「経営の原点は飛び込みだった」 横浜市の市長、林文子さんはその昔、高校を卒業し、普通のOLをしていた。結婚を機に退社。 当時の女性のお決まりのコースだった。 ところが 31 歳のとき、林さんは仕事がしたくなり、 「営業マン募集」のチラシを見て、近所の国 産車のディーラーに電話をした。社長が出た。 「女性は無理だよ。女性の営業マンなんていないし、そんなにやりたいのなら話だけ聞いてあげ るよ。 」 林さんは言った、 「3ヵ月間だけ試しに雇ってください。それでダメでしたらクビにしても結構で す。 」 林さんはトヨタ自動車のトップセールスマンが書いた本を買ってきて読んだ。そこに「1日10 0軒訪問」と書かれてあった。担当地区を1日100軒訪問することを決意した。 毎日毎日、同じ地区を回るうち、気軽に話ができる主婦に出会った。ある日、彼女が病気で寝て いた。「困ったことはない?」 「牛乳がないな。 」 「じゃあ私が買ってきてあげる。 」 これがきっかけで彼女は御用聞きをするようになった。 「飛び込み訪問はお客様にとっては迷惑な訪問者です。自分が役に立つ人間であることをお客様 に感じてもらうことが大事。 」と林さん。 ある日、牛乳を買ってきてあげた女性から電話があった。 「主人の部下が車を買いたがっているわ よ。 」 彼女が夫に林さんのことを話し、その夫が部下に「こんな営業マンがいるよ。」と話したのだった。 早速営業に行き、初めて車が売れた。 それから10年間、林さんはトップセールスであり続けた。40歳を超えると体調を崩し、勤務 時間が柔軟な会社のディーラー、BMW 東京(株)に転職しようと考えた。電話をするとまた同じ ことを言われた。 「女性は無理だよ。女性の営業マンなんか雇ったことがないしね。 」 本社に手紙を書いた。 「私を採用すると御社にはメリットがでます。 」 当時、BMW は売れに売れていた。営業時間が終わると男性社員は飲みに行く。しかし林さんは 昼間ショールームに来て自分が担当したお客の家を、夜訪問していた。9時を過ぎると手紙を書い てポストにいれた。しばらくするとショールームに「林さんはいますか?」と名指しでやって来る お客が増えた。 6年目、12支店のうち、売上実績が最下位の新宿支店の店長になった。 林さんは社員に「営業がいかに楽しいか」 「お客様と出会うことがどんなに楽しいか」を語り続け た。半年で新宿支店は全国トップになった。5年後、新宿支店と最下位を戦っていた中央支店の店 長に。中央支店は3ヶ月で全国トップになった。 業界では「林マジック」と呼ばれた。 「私は手品を使ってどん底にいた社員をトップセールスにし たわけじゃないの。顧客満足の前に従業員満足を提供しただけ。 」 その後、フォルクスワーゲン東京(株)の社長等を経て、横浜市長に。 きっとかわらぬ姿勢で部下に向き合っていることだろう。それは「あの上司、あの仲間と一緒に 仕事がしたい。 」と思える職場環境づくりに徹していくことだ。 『日本一心を揺るがす新聞の社説』より
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