サマリー - 地球環境戦略研究機関

サイエンスカフェ
国連大学 2 階
17 時~18 時 30 分
開会挨拶:ブリティッシュカウンシル駐日代表から主催者代表として、参加者を歓迎の挨
拶。
モデレーター:枝廣淳子
ローマクラブの成長の限界の出版から 40 年が経った。成長の限界は、コンピュータのシミ
ュレーションによる地球の将来像のシナリオ分析を行ったものである。最近、主著者のデ
ニス・メドウスと話す機会があり、40 年たった現在の地球は、どのシナリオに直面してい
るのかを聞いた。メドウス氏によれば、これまでのところ残念ながら、最悪のシナリオで
ある行き過ぎた崩壊シナリオと同じ軌跡を辿っている。今日のサイエンスカフェは、行き
過ぎた崩壊を食い止めるためのヒントとして、人口、資源、消費に関して、議論を深める。
ジョン・サルストン
王立協会の報告書、People and the Planet の概要を紹介。
本報告書は、多数の国際的専門家が参加した作業部会の成果である。王立協会が、この話
題をとりあげたのは、21 世紀が人類と地球にとって非常に重要な転換期にあたるためであ
る。我々は、人口の増加、消費のレベルの異常な増加、それに伴う人類の健康と福祉、環
境に対する根本的な変化に直面している。問題の根幹は、人口増加と消費の密接な結びつ
きにある。人口増加は、日常行動の結果であり、途上国の貢献が大きい。現在の人口増加
をリードするのは新興国だが、将来的には最貧国がリードする結果になる可能性が高い。
人類が生きていくためには、物質資源の消費、製品とサービスの消費の両者が必要である。
しかし両者の環境影響のパターンは異なる。水や食料などの物質資源消費は、先進国と途
上国の間で不平等なものである。エネルギーも不平等な配分となっている。その一方で、
製品とサービスの消費パターンは、エネルギーと CO2 の関係からいうと、脱物質化は可能
だと考える。本研究では、またニジュールなど最貧国や英国などの先進国の置かれた状況
に関する事例研究も実施した。本報告書からの主要メッセージは、以下の通り。地球は有
限であること。人口と消費は一緒に考慮すべきだということ。途上国の貧困からの脱出は
優先課題であること。先進国は消費の抑制と削減をリードする必要があること。都市化は
物質消費の削減効果があるかもしれないこと。包括的な富の指標を新たに開発することが
必要なこと。物質消費に依拠しない社会経済システムと制度の開発を試みる必要があるこ
と。などである。
枝廣氏:物質消費とサービスの消費の違いについて、もう少し詳しく説明をお願いしたい。
サルストン卿: 物質消費は、石炭の採掘と燃焼それによる汚染と温暖化の問題に端的にみら
れるものである。一方で、製品とサービスの消費は、コンピューターゲームの開発、そし
てこれで遊ぶことなどを意味する。エネルギーは使うが、その影響は小さい。
馬奈木俊介
社会科学にとって、経済成長が様々な思考の開始点にあるといって過言ではない。そこか
ら出発して、環境問題へと辿りつくという思考だ。経済成長こそが、人口成長を促す。経
済成長には、制度、インフラ、マクロ経済、健康や教育といった社会システムが影響する。
こうした社会システムは、国や時代によって異なる。日本の社会システムは、漸進的な革
新をもたらすのに適したシステムである。一方で、より競争的な環境であるアメリカは、
過激な革新をもたらすことに向いている。なので、社会システムの差を考慮に入れる必要
がある。経済学にとっても、人口問題は大きな課題である。経済成長と人口増加の間には
関係があるものの、経済システム、技術システムの効率化がそれよりも早く進めば問題と
はならない。しかし、経済、技術は、予期されるよりも効率化が進んでいないのが現状だ。
システム革新へ向けて、新興国は、国内では様々な努力を行い始めている。貿易や人の交
流は、新たなシステム革新や技術を普及することにより社会を効率化し、よい影響を与え
ている。技術革新こそが鍵であるが、こうした革新的な技術の普及がより重要である。シ
ステム革新には、教育、知識、資源、経済構造、制度が重要である。人口が増えれば土地
の不足が起きるが、人口密度の増加は環境、経済成長によい影響を与える。また、移民を
促していくことも、将来的な適応へ向けてのもうひとつの可能性である。現在、新たな富
の指標については研究を行っているところであり、近い将来に答えを出せるのではないか
と考えている。
マグナス・ベングソン
アジアでは、物質消費が、急速に増加している。世界の持続可能性の将来は、アジアにか
かっている。アジアが世界の工場になったことがその原因という意見もあるが、実際はア
ジアの国内消費が増えている。物質消費には、人口、経済成長、技術などの様々な要素が
関わっている。しかし、IGES も貢献した UNEP の REEO レポートの分析によると、人口
増加よりも、経済成長が主要なドライバーになっている。さらに、技術革新は過去には資
源消費を減らすことに貢献してきたが、最近では資源消費の増加に貢献しているようだ。
まとめるならば、デカップリング(資源消費と経済成長の切り離し)は、アジアでは起き
ていない。途上国の都市部の富裕層は、先進国と同等の消費と影響を与えている。こうし
た中で、先進国の消費を削減することを気長にすることも重要だ。一方で、新興国の持続
可能性への Leapfloging に期待したい。いずれにしろ、何らかの構造的変化が必要である。
ディスカッション
枝廣:資源消費に影響を与えるものとして、I(人の環境影響)=PAT(人口×富×技術)の
考え方についてはお尋ねしたい。日本では、技術のみが重要とされている印象を受ける。
しかし、技術のみでは、問題解決は不可能である。こうした中で、人口一人当たりの消費
という考え方に移行する必要があるかもしれない。経済成長に邁進することを乗り越えて、
どうしたら問題を解決できるのか?そうした課題を乗り越える革新的な社会経済システム
は実現可能か?
馬奈木:社会に制約を課した場合、時間に余裕があれば、社会的な福祉が増えることがわ
かっている。しかし、急激な変化は、思わぬ結果をもたらすので、反対だ。少なくとも、
資本主義経済、市場、民主主義に基づいた現在のシステムよりもよいものはないのではな
いか。こうした中で、よりよい選択をするための情報公開がカギとなる。それと、課題を
ビジネスチャンスにする視点が大切だ。
サルストン卿:GDP+のような経済成長を乗り越えるという議論を意味あるものとするには、
社会経済の再考が必要だと考える。幸せとは、心理学的には、比較に基づいているという
ことがわかってきた。これは、絶対的な価値ではない。だとすれば、平等な方がより幸せ
な社会をもたらすことができる。今後の成長の課題として、世代間の公平性に向けた知的
な労働をしていくべきだと考える。急激な変化、革命は必要でないと思うが、変化が必要
である。
ベングソン: 日本はここ 20 年ほど、低成長を経験してきた。しかし、日本が失ったものは
何なのか。雇用面でいえば、他の欧州諸国がうらやむような状況にあるとも言える。日本
が低成長下でのモデルになれるのではないか。脱成長は、雇用に影響を与えるだろう。ま
た、技術革新にも影響を与えるだろう。そのため、脱成長の意味を変えるような社会経済
システムの再考が必要なのではないか。こうした努力が実りあるものとするために、どこ
に可能性があるのかという新たな知的なマップが必要な分野だと言える。
枝廣:日本でも独自の幸せ度指標を作る動きがある。
国連大学バレット:変化に向けた時間が足りなくなってきているのではないか。持続性へ
向けた移行には時間が限られている。この点をどう見るか?漸進的な変化を強調する意見
が多かったが、革命といっても、グリーン産業革命はいいことではないのか。
カガヤ:10 億人の中で、7 人に 1 人が飢餓に直面している。そうした中で、富の偏在を処
理することで解決できるのか?それとも、すでに人口が多くなりすぎているのか?その点
についてどう考えるか?
質問者:持続可能な発展へ向けてどれくらいのコストがかかるのか?具体的に、必要な変
化を促すにはどうしたらよいのか?いかに実施できるのか?
埼玉大学外岡:消費をすばやく減らすことはできるのではないかと思う。アジア的な生き
方がヒントになるのではないか。アジアの文化はコメ作り、さまざまな資源をシェアしな
いとできない。そのため水田文化はゆずりあうことがベースになっている。そういう生き
方を世界基準にすれば消費抑制も考えやすいのではないか。禅宗の道元は、利他というこ
とを言っている。利他に徹することが、ひいては自分にも帰ってくることを考えた方がよ
い。
馬奈木:現状では、やはり富の偏在が課題なのではないかと思う。必要とされる社会経済
システムの変化は、適応(adaptation)的なものではないか。ただしい情報に基づいた適
応行動がカギとなる。情報公開が一層必要である。
サルストン卿:人口と消費の組み合わせの問題については、時間がカギとなる。唯一の正
しい解はない。人口は、緊急な課題である。しかし、われわれは人権を尊重する時代に生
きている。人権を考えれば、変化に時間がかかる。消費については、急速な変化が可能で
はないか。消費の抑制について、意見を統合する必要がある。そのためには、正しい研究
が必要である。たとえば、公共の喫煙は禁止された。これは、意見を統合したから可能だ
ったのだ。こうした変化は可能だと思う。
ベングソン:アジアは、伝統的な持続可能な行動・生活スタイルから現代化をキーワード
に変化しようとしている。そのため、Leapflog が必要だ。何らかの政治的決断が必要であ
る。システムの変化を、政治家は恐れているのではないか。そのためには、よりよい政治
的判断と意識向上が不可欠。市民社会団体が、将来への不安をきちんと政治的影響力へと
変える必要がある。