第3章 石川栄耀 -人びとの生活と都市計画- • 石川栄耀(1893-1955) • 都市計画揺籃期から都市計画化として活躍 • 盛り場・・・都市における人びとの生活を読み 解く際にもっとも基本となる要素 • → 市民の「交歓生活」の場 • • • • 地方から都市部への人口流入 産業の発展と連動して新中間層が登場 新中間層、工場労働者、職業婦人など 夜には、盛り場に出向き遊歩を楽しみ娯楽に興じる 生活様式 • 映画館、劇場、カフェー、ダンスホールなどの娯楽施 設、ショーウィンドウ付きの商店街、ネオン → モダ ン生活を象徴する風景 → 人々を魅了 • 雑誌などのメディアの発達 → 流行を生み出す → 商品の大量生産・大量販売 → 盛り場でのショッピ ングが娯楽のひとつとなる • 享楽化の一方で、機械化・スピード化に伴う人間性 の疎外に危機を感じる芸術家や知識人もいた 2 人間生活中心の都市計画 • 1923年 欧米視察旅行 • 英国都市計画の父・アンウィンに、名古屋の 都市計画を見せたところ・・・ • 港湾地帯をすべて工業用地にしていたため、 産業を主体にしすぎている、と批判される • 「人々の生活」という視点が欠落 • 都市計画は生産活動を最優先させるのでは なく、余暇を存分に楽しめるようにすべき、と の発想が芽生える 1 1920年代の都市 • 1889(M22)年:東京市区改正条例施行 • 1919(T8)年:都市計画法制定 • 1920年:内務省都市計画委員会技師として採用 • 当時の日本・・・資本主義の発展→商工業化発達→都 市部の急速な人口増加→過密化(工場・住宅)→市街 地の無秩序な拡大 • インフラ未整備(街路、上下水道、ゴミ、屎尿処理・・・) • 交通、衛生、住宅等に関する様々な都市問題が浮上 • 都市整備が急務となっていた • 1925年:『都市創作』発刊(都市計画愛知地 方委員会) • 都市計画・・・「既存の芸術、社会施設、工学 のすべてを超えた創作の新しい一部門」 • 「人道主義の都市計画」 • 人々の生活を優先し、生産は二義的なものと の態度 → 大都市には否定的 • 人口10万以上の大都市は、「「人間味」が亡 失」し、「隣人と隣人との間に、必然かもさなけ ればならない親愛の心の亡失」が見られる • 疎遠でなく、互いにコミュニケーションを取れる ような関係が都市空間では必要 • 「愛の半径」が限度を超えている • 石川の理想の都市人口は3万人程度 • 自身の携わる都市計画の現状と理想との ギャップに悩む 1 石川の生活圏計画 • 小都市主義・・・それぞれ個性を持った小都市 (町)の集合体としての大都市 • 「大都市の小都市化」を主張 • → 生活圏計画と結びつく • クリスタラーの「中心地論central place theory」と 基本的に同じ発想 • クリスタラー → 都市立地の法則を追及 • 石川 → 「現実の状況をふまえて、合理的な都 市配置を計画すること」 • 生産圏ではなく生活圏から見て「合理的な都市配 置」 クリスタラーの中心地論 • 集合体としての小都市それぞれが「ひとつの中 心」を持つ • この中心は、交通の結節点であり、かつ人々の 都市アイデンティティの場所 • この中心性ゆえに、人々のコミュニケーションの 場となり、都市への愛着が持てるようになる • 広場の存在が重要と考える・・・友愛をはぐくむ場 • 欧米視察の影響 • 広場中心の街・・・市民同士のコミュニケーション の場 → 「市民の心臓」 • 広場のない日本の都市にも広場を! 2 • 都市の賑わい → 都市としての価値 • 賑わいのための施設や仕掛けが必要 • これらが広場を中心に展開することによって 「遊楽気分」を提供・・・修飾性も重視 • → 都市美、照明などへの関心 • 市民同士の「愛」が育まれる規模 • 自分の住む都市に「愛」を抱ける仕掛け • 人々の集う「盛り場」=日本における欧米の 広場の機能 • 盛り場のプランニング • • • • • • • • • • • • 3 盛り場論とその実践 • • • • • 商店街を主体とした盛り場の空間演出 人々の「親和感情」を育むための賑やかさの演出 近世までの盛り場=「純粋盛り場」:劇場や見世物 明治以降=商店街が主体となる 人口30万以上の都市の盛り場=劇場、映画館などか ら成る娯楽街と商店街が結びついた「総合盛り場」 • 地方都市の盛り場=「商店街盛り場」:商店街が主とな り、その内部に娯楽場が小さく結集 • 「夜の散歩を必要とする市民生活」の反映 • → 商店街を主体とした盛り場を発達させた *「買う」ことは現代人の至上の悦楽 • 人々の心理や娯楽など、多面的に捉えるべく「都 市美研究会」を組織 • 盛り場を賑やかに演出する「商業都市美」が目的 • 街頭、ネオンサイン、ライトアップ、イベント、エロ・ グロ・ナンセンス的な演出 • 区画整理による盛り場開発 • 「楽しき夜、楽しき集い、楽しき歩み」を享受できる ような小路の設置 • 屈曲した街路に広場性を持たせる工夫 • 自転車通行の禁止 • 全体的な隣保感の創出 • 「包み込まれた感じ」 「商業街こそ現代都市存在の意義」 商店街であると同時に市民クラブであり夜の公園 盛り場とは、「建築物で構成された都市美的区域」 「そこにおいて市民は自由なる状態で交歓することができ る場所」 夜の都市計画 昼は機械的な生活・・・そこから解放されるための場所とし ての盛り場 人間性を回復する都市計画の必要性 華やいだ雰囲気のもとでの自由な闊歩 街頭、ネオンサイン、建物の照明を効果的に使うこと 都市美をどう実現するか 「広場の感じ」「保安の感じ」をどうつくりだすか 都市を具体的に分析 盛り場プラン • • • • • • • • 物理的な施設配置のみでなく 身体的なレベルから考案 都市空間に対する仕掛けの意図を読み解くこと 大規模に拡張していく都市に対する界隈の重視 ヒューマンスケールの都市の核としての盛り場 「官吏の本務」以外の活動 メディアでの積極的発言 都市計画家として出来ることは、専門的知識を使ってうま く盛り場の構成などをリードしていくこと • 実際に賑わいを作っているのは盛り場の人々 • → 戦後、新宿歌舞伎町の建設 3 4 「都市計画」を超えるために • 欧米直輸入の都市計画の日本への適用を疑 問視 • 日本の各都市の持つ自然・地形・歴史・文化 などを無視することなく、都市計画の技術を 適用させていくべき • 盆踊り、相撲、漫才・・・縁日の賑わいを演出 • 文化の重視(大都市でも小都市でも) • 小都市でも大都市に比肩しうる文化が享受さ れるべき • 都市計画家の力だけでなく、市民が都市につい て考え、行動を起こすことの必要性を訴えた • 「都市批判会」提案 • 自分の街を歩いて気付いた事を意見として出し、 皆でよりよい方策を議論する • 都市計画家の視点(鳥瞰的に一望し都市を一 元化)と市民の視点(その場の音・臭い・風景・ 雰囲気を感じながら都市を経験)の融合 • → 石川の目指す都市計画 • 都市計画のディスクールと都市的実践 • 『特別用途地区』 ・・・ 『用途地域』 の指定があるところに、重ねて指 定されるもの • 『用途地域』 の制限内容が都市計画法と建築基準法により全国一 律に定められるのに対して、 『特別用途地区』 の制限内容は地方 公共団体ごとにそれぞれ異なる • 『特別用途地区』 の種類・・・従来、 『中高層階住居専用地区』 『商 業専用地区』 『特別工業地区』 『文教地区』 『小売店舗地区』 『事務 所地区』 『厚生地区』 『観光地区』 『娯楽・レクリエーション地区』 『特 別業務地区』 『研究開発地区』 の11種類 • 平成10年の改正でその類型自体も地方公共団体で定めることに • 東京都で現在定められている 『特別用途地区』・・・ 『特別工業地 区』 『文教地区』 『特別業務地区』 『娯楽・レクリエーション地区』 『中 高層階住居専用地区』 の5種類 • このうち指定箇所の多いのは 『文教地区』 と 『特別工業地区』 で、 それぞれ第一種と第二種とに分かれる • 生活圏計画 • その区域内において「一個の完成せる国民 が必要とする文化施設を求め得る様な環境」 を整備し与える計画 • 小都市主義、文化の享受、広場の存在、盛り 場・・・石川のキーワードが続出 • その時代その地方それぞれの都市美を生か した都市計画 • そこに住む人々が自分の住む都市に愛着を 持ち、誇りやアイデンティティを持ちうる都市 • →「郷土都市」 5 現代に生きる石川の理想 • 戦後、東京都計画局都市計画課長として戦 災復興計画を策定 • 人口の抑制も考えていた • 特別用途地区と緑地計画 • 後者については、緑地帯を設け、水辺公園、 高台の公園の設置・・・美しい首都に都民が 愛着を持てるよう・・・ • → 石川らしい構想 • 復興計画が圧縮され、実現には到らず • 都市計画課のPR映画『二十年後の東京』 • → 広く宣伝されることはなかった • • • • • 歌舞伎町・・・広場を芸能館で囲む計画 → 石川の盛り場論が実現 1951年都を辞し、早稲田大教授に 都市計画の一般市民への啓蒙に力を注ぐ 「市民のための市民の手による都市計画」の 実現へ • → 現在につづく課題 4 • アゴラ:広場・・・都市空間に複合性や多元性を取 り戻すために注目(政治学者:斉藤純一) • モール:消費や娯楽以外の活動様式を締め出す • 芸術・政治・教育・社会活動などに街路や広場を 開いていくことで、新しい関係の創出を図る • 石川の「夜の都市計画」に似ている • 盛り場だけでなく、夜間学校や保育所、様々な活 動が出来る隣交館の設置などを計画 • 石川の先駆性と先見の明 コラム モダン東京の<不安>をスケッチする • 考現学・・・今和次郎、吉田謙吉ら • 一連の街頭調査報告 • 人々のしぐさやモノを「採集(スケッチ、簡単な統計、 記述)」していく • 関東大震災後の人々の無意識の諸相を具体的に 暴露・集積し、「全東京の現れ」を明示しようとする 試み • 「自分たちの風俗を誇り、とにかくそれが絶対性のも のと考えているかのように無意識いな無自覚的な状 況」 • この無意識は「家庭の中にも充満」し「街を歩く人々 の表情にもその態度が見え」る 5
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