法面における土壌養水分の不均一性に応じたアカメガシワの 被食防御

–118, 2014
昆蟲(ニューシリーズ),17(3): 111
アカメガシワの防御形質の変異と昆虫類
111
〈原著論文〉
法面における土壌養水分の不均一性に応じたアカメガシワの
被食防御形質の変異と昆虫類による葉の利用
山 尾 僚 1・波 田 善 夫 2
1
2
九州大学理学部生物科学科生態科学
〒812–8581 福岡市東区箱崎 6–10–1
岡山理科大学生物地球システム学部生物地球システム学科
〒700–0005 岡山市理大町 1–1
Variations in defense traits against herbivores on Mallotus japonicus plants in relation to soil water and nutrient conditions and leaf use by insects in artificial slope
Akira Yamawo1 and Yoshio Hada2
1
Department of Biology, Faculty of Sciences, Kyushu University,
6–10–1, Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812–8581, Japan
2
Department of Biosphere–Geosphere System Science, Faculty of Informatics,
Okayama University of Science, Okayama 700–0005, Japan
Jpn. J. Ent. (N.S.), 17(3): 111–118, 2014
Abstract. We investigated how the abiotic factors of the artificial slope affect the leaf
defense traits of the young plants of Mallotus japonicas (Thunb.) and its associated
herbivorous insects growing on the slope. The light, moisture and nutrients of soil,
expression of defense traits in M. japonicas, and leaf damaged area by herbivorous
insects were compared at the upper and lower slopes. The light condition did not differ
on upper and lower slopes, whereas moisture and nutrients of soil were higher on lower
slope than those of upper slope. No difference was found in the number of extrafloral
nectaries which are attractive to the ant workers, but the expressions of physical and
chemical defense traits such as trichome density and pellucid dots were significantly
higher in the plants growing on the upper slope than those on lower slope. The leaf
beetle, Aphthona strigosa Baly and some leafcutter bees were found to consume the
M. japonicus leaves during the survey. The former infested plants growing on the lower
slope, while the latter cut leaves of those growing on the upper slope. Taken together,
these results suggest that the differences in abiotic conditions of the artificial slopes alter
the defense traits of M. japonicus and promote the resource partitioning by different
herbivorous insects.
Key words: coexistence, habitat conditions, herbivores, leaf traits, resource partitioning, slope position.
緒 言
生物多様性の維持は,生態系サービスの向上や持続可能な生態系の利用などにおいて重要な課題であ
る.都市の生物多様性は都市内に点在する緑地に大きく依存しているが(田中 2010)
,都市において確保
できる緑地面積にはしばしば限界がある.そのため,いかにして限られた緑地面積で多様な生物を維持す
るのかが重要な課題の一つとなっている.
近年,自然界における生物多様性の維持・創出機構について,多くの研究者がその解明に取り組んでお
り,飛躍的に理解が深まりつつある.特に陸上生態系においては,植物の種および遺伝的多様性が植物を
利用する動物の多様性を支えていることが明らかにされている (Crutsinger et al. 2006; Borer et al. 2012).
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山尾 僚・波田善夫
植物の防御形質の効果は,植食性動物の種によって異なるため (Blüthgen & Metzner 2007; Ali & Agrawal
2012),防御の程度が異なる葉の存在は複数種の植食性動物による葉の利用を可能にする (Blüthgen &
Metzner 2007).このように,植物の防御形質や防御の程度の違いは,植物を利用する植食性動物に様々
なニッチを提供し,共存を促進することにつながり,植食性動物の多様性を高める効果を持つ (Johnson
et al. 2006).
法面は,道路沿いおよびため池や河川の土手など,都市の至る場所に存在する人工的に作られた斜面
で,それらはしばしば都市計画により緑地化されている.斜面においては,土壌栄養塩類が降雨により上
部から下部へ流動し,下部に集積するため,斜面上部は貧栄養になりやすく,斜面下部は富栄養な土壌環
境になりやすい (Hanna et al. 1982; Zhang et al. 2004).植物の防御形質の発達度合は,光環境や土壌養水
分などの利用可能な資源の種類や量に応じて可塑的に変化する (Hemming & Lindroth 1999; Herms 2002;
Walters 2011; Yamawo et al. 2012a, b).例えば,植物の葉を植食者から物理的に保護するトライコーム
や,葉に含まれるタンニンやフェノール類などの防御物質は,明るい環境や土壌養水分の少ない環境で多
く生産される (Hemming & Lindroth 1999; Yamawo et al. 2012a, b).一方,揮発性物質は,寄生蜂などの
植食者の天敵を誘引して植食者を排除することにより生物的防御に関わっているが,土壌養水分の豊富な
条件下において多く放出される (Frischknecht et al. 1987; Garcia et al. 1987; Takabayashi et al. 1994).
従って,法面の斜面位置による土壌養水分の不均一性は,斜面に生育する植物の葉の防御形質の発達度合
を変化させると考えられる.このような植物の表現型可塑性によって昆虫の間で資源分割が起こる場合,
その効果により複数の昆虫種の共存が促進されると予測される.斜面位置の違いにともなう葉の防御形質
の発達度合と,昆虫の資源利用における葉の防御形質の発達度合の影響を明らかにすることは,昆虫の多
種共存機構を解明する上で必須である.
本研究では,法面に生育するアカメガシワ Mallotus japonicus (Thunb.) を対象とし,斜面位置による生
育環境の違いが植物の防御形質の発達度合と昆虫の葉の利用様式に与える影響を調査し,法面における土
壌環境の不均一性が都市における生物多様性の維持に果たす役割について提言した.
材料および方法
材料
アカメガシワは,本州から南西諸島に分布する落葉高木で,伐採跡地や崩壊地,林縁,河原および海岸
などの明るいところに生育する (Yamawo et al. 2014).葉や茎にはトライコームが密生し,ヨモギエダ
シャク Ascotis selenaria Butler の幼虫やサメハダツブノミハムシ Aphthona strigosa Baly などの植食性昆虫
に対する物理的な防御形質として機能している (Yamawo et al. 2012c).葉の裏面には,トライコームに加
えて,二次代謝産物を含む腺点と呼ばれるカプセル状の構造物がみられ,植食性昆虫に対する化学的防御
形質として機能している (Yamawo et al. 2012c).また,アカメガシワは,葉の基部と葉縁に花外蜜腺を持
ち,アリ類を誘引することで植食性昆虫を排除している (Yamawo et al. 2012c).本種は法面の緑化植物と
して広く用いられており,表土シードバンクを法面緑化に利用する施工法などでは優占樹種となる(高橋
ほか 2004; 中村ほか 2007; 田中・堀江 2008).
調査地の概要
岡山県岡山市理大町 (34°41′ N, 133°55′ E) の法面を対象に調査を実施した.調査地の標高は約 75 m で
あ り, 年 平 均 気 温 は 16.6±0.3℃, 年 間 降 水 量 は 1077±249 mm で あ る (Japan Meteorological Agency,
http://www.jma.go.jp/jma/index.html).法面は,南西向きで斜面長約 9 m,斜面幅約 50 m,傾斜角度約
20°であった.法面には上部から下部にかけて樹高 1 m 以下のアカメガシワの若木が生育していた.
アカメガシワの防御形質の変異と昆虫類
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各斜面位置における生育環境,葉の防御形質および昆虫類による葉の利用様式
2007 年 10 月に,法面上部から 1 m 以内および下部から 1 m 以内に生育している樹高 40 cm から 60 cm
のアカメガシワを,それぞれの斜面位置から 35 株ランダムに選定した.各株について葉の被食防衛形質
(トライコーム密度,腺点密度,花外蜜腺数)
,土壌栄養塩濃度および土壌含水率を調べた.光環境につい
ては,斜面上部と下部の調査範囲において,それぞれ両端および中心部の 3 か所において調査した.ま
た,アリの活動性が高い午前 9 時から 12 時の間に対象株上に存在するアリの数を全て数え,株上の来訪
アリ数を評価した.シュートの先端から 5 番目の完全に展葉が完了した葉を採取し,トライコーム密度,
腺点密度,花外蜜腺数,食害面積を実験室で測定した.トライコーム密度と腺点密度については,裏面の
主 脈 両 側 の 葉 基 部 か ら 1 番 目 の 側 脈 と 2 番 目 の 側 脈 と の 間 を 7 倍 の 実 体 顕 微 鏡 下 で 観 察 し, 視 野 内
(23.7 mm2) に存在するそれぞれの個数を数え,1 cm2 当たりの密度を算出した.葉面積は,葉の長径×短
径によって概算した.アカメガシワに観察された食害痕については,葉を丸く切り取るタイプと葉に小さ
な穴をあけるタイプの 2 タイプがあったが,前者はハキリバチ類によるものであり(著者の事前観察よ
り),後者はサメハダツブノミハムシによる食害痕である (Yamawo et al. 2012c).食害面積は,葉をス
キャナー(CanoScan 8800F,Canon 社)でパソコンに取り込み画像解析ソフト(Scion image,Scion 社)
をもちいて食害痕別に測定した.
光 環 境 は, 空
率 を 明 る さ の 指 標 と し た. 魚 眼 レ ン ズ(FC-E8,Nikon 社) 付 き デ ジ タ ル カ メ ラ
(CoolPix 990,Nikon 社)を用いて,斜面上部と斜面下部において,法面の左右と中央の 3 カ所で全天写
真を撮影した.全天写真解析ソフト (Canopon2, http://takenaka-akio.org/index.html) を用いて撮影画像
を解析し,空
率(空の割合)を算出した.
土壌含水率と土壌栄養塩濃度を測定するために,それぞれのアカメガシワの地際下 20 cm 部分の土壌を
200 cc 採取した.採取土壌は実験室に持ち帰り,その半量 (100 cc) の湿重量を直ちに電子天 (Adventurer Pro,Ohans 社)で測定した.同試料を 120℃で 48 時間乾燥させた後の乾重量を電子天 を用いて測
定し,(湿重量−乾重量)
/ 湿重量×100 の式を用いて含水率を求めた.残り半量の土壌は,簡易土壌分析機
(RQ フレックス,関東化学株式会社)を用いた土壌栄養塩濃度の測定に用いた.土壌栄養塩として,ア
+
3−
ンモニウム態窒素 (NH4 -N),硝酸態窒素 (NO3−-N),燐酸態リン (PO4 -P) の濃度 (mg/l) を測定した.
統計解析
斜面上部と下部の,土壌含水率,アンモニウム態窒素濃度,硝酸態窒素濃度,燐酸態リン濃度の比較,
およびアカメガシワの葉面積,トライコーム密度,腺点密度,花外蜜腺数,および昆虫種ごとの葉の利用
面積の比較には,Mann–Whitney の U-test を用いた.空
計解析を行わなかった.
率については,サンプル数が少ないため,統
結 果
斜面位置と生育環境
空
率は,斜面上部下部共に約 60%であり,大きな差はみられなかった.一方,土壌含水率は,斜面
下部の方が斜面上部よりも有意に高かった.斜面上部と斜面下部の土壌栄養塩濃度も異なっており,アン
モニウム態窒素,硝酸態窒素および燐酸態リン濃度の全てが,斜面下部の方で斜面上部よりも数倍高かっ
た (Table 1).
斜面位置ごとの葉の防衛形質と昆虫類による葉の利用
葉面積は斜面上部と下部でそれぞれ 117.97±52.64 cm2 (mean±SD) と 112.81±35.72 cm2 であり,有意
な違いはなかった (P=0.77).トライコーム密度と腺点密度は,両者とも斜面上部の方が斜面下部よりも
有意に高かった (Figure 1a, b).花外蜜腺数は,斜面上部と下部の株の間で有意な違いは見られなかった
山尾 僚・波田善夫
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Table 1. Mean±SD of light, soil water and soil nutrient conditions of an artificial slope in Ridaicho,
Okayama.
Slop positions
Porosity (%)
Soil moisture (%)
NH+
4 -N (mg/l)
NO3−-N (mg/l)
PO43−-P (mg/l)
Upper
Lower
64.5±2.4
10.5±0.7
0.9±0.1
2.4±0.1
10.5±0.7
58.4±3.1
25.8±1.5
2.8±0.1
19.6±0.8
25.8±1.5
Mann Whitney
U-test P-value
0.0031
<0.001
<0.001
<0.001
Fig. 1. Defense traits against herbivores and the number of ants found on young Mallotus japonicus plants
in upper and lower artificial slope positions. a; trichome density, b; pellucid dot density, c; number of
extrafloral nectaries (EFNs) per leaf, d; number of ant workers per plant (n=35 each). Bars represent
standard deviation. **Significant differences (Mann–Whitney U-test, P<0.01).
(Figure 1c).アカメガシワの花外蜜腺には,オオズアリ Pheidole noda Smith が訪れていたが,斜面位置
による株当たりの来訪アリ数の差はみられなかった (Figure 1d).
アカメガシワの葉は,サメハダツブノミハムシとハキリバチ類に利用されていた.サメハダツブノミハ
ムシによる食害面積は,斜面下部の方が上部より 10 倍程度大きかった (Figure 2).一方,ハキリバチ類に
よる葉の切り取りは,斜面下部よりも斜面上部の株で有意に大きかった (Figure 3).
考 察
本研究では,法面の斜面位置によって土壌養水分環境とそこに生育するアカメガシワの葉の防御形質の
発達度合が異なることが明らかになった.さらに,防御形質が発達している葉と発達していない葉は,そ
アカメガシワの防御形質の変異と昆虫類
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Fig. 2. Leaf areas of Mallotus japonicus plants consumed by Aphthona strigosa in upper and lower artificial
slope positions (n=35 each). Bars represent standard deviation. **Significant differences (Mann–Whitney U-test, P<0.01).
Fig. 3. Leaf areas of Mallotus japonicus plants damaged by leaf-cutting bees in upper and lower artificial
slope positions (n=35 each). Bars represent standard deviation. **Significant differences (Mann–Whitney U-test, P<0.01).
れぞれハキリバチ類とサメハダツブノミハムシといった異なる昆虫種に利用されていた.これらの結果
は,土壌環境に応じて植物の葉の防御形質の発達度合が異なり,その効果は植食性昆虫の
利用様式にま
で波及することを強く示唆している.斜面位置による土壌養水分環境の不均一性は,植物の防御形質に異
質性を生み出すことで,昆虫種間の共存を促進させる可能性がある.
土壌含水率は斜面上部で低く,下部で高かった.土壌栄養塩濃度も,アンモニウム態窒素,硝酸態窒素
および燐酸態リンの全てにおいて斜面下部の方が上部より数倍高かった.これは土壌栄養塩が降雨により
斜面上部から下部に向かって水分と共に流動し,下部に集積したためであると考えられる.このような地
形に応じた土壌栄養塩の流動と集積は,法面のような斜面では一般的に観測されている (Hanna et al.
1982; Zhang et al. 2004).
トライコーム密度と腺点密度は,水分と土壌栄養塩が少ない斜面上部で高く,水分と土壌栄養塩の豊富
な斜面下部は少なかった (Table 1).同様の結果は,アカメガシワ実生を異なる土壌養分や水分条件下で栽
培した実験においても報告されており (Yamawo et al. 2012a, b),斜面位置に応じた防御形質の変異が土壌
養水分の違いに応じた可塑的変異であることを強く示唆している.乾燥条件や貧栄養条件下において化学
的防御形質や物理的防御形質が発達することは,Madia sativa L.(キク科)やヤマナラシの仲間,ヤナギ
類,コナラなどの様々な植物種においても報告されている (Hemming & Lindroth 1999; Orians et al.
2003; Gonzáles et al. 2008).
トライコーム密度や腺点密度が低い斜面下部のアカメガシワでは,サメハダツブノミハムシによる食害
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山尾 僚・波田善夫
が多く発生していた.トライコームや腺点内に含まれる二次代謝産物は,しばしば植食者による被食を妨
げる (Walters 2011).サメハダツブノミハムシも,アカメガシワのトライコームや腺点により摂食が阻害
されるため (Yamawo et al. 2012c),それらの密度が低い斜面下部のアカメガシワの葉を多く摂食したもの
と考えられる.
一方,トライコーム密度や腺点密度の高い斜面上部のアカメガシワでは,ハキリバチ類による葉の切り
取りが多くみられた.この理由としては,ハキリバチ類が他の植食者による葉の損傷を避けて葉を利用し
ていること,または,斜面上部の葉を好んで利用しているという 2 つの可能性が考えられる.ハキリバチ
類は,成虫が葉を切り取って幼虫の
である花粉塊を包む巣材として利用する(片山 2004; Litman et al.
2011; 片山・松田 2012).斜面上部に生育するアカメガシワの葉は,防御形質が発達しており,サメハダ
ツブノミハムシによる食害,即ち損傷が少ない.また,トライコーム密度も高く,物理的損傷に対しても
比較的高い耐久性を有していると思われる.アカメガシワの腺点内の物質は同定されていないが,近縁種
であるオオバギの腺点には nymphaeol-C というフラバノンの一種が含まれており (Guhling et al. 2005),
この物質には抗菌作用がある事が知られている (EL-Bassuony 2009).アカメガシワ葉においてもバクテ
リア類に対する殺菌効果が報告されており (Tsuda et al. 2005),斜面上部のような化学的防御能力の高い
葉ではその効果が大きいと予想される.従って,斜面上部の葉を巣材として利用することで,幼虫の
資
源である花粉塊の腐敗を防ぐ事が可能であると推察でき,これらの理由から,斜面上部のアカメガシワの
葉がハキリバチ類に多く利用されたものと考えられる.以上のように,昆虫種によって異なる葉を利用す
ることが,資源分割を通して複数の昆虫種の共存を可能にするものと考えられる.
Wagner & Nicklen (2010) は,Acacia constricta が土壌栄養塩濃度の高い条件下で花外蜜腺を多く持つ葉
を形成することを報告している.アカメガシワにおいても,施肥処理下では葉に多くの花外蜜腺を形成す
ること (Yamawo et al. 2012b),斜面下部のような湿潤条件では花外蜜の分泌量が乾燥条件下よりも多いこ
とが報告されている (Yamawo et al. 2012a).しかしながら,本調査において,花外蜜腺の数と株上の来訪
アリ数には斜面位置による違いは見られず,法面における土壌養水分の不均一性は,アカメガシワにおけ
るアリによる生物的防御の効果に大きな影響を与えないことを示唆している.
このように,法面の土壌環境の不均一性は,アカメガシワの防御戦略の多様性を生み出し,その結果と
して異なる昆虫種による葉の利用を可能にしていることが示唆された.土壌環境の不均一性による植物の
葉質の多様化は,法面のような斜面だけでなく,公園や植え込みのような平面立地にも応用可能である.
異なる保水性や栄養塩濃度の土壌をパッチ状に配置することで,生育する植物の葉の防御形質の程度を変
化させることができ,小面積であっても多様な植食性昆虫が共存する緑地を構築することが可能であると
考えられる.今後,動物が利用する植物の種類だけでなく,動物がどのような質の植物を好んで利用する
のかを明らかにし,植物の可塑的変異を考慮した上で緑化に利用する植物種を選定および配置することに
よって,都市における植物上の動物の多様性の維持と創出に貢献することができるだろう.
謝 辞
本研究をまとめるにあたり,九州大学理学部の廣田 峻博士には有益な助言をいただいた.本研究の一
部は,日本学術振興会特別研究奨励費(代表者: 山尾 僚; 課題番号 234305, 251712)の補助を受けて実
施された.
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