-1- 講演録 2013年9月26日 報告者:インド全国労働組合会議(INTUC

講演録
2013年9月26日
報告者:インド全国労働組合会議(INTUC)
R.D.チャンドラシェカール青年担当書記長
インドの労働運動は、150年以上前の1850年代に始まり、1918年に織物工場の労働者によ
ってマドラス労働組合が結成され、勢いがついた。その後、1920年に全インド労働組合会
議(AITUC)の結成となり、英国の植民地支配に対する自由獲得への闘争にも参加してきた。
1926年には初の労働組合法も導入され、最も早く組合が組織された産業である繊維産業の
組織化を通じて、1947年にインド全国労働組合会議(INTUC)の結成となった。その1カ月
前にはインドの独立も果たされた。
インドの労働力人口は4億5600万人となっているが、そのわずか6.2%の約2800万人が組
織部門1の労働者(フォーマルセクター)である。残りは全て、建設業や農業等の未組織部
門(インフォーマル・セクター)で働いている。加えて、毎年2000万人の若者が、新たに
労働人口に加わると推計されている。
インドの現在の労働組合の活動は活発化している。これは、ストライキや経営者側によ
るロックアウトなどの労働争議が起きているためである。1976年に初めて労使紛争に関す
る法律が導入され、300人以上の労働者を雇用している企業では、労働者を整理解雇する前
に、政府に事前の許可をとることが義務化2された。しかし、このような方法で解決を図る
前に、労使交渉を行うべきである。
【産業別の労使紛争の状況】
インドの労使紛争では、扇動(闘争的な労働組合リーダーが事業所を変えながら扇動し
争議を起こす)と事業所内で起きるストライキが特徴的である。ストライキや衝突の多く
は自動車産業(全体の30%を占める)で起きている。その自動車産業は、外国籍の多国籍
企業である。次いで自動車の部品や電子産業が18%、2番目は繊維・アパレル、これは特に
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組織部門とは労働者10人以上が働く企業の労働者と公務員を指し、非組織部門は生産、販
売やサービスを提供する個人企業、農業労働者、自営業者、労働者10人未満の企業で働く
者を指す。
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発言では300人以上となっているが、法律の改正により100人以上となった。
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輸出加
加工区(EPZZ)で起きている。アパ レル産業は、
、ほとんどが
が多国籍企業
業あるいは外
外国籍
企業で
である。4番
番目は鉄鋼、鋳造、鍛造、
、5番目が食
食品業である。運輸業は
は9%となって
ている
が、鉄
鉄道以外の運
運輸部門で起
起きており、
、鉄道の紛争
争は起きてい
いない。また
た、医療、健
健康、
教育部
部門で5%、セメント産
産業で3%とな
なっている。インドにお
おけるセメン
ント産業は、正規
労働者
者は多くなく、ほとんど
どが外部委託
託によるもの
のである。公
公共部門の企
企業は、非常
常に数
字的には低いもの
のとなってい
いる。
労働争議の産
労
産業別の割合
合
使紛争の背景
景】
【労使
19991年以降、イ
インドはグロ
ローバル化の
の中で早急に
に経済改革を
を行う必要に
に迫られた。この
結果、
、政府は、そ
それまでの投
投資家寄りの
の労働政策(経営者が安
安易に雇用し
し、解雇でき
きる権
利を支
支持する)を
を変更した。
。
女性
性や若者の中
中には、雇用
用契約(就業
業の条件)の
のため、労働
働組合に参加
加することが
が難し
くなっており、このため組合
合員数が減少
少している。また、スト
トライキや抗
抗議行動に関
関する
禁止や
や制限もある
る。団体交渉
渉も減ってき
きている。
19991年以降、組
組合がより強
強力になれば
ば、使用者側
側もより攻撃
撃的になって
ている。強い
い組合
が代表
表している業
業界、組合員
員数の多い業
業界では、使
使用者側が違
違った形の賃
賃金制度(雇
雇用形
態)を
を導入してき
きた。例えば
ば、同じ仕事 であっても、正規労働者
者と非正規労
労働者の間で
では、
賃金に差をつけた
た。
公共
共部門は、イ
インド国内で
で最大の労働
働者を雇用し
しているが、この公共部
部門でもスト
トライ
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キが起きている。その原因は、サービスの条件や賃金である。
また、新しいIT産業が大きく伸びているが、残念ながら、この新興分野はほとんどが未
組織であるとともに、コールセンターなどの組織化も進んでいない。労働組合の組織がな
いところでは、協会という従業員組織が設置されている。経済特区においては、労働組合
は登録3されていない。仮に経済特区で労働組合が登録されても、政府や経営者側は、2日
後には登録を取り消している。また、新しく設置された民間銀行にも組合がない。
一方、公共部門には労働組合があり対照的な状況にある。
【外資系企業の雇用と労使紛争】
外国企業における労働者は力の分散化が進んでいる。契約労働者をはじめ様々な形態の
労働者がいることから、労働者全体の力が分散している。利益の分配についても労働者の
タイプによって異なり、同じ機械で同じような仕事をしていても、賃金や条件、その他の
福利、ボーナス、インセンティブ、全てが違う。契約労働者は、団体交渉に参加できない
ことから、労働協約上の利益を受けられない。このような状況から、労働者側も組合に入
る価値を見出せないでいる。さらに、契約労働者はトレーニングの機会が十分ではない、
もしくは全く無いという問題がある。
外国企業における正規労働者の割合は1割ぐらいである。残りの労働者は全部、非正規
ということになり、団体交渉には全く参加できない。その結果、賃金等に大きな違い(格
差)が出る。契約労働に従事をしている労働者は、請負業者かエージェントを通じて仕事
をしており、こうした業者も多数あるため、団結に結びつきにくい。さらに、その業界の
中も衝突や対立が見られるという状況にある。
さらには、労働者は会社に対して忠誠心や感謝の気持ちが希薄なため、企業から別の企
業へ渡り歩くケースが増えている。それによって影響を受けた企業が閉鎖する、あるいは
事業所を別の場所に移すということも起きている。
2008年は、労使紛争やストライキが非常に多く1000件ほどあったが、その後減少してき
た。2013年9月の段階では、340件が記録されている。
労使紛争には、基本的に労働省またはそれぞれの地域にある労使委員会が間に入り、紛
争の解決に当たっている。しかし、経営者、企業によっては、労働省や地元の労使委員会
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労働組合法により、7人以上を組織化し当局に登録することによって、法律で認められた
労働組合となり、権利が認められる。
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の勧告
告を受け入れ
れないところ
ろもある。
労働
働争議発生件
件数
【労使
使紛争と労働
働者の課題解
解決に向けて
て】
労働
働者は、一つ
つの組合のも
もとに集まっ
って団結力を
を維持するこ
ことが必要で
である。また、
、国、
経営者
者、労働者、
、すべての関
関係者にメリ
リットとなる
るよう、労使
使紛争を解決
決するという
うこと
が必要
要である。組
組合は、異な
なる政党を支
支持していて
ても、労働運
運動を前に進
進めていくた
ため、
労働組
組合が同一の
の政策や活動
動、目的、方
方法を持つべ
べきである。
20008年から12の
の主要なナシ
ショナルセン
ンターのうち
ち、ほとんど
どの産業や業
業種をカバー
ーして
いる7つの組織が
が連合を組み
み、政府と交
交渉し調整を
をはかってき
きた。例えば
ば、2月に全国
国でス
トを行
行ったが、そ
その後、国は
はハイレベル
ルな委員会(ハイパワー
ーコミッティ
ィー)を設け
けた。
この委
委員会は、強
強い権限が与
与えられてお
おり、労働担
担当大臣、農
農業担当大臣
臣、そして首
首相自
身もこの委員会に
に参加し、そ
そこで交渉が
が行われた。その結果、国は、イン
ンフォーマル
ル部門
の労働
働者、農業部
部門に従事を
をしている労
労働者も含め
めて、社会保
保障を付与す
することを決
決定し
た。こ
このような成
成果は、7つのナショナル
ルセンターが
が連合を組ん
んで、協力を
をして交渉に
に当た
った結
結果である。
。
もう一つは、多
多くの労働者
者に支持され
れる労働組合
合指導者を選
選出すること
とである。外
外部か
ら来た
た人たちが指
指導4するのではなく、内
内部で選ばれ
れ、支持され
れた人たちが
が指導者にな
なるべ
きである。
4
イン
ンドの労働組
組合役員は、役員総数の
の3分の1また
たは5人の少な
ない人数まで
で、外部から
ら役員
を受け入れることが可能であ
ある。
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インドの経済は、GDP(2013年4~6月期の実質GDPは4.4%の伸び)も落ち込み、インフ
レ(2013年1月~2月、11~12%の上昇)も起きている。生産性もこの2年間、低迷している。
こうした結果が購買力に影響を及ぼしている。しかし、こうした中でも、スキルをアップ
グレードするため、様々な形で教育や研修、訓練の機会というものを提供すべきである。
職業訓練学校等でトレーニングをしていけば、インドにおける労使紛争は少なくなるはず
である。
労使紛争と労使関係の課題に向けた強化策(INTUC)
・多くの労働者が支持するレベルの労働組合指導者の選出。
・労働者教育・訓練。
・若年層の組織化の促進。
・十分な資金。
・労働者のための福祉活動の促進。
・有効な労働協約締結にむけた労働者代表への便宜提供。
・有意義な交渉実現に必要な情報の提供。
・相互の関心事項に関する協議と協力の促進。
・労働者とその家族の基本的なニーズを満たすのに十分な賃金、労働条件、福利厚生
等の提供。
・職場における安全衛生を確保する適切な措置。
・技能レベル向上のための訓練の提供。
・集団レイオフといった雇用の変更のある場合の妥当な通知、また、そういった変更
による影響を緩和するための協力。
・交渉に悪影響を与えたり、団結権行使を妨げたりすることを目的に、労働者に対し
て「工場の海外移転」をちらつかせるといった脅威を与えない。
・団体交渉と労使関係に関する決定権を持った使用者代表と労働者代表が協議できる
ようにする。
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