ブレグジットが示唆するもの:英国と欧州連合の経済成長への影響(PDF

ブレグジットが示唆するもの:英国と欧州連合の
経済成長への影響
2016年 7月19日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
欧州連合からの離脱を決めた英国の国民投票結果を受けて、離脱が双方にどのような影響
を与えるのかについて見ていきます。
要旨
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英国国民投票によるブレグジット(英国の EU 離脱)決定に伴う目先の市場への影響に
投資家が立ち向かっているなか、長期的な問題は依然として残ったままです。
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ひとつの主要な課題は離脱プロセスがどのようなものになるかということです。まず見ら
れる影響は欧州連合(EU)と英国間で論争が予想される貿易交渉です。
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もうひとつの懸念材料は、自動車メーカー、銀行、IT といった企業が中核事業を欧州に
移すのでなないかとの見方です。特に、世界金融の拠点であるロンドンの地位が衰退す
るのではないかと危惧されています。
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こうした見方はそれぞれの経済においてどのような進展を見せ得るのでしょうか。どの程
度の企業が事業移転を選択するかによって、英国での雇用の喪失と税収の減少は、EU
にとっては逆のプラスの影響を生むかもしれません。
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鍵となる論旨:今後 2 年間にわたる英国・EU 間の貿易交渉の方向性は双方の経済の
行く末に大きな影響を与えることになるでしょう。
「ブレグジット」-これは我々が知る西欧の社会経済的秩序の終焉なのでしょうか。それとも 1 地
域におけるちっぽけな出来事に過ぎないのでしょうか?どちらの見通しも、6 月 23 日に EU 離脱
を決めた英国の歴史的な国民投票に続く数週間に明らかになってきているようです。投票直後
の 2 営業日の取引は世界市場でのアルマゲドン(世界の終末決戦)のような様相を呈していまし
た。しかしその後は多くの市場が持ち直し、投票日前の水準を取り戻しています。したがって、事
態が何を意味しているかについて投資家たちが一斉に頭を悩ませていることを非難することなど
できないと言えるでしょう。
とはいえ、市場での短期的な反応がどのようなものであれ、長期的な不透明感は依然として残っ
たままです。世界的な金融・財政刺激策への期待が、ブレグジットの伝染とそれが招く経済成長
の減速を払しょくすることになるのでしょうか? こうした膠着状態は長くは続かないと見られます。
EU 加盟国はすでに、2 年間の離脱プロセスを開始させるためのリスボン条約第 50 条行使に向
けた英国の動きが鈍いことに苛立ちを見せています。一方で、英国に本拠を置く企業は英国以
外の他の拠点についての検証を開始しています。
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広範な EU 経済、ましてや米国経済の伸びにはわずかな影響しかもたらさない可能性がある一
方で、英国経済は減速に向かう運命にあるように見えます。ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の
架空の王国の住民たちが言うように、「冬が近づいている」のかもしれません。
おとぎ話
ブレグジットに端を発する経済面でのシナリオは人間の想像の限界に及んでいます。可能性の
あるひとつのシナリオは、離脱に関する再投票でしょう。再投票-ブレグジットによって自ら招い
た今後の経済的苦痛が一段とはっきりしてきた今-は、「残留」を支持した人々の期待であるか
もしれません。しかし、この選択肢は政治的には受け入れられないものでしょう(そしてテリーザ・
メイ氏が首相となる可能性が高いなか、そうした選択肢は彼女が示唆する通り全く選択肢として
存在しないのです)。関税規定や罰則なしの離脱はもうひとつの希望的シナリオです。しかしこの
シナリオは、今後行われる英国と EU の協議の結末としては「おとぎ話」のように極めて可能性の
低いものでしょう。
第 3 のシナリオは、ノルウェーと同様の地位の獲得を目指す交渉でしょう。つまり、英国は EU 市
場へのアクセスを維持しつつ投票権を持つ加盟国ではなくなるというものです。このシナリオは理
想的なように聞こえます。しかしそれは、完全に自由な人の往来(移民)、EU への経済面での支
払い、EU からの一定の規制の受け入れ(代表権のない課税)を課す細則に英国が目を通すまで
の話でしょう。移民問題と自主規制こそが、離脱派に勝利をもたらした大きな原動力でした。ノル
ウェーと同様の地位を目指すことは、そもそも離脱決定を生み出す原因となったその 2 条件を受
け入れることを意味すると見られます。
最も可能性の高いシナリオは、英国や英国の対 EU 方針に対抗しようとする言動によって既に構
築されつつあります。ドイツ、フランス、イタリア高官によるコメントは、EU と英国の貿易交渉が融
和的というよりむしろ論争の多いものとなる可能性が高いことを示唆しています。EU 加盟国は、
ブレグジットに対して強い姿勢を取ることで他の諸国に離脱検討を断念させることになると考えて
いると見られます。ニューヨークタイムズ紙は EU 首脳会合からの英国へのメッセージを「(EU か
らの」離脱は高い代償を払うことになる」と要約しています。
貿易協議の進展が待たれる間、英国に拠点を置く企業は代替地を検証しています。携帯電話大
手のボーダフォンは、EU 加盟国に本拠がなければ、事業を容易に進めることが難しくなるとして
懸念を示しています。懸念を示す他の企業には自動車メーカーや銀行、IT 企業、とりわけ IT 新
興企業が挙げられます。これらの重要な 3 つのセクターは欧州市場への自由なアクセスが確保
できる場所へ移転せざるを得ないと感じるかもしれません。
「パスポート」の問題
英国の貿易団体である英自動車工業会によれば、英国で生産される自動車の約 80%が輸出さ
れ、58%が他の欧州諸国に輸出されています。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、トヨタとホン
ダが英国で生産する自動車の 75-80%が EU の他の諸国に輸出されています。現在の有利な貿
易条件が 10%の欧州関税に取って代わることになれば、自動車企業の中には利益を維持するた
め他の EU 諸国に拠点を移さざるを得なくなるでしょう。こうした動きに伴う投資、雇用、税収は、
英国経済の伸びに打撃を与える一方で EU 諸国の伸びを押し上げると見られます。
銀行業界においては、米国の大手銀行の多くが英国で大規模に業務を展開しており、何万人も
の人々を雇用しています。これらの銀行が EU で事業を行える「パスポート」権を失うことになれ
ば、EU の顧客に金融商品やサービスを販売できなくなるか縮小せざるを得なくなります。ロンド
ンはユーロ建て取引事務の役割を放棄しなければならないだろうとのオランド仏大統領による指
摘は、EU との交渉によって英国の金融セクターが弱体化しかねないとの一段の懸念を巻き起こ
しています。
ブレグジットの結果として弱体化の恐れがある英国経済のもうひとつの重要なセクターは、成長
が進む IT 新興企業群です。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、事業評価額が 10 億ドル以上
2
の欧州の新興企業の 40%以上が英国に拠点を構えています。ブレグジット後、こうした企業の有
能な人材を呼び込む力や欧州市場にアクセスする能力が弱まる恐れがあります。英ポンドのボ
ラティリティや欧州の主要金融センターとしての地位をロンドンが維持できるかという問題は、資
本調達能力についての懸念を招く恰好となっています。新興企業は、経済への新規参入や IT セ
クターが持つ新たな成長への楽観的見通しを歓迎する数多くの都市において、もっと良い環境を
見出せるかもしれません。
次は何か?
ブレグジットが英国にとって不利な貿易条件を招くことになった場合、自動車、銀行、IT セクター
は、別の欧州諸国に事業を移すことになりかねない 3 つのセクターです。英国で雇用が失われ、
法人税基盤、個人税歳入、不動産への支えがなくなることになれば、どの程度の企業が他国に
拠点を移すかに応じて、EU にとっては反対のプラス効果をもたらすことになります。こうした動き
に伴うインフレ圧力でさえ、EU にとっては歓迎すべきものでしょう。
英国と EU との貿易交渉の期間である 2 年間は、双方の経済面での方向性に大きな影響をもた
らすでしょう。有利な貿易条件を獲得できれば経済面での影響は小さくなるでしょう。しかし同時
にそれは欧州各国で EU 条約の再交渉あるいは離脱を進めようとする政治的軋轢を助長するこ
とになりかねません。あるいは、不利な貿易条件は大量の企業が一機に英国から脱出する事態
を招きかねず、それによって英国経済に打撃を与えかねませんが、EU の別の国には恩恵となる
かもしれません。たとえて言うならば、ブレグジットによって、経済という名のポーカーゲームにお
いてチップは投げ上げられたのです-この先は今後 2 年間の貿易交渉の中でチップの行方が
決まるのを見定めることになります。
一方で、米国はうらやましい立場にあると考えられます。米国は国内消費に大きく左右される経
済であり、特定の利害関係がないことから、英国・EU 間の貿易交渉による負の影響を回避でき
ると考えられます。一方で EU が新たな条約内容を詰める前に英国との貿易交渉ができれば、米
英間で有利な環境を作り出すことができるかもしれず、面白い機会となるかもしれません。こうし
た利点がどのようなものであるか、そしてブレグジットの行く末がどのように米国に影響をもたら
すかについては、次のレポートでのテーマとなります。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想
を保証ととらえるべきではありません。
金融市場の動向についての記載は現在の市場環境に基づいたものであり、変動する可能性が
あります。すべての投資には、投資元本の棄損などのリスクが伴います。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可
能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または
一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておら
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