プロジェクト・ファイナンスの留意点

【視点・論点Ⅲ】 NPM・PPP
プロジェクト・ファイナンスの留意点
(1)信用ピラミッドとファイナンス
PFI、PPP等の事業に関して資金調達を行う場合、大きく分けて二つの手法がある。第1は
「コーポレート・ファイナンス」(corporate finance)、第2は「プロジェクト・ファイナンス」
(project finance)である。コーポレート・ファイナンスは、組織全体の信用力を担保に資金調達す
る方法であり、社債のほか、広い意味では地方債、国債も同様である。コーポレート・ファイナン
スの場合、組織体の信用力が高ければ大量の資金を低コストで調達することが可能である。とくに
公共部門では、民間企業と異なり徴税権と通貨発行権を背景とした強い信用力を発揮できるため、
通常は低いコストで資金調達することが可能である。
一国内にあっては、基本的に国がもっとも高い信用力を有し低いコストで資金調達できる構造と
なっている。次いで地方自治体(地方政府)、民間企業、個人の順となる。連邦制国家などでは、
地方自治体(地方政府)が国の信用力を凌駕する場合もあるが、一般的には国が徴税権と通貨発行
権を背景にもっとも高い信用を確保する。日本の場合も例外ではない。したがって、国債の発行に
よる資金調達がもっとも低金利、すなわち低コストで大量の資金を調達することができる方法とな
る。地方自治体も国の信用を背景に地方債を発行する仕組みとなっている場合には、ほぼ国と同程
度の信用力を確保し得る。しかし、個別地方自治体の財政状況や調達資金の規模の違い等により調
達金利に格差(スプレッド)が生じる場合も少なくない。ただし、こうした原則論は金融市場が順
イールド(短い期間の金利は低く、長い期間の金利は高い)など正常な状況において成立する。現
状のように資金余剰でイールドカーブがほぼ真横に寝た状況(短い期間の金利と長い期間の金利が
ほぼ同じ状況)など金融市場が正常な体質にない場合には、入札等資金調達手法が多様化する中で、
上記の信用ピラミッドは必ずしも形成されない。具体的には、民間企業が金融市場を通じて国より
も低い金利で資金調達するケースなどである。また、上記の構図は、一国の中での資金調達を前提
としており、国債でも海外の市場から資金調達する場合や外貨建ての場合などには、その信用力、
格付け等に大きな変動が生じる。
(2)コーポレート・ファイナンスとプロジェクト・ファイナンス
コーポレート・ファイナンス(corporate finance)の特色は、組織全体の資産や収益力等を担保
として資金調達するため、調達した資金を特定の事業に使用しても、返済に関しては組織にある全
ての資産を担保にして行われることである。このため投資家にとっての担保力は高いものの、事業
として見た場合、成功した事業から失敗した事業に補填がなされるため、投資に対するリターンが
低下したり、組織全体としての体力が不明確になったりする。
これに対してプロジェクト・ファイナンス(project finance)は、事業単位に切り分け、特定
の事業を展開するために資金を調達し、当該特定事業から生じたキャッシュフローや利益、そして
資産だけで返済が担保されることになる。このため、当該事業が失敗した場合にも組織全体の資産
等で担保されることはない。すなわち、事業とその事業を主に展開する組織とで信用力は基本的に
分離される。また、組織に如何に信用力があっても事業自体の質が悪い場合あるいは事業規模が小
「PHP 政策研究レポート」
(Vol.6
26
No.73)2003 年 7 月
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さい場合には、調達コストが上昇したり、必要な資金量を確保することができないなど資金調達が
難しくなることも少なくない。一方で、当該事業が成功した場合、コーポレート・ファイナンスと
異なり、他の成績の悪い事業の補填に利用されることがないため、投資家としては高いリターンが
確保できるほか、組織体と切り離して事業を継続することも可能である。PFI等の資金調達はプ
ロジェクト・ファイナンスを基本としている。
(3)プロジェクト・ファイナンスの形成とモニタリング
プロジェクト・ファイナンスは、日本の企業等がこれまで原則としてきたコーポレート・ファイ
ナンスに比べ、その形成のプロセスも異なる。もっとも重要な点は、プロジェクト・ファイナンス
の形成には、コーポレート・ファイナンスにも況して充分な時間が必要なことであり、それなしで
は持続的事業形成が困難となることである。プロジェクト・ファイナンスの形成は、PFI事業者
の選定が終了し、事業権契約の検討の中で本格化する。PFI事業者選定の段階でも資金調達・財
務関係は重要な評価項目となるものの、そこでの評価の中心は提示された資金調達やその後の財務
管理等のスキームが矛盾なく設定され、提案の実現に向けた信頼性がどの程度あるかに置かれるこ
とが多い。したがって、実質的にプロジェクト・ファイナンスによる資金調達・財務管理等の実態
が形成されるのは、事業権契約の検討段階となる。通常、事業権契約の検討において重要な柱とな
るのは、事業リスクの想定、分析、分担である。想定されたリスクを完全に分担することが困難な
場合には、保険等の外部スキームも活用し、全体としてリスク分散を可能な限り図ることが重要と
なる。リスク分担を考えるに当たっては、当該リスクにもっとも多くの情報を有し、その情報に基
づいてリスクを負担できる人が可能な限り集まり、全体としてのリスク・プレミアムを最小のレベ
ルに低下させることが基本となるからである。こうしたリスク分担の考え方が事業権契約の形成の
中で実現しない場合には、リスク分担したことでかえって全体としてのリスク・プレミアムを拡大
させる危険性があることに常に留意すべきである。とくに、外部環境変化が大きくなると想定され
る場合、事業権契約の形成がかえって環境変化に対して鈍感となるリスクを生じさせることがある。
なお、リスクを認識すること自体、従来の公共部門における事業展開に比べ大きな変化と言うこと
ができるが、さらに踏み込めばリスク発生確率の総計が100でないことも認識されなければなら
ない。リスク分担の仕組みによっては、リスクの総計が低下することもあれば、新たなリスクを発
生させ当初のリスクをより高めてしまうこともある。
プロジェクト・ファイナンスにおけるモニタリングのポイントは、第1に、事業権契約で形成さ
れる国・地方自治体等行政機関とPFI事業等関係者間の事業スキームがどの程度確実且つ長期的
に機能する内容となっているかである。その程度によってモニタリングの質も大きく変化する。第
2に、事業権契約自体において内部的にどの程度のガバナンス機能が組み込まれているかである。
その程度によって、外部からのモニタリングのポイントと領域は変化する。従来、金融機関とPF
I等との関係は、資金調達と事業権契約に関するダイレクト・アグリーメントの形成に集中してき
た。しかし、踏み込んだ内容として金融機関に事業全体、そしてPFI事業者のスポンサー企業に
対する経営状況の把握なども含め、行政機関では必ずしも充分実施できない債権保全的な機能を活
用したモニタリング機能をより積極的に組み込むことも考えられる。
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No.73)2003 年 7 月