防災を読み解くキーワード

2014. 7. 15. issue
P.5
【 防災を読み解くキーワード 】
2050年の人口増減状況(2010年=100)/
50%以上減少(無居住化含む)
(国土交通省
資料より)
(図版クリックで拡大表示)
国民生活センター「子ども用防災頭巾の安全
性」資料より(動画より静止画をコピー)
(写
真クリックで拡大表示)
●「国土のグランドデザイン2050」
国土交通省は去る7月4日、2050年の日本を見据えた国土・地域づくりの指針となる
「国土の
グランドデザイン2050 〜対流促進型国土の形成〜」
を公表した。
世界のどの国も経験したことのない4割の高齢化率という高齢社会に対応した国土・地域づく
りと、巨大災害の切迫等に対する危機意識の共有という課題に立ち、2050年に向けて
「コンパク
ト+ネットワーク」により
「新しい集積」
を形成、国全体の「生産性」
を高める国土構造をめざすと
し、多様性「ダイバーシティ」
と連携「コネクティビティ」
、災害への粘り強くしなやかな対応「レジリ
エンス」
という3つの理念を打ち出している。
このようにまとめると外来語や抽象的な表現にかたよっているのが気になるが、1962年から
始まった5回の全国総合開発計画(全総)
と、後継である2008年の「国土形成計画」
で掲げた
「国
土の均衡ある発展」の文言は外れ、インフラは「賢く使う」
として、数多くの小さな対流が創発を
生み出し、大きな対流へとつながっていく
「対流基盤」
としてのインフラの高度化を図る。具体的
には、大都市圏の競争力を集中的に強化するいっぽう、東京一極集中を是正、地方部では都市
機能の集約化を進めて複数の地方都市をつなぎ、人口30万人程度の「地方都市連合」
を全国で
60から70カ所にまとめる。現在、集落が点在する地域では、医療や教育などの機能を徒歩圏内
に集約化した
「小さな拠点」
を、5000カ所程度つくる。
そして、
「各地域が多様性に磨きをかけることが地域間連携の基礎」、
「個人やNPO、企業など
多様な主体が地域づくりにかかわり、協働する時代へ」
とあるように、
「ソフト」基盤を充実させる
明確な発想を盛り込んだ。
こうした視点は、
くまなく国土の都市化をめざした戦後の国土政策の
大転換であり、いわゆる“公共事業=土建立国”の終焉を宣言するものとも言える。
「国土のグランドデザイン2050」は今後、土地利用の基本方針として閣議決定する
「国土形成
計画」に反映させる。
これと呼応して安倍内閣は「地方創生本部」
(仮称)
の設置に向け準備中だ。
国難とも言うべき課題への“チャレンジ”として、国民もまた主体的にグランドデザインの動向を注
視・監視し、多様性の実現の一環として議論に参画することが期待される。
>>国土交通省「国土のグランドデザイン2050」
●防災頭巾(ずきん)
最近のニュースから――日高日報7月3日付け
「御坊市(和歌山県)
で女性だけの防災の会発
足」の見出しで、市内で初の女性の自主防災組織が、防災頭巾の製作活動をもとに発足……日
本経済新聞7月2日付け
「大規模災害訓練に住民ら840人参加 東京・江戸川」の記事で、警視
庁の「災害警備総合訓練」に地元住民ら約840人が参加、小学生約70人が防災頭巾をかぶっ
て校舎から避難……下野新聞7月1日付け
「いざに備え、石巻の園児へ防災頭巾 ソロプチミス
ト小山」
で、
ソロプチミスト小山(国際的な慈善活動組織)が東日本大震災で被災した保育園に
防災頭巾を寄贈……四国新聞6月26日付けで「津田高生が防災頭巾を製作、地元小学校へ寄
贈」
、家庭クラブ活動で防災頭巾に実践的な工夫……
このように、防災頭巾は地域防災の実践面・啓発面で重要なアイテムとなっている。
しかしいっ
ぽう、
その有効性については賛否両論もあるようだ。文部科学省「2014年度学校安全部会」の議
事録に次のようなある委員の発言があったので参考まで編集部の要約で引用する。
「もともとわが国の防災という概念は火災から始まっている。火災が起きれば避難ということ
で、学校で避難訓練が行われてきた。建物が耐火・防火構造、耐震構造になっても相変わらず避
難訓練が主軸。
めらめら炎が延焼することもないのにいつまでも避難訓練が主軸で、机の下に潜
りなさいという一辺倒の訓練、落下物から頭を保護するものが相も変わらず時代遅れの防災頭
巾で、
それを教育者も保護者も何とも思わないという現実がある……」
同委員は、防災頭巾は時代遅れとしている。いっぽう、国民生活センター「子ども用防炎頭巾
安全性テスト報告〜子ども用防災頭巾の安全性」
(2010年9月公表)
は、
テスト報告として、
「日本
防炎協会が認定している8種類はどれも50%以上の衝撃吸収率があり、最も優れたもので85%
あった。
また日本防炎協会の品質性能基準に準じた方法で、防災頭巾に接炎し、防炎性能試験
を行った結果、認定品の8種類は炎を自己消火できた」
とし、防災頭巾は「日本防炎協会の認定
品を購入の目安にするとよい」
としている。
首都直下地震で懸念されるのは木造密集地域などの延焼火災や同時多発延焼火災、そして
その輻射熱で、関東大震災の二の舞の10万人の焼死者を想定する研究者もいる。
そうした火災
からの避難はヘルメットより
(認定品の)防災頭巾が有効となる。
また、建物が耐震構造でも非構
造部材(天井板、照明など)の落下物対策は現実の緊急課題。一見時代遅れかもしれないが、認
定された防災頭巾なら、何も覆われていないよりは身を守ってくれそうだ。
>>国民生活センター「子ども用防炎頭巾安全性テスト報告」子ども用防災頭巾の安全性