わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 木 村 真 人* An Overview of Studies on Seeking Help from Student Counseling Centers in Japan Masato KIMURA Abstract The purpose of this article was to review Japanese help-seeking research on student counseling services. The studies were reviewed from 1975 to 2005 by the“MAGAZINPLUS” Japanese National Library’s database. These studies were classified into two categories; a) studies that examine characteristics of user and non-user, b) studies that investigate the variables related help-seeking from college and university student counseling. The results indicate that 1) students prefer natural help to professional help, 2) the image and perception of and needs from student counseling are related to help-seeking. Implications for practice and research of help-seeking from college and university student counseling centers were discussed. Key words: help-seeking, student counseling services, college students, university students, literature review 〔問題と目的〕 提供する学内機関として学生相談機関を設置す る大学が増加しているが(大島他,2004),来 近年,様々な心の問題を抱えている大学生が 談率はアメリカに比べると低い状況である(櫻 増えており,その結果,不登校や不本意な休・ 井・有田,1994)。学生相談機関が大学生に対 退学をする学生が増えていることが指摘されて して効果的な援助サービスを提供するためには, いる(文部省高等教育局・大学における学生生 大学生がそのような援助サービスをどのように 活の充実に関する調査研究会,2000)。問題を 捉えているかを把握することで,より効果的な 抱えた学生に対して,心理的な援助サービスを サービスの提供につながると考えられる。 * Masato KIMURA 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology) 35 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) このような援助やサービスを求めることに関 は“援助要請”,“被援助志向性”,“来談行動” する研究は援助要請(help-seeking)という概 が主に用いられているので,以上の用語をキー 念で進められている。つまり,援助サービスを ワードとし文献検索を実施した。雑誌記事索引 利用する人がその援助やサービスをどのように オプションを選び1975年から2005年までの文献 捉え利用するのか,そのメカニズムを明らかに で“help-seeking”,“援助要請”,“被援助志向 する研究である。学生にとって利用しやすい学 性” , “来談行動”をキーワードで検索したとこ 生援助サービスを提供し,学生相談活動をさら ろ,54件を抽出した。その中から学生相談領域 に充実させていくために,援助要請の観点から における援助要請に関する論文8件,および学 学生相談活動を捉えることは意義があると考え 生相談に関連すると判断された専門的な心理的 られる。 援助に対する大学生の援助要請に関する論文10 しかし,わが国の援助要請に関連する研究は, 件を抽出した。また“学生相談”をキーワード 諸外国に比べると圧倒的に少ない(野村・五十 として検索し,必ずしも「被援助志向性」 , 「援 嵐,2004)。学生相談領域に絞れば,さらに少 助要請」の用語を用いていないが,援助要請に ないといえる。今後,学生相談領域における援 関連すると判断された17件の論文を抽出した。 助要請研究の発展と実践への応用のためには, 以上のようなプロセスを経て,最終的に35件の 今までの先行研究の知見を整理し,今後の研究 論文を抽出し,これらの論文を対象に文献研究 の方向性を明示することが必要であるといえる。 を実施した。 そこで本論では,わが国の学生相談領域にお ける援助要請に関連する研究を概観し,その動 向と展望を明らかにすることを目的に文献研究 〔文献研究の結果〕 を実施する。そして,わが国の学生相談領域に 分析の結果,わが国の学生相談領域における おける援助要請研究の知見から,実際の学生相 援助要請に関する研究には,大きく分類して① 談活動への提言と,今後の研究の方向性を明ら 学生相談利用の実態を調査した研究,②学生相 かにしたい。 談に対する援助要請に関連する変数を検討した なお,本論ではhelp-seekingに関する研究に 研究があった。そこで,上記の2つの分類に基 ついて広くその動向を把握するため,訳語の差 づいて研究を整理する。さらに,学生相談領域 異にはこだわらず,文献研究の対象とする。ま に関連する研究として,大学生の専門的な心理 た,本研究での学生相談領域とは,各大学にお 的援助に対する援助要請の研究成果を紹介する。 ける学生相談機関による活動に関する領域を示 す。 1.学生相談利用の実態を調査した研究 学生相談の利用に関する実態調査は各大学の 〔文献研究の方法〕 相談機関で個別に実施・報告されている。また, 日本学生相談学会は,1997年度より学生相談機 文献検索は,日外アソシエーツ社のデータベ 関に関する調査を実施している。そこで,ここ ースMAGAZINEPULUS を使用した。援助要 ではその中でも援助要請に関連する結果につい 請に関する研究を検索するにあたり,“ help- て紹介する。 seeking”に関連する用語としては,わが国で 36 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 1)来談率 志向性よりも高かったと報告している。 Table 1は大学の学生数の規模別に見た学生 早川他(1994)はA大学の大学生771名を対 来談率である。2003年度の大学全体の来談率は 象に「不安・悩み」に関する調査を実施し,困 3.8%であり,増加傾向にある。また,規模別 っていることに対し実際に相談している相手で では,大学の学生数が多い,つまり規模が大き は「友人」が51.2%と最も多く,ついで「母親」 い大学ほど来談率が低いことがわかる。 が28.5%,「専門家」は1.6%と最も少なかった と報告している。また相談したい相手でも「友 Table 1 大学の規模別に見た学生来談率 学生数(人) 1997年 2000年 2003年 人」が33.9%と最も多く,「専門家」は10.9%と 「友人」 , 「先輩」についで3番目に高かった。 10001∼ 1.9 2.0 2.4 5001∼10000 2.2 2.6 2.5 大学生は,専門的な相談機関である学生相談 1001∼5000 2.8 2.8 3.2 に比べて,友人や家族などの身近な人物への援 4.4 4.0 8.1 助要請が高いといえる。 2.7 2.8 3.8 ∼1000 全体平均 注)日本学生相談学会特別委員会(1998;2001),大島他 2.学生相談に対する援助要請に関連する変数 (2004)をもとに作成 を検討した研究 次に,学生相談に対する援助要請に関連する 2)相談内容の分類 変数を検討した研究を紹介する。水野・石隈 日本学生相談学会が実施している全国調査に (1999)は海外の援助要請に関する研究を展望 よれば,来談学生の相談内容別に,勉学・進路, し,援助要請に関連する要因として1)デモグ 心理・適応,その他に分類している。その結果 ラフィック要因,2)ネットワーク変数,3) をまとめたものがTable 2であり,心理・適応 パーソナリティ変数,4)個人の問題の深刻さ, に関する相談が半数を占めている。 症状,が指摘されていると報告している。わが Table 2 相談内容別にみた来談学生実数および延べ数の全体に対する割合 国の学生相談に対する援助要請に関連する変数 相談内容 として多く検討されているものとしては,主に 勉学・進路 心理・適応 その他 2000年 2003年 来談学生実数の全体に対する割合(%) 31.8 30.2 来談学生延べ数の全体に対する割合(%) 21.9 18.3 来談学生実数の全体に対する割合(%) 47.2 50.5 来談学生延べ数の全体に対する割合(%) 65.1 67.2 来談学生実数の全体に対する割合(%) 21.0 19.3 来談学生延べ数の全体に対する割合(%) 13.1 14.5 注)日本学生相談学会特別委員会(2001),大島他(2004)をもとに作成 1)イメージに関する変数,2)ニーズに関す る変数,3)認知・意識に関する変数,に分類 された。そこで,以上の3つの変数に関する研 究成果を紹介し,さらにその他の変数を取り上 げた研究についても紹介する。 3)他の援助者に対する援助要請との比較 木村・水野(2004)は大学生の被援助志向性 1)イメージとの関連 の特徴を明らかにすることを目的に,友達・家 学生相談に対するイメージを検討した研究で 族・学生相談に対する被援助志向性を比較して は,その研究の背景として,学生相談への援助 いる。質問紙調査を実施した結果,「対人・社 要請の低さおよび,学生の利用しづらさという 会面」 , 「心理・健康面」 , 「修学・進路面」の全 現状から,学生相談へのイメージを明らかにし, ての問題領域において,友達・家族に対する被 そのイメージを改善していくという目的が見ら 援助志向性のほうが,学生相談に対する被援助 れる。Table 3はイメージを取り上げた研究の 37 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) Table 3 イメージを扱った主な研究のまとめ 対象者 イメージに関する 変数 援助要請に関する 変数 No. 研究者 1 森田 (1990) 2 真覚・中村 私立大学1年生 1.相談機関について 40項目の悩み・不安に 40項目の悩み・不安に 1.相談機関についてのイメージは、大きく①親し のイメージを自由記述 ついて、相談機関への ついて、父親・母親・ みにくい、②不信感、③信頼感の3つのカテゴリー (1993) 189名 同性の友人・異性の友 に分類された。 国立大学1年生 2.相談機関を利用す 相談のしやすさ 人・大学教官への相談 2.相談機関を利用する人のイメージは、大きく① 291名 る人についてのイメー のしやすさ ジを自由記述 ひどく悩んだ人、②友人がいない人、③弱い人、④ 肯定的なイメージの4つのカテゴリーに分類された。 3.悩みの内容にかかわらず同性の友人が最も相談 しやすい相手であり、最も相談しにくい相手は大学 の教官、相談機関であった。 3 荻原・吉 川・山田 (1995) 4 櫻井・有田 大学生133名 (1994) 「学生相談室のイメー 入学後1年半までの実 大学新入生 1957名のうち該 ジ」および「相談室」 際の来談 当項目に記述が への要望を自由記述 あった1035名 大学生335名 その他の主な変数 これまでの生活につい 1.イメージは「依存・信頼」、「親近感」、「受容 て、大学への志望から への期待」、「肯定的評価」、「両価的感情」、「違 入学まで、大学生活に 和感」、「非関与の態度」、「不信・疑問」、「要望」、 ついて、現在の心境 「イメージなし」の10のカテゴリーに分類。 2.日常の対人関係のあり方が学生相談へのイメー ジと関連。 3.肯定的・期待的なイメージ(「依存・信頼」、 「親近感」、「要望」)が実際の来談と結びつき、否 定的・両価的イメージ(「両価的感情」、「非関与の 態度」、「不信・疑問」)は少なくとも入学後1年半 の時点では来談と結びついていない。態度を保留す る消極的イメージ(「イメージなし」、「無記入」) の学生の中には、継続的な面接を導入するに至った 例が比較的目立った。 「学生相談室」という 問題が生じた場合に相 学生相談室に関する認 1.相談室という名称から連想するイメージとして 知度、充実を希望する 「相談の内容に関するもの」、「相談室の機能に関 名称から連想するイメ 談したい人や機関 相談領域、参加してみ するもの」、「相談を受ける人に関するもの」、「相 ージ(自由記述) たいグループ活動やイ 談室の雰囲気に関するもの」、「マイナスのイメー ベント企画、「学生相 ジ」、「プラスのイメージ」に分類され、内容と機 談 室 」 か ら 連 想 す る 能に関するもので全体の半数を占め、相談室に対す 色、「学生相談室」の る認識が正しく受け止められていること、またプラ 新たな名称、新装学生 スイメージに比べるとマイナスイメージが強いと指 摘。 相談室の見学希望 SD法22項目、第1因 子「受容性」、第2因 子「内面性」 ― 性差、概念間(学生相 1.第1因子の「受容性」では、男女で大きな差はな 談センター、カウンセ く、全体的に3つの概念ともpositeveなイメージ。 ラー、カウンセリング)2.第2因子の「内面性」は男女とも全体的に地味、 真面目、落ち着いた、深刻なといった暗いイメー ジ。 3.学生相談センターから連想する言葉で最も頻度 が高かったものが「暗い」であった。 5 西川・鈴木 A短期大学741 “学生相談室”のイメ 学 生 相 談 室 の 利 用 希 学生生活の満足度 (1994) 名、B専門学校 ージを形容詞対10項 望、適性検査・性格検 査の受検希望 目、5段階評定 607名 6 森田 (1997) 新入生1957名、 入学後5年半の 間に来談した37 名 森田(1990)の10のイ メージ・カテゴリーよ り、「接近」群、「敬 遠」群、「消極」群、 「保留」群の4群に分 類。 入学後5年半の間の学 生相談室への来談、来 談時期、来談経路、相 談内容、面接機関、面 接の帰結 ― 38 主な結果 1.学年と学生相談室利用希望を要因とした分散分 析の結果、主効果が認められ、利用希望者の方が、 そうでないものよりイメージがよく、また2年生の 方が1年生よりイメージがnegativeな方に有意に変 化していた。 2.一般に学生は相談室に対して「暖かい」が「暗 い」、「重い」というイメージを強く持ち、さらに 「利用しにくい」、「堅い」と捉えていた。 1.相談室イメージの違いと、その後の来談の有無 の間に有意な関連が認められ、「消極」群で最も来 談率が高く、「敬遠」群で低かった。 2.「接近」群は比較的早い時期に来談し、学業・ 学生生活に関する初期終了事例と対人関係・健康に 関する中・長期事例があった。長期事例では中断し ても再来。 3.「消極」群は学業・学生生活の相談は入学後1 年目に集中し、初期・短期事例が10例中9例だっ た。 4.「保留」群は学業については1年目の終了事例 が多く、対人関係・将来については、短期から長期 終了事例が1∼3年目から開始。 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 主な結果をまとめたものである。 一方,SD法を用いた研究としては,櫻井・ 学生相談および学生相談室に対するイメージ 有田(1994)が挙げられる。大学生133名を対 を検討した研究としては,直接イメージについ 象に学生相談センター,カウンセラー,カウン て自由記述式で回答を求める方法とSD法を用 セリングの3つの概念について,SD法22項目 いてイメージを測定する方法が用いられている。 で回答を求めた。因子分析の結果,イメージは 自由記述式での方法としては,森田(1990) 「受容性」と「内面性」の2因子から構成され がある。大学新入生を対象に「学生相談室のイ ていた。性差,概念間(学生相談センター,カ メージ」および「相談室」への要望について自 ウンセラー,カウンセリング)でのイメージの 由記述の回答を求めた結果,学生相談室のイメ 違いを検討した結果,第1因子の「受容性」で ージは「依存・信頼」 , 「親近感」 , 「受容への期 は男女で大きな差はなく,全体的に3つの概念 待」,「肯定的評価」,「両価的感情」,「違和感」, ともpositiveなイメージ,第2因子の「内面性」 「非関与の態度」,「不信・疑問」,「要望」,「イ は男女とも全体的に地味,真面目,落ち着いた, メージなし」の10のカテゴリーに分類されたと 深刻なといった暗いイメージであった。また, 報告している。 学生相談センターから連想する言葉で最も頻度 真覚・中村(1993)は私立大学1年生189名, 国立大学1年生291名を対象に, 「相談機関につ が高かったものが「暗い」であったと報告して いる。 いてのイメージ」と「相談機関を利用する人に 森田(1997)が指摘するように,大学生は学 ついてのイメージ」について自由記述で回答を 生相談室を「暖かい」 , 「安心」といった援助的 求めている。分析の結果,相談機関についての な機関に結びつくイメージで認識している一方, イメージは,大きく「親しみにくい」 , 「不信感」 , 「暗い」,「重い」といったネガティブなイメー 「信頼感」の3つのカテゴリーに分類された。 ジで認識しているといえる。多くの研究におい また,相談機関を利用する人のイメージは, て,「暗い」,「重い」といったネガティブなイ 「ひどく悩んだ人」,「友人がいない人」,「弱い メージが学生相談に対する援助要請行動を抑制 人」 , 「肯定的なイメージ」の4つのカテゴリー している可能性を指摘しているが,以上にあげ に分類された。 た研究では,そのようなイメージが実際に学生 荻原他(1995)は大学生335名を対象に「学 生相談室」という名称から連想するイメージに 相談への援助要請とどのように結びついている のかは検討されていない。 ついて自由記述式で回答を求めている。分析の では,学生相談に対するイメージと援助要請 結果,「相談の内容に関するもの」,「相談室の とはどのような関係があるのだろうか。イメー 機能に関するもの」 , 「相談を受ける人に関する ジと学生相談に対する援助要請を検討した研究 もの」 , 「相談室の雰囲気に関するもの」 , 「マイ としては,西河・鈴木(1994)がある。A短期 ナスのイメージ」 , 「プラスのイメージ」に分類 大学741名,B専門学校607名を対象に「学生相 された。そして,内容と機能に関するもので全 談室」のイメージを形容詞対10項目で5段階評 体の半数を占め,相談室に対する認識が正しく 定を求め,その他に学生相談室の利用希望,適 受け止められていること,またプラスイメージ 性検査・性格検査の受検希望,学生生活の満足 に比べるとマイナスイメージが強いと指摘して 度について質問紙調査を実施した。その結果, いる。 学生は相談室に対して「暖かい」が「暗い」, 39 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) 「重い」というイメージを強く持ち,さらに 連が認められ,「消極」群で最も来談率が高く, 「利用しにくい」,「堅い」と捉えていたと報告 「敬遠」群で低かった。各群の特徴として, 「接 している。そして,利用希望者の方が,そうで 近」群は比較的早い時期に来談し,学業・学生 ないものよりイメージがよかったと報告してお 生活に関する初期終了事例と対人関係・健康に り,学生相談に対するイメージが肯定的なほど 関する中・長期事例があり,長期事例では中断 学生相談の利用に結びつきやすいことが示唆さ しても再来した。「消極」群は学業・学生生活 れる。 の相談は入学後1年目に集中し,初期・短期事 森田(1997)はイメージとその後の,実際の 例が10例中9例だった。「保留」群は学業につ 学生相談への来談との関連を検討している。新 いては1年目の終了事例が多く,対人関係・将 入生1957名の入学後5年半の間に来談した37名 来については,短期から長期終了事例が1∼3 について,森田(1990)の10のイメージ・カテ 年目から開始した。 ゴリーより,「接近」群,「敬遠」群,「消極」 森田(1997)の研究からも,「敬遠」群が最 群,「保留」群の4群に分類した。来談時期, も来談率が低いことから,学生相談に対するイ 来談経路,相談内容,面接機関,面接の帰結に メージが援助要請に関連し,そして,学生相談 ついて,4群で比較した結果,相談室イメージ 室に対するネガティブなイメージが援助要請行 の違いと,その後の来談の有無の間に有意な関 動に抑制的に働くと考えられる。 Table 4 ニーズを扱った主な研究のまとめ No. 研究者 対象者 平井(2001) 大学生331名 ニーズに関する変数 援助要請に関する 変数 学生相談ニーズ尺度 :相談したいと思う 程度を4件法で評定 1 ― 金沢・山賀 大学新入生 (1998) 1896名 大学のカウンセリン グ・センターへのニ ーズ:カウンセリン グ・センターで相談 したいことについて 40項目、3件法 2 その他の主な変数 主な結果 悩んだ経験尺度、相 談相手尺度、相談相 手からの援助による 負担の軽減度尺度、 日本版GHQ(12項目 版)、相談室の存在 についての知識 1.悩んだ経験では「就職・進路」の問題が上 位を占め、ついで「情緒的問題」、「修学面の 問題」、「対人関係の問題」の悩み経験者が多 く、これらの上位の問題では学生相談ニーズも 高かった 2.悩んだ経験が多いほど、学生相談ニーズが 高く、他者への相談拒否傾向が高いほど学生相 談ニーズが低い。また、相談室の存在を知って いる群の方が、知らない群よりも学生相談ニー ズが高い。 3.「学生生活上の重要な決断・情報入手が必 要な悩み」や「対人関係上の重篤な悩み」は悩 みの経験率の低さに関わらず、学生相談ニーズ が高かった。 性別、学部 1.男女別に因子分析を実施した結果、男性で は3因子構造(情緒と対人困難、開発的・教育 的援助、対人コミュニケーションの問題)、女 性では4因子構造(情緒的問題、開発的・教育 的援助、劣等感による対人関係の問題、家族の 問題)が確認され、男女間で、カウンセリング ニーズに関して構造的な違いがあることがわか った。 2.ニーズの上位は男女差は見られず、男女と もに進路に関する問題へのニーズが高く、つい で不安や対人関係の問題であった。 3.所属する学部によってニーズに違いが認め られた。 ― 石原・難波 大学教職員31 「学生相談室を必要 (2003) 名(教員18人、 と感じた場面」、「学 職員9人、未回 生相談室への希望」 答4人) について自由記述 3 40 ― ― 1.学生相談室を必要と感じた場面では、「心 理的な問題・精神疾患に対する知識や理解が必 要な場合」、特に精神的に不安定な学生に対応 した場合が最も多く、ついて「外部機関との連 携が必要な場合」が多かった。 2.学生相談室への希望では、心理的な問題・ 精神疾患に対する知識や理解、守秘義務を守る ことなどの「専門性」に関すること最もが多く、 ついで「学内連携」が多かった。 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 2)学生相談室へのニーズとの関連 子分析を実施した結果,男性では3因子構造 学生相談へのニーズを扱った研究をまとめた (情緒と対人困難,開発的・教育的援助,対人 ものがTable 4である。学生相談へのニーズを コミュニケーションの問題),女性では4因子 明らかにする目的としては,学生のニーズに基 構造(情緒的問題,開発的・教育的援助,劣等 づいたサービスを提供するためである。つまり, 感による対人関係の問題,家族の問題)が確認 学生相談機関主体のサービス提供ではなく,サ され,男女間で,カウンセリングニーズに関し ービスの受益者である学生の立場に立ったサー て構造的な違いがあることが明らかとなった。 ビスの提供ということである。学生のニーズに また,ニーズの上位は男女差は見られず,男女 沿ったサービスを提供することで,学生にとっ ともに進路に関する問題へのニーズが高く,つ て利用しやすいサービスの提供にも繋がると考 いで不安や対人関係の問題であった。そして所 えられる。 属する学部によってニーズに違いが認められた では,学生は学生相談に対してどのようなニ ーズを持っているのだろうか。 平井(2001)は大学生331名を対象に質問紙 法を実施した。相談したいと思う程度を尋ねる 「学生相談ニーズ尺度」,「悩んだ経験尺度」, 「相談相手尺度」,「相談相手からの援助による と報告している。そしてニーズ調査の結果より, ニーズの高い進路に関する相談に力を入れるこ と,そして性別や学部の違いを考慮した学生相 談サービスの必要性を提案している。 石原・難波(2003)は,大学コミュニティ成 員のニーズを汲み取り,大学のコミュニティに 負担の軽減度尺度」 , 「日本版GHQ(12項目版) 」 , おける学生相談のあり方を検討することを目的 「相談室の存在についての知識」が測定された。 として,教職員を対象にニーズ調査を実施して 分析の結果,悩んだ経験では「就職・進路」の いる。自由記述式の質問紙調査を実施した結果, 問題が上位を占め,ついで「情緒的問題」 , 「修 「学生相談室を必要と感じた場面」では「心理 学面の問題」 , 「対人関係の問題」の悩み経験者 的な問題・精神疾患に対する知識や理解が必要 が多く,これらの上位の問題では学生相談ニー な場合」が最も多く,特に精神的に不安定な学 ズも高かった。悩んだ経験が多いほど学生相談 生に対応した場合が多かった。その他,すでに ニーズが高く,他者への相談拒否傾向が高いほ 医療的な治療を受けている場合や医療的治療が ど学生相談ニーズが低かった。また,相談室の 必要と見られる場合などの「外部機関との連携 存在を知っている群の方が知らない群よりも学 が必要な場合」 , 「具体的な問題」としていじめ 生相談ニーズが高かった。さらに「学生生活上 や退学の場合が挙げられた。「学生相談室への の重要な決断・情報入手が必要な悩み」や「対 希望」では,心理的な問題・精神疾患に対する 人関係上の重篤な悩み」は悩みの経験率の低さ 知識や理解,守秘義務を守ることなどの「専門 に関わらず,学生相談ニーズが高かったと報告 性」に関する希望が最も多かった。そして,教 している。 職員へのニーズ調査の結果から,個々の大学コ 金沢・山賀(1998)は大学新入生1896名を対 象に独自に開発した,大学のカウンセリング・ ミュニティに応じた学生相談の位置づけを試み ている。 センターへのニーズ調査を実施した。カウンセ 以上のように,学生相談に対するニーズを把 リング・センターで相談したいこととして40項 握することで,サービスを利用する側である学 目について3件法で回答を求めた。男女別に因 生および大学コミュニティ成員のニーズに沿っ 41 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) た学生相談活動の提案がなされている。しかし, 3)学生相談に対する認知・意識との関連 必ずしもニーズと援助要請の関連は検討されて 学生相談に対する認知・意識に関する変数を 扱った研究をまとめたものがTable 5である。 いない。ニーズ調査に基づいたサービスの改善 が大学生の学生相談の利用にどのように結びつ 西山他(2005)は大学生222名を対象に,学 くのか,またもし結びつかないのであればどの 生相談室の利用促進を目的に,学生相談の認知 ような要因が関連しているのか,さらなる実証 に関する7項目(「存在」,「場所」,「カウンセ 的な研究が望まれる。 ラーの名前」 , 「学外カウンセラーの存在」 , 「相 談できること」 , 「相談のしかた・手続き」 , 「学 Table 5 認知・意識を扱った主な研究のまとめ No. 研究者 対象者 認知・意識に関する 変数 援助要請に関する 変数 その他の主な変数 1 西山他 大学生222名、 学生相談の認知に関 学生相談室の利用希 認知度向上を目指し (2005) このうち51名 する7項目(「存在」、 望の意思(「何か相 た働きかけ(1:新 を縦断的調査 「場所」、「カウン 談したいことが生じ 入生オリエンテーシ セラーの名前」、「学 たとき相談室を利用 ョンの活用、2:リ 外カウンセラーの存 したいーしたくない)ーフレットの刷新、 在」、「相談できるこ 3:愛称募集のキャ ンペーン) と」、「相談のしかた ・手続き」、「学生便 覧の情報」) 2 木村・水野 大学生239名 (2004) 3 宮崎他 大学生595名 (2004) 4 高野・宇留 大学生289名 田(2004) 5 木村 大学生142名 (2005) 42 学生相談室の認知度 被援助志向性 学生相談機関の名称 被援助志向性 ①学生相談室、②カ ウンセリング・ルー ム、③保健管理セン ター 1.相談室の存在を知っている学生の方が知ら ない学生よりも有意に多かったが、「相談のし かた・手続き」、「学生便覧の情報」を知って いる学生は有意に少なかった。 2.相談希望の意思では利用したい学生がした くない学生より有意に多く、また、学生相談の 必要性を感じている学生の方が必要ないと感じ ている学生より有意に多かった。「利用希望の 意思」は「相談室の有無」、「相談できること」 と有意な正の相関を示したが、全体的に「利用 希望の意思」は認知度と相関は低かった。 3.認知度向上の働きかけは、実施前後で全体 的に有意な変化は認められなかった。 年齢、性別、援助不 学生相談に対する被援助志向性を目的変数、年 安、自己隠蔽、自尊 齢・性別・悩みの深刻度・援助不安・自己隠蔽 感情、悩みの深刻度 ・自尊感情・認知度を説明変数とした重回帰分 析を実施した結果、学生相談の認知度が高いほ ど、また悩みが深刻なほど、被援助志向性が高 かった。 学生相談室に対する 学生相談室利用意思 意識 「今、もしくは今後、 (「悩みと相談意志」、 悩みを抱えられた場 「 学 生 相 談 へ の 期 合、本大学の学生相 待」、「学生生活で 談室を利用したいと のトラブルに関する 思いますか?」4件 相談意志」、「相談 法で回答 効果への疑問視」、 「カウンセラー以外 の相談者への相談意 志」、「相談の必要 度」) 5つの領域(①相談 相談室に対する援助 室の立地条件、②広 要請のしやすさ 報活動・情報提供、 ③相談の媒体、④対 面式の相談の形態、 ⑤相談以外の活動) に対する被援助利益 (道具的・心理的) と要請コスト(心理 的・道具的) 主な結果 ― ― ― 学生相談室利用意志を従属変数、学生相談室に 対する意識7因子を独立変数とした重回帰分析 の結果、「悩みと相談意志」、「学生相談への 期待」、「相談の必要度」が正の影響を、「カ ウンセラー以外の相談者への相談意志」が負の 影響を示した。大学ごとの分析でも「悩みと相 談意志」の要因はすべての大学において来室意 志に正の影響を示した。 相談室に対する援助要請のしやすさを従属変数、 被援助利益(道具的・心理的)と要請コスト (道具的・心理的)を独立変数とした重回帰分 析を実施した結果、被援助利益は正の関連、要 請コストは負の関連が認められた。つまり被援 助利益を大きく認知していると援助要請がしや すく、また要請コストを大きく大きく認知して いると援助要請がしにくくなる。要請コストよ りも、被援助利益の方が援助要請のしやすさに 影響を与えていた。 5つの問題領域(「心理・社会面」、「学習面」、 「進路面」、「健康面」、「日常生活面」)にお いて、3つの学生相談機関の名称に対して相談 したい順に回答を求めた。フリードマンの検定 を実施した結果、学業面・進路面・日常生活面 の問題では学生相談室へ、心理・社会面の問題 ではカウンセリング・ルームへ、健康面の問題 では保健管理センターに援助を求めようと考え ていることが明らかとなった。 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 生便覧の情報」)と学生相談室の利用希望の意 要因はすべての大学において来室意志に正の影 思(「何か相談したいことが生じたとき相談室 響を示した。 を利用したい−したくない」)を尋ねた。その 高野・宇留田(2004)は,学生相談への援助 結果,相談室の存在を知っている学生の方が知 要請行動を意思決定する際に認知される利益お らない学生よりも有意に多かったが,「相談の よびコストと援助要請のしやすさとの関連を検 しかた・手続き」 , 「学生便覧の情報」を知って 討している。学生相談への援助要請行動の意思 いる学生は有意に少なかったと報告している。 決定においては,要請する場合としない場合の また相談希望の意思では利用したい学生がした それぞれの道具的・心理的な利益とコストを査 くない学生より有意に多く,また,学生相談の 定し,それによって意思決定がなされると考え 必要性を感じている学生の方が必要ないと感じ る。そこで,1)相談室の立地条件(事務室の ている学生より有意に多かった。「利用希望の 隣・現在の場所・学部の建物の外),2)広報 意思」は「相談室の有無」・「相談できること」 活動・情報提供(インターネットによる情報発 の認知と有意な正の相関を示したが,全体的に 信・サービス内容の公開・相談員の人となりが 「利用希望の意思」は認知度と相関は低かった。 わかる機会がある),3)相談の媒体(対面 さらに,認知度向上を目指した働きかけ(1: 式・電話・メール),4)対面式の相談の形態 新入生オリエンテーションの活用,2:リーフ (1対1・学習相談員とカウンセラーが同席・ レットの刷新,3:愛称募集のキャンペーン) グループ面接),5)相談以外の活動(学習や を実施した結果,実施前後で全体的に有意な変 進路選択に関する講演会・自主グループをサポ 化は認められなかったと報告している。 ート・相談員が講義・24時間体制),の5つの 木村・水野(2004)は学生相談に対する被援 領域を取り上げ,援助要請にかかわる利益とコ 助志向性に関連する変数を検討した結果,学生 ストの認知を測定し,利用しやすさとの関連を 相談の認知度が高いほど学生相談に対する被援 検討した。大学生289名を対象に質問紙調査を 助志向性が高かったと報告している。 実施した結果,①5つの領域すべてにおいて 宮崎他(2004)は学生相談室来室を規定する (広報活動・情報提供の道具的コスト以外) ,条 要因を調べることを目的に大学生595名を対象 件の違いにより利用しやすさ・利益・コストに に質問紙調査を実施した。学生相談室に対する 差が認められた。②利用しやすさは道具的利 意識は因子分析の結果,「悩みと相談意志」, 益・心理的利益が正の影響,道具的コスト・心 「学生相談への期待」,「学生生活でのトラブル 理的コストは負の影響を示したと報告している。 に関する相談意志」,「相談効果への疑問視」, 木村(2005)は,学生相談機関の名称に対す 「カウンセラー以外の相談者への相談意志」, る大学生の意識に着目し,学生相談機関の名称 「相談の必要度」の7因子構造であった。学生 が被援助志向性に及ぼす影響を検討している。 相談室利用意志を従属変数,学生相談室に対す わが国で多く用いられている相談機関の名称の る意識7因子を独立変数とした重回帰分析の結 「学生相談室」,「カウンセリング・ルーム」, 果,「悩みと相談意志」,「学生相談への期待」, 「保健管理センター」と取り上げ,大学生142名 「相談の必要度」が正の影響を, 「カウンセラー を対象に5つの問題領域について,それぞれの 以外の相談者への相談意志」が負の影響を示し 相談機関への被援助志向性を尋ねた。その結果, た。大学ごとの分析でも「悩みと相談意志」の 大学生は学業・進路・日常生活面の問題では学 43 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) 生相談室へ,心理・社会面の問題ではカウンセ 映されているだろうと指摘しており,学生相談 リング・ルームへ,健康面の問題では保健管理 への援助要請が来談動機と関連するとの仮説を センターへ援助を求めようと考えていると報告 提案している。 しており,大学生の被援助志向性に基づいた相 談機関の命名が必要であると指摘している。 以上より,学生相談に対する認知・意識に関 3.大学生の専門的な心理的援助に対する援助 要請研究の成果 する変数は,学生相談機関に対する認知度,お 専門的な心理的援助に対する援助要請に関す よび利用における利益とコストの認知が援助要 る研究として,大学生のカウンセリングに対す 請に関連することが明らかとなった。つまり, る援助要請に関する研究が見られた。専門的な 学生相談機関の認知度を高めること,また学生 心理的援助サービスを学生相談活動の一部と捉 相談の利用にあたり利益が多く,そしてコスト えれば,その研究成果を学生相談活動に活かす が低く認知されるような工夫が学生相談の利用 ことができるだろう。Table 6は主な研究をま に結びつくと言える。 とめたものである。 カウンセリングへのイメージを扱った研究と 4)その他の変数との関連 しては,坂本(2005)がある。大学生359名を 援助要請に影響を及ぼす変数として,先行研 対象に,カウンセリングに対するイメージと悩 究ではパーソナリティ変数が指摘されている みの程度,相談ニーズ,カウンセリングの利用 (水野・石隈,1999;Nadler,1997) 。わが国の 願望について質問紙調査を実施した結果,大学 学生相談領域における援助要請とパーソナリテ 生のカウンセリング・イメージの特徴は,全体 ィ変数との関連を指摘した研究としては,ニー としてあたたかい,受容的な印象が高く,自分 ドと来談行動との関連を検討した福原(1981) の問題について考えていく場であるようなイメ がある。 ージを抱いているという結果を見出している。 また,援助要請に関連する変数として実証的 またこの傾向は女性・高学年に強く,男性・低 な検討はなされていないが,関連を示唆するも 学年はカウンセリングに対して,陰気で否定的 のとして,来談動機があげられる。 な,どこかうさんくさい印象を抱いていると報 森田(1998)は心理療法への来談動機に関す 告している。援助要請との関連では,カウンセ る研究を展望している。来談動機を「心理療法 リングに対して受容的・肯定的で,何をすると その他の専門家による心理的援助を受けようと ころかについての具体的なイメージを抱いてい する動機づけの内容,つまり専門家もしくはそ るほど,また,カウンセラーの人格に対する不 の援助に求めるもの」と定義しているが,来談 安感を有しているほど,カウンセリングの相談 動機という言葉に含まれる意味内容はかなり幅 ニーズ,つまり将来的に来談する可能性が高い 広く多岐にわたり,簡単には定義しきれないと という結果を見出している。 も述べている。来談動機に関する研究を展望し, 学生相談領域の研究では検討されていない変 学生相談領域での来談動機に関連する要因の仮 数を扱った研究として笠原(2002;2003)があ 説として,実際の来談のしかた,来談以前の構 げられる。笠原(2002)はカウンセラーへの援 えをあげている。さらに,どのような経緯で来 助要請意図に影響を及ぼす変数を検討するため 談したのか,来談行動そのものに来談動機は反 に,大学生401名を対象に質問紙を実施してい 44 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 Table 6 専門的な心理援助に対する援助要請に関する研究のまとめ No. 研究者 対象者 1 坂本 大学生359名 (2005) 2 笠原 大学生401名 (2002) 3 笠原 大学生226名 (2003) 援助要請に関する その他 主な結果 変数 ・カウンセリングに カウンセリングの利 相談ニーズ=悩みの 1.大学生のカウンセリング・イメージの特徴 対するイメージ 用願望 程度×カウンセリン は、全体としてあたたかい、受容的な印象が高 ・悩みの程度 グの利用願望 く、自分の問題について考えていく場であるよ ・相談ニーズ うなイメージを抱いている。この傾向は女性・ 高学年に強く、男性・低学年はカウンセリング に対して、陰気で否定的な、どこかうさんくさ い印象を抱いている。 2.相談ニーズは「進路」が最も高かった。 3.カウンセリングに対して受容的・肯定的で、 何をするところかについての具体的なイメージ を抱いているほど、また、カウンセラーの人格 に対する不安感を有しているほど、相談ニーズ が高い。 関連する変数 ・デモグラフィック カウンセリングに対 変数 する援助要請意図 ・悩みの程度 ・原因帰属 ・自己隠蔽 ・カウンセリングに 対する恐れ ・公的自己意識 ・デモグラフィック 変数 ・カウンセリング恐 怖 ・悩みの苦痛の程度 ― カウンセラーなどの 専門家、および友達 や家族などの非専門 家に対する援助要請 意図 ― 4 神山 大学生185名 (2005) ・デモグラフィック カウンセリングの利 ・実験条件 変数 用意図 1:統制群 ・カウンセリング不 2:情報提示群 安 3:情報+モデル提 ・カウンセリングに 示群 対する態度 ・情報提示:カウン ・抑うつ セリングの利用に関 するQ&A ・モデル提示:利用 体験者のコメント 援助要請意図を目的変数とした重回帰分析を 実施した結果、以下のことが明らかとなった。 1.原因帰属の認知、悩みの程度、呼応性不安 が援助要請意図への直接効果を示し、悩みの程 度が高いほど、自分で悩みを解決できないと認 知しているほど、カウンセラーへの呼応性への 不安が低いほど援助要請意図が高い。 2.スティグマ、自己隠蔽、公的自己意識は悩 みの程度を直接説明するだけで、援助要請意図 には直接の影響を及ぼしていなかった。 共分散構造分析によりモデルを検討した結果、 以下のことが明らかとなった。 1.専門家への援助要請意図のみを目的変数と したモデルでは、専門家への援助要請意図を有 意に説明する潜在変数が認められなかった。 2.非専門家への援助要請意図を組み込んだモ デルでは、自己隠蔽と非専門家への援助要請意 図が直接効果を示し、自己隠蔽が高いほど、ま た非専門家への援助要請意図が高いと専門家へ の援助要請意図が高くなる。 カウンセリングサービスに関する情報の提示 が、カウンセリングサービスへの援助要請意図 に及ぼす影響を検討することを目的に、質問紙 による実験を実施。情報提示による介入の効果 を検討した結果、実験群では評価が悪くなるこ とへの不安が有意に低減した。また利用意図に は有意な変化は認められなかった。 る。援助要請意図を目的変数とした重回帰分析 に質問紙調査を実施し,デモグラフィック変数, を実施した結果,原因帰属の認知,悩みの程度, カウンセリング恐怖,悩みの苦痛の程度,カウ 呼応性不安が援助要請意図への直接効果を示し, ンセラーなどの専門家に対する援助要請意図に 悩みの程度が高いほど,自分で悩みを解決でき ついて,共分散構造分析によりモデルを検討し ないと認知しているほど,カウンセラーへの呼 ている。その結果,自己隠蔽と非専門家への援 応性への不安が低いほど援助要請意図が高かっ 助要請意図が直接効果を示し,自己隠蔽が高い たという結果を見出している。またスティグマ, ほど,また非専門家への援助要請意図が高いほ 自己隠蔽,公的自己意識は悩みの程度を直接説 ど専門家への援助要請意図が高いと報告してい 明するだけで,援助要請意図には直接の影響を る。 及ぼしていなかったと報告している。 さらに笠原(2003)では大学生226名を対象 援助要請の意図を高めるための介入研究とし て,神山(2005)はカウンセリングに関する情 45 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) 報提示が援助要請意図に及ぼす影響について, 質問紙を用いた実験を実施している。大学生 とが示唆される。 イメージについては,学生相談に対するマイ 185名を対象に,1:統制群,2:情報提示群, ナスのイメージが学生相談の利用に抑制的に働 3:情報+モデル提示群を設定し,情報提示で くことから,イメージの改善を目的とした活動 はカウンセリングの利用に関するQ&Aを,モ が望まれる。また,認知や意識もイメージと同 デル提示では,利用者の体験談を提示し,読む 様に,働きかけにより変化可能な変数であると よう教示した。情報提示による介入の効果を検 考えられる。高野・宇留田(2004)の研究成果 討した結果,実験群では評価が悪くなることへ より,利用に際して学生に認知される利益がコ の不安が有意に低減したが,利用意図には有意 ストを上回るような工夫が必要である。 な変化は認められなかったと報告している。 また木村(2005)が指摘するように,相談機 関の名称が援助要請に影響を及ぼすと考えられ 〔考 察〕 ここでは,学生相談領域における援助要請に る。したがって,学生が相談機関の名称をどの ように捉えているのか,またその名称に対して どのような問題で相談するのが適切と判断して 関する研究のレビューから,学生相談活動の実 いるのかについて,各大学は継続的に調査し, 践,今後の研究の方向性について提言したい。 その結果に基づいたサービス内容の提供や相談 機関名の命名など相談機関側の要因の改善によ 1.援助要請の観点からの学生相談活動への提 言 り利用の促進が期待される。 ニーズに着目すると,修学・進路面の問題へ 学生相談領域における援助要請研究の知見を のニーズが高いことから,それらのサービスの どのように実践に活かしていくのか。水野他 提供が望まれる。しかし,一方で学生のニーズ (2006)は被援助志向性の観点からの実践への 調査の結果が必ずしも実際のサービスの利用を アプローチとして2つの方向性を提案している。 予測できていないとの指摘がある(Barrow et 一つは被援助志向性を高めるアプローチであり, al., 1989)。その理由として,①相談機関が学生 もう一つは被援助志向性が低くても利用できる のニーズ調査の結果に沿ったサービスを提供で 援助サービス・システムを構築するアプローチ きていないこと,②横断的な研究方法では可変 である。この2つのアプローチの方向性は学生 的なニーズを捉えきれない,③自己評定式のニ 相談に対する援助要請についても有用であると ーズ調査の信頼性,を指摘している(Barrow 考えられる。したがって,この2つのアプロー et al., 1989)。 チの方向性から学生相談活動への提言をしたい。 したがって,学生のニーズに合ったサービス を提供するとともに,継続的にニーズ調査を実 1)学生相談に対する援助要請を促進するアプ 施し,その結果を実践活動に反映させていくこ ローチ とが大切である。また,学生のみのニーズ調査 援助要請に関連する変数としてイメージやニ だけでなく,教職員や学生の保護者など,学生 ーズ,そして認知や意識が多く検討されていた。 を取り巻く人々から見た学生にとって必要なサ 学生相談に対する援助要請を促進するために, ービスのニーズを明らかにし提供する視点も必 これらの変数に働きかけることが有効であるこ 要であろう。 46 わが国の学生相談に対する援助要請研究の動向と課題 しかし,ニーズと援助要請との関連を検討す 関は学生相談機関だけではない。大学内のみな るにあたり注意すべきことは,援助要請を高め らず,地域の専門機関なども視野に入れ,学生 るために,学生のニーズに全面的に応えるとい が有効に社会的な資源を利用できるよう,情報 う発想である。文部省(2000)の「大学におけ 提供をおこなったり連携をとって学生を援助し る学生生活の充実方策について(報告)」でも ていく姿勢が必要である。そのためにも,学生 「学生の短期的な満足のみに応えるような迎合 相談に対する援助要請とともに,大学生を取り 的なものであってはならない」と指摘している。 巻く援助者に対する援助要請についても明らか 大学の変革期にある現在,学生相談が大学教育 にし,比較検討することが求められる。 において担う役割・機能を明確にし,それを基 盤にしつつ学生のニーズに沿ったサービスの提 供が望まれる。 2.わが国の学生相談領域における援助要請研 究の課題と今後の方向性 最後にわが国の学生相談領域における援助要 2)被援助志向性が低くても利用できるサービ 請研究の課題と今後の研究の方向性ついて述べ ス・システムの構築 たい。 学生相談への援助要請を促進するためのアプ ローチとして,援助要請に影響を及ぼす変数に 1)基礎的研究の必要性 働きかける際に,変容が容易な変数への介入が まずは,学生相談領域における援助要請研究 そのアプローチの方法となる。したがってデモ についての基礎的なデータの蓄積が挙げられる。 グラフィック変数やパーソナリティに関する変 文献研究の結果,イメージ,ニーズ,認知・態 数など,変容が容易でない変数を対象とした働 度に関する変数が主に検討されていたが,デモ きかけは現実的ではない。それらの変数に関し グラフィック変数やパーソナリティ変数など, ては,学生相談の利用に対して消極的な学生の 他の領域での援助要請研究で関連が指摘される 特徴を明らかにすることに貢献する。つまり, 変数についても今後さらなる検討が必要である。 デモグラフィック変数やパーソナリティ変数に 関連して学生相談の利用に消極的あるいは否定 2)援助要請プロセスおよび循環的な視点の必 的な学生の特徴を明らかにし,そのような学生 要性 でも利用できるサービスの内容や提供方法の検 援助要請のプロセスに着目する視点も欠かせ 討が重要である。先行研究では,学生相談の利 ない。高野・宇留田(2002)は3段階の大学生 用とデモグラフィック変数やパーソナリティ変 が学生相談サービスを受けるという援助要請行 数との関連は十分に明らかになっているとはい 動の生起過程モデルを提唱している。第1段階 えず,今後のさらなる研究が望まれる。 は「問題の認識と査定」,第2段階の「援助要 また,大学生の援助要請の特徴としては,専 請の意思決定」,第3段階の「援助を受ける」 門家よりも友人や家族などの身近な援助者に対 である。多くの研究は第2段階までの研究であ する援助要請を好む傾向が明らかとなった。し り,態度や意思決定などの援助要請における認 たがって,学生同士によるピアサポート(内野, 知的な側面と実際の行動との関連が明らかにな 2003)は有効であるといえよう。また大学生に っていない。この点は,学生相談領域の援助要 とって,専門的な援助を受けることができる機 請研究のみならず,他の領域においても課題と 47 東京成徳大学人文学部研究紀要 第 14 号(2007) して指摘されいる(水野・石隈,1999;田村・ のまま当てはめることができるとは限らない。 石隈,2006)。さらに,援助要請に対する態度 また,援助要請とその関連する変数との因果関 が実際の行動を十分に予測できていないとの指 係が絶対的なものでない以上,大部分の学生に 摘もあり(Fisher et al., 1983)今後の課題とい とっては援助要請の促進につながる働きかけが, える。 一部の学生にとっては援助要請を抑制したり阻 また,多くの研究が援助要請に関する変数を 従属変数として捉えているが,援助要請行動が 害する危険性もある。この点については十分な 配慮が必要であろう。 最終点ではなく,援助要請行動がさらに独立変 今後,より多くの研究成果を積み上げること 数となり,様々な変数に影響を及ぼすことも考 で,援助要請に関連する変数として,多くの大 えられる。例えば,学生相談への援助要請行動 学および学生に共通する要因と,各大学および がその後の大学生活への適応や学業成績に影響 学生に固有の要因を明らかにすることができる を及ぼすことも予想される。さらに学生相談を だろう。そして何よりも個々の学生の援助要請 利用した経験が,その人のその後の学生相談に の特性に合わせた介入のアプローチを工夫して 対する援助要請に影響を与えることも考えられ いくことが必要である。 る。事前の被援助経験が被援助志向性や被援助 行動と肯定的な関連がある(水野・石隈,1999) との指摘もあり,援助要請のプロセスを循環的 に捉える視点も必要であろう。 3)介入研究の必要性 援助要請に関連する変数が多く指摘されてい るが,では実際にどのような働きかけが援助要 請を促進するのか,という問いに対して,いま までの研究成果からは明確な知見が得られてい ない。つまり,援助要請を高める具体的な介入 方法とその効果については実証されていない。 海外においても同様の指摘がなされている (Tryon, 1980)。援助要請行動を促進する実践 〔文 献〕 Barrow, J., Cox, P., Sepich, R., & Spivak, R. 1989 Student need assessment surveys: Do they predict student use of services? 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