hifi news_review201409

Hifi news 誌2014年9月号 TechDAS TDC01 Tiレビュー
筆者 Ken Kessler
技術レポート Paul Miller MCカートリッジTDC01のデビューからわずか6ヶ月後TechDASはチタンボディの後続
製品を発売した。さてどこが違うのだろうか?
TechDASの西川さんの復活により、Air Force OneとTwoという2つの圧倒的なターンテーブルでその名を欲しいまま
にしている同社だが、今後LP プレーヤー以外の製品も提供していくことは確実だ。トーンアームを近い将来作ること
はなさそうだが、同社がレコードデッキを発表する以前にエレクトロニクス機器を作っていたことを考えると、自社
製フォノステージという可能性もありそうだ。Stax社での業績のおかげでトランスデューサも西川さんの経歴で大き
な位置を占めている。[本誌2014年 4月号参照]
彼の原動力は自分にしか作れないターンテーブルやカートリッジを作りたいという止みがたい情熱である。多くの
ターンテーブルメーカーが影響を受けている彼のビジネスモデルは人々に感銘を与えており、2013年11月に行われた
東京ハイエンドショー[本誌2014年 2月号]でTechDASがTCD MCカートリッジを発表したときも意外に思った人はほ
とんどいなかった。この発表は2台目のターンテーブルが完成し、Air Force Oneの3分の1の価格で売り出されるとい
う驚天動地のニュースの前に影が薄くなってしまったが、TDC01をじっくり使うチャンスに恵まれた何人かは、それ
がまぎれもなく素晴らしい製品だということが理解できた。
チタンのハウジング
前製品からごく短期間でTechDASは2つめのMCカートリッジTDC01 Tiを発表した。Tiとはボディにチタンが使われて
いることを示している。価格は8750ポンド、兄弟分より約800ポンド高くなっている。上乗せ分は素材の違いによる
ものであるが、外観上はTDC01から何も変わっていないように見える[囲み記事参照]。
このため、その他の要素は一定だが素材だけ異なる場合どんな違いが聞き取れるかというこだわりを持つオーディオ
ファイルには理想的な製品になっている。技術実験のように並べてこの2つを前後して聴き比べてみることをお勧め
するが、この2つの比較はまるでマゾヒズムの訓練のようだ。なぜなら、我々は非常に繊細な感覚を使っているので
このような聞き分けられる違いだけを取り上げようとするとどうしても欲求不満になるのだ。しかしMCカートリッジ
では新しいカンチレバーの変更や配線の改良などのモデルチェンジはよくあるのでこのようなことも珍しくはない。
またKoetsuを買おうかと思っている人にとってこれは悩ましい問題になるだろう。彼らは自分の 特注品 に好きな機
能を盛り込むことができ、標準のバージョンがどんなものかわからなくなるほどカスタマイズ可能である。
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幸運にも私はTDC01と新しいTiを同時にSMEターンテーブル2台に取り付けることができた。どちらのターンテーブル
もEAT E-Glo phono stageにつなげた。これでSME30とSME30/12が違っているとしたらそれを説明するのはカート
リッジの違いだけということになる。Series VとV-12トーンアームのバランスを取り直す必要はあったものの、E-Glo
のセッティングはMCの仕様が同一だったため変更する必要はなかった。
カートリッジ設計者が注目したのはチタンだけではなかった。カンチレバーもピュアボロンになった。これは強度が
抜群に高いことと軽量であるために選ばれた。TDC01の超ジュラルミンカンチレバーと比較すると質量は低くなった
が5gカートリッジ重量が重くなっているのでこれは無視できる程度だ。それよりも移動質量の減少が重要であるよう
だ。
最高のトレーシング
卵形をしているTi全体に無垢のチタンが使われている。この形には今は亡きMr. Brair/Goldbugのようなアモルファス
的な形状の名残が見られる。カートリッジとヘッドシェルの間の表面はボディと同じ素材でできたマッシブなプレー
トであるが(TDC01と同様)TDC01の卵形を受け継いでいるため、残念なことに台形のMCと比較してアラインメント
にややコツがいる。
ベースになったTDC01と同様に、Tiは低い内部抵抗をきれいな出力電圧と結びつける磁気回路を特徴としている。そ
れによりE-Gloに十分な信号を与えたのでEATの豊富な設定を使って自由に実験することができた。それと同時に私の
Audio Research REF75のゲインを下げることもできた。これをさらにD Agostino Momentum Stereo パワーアンプへ
とつなげ、Wilson Alexias [本誌2012年8月号と2013年3月号参照]を鳴らした。システム全体の配線はTransparent
Referenceを使った。
Tiのその他の仕様だが、チップは最高のトレース能力(公称)を持つセミラインコンタクトスタイラスである。また
ボディとLP面の間に十分な余地があるので、丸みのあるボディは別として、その他のセットアップ手順は楽にできた。
私はSME VのアームチューブのラインがLPと完全に並行になるようにVTAボディをセットした。
アンチスケーティングは、これほどのハイレゾトランスデューサにしてはさほど大きな問題にならないことがわかっ
た。同様に、このカートリッジはどんなにかすかな針圧の変化にも生き生きと反応する。これは従来モデルのTDC01
と同様だ。
嬉しいことに、TechDASカートリッジには、豊富なアクセサリー一式が付属している。例えばどんなにうるさいユー
ザーでも満足させる、0.01gmまで針圧セッティング可能な超精密なデジタル電子ゲージ、他には高性能8Nリードワ
イヤのセット。貴方のトーンアームが取り外し可能なタイプなら、非磁性ピンセット、カートリッジ取付け用チタン
ネジ、非磁性ドライバーもある。
SME Vのアラインメント分度器は利用しているものの、これまで自分の頼みのカートリッジツールキットを探す必要
がなかったのは思い出す限り初めてだ(ご想像通り私は自分のTechnicsのスタイラスバランスを今でも持っている)。
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堂々たる存在感
手元にあった先月号紹介のLPを使って、2つのMCの性能を試した。ならし運転は重要だと考えているので、使用時
間を均一の状態にした。TDC01で1ダースほどのLPをかけて、Tiでも1ダースかけた(テストLPを使ったバーンインを
実施)。しかしこのときはまだTiの音を聴かなかった。聴いてしまうと第一印象から受けるインパクトをどうしても
避けられないことを知っているからだ。また2つのカートリッジを完璧に同等の条件に置きたかった。
このレビューに使ったLPは次の通り:
卓越したアナログ、際立つボーカルのChuck JacksonのI Don t want to Cray [Sundazed LP5426]
現代なお通用する(当時の)最先端モダンサウンドの代表曲、Daryl Hall & John OatesのH²O [Mobile Fidelity MFSL
1-413]
Louisiana RedのThe Lowdown Back Porch Blues [Pure Pleasure PPAN R25200]―これを選んだのは希少性のためだが、
音質はオーディオ愛好家好みとは言えない
The Savoy Brown Blues BandのShake Down [Decca Deram 375 066-5]
TechDASがTDC01 Tiに、ほぼカラレーションなく、アタック成分を調節し、どんな細かいディテールをも拾い上げる
性能を持たせているのは最初から明らかになった。あたかもビンテージハードウェア大好き人間からの「機材の混じ
りけのない 個性 を聴くことができる本当に透明なカートリッジが届きますように」という願いが聞き届けられたよ
うだ。一方、無限のダイナミクスを持つハイレゾシステムを所有するモダニストたちも彼らのアンプやスピーカーの
持てる力の全てを活かしきることができるだろう。もしかすると誇大妄想のように聞こえるかもしれないが、なぜ
TechDASが前製品に続けてTiを発表したかはご理解いただけるだろう。
マゾヒズムは私の好みではないが、Savoy Brownのデビューアルバムを選ばずにはいられなかった。イギリスでブ
ルースがリバイバルして以来私がすっかりブルース好きになったからという以外の理由はない。当時のどのブルース
バンドにも言えることだが、彼らはあくまでオリジナルなテクニックにこだわっていた。そのために、非常に短期間
ではあったが、イギリスで、Savoy BrownのKim Simmonsのような目を見張るようなギタリストたちが現れたのだ。
このLPで終始、彼の演奏にはスピードと流麗さがあった。その流麗さはいかなる脆弱性をも見せないが、かといって
客観的な描写に陥ることもなく、流麗さとアタックが共存していた。最初のカートリッジはスピードを表現するのに
分があり、新しいTiは後者で実力を発揮した。 I Ain t Superstitious のピアノでも同じだった。この曲はラグタイムピ
アノの 心ここにあらず といった要素が皆無で、本物の煌きがあった。
最初に2台のターンテーブルでこのように2つのカートリッジを対決させて聴き比べてみて、ある特徴が安定して明
確に見て取れた。ということはどんな録音であろうと当てはまる定義だと言ってよいと思う。すなわち、TDC01のほ
うがより おだやか であり、それに対しTiはより威厳を感じさせる。これは誇張しすぎているかもしれないことをあ
らかじめお断りしお詫びしておきたい。
実際には、この2つのカートリッジ間の音の違いは非常に小さく、連続したシリアルナンバーを持つほぼ同じ製品で、
テストパラメーター上で品質のばらつきがあるだけだと見なすこともできるほどだ。
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さてどちらを選ぶべきか?
それでは、この2つを聴き比べてほしい。800ポンドの価格の違いを聞き分けることに挑戦してみてはどうだろう?
販売店がどんな曲をデモしているか知らないが、Hall and Oatesの歌の話をしようと思う。彼らはスタジオ全盛の時
代でも素晴らしくナチュラルな音の録音を作り上げていた。だがこれらのカートリッジが最も効果を発揮したのはお
そらく彼らの素晴らしい声よりもむしろシンセサイザーの音、明快な低音などの技巧的要素かもしれない。
Maneater は誰もが知っているあまりにも有名な曲なのでもはや社会通念といってもいいくらいの曲だ。しかし
TechDASカートリッジによってこの曲が新しい輝きを放ったのだ。
問題はどちらの輝きを好むかだ。私は真空管のみで構成されているフォノアンプとハイブリッド真空管プリアンプ、
そしてソリッドステートアンプを使っているので、私のセットアップは理想的に中立な判断環境を提供しているはず
だ。有り難いことに、このシステムはどんな細部も聴き分けることが可能なので私は十分注意を払うことができた。
Hall &Oatesの録音は、アルバムのクールネスをわずかに和らげていたTDC01の方に分があった、一方Tiはやや軽快さ
が増しているように感じられた。
Chuck JacksonとLouisiana Redの純粋なアナログで、より古い録音で際立った声を聞かせてくれた。前者は洗練され
たアップタウンのソウルで後者は都会と田舎が半々に混じったようなブルースだ。Jacksonは情感豊かに訴えかけ洗
練されていて、Redは荒削りだが、どちらも情熱的だ。従来品TDC01ではその両方の再生に違いは感じられなかった。
それぞれの録音に説得力のあるサウンドステージを与え、ナチュラルで広がりのある低音と生き生きとしたボーカル
を再生した。
Tiに切り替えたところ、これらの録音の絶対的な純粋さにあるわずかな変動を聴き取ることができた。TDC01では大
胆にさらけ出されていた純粋さがやや変化したのだ。Tiはまるで手術のメスのように精密だ。そのため、あるがまま
の再生にもっと徹底していると言える。
このレベルの製品は富裕な音楽愛好家向けなので、この程度の価格の違いはほとんど問題ではないだろう。しかし、
同時に値段が高くなって材料を変えたことにより実現した音のディテールの違いもそれほど大きくはない。ずばり
言ってしまえば、ケーブルを換えればその違いは隠れてしまう程度だ。TDC01 Tiが 標準の TDC01よりも良い選択が
どうか決めるために聴覚テストをするとき、そのことをわきまえておく必要があるかもしれない。
評定
KoetsuやDenonのようなクラシックなムービングコイル対21世紀派ムービングコイルという区別が存在するとしたら、
TechDASのTDC01 Tiは間違いなく後者の筆頭だろう。このカートリッジは超精密で、耳を驚かせるほどディテールに
優れ、疑いの余地なく速い。Tiの音では旧式のMCほど温かみは大きな部分を占めない。Tiはロマンスに控えめだ。し
かし真空管フォノステージとは完璧な相性だ。真のリファレンスカートリッジのあるべき姿を体現している。
Sound Quality 88%
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P31
スペック比較
TDC01とTiのどちらを選ぶかは、つまるところトーンアーム/MCの共鳴周波数に尽きるかもしれない。というのは主
な違いは重量だからである。無垢のチタンから出来ているTiは17g、それに対しTDC01の超ジュラルミンボディは12g
である。Tiのハウジングは特別な硬質表面処理法で仕上げてあるが、TDC01の方はDLC(Diamond Like Carbonの略)
と呼ばれる材質である。視覚的に見分ける唯一の特徴(Tiはロゴが側面についている)はTiがメタリックグレー/シル
バーであるのに対して従来品は黒い仕上げである。カンチレバーも異なる。Tiではピュアボロン製になったが、どち
らも同じ3x30μmセミラインコンタクトスタイラスがついている。公称周波数10-50kHz、内部インピーダンス
1.4ohm、推奨負荷インピーダンス(私は200ohmが好みだ)出力電圧(0.45mV)、チャンネルバランス、チャンネ
ルセパレーション等の工場(電気的)仕様は全く同じである。推奨針圧は2.0-2.3g。Tiには2.1gが最適だと私は思った。
一方TDC01ではそれよりわずかに高く2.2g必要だった。
P32
技術レポート
TechDAS TDC01 TI
推奨されている針圧は2.0-2.3gであり、テストは2.2gで行なったが、この重量級MCが十分な能力を持ったカートリッ
ジ以上のものであることが証明された。+12db(315Hz水平断面、re.11.2μm)で右チャンネルでわずかにミスト
ラックの兆候を示したものの溝ピッチ70μmを上回っていた。17gという重量に相応しく、TDC01 Tiのダイナミック
コンプライアンスは低く11/14cuでも(垂直/水平)十分シンメトリカルである。一方もしアーム/カートリッジ共鳴周
波数が9Hzあたりで抑えられるならばSMEのSeries IV/Vと同等かそれ以上の有効質量が適当ではある。
この媒体出力MCはTechDASのスペックにほぼ完璧に一致しており、100-200ohmの負荷に対し440μV(re.1kHz/
5cm/sec)を提供する。チャンネル非バランスは0.53dBと許容範囲であり、ステレオセパレーションはやや弱く26dB
である。
ディストーションはベース、ミッドレンジを通じて低い。イコライジングされず2-2.1%を達成している(re.1kHz/
5cm/sec)。典型的なカートリッジより優に1%低く、性質としてほぼ純粋な第二次高調波である。ディストーショ
ンは高音周波数で急激に増加するが、このMCの10kHz以上の特性に即して20kHzで14%(水平)と9%(垂直)に達
している。[-8dB re.5cm/sec;下のグラフ2参照]。可聴音域を通じてエネルギーの損失は非常に小さく、10-20kHzで
は-4dB落ちるが、水平および垂直断面の対称性[グラフ1参照]は明らかに優れており、音場全体に安定してソリッド
なステレオ効果を提供するであろうことを十分に予感させる。一方TCD01 Tiには10kHzに主観的 切れ味 を与える出
力のピークがある。TechDAS TDC01 Ti MCピックアップのQCテストレポート全容はこちらのサイトからお読み戴き
たい。
www.hifinews.co.uk
Downloadという赤いボタンをクリックして欲しい。Paul Miller
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HiFi News Specifications
方式/重量 ムービングコイル/17g
推奨針圧 2.0-2.3mN(2.2mN)
感度/バランス(re.5cm/sec) 440μV/0.53dB
コンプライアンス(vertical/lateral)
11cu/14cu
垂直トラッキング角度 26度
L/R トラッキング能力 65μm/70μm
L/R ディストーション(-8dB,20Hz-20kHz) 0.55-13.5%/0.56-15.8%
L/R 周波数特性(20Hz-20kHz) +0.2から-4.2dB /+2.1から-1.1dB
ステレオセパレーション(1kHz/20kHz)
26dB/21dB
(写真キャプション)
P30
TechDASはチタンボディのMCのカンチレバーにピュアボロン製ロッドと3x30μmラインコンタクトダイアモンドを
使用。いずれの仕上げも美しく、チップに余分な接着剤をつけず取り付けられている。
P31
露出したカンチレバーにより頭出しが簡単である。無垢のチタンボディはすべてのトーンアームに確実にフィットす
ることを保証しているが、最初のアラインメントのときはこのカーブした形は有り難くない。
P33
TechDASの精密に調整されたボロンカンチレバー。カートリッジピンは銀メッキ。ほとんどのトーンアームのリード/
タグに適合するためにスペースが十分に取られている。
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