは,この限りでない。
【提案要旨】
現民法 615 条の規定が存続することを前提に,それに対応する内容をファイナンス・リー
スにおいて規定するものである。ただし,同条の修繕に関する部分はファイナンス・リース
においては対応しないので,その部分を除外している。
Ⅳ-4-9
リース利用権の対抗力
(A案)何も規定しない。
(B案)リース利用権の対抗力について,以下の趣旨の規定を置く。
リース利用者が,目的物の引渡し(占有改定を除く)を受けたときは(土地にお
いては,登記その他の対抗要件を備えたときは),目的物についての物権を取得
した者に対抗することができる。
【提案要旨】
リース提供者が,目的物の所有権を第三者に移転した場合の法律関係について,規定を用
意することが必要ではないかを検討課題とするものである。
まず,A案は,これについて何も規定しないということを提案するものである。
これは,他との整合性やバランスを考えたうえで,適切な規定を置くことが困難だという
判断に立つものである。すなわち,動産が中心となるファイナンス・リースにおいては,引
渡しを対抗要件とする規律を用意するということが考えられるが,かりにそのように動産に
ついてのみの規定を用意すると,①不動産のリース利用権については対抗問題に関する規定
が用意されないまま,動産についてのみ規定を置くということは,動産の利用権の方を強く
保護するかの逆転現象をもたらす,②賃貸借においては,目的物の物権取得者との関係で明
文の規定を用意したのは不動産賃借権についてだけであり,動産については規定を置くこと
を見送ったにもかかわらず,ファイナンス・リースについてのみ規定を用意することはバラ
ンスを欠くことになる,といった問題があることを前提とするものである。
他方,B案は,目的物の引渡しを受けた場合(土地については,登記その他の対抗要件を
備えた場合)に,リース利用権を,目的物の物権を取得した者に対しても対抗できるという
ことを規定するものである。
これは,①動産及び不動産の中,建物については,引渡しが対抗要件となることを規定す
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るとともに,土地についてはリース利用権の登記が対抗要件となることを規定するというこ
とを前提として,②賃借権との関係では,ファイナンス・リースにおける利用者の権利は,
実質的にもより所有権に近いものであると考えられ,そうした理解を前提とすれば,リース
利用権が賃借権より厚く保護されるということの説明が可能であると考えるものである。
III ファイナンス・リースの終了
1 中途解約の禁止
Ⅳ-4-10
中途解約の禁止
ファイナンス・リースにおいては,特段の合意がある場合を除いて,リース期間
中の解約はできないものとする。
【提案要旨】
本提案は,ファイナンス・リースにおいて,中途解約ができないということを規定するも
のである。
ファイナンス・リース契約が,信用供与としての側面を有しており,リース料は,その融
資額の返済としての性格を有しており,契約期間の途中での解約と,将来的な契約関係の解
消(残契約期間についての各期リース料債務の消滅)という関係があてはまらないことを示
すものであり,ファイナンス・リースの最も基本的な効果のひとつである。
2 債務不履行による解除
Ⅳ-4-11
利用者の債務不履行による解除
(1)利用者が各期リース料の支払いを怠ったことにより,リース提供者がファイナン
ス・リースを解除したときは,利用者は,残リース期間におけるリース料の債務
を免れないものとする。この場合に,利用者は,各期リース料についての期限の
利益を失う。
(2)リース提供者は,目的物の返還によって得た利益を清算しなければならない。
【提案要旨】
本提案は,利用者の債務不履行による解除と,その場合の残リース料をめぐる関係を規定
するものである。
提案 (1)は,こうしたリース提供者からの解除については,解除に関する一般規定によって
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規律することができるということを前提に,このような利用者の債務不履行を理由とする解
除の場合において,リース料が,信用供与としての融資額としての性格を有することに照ら
して,その債務が存続することを規定するものである。
提案(2)は,残存リース料債務はそのまま存続する一方で,リース提供者が,予定されるよ
り早い時期に目的物を回収することによって得られる利益の清算義務を定めるものである。
3 目的物の返還・受領等
Ⅳ-4-12
目的物の返還等
ファイナンス・リースが終了したときは,利用者は目的物を返還し,リース提供
者は,これを引き取らなくてはならない。
【提案要旨】
ファイナンス・リース契約終了時の法律関係として,目的物の返還に関する規定を置くこ
とを提案するものである。具体的には,①利用者が目的物を返還しなければならないという
ことを規定するとともに,②リース提供者がこれを引き取らなければならないことを規定す
るものである。
Ⅳ-4-13
ファイナンス・リース終了時のその他の法律関係
(1)再リースについては,特段の規定を置かない。
(2)ファイナンス・リースの終了時の所有権移転等については,特段の規定を置かな
い。
【提案要旨】
ファイナンス・リースの終了に際しては,再リースや,目的物の所有権の移転等が問題と
なる。
これらについては,特に明文の規定は置かないというのが提案の趣旨である。
Ⅳ-4-14
その他
①
利用者が消費者の場合を排除しない。
②
賃貸借,使用貸借の規定の準用に関する規定は置かない。
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【提案要旨】
その他として,以下の 2 点を提案するものである。
第 1 に,消費者や事業者という当事者の属性に照らした,典型契約としてのファイナンス・
リースの適用範囲等の一般的な規定は置かないものとする。これは,実質的にも積極的な意
義はなく,かえって,問題を潜在化させたまま残すことになると考えられるからである。
第 2 に,賃貸借,使用貸借の規定は,準用等を行わないというものである。これは,ファ
イナンス・リースが,物の利用を中心とする賃貸借や使用貸借とは,その基本的な性格が異
なるために,準用規定を置くことは,かえって法律関係を不明瞭するものであるとの判断に
立つものである。
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