[[研究課題名]金属・色素コファクターを含む蛋白質の構築原理と機能発現

[[研究課題名]金属・色素コファクターを含む蛋白質の構築原理と機能発現
[研究担当者(分担者も含む)] 野口 巧
[研究室] 生体物理化学研究室
1. 研究目的(500 字程度)
生体系を構成し、その活動を担っている主役は蛋白質であるが、その中には、
金属や色素などのコファクターを結合することによって初めてその機能を発現
するものが数多く存在している。例えば、カルモジュリンなどのように、金属
を蛋白質の安定構造を決める構造因子として用いているものや、ヘム蛋白質や
光合成蛋白質などのように、金属中心や色素が直接、反応の触媒部位や反応媒
体として機能しているものもある。こうした蛋白質において、金属・色素コフ
ァクターは、単なるポリペプチドとしての蛋白質では決して成し得ない役割を
果たしており、生体系がその営みを遂行するために必要不可欠の要素として存
在している。従って、我々が生体系の「アーキテクト」になり、新たな機能を
持つ生体系を構築するためには、金属や色素などのコファクターを用いた蛋白
質の構築原理、及び機能発現と最適化のしくみを理解し、応用しうる知識とし
て保持することが必要となる。本研究は、様々な金属・色素コファクターにつ
いて、蛋白質における結合部位形成、機能発現、及び効率最適化のメカニズム
を明らかにし、そこから、生体系の再構築に必要な一般原理、法則性を導き出
すことを目的とする。
2. 平成 13 年度の研究計画(500 字程度)
植物及びラン藻が営む酸素発生反応は、光化学系 II 蛋白質複合体に結合する
マンガンクラスター(マンガン4原子とカルシウム1原子よりなる)において
行われている。それは、光合成電子伝達鎖の末端電子供与体として働く水分子
の酸化分解反応であるが、その反応メカニズムは未だ解明されていない。我々
は、蛋白質中における活性部位や基質の構造を特異的に検出することができる、
光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法を用いて、酸素発生マンガンク
ラスターの構造と酸素発生反応の反応機構の解明を目指して研究を行ってきた。
前年度は、酸素発生反応のすべての閃光誘起中間体遷移(S0→S1, S1→S2, S2→S3, S3
→S0)の FTIR 差スペクトルの測定に成功し、酸素発生の全反応ステップをモ
ニターし、タンパク質及び基質水分子の構造変化を検出する手法を確立した。
そこで今年度は、この手法をさらに応用し、水和量を変えた光化学系 II タンパ
ク質などを用いて、酸素発生系における反応を調べ、基質水分子やプロトンの
反応系への出入りを含めた反応メカニズムを明らかにする。また、金属タンパ
ク質のヒスチジン配位子の振動スペクトルを解釈するための基礎研究として、
ヒスチジン−金属複合体の基準振動解析を行う。
3. 平成 13 年度の研究成果(1000-2000 字程度)
(1) FTIR による光合成水分解反応の解析
光合成水分解反応(酸素発生反応)の反応メカニズムに関しては、 S 状態と
呼ばれる5つの中間状態( S0−S4)の光駆動サイクルによって反応が進むとい
うこと以外、未だほとんど解明されていない。特に、基質である水分子がどの
ステップで反応系に入るのか、また、プロトンがどの段階で解離するのかとい
う基本的な問題にすら、確かな結論が得られていない。そこで、水和の量(=
基質の量)を変化させた光化学系 II タンパク質における水分解反応を、フーリ
エ変換赤外分光法を用いてモニターし、水和量と反応効率の関係を調べた。ま
ず、ラン藻より調製した光化学系 II コア標品を用いて乾燥フィルムを作り、密
閉セル中で湿度を変えることによって、水和量の異なる試料を作成した。そし
て、それぞれの試料で、閃光誘起 FTIR 差スペクトルで測定し、S0→S1、S1→S2、
S2→S3、 S3→S0 の各中間状態遷移の反応効率をシミレーションにより計算した。
その結果、S2→S3 及び S3→S0 遷移が S0→S1 及び S1→S2 遷移よりも水和量に対す
る感受性が強く、より乾燥した試料での反応効率が低くなった。このことから、
基質水分子、もしくはプロトンの反応系での出入りは、S2→S3 及び S3→S0 遷移
において起ることが強く示唆された。
(2) ヒスチジン−金属複合体の振動解析
ヒスチジンは、酸素発生マンガンクラスターをはじめとする多くの金属タン
パク質において、アミノ酸配位子として存在し、酵素反応に深く関与している。
そこで、ヒスチジンの赤外・ラマンスペクトルから構造情報を得るための基礎
データとして、ヒスチジン−金属複合体の ab initio 基準振動解析を行った。モ
デル化合物として4−メチルイミダゾールの亜鉛複合体を取り上げ、イミダゾ
ール基の2箇所の窒素原子( Nτ, Nπ)の両方に亜鉛が配位したものと、そのど
ちらかに亜鉛が配位し、もう一方の窒素がプロトン化しているもの、していな
いものの5種類の化合物について、密度汎関数法 (B3LYP)を用いた計算を行っ
た。金属が配位していない4−メチルイミダゾールの4種のプロトン化構造の
計算結果と比較することにより、ヒスチジンのイミダゾール基の金属配位構造、
及びプロトン化構造の赤外・ラマンマーカーを同定した。
4. 目的と成果の要約(100-200 字程度.年報原稿用)
光合成水分解反応の反応メカニズムを明らかにするため、光化学系 II 蛋白質の
水和量を変えて閃光誘起 FTIR スペクトルを測定し、基質水分子やプロトンが
出入りする反応ステップの情報を得た。また、金属タンパク質のヒスチジン配
位子の構造を調べるため、ヒスチジン−金属複合体の ab initio 基準振動解析を
行い、ヒスチジンの金属配位構造、及びプロトン化構造の赤外・ラマンマーカ
ーを同定した。
5. 平成 13 年度誌上発表(英文のみ)(EndoNote file を添付される場合にも確
認用に下記の書式でリストアップしてください)
(1) 原著論文
Hasegawa, K., Ono, T. and Noguchi, T. (2001) Ab initio DFT calculations and
vibrational analysis of zinc-bound 4-methylimidazole as a model of a histidine ligand in
metalloenzymes.
J. Phys. Chem. A in press.
Noguchi, T. and Sugiura, M.
(2002) Flash-induced FTIR difference spectra of the
water oxidizing complex in moderately hydrated photosystem II core films: Effect of
hydration extent on S-state transitions. Biochemistry 41:2322-2330.
(2) その他
6. メンバー(日本語および英語で)(理研以外の方は所属機関の正式呼称を日
本語と英語で書いてください)
野口巧 Takumi NOGUCHI
7. 共同研究者(同上)(理研のデータベース登録に必要なので,誌上発表のみ
ならず,口頭発表でも名前を連ねている人をリストしてください)
杉浦美羽 Miwa SUGIURA (大阪府立大学 Osaka Prefecture University)
長谷川浩司 Koji HASEGAWA
小野高明 Takaaki ONO