優秀なアライアンスマネージャーの育成

特 集 記 事
著者 : ラシェル・E・ホーキンス (CA-AM)、ジョアンナ・L・C・メイ (CA-AM)、
デビッド・S・トンプソン (CA-AM)、およびスティーブン・E・トウェイト (CSAP)
各経営陣の優秀さの源泉について活発に論議されることがあるが、当社の経験からはっきり言え
るのは、優秀なアライアンス マネージャーは生まれるものではなく作り出すものである、とい
うことだ。アライアンス マネジメントには、プロジェクト管理、人事、財務、工学、IT、事業開
発などの幅広い職務のスキルを要する複雑な規律であるという特性があるため、上記の結論は当
然のことである。成功するアライアンス マネージャーは、これらの分野の経験以外に、対人
関係、プロフェッショナル、およびアライアンス固有のコンピテンシーを幅広く兼ね備え、か
つそれを戦略的に適用することを学ぶ必要がある。
2014 年第 1 四半期
特 集 記 事
新参の実践者、経験豊富な実践者の双方にとっ
て朗報なのは、これらのスキルを時間をかけて
取得、適用、および強化することで、アライア
ンス マネージャーの最終目標である、パートナー
シップのための優れた業績を達成できることだ。
望ましい行動のモデル化
多くの場合、アライアンス マネージャーは最初
に、特定の職務または規律に関する専門知識が
豊かな業界団体に加わる。この経験は貴重なこ
とだが、ビジネス パートナーシップの管理に役
立つアライアンス マネジメントに重点を置いた
コンピテンシーを追加することで強化される必
要がある。このプロセスは合金を作成するよう
なものである。つまり、特定の要素を組み合わ
せて、主成分より有用なものを形成するのであ
る。たとえば、純銀は柔らかく成形しやすいが、
銅を加えることで、宝石類の作成に適した強固
な合成物であるスターリング シルバーが生成さ
れる。同様に、アライアンス マネージャーの事
業背景や経験をアライアンス マネジメント コン
ピテンシーに結合することで、アライアンスの
価値を最大化しアライアンス リスクを最小限に
抑えることができる強固なプロフェッショナル
アライアンス マネージャーとなる。
このことを考慮して、当社はアライアンス マ
ネジメントの役割の成功に必要となる主要な知
識、スキル、および能力となるものを見極めて
文書化した。その後、この情報をアライアンス
マネジメント コンピテンシー モデル (AMCM) に構
造化した。これは、方向付けやロードマップを
当社のグループの新人に提供するために使用さ
れる。以下の項で説明する AMCM も、より経験豊
富なアライアンス マネージャーのための年間コ
ンピテンシー計画やスタッフ育成に役立つ。
以下の図に示すように、アライアンス マネジ
メント コンピテンシーは、運用と基盤の 2 つの
主要カテゴリに分けることができる。運用コン
ピテンシーは達成すべきことに重点を置き、基
盤コンピテンシーはアライアンス マネージャー
が役割の責任を果たす最善の方法を網羅する。
基本の十分な追求
当社の主要な運用コンピテンシーでは、アライ
アンスまたはコラボレーションを管理するため
に、アライアンス マネージャーが行うべきこと
と、成功させるべきことも定義している。
運用コンピテンシーは、アライアンス スター
トアップ ミーティング アジェンダや提携ガバナ
ンス ミーティング記録の
Strategic Alliance Magazine
特 集 記 事
主な運用コンピテンシー
アライアンスの可能性を高める — 契約チームおよび経営陣に対し潜在的なリスクおよ
びチャンスについてアドバイスし、デュー デリジェンス プロセス中に潜在的なパート
ナーを評価し、契約開発についてアドバイスし、新しいアライアンスの提携ガバナン
スを設計する (Strategic Alliance Magazine 2012 年第 3 四半期に掲載された「提携ガバナンス
の設計 : アライアンスを成功に導く堅固な原則と慣行」の記事を参照 )。
アライアンスの形成 — アライアンスの組織化中の企画ミーティングを促進し、キック
オフ活動を指揮する (Strategic Alliance Magazine 2012 年第 4 四半期に掲載された「万全の準
備を整える : 適切な気風、目標、期待事項の設定によるアライアンスの円滑化」の記事
を参照 )。
継続的なアライアンスの管理 — アライアンス バリュー プロポジションを監視し、ア
ライアンス提携ガバナンスを実施し、アライアンスの健全性の監視と管理を公式ま
たは非公式に行い、アライアンス移行をサポートする介入を実施する (Strategic Alliance
Magazine 2013 年第 1 四半期に掲載された「進路を維持するために : 集中と規律によって
アライアンスの進路を保つ」の記事を参照 )。
アライアンス変更の促進 — アライアンスのリストラを特定して実施し、それに伴う契
約変更 ( 終了など ) を管理する。
パートナーを知る — アライアンス パートナーのビジネスを理解し、パートナーのニー
ズを明確化し、必要に応じて内部の支持者としての役割を果たし、アライアンスの業
績と健全性の改善についてこれまでに学んだことを生かす。
ような個別の成果物をもたらすことがある。アラ
イアンス マネージャーは、決定時点を予測し、ア
ライアンスの開発、形成、管理、そして必要に応
じてリストラまたは解雇の全側面を計画するこ
とを学ぶ必要がある。さらに、重要なことは、ア
ライアンス パートナーのビジネスについて学び、
パートナーのニーズを明確に述べ、必要に応じて
企業の内部ニーズの支持者としての役割を果たす
ことである。
平均的なマネージャーから優れたマネー
ジャーへの成長
基 盤 コ ン ピ テ ン シ ー は、 ア ラ イ ア ン ス マ ネ ー
ジャーが運用コンピテンシーを遂行する方法を定
義する。特にさまざまな性格や経験が関係してい
ることを考えると、これは構築が困難なカテゴリ
であるが、ほとんどの場合にアライアンス マネジ
メントを成功に導くアプローチおよびプロとして
の品質について説明するディスカッションを立案
することは可能である。
簡単に言うと、基盤コンピテンシーに精通す
ることで、アライアンス マネージャーは平均的な
2014 年第 1 四半期
状態から極めて優れた状態へと成長できるのであ
る。たとえば、優れたアライアンス マネージャー
は、特定のタスクの明確化にとどまらず、以下の
ようなことも行う。
̶ 人的リスク、ビジネス リスク、および法的不
確実性を背景としたタスクの評価に対する、強
化されたビジョン、判断力、および影響力を実
証する
̶ 潜在的な成果を特定する
̶ アライアンスの価値の最大化とアライアンス
リスクの最小化のバランスを取る成果を挙げる
また、このアプローチは、アライアンス マネー
ジャーとそのクライアントの間の信頼、忠誠心、
コミットメントを深めるため、繰り返しアライア
ンスのプラスの成果を挙げるのに役立つ。
アライアンスのライフ サイクルを通して、ア
ライアンス マネージャーは、基盤コンピテンシー
によって、リスクの特定、防止、および軽減が可
特 集 記 事
能になる。コンピテンシーにより、アライアン
スに関連付けられている、人的リスク、ビジネ
ス リスク、法的不確実性の 3 つの基本カテゴリ
が軽減される。これらのカテゴリについて以下
で説明する。
人的リスクを軽減するコンピテンシー :
̶ さまざまな人の性格特性、アライアンスでよ
く見られる誤解のタイプ、コンフリクト管理
のスキルと技術など、基本的な人間の心理に
関する実際的な知識 (Strategic Alliance Magazine
2012 年第 2 四半期に掲載された「対立への対
処の成否を決める鍵 : 人格特性を理解してお
くことがアライアンスにおける対立の緩和と
マネジメントに役立つ理由」の記事を参照 )
̶ 同僚、部下への指導と上司へのフィードバッ
クの提供方法に対する深い理解
̶ アライアンスの健全性に関する調査を実施
し、特定された問題に対処する有意義な介入
を設計する能力
̶ 基本的なコンサルティング スキルに関する実
際的な知識
̶ アライアンスおよび企業の報酬の設計を取り
巻く組織心理学の継続調査
ビジネス リスクを軽減するコンピテンシー :
̶ 双方のパートナー企業内の主要な企業組織に
関する深い知識
̶ 提携製品の戦略、戦術、およびライフ サイク
ル計画の理解
̶ 組織による戦略の設定、新製品の検索とライ
センス供与、および人間関係の管理に対する
深い理解
̶ 契約、条件、交渉、および商業化の基本型お
よび構造に関する知識
法的不確実性を軽減するコンピテンシー :
̶ 有 効 な 議 事 録 を 取 る 能 力 (Strategic Alliance
Magazine 2013 年第 3 四半期に掲載された「議
事録をおろそかにしない : アライアンス ミー
ティングの正確な文書化の重要性」の記事を
参照 )
̶ 法的な争いに対処するための方針に関する知
識 ( 行政裁判制度、調停、仲裁など )
̶ アライアンス ビジネス モデルに関連する一
般的な法的不確実性に関する知識
これらのコンピテンシーをベースとすること
で、アライアンス マネージャーは、アライアン
スの健全性のサポートに重点を置くアライアン
ス教育担当から、アライアンスの支持者への移
行という現場で最も困難な責任の 1 つである戦
術に取り組むことができる。アライアンス プロ
フェッショナルは支持者として、トピックにつ
いて強い姿勢をとり、人間関係、社風の知識、
会社およびアライアンス プロセスの専門知識を
生かして、自身が支持した成果を達成する。
教育担当と支持者の 2 つの役割の両立は、優
れたアライアンス マネジメントの中核を成すた
め、アライアンス マネージャー側に高いレベル
のビジョン、判断力、および影響力が必要となる。
このバランスを維持できないと失敗する場合が
ある。
この移行に必要な特性は何であるか。当社の
経験上、成功はアライアンス内部およびアライ
アンス社員間のビジョン、判断力、および影響
力を実証する人の能力に左右されるものである。
ほとんどの人は直観的にこれらの特性の重要性
を理解するが、実用的かつ測定可能なものとし
て定義することは困難な場合がある。当社は以
下の説明を使用している。
ビジョン
̶ 最初からアライアンスの最大の可能性を明確
にとらえることができる。
̶ 個人の経験やノウハウを生かして、アライア
ンスの問題を発生前に予測する ̶ 他のアラ
イアンス マネージャーから学ぶか、今後の参
考のため重要な問題を文書化することで達成
できる。
̶ プロフェッショナル ネットワークの育成と活
用、協議のための他者への働き掛け、必要に
応じた指導 ̶ アライアンス マネージャーは、
自身のリーダーやパートナー企業が直面して
いるプレッシャーを理解する必要がある。こ
のプレッシャーは社内外からもたらされるか
もしれないし、一人のリーダーに特有のもの、
あるいはチーム全体に共通するものであるか
もしれない。
判断力
̶ アライアンスの問題が注意深い経過観察また
は干渉を必要とするタイミングを特定する ̶
小さな決断がやがて大きな決断の基礎を築
くことがあるため、アライアンスまたは双方
の企業における重要な今後の決定時点を認識
し、また、事前対応型管理が必要となる人間
関係または文化的な問題も認識する。
̶ 最適な介入を計画し実施する ̶ 関係者、金
融またはその他が企業に与えるビジネス イン
パクト、他の重要なビジネス決定の時期など、
多くの要因を考慮する必要がある。これは、
実行または介入に先立って、他のアライアン
ス マネージャーやリーダーと協力して、関連
するメリットやリスクがあるいくつかのオプ
ションを評価する場合に役立つ。
Strategic Alliance Magazine
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̶ 知識や経験を駆使して双方の社内の駆け引きの
舵取りをする ̶ リーダーやその他の利害関係
者を理解する。彼らの公私にわたる優先事項や
判断を支える経験則を理解する。他者と情報交
換し利害関係者に関する視野を広げる。
̶ 現在のスキル レベルおよび達成する目標レベル
に同意する
̶ 習得するコンピテンシーに優先順位を付ける
̶ 上位 3 つの分野を特定し、それらを文書にする
̶ 育成計画を実施する
影響力
モデルの利用
̶ アライアンスのビジョンを受け入れるよう他者
を納得させる ̶ 早い段階で意思決定者を特定
し、現在の優先事項に関する最新情報を入手す
る。可能なときに、議論にデータを持ち込み、
検討したオプションを共有し、推奨事項に従い
準備する。必要に応じて、法務、財務、業務部
門などからの支援を受ける。
̶ 信頼、忠誠心、およびコミットメントを利用し
て、社内クライアントやパートナー企業クライ
アントに変化をもたらす ̶ 判断や問題の管理
において常に勤勉さを示す。言いにくいことを
伝える場合は、きめ細かく伝え、検討した要因
をすべて説明する。
純銀を強固にするために加える銅のように、ビ
ジョン、判断力、影響力の上記の特性により、パー
トナーシップの分野でアライアンス マネージャー
が一層有益かつ価値のあるものになる。
アライアンス マネージャーは、ビジネス アライア
ンスの心臓部である。ベース メタルを加工して役
立てるように、アライアンス マネージャーは、以
前にプロジェクト管理、人事、財務、法律、工学、
IT、事業開発、または他の業界固有の職務での役
割から得たスキルを仕事で発揮するであろう。こ
れらの規律は優れた基盤を提供するが、有能なア
ライアンス マネージャーは、特定の運用および職
務コンピテンシーを習得することで、この知識と
経験の基盤をもとに成長する。ビジョン、判断力、
および影響力を常に行動で示すことができるアラ
イアンス マネージャーが、そのスキルに他のコン
ピテンシーを兼ね備えることで、より強力で安定
したアライアンス マネージャーとなり、パート
ナーシップにおいて優れた業績を容易に達成でき
るようになる。
ラシェル・E・ホーキンス (CA-AM) は、イーライリ
リー アンド カンパニーのアライアンス マネジメン
コンピテンシーによる指導
長所、短所、および経験の違いを評価するため、 ト担当ディレクターである。ジョアンナ・メイとと
あらゆるレベルのアライアンス マネージャーは、 もに、効果的なアライアンス移行に加え、開発、商
その上司または指導者と連携して、改善のための 業、製造のアライアンスのアライアンス マネジメ
行動計画を立てることができる。アライアンス マ ントを指揮している。ホーキンスは、製薬業界の前
ネージャーのコンピテンシー レベルを評価する際 に医療業界で働いた経験を持つ。連絡先 : Hawkins_
は、現在の業務内容を常に考慮する必要がある。 [email protected]、+1-317-277-4518。
たとえば、長年続いている複数のアライアンスに ジョアンナ・L・C・メイ (CA-AM) は、イーライリリー
携わってきたアライアンス マネージャーに、新た アンド カンパニーのアライアンス マネジメント担
に生まれたパートナーシップの管理が割り当てら 当ディレクターである。ラシェル・ホーキンスとと
れた場合は、アライアンスの開始をサポートする もに、開発サイクルの各段階における提携資産の価
ためのスキルをそのマネージャーに指導すること 値最大化とアライアンス リスクの軽減に取り組む
チームを指揮している。メイは、製薬業界の前に学
に力を入れる必要がある。
術研究の経験を持つ。連絡先 : [email protected]、
重要なことは、すべてのコンピテンシーをアラ
+1-317-277-2030。
イアンス マネジメント チームのすべてのメンバー
に適用するとは限らないことを念頭に置くことで スティーブン・E・トウェイト (CSAP) は、イーライ
ある。コンポーネント固有または職務固有のスキ リリー アンド カンパニーのアライアンス マネジメ
ルもあれば、個々の正確な役割に適合しないスキ ントおよび M&A 統合担当シニア ディレクターであ
る。連絡先 : [email protected]、+1-317-276-5494。
ルもある。アライアンス マネージャーと上司が話
し合うことで、現在の役割および責任に最も関連 デビッド・S・トンプソン (CA-AM) は、イーライリ
リー アンド カンパニーの最高アライアンス責任者
するコンピテンシーをより良く定義できる。
アライアンス マネージャーは、成功に必要なコ であり、ASAP 取締役会の一員でもある。連絡先 :
ンピテンシーを念頭に置いて以下のことを行うべ [email protected]、+1- 317-277-8003。
きである。
最後に、日本語版への翻訳にあたり、
̶ 知識および能力のレベルを評価する
ご助言頂いた山口 栄一氏
̶ 上司とともに評価を検討する
(薬学博士、CA-AM)に感謝する。
2014 年第 1 四半期